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異世界転生って楽勝だと思ってました。【17万PV突破感謝! 】  作者: 黒崎 凱
第三章

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第八一話「記憶を揺さぶられても楽勝ですか? 」

妙に急ぎ足でミカドの居城を立ち去った主人公は

ミカドから受け取った伯爵邸の記(しる)された地図を手掛かりに荷馬車を進めて居た。


だが、日之本皇国(ヒノモトコウコク)は余りにも広大で……


……テルとサナの生家ですら

相当な時間を要した事からも想像に難(かた)くは無いが

伯爵邸までの道のりは果てしなく遠く

オベリスクでは無い通常の荷馬車で

且(か)つ子供連れの旅ともなれば過酷な旅程を組む訳にも行かず……


……日も落ち始めた頃、一行は荷馬車を停め

そのまま荷馬車内で睡眠を取る事と成ったのだった。


だが……その夜の事

肉体と精神、二つの疲労が重なったせいか

主人公(かれ)はある悪夢にうなされて居た……


◆◆◆


「……公……貴方しか……救……のです」


「ん? ……何だこの場所?

何と無く転生時に飛ばされた空間っぽいな……


……てか、誰の声だ? 」


声の主を探し辺りを見回した主人公


直後……遠くに見えた微(かす)かな人影

恐る恐る近付いたその先に居たのは……


「主人公さん……貴方にしか救えないのです」


「あ、貴女(あなた)はッ?! ……ミ、ミネルバさん?! 」


彼の夢に現れたのはミネルバであった。


だが、彼女は主人公の問い掛けには一切反応せず

ただひたすらに繰り返し――


“貴方にしか救えないのです”


――と、必死に訴え続けて居た。


そして……


「お、俺じゃなきゃ救えないって……一体何の事なんですか?!

一体俺は……誰を救えば良いんですか!? 」


そう言ってミネルバに触れようとした主人公。


だが、彼の手はミネルバの体を通り抜け

幾度(いくど)と無く彼女に触れようとする主人公だったが

終(つい)ぞ触れる事は出来ず……この後、ミネルバの体は

風を受けた煙の様にその場から立ち消え――


“失われし力と共に、失われし物を思い出すのです”


――そう言い残すと

その場から消え去ってしまったのだった……


◆◆◆


「!? ……ミネルバさんッ!!! 」


飛び起きるや否やそう叫んだ主人公

だが……


「きゃあっ?! ……ど、どうしたんですかっ?! 」


突然の事に驚き悲鳴を挙げたメルに続き

同じく飛び起きた皆に対し、酷(ひど)い寝汗を拭(ぬぐ)いつつ……


「ご、ごめん皆……何だか変な夢を見ちゃって……本当にごめん……」


そう謝った主人公

そんな中、ガルドは……


「……あまり指摘するべきでは無いと思って居たが

流石(さすが)に言わせて貰うべき時の様だ……主人公よ。


吾輩(わがはい)から見れば御主は心身共に疲れ

相当な無理をしている様に思う……功(こう)を焦(あせ)るあまり

根本を違(たが)えれば全てが無に帰(き)す事もある

主人公よ……無理を続けるのは控えよ

幸(さいわ)いな事に吾輩(わがはい)は御主程には疲れて居ない

御主に頼られる程度の余力は有るつもりだ」


そう心配してみせた。


一方……彼の発言から感じられる優しさのせいか

様々な要因に依(よ)って緊張しきって居た主人公(かれ)の表情は

僅(わず)かに緩み……


「ああ、有難うガルド……驚かせてごめん」


「うむ……あまり気にせずもう少し眠ると良い」


「ああ、そうするよ……皆もごめん……改めておやすみッ! 」


◆◆◆


数時間後


朝日に起こされ再び荷馬車での旅路を進めた一行

だが、他地域へ続くと言う“大門”はまだ見えず……


……この後も幾度(いくど)と無く荷馬車での夜を越し

数日間に渡り大門を目指し旅を続けた一行は

遂(つい)に大門を発見……逸(はや)る気持ちを抑えつつ荷馬車を進めた。


すると、重装備の警備兵達が

数十名体制でこの大門を警護している様子と共に

一行の荷馬車に向かい、門番らしき男が

停車指示を送っている様子が見え……直後、指示に従い

荷馬車を止めた一行に対し、門番らしき男は……


「門を通る為(ため)には、通行手形と荷馬車内部の検査

並びに乗客全員の検査が必要だ

先(ま)ずは通行手形を出して貰う……妙な動きはするなよ? 」


と、少々高圧的に言った。


直後、この要求に対しミカドから譲(ゆず)り受けた

彼女の署名入り通行手形を門番に差し出した主人公

だが、この通行手形を受け取った瞬間……


「こッ、これは……ミカド様直筆の署名ッ?!

その上“紋章”入りだとッ?! ……た、大変失礼を致しましたッ!

す……直ぐにお通し致しますッ!!!


……だっ、大門開放ッ!!! 」


大層慌ててそう叫んだ門番

直後“大門”は凄まじい勢いで開け放たれた。


の、だが……


「あ、あの……差し支えなければ

一つお伺(うかが)いしても宜しいでしょうか? 」


先程までの高圧的な態度とは打って変わり

異様な程丁寧な物言いで主人公に対しそう訊(たず)ねた門番。


これに若干の違和感を感じつつも

快(こころよ)く了承した主人公に対し……


「その……ミカド様の直筆署名をお持ちの方々ですから

さぞや御身分のお高い方々とお見受け致します。


……そもそも、後方に連なる荷馬車の数を鑑(かんが)みれば

もしや、何処(どこ)かの国の使節団と言う訳では……」


「えッ? ……いえいえ!

俺達は大所帯なだけで至ってごく普通の旅人ですよ? 」


「い、いえその……“ごく普通の旅人”が

ミカド様から直々に通行手形を賜(たまわ)る事は……はっ!?

い、いえッ! ……要らぬ詮索でしたッ!

“極秘会談”と言う事もございますし……ゴホンッ!!

け……警備兵達ッ!!

この方々をお見送りする様にッ! ……よ、良いな?!

“至ってごく普通の旅人”をお見送りする様にだぞッ?! 」


と、何かを大きく勘違いしたまま

警備兵達にそう伝えた門番……直後、警備兵達は

一行の乗る荷馬車に対し、一行が通過し終わるまでの間

“最敬礼(さいけいれい)”のまま微動(びどう)だにせず

一行の荷馬車が見えなくなるまで

その頭を上げる事は無かったのだった……


◆◆◆


“ちょっとした”騒ぎの後

無事に大門を通り抜ける事が出来た一行……その一方で

主人公は荷馬車に揺られつつ……


「ってか、俺は普通に話してたけど

良く考えたらミカドさんって相当尊敬されてるのか?


……まぁ、お陰ですんなり通れたのは良いけど

あれじゃ正直目をつけられそうだし、まさかとは思うけど

出口側とかでも同じ様な扱いを受けるんじゃ無いだろうな……」


などとブツブツ独り言を言い続けて居た主人公

暫(しばら)くの後、そんな主人公(かれ)の独り言は

“現実の物”と成ってしまい……


◆◆◆


「……荷馬車の一団、其処(そこ)で止まりなさい。


西地域への入域を希望する場合は

通行手形、入域の理由と身体検査

荷馬車内の検査等を受けて頂きます……先(ま)ずは通行手形を」


「は、はい……これでお願いします」


例に依(よ)って

ミカド直筆の署名入り通行手形に目を通した瞬間

西地域の門番も態度がガラリと変わり……


「すっ……全ての検査は免除と言う事で!!

たたたっ……大変失礼を致しましたッ!!! 」


言うや否や主人公に向け“最敬礼”をした門番

直後、慌ててそれを制止した主人公は……


「あ……あのッ!

“やんごとなき地位の人達”扱いして貰えるのは光栄ですが

そんな事よりも質問が……」


そう訊(たず)ねた瞬間

門番は食い気味に……


「な、何でしょう!? ……何なりとお申し付け下さいッ! 」


「いぃッ?! い、いやその……ゴホンッ!

い……一応、ミカドさんから地図は頂いたんですけど

サーブロウ伯爵邸へ向かうにはどっちに進めば……」


「この道を真っ直ぐ行けば直ぐですが……いえッ!!

念の為(ため)……警護をつけさせて頂きますッ!! 」


「い゛ッ!? いやいやいや!! そんな大げさな! ……」


「いえ! そうと決まれば……一番隊!

御一行様の護衛任務に着けッ! ――」


門番がそう命じた直後


一番隊を形成する二〇名程の兵士達は

一行の乗る荷馬車を警護する為(ため)、迅速(じんそく)かつ

物々しい雰囲気を醸(かも)し出しつつ荷馬車の周囲に立った。


の、だが……


「えッ? いやちょっと門番さん?! これは流石(さすが)に……」


「いえッ!! 重要な方々に何かが有ってはいけませんのでッ!

一番隊、隊長に命ずるッ!

御一行様をサーブロウ伯爵邸までの道中

安全にお送りする様にッ! ……立ち開(はだ)かる者有れば

全て即座に切り捨てて構わんッ! 」


「ハッ!! 」


この想定を上回る“特別扱い”に若干引いて居た一行


一方……そんな事はお構いなしかの様に

命令を受けた一番隊の隊員達は荷馬車の警護を開始した。


だが……道中、幾度(いくど)と無くすれ違う旅人達の全てに対し

過剰な程反応し、その度に抜刀“しまくった”一番隊の隊員達。


……一行が邸宅へ到着するまでの間

この“大騒ぎ”は定期的に発生し続けたのだった……


◆◆◆


「主人公様ッ! あの城がサーブロウ伯爵邸でございますッ! 」


強面の一番隊隊長は主人公に対しそう言った。


だが、突如として

真横からとんでもない声量でそう“叫ばれた”主人公(かれ)は

仰(の)け反(ぞ)る程に驚き、胸を抑(おさ)え

大層上(うわ)ずった声で……


「たぁッ?! ……助かりましたぁッ!!! 」


そう精一杯に返事をした

の、だが……


「いえッ! ……到着するまでが警護でございますのでッ!

もう少々……警護させて頂きますッッ!! 」


「ひぃッ?! ……わ、分かりましたからッ!! 」


この時

主人公(かれ)が感じた率直な気持ちは――


“今絶対脅されたよねッ?! ”


――であったと言う。


ともあれ……


◆◆◆


「到着でございますッ!! 」


「ひぃッ?! ……」


暫(しばら)くの後

サーブロウ伯爵邸の正門へと到着した瞬間

再び仰(の)け反(ぞ)る程に驚き、胸を抑(おさ)え

酷(ひど)く上(うわ)ずった声を挙げさせられた主人公は

息を整えつつ、伯爵家の門前に付けられた

呼び鈴らしき物を鳴らした。


……暫(しばら)くの後、一行の元へと現れた執事らしき男性

だが、彼は一行の荷馬車へと近付くと……


「どういったご用件でしょう? 」


と、少々無愛想に訊(たず)ね

対する主人公は……


「そ、その……突然の訪問、ご迷惑かとは思いましたが

サーブロウ伯爵の執筆|為(な)さった

絵本ついてのお話をお聞かせ願いたく

本日お伺(うかが)いした次第なのですが……」


と、彼なりに精一杯丁寧に答えた

だが、執事らしき男性は……


「そちらの件でしたら……お帰り下さい

貴方様の他にも、今まで数多くの方々が

伯爵様の執筆|為(な)さった絵本のファンだと

“偽(いつわ)り”……山の様に押し寄せました。


その度(たび)に伯爵様は

“ファンサービスの一環なら仕方ないだろう”


……そう仰(おっしゃ)られ、私はその度に

その者達を邸宅へお招きしました……ですが、その全てが

伯爵様のお優しさに付け入る下衆(げす)の集まりであった事

その事に依(よ)って伯爵様は酷(ひど)く御心を傷められ

今やあの絵本のお話をされただけで

体調をお崩しに成られる程なのです。


ですから、お帰り下さい……


……冷やかしはこれ以上ご遠慮頂きたく」


そう言い終わると同時に

踵(きびす)を返し屋敷へ帰ろうとした男性……だが。


その背中に向け突如として発せられた

凄まじい“怒号”……


「貴様ッ!!! 使用人風情の一存で

我が国と他国との友好関係に傷をつけると言うのかッ!?

貴様がどうあっても御一行様を伯爵に会わせぬと言うのならば

私|自(みずか)ら、貴様と貴様の主(あるじ)を叩き切ってくれるッ!!! 」


と、酷(ひど)く憤慨(ふんがい)し

腰に提(さ)げた剣に手を掛けつつそう言い放ったのは

一行の警護をして居た“一番隊の隊長”であった。


……一方、そんな隊長を落ち着かせようと

必死に説得する主人公だったが……


「ちょッ?! ……隊長さん!

そんな風に脅しちゃ駄目ですって!!

と言うかそもそも俺達は! ……」


「いえッ!! ……国賓に対してこの様な扱い

我が国の恥と成ってしまうのです!

ですから此処(ここ)は私にお任せをッ!! ……使用人ッ!

貴様の一存で伯爵の地位や名誉

ありと汎(あら)ゆる全てを崩壊させると言うかッ?! 」


と、尚(なお)も憤慨(ふんがい)した様子で

執事らしき男性を“脅した”一番隊の隊長


……暫(しばら)くの後、そんな大騒ぎを聞きつけたのか

この屋敷の主(あるじ)であるサーブロウ伯爵は

大層慌てた様子で門前へと現れ……


「な……何が有ったのだ?! 」


と、執事を問い質(ただ)した。


だが……余程(よほど)慌てて居たのだろう

ガウン姿で一行の眼前に現れたサーブロウ伯爵は

反面、寝癖混じりな焦茶(こげちゃ)色の髪に白髪が混じり

緑の眼をした……所謂(いわゆる)

“アジア系では無い”見た目をして居て……この“大騒ぎ”の中

その事に対し僅(わず)かに残念そうな表情を見せつつも

主人公は……


(あ~……“サーブロウ=三郎説”は無かったか)


「あ、あの……大騒ぎに成ってしまって本当に申し訳有りません

そ、その……俺達は決して

サーブロウ伯爵様に悪意を持ち現れた訳では無く

俺達、と言うか……主に俺がなんですが

伯爵様のお書きに成られた絵本について

その情報を一体|何処(どこ)で手に入れたのか

そしてそれは実現可能な物なのか。


正直、色々とお訊(たず)ねしたい事だらけでして

ですが、そちらの執事さんが仰(おっしゃ)られた――


“心無い者達から優しさに付け入る扱いを受けた”


――と言う件について考えると、正直

お訊(たず)ねする事自体、躊躇(ちゅうちょ)して居る次第(しだい)です。


でも……どうか信じて下さい、俺は

そんなつまらない事をしに来た訳じゃないんです

本当に純粋に、絵本の内容に関する情報だけを教えて頂きたくて

それで! ……」


サーブロウ伯爵に対し

真剣な想(おも)いを伝えて居た主人公。


……一方、伯爵は“絵本”と聞いた時点で眉間にシワを寄せ

酷(ひど)く怪訝(けげん)な表情を浮かべて居た。


だが、主人公(かれ)の真剣さが故(ゆえ)か

次第(しだい)に耳を傾け始め……全ての想(おも)いを伝えた後

深々と頭を下げた主人公に対し……


「分かった……君を信じ、特別に絵本の事について話そう

但(ただ)し、それ以外の話や私の気分が悪くなる様な行動

発言、その他諸々が有った時点で速やかにお帰り願う事になる。


……それでも良いかね? 」


「はい! ……ありがとうございますッ!! 」


「成程……では、君達は立派なお客人と言う事だ

ポール……饗(もてな)しの用意を頼めるか? 」


執事らしき男性に対しそう命じたサーブロウ伯爵に依(よ)って


直後、一行は伯爵邸へと招かれ……応接室へと案内された。


だが、この瞬間……サーブロウ伯爵は一行に対し

少々恥ずかしそうにして居て……


◆◆◆


「その……“ガウン姿”では流石(さすが)に

我が家の名に傷が付いてしまう……着替えの時間を貰いたいのだが」


そう言うと、慌てて着替えに戻り

そして、暫(しばら)くの後……


「大変お待たせして申し訳無い……お詫びと言っては何だが

“絵本”に描いた元ネタの“お茶とお茶菓子”を用意させた。


荷馬車旅は疲れただろう……さあ、遠慮せずに」


サーブロウ伯爵がそう言うと

使用人達は“お茶とお茶菓子”を一行に提供した


瞬間……


「こ、これはッ?!! 」


提供された“物”に興奮し

そう声を上げた主人公は、この直後……


「こ……これ緑茶ですよね?!

それにこっちのは……きな粉餅だ!! 」


そう言って目を輝かせた

だが、一方のサーブロウ伯爵は少し驚いた様な表情を見せ……


「き、君……何故(なぜ)その二つの

“正式名称”を知って居るんだね!?

私の絵本には正式名称など記載していない筈だよ? 」


と、少しばかり彼を警戒した様な口振りで

そう訊(たず)ねた伯爵、すると……


「あ、いやその……ミカド様の事は御存知ですよね? 」


「ああ、知って居る……だが、あの御方に提供した物は……」


「ええ……本人から聞きました

納豆、くさや……あと“麦茶”でしたっけ? 」


「またしても全て正式名称を……だが

あの御方にすら正式名称を伝えた覚えは無い……


……一体、君は何者なんだね? 」


「そ、その……伯爵様

あまり大勢に聞かせたい話でもありませんので

出来ればお耳を……」


「あ、ああ……」


直後、尚(なお)も警戒する伯爵の耳元に近付くと

彼に対し――


“貴方は転生者ですか? ”


――と、訊(たず)ねた主人公。


だが、静かに首を横に振った伯爵は……


「質問の意味はいまいち理解出来ないが

恐らく私は“それ”に該当していない。


その上で訊(たず)ねるが、君は先程(さきほど)

“何処(どこ)でこの情報を手に入れたかを聞きたい”


……そう、言って居たね? 」


この質問に“はい”と答えた主人公

その返事を確認すると、サーブロウ伯爵は

使用人達を全員下がらせた上で……


「良いかね? これから私が話す事の全ては

口外してはいけない……約束を守れると言うのならば

私の知る……絵本には載せていない

“真実”の一部を話そうと思う……どうかね? 」


そう訊(たず)ねたサーブロウ伯爵

直後、これを了承した主人公に対し……


「良し……ならば話そう。


先(ま)ず、私の絵本で描かれて居る道具や食べ物が全て

“実在の物”だと言う事は、立て続けに正式名称を答えた君ならば

恐らく分かっているだろう。


私は……その実在する物に少しの空想を混ぜ、絵本とした訳だが

本来ならば夢物語の様に書きたくは無かったのだよ。


故(ゆえ)に……完成した絵本の形も

本来は私の希望していた物では無くてね……」


「と、言うと? 」


「私の得た知識、絵本の所謂(いわゆる)“元ネタ”は

私が長らく世話になった一人の老人から得た知識なのだよ。


その老人|曰(いわ)く――


“ワシはこの知識のせいで

前に居た場所で恐ろしい争い事に関わる事と成ったのじゃ

それ故(ゆえ)、今度は争い事の起きぬ様ひっそりと

此処(ここ)を訪れた人々にのみ楽しんで貰うに留(とど)めたいのじゃ”


――幾度(いくど)と無くそう言って居た。


だが、それでも私は――


“どうにかこの素晴らしい物や食を世界に理解させたいのだ

貴方が危惧(きぐ)する争いなど起きぬ方法で”


――と、老人に対し再三(さいさん)頼み込んだ。


彼は相当に悩んで居たが、やがて――


“……では絵本として描き、半分以上の空想を混ぜ

正式な名前を書かず……そしてこれが重要じゃ

製造方法を絶対に書かないと言うのならば特別に許可しよう。


長い付き合いじゃし

伯爵の頼みと有れば無下(むげ)にも出来んしのぉ”


――そう言って特別に許可をしてくれた。


それ故(ゆえ)、君が正式名称を言い当てた事に

私はとても驚いているし、あの老人の関係者かと考えもした

それこそ、あの老人の言う“争い”の関係者か? ……ともね。


だが……どうにも私には

君がそう言った恐ろしい手合いには見えなくてね。


だからこそ単刀直入に聞くが

この状況……一体、どう言う事なのかね? 」


「その……俺が正式名称を

“言い当てた”って仰(おっしゃ)られましたけど

言い当てたんじゃなくて……知ってたんです。


と言うか、それらは全て俺の

何と言うか……故郷の物ですので」


この瞬間

主人公(かれ)の話す一瞬の“間(ま)”に疑いの眼差しを向けた伯爵

直後、彼はその疑念を晴らす為(ため)か

主人公に対し“ある質問”をした……


「ふむ……ならば一つだけ訊(たず)ねよう。


“温泉”と聞いて、君が思い浮かべる物は? 」


「温泉ですか? ……う~ん……」


思い悩む主人公を

真剣な眼差しで見つめ続けて居たサーブロウ伯爵。


一方、長考(ちょうこう)の末(すえ)……


「……真面目な答えなら

“体の疲れが取れて癒やされる場所”ですけど

不真面目な答えなら“混浴は汎(あら)ゆる意味で罠! ”


……ですかね? 」


と、返答をした主人公

サーブロウ伯爵はこの返答に暫(しばら)くの間沈黙し

そして……


「どうやら私の勘違いだった様だ

疑ってすまなかった……君は間違い無く

あの老人と同じ場所を故郷に持つ者なのだね? 」


と、僅(わず)かに警戒心の取れた表情で

そう訊(たず)ねたサーブロウ伯爵、一方……


「と、言われましても……その“老人”と仰(おっしゃ)られる方が

一体どんな方なのかを知らないですし……」


「ふむ……ならば彼の元を訪ねると良い

きっと癒やされるだろう……まぁ、若(も)しくは

君の言う“罠”に掛かるのかも知れないが

どちらであっても結局は……癒やされるのだろうがね」


「そ、それは一体どう言う……」


この瞬間

そう、理解不能な返事を受け取った主人公は

僅(わず)かに困惑して居て……


===第八一話・終===

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