第八四話「旅館を楽しむエトセトラ」
《――深夜、悪夢に魘され飛び起きた主人公は
大樹の間を後にした。
そして――》
………
……
…
(……取り敢えず気分転換しないと。
あんな悪夢を連続して見るとか……精神的にも肉体的にも
まだまだ疲れが取れて無いんだろうな……けど
転生前にこんな感覚は無かった様な気がする。
……大切な物が増えるって、怖いんだな)
《――などと考えつつ、気分を切り替える為か
暫くの間、深夜の館内を探索して居た主人公。
すると――》
………
……
…
「……こ、これはッ?!!
ど、何処からどう見ても“甲冑”と“日本刀”じゃ無いかッ!
シゲシゲさん、一体どれだけの知識を
この旅館に生み出したんだろう? ……ってまぁそもそも
甲冑にしても日本刀にしても作れる人が居る事自体が凄いな。
何れにしても凄まじい出来の良さだ……」
《――展示されたの甲冑と日本刀を眺めながら
そうボソボソと独り言を発して居た主人公……だが
そんな彼の背後に忍び寄った謎の影に――》
「うむ! ……そうだろう! 」
「ひぃッ?! ……ぬわぁッ!? 」
《――突如として背後から声を掛けられ
驚いた主人公はその弾みで盛大に転んだ。
直後……ぶつけた箇所を擦りつつ慌てて声の方に目をやると
其処に立っていたのは
彼を心配そうに見つめるドワーフ族の男で――》
「……だ、大丈夫かねっ!?
“技術”を褒められた物で嬉しくなり
つい声を掛けてしまったのだが……驚かせて済まなかった! 」
「イテテ……い、いえいえ!
こんな夜中に彷徨いてる俺が悪いんで……って
この甲冑と日本刀……もしかして貴方が作ったんですか?! 」
「うむ、如何にも! ……ん?
御主今何といったかね?! 何故正式名称をッ?!
っと……失敬失敬
よく見ればシゲシゲと同郷の御仁であったか! 」
「え、ええ……それで、この甲冑と日本刀ですけど……」
「おぉすまなかった! ……如何にも!
作ったのは儂を含めたドワーフ族じゃが
流石シゲシゲと同じ場所を故郷に持つ転生者じゃよ
この作りの良さが分かるとは……見る目があるのぉ? 」
「ええ、流石ドワーフ族です! ……と言うかそうなると
もしかしなくても、建物自体もドワーフ族の手に依る物ですよね?
その……俺の故郷である政令国家にもドワーフ族が居るのですが
こう言う数々の素晴らしい技術を見せたら
きっと彼らの創作意欲に火がついちゃうと思います! 」
「ほぉ、嬉しい事を言ってくれる! ……しかし。
……ドワーフ族に其処まで詳しいと言う事は
御主は故郷のドワーフ達と相当に仲が良いと言う事じゃな?! 」
「……ええ、俺自身も幾度と無く色んな物を形にして貰いましたけど
何かを作る時にはまずドワーフ族に相談するのが一番ですし
“ものづくり”とは切っても切り離せない程重要な種族かと思います。
……それに、突拍子も無い俺のアイデアを
形にする為に必死になってくれる度量の“デカさ”も
ドワーフ族の素晴らしい所じゃないかと思ってます! 」
「ほぉ~っ!! ……御主
皆が警戒する程恐ろしい者では無さそうじゃな!
気に入ったッ! 儂の方からも
シゲシゲに良く言っておこうではないか! 」
「ほ、本当ですか?! ……有難うございますッ! 」
「構わんよ! ……引き続きゆっくりと見て回ってくれて構わん!
ドワーフ族の技術に感動するが良いぞ~!! ……」
《――そう言い残すと満足げに立ち去って行ったドワーフ族の男
主人公は終始笑顔で彼を見送った……だが
この時、彼が少しばかり大げさにドワーフ族を褒め称えた事
その行動に“何らかの狙い”が有ったのか……それとも
政令国家を離れ、久し振りに出会ったドワーフ族に
唯“懐かしさ”を感じての事だったのか。
……その真意がどうであれ
この後も旅館の探索を続けた主人公は
気分も落ち着いたのか、部屋へと戻り
再び眠りに就いたのだった――》
………
……
…
「……おはよう皆ッ!
俺、昨日旅館内を探索してみたんだけどさ!
この旅館にはどうやら“卓球”と“ビリヤード”があるんだよ! 」
《――翌朝
皆に対し興奮気味にそう話した主人公
だが、そんな彼に対しガルドは――》
「成程……深夜に抜け出して居た理由は“探索”であったか
楽しむのは良いが、睡眠は足りて居るのか?
余り無理をしてはいかんぞ? 」
《――そう言って彼の身を案じた
一方、主人公は――》
「えッ!? ……さ、流石だなガルド! バレてたとは!
何だかその……そう!
日本的な物が大量にある空間に興奮して寝られなくてさ!
モヤモヤしてたらふと思い立って……それで
この旅館に“ゲーム的な物が無いか”が気になり始めてさ!!
そッ、それでその……」
《――しどろもどろに成りつつも
必死に体裁を整えようとして居た。
だが、更に――》
「主人公よ、多くは語らずとも良い……だが
辛ければ吾輩達に頼るのだぞ? 」
《――まるで、全てを見透かして居る様にその身を案じたガルド
直後、そんな彼の優しさに対し小さく御礼を言いつつも
僅かに罪悪感を感じて居るかの様な表情を浮かべた主人公。
……そんな彼の独特な雰囲気に場の空気が重く成り始めたその時
鬱屈としたこの空気を吹き飛ばすかの様に――》
「って言うか……卓球とビリヤードがあるんですよね?!
皆でその場所に行きましょう!
なんとしても早くやりましょう!
此処の所オセロすら出来て居なかったので
正直“遊びたい欲”が爆発気味です!! 」
《――と、目を輝かせ語ったマリア
一方、そんな彼女の明るく無邪気な様子に――》
「マリアは本当に……安定だな! 」
「ええ! 安定の美女でしょ? ……えっへん! 」
「なッ?! ……い、いやまぁ実際美人だし
全然否定出来ないのも腹立たしいけど……って、兎に角!
そう言う事なら皆で遊びに行くぞ~ッ! 」
《――心の底から救われた様な表情を浮かべた主人公は
照れ隠しをしつつも皆を引き連れ
“遊戯部屋”へと向かったのだった。
だが、仲間達が大いに楽しむ一方で――》
………
……
…
「さん……主人公さんってば!! 」
「ぬわぁッ?! って、ごめんマリア……何だ? 」
「……何ボーッとしてるんですか?
考え事なら後にして下さいよ~!
遊ぶ時間はちゃんと遊ばないと~! 」
《――子供達を含め
皆が久し振りの息抜きを楽しんで居た中
主人公だけは尚も
“心此処に在らず”と言った様子で――》
「ああ、でもその……」
「あ゛~もう! 悩み事なら今直ぐにハッキリと言って下さい! 」
「分かった……じゃあ、言うけどさ
やっぱり俺、我慢出来ないよ……」
「……えっ?
ま、まさか……ついに私に対して
“エッチな本”的な事をしたい的な気持ちが
全然抑えられなく成ったとかですか?! 」
「そうそう……って違うわ!!
取り敢えずその……この内容は子供達には聞かせたく無いし
あと、この世にある全ての物に誓って
“そう言う事”じゃ無いって誓うから……数分だけで良いんだ
遊び時間を削るのは申し訳無いけど
一旦、二人で話す時間を作ってくれないか? 」
「……其処まで否定されると何かムカつきますけど
良いですよ? ……どうせ“例の話”でしょうし! 」
「えッ? ちょ何故に半ギレ?
てか、そんなに嫌なら別に遊んだ後でも……って、ちょッ?!
おいマリア! 待てって! ……」
《――直後
不機嫌極まる様子でこの場を後にしたマリアを追い掛け
慌てて遊戯部屋を後にした主人公は――》
………
……
…
「ここなら人も来ないでしょう……で、話って何ですか? 」
「何でそんな半ギレ……ってそれは置いといて。
……さっきの口振りから察するに
マリアは俺が聞きたい事に気付いてるのかも知れないけど
一応聞くよ……この世界って
“俺以外の転生者は転生出来ない”筈じゃ無かったっけ?
“偽神の村”でもそうだったけど
話を聞く限りではこの温泉旅館もそうだろ?
何でこんなに転生者だらけに成ってるんだ?
ルールが其処まで勝手に変わる事とかあるのか? 」
「やっぱりその話でしたか……
……“半ギレしてる理由”と共にお話します」
「いや、半ギレの理由は別に……」
「良いから黙って聞いて下さい……先ず
“何故か転生者がこの世界に続々転生して居る問題”については
正直、私にも分かりません、本来ありえない現象ですから。
それと……半ギレの“内訳”もお話します。
一つ目は……久し振りの息抜きなのに
“心此処に在らず”な主人公さんに対してが一つ。
次が……これも実は
“転生者続々問題”についてなんですけど
そもそもで言えば“偽神村”の人達もそうですし
この旅館の人達もそうですけど
いつの間にか勝手にこの世界に転生してる挙げ句
謎に凄まじい特殊技能を持って居るのが
意味不明過ぎてずっとイライラしては居たんです。
……唯、今の所どちらの勢力も
悪事に使ってる様子が無いので良いですけど
今後、そう言う勢力が出て来る可能性も捨てきれませんし
そうでなくても主人公さんは“巻き込まれ体質”ですし
平和に暮らしたいって考える主人公さんの
邪魔をする人ばかり出て来るし、ついこの間だって
危うくマリーンさんを失う所でしたし……正直
そんな主人公さんについて来た私も
悪意のある人達に邪魔され続けてる事にイライラしてて
だから、主人公さんが言う“半ギレ状態”に成ってるんです。
……分かりました? 」
「成程……知らない内に相当苦労掛けてたんだな
本当にゴメン……てか、転生前
俺が“人生初告白”した程に重要な筈の相手なのに
転生してからずっと邪険に扱っててゴメン。
俺って色々と駄目なのかも知れないな……本当にごめん」
「告白問題と私を邪険に扱ってる事については
然程気にしてませんけど……“色々と駄目”って、何がですか? 」
「いや、ね……サーブロウ伯爵と実際に会えたり
この旅館に辿り着けた事で“旅の目標”みたいな物が
何とは無く達成出来た事は嬉しいんだけど、同時に
“嗚呼、これで政令国家へ帰れるんだ”って
何と無く漠然とした喜びみたいな感情もあってさ……
……けど、実際直ぐには“帰れない”だろ? 」
「アリーヤさん達の件ですか? 」
「ああ……約束した以上、責任を持って
アリーヤさん達が平和に暮らせる場所を見つけなきゃなのに
それすらまだ全然見つけられて無い事が不甲斐無くてさ。
それで……東地域ではゴブリン族に関して
“脅威”とすら感じて無かった様子だったから
もしかしたらこの国こそがアリーヤさん達が暮らせる
“平和な国”なのかと思ってたんだ……けど。
旅館に到着した日には凄く“怖がられた”でしょ?
だから俺、分からなく成って……本当に約束した通り
アリーヤさん達を平和な国につれて行く事が出来るのかって
もしかしたら俺は“出来ない約束”をしたんじゃ無いのかって。
でも、そんな俺の事をアリーヤさん達は
凄く信頼してくれてて……」
「あの……主人公さん?
半ギレが“全ギレ”になりそうなんですが……
……余りにもマイナス思考が酷過ぎません? 」
「い、いや……だってこのままじゃ
アリーヤさん達を無駄に連れ回して
疲れさせて、嫌な思いをさせて……チナルの時みたいに
“隠れさせたり”とかさせてさ。
……それだって毎回上手く行くとは限らないし
もし、今回みたいに毒物に成る様な物を……」
「あ~……“全ギレ”確定ですね。
じゃあ言いますけど? ……今までどんだけ無茶な解決方法で
ワケ分からない状況を解決して来ましたっけ?
それって、今みたいに悩んでる余裕ありましたっけ?
……王国時代に私達と離れ離れに成って
一人で魔族に囚われてた時も
固有魔導を手に入れた時も、余裕ありましたっけ?
ディーン隊の皆さんから
“呪い”を消し去った時、余裕ありましたっけ?
基本的に今まで、唯の一度でも余裕なんてありましたっけ?
と言うか、マイナス思考ばっかり垂れ流さないで下さい!
主人公さんはずっと事ある毎に
“不甲斐無い不甲斐無い”って言い続けてますけど
今までそれだけ余裕が無くても
沢山の人達を助けて来られたんですよ?
別に“楽天的に考えろ”とは言いませんけど
折角イケメン顔とチート能力を手に入れてるんですから
もっとイケメンチートな主人公さんで居てくれませんか?
……私がボケたら鋭いツッコミを入れ続けて下さい
メルちゃんが照れる様な事を定期的に言って下さい
いつも強気なマリーンさんが弱った時には
全力で支えてあげて下さい……マギーさんだって
実は弱い人なんですからちゃんと支えてあげて下さい
ガルドさんにこれ以上気を使わせ過ぎないで下さい。
何よりも……もっと皆を“信用して下さい
皆さんに助けられた事だって数多くあった筈です
でもそれは、そもそも主人公さん“が”
彼らの事を助けたからなんですよ?
……大体、一度主人公さんが“助ける”って言い出したら
毎回ちゃんと、どんな手を使ってでも
最終的に助けられるじゃないですか?
だから、今みたいにグダグダ言わずに
何時も通り“おっかなびっくり”
“あたふた”しながら過ごしてたら良いんです。
……分かりました? 」
「ああ、本当にすまなかった。
……今日辺り一人で温泉に浸かって
俺の腐り掛け……いや、腐った考えを“浄化”するよ。
何だかいろんな事が多過ぎて
変な方向にばかり考えが偏っちゃったみたいだ
本当にゴメンな……あと、マリア」
「何ですか? 」
「もっとマリアが盛大にボケられる様に
俺はこの世界で最強のツッコミマシーンを目指すよ。
それと、この世界で最も
メルを照れさせる存在に成れる様に努力してみるし
マリーンの弱さに気付き補いつつ
リーアの事も支えるし
ガルドが頼ってくれる位の男になる。
これから先、何があっても仲間だけは信じ続られる様
その為の努力を惜しまないって誓うよ」
「うわ~“クサいセリフ”ですね~……ま、嫌いじゃないですけど!
さてと……落ち着いたなら遊戯部屋に戻りません? 」
「ああ、済まなかった……“変な噂”が立つ前に急いで戻ろうか」
「なんか其処をそんなに拒否されると
逆にムカつくんですけど……まぁ良いです」
《――この後、遊戯部屋へと戻った二人
一方……そんな二人をこっそりと覗き見ていた若女将エリアスは
暫くの後、複雑な表情を浮かべつつ
静かにその場所を後にしたのだった。
ともあれ……遊戯部屋での息抜きから数時間後の事
マリアとの約束を護る為か
目を閉じたまま温泉に浸かり、宛ら
瞑想の様な事をしていた主人公。
だが、そんな中
彼の元へと現れた一人の男は――》
………
……
…
「……風呂で“寝る”のはあまり感心しないな
最悪“命を失ってしまう”事もあると聞くぞ? ……」
《――そう声を掛けた
直後、慌てて目を開けた主人公は――》
「ぬわぁッ?! って……ボルグさん!?
そ、その……ご、ご心配をおかけしましたッ! 」
「いや、その様に謝られても困るのだが……ゴホンッ!
時に主人公さん……本来、この時間に従業員は風呂に入らないのだが
私は君と話をしてみたかったから敢えて此処に居る。
……何故かは分からないが
今この瞬間、君に対しては全てを正直に言うべきだと感じたので
包み隠さず訊ねるが……これから私は君に対し
“試金石”代わりの質問を幾つか出そうと思って居る。
迷惑でなければ答えて貰えるだろうか? 」
「ええ、答えられる範囲の内容なら出来る限り答えます」
「それで充分だ……では訊ねる。
……君は相当な力を持って居る様だが
その“指輪”で抑えているね?
外して問題が起きないのであれば、外して貰えないだろうか? 」
「ええ……分かりました」
《――直後
減衰装備を全て外した主人公、すると――》
「成程……これ程ならば抑えたくも成るだろう。
差し詰め――
“軽く放った技が壊滅的被害を引き起こすと困るから”
――それ故に付けて居るのだね? 」
「びっくりする程、その通りです」
「ふむ……では次の質問だ、君は何故
その強大な力を利用し自らの望み通りに事を運ぼうとしない?
シゲシゲに対してもそうだが
恐らく君はそう出来る程度の力を持って居る様に思う。
……私が“シゲシゲ側”の存在だからと言って変に言葉を飾らず
気を使わず、君らしい言葉で……嘘偽りの無い真実を話して頂きたい」
「言葉を飾らず……ですか。
ではハッキリと言いますが……俺の経験上
“抑え付けられると辛くて悲しいから”……ですかね? 」
「……成程、嘘偽りの無い言葉だ
では……もう少し答えるのに難しい質問をさせて貰おう。
シゲシゲは元の世界で、風呂に入り死亡し
私達の居る世界へと転生したそうだ。
……その後、私達の世界に転生した彼は様々な知識を活用し
この旅館よりも小規模ではあったが、これに似た物を作り上げ
最終的には“電気風呂”成る物を作った。
だが、其処へ皆で入ったが最後
皮肉な事に“落雷”で皆この世界へと転生させられたのだ。
其処で質問だ……君はシゲシゲに対し
“この世界は自分が作り上げた”と言ったが
君では無い男が私達を此処に飛ばし
少々無礼な態度で、説明も殆どせず
此処での生活を強制した。
もし、君が本当にこの世界を作った本人だと言うのならば
あれは君の“部下”だとでも言うのかね? 」
「いえ……恐らくはこの世界の“管理者”か何かですね。
この世界は間違い無く
俺とマリアが一から作り上げた
とても手間の掛かった世界です。
俺自身は“異世界転生って楽勝だと思ってました”けど
人生って予定通りには行かない物で
上には上がいると言うか、完璧って意外と難しくて……
……他に質問はありますか? 」
「いや……質問は以上だ」
《――そう言うと
暫くの間主人公を見つめて居たボルグ
そして――》
「さて……此方も質問を受けよう
三つまでならば答えよう」
「“何でも”ですか? 」
「いや……君と同じく
答えられる範囲の内容なら、出来る限りは」
「では、一つだけ……エリアスさんが言い掛けて濁した
“例の本”って何ですか?
あんなに慌てて居なく成る位なので、恐らく
皆さんに取っての“最終兵器”みたいな物なんでしょうけど
興味本位の質問なので、無理にとは言いません。
……聞きたい事はそれ位です」
「最初から最も答え辛い事を聞くのだね?
だが、敢えて答えられる範囲で答えよう。
……表紙には“白羊宮之書”と書かれている
内容は彼女が言った事とさして変わらない
この旅館に有る物や食事の半分はあれを使い作り出した物だ。
先頃問題を引き起こした“納豆”もだが、あの本が無ければ
此処までシゲシゲの思い通りに
旅館を作る事は出来なかっただろう。
唯申し訳無いが
流石にこれ以上は説明を差し控えさせて頂く。
……理解して貰いたい」
「ええ、それは勿論ですけど……白羊宮?
何と無く“黄道十二宮”に由来してるみたいですけど……
って……あッ! まさかあの“上級管理”……」
《――主人公が其処までを口にした瞬間
突如として世界の時間は停止し――
“其処までだ、その話を続けるつもりなら……許さないよ? ”
――直後
聞き馴染みのある声が彼の脳に響いた。
声の主は言うまでも無く
たった今、主人公が思い浮かべた存在
“上級管理者”の物だった――》
「ああ、これは駄目な方の話だったのか……直ぐにやめるよ
唯……一つ質問してもいいか? 」
「何だい?“答えられる範囲で”……答えてあげようか? 」
「酷い皮肉屋だな……兎に角、質問だ
この旅館の人達をこの世界に飛ばしたのはお前か? 」
「いいや? 僕じゃない……元管理者の“ヴィシュヌ”君さ
これ以上は答えたくないから答えない! ……またね! 」
《――そう言い残し“上級管理者”が消え去った瞬間
再び世界の時間は動き始め――》
………
……
…
「……兎に角、この話はやめておきましょう!
要するに“凄い物を持ってる”って事で!
けど、そんな本なんかよりも
俺は、シゲシゲさん自身の知識量が半端無いんだと思ってます
どれ程道具が凄くても使う人が駄目だと
結局の所無意味になりますし……」
「あ、ああ……それはそうだが……」
《――この後、不自然に話を切り上げた主人公だったが
特に責める事もせずこの話を終えたボルグ
彼自身も“あまり掘り下げて欲しい内容では無かった”のか
この瞬間、二人は互いに
“事なきを得た”と言わんばかりの表情を浮かべて居たのだった。
……ともあれ
この日から数日後の夕方――》
………
……
…
「……明日の朝、シゲシゲから皆様にお話が御座います。
お話の結果がどうであれ、皆様の記憶改竄は致しません。
唯、何れにしろ
この旅館の内部事情を他でお話しにならない様
それだけは切にお願い致します」
《――そう言って深々と頭を下げたエリアスは
一行がこれを受け入れた事を確認すると感謝を伝え部屋を後にした。
そして、翌日――》
………
……
…
《――早朝
誰よりも早く目覚めて居た主人公は
身を清める為か、温泉へと向かい寝汗を流した後
天を仰ぎ――》
「この世界に神様が……
……もし、居るのならば心の底からお願いします。
もし、シゲシゲさんから俺が望む情報を教えて貰えたなら
その情報が悪い輩に悪用される事の無い様、そして
皆が幸せに使える様、出来る限りのお力添えを俺に下さい。
もし、教えて頂けなかったとしても……せめて
シゲシゲさんの悲しむ様な事態が起きぬ様
彼らの事を……彼らの暮らしを、どうかお護り下さい」
《――そう
祈りを捧げて居た――》
===第八四話・終===




