第三章 甲冑の騎士オリバー
「次は誰がやるんだ」
マシューが部下たちへそう尋ねると、数人が手を上げたがそのうち、ハイ! と高らかに手を挙げる者がいた。
「ではオリバー」
「はっ!」
オリバーという、全身に甲冑を纏った男は、ガシャッガシャッ、と金属音を立てながら、プリムローズの前まで歩き、恭しく跪いた。
「お初にお目にかかります、プリムローズ様。自分は、騎士見習いのオリバー・ウッドストックと申します。なにとぞ……」
「挨拶はそのへんにして、早くお見せしろ」
副団長が止めると、オリバーは了解であります! と威勢よく返事した。
オリバーは両手で抱えられる大きさの木箱の上に、使い古した鉄製の鍋を、底が見えるように裏返しにして載せた。訓練用のサーベルを足元の近くに置くと、代わりに背負っていた彼の愛刀である、刀身の分厚い大剣を鞘から抜く。
「ドオオォリヤァァァァ!」
甲冑の騎士は、鉄の鍋めがけて、大剣を振り下ろした。
ガキィィィン! と耳をつんざくような音がした後、鍋は衝撃を受けて亀裂が入り、真っ二つに割れた。
わぁ! と王女が目前の光景に歓声を上げると、すかさずマシューは解説した。
「この技は兜割りと言って、試し斬りの一種なのですが、よほどの手練れでなければ半分以上も斬りつけることはできません」
「聞いたことがあります。10年戦争以前は、甲冑を纏って戦っていたので、今のサーベルで斬り合うのと違って、ロング・ソードで敵の装備を叩き斬るのが主流であったと……」
プリムローズはそう言うと、フーッと深呼吸しながら納刀するオリバーを呼び止めた。
「オリバー。貴方は、もしかして……オスカー・ウッドストックの親族ではありませんか?」
「は、はい! 亡くなった祖父を、ご存じでありますか!」
オスカーの名を耳にした途端、オリバーはフルフェイスの兜を被っていても分かるくらい生き生きとして、両手をぶんぶん振って興奮した。
オスカー・ウッドストックとは、10年戦争より前に、アルカネットがカルチェラタン近海へ二度にわたり侵攻してきた戦いで、ベリロナイトの勝利に貢献した剣豪と称される騎士だ。先ほどの兜割りのように、相手を防具ごと叩き壊す剣術に長け、たった一人で四千人のアルカネット兵を斬ったと伝えられている。
「ええ。有名な『騎士道精神』の著者ですし、歴史の本に載っていますもの」
王女が微笑みながら頷くと、オリバーは感極まって、防具を着けた両手で彼女の手をとった。
「……光栄でありますッ!」
少し面食らったプリムローズだが、オリバーの鎧の胸部と両肩に、ベリロナイトの国章である百合の花が彫刻されているのに気が付いた。
彼が纏っている甲冑は、祖父が生前、恩賞として王家に下賜されたものである。
「次は私が」
そこへ、エヴァンが割って入るように前へ出た。新入りがプリムローズに馴れ馴れしくしているのが気に食わなかったのだ。
おーやってみろ、とマシューに声を掛けられると、彼はますます機嫌を悪くした。
(エヴァン……?)
いつもは自分に見せることのない顰め面を、プリムローズは不思議そうに見つめた。しかし、彼女の視線に気が付いた赤茶髪の騎士は、すぐに柔和な笑みを向けた。
エヴァンは、地面に立てられた4本の巻藁に囲まれ、サーベルを抜刀した。深く息を吸って集中力を高めると、瞑っていた目をカッと見開く。
「テヤァッ!」
サーベルを振り上げながら、かの騎士は手前の巻藁を切り倒し、すぐさま流れるように他の巻藁を斬った。洗練された無駄のない足運びで、わずか数十秒の間に、巻藁を全て切り倒した。
敵が複数いる状況を想定した剣舞である。
その素早い動きに、プリムローズは息を呑んだ。
「きゃあああ! 格好良い~! エヴァンさぁん!」
「お前が褒めてどうする」
黄色い声を上げてはしゃぐユリエルに、隣にいたグスタフは両腕を組んで冷ややかな視線を送った。
こうして、騎士たちの技を一通り見た後、プリムローズは整列する騎士たちにお礼の言葉を述べた。
「本日は勝手に来てしまってすみませんでしたが、皆さんの素晴らしい技を見せてくださって、ありがとうございました」
マシューが隣に立って、小声で囁く。
(期待している、と一言添えてやってください)
「えっと……これからの活躍を、期待しています」
プリムローズがそう言ってお辞儀をすると、マシューは部下たちへ敬礼するよう命じた。
「王女殿下に敬礼!」
その場にいた騎士たちは、再びプリムローズへ敬礼する。
副団長に、本日の訓練の終了と解散を言い渡されると、騎士はぞろぞろと詰め所へ帰っていった。
エヴァンはそのまま帰ることなく、プリムローズのほうへ踵を返した。それをビクターが不思議そうに佇んだまま見送ると、フィリポは「俺ら先に帰っていいんじゃない?」と彼を詰め所へ促した。




