宰相の息子アルフォンソの憂鬱
アルフォンソ視点です。
山の上の国に来るまで、否、到着した後もアルフォンソは憂鬱であった。
不本意ながらも自分が取り巻きをしている第二公子ベルナルドに、自分が妻にしたいと思っている令嬢アンジェリカとの婚約破棄宣言をさせて、他の求婚者と同時ではあったものの想いを告げて、かれこれ二ヶ月。
一度も彼女と二人っきりになれていない。
デートには誘った。
だが断られてしまう。
理由は、今隣に座り優雅に食事を取る男。
北の帝国の皇太子ルトガーのせいだ。
山の上の国まで一週間掛かると聞いていたのに、蓋を開けてみれば二週間近く掛かってしまった。
一重に体力の無い公女クラリーチェが居たからである。
だが、文句は言えない。
公女だし、女の子だし、子供だし。
何より双子の弟、末公子エルネストが「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝り倒すので、大人達は不満を隠して「大丈夫」「子供が気にするんじゃない」などと答える。
公子は見ていられない程恐縮して可哀想で、それ故に、アルフォンソなんかは(公子なのだから、もっと堂々として欲しい)と思ってしまう。言わないし、顔にもおくびにも出さないが。
尤も、体力が武器の騎士達からすれば。
公女公子もアルフォンソも、序でにルトガーも(侍女達も)、等しく足手まといのお荷物に替わり無かったが……彼らを崖を登って山の上まで連れて行くのが仕事なのだから、仕方ないと思っている。
王都に着く前に東の公爵邸で一泊する事となったのは大変有り難かった。
シャワーを浴び旅の汚れを落とし、食事までの短い間ではあったがベットに横になった。
やっと、野宿から解放された。
自らが望んだ事とはいえ、二度と崖を登ったりしたくない。
帰りは公女公子と相談して、南からぐるっと回って帰ろう。ー、二ヶ月掛かろうと問題ない。崖の道に比べれば大した事では無い……筈だ。そもそも、こうやって長いこと他国に行けるのも国の要職に就いていない(子供の)今の内だけの話だ。
ああ、違った……と、アルフォンソはベットの上で寝返りを打つ。
自ら、望んでなどいない。
崖の道を行きたいと言ったのは、皇太子ルトガーで。
それに賛成したのは公女クラリーチェだ。
彼らに反対出来る者がいるだろうか。
いや、いない。
はあ、と溜め息を吐いた所で「お食事のご準備が――」と迎えが来て、アルフォンソはそこで考え事を中断させた。
東の公爵邸の食堂では、和やかに食事が進んでゆく。
山の上の国の神の話や、面白い旅人の話を聞けた。
その旅人が北の帝国の皇妃だ、と聞かされた時のルトガーの顔。
ぽかん、と口を半開きにして間抜け顔である。
彼は直ぐに引き締めていたが。
アルフォンソはここ最近の憂鬱を思い、密かに溜飲を下げていた。
アンジェリカにデートの誘いを断られる理由。
海の国を去る皇太子ルトガーとは、もう会う機会が無いから……彼の人となりを知るために、彼を優先させなければ、いけない……。
とアンジェリカは言うのだが。
かといって、ルトガーが去る日までの全てを彼に充てていた訳でもなく。
公妃や公女に誘われたお茶会(という名の、第二公子がごめんなさい!)には参加していたし。
買い物をしたりのんびりと過ごしている報告を受けていたし。
確かに皇太子ルトガーには時間が無いのだから、と優先させる理由は……まあ、解る。
しかし。
アルフォンソに充てる時間だって十分あった筈だ。
考えたくないが……考えたくないのだが。
アルフォンソと、過ごす時間は作りたく無い、という事か……。
いや、違う、とアルフォンソは頭を振る。
彼女の言葉はそのまま、の意味だ。
深読みする必要はないのだ。
偶々、元から予定が入っていたとか、そういう事だ。
そうだ。
そうに決まっている。
国に帰れば、国に帰りさえすれば……。
アルフォンソの憂鬱は海の国に帰るまで終わらない。
彼の憂鬱は終わるのでしょうか……。
いつも、ありがとうございます!!




