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第5話「異議申立て」


「これは殺人だ」と俺は言った。


B-6は顔をしかめた。


「感情的な言葉を使うな。これは代替回収だ」


「呼び方を変えたら、俺のブチ切れ具合が少しはマシになるとでも?」とマクシムが聞いた。


「そもそも、お前たちが知るはずのないことだ」


「今ので落ち着いたわ」


D-09の腕では、カウントダウンが続いていた。


03:11。


B-6もタイマーに気づいた。


「あと三分で命令は再発効する。端末から離れろ、X-173。そうすれば、接触は技術上の不具合によるものだったと報告書に書いてやる」


「マクシムは?」


「死ぬ」


「そいつはご親切に」


「カレティンには、特別な社会的価値がある」


マクシムが彼の記録を開いた。


画面には、笑顔の男の写真が表示された。腕には、俺たちの部屋が丸ごと買えそうな時計をつけている。


「具体的に、どんな価値だ?」


「民間病院のチェーンを所有している」


マクシムが下へスクロールした。


「火葬場のチェーンも持ってるぞ」


「垂直統合型の事業だ」とB-6は平然と答えた。


「便利すぎるだろ。先に治して、あとで自社回収かよ」


B-6が端末へ一歩近づいた。


俺はマクシムとの間に立った。


「どけ」


「断る」


「お前は守護者庁の最重要規則を破った」


「お前は他人の命を売っている」


「私は均衡を維持している」


「お前が守ってるのは、窓付きの個室だろ」


上司が内部監察官たちを見た。


「こいつを取り押さえろ」


一人が俺の肩をつかんだ。


俺は額を、そいつの鼻梁に叩き込んだ。


頭突きというのは、双方に痛い。


ただし、相手にとっては予想外だった。


六百年で初めて、お偉いさんに手を上げた。


肉体というものが、だんだん気に入ってきた。


もう一人の監察官がマクシムに手を伸ばす。


D-09が、その前へ立ちはだかった。


「異議審査中の対象者には、申立てを行う権利がある」


「黙れ」とB-6が言った。


「私は回収官だ。お前の部下ではない」


「動物課へ異動させることもできるぞ」


「人間の後なら、動物はご褒美だ」


マクシムが『回収命令に異議を申し立てる』ボタンを押した。


入力フォームが開く。


『ご自身が死亡することに同意しますか?』


回答欄には『はい』と『判断しかねます』しかない。


「『いいえ』はどこだ?」とマクシムが聞いた。


「下までスクロールしろ」


マクシムが画面を下げる。


死亡に伴う不利益についての警告。


葬儀サービスの広告。


将来の死亡体験を五段階で評価する案内。


そのすべての下に、小さな灰色のリンクがあった。


『死亡を拒否する』


「クソッ、有料サブスクの解約かよ」


マクシムがリンクを押した。


タイマーは01:48を示していた。


新しいページが開く。


『拒否する理由をご記入ください』


マクシムは文字を打ち始めた。


『俺に何の確認もしてねえからだ、クソが』


システムが『クソが』の部分に赤い下線を引いた。


『不適切な表現が検出されました』


「不適切な表現はダメで、適切な手続きなら人殺しはオーケーかよ?」


『エラーを修正してください』


マクシムは『クソが』を『お願いします』に書き換えた。


『俺に何の確認もしてねえからだ、お願いします』


フォームは回答を受理した。


01:12。


B-6が俺を押しのけ、端末へ飛びつこうとした。


俺は彼のネクタイをつかんだ。


B-6の拳が俺の腹にめり込む。


内臓が一斉に縮み上がった。


同時にマクシムがうめき、腹を押さえて前屈みになる。


運命縫合。


今では、俺が感じる痛みの一部をマクシムも受け取る。


「そいつを殴るな! こっちにも来る!」とマクシムが叫んだ。


「ものすごく役に立つ補足だな!」


俺は息を詰まらせながら返した。


D-09がB-6の腕を背中にねじり上げた。


「縫合状態にある守護官への物理的行為は、異議審査中の対象者への行為と見なされる」


「放せ!」


「申立てが完了するまで待て」


00:43。


マクシムは最後の項目まで進んだ。


『申請者ご本人による操作であることを証明してください』


画面に九枚の写真が表示された。


『霊柩車が写っている画像をすべて選択してください』


八枚にはバスが写っていた。


九枚目にも、同じバスが別の角度から写っていた。


「嫌がらせか?」


「違う」とD-09が答えた。


「外部委託だ」


マクシムはすべての画像を選択した。


『認証に失敗しました』


「ふざけんな、クソッ!」


タイマーがゼロになった。


胸が急に締めつけられた。


マクシムが心臓を押さえる。


俺もまったく同じ痛みを感じ、片膝をついた。


回収命令が再び効力を持った。


端末の画面が、目の前でぐにゃりと揺れる。


息を切らしながら、マクシムが九枚目の写真をもう一度押した。


システムが考え込む。


やがてボタンが現れた。


『異議申立てを送信』


その下に、もう一つ。


『本当によろしいですか?』


「いや、迷ってるよ! 生きるか死ぬかでな、このボケ!」


マクシムは手のひらで画面を叩いた。


端末が短い電子音を鳴らす。


『異議申立てを受理しました

回収命令を一時停止します

自動監査を開始します』


痛みが消えた。


俺とマクシムは、同時に息を吸い込んだ。


システムが変更履歴を開く。


B-6が行った操作のすべてが、画面に表示された。


カレティンが最初ではなかった。


ほかに八件の寿命移転がある。


金を払える人間の身代わりに選ばれた、八人の人間。


内部監察官たちは俺を押さえるのをやめた。


今度はB-6を見ている。


「これは説明できる」と上司が言った。


「もちろんです」と監察官の一人が答えた。


「書面で。三部提出してください」


B-6の顔から血の気が引いた。


守護者庁では、逮捕より恐ろしい宣告だった。


監査には四分かかった。


マクシムの寿命は元へ戻された。


カレティンへの回収命令も復活した。


D-09が新しい通知を確認する。


「時間だ」


「よろしく伝えてくれ」とマクシムが言った。


「伝えない。たいてい値切り始めるからな」


一分後、共有画面に通知が表示された。


『ボリス・リヴォーヴィチ・カレティン氏、慈善晩餐会にて死亡。「誰もが食料を手にできる社会」について演説中、キャビアを喉に詰まらせた』


マクシムが読んだ。


「これ、お前が考えたのか?」


D-09は、すでに廊下を歩き去るところだった。


「私は回収するだけだ。創作パートは世界の担当だ」


B-6は職務を解かれ、植物管理部門へ異動になった。


今後はフィカスを守護することになった。


去る前に、俺は彼の新しい担当記録を確認した。


そのフィカスは根腐れを起こしていた。


正義は存在した。


ただし、仕事の進め方は相変わらずクソだった。


俺は直接接触を理由に、守護者庁を解雇された。


職員番号は抹消。


アクセス権は剥奪。


不死性も没収。


だが、マクシムとの縫合だけは残った。


彼の規定寿命が来るまで、俺たちは同じ世界に縛られ、どちらかが負った重傷は、もう片方にも伝わる。


つまり、これから六十年、俺はこのバカがまた胸焼け薬を喉に詰まらせないよう見張る義務がある。


俺たちはアパートへ戻った。


キッチンには、相変わらず室外機が突き刺さっている。


アイロンは、俺が置いた場所にあった。


冷たい。


プラグも抜けている。


念のため、二度確認した。


マクシムのスマホが震えた。


上司からのメッセージだった。


『どこにいる? 始業時間はとっくに過ぎてるぞ』


マクシムは少し考えてから返信した。


『死んでました。ちょっと手間取りまして』


数秒後、返事が来る。


『証明書は出せるか?』


マクシムが書いた。


『結局、生きてます』


上司からの返答。


『なら始末書』


マクシムが、そのやり取りを俺に見せた。


「こんな俺を、あと六十年も守らなきゃいけないのか?」


「残念ながら」


「お前、これからどこに住むんだ?」


「分からない。今日までは住居など必要なかった」


マクシムは壊れたキッチンを見た。


次に俺を見る。


「最高だな。守護天使だけでも大概なのに、ホームレスまでセットかよ」


「俺はお前の命を救った」


「その前に二十九回しくじっただろ」


「だが三十回目は成功した」


「分かったよ。ソファはお前が使え。家賃と光熱費は半分払えよ」


「金は持っていない」


マクシムは目を閉じた。


「あのエアコンに殺されてたほうがマシだった」

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