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異世界転生って楽勝だと思ってました。  作者: 藤次郎
第三章

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第八十八話「新たな仕組みを作るのは楽勝ですか? 」

《――天照が主人公に対し、(みずか)らの命よりも(とうと)いと断言し手渡した物。


それは――》


………


……



「こ……この本は一体なんですか? 」

(と、聞いては見たが完全に見覚えがある……これは恐らく……)


《――そう(たず)ねた主人公に対し

天照は少し微笑みつつ――》


「……貴方の(ふところ)に大事に仕舞(しま)い込まれている物と

同じ流れを組む道具の筈です」


「な、成程……中を見ちゃ不味(マズ)いですかね? 」


「お勧めは出来ませんが“どうしても”と(おっしゃ)るのでしたら……」


「……何か怖いんでやめときます」


《――主人公がそう言いつつ(ふところ)にしまい込んだ本の表紙には

人馬宮サジタリアス之書”と書かれていた。


そして――》


「……命よりも大事な物を俺に預けてまで

俺の協力と信用を得たいと思って頂けたのは光栄なのですが

俺には二つ、やるべき事があるんです。


一つ目はアリーヤさん率いる子供達の平和に暮らせる安住(あんじゅう)の地を探す事。


そして二つ目……俺の後ろにいるリーアは精霊族の女王なのですが

彼女が言うには魔族が何処かの神聖な森をけが

其処を()み家にしているそうなんです。


……神聖さが消え去ったと言うその場所で

魔族……この国で言う所の“鬼”達が今も(なお)、力を(たくわ)えている様なのです。


……一刻も早くその森を見つけ出し、魔族を退治した上で

元の神聖な森の姿へと戻す必要があるんです。


……ですので、俺の力を貸してくれと(おっしゃ)るのなら

その代わりに魔族達が占拠している森の捜索を

この国のお力で行って頂けませんか?


……見つかった場合は早急な討伐(とうばつ)の為、出来れば

この国の軍事力をお借りしたいとも思っています。


ただ、アリーヤさんと子供達の暮らす場所については

俺が(しっか)りと見定めたいので……取り敢えずは

この所の“荷馬車生活”から開放させる為にも

安全な宿と安全な食事を準備して頂ければそれ以上は求めません。


……其処までお許し頂けると言うのなら

少し長く成ってしまうとしても協力を(いと)わないつもりです。


……どうでしょうか? 」


《――主人公がそう言うと天照は少し複雑な表情をした

彼女には、この時既に“()えて”いたのだ。


日之本皇国の周囲にはその様な形跡が無い事を。


だが――》


「……ご希望通りに致しましょう」


《――この時は複雑な表情のままそう答えた天照だったが

それでも主人公(かれ)の願いを最大限叶える為か、同日の夜

(みずか)らの自室に近衛兵の中でも特に信頼の置ける代表者四名に

魔族捜索の任務を命じ、各大陸へと向かわせたのだった。


……ともあれ、主人公の判断を歓迎し

彼を受け入れるつもりの天照率いる日之本皇国陣営。


その一方で、複雑な思いを抱えた者も居て――》


………


……



「……御礼を言わなければ駄目なのは分かるワ

けれど、ワタシの所為で主人公アナタが望まない事をする必要は……」


「……待ってくれリーア

俺はそんな風に思って貰う為に君の願いを条件に入れた訳じゃない。


ずっと気になってた事だし……(むし)

後回しにしてしまってた事を謝るべきだと思ってたんだ。


……解決が遅くて本当にごめん」


《――そう言って頭を下げた主人公。


そんな彼を(ただ)申し訳無さそうに見つめて居たマグノリア

一方、そんな様子を間近で見ていたベニは――》


(ただ)でさえ大変そうやのに、ウチが更に面倒事に巻き込んでしもたんやね。


謝らなあかんのはウチの方や……」


《――と、申し訳無さそうにしていたが

そんなベニに対し、主人公は余りにも“キッパリ”とした態度で――》


「ええ、正直かなり面倒です! ……けど、何故かやる気が出てるので

別に其処まで俺の中で問題になって無いです。


けど、政治に関わって貰いたいって言われても

俺は一体この国で何をすれば良いんですかね? 」


《――ベニに対しそう(たず)ねた主人公に対し

返事をしたのはベニでは無く天照であった。


彼女はまるで政令国家での主人公を見ていたかの様な口ぶりで――》


「……多種多様な革新的法律や遊び道具などの

“無ければ作る”精神を

遺憾(いかん)無く発揮して頂ければと思っています」


《――そう語った天照だったが

そんな彼女の要求に対し、主人公は更に――》


「天照様の希望は理解しました……ですが。


……俺達はこの国で色んな地域を訪れましたが

地域ごとの長ですら“いがみ合って居る”現状で

いきなり現れた他国の人間が――


“これこれこう言う事を徹底しますッ! ”


――って何らかの法律を提案したとして

それをすんなり受け入れて貰えるとは到底思えないんですけど

もしそうなった場合、俺の居る“意味”って一体何処(どこ)に有るんでしょうか? 」


《――至極(しごく)真っ当な疑問であった。


そしてこの直後、そんな疑問を投げ掛けた主人公に対し

天照は申し訳無さそうに国の成り立ちを説明し始めた――》


………


……



「貴方が(おっしゃ)られた問題点は、長らく私自身も憂慮(ゆうりょ)している問題なのです。


ですが、一筋縄で行かない理由もあるのですよ……


……この国が昔、まだ四つの別々の国であった時代。


国同士はいがみ合い、奪い合い……民草は皆疲弊(ひへい)

幸せなど微塵(みじん)も感じられない悲しい時代でした。


……とは言え“いがみ合い”に関して言うのなら

貴方の(おっしゃ)る様に現在も解決していないのでしょうが……


兎に角……私はそんな争いだらけの状況に嫌気が差して居たのです。


そんなある日の事、私は“神の力が宿る”と信じられている

聖なる大樹(たいじゅ)の元へと向かい――


“こんな争いだらけの世界はもう嫌なのです

どの様な形でも構いません……争いを無くし、お腹にいるこのベニ

皆が安定した暮らしを送る事が出来る様、皆が幸せに豊かに暮らせる様

どうか……お力添えを下さい”


――そう、祈りを捧げたのです。


勿論、その日に願いが叶った訳では有りませんし

その日から毎日毎日幾度(いくど)と無く

わらにもすがる思いで祈りを捧げ続けました。


そんなある日の事……何時もの様に大樹(たいじゅ)に向け祈りを捧げていると

突如として突風が吹いたのです。


……驚く程に強く吹いたその風は

千年を優に超える樹齢の大樹(たいじゅ)を大きく揺らし……やがて強風に耐えきれず

一本の枝が折れ、そのまま落下し地面へと突き刺さったのですが


その時……“妙な音”が響いたのです」


「その……妙な音とは? 」


「……地面に刺さった様な音では無く、何か硬い物にぶつかった様な音でした。


直後……私は枝を浮遊魔導で退()け、その場所を必死に掘り起こしました

……暫く掘り進めるとその場所には鍵のついた箱が有ったのですが

枝がぶつかった事が原因だったのかその鍵は壊れており

私はその箱を開ける事が出来てしまった。


其処には………」


《――そう言いつつ主人公の(ふところ)に目をやった天照。


そんな天照の視線を感じた主人公は――》


「えっと……其処にこの本が有ったと? 」


「ええ、お察しの通りです。


……妙に興味が湧いてしまった私はその本を開き、読みふけ

そして……その本を読み終えた後、元の場所に戻すと家へ帰ったのですが

家に帰ると出迎えてくれた夫は涙を流し


“良かった……良かった……”


……と、私を抱き締めながらそう言ったのです。


不思議に思った私が(たず)ねると

私が居なく成ってから既に二日も経って居ると言われました。


……冗談はやめてと言いましたが

夫自身も私の話した真実を信じては居なかったのです。


それどころか“浮気でもしていたのか”とあらぬ疑いを掛けられてしまう始末。


……このままではお互いに(らち)が明かないと

私は後日改めてその本を持ち帰り

夫に見せる事で(みずか)らの潔白(けっぱく)を証明しなければ、と

後日その場所へと向かったのです。


すると、突如として私の頭の中に直接――


“……お前程信心深い者は他に居ない

願いを是非とも叶えてやりたいと思う……しかし

お前の望みは容易(たやす)く叶う(たぐい)の物では無い……成ればこそ

我はお前に力を与える事を決めた、お前が目を通した本は

全てを見通す千里眼の力を与え、全てを貫く武力をも与える。


だが……その代わりに奪いもする恐ろしい力を持つ。


……力を正しく行使し、お前の望む平和な世界を

お前自身が作り上げるのだ……”


――と、語り掛けて来たのです。


今思えばあれは“大樹(たいじゅ)に宿る神様”だったのかもしれませんが

私は不思議と恐怖も感じず、神様の(おっしゃ)られた事を胸に刻み

大樹(たいじゅ)に向かい祈りを捧げていた所……本が独りでに浮かび上がり

私の手元へと飛んで来たのです。


……その日から神様の(おっしゃ)られた通り

人々の考えが手に取る様に判る様に成り

今までさしたる力を持って居なかった私が突如として強力な魔導適正を獲得し

攻撃術師(マジシャン)であった筈の私が、トライスターと成れる程に成長したのです。


勿論この後直ぐに夫からの誤解も解けました……ですが」


《――其処まで説明した所で突如として(うつむ)き、語る事を止めた天照


この場所に嫌な静寂(せいじゃく)が流れた後――》


………


……



「……奪いもすると神様は(おっしゃ)って居ました。


私の夫は戦士だったのですが、戦に駆り出され長く帰って来られず

久しぶりに帰還する事が出来ると手紙が届いた翌日


……彼は、見るも無残な姿で帰って来たのです。


泣き叫び、彼の亡骸に(すが)った私でしたが……突然

私を呼ぶ彼の声が聞こえ、私は耳を()まし辺りを見回しました。


すると――


“久しぶりに会えたのに君を抱き締められずすまない

……二度と抱き締められない事が(くや)やまれる。


だがそれでも、何時迄(いつまで)も君の側で君を守ると誓う。


……不甲斐無く、誇れぬ夫だったかも知れないが

せめて君の守護霊として、君を生涯守らせてくれないか”


――そう、死んだ筈の彼の声が私の頭に直接語り掛けたのです

それと同時に、私は理解をしたのです。


全てを見通す力は“霊体”相手であっても同じなのだと……」


「……そんな悲しい経験をしたにも関わらず

何故その原因と言えなくも無い筈のこの本をそれ程大切にするのです? 」


「ええ……話は戻りますが、全てを見通し

全てを(つらぬ)く力を与えると言うその本のお陰でしょうか

私は苦しむ人々の悩みをも(つらぬ)く力を与えられたのです。


……初めて力を行使したのは水不足に悩む村に訪れた時の事でした。


皆が頭を抱える中、何故か私にだけは水源の場所が判り

魔導を(もち)いてその場所を掘り当てその村の水不足を解消したのですが……


……この事を皮切りに、噂が噂を呼んだのでしょう

私の元には悩める民達が多く訪れる様になりました。


勿論、中には私の持つ力を

私利私欲の為利用しようと(たくら)(やから)も居たのですが

その様な考えも直ぐに見抜ける力を有していたのが(さいわ)いでした。


ともあれ……そうして困っている人々を救い続けていたある日

人々はいつの間にか私の天照(アマテラス)と言う名前をもじり

“民草を天から照らす神の使い”……として(あが)め始め

人々は現在の北地域の長としての立場を私に(ゆだ)ねたのです。


当時の私は“皆の事を幸せに出来るならば”と甘んじて受け入れました。


……其処から長としての日々が暫く続いたある日の事

長らく続いた雨不足にって農作物の収穫量に不足があった三国は

あろう事か結託(けったく)し、当時私の(おさ)めていた北地域ここへと

侵略戦争を仕掛けて来たのですが……」


「その口振りだと……天照様が圧倒したのですね? 」


「……お恥ずかしながら(おっしゃ)られる通りの結果で御座いました。


三国とも早々に撤退(てったい)した後、今度は

(みずか)らの国々に反撃でもされるのではと恐れたのでしょう。


……それぞれの国の長達は私の元へ“連名の書簡(しょかん)”を送りつけ

話し合いの場を(もう)ける事を提言して来たのです。


実は……“物”からでも私は考えを感じ取れるのですが

本心から恐怖をしている事だけが伝わったこの手紙を信じた私は

その後、話し合いに参加しそれぞれの国の長達に対し――


この様な争いを望まぬ事

長らく続く争いを金輪際無くしたい事

その為に成るのならば私の力を(もち)い、それぞれの国に対し

安定した生活を送る事が出来る様、協力する事を惜しみません。


――と、思いの(たけ)を全て話したのです。


話し合いは直ぐに終わり、結果として私はそれぞれの国を渡り歩き

それぞれの国が抱える苦しみを一つ一つ

……出来る限り取り除く為の旅を続けました。


ですが……その中で胡座をかいたその当時の国々の長達は

(みずか)らの国が他国よりも豊かな暮らしをしたいと言う

共存共栄(きょうぞんきょうえい)の感じられない自分勝手な考えの元

再び“小競り合い”を繰り返す様に成ったのです。


そんな世界に再び嫌気が差した私は、再び長達との話し合いの席を(もう)け――


“約束を違えた以上、金輪際(こんりんざい)支援は出来ない事

もし仮にそれを良しとせず再び私の国へと攻め入ったならば

今度はその国を崩壊させる事も(いと)わない。


――そうお伝えしたのです。


勿論、これは考えを改めて貰おうと考えたが(ゆえ)の発言でした

ですが……主人公さん。


……結果はどうなったと思われますか? 」


「……国や村に限らず、豊かな生活に慣れた者がその生活を奪われた場合

それより下の生活水準に耐えられるかと言えば……長くは持たないでしょうね。


まさか……三カ国全てが攻めて来たのですか? 」


「……それが間違って居たならばどれ程良かったでしょう。


(おっしゃ)られる通り……三カ国全てが

同時に全軍を率いて私の国へと攻め入ったのです……私は民を守る為

三カ国の差し向けた全ての軍を……崩壊させてしまったのです」


《――当時の惨状を思い出したのか

少しい表情を見せた天照に対し

主人公は気を使ったのか――》


「……下品な言い方には成りますが

三カ国の長達は“喧嘩を売る相手を間違えた”……って事です。


天照様が気に病む事では有りません」


「お気を遣わせてしまいましたね……ですが

敵とは言え兵に罪は無かったのです……勿論

民を守る為には仕方が無かった事も理解しています。


……話を戻しますが、崩壊したそれぞれの国に残っていたのは

為政者(いせいしゃ)を無くした事で更に苦しむ民草達の姿でした。


当然見捨てる事など出来る筈も無く

私は新たな国を作る事を提案したのですが――


“新しい国の名前ですが、もし天照様が長として君臨為されるならば

我ら民草を天から照らす、太陽に(ちな)んだ名前を国名にするのは如何(いかが)でしょう? ”


――と、一人の民が建設的な案を出してくれたのです。


その案を皮切りに、民達は皆口々に様々な国名の案を出し合い

結果として現在の“日之本皇国”と成ったのですよ」


「……成程、命を救って貰った事だけで無く

天照様自身の持つ力との両方が、天照様が(あが)められて居る原因なのですね」


《――そう受け答えた主人公。


だが、彼は内心……


“てか……国の成り立ちが若干日本神話っぽい雰囲気有って怖いな。


大きさはともあれ、地形が似ると成り立ちも似てくるのかな?

まぁ、名前自体もそっくりだしなぁ……”


などと考えていた。


のだが――》


「……全知全能と(まで)言われ(あが)(たてまつ)られている私ですが

主人公さんのお考えに成られている事の全てを

理解出来る程の能力は与えれていない様です。


ですが、察するに……我が国と似通った国のご出身なのですね」


《――そう言われ

まごつき、答えに困り口()もる主人公に気を使ったのか

天照は()えて話を変え――》


「話が其れてしまいました……兎に角

主人公さんには我が国の抱える問題点を解決する為

“特務大臣”としてご助力頂きたいと思っています。


……後ほど各地域の長達に対してもその(むね)を私の方から連絡しておきます。

主人公さん自身は何かお困り事は有りますか? 」


《――そう(たず)ねられた主人公だったが、これまでの“経験”からか

彼は複雑な表情を浮かべつつ、天照に対し――》


「……全ての考えを読めてしまう天照様に対し

口で説明するのは若干無駄な気がしないでもないですけど……」


《――と、少し失礼とも取れる言葉を発した。


すると、天照は微笑(ほほえ)みながら――》


「……子供達の事ならば北地域に有る学校へと通わせては如何(いかが)でしょう?

勿論、滞在中の宿となる場所も全員分直ぐに用意させます。


ただ……我が国の学校が貴方の母国に有る物と比べ

果たして(まさ)っているかどうかは判りませんが

少なくとも子供達が自由に学び……遊び……食べ。


……そして、休息を取る事が出来るでしょう」


「……やっぱり読まれてましたか。


改めて御礼を……有難うございます」


《――そう言うと主人公は天照に対し深々と頭を下げた。


一方、子供達はこの決定に少し(さみ)しげで有ったが

その日の夜から過ごす事と成った大豪邸に大はしゃぎし

翌日からは子供らしい笑顔に(あふ)れたのであった。


その一方……“特務大臣”を任命された主人公は

この国の(かか)える問題点を解決して行く為

様々な地域に向かう事を決めたのだが……


……“荷馬車”では移動だけで数ヶ月掛かる事も有り

とても現実的とは言えず、その事を伝えると――》


「……丁度良いですね。


私は再び南地域に戻らなくては成りません

旅の支度もありますから少し遅くは成りますが

それまでお待ち頂けるならお送り致しましょう」


「えっ?! ……良いんですか?! 」


「ええ、ご助力頂くと言うのに邪険(じゃけん)に扱うつもりはありませんよ? 」


《――こうして


全地域に移動経験の有る唯一の存在“天照”が

直々に主人公を送り届ける事が決定した。


だが……その事が噂を呼び

主人公一行に対する“更なる誤解”が生まれるのは……また別のお話。


ともあれ……全地域への移動経験を元に

日之本皇国内を自由に移動する手段を得た主人公は

それぞれの地域に存在する利点と欠点を

一つ一つ確認していく事と成る――》


………


……



「東地域は物理職最強な“剣豪”が多数と……育成中の海軍か

軍事力的な意味では陸軍優勢、海軍は発展途上っと……」


《――北地域帰還後の夜

主人公は用意された豪邸の自室に()もり

大量の書類を目の前に頭を悩ませていた。


そんな時、部屋の扉をノックする音が聞こえ――》


「ん? ……はい、どうぞ~! 」


………


……



「あ、あのっ……主人公さんが……とてもお忙しそうだとお聞きしたので

何かお手伝い出来ればって思って……」


《――訪ねて来たのはメルであった。


手には主人公の為と思われる夜食を持っていて――》


「心配してくれてありがとうメル……けど

別に心配しなくても休んでて良いんだよ? 」


「い、嫌ですっ! ……そのお願いは聞けませんっ! 」


「えっ? ……な、何故に? 」


「確かにちょっとだけ眠いですけど……でもっ!

私は主人公さんの……その……あのっ!

……(なつ)かしくて、カッコいい所を見たいんですっ! 」


「えっ?! ……どどどどう言う事っ?! 」


《――この突拍子も無い発言に慌てる主人公だったが

そんな彼に対し、メルは――》


「そのっ……主人公さんは“王国”って呼ばれてたあの国の仕組みを変えて

“政令国家2って言う新しい形に変えてくれました。


……閉鎖的(へいさてき)でお互いを理解しようとする人が(ほとん)ど居なかった

あの国の問題点を一つずつ解決して

今では様々な種族の皆さんが安全に暮らせる素敵な国に成りました。


……そのお陰で

お母さんも私も幸せに暮らす事が出来る様に成りました。


感謝してもしきれませんし……私、主人公さんの事

その……大好きなんですっ! ……そっ、それでっ!


……そんな主人公さんが政令国家からこんなにも離れた国で

また“世直し”の為に頑張って居るんです。


だから……(なつ)かしくてカッコいい主人公さんの“天職”を

間近で見たく成っちゃったんですっっ! ……」


《――必死にそう話し、緊張と恥ずかしさからか

顔を真っ赤にしていたメルだったが

そんなメル以上に“耳まで真っ赤に成っていた”のは


他でも無い、主人公で――》


………


……



「い、いやその……褒め過ぎだし……てっ、照れるから!!


……って言うか“それ”は夜食かなっ!? 」


《――耐えられなく成った主人公は話を()らし

同じく“耐えられなく成った”様子のメルは

とても緊張した様子で、主人公に夜食を差し出した――》


「あっ……あのっ! ……おっ……お口に合いますでしょうかっ! 」


「と、取り敢えず……頂きますッ!


って……美味しいッ!


……これ、俺が好きな類の味付けだよ!

後で料理人の人にレシピを教えて貰いに……」


「えっと……そ、それ……私が作ったんですっっ! 」


「えっ?! ……メル、料理上手(じょうず)過ぎじゃない?!

これは……メルは将来良いお嫁さんになりそうだね! 」


「おおおっお嫁さんですかっ?! はうぅぅぅ……」


《――直後

耳まで赤くなり、静かに(うつむ)いてしまったメルの様子に何かを察した主人公。


そんな彼もまた更に“真っ()()”に成ったのだった。


ともあれ……夜食後、メルの協力の甲斐(かい)もあり

東地域並びに西地域の利点と欠点を考えうる限り書き出す事が出来た主人公。


だが……夜も()け、両名とも

(まぶた)(こす)る回数”が増え始めた事もあり

今日の“天職”は此処(ここ)までとしたのだった。


そして、翌朝――》


………


……



「……聞きましたよ~主人公さん!

ついにメルちゃんを自分の部屋に“連れ込んだ”そうですね?! 」


《――朝食の席で主人公に対し

一際(ひときわ)ハイテンションな様子でそう(たず)ねたマリア。


そんな質問が聞こえると同時に盛大に噴飯(ふんぱん)した主人公とメル。


直後……顔を真赤にしながら必死に否定しつつ

()き込み苦しそうな二人の姿をニヤニヤと見つめるマリア。


だが……実は、彼女がメルを“けしかけた”張本人である事は

メル以外に知る(よし)も無く、疑いが晴れるまでに

少々時間を(よう)したのは言うまでも無いだろう――》


===第八十八話・終===

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