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異世界転生って楽勝だと思ってました。  作者: 藤次郎
第三章

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第八十三話「到着したら楽勝でしたか? ……」

《――“謎発言”に悩んだ(すえ)、思い切ってツッコミを入れた主人公。


すると――》


………


……



「ん? ……そうじゃったそうじゃった!

孫もそう言っておった様な気がするわぃ! ……それにしても。


エリアスさんや……

どうやらこの若者は警戒するべき相手では無い様じゃよ?


と言うか、ワシと“同郷”の様に感じるのじゃがのぉ……」


《――と、茶を(すす)りつつのんびりとした口調でそう言ったシゲシゲ。


一方、この発言にエリアスは飛び上がり――》


「!? ……と言う事は、この方も

シゲシゲと同じ“転生者”って事ですかっ?! 」


《――取り乱しつつそう(たず)ねた。


……だが、彼女以上に取り乱していたのは主人公であった。


そうではないかと睨んでいた“シゲシゲ”以外の口から

“転生者”と言う単語が発せられる事などまるで予測していなかった主人公。


(はや)る気持ちを(おさ)え、小さく咳払(せきばら)いをすると――》


「あの~エリアスさん……皆様もですが……」


「は、はいっ! 何でしょう!? 」


「その……さっき俺が“シゲシゲ”さんと一対一で確認したかった事って

“それ”の事です……」


《――(ひど)く気疲れした様な表情でそう言った主人公に対し

エリアスは――》


「と言う事はやはり、貴方様も転生者と言う事ですか!? 」


《――と、興奮気味に(たず)ねこれに(うなず)いてみせた主人公。


一方でこの様子に少し安心した様子のシゲシゲは――》


「やはりのぉ……妙だと思ったのじゃよ。


伯爵は真面目な男じゃし、(いく)ら金を積まれた所で

約束を破る様な不届き者でも無い筈じゃし

そもそも……伯爵は大金持ちじゃしのぉ? 」


「ええ、(おっしゃ)られる通りです。


突然の訪問者で有るにも関わらず俺達を厚遇(こうぐう)して下さいましたし

その上、帰り際には絵本を“全巻セット”で頂きまして……」


「何と?! ……多かったじゃろう? 」


「え、ええ……ちょっとだけびっくりしましたけど

でも“運べないかも”と伝えたら荷馬車ごと頂けたので

母国に帰ったら是非とも図書館に収蔵して頂き

大切に扱わせて貰おうかなと思ってます! 」


「ふむふむ……して主人公さん。


……ワシに(たず)ねたい事とは何なのじゃね? 」


「えっと……今日お(たず)ねした理由ですが

シゲシゲさんの持つ“転生前に得た知識”をお聞きしたくて。


……正直、俺の知識だけではこの世界に生み出す事が不可能な物が多く

例えば……納豆とかもそうですけど

菌類とかが必須な物とかはちょっと難しいかなって思うんです。


けどやっぱり食べたいですし……でも

大豆自体をこの世界で見た事が無くて……」


「ふむふむ……要するに

ワシの知識を使って“故郷の味を楽しみたい”と言うのじゃな? 」


「はい! ……駄目でしょうか? 」


「いいや? ……構いませんぞぃ?


そもそもこの旅館では、利用客らに対し

主人公さんの望む“納豆”以外にも日本食を提供しておるんじゃよ? 」


「本当ですか?! ……では是非!! 」


「提供しては居る……じゃが、主人公さんに一つお願いが有るのじゃよ」


「お願い……ですか? 」


「うむ、他言無用を頼みたいのじゃ……製造方法も、正式名称も含めてのぉ」


《――此処(ここ)まで好好爺(こうこうや)と言った様子のシゲシゲだったが

この時だけは主人公に対しとても真剣な表情でそう要求し――》


「……そう言えば

サーブロウ伯爵も“そう頼まれた”と(おっしゃ)ってましたけど

何故に其処(そこ)まで日本的な物を隠す必要が?


そもそも本気で隠したいならこの旅館自体が一種の“広告塔”であって

玄関口でも感じましたけど……とっても繁盛してますし

少なくとも(ウワサ)位は流れててもおかしくないですよね?


……此処に来れば食べたり経験したり出来るのに

正式名称や製造方法を隠す理由が有るのかが俺には分からないんですが

もしご迷惑でなければ、詳しい理由を教えて頂けませんか? 」


「ふむ……では一つ(たず)ねるが、主人公さんは

元の世界での記憶を使って害が()った事は無いじゃろうか? 」


「害……ですか?


()った様な無い様な……でも

仮に何かしらの害が()ったとしても覚えてない位ですし

それを上回る人々の笑顔に()ったので

俺自身は別に転生前の記憶を隠す必要を感じた事は無いですかね……


……経験談には成るんですが

服飾や遊び関連は隠す必要性を感じなかったです」


「ふむ……主人公さんはそうだったのじゃろうが

ワシにはそう思えない程の経験が有るのですじゃよ……時に主人公さんや」


《――と(たず)ねられ“何でしょう?”と聞いた主人公に対し

ある“とんでも無い”質問をしたシゲシゲ――》


………


……



「……主人公さんはこの世界が“何回目の”転生ですかのぉ? 」


「何回って一回目で……って?!

も、もしかして……シゲシゲさんは複数回転生を?! 」


「ええ……この世界で二回目の転生ですじゃ

一度目は元の世界で風呂に入り、例のヒートシンク……いや

“ショック”で転生しましてのぉ……


……エリアスさんに助けられ、何とか生き延びたのじゃが

助けられてばかりでは申し訳無いと思い

せめてワシが持つ知識を役立てようと

様々な種族の協力を得て色々な物を作り出したのですが

良からぬ(やから)にその成果を奪われかけた結果、争いが起きたのじゃ。


とは言え、ワシらには被害など(ほとん)どありませんでしてな……」


「へっ? なら別に問題は無い様な……」


「主人公さんや……命と言う物をとことんまで単純に見た時

ワシとボルグ殿には何か差がありますかな? 」


「へっ? いえ、差は無いと思い……」


《――其処まで答え掛けた瞬間

主人公は(シゲシゲ)の質問の“真意”に気が付き口(ごも)った。


そして、そんな主人公に対しシゲシゲは――》


「……ワシの知識を利用し、とある武器を作り出したんじゃが

それにって圧倒的有利な戦いと成った一方

敵対した者達であったとは言え、多数の人命が失われてしまいました。


ワシは……もう金輪際(こんりんざい)あの様な惨状(さんじょう)を目にしたく無い

要らぬ争いが起こる位ならば誰にも伝えぬ方が良い。


……そう考えたのですじゃ。


そもそも、主人公さんの(おっしゃ)るこの旅館で得られる知識も

詳しい方法は説明出来ませんが、エリアスさんの魔導にって

利用者の記憶を少し(かい)ざんする事で

此処(ここ)でのみ”楽しめる様にしておりますからのぉ。


……唯一(ゆいいつ)の“例外”は伯爵だけですぞぃ? 」


「記憶の(かい)ざんはちょっと怖いですけど……そう言う事でしたか。


シゲシゲさんのお気持ちも痛い程理解出来ました……けど。


それでも俺は諦めません」


「ほう……無理矢理にでも情報を()かせるつもりですかのぉ? 」


「……いえ、そんな事はしませんし

そんな風に聞こえたならきっと俺の言い方が不味(マズ)かったんだと思います。


そうでは無く……今から俺がシゲシゲさんに対し

“沢山の真実”をお話します……それを聞いた後で

“まだ意見が変わらない”と(おっしゃ)るのでしたら

これ以上シゲシゲさんに対し何もお(たず)ねせず

俺は素直にこの旅館から立ち去ります。


(ただ)……仮にそうなってもせめて俺達の知識は消さないで下さい。


シゲシゲさんの様な方を忘れるのはとても寂しい事ですから……


……それと、もし去る事に成っても

その前に納豆とかたこ焼きとか日本食だけは食べさせてください。


せめてもの思い出に……(しっか)りと味わいたいんです」


《――そう伝えた主人公の顔を真剣な面持ちで見つめて居たシゲシゲ。


暫くの沈黙が流れた後

シゲシゲは“話を聞く事を”了承した――》


………


……



「……有難うございます。


ではまず、俺が転生した時のお話を……」


《――そう言うと

シゲシゲを含む旅館側の面々に対し


この世界が自らの作り出した異世界で有る事や

本来、他の転生者が転生出来る世界では無い筈だと言う事


……転生後、圧政(あっせい)()いて居た国家の形を

主人公自身が考えうる限りの理想形へと作り変えた事


……その際に(もち)いた知識は

間違い無く“転生前の世界で得た物”であった事。


とは言え、争いが全く無かった訳では無い事……


……だが、人々の暮らしを平等で豊かな物にする為

決して諦めはしなかったと言う事。


それでも……結果として、(みずか)らの存在が原因で国を二分にぶんさせ掛けたが(ゆえ)

冷却期間を置く為として、そして……(いず)れ帰国した際

旅の中で手に入れた新たな知識をさらなる国家繁栄に役立てる為

旅を続けて居るのだと言う事。


何よりも……旅を続けられた原因こそ

シゲシゲが“例外”と言った“伯爵”の執筆した一冊の絵本であり

それだけを頼りに奇跡的な確率でこの旅館までたどり着けたのだと言う事。


主人公(かれ)は……彼自身の“経験”と言う

“沢山の真実”の良しも悪しを一切隠す事無く全て伝えた。


そして……その全身全霊の発言を

終始真剣な面持ちで聞き続けていたシゲシゲは……この直後


一つの“答え”を出した――》


………


……



「主人公さん……申し訳無いが

貴方に対し、ワシの有する知識を教える事は……出来かねる」


《――主人公の目を見つめ静かにそう言ったシゲシゲ


一方、肩を落とし――》


「はい……無理を言ってすみませんでした」


《――と、(いさぎよ)く諦めた主人公

だが――》


「待ちなされ……まだ話は終わっておらんぞぃ?

ワシは判断を急ぐのが何よりも嫌いなのじゃ……」


「ど……どう言う事ですか? 」


「……ワシには主人公さんが(よこしま)な考えを持っている様には見えぬ。


じゃが、ワシ自身の経験から考えれば……何を言われようとも

安易(あんい)に知識を(ゆず)る事に恐怖を感じてしまうのも事実じゃ。


要は……“直ぐには判断が下せぬ”問題なんじゃよ。


ですから……もし急ぎの旅で無いのならばワシが答えを出すまでの間

この旅館に一週間程滞在して貰えんじゃろうか?


勿論、此方(こちら)から頼むのじゃから

滞在費用も食事費用も一切頂きません……そう言う事でどうじゃろうか? 」


「ほ、本当ですか?! ……って、は……はいっ!!

勿論……(いく)らでも待ちます! 」


「いやいや……余り喜び過ぎんでくだされ。


“ぬか喜び”に成った時が申し訳無く思いますしのぉ……兎に角


……早速ですが当旅館を目一杯満喫し

長旅の疲れを癒やして貰えればと思っておりますぞぃ。


部屋はここで構いませんかな? 雑魚寝に成るかも知れませんが……」


「雑魚寝ですか? ……(むし)ろ大歓迎です!

此処の所ずっと荷馬車で寝泊まりだったので体中が痛くて……」


「それは大変でしたのぉ……」


《――シゲシゲはそう言うとエリアスに合図を送り

一方のエリアスは魔導通信を(もち)い何処かへと連絡を入れた。


一瞬警戒し聞き耳を立てた主人公だったが

どうやら一行の食事を用意させる為、厨房へ連絡を入れただけの様だった。


ともあれ――》


「その……大変申し訳無いのですが

皆様全員分のお食事をご用意させて頂くに当たり

少々お時間を頂く必要が御座いまして……」


《――そう申し訳無さそうにエリアスが言うと

主人公は――》


「……そんな事気にしないで下さい!

お風呂で時間は潰せますし……と言うか伯爵から聞かされた時から

ず~~~っと! 温泉に入りたくて入りたくてウズウズしてたんです!

長旅の疲れが癒されるんじゃないか~なと!


……正直、超絶(ちょうぜつ)期待してますッ!! 」


《――エリアスに対する“気遣いのつもりで言った”と言うよりも

(ただ)温泉に入りたい”だけな様子の主人公に

此処(ここ)まで一行を警戒し続けていた筈のエリアスも流石に――》


「ふふっ♪ ……ハッ?! し、失礼致しましたっ!


ゴホンッ!! ……とっ、当旅館の温泉はとても良質でして!

効能は、疲労回復に魔導力の回復……各種怪我や持病の治癒

それから、邪気払いに悪霊退散や浄化に金運上昇に合格祈願に家内安全……」


《――と、熱心に温泉の効能を説明し始めたエリアスだったが

説明を聞く主人公の顔は段々と(けわ)しくなり始め……


そして――》


「あ、あのッ!! ……ひ、一つ良いでしょうか? 」


「はいっ! ……何でしょう? 」


「途中から完全に“神社”みたいな効能に成ってませんか?

合格“祈願”って言ってましたし……」


「そう言われましても……全て

実際に効能として認められている物ですから……」


「そ、そうなんですか……ま、まぁ!

合格“祈願”するもしないも本人次第ですもんね!

そ、その変な質問をしてしまってすみませ……って!!


……あッ!!! 」


「ななな……何でしょうかっ!? 」


「あの……サーブロウ伯爵から“混浴”について(たず)ねられたのですが

もしかしてこの旅館ってその……」


《――そう(たず)ね掛けた主人公……だが、何を想像したのか

質問の途中、突如として顔を真赤にしたかと思うと――


“こ……この質問無しで!! ”


――と(うつむ)きながら言い放ったのだった。


一方、そんな彼に対し――》


「……何やらとんでも無くよこしまな気を感じましたが

それは兎も角としまして……混浴は御座いますよ?

男風呂・女風呂・混浴風呂と三種類御座いますので

どれでもお好きな物をご利用頂ければと思います」


《――心做(こころな)しか少々冷たくそう答えたエリアス。


と同時に、主人公に対する女性陣からの視線は厳しくなり始め――


“あっ! ……いつもの事ながら、エッチな事を想像してますね? ”


――と、マリア


“わ……私以外で興奮したらゆ……許さないから! ”


――と、マリーン


“ワタシは喜んで御一緒しますワネ♪ ”


――と、マグノリア


“そ、そのっ……主人公さんがどうしてもって(おっしゃ)るなら

わ……私っ! ……はうぅぅ……”


――と、メル


“全く! ……子供達の居る場で何て話をしてんだいッ!! ”


――と、アリーヤに責められたのであった。


そして、そんな様子を見ていたシゲシゲは――》


「……ホッホッホ、主人公さんはおモテに成られるのですなぁ

ですが、他のお客様も居られますから部屋の外では“程々に”ですじゃよ?


さて……そろそろワシ達は失礼しますぞぃ」


《――そう言い残すと

エリアス達を連れ大樹の間を後にしたシゲシゲ


一方――》


………


……



(……最悪だ。


扉が閉まる直前、完全にエリアスさんに

(けが)らわしい物を見る様な目で”見られた……


“誤解だ! ”


……って言っても絶対に信じて貰えなさそうな状況過ぎて辛い)


「とっ……取り敢えずッ!

おっ、男は男風呂ッ! ……女性は女風呂って事で良いよね?! 」


《――と、一瞬にして失った“何か”を挽回(ばんかい)する為か

声を裏返らせつつ妙なテンションで皆に対しそう言った主人公。


一方、そんな“苦しい”主人公(かれ)をフォローするかの様に――》


「……正直、流石の吾輩も少々疲れが溜まっていた所だ。


エリアス殿の言った効能が真実ならば

この旅館滞在中に疲れなど全て消え去るだろう。


それに……“浄化”とも言っていた筈だが、あれも真実であるのならば

長い旅の中、少なからず皆の心に溜まっていたであろう

鬱屈(うっくつ)とした気持ち”すらも“浄化”してくれるに違いないだろう。


そして主人公よ……たとえシゲシゲと名乗るあの老人が

御主の望み通りの結論を出さずとも

せめて滞在中は懐かしさに(ひた)れる事だろう……


……是非とも吾輩に御主の世界の事、色々と教えて貰いたい」


《――そう言って微笑(ほほえ)んだグランガルド。


そんな彼の気遣いに――》


「ああ! ……って言うか本当に何時も色々とフォローありがとうな

正直毎回半端無く助かってる……っと!


……ガルドの言う通り、温泉の効能で心も体も完全回復して

新しい心と体で帰国出来る様にしようッ! ……」


《――この後


各自“性別毎に別れ”一見怪しい効能の多い温泉を楽しんだ一行は

長旅の疲れを湯に流し、()き物の取れた様な表情で大樹(たいじゅ)の間へと戻った。


一方……部屋ではエリアスが仲居達と共に食事の準備を行っていた。


……だが、配膳された料理の組み合わせが

明らかに“妙”で有る事に気がついた主人公は――》


(……な、何だ? この変な組み合わせ。


懐石(かいせき)料理に“たこ焼き”と“納豆”……まぁ

納豆は其処までの違和感は無いけど……もしかして俺がした話の所為か?


気を使って貰ったっぽいし、俺個人としては有り難いけど

納豆だけは“ミカドさん”の事もあるし

一応食べる前に好みとかも含めて皆に説明した方が良いかも知れないな……)


《――などと考えていた。


だが……この直後


“好み”などと言う生易(なまやさ)しい問題では収まらない

大問題が発生する事となった――》


………


……



「何だろこの糸引いてる豆……主人公お兄ちゃん!

これも日本食……って奴なの?! 」


《――と一人の子供が(たず)ねた事をきっかけに

皆に対し“納豆”の説明を始めた主人公は、食べ方を教える為

納豆をかき混ぜ口に含んだ……だが、久しぶりの納豆に感動し

表情の明るくなった主人公の様子を確認すると

皆、安心した様子で一斉に納豆を頬張り――》


「う~ん……最初はネバネバして食べづらいけど

噛めば噛むほど美味しい味が出てくるね主人公兄ちゃん! 」


《――そう言って笑顔を浮かべたゴブリン族の子供に対し


“そうでしょ! ……結構これが癖になるんだよ?

けど、納豆の美味しさが分かるって大人だねぇ~”


――と満足気に言った主人公。


だが……次の瞬間

ゴブリン族の子供達とアリーヤは激しく苦しみ始め――》


「な、何だ?! ……どうしたッ?! 」


《――突如発生した緊急事態に慌て必死に考えを(めぐ)らせて居た中


“ゴブリン族をよく思わぬ者が彼らの食事に毒物を混入させた?! ”


そう考えた主人公、だが――》


「納豆を食べて苦しむ? ……まさか! ……どいて下さいっ!!! 」


《――直後、慌てて主人公を押しのけたエリアスは

アリーヤに近付き、彼女の症状を調べ――》


「この症状は……やっぱり!

事態は一行を争いますっ! 症状の出た方を一箇所に集めて下さい!

ボルグさんは“滅菌剤”を! ……早くっ!! 」


《――直後

指示通り一箇所に集められた子供達とアリーヤに向け

ボルグから受け取った“滅菌剤”の瓶を(かか)げた直後

それを噴霧(ふんむ)させる為の魔導を発動させ――》


………


……



「……一応はこれで大丈夫な筈ですが

まだ何らかの異常を感じられている方は直ぐに教えて下さいっ! 」


《――冷や汗を(ぬぐ)いながらそう言ったエリアス


この後……子供達一人一人の状態を確かめ

異常が無い事を確認して回った彼女は今回の危機的状況に関し――》


「私も今日始めて知りましたが……どうやら

ゴブリン族には納豆菌が毒と成るみたいです……ですが、この滅菌剤で

体内の納豆菌は完全に消え去りましたからもう大丈夫な筈ですっ!


……とは言え、容態が急変しても大変ですし

一応この滅菌剤は予備でお渡ししておきますので

もし先程の様な状況に(おちい)った場合にはこれをお使い下さい。


ともあれ……皆さんが無事で本当に良かったです」


《――そう説明した後、主人公に対し“滅菌剤”を手渡した。


一方、そんな彼女に感謝を伝えつつ――》


「心からのお礼を……本当に有難うございます

しかし……直ぐに“滅菌剤これ”を使うべきだと判断為さったのは

以前にも似た様な事があったって事では? 」


《――少しばかり(いぶか)しんだ様な表情を浮かべそう(たず)ねた主人公。


そんな彼に対し、エリアスは少し困った様な表情を浮かべつつ――》


「それがですね……かなり前の事ではあるのですが

シゲシゲが例の本で納豆を作り出した時

とても嬉しそうにお食べに成っていたのは良かったのですが

食べ過ぎて体調をお崩しに成られまして……その時、苦しみながらも

シゲシゲ自身が例の本で作り出したのが“滅菌剤それ”です」


「そうなんですか……って、すみません。


その“例の本”とはどの様な……」


「あっ! そ、それはっ!! ……も、申し訳有りませんが

私の口からはお答え出来かねますっ!


……シゲシゲ自身がお話に成らない限り

これ以上の詮索(せんさく)はお止め下さい……で、ではっ! 」


《――そう言い残すと逃げる様にこの部屋を後にしたエリアス。


そして――》


………


……



「あ~……“例の本”ってのは多分

相当聞いちゃ不味(マズ)い事だったんだろうな……って皆、もう大丈夫かい?

……何処も痛い所とか苦しい所とか無いかい? 」


《――アリーヤと子供達を心配しそう(たず)ねた主人公。


(さいわ)いにも皆大事(だいじ)には至らなかった為

少しの休憩の後再び食事を再開した一行だったが……


……一方で、アリーヤと子供達の様子を見守る事に必死に成り過ぎた結果

久々の日本食を(ほとん)ど楽しむ事が出来なかった主人公。


暫くの後……皆が食べ終わり

納豆の他に問題と成る物が無い事を確認すると

(わず)かに安心した様子の主人公ではあったものの、同時に彼は

アリーヤと子供達に対し、並々ならぬ心苦しさを感じても居た。


そして……この事件から数時間後

日が落ち、部屋にはふかふかの布団が敷き詰められ

長旅と“騒々しい一日”の疲れを癒やすかの様に皆が寝静まった頃。


主人公は再び悪夢にうなされて居た――》


………


……



「貴方にしか……救えないのです」


「ミネルバさん……俺は一体誰を救えば良いんですか!! 」 


「失われし力と共に、失われし物を思い出すのです……」


………


……



「……ッ?!!


って、また同じ悪夢か……(あっ)つ……」


《――深夜

再び悪夢にうなされ飛び起きた主人公。


直後……寝汗を(ぬぐ)った彼は

ふらりと立ち上がり、そのまま静かに部屋を抜け出した――》


===第八十三話・終===

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