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異世界転生って楽勝だと思ってました。  作者: 藤次郎
第三章

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第八五話「去り際も楽しいですか?」

《――温泉に()かり、祈りを捧げて居た主人公。


(しばら)くの後……温泉から上がった彼は

大樹(たいじゅ)の間”へと戻り――》


………


……



「シゲシゲさんは何時(いつ)頃来るんだろう、緊張するなぁ……」


《――そう言いつつ正座のまま出入り口の方を向き

緊張した面持ちでシゲシゲを待って居た。


一方、そんな様子を見たマリアは――》


「主人公さんって時々可愛いですよね」


「は? ……なッ、何でだよ!? 」


「だって後ろ姿見てたら“飼い主の帰りを待つペット”

みたいな感じがするんですもん! 」


「お、お前なぁ……」


《――などと話していると

扉の向こうから


“皆様、宜しいでしょうか? ” 


と、エリアスの声が聞こえ――》


「……はい、どうぞ! 」


《――主人公が入室の許可を出すと

シゲシゲを筆頭(ひっとう)に、エリアスやボルグ

ドワーフ族の職人達など、実に大勢の者達が部屋へと現れた。


そしてこの直後、代表者であるシゲシゲは入室するなり――》


「その様に正座などせず、もう少しリラックスしてくだされ

せっかく旅の疲れを癒やしたと言うのに

ワシの所為で台無しにしては旅館の名折れですからのぉ」


《――と、(うなが)した。


だが、(いささ)か緊張し過ぎていた様子の主人公は

決して足を崩そうとはしなかった。


すると――》


「困りましたのぉ……では仕方有りませんな

はぁぁぁぁぁぁっっ! ……きええィッ! 」


「シ、シゲシゲさん何を……って。


……ふんぎゃあぁぁぁッ!! 」


《――突如として()(かい)な動きを見せたかと思うと

主人公の背後に回ったシゲシゲは

主人公の“足裏”を指で突付いた……直後

激しい痛みと強烈(きょうれつ)(しび)れに襲われた主人公は

苦しみ(もだ)え、そんな彼の姿に慌てた彼の仲間達は

シゲシゲに対し最大限の警戒心を(あらわ)にした。


だが――》


「ち、違う……皆……これは“正座あるある”だからッ……

取り敢えず、全員落ち着いて……は~ぁッ! 痛かった~ッ! 」


《――そう涙目になりながらも皆を静止した主人公。


ともあれ……(しばら)くの後

(しび)れが落ち着いた様子の主人公は

シゲシゲの求め通り“楽な姿勢”に座り直すと――》


………


……



「ま……()ずは皆様へ御礼を。


今日まで一週間の間、最高の体験をさせて頂きました事

心の底から感謝しています……本当にありがとうございました」


《――そう言うと、深々と頭を下げた主人公

であったが、早々に頭を上げると――》


「……そしてシゲシゲさん。


マジで……子供みたいなイタズラやめて下さいよ~!

結構痛かったですよ? 」


《――と、少し涙目に成りつつそう言った主人公

そんな彼に対し、シゲシゲは――》


「少しイタズラが過ぎたかのぉ……じゃが

年寄りの忠告は聞いておく物ですぞぃ?


……これからまた旅に戻られるのであれば

正座などで体を疲れさせるべきではありませんじゃろう?

そもそも、主人公さんがどの様な座り方で居ったとしても

既に決めたワシの決定は(くつがえ)りませんでのぉ? 」


「それは分かっています……でも

礼儀として(しっか)りしておこうかと! 」


「それも充分理解しておりますとも……真っ直ぐな御方じゃ

……さて、もう少しすれば旅館が忙しくなる頃ですから

主人公さんにもワシにも重要な話から

先に手早く済ませるべきじゃと思っております……」


《――そう言うと着物の(ふところ)に手を入れたシゲシゲ

直後――》


「さて……これがワシの考える

主人公さんに対する全ての“答え”ですじゃ!

これを、受け取って貰えるじゃろうか? 」


「は、はい……って!? こ、これは確か……」


《――シゲシゲが主人公に対し手渡した物

それは、表紙に“白羊宮(アリーズ)之書”と(しる)された一冊の本で――》


「あ、あのッ!! ……これって

シゲシゲさん達にとって相当重要な物なのでは?

あッ……“少しだけなら読んでも良いよ”的な事ですよね?

まさか“(ゆず)って下さろうとしてる”訳じゃ無いですよね? 」


「ん? ……ワシは

“受け取って下さるか? ”とお(たず)ねした筈ですぞぃ?


……無論(むろん)、その本が

ワシ達に重要な物で有る事は事実じゃし

この旅館とこの旅館内に、ワシの持つ

記憶通りの“日本”を作り出せたのは

その本の存在が大きかった事も確かです……じゃが

それ(ゆえ)に、その本は恐ろしい力も秘めておると思っております」


「それは……悪用される恐れが有ると? 」


「ええ、(あら)ゆる物を作り出せる

“可能性”を持っております(ゆえ)

使用者の“想像力”次第(しだい)では

悪用も可能な凄まじい物じゃと思いますぞ?


……その本を狙う悪党が居らぬとも限りませんし

所持している事さえ

誰にも知られぬ方が良いじゃろうと思いますがのぉ? 」


「と、当然“言いふらしたり”はしませんが……それよりも

そんな凄い本を譲って頂ける程

俺は自分の事を出来た人間だと思えないんですが……


……と言うか、譲って頂けるのは嬉しいのですが

俺は(ただ)、日本的な物の情報を聞きたかっただけで

“納豆菌”とか“大豆”とかを分けて貰ったりってだけでも全然……」


「予想して居た通りの反応をして貰えて嬉しい限りじゃ!

やはりワシの判断は間違いでは無かった様じゃな!

エリアスさんや! 」


「はいっ! シゲシゲ! 」


「は!? ……な、何の事ですか? 」


「いやいや失敬(しっけい)! ……もしかせんでも

主人公さんも日本からの転生じゃろう?

と言う事は、ワシと知識の量自体は大差無い筈じゃ。


そうなれば“日本”をこの世界に作り出す(ため)に必要なのは

主人公さんの“想像力”とその本だけで充分じゃろうし

ワシが知らん物ですら(いく)らでも作り出す事が可能な筈。


そう成れば、わざわざワシが教えるまでも無いじゃろうし

そもそも伯爵の絵本があれば

良い“レシピ”代わりに成るじゃろうと思いましてのぉ?


まぁ……それとは別に

その本を渡すと決めた理由が有りましてのぉ……」


「そ、それは……理由をお(たず)ねしても? 」


「……ワシはそれなりに歳を重ねておりますから

十年……いや、五年先も分かりません(ゆえ)

いつかはその本を誰かに譲る時が

(おとず)れるじゃろうと思うて居ります。


……じゃが、その様に何でも生み出せてしまう本を

万が一にでも悪の手に渡らせてしまえば

この世界に争いの種を生むじゃろうと思いましてな

ならば、悪用する恐れが無いと断言出来る者に

その技術を引き継がねば……要は

老い先短い者の最後の使命とも思うての事ですじゃ。


それに……ワシは思ったのです。


主人公さんの考えを聞いた日から色々と悩みましたが

ワシの大切な仲間達から伝え聞く

主人公さんのお人柄を知った時

少しずつワシの中に欲が芽生えた。


主人公さんの言う“皆を幸せにする知識の活用方法”

その行く(すえ)が見てみたいと言う欲が……そして

主人公さんならば、それを

“夢物語”にせず叶えてしまうじゃろうと。


……何故(なぜ)かは分かりませんが

一種の確信の様な物を得たのですじゃよ」


其処(そこ)まで考えて下さって居たんですね……でも、俺

シゲシゲさんにそんなに期待して貰える程

聖人君子じゃないと思いますけど……」


「ふむ……じゃが“最適解”ではありますぞぃ?

それとボルグさんから聞きましたが

主人公さんは相当な力をお持ちの様子。


……ワシらがその本を(まも)るには限界がありそうですが

主人公さんならば余裕があるのではと思いましてのぉ!

そう言う訳で、一種の“厄介払い”も兼ねておりますぞぃ!! 」


《――そうおどけた様子で語ったシゲシゲだったが

彼の眼差しからは主人公に対する確かな信頼が見えたと言う。


そして――》


「……参ったな、シゲシゲさんには勝てないや。


分かりました! ……この本を決して悪用せず

悪の手から(まも)り、シゲシゲさんが譲って良かったと思える程

この世界を良い方向へ導く(ため)だけに活用する事を誓います。


もし、どんなに時間が掛かっても

失望だけは絶対にさせないと約束します……あと

俺の故郷である政令国家に、この旅館に負けず劣らずな

名湯(あふ)れる温泉を作ってみたいですし

皆様がお越しの際は俺達がして貰ったみたいに……


……いや、それ以上に!

最上級のおもてなしをさせて頂きますから!


どうか、楽しみにして居てくださいッ! 」


「うむ! ……やはりワシの決断は間違って居なかった様じゃ!

故郷に作り出す温泉……楽しみにしておりますぞ!


……さて、そろそろ旅館も忙しくなり始めますので

ワシ達はそろそろ仕事に戻らさせて頂きますぞぃ? 」


「ええ! ……本当にありがとうございました!

……これでサーブロウ伯爵にも良い報告が出来ます! 」


「ふむ……ならば

“焼き物を大層気に入っておった”と伝えてくだされ! 」


「はいッ! 」


《――この後


旅館を去り、サーブロウ伯爵への報告を済ませる(ため)

伯爵邸への転移準備をして居た主人公。


だが、そんな一行を影から監視していた者が居た――》


………


……



「……“ご案内しろ”との事だったが

伯爵への用件が終わってからの方が面倒事に成らないか。


まあ、(おり)を見てお声掛けするとしよう……」


………


……



《――(しばら)くの後

サーブロウ伯爵邸に到着した一行。


直後、彼らの到着を聞きつけたサーブロウ伯爵は

興奮気味に一行を屋敷へと案内すると

主人公が話すよりも早く“焼き物”の結果を(たず)ね――》


「それで……どうだった!? 」


「ええ! シゲシゲさんはとても喜んでましたし

大層気に入っていらっしゃいました!

“腕を上げたのぉ!”と褒め称えてましたから! 」


「おぉ! ついに認められたか!! ……これは嬉しい報告だ!

……旅館で散々経験はしたかも知れないが、この良き日に

是非とも日本的なおもてなしを改めてさせて頂きたい! 」


《――主人公の報告に大層上機嫌な様子の伯爵は

執事に対し“例の木彫りを持ってくる様に! ”と命じた。


の、だが――》


「ど、どうかね!? ……“それ”も私が手作りで作り上げた物だ!

日本の伝統的な工芸品との事なのだが……出来はどうだろうか? 」


「え、ええ……とても精巧(せいこう)だと思いま……すよ? 」


「ん? ……あまり反応が良く無いが

もしや、出来が悪いのだろうか?!

もし、そうであるならば

何処(どこ)が悪いのかを是非ご教示(きょうじ)願いたいっ! 」


「い……いや、何処(どこ)も悪く有りませんって!

あまりに凄いクオリティ過ぎて驚いてるだけですから! 」

(と言うか……“これ”の何処(どこ)が日本の伝統なんだ? )


《――この時主人公(かれ)が若干引いて居た理由。


それは……主人公(かれ)に手渡された物が

木彫りで精巧(せいこう)に作られた

主人公(かれ)のフィギュア”だったからである。


……何故(なぜ)、伯爵が木彫りのフィギュアを

“日本の伝統”だと思い込んで居るのかは、ともあれ――》


「しかし……故郷にあの旅館と似た物を作る計画とはね。


大変だろうが、是非とも頑張って頂きたい

完成する頃には私も是非お邪魔したいと思って居る。


それまでには出歩ける様“リハビリ”を()ねて

今日から敷地内の散歩でも日課にするとしよう!

しかし、新しい旅館とは……本当に楽しみだ! 」


「ええ! ……日本通な伯爵様にお(くつろ)ぎ頂ける様

負けず劣らずな旅館を建てますので楽しみに待って居て下さい!


……さて、そうと決まれば

一刻も早く政令国家に帰らなきゃですけど

いよいよ帰国出来るのかと思うと、若干緊張する反面

皆に会えるのも楽しみだったり……」


「ほう……故郷に良い仲間が沢山居るのだね

とても羨ましい事だし、それはとても稀有(けう)な事だ。


仲間を大切にするのだよ? くれぐれも

仲間を(ないがし)ろにする事の無い様にね」


「はい! ……ではそろそろ俺達は行きます!


サーブロウ伯爵様、突然現れた俺達に対して

何から何まで……有難うございましたッ! 」


此方(こちら)こそ、私の苦しみを(やわ)らげてくれて有難う

また会える日を楽しみにしているよ……では、道中気をつけてね」


「はいッ! 」


《――こうして、伯爵との別れを済ませ

政令国家への帰路に()(ため)

伯爵邸の正門まで戻った一行、だが――》


………


……



「ん? 何か忘れている様な……あッ!!

話に夢中に成り過ぎて“人形”忘れて来ちゃった……」


《――(みずか)らを()した人形(フィギュア)

応接室へと忘れて来た様子の主人公、すると――》


「でしたら私が取ってきますっ!

ちょっと待ってて下さいね~っ! ……」


「えッ?! ちょ……メル!? 」


《――主人公が声を掛けた時には

(すで)に伯爵邸へと走り去っていたメル。


そして、そんな状況を()えて意地悪げに――》


「うわぁ~……転移とか出来るのに

わざわざ女の子に走って忘れ物を取りに行かせるなんて

流石(さすが)は主人公さん、悪いですねぇ~? ……」


《――そう表現したマリアに対し

主人公は――》


「ちょ!? ……そう言う事じゃ無くて!

メルが優しくて行動が早過ぎたってだけで!


……いや、どう考えても俺が悪い。


なんかごめん……後でメルに謝っておくよ」


「え……急に素直過ぎて逆に引きます

それと“ツッコミ”忘れててもっと引いてます」


「何でだよ! って、そう言えば……二つの意味でごめん」


《――などと“じゃれ合って居た”二人

一方……急ぎ応接室へと向かって居たメルは

その途中で伯爵に呼び止められて居て――》


………


……



「ああ、気付いて貰えて良かった!

君が探しているのは“これ”だね? 」


《――そう言うと

“主人公の人形(フィギュア)”をメルに手渡した伯爵。


……これを受け取るとお礼を言い

少し急ぎ気味に今来た廊下を走って戻ったメル

だが、曲がり角で一人の使用人とぶつかってしまい――》


「アイタタタ……って、ごめんなさいっ!!! 」


「ん? 此方(こちら)は問題無いが

貴女(あなた)は怪我などして居ないだろうか? 」


《――そうメルに対し(たず)ねた使用人

彼は片目に眼帯をしており、古傷が多数目立つ

オーク族の男性で――》


「へっ? ……だ、大丈夫ですっ!

本当にすみませんでしたっ! 」


「いや、此方(こちら)こそ申し訳無い

では、仕事が有るのでこれで……」


「は、はいっ! では私も失礼しますっ! ……」


《――その強面な容姿に少し(おび)えつつも

再び一行の待つ正門へと急いだメル。


その、一方で――》


「ううむ……気の所為だろうか? 」


《――彼女(メル)の立ち去った方向に目をやり

幾度(いくど)と無く首を(かし)げつつ

サーブロウ伯爵の元へと向かったオーク族の使用人。


一方、そんな彼の様子を見て居た伯爵は――》


「どうかしたのかね? ……何か悩んで居る様に見えるが」


《――と

(たず)ね――》


「気の所為でしょうが、何か覚えの有る“匂い”がした物で」


「ふむ……それで報告は何だったのかね? 」


「ああ、それを忘れておりました

薪割りは全て終わらせておきました、それと……」


………


……



《――所は変わり

正門へと戻ったメルは、息を切らしつつ

主人公に人形(フィギュア)を手渡すと――》


「もう忘れちゃ駄目ですよっ?

い、要らないなら……そのっ……わ、私が貰いますからっ! 」


《――そう(ほほ)を赤らめながら言ったメル

そんな彼女の様子に――》


「い゛ぃッ?! ほ、欲しいならッ……

そ、その……い、良いけどぉッ?! 」


《――と、顔を真っ赤にしながら(こた)えた主人公の様子に

仲間達は皆笑顔を浮かべ、(なご)やかな雰囲気で

荷馬車へと乗り込んだのだった。


だが……この直後

一行が荷馬車を発車させたその瞬間――》


………


……



「御一行様ッ! ……(しば)しお待ちをッ!! 」


「ぬわぁッ?! って……皆停まってッ!! 」


《――突如として荷馬車の前に飛び出して来たのは

“一番隊の隊長”で――》


「御一行様ッ! 折り入ってご相談……いえ

お願いが御座いますッ! 」


「お、お願いですか? ……一体何です? 」


「私共の管轄(かんかつ)で有る、西地域の長から

“御一行様を城へ招待する様に! ”との命令を受けておりまして

御一行様をお連れしなければ私の首が飛ぶので御座いますッ!

ですのでどうか……この通りッ!! 」


《――そう言うや否や一行に対し土下座をした“隊長”

この、鬼気迫(ききせま)る様子に困り果てた主人公は――》


「わ……分かりましたから取り敢えず頭を上げて下さい!

でも俺達は別に、そんな“お偉いさん”じゃ無いんですけど……」


「了承頂けた? ……お越し頂けるのですか?! 」


「え……ええ、仕方無くではありますが……」


「こッ、心より……感謝致しますッ!!

そうと決まれば……兵達よッ! 長の元へお連れするまでの間

護衛任務を遂行するッ! 状況開始ッ!! ――」


《――直後

何処(どこ)からともなく現れた大量の兵士達。


一行はこの“過剰な警護”と共に

この日から更に一週間を掛け

西地域の長の居城へと向かう事と成った……だが。


“例に()って”


一行は幾度(いくど)と無く

“過剰な警護”の弊害(へいがい)を経験し続け、その度に

旅館で充填された体力を消費し続ける羽目に成ったのであった。


ともあれ……一週間後、(つい)に西地域の長が待つと言う

巨大な城の正門前へと辿り着いた一行。


だが、其処(そこ)で一行を待って居たのは――》


===第八五話・終===

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