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「いつまで寝てるの、このグズ!」
「…っ?」
そんな暴言と共にびしゃっとかけられたのは、冷水。起こす目的にしては、顔を中心に結構な範囲に広がる水量で。
心地よい眠りは強制的に終わりを告げた。
「…キャシー?」
「はあ? 誰よ、キャシーって。寝ぼけてんじゃないわよ」
冷たさと水滴を拭いながら、取り敢えず起き上がる。
薄暗がりの中、寝台の側に仁王立ちしている女性を改めて見た。自分の専属侍女とは似ても似つかない顔。人の顔を覚えるのは得意なので、初めて見る顔だと断言できる。
そうだ、そもそも心優しい侍女が冷水や暴言を浴びせてくるわけがなかった。目覚めたときに傍にいるのはいつも彼女だから、つい無意識に呼んでしまったが、声も違う。
横になっていた寝台は固く、視界に映る室内も見覚えがない。狭く、暗い部屋。間違いなく、知らない場所だ。
「…ここはどこですか?」
リディアとしては当然の疑問を口にしただけだった。しかし、目の前の女性はそれを聞くと目を吊り上げ。
「?!」
バシッと頬に熱い衝撃が走る。殴られたのだと気付いたのは一瞬後。
「このわたしに呼びに来させておいて、訳の分からないことをグダグダと…さっさと用意して来なさい! 今日は朝食抜きだからね!!」
小声で怒鳴った器用な女性は、そう言い捨て出て行く。呆然と見送ってから、無意識に頬に手を添える。
…訳が分からないのはこちらの方だ。
私の名前は、リディア。オースティ公爵家次女で、14歳。…のはずだ。少なくとも、昨日、いや昨晩まではそうだった。
優しい両親と姉に侍女、婚約者に囲まれ、何不自由ない生活を送っていた。
お休みなさいませ、というキャシーの優しい声と柔らかい寝台で、眠りに就いたはずだったのに。
自分が自分であることに、思わず自信が揺らいでしまうのは、ひとえにあの女性の態度にある。
誰かに殴られたのは初めてで、じんじんと頬は痛みを訴えている。確かに感じる痛みとびしょ濡れになった衣服の不快感は、これが現実だと何よりリディアに知らしめる。
夢かもしれないなどという現実逃避もできず。
ひとまず身支度しないと始まらない。クローゼットだろう、部屋にある寝台以外で唯一の家具を開けてみた。
きちんと整頓してあるものの、ろくな衣服がない。だが、濡れたままでいるよりはずっとマシだ。
肌に張り付いた重い布を脱ぎ、適当に水滴を拭ってから取り出した衣服を身に着ける。
普段のドレスと違い簡素なそれは、1人でも着ることができるのだけはよかったというべきだろう。
手を動かしながら、その間も思考は止まらない。
覚醒しきっていない頭で真っ先に浮かんだのは、誘拐、の2文字だった。
そう思いつくも、すぐに否定する。
公爵家の警備をやすやすと突破されるというのが、まず考え難い。内通者がいたとしても、数人程度で実行は不可能だ。それにここ数年、新しい使用人は雇っていない。特にリディアたち家族に関わるのは、長年公爵家に仕えているものたちだ。不審な人間と接触もしていない。
監視者の気配もなく、こんな早朝とも言える時間に無理やり起こす、この状況もおかしい。人質だとして、危害を加えるのもあり得ない。
よって、誘拐の可能性はほぼ消えたと言っていい。
立ち居振る舞い、言動からして、先ほどまでいた女性はおそらく侍女ではなく下女。とすれば、家人が起きる前の準備をするための人員として呼びにきたのだろうと推測を立てる。
つまり、リディアは下女としての働きを求められていると、現状では考えられる。
何故私に下女の仕事を?と疑問が尽きない。当然であるが、下働きの経験などない。むしろ役に立たないのは目に見えている。
もう少し、自分の置かれた状況を考察したいところだが、ゆっくり思考を巡らす時間的余裕はないだろう。
このままここにいたら、またあの女性から叱責されることは間違いない。暴力付きで。
ぼさぼさの髪を梳きたいと櫛を探すがやはりなく、せめて鏡がないかと何気なく窓の方を見て、リディアは目を見開く。
見間違いかと知らず凝視してしまい、ガラスに顔を近づけた。
「………だれ…?」
何度見ても変わらない。鮮明さがなくとも、分かる。辺りがまだ暗いから尚更。
──そこに映されていたのは、見慣れた自分の顔ではなかった。
完結済みですが、推敲中なので次の更新は時間かかるかもです。
好みな作家様見つけて読み漁ってたら、自分とこの更新とかすっかり空の彼方に(笑)。
ブクマがさくさく増えていく(笑)。
そういや、色々読んでたら、AI表記ないけど、ぽいやつありましたねえ。
使ってる作品って、文章に感情がないというか。




