第八十二話「大所帯な旅は楽勝ですか? それとも……」
《――サーブロウ伯爵から
ある“老人”の元を訪ねる様勧められた主人公……そして
引き続き伯爵の説明に耳を傾けて居た主人公に対し――》
………
……
…
「……君に訊ねた“温泉”に関してもそうだが
あの“旅館”ならば君が望む真実の情報が全て有るだろう。
……それに、もし仮に私が全ての真実を君に伝えてしまっては
あの老人と私が交わした約束を反故にしたとも取られかねない。
彼の信頼を裏切る事だけは何としても避けたい……だからこそ
君自身があの老人を訪ねるべきなのだと私は思うのだよ。
……だが、わざわざ遠い所から私の絵本について興味を持ち
訊ねて来てくれた君に御礼もしたいと思っていてね。
このまま何も持たせず帰すのも申し訳無い……そこで私は
君に対し、今までに出版した絵本の全てを進呈しようと思っている。
それとも……既に持っているかな? 」
「いえ……所謂“たこ焼き”の絵本だけを頼りにここまで来たのですが
それすらも“とある国”で、国立図書館の司書さんに
懇願されて譲っちゃいまして……と言うか。
“進呈”って……たっ、無料で頂けるんですか?! 」
「進呈と言ったのだから勿論お金は取らないが
それよりも……君は欲がある様で無欲でも有る様だね。
より一層気に入った! ……少し嵩張るが大丈夫かね? 」
「はい! ……凄く光栄ですッ! 」
《――と、主人公が返事をしたと同時に
サーブロウ伯爵は上機嫌で使用人を呼び絵本の全巻を持って来させた。
の、だが――》
………
……
…
「あの、この量って……マジですか? 」
「ああ、少し嵩張るかも知れないが
君の真剣さに心打たれた私からの御礼だよ……是非、受け取って欲しい」
《――上機嫌にそう言ったサーブロウ伯爵の横には
全百冊を超える絵本がうず高く積まれており――》
(い、いやいやいや!! ……どんな量っ?!
……これ全部持って帰るとしたら荷馬車が絶対に足りないって!!
どう考えても無理ゲーじゃん! ……)
《――などと考えていた主人公だったが
伯爵の優しさを無下にする訳にも行かず――》
「有難うございます! けど、俺達の荷馬車だと明らかに運べない量で……」
《――と、遠回りに遠慮した主人公に対し
サーブロウ伯爵は――》
「ふむ……ならば、荷馬車も本が乗るだけの台数進呈しよう!
……他に欲しい物は有るかね!? 」
《――と、満面の笑みでとても満足げに訊ねて来たサーブロウ伯爵に対し
主人公は只々、御礼を言う他無くなってしまったのだった。
ともあれ――》
………
……
…
「さて……後は私から君に対し
“頼み事”と“お礼”が有るのだけれど構わないかね? 」
「ええ、俺で出来る事なら頑張りますけど……」
「有難う……ではまずお礼から。
……私は君が訪ねてくるまで
“絵本”と聞いただけで寝込む程に心が疲弊していたのだ。
正直、最初は君もその“原因たる者達”と同類なのだろうと思っていたが
君の真剣さ、知識……その全てが私の苦しみを
完全とは言わないまでも薄めてくれた。
本当に感謝している……有難う」
《――そう言うと
主人公に対し深々と頭を下げた伯爵――》
「いいっ!? ……いや、俺はただ情報を聞きに来ただけですし!!
で、でも! 心の重荷が少しでも軽くなったと仰られるなら俺も嬉しいです!
と、兎に角! その“頼み事”の方は……」
「ん? ……ああそうだった!
君に頼みたい事と言うのはだね……例のアレを此処へ頼めるか? 」
《――執事に対しそう頼んだ伯爵
暫くの後、慎重に運ばれて来た木箱を受け取った伯爵は
机の上に置いた木箱を慎重に開けつつ――》
「……君達がこれから訪れるであろう旅館の総支配人であり
私に絵本の執筆を許可してくれた“老人”から私が教わった物の中には
“とある焼き物”の情報が有ってね……邸宅に帰って暫くの間
それを作る事に大層ハマってしまった私なのだが
数多く作った焼き物の中で、最も自信作である“これ”を
あの“老人”にプレゼントしたいと思っているのだよ。
……ただ彼は焼き物への造詣が深いので
私の作った焼き物程度では――
“まだまだじゃな!”
――と、言うかも知れないが
仮にそう言われたとしても、私の全身全霊を注いで作り上げたこの焼き物を
世話になったお礼代わりと言えば大層かも知れないが
どうしても渡したくてね……だが
外を出歩くのは正直……まだ怖いのだ。
そ、そう言う訳なのだが……頼めるだろうか? 」
「勿論です! ……それに、伯爵様が仰られる様な性格の御方でしたら
仮に伯爵様のお作りに成られた焼き物の出来が“まだまだ”で有ったとしても
きっととっても喜んでくれると思います!
なので……“結果”も伝えに帰って来ますので
それを楽しみに待っていて下さいませんか? 」
「あ、ああ! ……何よりも心待ちにして居ると誓おう! 」
《――暫くの後
サーブロウ伯爵から提供された
“絵本全巻”の乗る荷馬車数台と共に旅を続ける事と成った一行……だが
唯でさえ大所帯な荷馬車旅の上
更に本で埋め尽くされた荷馬車が追加され
より一層“大名行列感”の増してしまった一行の車列。
……そんな様子に若干引いている主人公だったが
それに輪をかける様な“存在”が同行を願い出てしまい――》
………
……
…
「主人公様ッ! ……次はどちらへ向かわれるのでしょうかッ?! 」
《――突如物陰から現れ
主人公に対しそう“怒鳴る様な声で”質問したのは――》
「ひぃぃッ!? ……って、貴方は“一番隊の隊長”さんッ?!
さ、先程お帰りに成られたのでは?! 」
《――そう慌てて訊ねた主人公に対し
“隊長”は――》
「……いえッ!
部下には門の警備に戻る様命じましたが、私は念の為
御一行様の警備を引き続き行おうと思い
自らの判断で“こちら”でお待ちしておりましたッ! 」
《――そう言って彼が指し示した場所には
一体何処から持って来たのか……先程までは無かった筈の
“植え込み”が用意されていた。
当然、この事にドン引きしていた主人公だったが……
……同時に“どれ程断った所で無駄だろう”と判断し
彼に対し完全なる“取って付けた様な笑顔”で――》
「た、助かるなぁ~っ! ……では早速行きましょうか! 」
《――そう言ってすんなり受け入れると
改めて伯爵に対し御礼を言った主人公。
一方……この一部始終を間近で目撃し
主人公と同じく“引いていた”様子の伯爵は
主人公に対し“老人の経営する旅館”への地図を手渡した。
地図には目的地に大きく丸が書かれており、囲まれた建物には
“温泉旅館エリュシオン”との名前が書かれていた――》
………
……
…
「有難うございます! ……では、行ってきます! 」
「ああ、気をつけて……報告、楽しみにしているよ! 」
《――伯爵との別れを済ませた後
再び荷馬車に揺られる事と成った一行……だが
やはり、日之本皇国は広大で――》
………
……
…
「……それにしても山道が長い。
道が舗装されてて揺れが少ないのがせめてもの救いだけど
それでも疲れる……ってかそう考えると
ギュンターさんのオベリスクってやっぱり相当凄かったんだな……」
《――少し淋しげにそう言った主人公
そんな彼に対しメルは――》
「そうですね、でも……良くない意味での離れ離れって訳では無いですし
それに……私が拾った絵本が原因で
こんなにも沢山の国を旅する事が出来るなんて思いもしませんでした。
……主人公さんはこんなに沢山の国を旅するなんて思ってましたか? 」
「いや……びっくりする程様々な国に行ったし
まさかこんなに長旅になるとも思ってなかったよ。
……楽しい事も沢山有ったし
いろんな事があったなぁと振り返る事も有る。
……けど、その分怖い思いも沢山する羽目に成ったし
大切な仲間との別れも沢山経験したからさ……
今“何一つ持ってなかった”昔の事を考えると
あの時の苦しみの方が余程軽かったんだって思ってるよ。
……両親以外に別れて辛い相手が居る事すら知らなかった昔の方が
寧ろまだ楽だったのかも知れないって……」
《――疲れからか
つい複雑な心境を吐露してしまった主人公。
だが、そんな主人公に対しメルは――》
「……主人公さんの仰られる様に
沢山の大切な人達との別れも有りましたし……私もとっても寂しいです。
……でも、その全てが建設的な物だったと思いますし
その全てが、主人公さんや私達の思う大切な人達の幸せを
“育む”為の別れだったと思うんです。
それにきっと……いえ、絶対にまた会えますっ!
だから寂しく思う必要なんて無いんですっ! ……」
《――そう言ったメルの言葉に
僅かに涙腺を緩ませてしまった主人公は――》
「やっぱりメルは凄いな……有難うメル。
てか、旅の長任されてる俺がこんなに励まされてばかりじゃ駄目だね!
よぉ~しっ!! ……出来るだけ急いで
一刻も早く“温泉旅館エリュシオン”とやらにたどり着くぞ~っ!! 」
「はいっ♪ ……私も手伝いますから一緒に頑張りましょうっ! 」
《――仲間に支えられ
励まされ、その優しさを受け取り……少し肩の荷が降りたのか
それとも……ただの空元気であったのか。
この後、ひたすらに荷馬車を進めた主人公の顔からは
いつの間にか“迷い”が消えていた。
……この後、丸三日を掛け荷馬車での寝泊まりを繰り返しつつ
目的地である“温泉旅館エリュシオン”を目指しひたすらに進み続けた一行
そして……備蓄食料も心許無く成り始めた頃。
ついに――》
………
……
…
「ほ、本当だッ!!
……これこそ紛う事無き“旅館”だッ!! 」
《――眼前に聳え立つ“温泉旅館エリュシオン”を見上げ
そう感嘆の声を上げた主人公。
……仲間達が荷馬車を降り、背伸びをしたりあくびをしたりと
長旅の“コリ”を取ろうとしていた一方
尚も興奮状態な主人公は“旅館”へと飛び込む様に入館し――》
「す、凄い!!! ……中も完全に温泉旅館の佇まいだ!!! 」
《――と、疲れなど吹き飛んだかの様に
飛び回る様に其処彼処を見て回って居た。
一方で……過度な興奮状態の彼の様子を
彼の傍で満足そうに見つめて居た仲間達……だが。
そんな一行の様子を
遠くから不審そうに見つめていた一人の女性……直後
彼女は意を決した様に、そっと主人公に近づくと――》
………
……
…
「……よ、ようこそ温泉旅館エリュシオンへ!
わ、私は当旅館の若女将……エリアスと申しますっ!
ご利用は初めてですか? そ、その……何名様でご利用に成られますか? 」
《――と、主人公に対し緊張気味に声を掛けた。
彼女は金色に輝く髪を簪で纏め
着物に身を包んだエルフ族の女性で――》
「き、着物ッ?! ……っと、失礼しました!
えっと、俺達はサーブロウ伯爵の紹介で……」
《――主人公が其処まで言い掛けた所で
エリアスと名乗った若女将は――》
「あっ! ……成程っ!
だから貴方様も着物の様な物をお召しに成られているのですね!
今“シゲシゲ”をお呼びしますのでお待ちになって居て下さいねっ! 」
「シ、シゲシゲ? ……あ~……はい! 宜しくおねがいします!! 」
《――若女将はそう言うと旅館の奥へと消えて行き
暫くの後、一人の老人と数人の従業員らしき者達を連れ
一行の元へと舞い戻った――》
………
……
…
「……エリアスさんや、伯爵の御友人と言うのはこの方々かな? 」
《――現れるなりエリアスに対しそう訊ねたのは
彼女が“シゲシゲ”と呼んだ老人であった。
……明らかに日本人と言った様子の風体
見た目から察するに年齢は九十代後半と思われる彼に対し
主人公は――》
「……あ、あのッ!
サーブロウ伯爵の紹介でこちらの旅館を訪ねる様に言われまして
その……俺が求める情報を得る為には、伯爵からでは無く
“本人に聞くのが一番”との事だったのでお訪ねしたのですが……
……確かに完全に旅館ですし!
エリアスさんのお召に成られている着物も完全な和服ですし! ……」
《――と、興奮冷めやらぬ様子で矢継ぎ早に話した主人公。
だが、そんな主人公の話し振りに
エリアスの連れてきた老人と“従業員達”の表情は
見る見る内に強張り、警戒心を顕にし始めていて――》
………
……
…
「話の途中ですまないが……御主。
話し振りにしても着ている物にしても……まさかとは思うが
サーブロウ伯爵は全ての正式名称を御主に話したのか? 」
《――この瞬間、主人公に対し少し高圧的に訊ねたのは
老齢なエルフの従業員で――》
「へっ? い、いえいえ! そもそも俺が既に知ってただけで! ……」
《――と、返答を返した主人公
だが、そんな彼の発言を遮ると――》
「ほう? ……では御主が着ているその着物だが一体何処で手に入れた?
……誰が製造をした?
そもそも御主達は一体何者なのか……全て答えて貰おう」
《――と、尚更に高圧的な態度で
半ば“尋問”の様な雰囲気で訊ねた老齢なエルフの従業員。
一方……そんな彼を嗜めた若女将のエリアスは
一行に対し――》
「もう! ボルグさんっ! ……少し押さえて下さいっ!
とっ、取り敢えずは大部屋を用意致しますので
続きはそちらで……って!?
う、後ろにいるのは……ゴブリンっ!? 」
《――エリアスがそう慌てるや否や
引き連れて居た従業員達は一斉に警戒態勢を取った。
だが、その間に割って入った主人公は警戒する彼女達に対し――》
「ま……待って下さいっ!
ゴブリンに対する憎悪とか恐怖とか警戒心は分かりますけど
彼らは“その手”のゴブリンとは違います!
彼らは俺達の大切な仲間なんです。
……絶対に人間やその他の者達に対して危害を加えません!
寧ろ仲良く出来る子達なんです……だから矛を収めて下さい!
お、お願いしますッ!! 」
《――そう言ってエリアス達に対し深々と頭を下げた主人公の
必死な様子に、警戒こそしたままではあったが――》
「わ、分かりました……では取り敢えず“大樹の間へご案内します」
《――ともあれ
彼女の案内に依り“大樹の間”へ通された後
話し合いの場が“設けられはした”
の、だが――》
………
……
…
「まず最初に……何故正式名称を知っている?
何故着物を着ている? ……何故シゲシゲを訪ねて来た? 」
《――と、大層警戒した様子で
主人公に対し矢継ぎ早に質問した老齢なエルフ……もといボルグ。
“ですからそれは……”
と、話しかけた主人公に対し
“……いや、聞かずとも想像はついた。
彼奴も所詮は人間だ
自らの利に成ると踏んで
約束を違えただけの事だろう……”
と、自らの判断で真実とは異なる発言をし始めたボルグ。
一方、そんな彼に対し――》
「だ、だから……違いますッ!!!
サーブロウ伯爵は断じてそんな人では有りません!!
彼は心根の真っ直ぐな確りと筋の通った御方です!
そもそも……エルフ族はとても知的な種族の筈
俺の説明を最後まで聞いてから答えを出しても
決して遅くは無い事位お分かりの筈ですッ! 」
《――と、凄まじい剣幕で言い放った主人公に
旅館側の者達は警戒し、懐の武器に手を掛けていた。
だが――》
「それは……失礼した。
では、続きを聞かせて貰いたい」
《――と、ボルグが主人公に対し頭を下げた事で
その様子を見た旅館側の者達は皆矛を収め、そして――》
「ええ、では全て説明をさせて頂きます……が。
その前に二つ程、確認をしたい事が有りまして……宜しいでしょうか? 」
《――僅かに息を整え、そう訊ねた主人公。
直後、ボルグから質問の許可が降りると――》
「……では一つ目の確認です、そちらにお座りに成られている御方が
伯爵がお世話になったと言う方で間違い有りませんか? 」
「……相違無い。
この旅館の全ては此処に居る“シゲシゲ”の知識が元に成っている」
「ありがとうございます……では
二つ目の確認に移る前に……一つだけお願いがございまして」
「……何かね? 」
「その……“シゲシゲ”さんにだけ確認したい内容なので
出来れば一度二人きりにして頂けると……」
《――と主人公が言うや否や
ボルグは――》
「……御主、シゲシゲに何をするつもりか。
サーブロウの名を出し我々の信頼を得たつもりかも知れないが
今日現れたばかりの得体のしれぬ者と
シゲシゲを二人にするなど断じて受け入れられない! 」
《――ボルグがそう言うや否や
旅館側の者達は再び警戒心を顕にしてしまい――》
「わ、分かりました!
……か、確認したい事は後回しにします!
ですからそんなに興奮しないで下さい! ……あっ!
……サーブロウ伯爵から、シゲシゲさんに渡す様
託かった物が有りまして! ……これなんですが」
《――と、この場の空気を変える為か主人公は静かに箱を差し出した。
一方、差し出されたその箱を酷く警戒しつつ
魔導らしき技で中身の“検査”をしたボルグ。
……一頻り確認をした後
恐る恐る箱の蓋を開けボルグが中身を取り出した瞬間――》
「ほぉ~っ! 見事な“備前焼”じゃのぉ~?!
……伯爵め、相当に腕を上げた様じゃな! 」
《――と、焼き物に目をやりつつ嬉しそうにそう語ったのは
これまで旅館の者達から“シゲシゲ”と呼ばれていた老人で――》
「えっ?! その名称を知ってるって事はやっぱり……」
「ん~? ……その“名称”じゃと?
お前さん、もしやとは思うが……ワシと同じく
“ヒートシンク”に成って“飛ばされた”のかのぅ? 」
《――そう主人公に対し訊ねた
老人……もとい“シゲシゲ”
一方、そう訊ねられた主人公は――》
………
……
…
(ん? ……ヒートシンク?
一体何故に今この老人は“機械等の冷却部品の名称”を?
いや待てよ? ……“飛ばされた”とも言ったよな?
もしかして俺で言う“トラック転生”みたいな事で
“ヒートシンク転生”みたいなのが有るのか?!
いや違うな、意味不明過ぎる……
“ヒートシンク”……“老人”……ハッ!! )
《――直後
何かに気付いた様子の主人公は“シゲシゲ”に対し――》
………
……
…
「それ……“ヒートショック”だと思うんですがッ!! 」
《――と
“ツッコミ”を入れたのだった――》
===第八十二話・終===




