第七十九話「海賊退治って楽勝ですか? 」
《――直後、兄妹の家の前へと到着した一行とミカド。
だが……海賊に関する情報を少しでも早く知りたいと言う気持ちがそうさせたのか
家の前にたどり着くなり、勢い良く扉を叩きまるで時代劇か何かの様な口調で――
“頼もぉ~っ! ……頼もぉ~っ!
……東地域を統括しているミカドである!
貴君らには国防の為、是非とも協力を願いたい件があって参った次第だ!
留守でなければ直ちにこの扉を開けて貰いたい!”
――と、信じられない程の大声で呼び掛けたミカド。
そして――》
………
……
…
「は、はいっ!? ……只今っ!! 」
《――と、少々慌てた様子で玄関の扉を明けたのは子供達の母であった
彼女はミカドを確認するや否や、深く頭を垂れつつ――
“ど、どの様なご用件で御座いましょうか?
ミカド様にご助力出来るのであればこれ以上無い程の栄誉でございます!”
――と、これ以上無い程に恐縮しつつ
ミカドに対し要件を訊ねた。
すると――》
「ああ、その様に緊張をせずとも良い……訊ねたい事は一つだけだ。
この国から攫われ、海賊船の乗組員と成る事を強要されていた
元海賊の子供達が在宅なのであればぜひ話を聞かせて貰いたい」
《――そう問われた瞬間、少し動揺した様子の母親だったが
その様を見逃さなかったミカドは、続けて――》
「……誤解の無い様先に言っておくが
私は別に海賊であったと言う子らの過去を断罪しようと訪れた訳では無い
私は唯海賊に関する情報を聞きに来ただけだ。
……それと、タダで情報を寄越せとは言わない
協力して貰えると言うのならば
それなりの報酬も用意する事を約束しよう……どうだろうか? 」
《――ミカドは終始丁寧にそう訊ねた。
……暫しの沈黙が流れた後
ミカドの背後にいる主人公達の存在に気付くと
少し安心した様子で子供達を呼びつけた母親――》
………
……
…
「は~い! ……ってミカド様っ?! 」
《――現れるなり早々にミカドの存在に気付き、思わず尻もちをついたテル。
遅れて現れたサナは兄を心配していた。
……ともあれ、驚きのあまり言葉を失っていた二人に対し
目線を合わせる為、膝を付いたミカドは――》
「……君達の過去を責めるつもりは無い
寧ろ劣悪な環境で生き残る為には苦労も多々あっただろう。
良くぞ生きて帰ってくれた……だが、防衛設備の増強がもう少し早ければ
君達が斯様な憂き目に遭う事も無かっただろう。
……本当に申し訳無かった」
《――そう言うとミカドは二人に対し深々と頭を下げた。
これに慌て、頭を上げる様ミカドの肩に触れたテルとサナ
そんな二人に対しミカドは優しく微笑むと――
“類は友を呼ぶとは良く言った物だ”
――そう言うと振り返り、主人公に視線を送った。
一方……その意味を理解出来ずキョトンとしていた主人公に
ミカドは再び微笑み……直後
一つ咳払いをすると、再び真面目な表情で――》
………
……
…
「いや、失礼……話が脱線してしまった。
……今日私が訪れた理由だが
君達二人には海賊について訊ねたい事があるのだ。
……と言うのも、二度と君達の様な被害を受ける国民が出ぬ様
私達は国家の防衛網を増強し続けているのだが
防戦一方では根本的な解決とは成らない。
出来る事ならば直ぐにでも海賊を排除したい……そう思っている次第だ。
故に、様々な策を練っていたのだが
天啓とでも言うべきか……私の後ろに居る者達は皆
君達二人を無傷で救出する程の腕前を持っている。
それで……私は彼らの協力を得て
海賊掃討作戦を展開するつもりなのだよ……だが
敵である海賊の本拠地が私達には分からない。
其処で、君達二人が知っている海賊の情報を全て教えて貰いたいのだ
奴らを壊滅させ、この国の民の安全を再び取り戻す為にも
是非協力をして貰いたいと思って居る……どうだろうか? 」
《――決して子供をあやすかの様な対応はせず
終始二人に対し一人の人間として接し続け、誠心誠意頼み込んだミカド。
そんな彼女に対し、二人は――》
「……お、おいら達で役に立てる事なら全力でお手伝いします!!
本拠地……か、どうかは分からないけど
沢山の海賊船が集まる島に行った事は有ります!
その場所なら……おいら覚えてる! 」
「わ、私も……怖い海賊さんが沢山居たの覚えてます! 」
《――二人のこの返答に
その場所の正確な位置を確認する為か
慌てて懐から地図を取り出し二人に確認させたミカド
すると――》
………
……
…
「おいら達の居る国が此処なら……多分、此処らへんだと思う! 」
「……間違い無いね? 」
「う、うん! ……でも
実際の海を見た方がもっと分かりやすいけど……」
《――と、少し自信なさげなテルを見つめて居たミカド。
暫く何かを考えた後、二人の母に対し――》
「申し訳無いが、息子さんを案内人として……数日で構わない
預かる訳にはいかないだろうか? 」
《――そう、訊ねた……だが
二人の母はこの申し出に対し――》
「ミカド様、非礼をお許しください……ですが
奇跡の様な確率で命からがら帰って来る事の出来た私の愛しい子供達を
その様に危険な場所へ再び送るなど……
……どれ程の報酬を頂こうとも、簡単に飲める様な事柄ではありません」
《――母親として至極真っ当な反応であった。
無論、ミカドもこれに理解を示した……だが
更にミカドは続けた――》
「……ならばその海域付近まで同行させ、本拠地らしき場所を確認出来次第
一度この国まで帰還し家へと送り届けた後
改めて此方で殲滅作戦を行う……これならば最低限の危険で済む筈だ」
《――そう対案を出したミカド
すると……母が答えるよりも早く
テルは――》
「……おいら、ミカド様の役に立ちたい!!
それに……主人公兄ちゃん達なら絶対に余裕で勝っちゃう気がするんだ!
上手く説明出来ないけどおいらにはそう感じるんだ!
だから母ちゃん! ……おいら、母ちゃんが反対したとしても
ミカド様や主人公兄ちゃん達に協力するよ!
絶対に無事に帰ってくるから! ……お願いっ!!! 」
《――母親を説得する為、そう必死で頼み込んだテル。
一方……暫しの沈黙の後
彼の母は、テルを優しく抱きしめ――》
「私が知らない内に沢山成長していたのね……分かったわ。
貴方が無事に帰ってくる事を信じて
お母さんは貴方の大好物を用意して待っています。
……ミカド様、場所を確認したら
必ず、真っ先にテルを我が家へと連れ帰ってください。
主人公様、皆様……どうか私の大切なこの子の事を宜しくお願いします」
《――そう言って深々と頭を下げたテルの母に対し
ミカドは――
“私の命に代えても守ると約束しよう”
――と言った。
そして――》
………
……
…
「お兄ちゃん……頑張ってね! 」
《――別れ際テルに対しそう言った彼の妹サナ。
そんな妹に対し、テルは――
“おう、心配すんな! ”
と、少し格好をつけて返事を返したのだった――》
………
……
…
「……す、すげぇ。
嘘みたいに直ぐに到着した……主人公兄ちゃんすげぇや! 」
《――直後
主人公の転移魔導に依ってミカドの居城に転移したテルは
驚いた様子で目を輝かせそう言った。
そんな彼を交え……この後、彼女の居城では
ミカド直属の精鋭兵の他、日之本皇国の抱える海軍兵達が大勢集められ
テルの記憶に残る“本拠地”の情報共有、及び
海賊掃討作戦の為の立案など、様々な話し合いが行われた……そして
テルを同行させての“下見”に万全を期す為
本作戦に彼らを同行させる
“筈”だったのだが――》
………
……
…
「……ミカド様、その子供は兎に角としても
昨日今日現れた得体の知れぬ者達を当てに海賊の本拠地を目指すなど
些か不用心が過ぎるものかと存じます」
《――集まった海軍兵の一人がそう言った事で
それに同意する者もちらほらと現れた。
だが、ミカドはこれらの意見を一蹴すると――》
「ほう? ……では聞くが
彼らが私より強い者であれば信用するとでも言うのか?
……もしそうだと言うのならば先に話しておこう。
私はつい先程、彼らに要求を飲ませる為
此処に居る主人公君との決闘をした。
……だが、その戦いは一瞬で決着がついた。
笑える程に容易く……“私が敗北した事で”な」
《――ミカドがそう言い放った瞬間
兵達は皆動揺の色を見せた……だが
これを気にも止めず話を続けたミカドは――》
「更に言えば彼は私に“攻撃”をした訳では無い。
私は本気で掛かったつもりであったが……まるで
“か弱き乙女かの様に”優しく眠りに落とされたのだ。
仮に彼らが真の敵であったならば
眠りに落ち、動かぬ私を殺める事すら出来た筈……だが、そうはしなかった。
……敵大将の首を取らぬ間者が何処に居る?
それ所か彼は、私を優しく目覚めさせると
酷い要求をした私を責めもせず、私達の国を憂いた。
“油断が過ぎる”とな……
……“もっと警戒を強めるべきだ”となッ!
それでも尚信用出来ぬ、協力出来ぬと言うのならば
私は貴様ら“お飾り海軍”の手など借りず彼らと共に征こう。
……だが一つ言わせて貰おう。
年端も行かぬテル君や……いや、主人公君もそうだが。
これ程の若人が私に付き従い協力すると宣言してくれた一方で
貴様ら借りにも“兵士”と名乗る者達がこの場所を動こうとせず
危険だ危険だと怯え続けるのであれば
貴様らは自らの矜持すら守護出来ぬ恥知らずと知れッ! 」
《――そう言い放った。
すると、ミカド直属の老兵は――》
「……ミカドお嬢が其処まで信頼する男ですか。
それは是非とも一度戦ってみたい物ですが……
……恐らくはワシも容易く負けるのでしょうな。
お嬢……少なくともワシは協力させて頂こうと思っております」
《――そう言うとミカドに対し、頭を下げた老兵
そして――》
「……主人公と仰られる御方はそちらの御仁ですな?
我が国の“小童共”が随分と恥ずかしい所をお見せしてしまった。
老兵で邪魔かと思いますが……ワシも世話に成らせて頂きますぞ」
《――会釈をしつつ
そう言った老兵に――》
「い、いえいえ! ……こちらこそ宜しくお願いします!!
是非一緒にこの国をもっと安全にしましょう!
テル君やサナちゃんが経験した様な経験を二度と民達の誰にもさせない為に! 」
《――そう返事をした主人公。
一方……その様を見ていた反対派の兵達は
少し居心地が悪そうな表情を浮かべていた。
……ともあれ。
暫くの後、偵察任務の為港に到着したミカドは
ギュンターに対し“老兵”を始めとするミカド直属の精鋭兵達数名を
オベリスクへ同乗させる事への許可を取っていた。
これを快諾したギュンター……だが
いよいよ出港と成ったその時――》
………
……
…
「ミカド様!! ……先程は申し訳有りませんでした!!
玉砕覚悟で……我々も同行させて頂きたくお願いに上がりましたッ!! 」
《――と、現れるなりミカドに頭を下げながらそう願い出た者達は
先程ミカドの作戦に反対していた海軍兵達であった。
だが、そんな兵達に対しミカドは――》
「……それでは同行を認められない。
私は彼の母と話し、協力条件として
彼を同行させるのは“偵察任務だけで有る”と約束した。
……彼を無事に家まで送り届けると約束をした以上
君達が言う“玉砕”では困るのだ。
必ず生き残ると宣言出来ない者達の同行は認めない、帰りたまえ……」
《――ミカドがそう言うと
海軍兵の将校は彼女に対し――》
「ぶ、部下が失礼を! ……では“護衛任務”を務めさせて頂きたくッ! 」
《――と、言い換えるとそのまま敬礼した。
暫しの沈黙の後……これに対し微笑むと
快く彼らを偵察任務の人員として認め受け入れたミカド。
だが……偵察任務の性質上、同行する軍艦は“二隻のみ”と限定し
軍艦の中でも出来るだけ小さく、且つ
目立ちづらい物を同行させる事を要求し……
……“護衛任務”と言う体であるにも関わらず
何れの軍艦もオベリスク後方左右と言う陣形で編隊を組む様に要求し
海軍兵達もこれに異を唱えず了承した。
の、だが――》
………
……
…
《――出港後
暫く進んだ所で小さくため息をついたギュンター
直後、何かを察するとギュンターの肩を優しく叩き
励ます様な素振りを見せたディーン。
……一方、それに違和感を感じた主人公は
ディーンにそっと近づくと、何事かと訊ね――》
「ああ……ギュンターがため息をついた理由か?
あまり大声では言えないがな……背後に付き従う軍艦の何れもが
編隊すらまともに組めない程の練度で有った様でな……あれでは
確かに海賊の相手は出来ないだろう……」
《――と、声を落とし説明したディーン。
だが“地獄耳”を持つミカドは、これに対し大層申し訳無さそうに――》
「……すまない、正直あまり褒められた話ではないのだが
我が国の海軍は先程私が言った通り
“お飾り”程度の実力しか有していないのだ。
理由は明白だ……偏に“実戦経験”が圧倒的に足りて居ない。
そもそもが他国の海軍を真似て
急ごしらえで作り上げた、つい最近出来たばかりの海軍だ。
……数が多ければ海賊も迂闊に手は出せないだろうと言う
“全地域会議”でつい最近取り決められた存在なのだよ。
どうか……彼らの拙さには目を瞑って頂きたい」
《――そう言うと頭を下げたミカド
これに少し慌てた様子のギュンターは――》
「……ミカド様、私めの個人的意見で申し訳御座いませんが
貴国の軍艦の造船技術……特に
砲門を含む武器系統の造りには相当に光る物が有る様に思います。
兵の練度は……ミカド様の仰られる様に
“経験が物を言う”所も御座いますが……そもそも
立ち上げ当初から強い軍など何処を探しても存在致しません。
あまりお気に為さらず、寧ろ私めの不遜な態度をお許しください」
《――そう言って頭を下げた。
直後、謝罪を受け入れた上でミカドは――》
「とは言え……貴殿の様に
練度の高い者ばかりであれば問題など直ぐに解決するのだがね……」
《――と、少し残念そうに告げ
それに否定とも工程とも取れない表情を返したギュンター
ともあれ……引き続き本拠地へ向けての航行を続けて居たその時
突如として遠くに見える小さな島を指差し――
“あった! ……あの島だ! ”
――そう言ったテル。
直後――
“間違い無いね? ”
――と、真剣な表情で訊ねたミカドに対し
最大限の自信を持って返事をしたテル。
すると――》
「有難う……では一度、テル君を家へと送り届ける。
助かったよテル君……君はとても強い男だ」
《――そう言ってテルを褒めると
ギュンターに対し撤退を要求したミカド……その指令が聞こえるや否や
直ぐに船を反転させ帰還の進路を取ったギュンター
だが――》
………
……
…
「失念しておりました……拙いですな」
《――同行した軍艦に目をやりつつそう言ったギュンター
……彼の巧みな操舵技術とは比べるまでも無く
同行した海軍兵の圧倒的な練度不足は事態を“拙い”方向へと向けた。
……船を反転させる事すら覚束ず
海流の影響をまともに受けた軍艦は
見る見る内にテルの指差した“本拠地”へと流された……そして
その事にいち早く気がついたギュンターは、直ぐ様ミカドに訊ねた――》
「……お救いに成りますか?
それとも……“お母様との約束”をお守りに成られますか? 」
《――ギュンターのこの質問に
ミカドは苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべた。
そして、少し考えた後――》
「見捨ててくれて構わない……約束を破る事だけは避けたいのだ
嫌な事を訊ねさせてしまい、すまなかった」
《――ギュンターの眼を真っ直ぐに見つめそう言ったミカド。
だが、この答えに対しギュンターは――》
「そうですか……ですが、私めの個人的な考えでは
この場合は彼らを助けるべきで御座いましょうな」
《――そう言ったギュンターに対し
少し慌てた様子で――
“何故か?! ”
――と訊ねたミカド
だが、ギュンターは決して情に絆されて居た訳では無かった。
直後、彼の答えた内容はとても“戦略的”で――》
………
……
…
「……もしも今“お飾り海軍”の実力が露呈してしまえば
海賊達は全勢力を集め、直ぐにでも日之本皇国を襲うでしょう。
彼らの所為で日之本皇国自体が“玉砕”では
結果的にテル様をお守り出来ない事態に陥るかと。
これはあくまで……個人的な意見ですが」
《――そう告げたギュンター
対するミカドは――》
「……テル君、何があろうとも君の命は私が守り抜く。
約束を違えてしまう事……許して貰えるだろうか? 」
《――そう訊ねた。
すると――》
「うん! おいらはミカド様に認められた“男”だ!
大丈夫さ! 」
《――そう笑顔で答えたテル
これに対し、ミカドは――》
「……立派な男だとは思っていた、だが
君は私の想像を遥かに超えた立派な男なのだね。
では、ギュンターさん……全力で我が海軍の“尻拭い”を! 」
《――ミカドがそう言い放った瞬間
再び船を反転させたギュンター
そして――》
………
……
…
《――酷く流された軍艦二隻は
“本拠地”まで後少しの距離にまで迫っていた。
いつ海賊が現れてもおかしくは無い状況……警戒しつつも
逸早く二隻を救出する為か
一度二隻を追い抜くと二隻の軍艦に狙いを定め、鉤縄を射出したギュンター
直後――》
「いやはや……久しぶりに使用致しましたが
腕は鈍って居なかった様です……」
《――そう言った彼の狙い通り
確りと二隻の軍艦を捉えて居た鉤縄
……直後、オベリスクの有する圧倒的な推進力を用い
ギリギリの所で二隻を無事に引き戻したギュンター……だが
二隻の船を引き戻したオベリスクの背後
“本拠地”の入り口を指差しながらテルは叫んだ――》
「あ……あれッ!! 」
《――そう叫びながら指差した場所には“立て看板”が建てられて居た。
これを望遠鏡で確認したギュンター
すると――
“日之本皇国の有する軍に告ぐ、貴様らが来る事は予見していた
我らを一網打尽にしたかったのだろうが……残念だったな!! ”
――そう、書き殴られていた。
周辺の海域には何の気配も無く
此処まで近づいた軍艦に対し何の反応も無かった事を鑑みれば
立て看板に書かれた内容に嘘偽りは無さそうで――》
………
……
…
「くッ……何れにしろ、一度日之本皇国へ帰還を」
《――苦々しい表情を浮かべ
静かに帰還命令を出したミカド――》
===第七十九話・終===




