第二章 トラ猫の騎士たち
晩餐会のホール、東口方面の警邏を任されていた騎士たちは、来客の合間を縫って、何度もすれ違う同僚に手信号で「異状なし」との報告をしあった。
「あの、騎士の皆さん……大変なんです!」
そこへ、礼服を装った貴族の青年二人が小走りでやってきた。エヴァンと因縁のある二人組だ。立ち止まった騎士の一人が面食らいながら、如何された、と尋ねる。
青年貴族らは勿体ぶるように、お互いの顔を見合わせた後、騎士に一歩近づいた。
「……義勇十字団の人間が、この晩餐会に紛れ込んでいるのです……!」
「その者はどこへ?」
三人の騎士は過激派組織の名を聞いて一瞬驚愕したが、周囲へ視線をやりながら、声を潜めた。
「申し訳ないが、この人の多さで見失ってしまったのです……。だけど赤茶色の髪をオールバッグにして、紺色の服を着ていたのは覚えています」
「奴は貴族の間で義勇十字団の集会に参加しているのを噂されていました。間違いありません」
彼らの話を聞き終えると、騎士らは神妙な顔で頷き、一礼するとその場から去った。
「これでエヴァンもおしまいだ」
青年貴族たちはニヤニヤといやらしい笑顔を浮かべた。嫌がらせのつもりが、彼ら自身も波乱の渦中に身を投げてしまったことも知らずに。
「先程の話を信じるのか? あまり彼らには真剣みがないように感じられたが」
東口方面の警備にあたる騎士の一人が、眉をひそめて二人の同僚に意見を投げかける。
「ただの冷やかしならいいが、実際にあの連中が紛れていたら冗談では済まないぞ。赤茶髪で紺色の服を着た男、だったな。信憑性に欠けるから報告するまでもないが、一応警戒しておこう」
もう一人が青年貴族たちの言葉を思い出しながら、その特徴に合う人物を探すべく、周囲を見回した。だが目視したところで、国中の貴族が集う広いホールでは特定できそうにない。もう一度、手分けして巡回する必要がある。
「警戒する対象がはっきりしたのは有難い。同じ場所をぐるぐる回って脂ぎった貴族たちの顔を拝むのはもう飽きた」
最後のひとりがうんざりした様子で言い捨てた。おい、と生真面目な二人が苦言を呈そうとしたとき、東口の向こうから小柄な騎士が、リボンで結った髪を揺らしながらパタパタと駆け寄ってきた。
西口方面に配置されたはずのユリエルだ。
「トラ猫さん」
ユリエルは甲高く朗らかな声で、彼らをまとめたコードネームで呼ぶ。
「三毛猫。どうした」
飽きた、と悪態をついていた騎士が応じた。彼がトラ猫の連絡係である。
えっとぉ、とユリエルは小首を傾げて切りだした。
「黒猫がネズミを捕まえました。三毛猫はネズミ捕りを仕掛けます。トラ猫も爪を研いでおいてください、以上」
「――了解した。黒猫、三毛猫の準備ができたらトラ猫も向かう。再度、連絡してくれ」
「了解」
連絡係は互いに敬礼し、ユリエルはそのまま西口方面へ戻っていった。
トラ猫の二人の騎士は、連絡係であるチームメイトに問い詰めた。
「お前、なぜ例のことを伏せたのだ。ネズミがいるとわかった以上、伝えるべきだったのでは……」
半信半疑とはいえ、義勇十字団の通報があった事実を、仲間全員と共有すべきでないか、と。
すると連絡係の騎士は、愚直な同僚たちに呆れるように溜め息をつき、口端を歪めてほくそ笑んだ。
「ネズミはトラ猫だけで獲ろうぜ。武勲を立てるチャンスじゃないか」
その言葉に唾を飲み込み、お、おう……と二人も同意した。与えられた任務をこなす使命感より、手柄を立てたいという野心のほうが勝ってしまったのである。実は彼らも退屈していたのだ。




