第八十一話「記憶を揺さぶられても楽勝ですか? 」
《――妙に急ぎ足でミカドの居城を立ち去った主人公は
ミカドから受け取った伯爵邸の記された地図を手掛かりに荷馬車を進めて居た。
だが、日之本皇国は余りにも広大で……
……テルとサナの生家ですら
相当な時間を要した事からも想像に難くは無いが
伯爵邸までの道のりは果てしなく遠く、オベリスクでは無い通常の荷馬車で
且つ子供連れの旅ともなれば過酷な旅程を組む訳にも行かず……
……日も落ち始めた頃、一行は荷馬車を停め
そのまま荷馬車内で睡眠を取る事と成ったのだった。
だが……その夜の事
肉体と精神、二つの疲労が重なった所為か
主人公はある悪夢にうなされる事と成る――》
………
……
…
“……公……貴方しか……救……のです”
「ん? ……何だこの場所?
何と無く転生時に飛ばされた空間っぽいな……てか、誰の声だ? 」
《――声の主を探し辺りを見回した主人公
直後……遠くに見えた微かな人影
恐る恐る近付いたその先に居たのは――》
「主人公さん……貴方にしか救えないのです」
「あ、貴女は?! ……ミ、ミネルバさん?! 」
《――彼の夢に現れたのはミネルバであった。
だが、彼女は主人公の問い掛けには一切反応せず
ただひたすらに繰り返し――
“貴方にしか救えないのです”
――と、必死に訴え続けていた。
そして――》
「お、俺じゃなきゃ救えないって、一体何の事なんですか?!
一体俺は……誰を救えば良いんですか!? 」
《――そう言ってミネルバに触れようとした主人公。
だが、その手はミネルバの体を通り抜け……
……幾度と無く彼女に触れようとする主人公だったが
終ぞ触れる事は出来ず……この後ミネルバの体は
風を受けた煙の様にその場から立ち消え――
“……失われし力と共に、失われし物を思い出すのです”
――そう言い残すと
その場から消え去ってしまったのだった――》
………
……
…
「!? ……ミネルバさんッ!!! 」
《――飛び起きるや否やそう叫んだ主人公
だが――》
「きゃあっ?! ……ど、どうしたんですかっ?! 」
《――突然の事に驚き悲鳴を挙げたメルに続き
同じく飛び起きた皆に対し、酷い寝汗を拭いつつ――
ご、ごめん皆……何だか変な夢を見ちゃって……本当にごめん……
――そう謝った主人公
そんな中、グランガルドは――》
「……あまり指摘するべきでは無いと思っていたが
流石に言わせて貰うべき時の様だ……主人公よ。
吾輩から見れば御主は心身共に疲れ、相当に無理をしている様に思う。
功を焦るあまり、根本を違えれば全てが無に帰す事も有る
主人公よ……無理を続けるのは控えよ
幸いな事に吾輩は御主程には疲れて居ない。
……頼られる程度の余力は有るつもりだ」
《――そう心配してみせた。
一方……彼の発言から感じられる優しさの所為か
様々な要因に依って緊張しきって居た主人公の表情は少し緩み――》
「ああ、有難うガルド……ごめんね驚かせて」
「うむ……あまり気にせずもう少し眠ると良い」
「ああ、そうするよ……皆もごめん……改めておやすみっ! 」
………
……
…
《――数時間後
朝日に起こされ再び荷馬車での旅路を進めた一行……だが
他地域へ続くと言う“大門”はまだ見えず……
……この後も幾度と無く荷馬車での夜を越し
数日間に渡り大門を目指し旅を続けた一行は
遂に他地域への入り口で有る大門を発見し
逸る気持ちを抑えつつ、荷馬車を大門へと進めた……すると
重装備の警備兵達が数十名体制でこの大門を警護している様子と共に
一行の荷馬車に向かい、門番らしき男が
停車指示を送っている様子が見えた。
無論、その指示に素直に従い荷馬車を止めた一行に対し
門番らしき男は――》
「門を通る為には、通行手形と荷馬車内部の検査
並びに乗客全員の検査が必要だ……まずは通行手形を出して貰う。
……妙な動きはするなよ? 」
《――少々高圧的にそう言った門番。
直後、この要求に対しミカドから譲り受けた
彼女の署名入り通行手形を門番に差し出した主人公……だが。
この通行手形を受け取った瞬間――》
「こ、これは……ミカド様直筆の署名ッ?!
そ、その上“紋章”入りだとッ?! ……た、大変失礼を致しましたッ!
す……直ぐにお通し致しますッ!!!
だっ、大門開放ッ!!! 」
《――大層慌ててそう叫んだ門番
直後……“大門”は凄まじい勢いで開け放たれた。
の、だが――》
「あ、あの……差し支えなければ
一つお伺いしても宜しいでしょうか? 」
《――先程までの高圧的な態度とは打って変わり
異様な程丁寧な物言いで主人公に対しそう訊ねた門番。
これに若干の違和感を感じつつも快く了承した主人公に対し――》
「……ミカド様の直筆署名をお持ちの方ですから
さぞ御身分の高い方とお見受け致します。
後方に連なる荷馬車の数を鑑みれば
もしや、何処かの国の使節団と言う訳では……」
「えっ? ……いえいえ!
俺達は大所帯なだけで至ってごく普通の旅人ですよ? 」
「い、いえその……“ごく普通の旅人”が
ミカド様から直々に通行手形を賜る事は……はっ!?
い、いえッ! ……要らぬ詮索でしたッ!
“極秘会談”と言う事もございますし……ゴホンッ!!
け、警備兵達ッ!! ……この方々をお見送りする様にッ!
い、良いな?!
“至ってごく普通の旅人”をお見送りする様にだぞッ?! 」
《――と、何か大きく勘違いしたまま警備兵達にそう伝えた門番。
その直後……警備兵達は一行の乗る荷馬車に対し
一行が通過し終わるまでの間“最敬礼”のまま微動だにせず
一行の荷馬車が見えなくなるまでその頭を上げる事は無かった――》
………
……
…
《――ともあれ
“ちょっとした”騒ぎの後、無事に大門を通り抜ける事が出来た一行
その一方で、主人公は荷馬車に揺られつつ――》
「……俺は普通に話してたけど、良く考えたら
ミカドさんってこの国において相当尊敬されてるのかな?
まぁ、お陰ですんなり通れたのは良いけど
あれじゃ正直目をつけられそうだし、まさかとは思うけど
出口側とかでも同じ様な扱いを受けるんじゃ無いだろうな……」
《――などとブツブツ独り言を言い続けていた主人公。
……暫くの後
そんな主人公の独り言は“現実の物”と成ってしまい――》
………
……
…
「……荷馬車の一団、其処で止まりなさい。
西地域への入域を希望する場合は
通行手形……入域の理由……身体検査
荷馬車内の検査等を受けて頂きます……まずは通行手形を」
「は、はい……これでお願いします」
《――例に依ってミカド直筆の署名入り通行手形に目を通した瞬間
西地域の門番も態度がガラリと変わり――》
「すっ……全ての検査は免除と言う事で!!
たたたっ……大変失礼を致しましたッ!!! 」
《――言うや否や主人公に向け“最敬礼”をした門番
直後、慌ててそれを制止した主人公が――》
「あ……あの“やんごとなき地位の人達”扱いして貰えるのは光栄ですが
そんな事よりも質問が……」
《――そう訊ねた瞬間
門番は食い気味に――》
「な、何でしょう!? ……何なりとお申し付け下さいッ! 」
「いぃっ?! い、いやその……ゴホンッ!
……い、一応ミカドさんから地図は頂いたんですけど
サーブロウ伯爵邸へ向かうにはどっちに進めば……」
《――と、彼が話し終わるよりも前に
門番は――》
「この道を真っ直ぐ行けば直ぐですが……いえッ!!
念の為……警護をつけさせて頂きますッ!! 」
「い゛っ!? いやいやいや!! そんな大げさな……」
「いえ! そうと決まれば……一番隊!
御一行様の護衛任務に着けッ! ――」
《――門番がそう命じた直後
一番隊を形成する二〇名程の兵士達は一行の乗る荷馬車を警護する為
迅速かつ、物々しい雰囲気を醸し出しつつ荷馬車の周囲に立った。
の、だが――》
「えっ? ……っていやちょっと門番さん?! これは流石に……」
「いえッ!! 重要な方々に何かが遭ってはいけませんのでッ!
一番隊、隊長に命ずるッ!
御一行様をサーブロウ伯爵邸までの道中安全にお送りする様にッ!
立ち開かる者有れば……即座に切り捨てて構わんッ! 」
「ハッ!! ……」
《――この想定を上回る特別扱いに若干引いていた一行。
一方……そんな事はお構いなしかの様に
命令を受けた一番隊の隊員達は荷馬車の警護を開始した。
だが……道中、幾度と無くすれ違う旅人達の全てに過剰な程反応し
その度に抜刀“しまくった”一番隊の隊員達。
一行が邸宅へ到着するまでの間この“大騒ぎ”は続き、そして――》
………
……
…
「主人公様ッ! ……あの城がサーブロウ伯爵邸でございますッ! 」
《――強面の一番隊隊長は主人公に対しそう言った。
だが、突如として真横からとんでもない声量で
そう“叫ばれた”主人公は仰け反る程に驚き
胸を抑え、上ずった声で――》
「たぁ……助かりましたっ!!! 」
《――そう精一杯に返事をした。
の、だが――》
「いえッ! ……到着するまでが警護でございますのでッ!
もう少々……警護させて頂きますッッ!! 」
「ひぃっ?! ……わ、分かりましたから!! 」
《――この時主人公が感じた率直な気持ちは
“今絶対脅されたよねっ?! ”……だったと言う。
ともあれ――》
………
……
…
「到着でございますッ!! 」
「ひぃっ?! ……」
《――暫くの後サーブロウ伯爵邸の正門へと到着した瞬間
再び“仰け反る程に驚き、胸を抑え上ずった声を挙げさせられた”主人公は
伯爵家の門前に付けられた呼び鈴らしき物を一度押した。
暫くの後、一行の元へと執事らしき男性が現れた
だが、彼は一行の荷馬車へと近付くと――》
「どういったご用件でしょう? 」
《――と、少々無愛想に訊ね
対する主人公は――》
「そ、その……突然の訪問、ご迷惑かとは思いましたが
サーブロウ伯爵の執筆為さった絵本ついてのお話をお聞かせ願いたく
本日お伺いした次第なのですが……」
《――と、彼なりに精一杯丁寧に答えた。
だが、執事らしき男性は――》
「……お帰り下さい。
貴方様の他にも、今まで数多くの方々が
伯爵様の執筆為さった絵本のファンだと“偽り”
山の様に押し寄せました。
その度に伯爵様は
“ファンサービスの一環なら仕方ないだろう”……と仰られ
私はその度にその者達を邸宅へお招きしました。
ですが、その全てが伯爵様のお優しさに付け入る下衆の集まりで有った事
その事に依って伯爵様は酷く傷つきに成られ
今やあの絵本のお話をされただけで体調をお崩しに成られる程なのです。
ですからお帰り下さい……冷やかしはこれ以上ご遠慮頂きたく」
《――そう言い終わると同時に
踵を返し屋敷へ帰ろうとした男性……だが。
その背中に向け突如として発せられた凄まじい怒号――》
………
……
…
「……貴様ッ!!! 使用人風情の一存で
我が国と他国との友好関係に傷をつけると言うのかッ!?
貴様がどう有っても御一行様を伯爵に会わせぬと言うのならば
私自ら、貴様と貴様の主を叩き切ってくれるッ!!! 」
《――と、酷く憤慨し
腰に下げた剣に手を掛けつつそう言い放ったのは
一行の警護をしていた“一番隊の隊長”であった。
一方、そんな隊長を落ち着かせようと
必死に説得する主人公だったが――》
「ちょっ?! ……隊長さん! そんな風に脅しちゃ駄目ですって!!
と言うかそもそも俺達は……」
「いえッ!! ……国賓に対してこの様な扱い
我が国の恥と成ってしまうのです! ですから、此処は私にお任せをッ!!
……使用人ッ!
貴様の一存で伯爵の地位や名誉……汎ゆる全てを崩壊させると言うかッ?! 」
《――と、尚も憤慨した様子で
執事らしき男性を“脅した”一番隊の隊長
……暫くの後、そんな大騒ぎを聞きつけたのか
この屋敷の主であるサーブロウ伯爵は慌てて現れ――》
「な……何が有ったのだ?! 」
「は、伯爵様っ?!! ……申し訳ございません! 」
《――余程慌てていたのだろう。
ガウン姿で一行の眼前に現れたサーブロウ伯爵は
寝癖混じりな焦茶色の髪に白髪が混じり、緑の眼をした……
……所謂“アジア系では無い”見た目をしていた。
この“大騒ぎ”の中、その事に何故か若干残念そうな表情を見せつつも
主人公は――》
(……ああ“サーブロウ=三郎説”は無かったか)
「あ、あの……大騒ぎに成ってしまって本当に申し訳有りません。
俺達は決してサーブロウ伯爵様に悪意を持ち現れた訳では無く
俺達は、と言うか……主に俺がなんですが
伯爵様のお書きに成られた絵本について
その情報を一体何処で手に入れたのか、そしてそれは実現可能な物なのか。
正直、色々とお訊ねしたい事だらけでして……ですが
そちらの執事さんが仰られた――
“心無い者達から優しさに付け入る扱いを受けた”
――と言う件について考えると、正直
お訊ねする事自体、躊躇してしまう次第です。
でも……信じて下さい。
俺は、そんなつまらない事をしに来た訳じゃないんです
本当に純粋に、絵本の内容に関する情報だけを教えて頂きたくて……」
《――と、サーブロウ伯爵に対し真剣に話していた主人公。
一方、絵本と聞いた時点で眉間にシワを寄せ
酷く怪訝な表情を浮かべていた伯爵……だが
主人公の真剣さに次第に耳を傾け始め……
……全ての想いを伝えた後
深々と頭を下げた主人公に対し――》
「分かった……君を信じ、特別に絵本の事について話そう。
但し、それ以外の話や私の気分が悪くなる様な行動
発言……その他諸々が有った時点で速やかにお帰り願う事になる。
……それでも良いかね? 」
「はい! ……ありがとうございますっ!! 」
「成程……では、君達は立派なお客人と言う事だ。
ポール……饗しの用意を頼めるか? 」
《――執事らしき男性に対しそう命じたサーブロウ伯爵
直後、一行が伯爵邸へと招かれ応接室へと案内された頃
サーブロウ伯爵は一行に対し少々恥ずかしそうに――》
………
……
…
「その……“ガウン姿”では流石に
我が家の名に傷が付いてしまうのでね……着替えの時間を貰いたい」
《――そう言い残すと服を着替えに自室へと戻った伯爵。
暫くの後――》
「……お待たせして申し訳無い。
お詫びと言っては何だが
“絵本”に描いた元ネタの“お茶とお茶菓子”を用意させた。
荷馬車旅は疲れただろう……さあ、遠慮せずに」
《――サーブロウ伯爵がそう言うと
使用人達は“お茶とお茶菓子”を一行に提供した
瞬間――
“こ、これはッ?!! ”
――提供された“物”に興奮した主人公は
この直後――
“これ緑茶ですよね?! それにこっちのは……きな粉餅だ!! ”
――そう言って目を輝かせた。
一方のサーブロウ伯爵は少し驚いた様な表情を見せ――》
「き、君……何故その二つの“正式名称”を知っているんだね!?
私の絵本には正式名称など記載していない筈だよ? 」
《――と、少しばかり彼を警戒した様な口振りでそう訊ねた伯爵
すると――》
「あ、いやその……ミカド様の事は御存知ですよね? 」
「ああ、知っている……だが、あの御方に提供した物は……」
「ええ、本人から聞きました……納豆、くさや、麦茶でしたっけ? 」
「またしても全て正式名称を……だが
あの御方にすら正式名称を伝えた覚えは無い……一体君は何者なんだね? 」
「そ、その……伯爵様、あまり大勢に聞かせたい話でも有りませんので
出来ればお耳を……」
「あ、ああ……」
《――警戒する伯爵の耳元に近づくと
彼に対し
“貴方は転生者ですか? ”
と、訊ねた主人公。
だが、静かに首を横に振った伯爵は――》
………
……
…
「……君の質問の意味がいまいち理解出来ないが
恐らく私は“それ”に該当していない。
その上で訊ねるが、君は先程
“何処でこの情報を手に入れたかを聞きたい”
と言っていたね? 」
《――この質問に“はい”と答えた主人公。
その返事を確認すると、サーブロウ伯爵は使用人達を下がらせた上で――》
「良いかい? ……これから私が話す事の全てを口外してはいけない。
約束を守れると言うのならば、私の知る……絵本には載せていない
“真実”の一部を話そうと思う……どうかね? 」
《――そう訊ねたサーブロウ伯爵
直後、これを了承した主人公に対し――》
「……ならば話そう。
先ず……私の絵本で描かれている道具や食べ物は全て
“実在の物”だと言う事は、立て続けに正式名称を答えた君ならば
恐らく分かっているだろう。
私は……その実在する物に少しの空想を混ぜ、絵本とした訳だが
本来ならば夢物語の様に書きたくは無かったのだよ。
故に……完成した絵本の形も
本来は私の希望していた物では無くてね……」
「と、言うと? 」
「私の得た知識、絵本の所謂“元ネタ”は
私が長らく世話になった一人の老人から得た知識なのだよ。
その老人曰く……
“……ワシはこの知識の所為で
前に居た場所で恐ろしい争い事に関わる事と成ったのじゃ。
それ故、今度は争い事の起きぬ様ひっそりと……
……此処を訪れた人々にのみ楽しんで貰うに留めたいのじゃ”
幾度と無くそう言っていた……だが、それでも私は
“どうにかこの素晴らしい物や食を世界に理解させたいのだ
貴方が危惧する争いなど起きぬ方法で”
……と、老人に対し再三頼み込んだ。
彼は相当に悩んで居たが、やがて……
“……では絵本として描き、半分以上の空想を混ぜ
正式な名前を書かず……そしてこれが重要じゃ。
製造方法を絶対に書かないと言うのならば特別に許可しよう。
……長い付き合いじゃし
伯爵の頼みと有れば無下にも出来んしのぉ”
――そう特別に許可をしてくれた。
それ故、君が正式名称を言い当てた事に私はとても驚いているし
あの老人の関係者かと考えもした……それこそ
あの老人の言う“争い”の関係者か? ……ともね。
だが……どうにも私には
君がそう言った恐ろしい手合いには見えなくてね。
だからこそ単刀直入に聞くが……一体どう言う事なのかね? 」
「その……俺が正式名称を“言い当てた”って仰られましたけど
言い当てたんじゃなくて……知ってたんです。
と言うか、それらは全て俺の……何と言うか……故郷の物ですので」
《――主人公の話す一瞬の“間”に疑いの眼差しを向けた伯爵
直後彼は主人公に対し“ある質問”をした――》
………
……
…
「ふむ……ならば一つだけ訊ねる。
“温泉”……と聞いて、君が思い浮かべる物は? 」
「温泉ですか? ……う~ん……」
《――思い悩む主人公を真剣な眼差しで見つめ続けて居たサーブロウ伯爵。
一方、長考の末――》
「……真面目な答えなら
“体の疲れが取れて癒やされる場所”ですけど
不真面目な答えなら“混浴は汎ゆる意味で罠! ”……ですかね? 」
《――と、返答をした主人公。
サーブロウ伯爵はこの返答に暫くの間沈黙し、そして――》
………
……
…
「……どうやら私の勘違いだった様だ、疑ってすまなかった。
君は間違い無く、あの老人と同じ場所を故郷に持つ者なのだね? 」
《――と、少し警戒心の取れた表情でそう訊ねたサーブロウ伯爵
一方――》
「……と、言われましても
その“老人”と仰られる方がどんな方かを知らないですし……」
「ふむ……ならば彼の元を訪ねると良い。
……きっと癒やされるだろう。
まぁ……若しくは君の言う“罠”に掛かるのかも知れないが
どちらであっても結局は……癒やされるのだろうがね」
「そ、それは一体どう言う……」
===第八十一話・終===




