第七八話「辿り着けたら楽勝ですか? ……後編」
《――取り囲まれ、半ば強制的に“誘導”され
尋問官らしき女性の居る場所へ移動する事と成った一行
そして――》
………
……
…
「……誘導ご苦労。
さて……貴方達が荷馬車から降りる前に一つ忠告をして置く
少しでも妙な動きをすれば、全員即座に命を失う事となる
素直に応じて貰えれば私も嫌な仕事をしなくて済むのだ。
……理解してくれたか? 」
《――腰に下げた剣の柄頭に手を置きつつそう言った彼女。
一分の隙さえ感じられぬ彼女を刺激しない為か
主人公は――》
「ええ、俺達から攻撃する事は決してありません
抵抗は勿論、妙な動きなんて絶対にしません
俺達は探し物をしにこの国に来ただけですから」
《――そう下手に出つつ
過剰な程にゆっくりと荷馬車から降りた主人公。
そんな主人公を見習ってか、子供達に至るまでが
皆ゆっくりと荷馬車から降り始めて居た
その時――》
「ッ?! ……全隊員、抜剣ッ! 」
《――突如として隊員らにそう命じた尋問官の女性
突然の事に慌てた主人公は――》
「なッ?! 何もしてないのに何故剣を抜いたんですかッ?! 」
「“何もしていない”……か、確かにな
だが、貴様の横に居る女が問題だ!
……その者からは僅かに“鬼”の気が漂っているッ!! 」
《――マリーンを睨み据えたままそう言った尋問官の女性
だが、そんな彼女に対し主人公はすかさず――》
「お、鬼ぃッ?! ……いやそりゃあ確かに
マリーンが怒った時は“鬼かな? ” って言う位怖いですけど! 」
「ちょっと主人公ッ?! ……どう言う意味よッ?! 」
《――突然の暴露
いや……“暴言”に怒ったマリーン。
……だが、そんな様子を見ても尚
尋問官の女性は眉一つ動かさず続けた――》
「“茶番”はその程度にして貰おう……二度訊ねるのは面倒だ。
……何故、その女から“鬼”の気配がするのか
理解出来る様、説明して貰おう……」
《――そう言うと再び柄頭を強く握り
主人公を見据えたこの女性――》
「わ、分かりましたから! ……そ、その
“鬼”って言うか……“魔族”はご存知ですか? 」
「ふむ……他国の者からその様な呼び名を聞いた事ならばある
我が国で言う所の“鬼”と同様な種族で有るとね。
……その女がそうだと言うのか? 」
「えっと、その……“半分だけ”ですが……」
「半分だと? 一体どう言う……いや
私を謀ろうとして居る様には見えない。
……詳しく話す事を許可しよう」
「で、では簡潔に……彼女は
この国で言う所の“鬼”と人間のハーフなんです。
でも、決して人々に仇為す存在とかでは無いですし
彼女自身もその事で今現在も悩んで居ますし
その事を問題視するのだけは止めてください……
……勿論、貶したり蔑んだりもです」
《――鬼神の如き気迫を発し続けて居た彼女に対し
主人公は精一杯の勇気を振り絞りそう言った。
すると――》
「……ほう、軟弱な見た目とは裏腹に
男としての心得は有る様だ……その勇ましさ、嫌いでは無いぞ?
……では、更に問おう。
貴様の連れて居る“緑の皮膚をした”その者達を私は初めて見た
その者達は……一体何者だ? 」
「彼らは……“ゴブリン”と言う種族です
彼らも本来ならば人間を襲う種族と言われ
この国で言う所の“鬼”同様に恐れられています。
ですが、彼らも……」
「“問題は無いから敵視するな、貶すな、蔑むな”……
……と言うのだな? 」
「は、はい……お願いします。
それと……この国で騒ぎを起こそうなんて考えは
俺達の誰一人として持って居ません。
……寧ろ、俺達に何か不満があるとするなら
そこで捕まってる“移動船”の船長さんが
俺達を囮にしようとして居る事が
腹立たしくて仕方が無いって位ですし
それに、その人が海賊と裏取引をして居たと言う証拠に成る
決定的な情報を持つ方々の事を、俺達は知っています。
……その人達は元々この国の出身者で、ある日海賊達に攫われて
海賊船の乗組員としてこき使われて居た“子供達”です。
彼らは昨日帰国し、その日の内に
彼らの両親の所へと俺達が送り届けました。
……詳しい話は“入国審査官”がご存知の筈ですし
もし嘘だと思われるのであれば
子供達のお宅まで俺達が責任を持ってご案内致します
とは言え、ちょっと遠いので本当は嫌ですが……」
「……真っ直ぐな眼差しをして居る、虚言では無さそうだな。
では最後に聞こう……君達はこの国にどうやって入国した?
停船所には君達が乗れる様な立派な船は無い様に思うが? 」
《――尋問官の女性がそう訊ねた瞬間
ギュンターは静かに手を挙げ――》
「それは……私めの固有魔導でございます」
「何? ……船でも出せると言うのかね? 」
「ええ、お察し頂いた通り
私めの固有魔導は船を出現させる事が可能で御座います。
……その為、そちらにお座りの船長様が運行為さっている
汎ゆる意味で“高くつく”船に乗らずとも
この国を訪れる事が出来たと言う訳でございます」
「ほう……では今すぐにこの場所に出現させる事も可能と?
いや、失礼した……船ならば水場に移動し……」
《――尋問官の女性がそう言い終わる前に
“この場でも可能で御座います”
と、言ったギュンター
すると――》
「ほう? ……ならば今すぐに出現させてみせよ
それが出来たなら貴様達の言い分を大筋で認めよう」
《――と、少し不満げに言った尋問官の女性
対するギュンターは――》
「左様でございますか……で、あれば皆様
少々お下がり下さいませ……」
《――そう言って尋問官の女性や多数の兵士達
野次馬達に至るまでを下がらせ
何時もの様にオベリスクを出現させたギュンター
だが、敢えて一切の偽装を施さず完全なる本来の姿で
この場へとオベリスクを出現させた彼に対し
浴びせられる事と成った“言葉”は――》
「な……バ、化け物か?! ……」
「に、人間じゃねぇ! ……どこからこんな物出した?! 」
《――民衆は皆、口々にオベリスクをそう形容し
ギュンターに恐れ慄いて居た……だが、そんな中
唯一人、尋問官の女性だけはギュンターに対し――》
「先に謝罪しておく……私の配慮が足らなかった様だ。
さて……民達よ
たった今からこの船……と言うか何処からどう見ても戦艦だが。
兎に角……この船を含め、この一団に対し
“貶す、若しくは蔑む”様な言葉遣いをする事は断じて許さん。
……異議があると言う者には予め警告しておく
それは“私に唾を吐き掛けた”のと同義で在ると」
《――尋問官の女性が柄頭に手を掛けながらそう言うと
民衆は水を打った様に静まり返った。
その上で、この女性は――》
「改めて謝罪を、民草の発言を許して頂きたい……この通りだ」
《――深々と頭を下げそう言った
だがこれに慌てた主人公は――》
「い、いやその……頭を上げてください!
ギュンターさんも怒ってないと思いますし!
……って言うか寧ろ沢山の人に驚いて貰えて
喜んですら居るんじゃないかと思いますから!
そ、そのッ! 俺達は大事にしたい訳じゃ無くて!
とッ、兎に角……あ、頭を上げてくださいッ! 」
《――必死に取り繕い
そう告げた主人公の顔を暫く見つめた後
尋問官の女性は――》
「ふっ……ふっはははっ!! 何とも愉快な御仁だっ! 」
《――そう言うと更に笑い続けた
だが、突如として笑われてしまった主人公は意味が分からず――》
「おッ、俺……何か変な事言いましたッ?! 」
《――と、素っ頓狂な表情で聞き返し
それを見た尋問官の女性は更に腹を抱え笑い始めた。
だが……流石にこの“妙”な状況には
主人公も仲間達もモヤモヤとし始めて居て……
……暫くの後、漸くそんな彼らの様子に気づき
息を整えた尋問官の女性は……瞬時に真剣な面持ちへと
その表情を“戻した”上で
主人公に対し――》
「いや、すまなかった……これ程の技を有する者を仲間に持ち
味方の誰もが相当な手練と見える上
最も実力を有して居るであろう君からは
全くと言って良い程に殺気や悪意らしき物を感じない。
……寧ろ、其処らに居る子供と変わらぬ程の純粋さで
必死に取り繕い、初対面の私に対し
其処まで過剰に気を使う様を見てはな……ふふっ。
いや、失礼……良くぞ無事でこの国へと訪れてくれた
誤った嫌疑を掛けてしまった事
重ねて謝罪させて貰おう……」
《――そう言うと再び主人公に対し頭を下げた尋問官の女性
再び主人公が慌てた様子で頭を上げる様要求すると
少し微笑み、暫くの間主人公の事を
“愛でた”尋問官の女性……だが、その直後
ハッと我に帰ると、少し慌てた様子で自己紹介を始め――》
「ゴホンッ! ……申し遅れた、私の名前はミカドだ
東地域を纏める……」
《――そう自己紹介をした尋問官の女性
もとい“ミカド”を遮る様に、主人公は慌てた様子で――》
「え゛ッ?! で……では
貴女が“豪剣のミカド”と呼ばれて居る……」
「おや? ……既に知られて居たか。
如何にも……私がその“豪剣のミカド”だ
しかし、良からぬ噂で無ければ良いが……どうだろうか? 」
「えッ?! ……ええ、勿論!
凄い強い剣士様だとお聞きしましたが
それは“良い噂”で合ってます……よね? 」
「ああ、それならば良かった……所で
君の名前を伺っても良いだろうか? 」
「あッ、はいッ!! ……俺の名前は主人公です!
海を隔てた政令国家って言う国から
ある物を探しにこの国まで来ました! 」
「ほう、政令国家とな……聞いた事は無いが
さぞ優秀な者達が多い国なのだろう
君や、君のお仲間を見て居ると、そう思わざるを得ない」
「お褒めに預かり……こ、光栄ですッ!
それでその……一つだけ質問を!
よ、宜しいでしょうか? ……」
「ふむ、構わないが……酷く緊張して居るね?
もしかして、私に“許嫁が居るか”とでも訊くつもりかな?
因みに……君の様に可愛い顔の男の子ならば嫌いでは無いよ? 」
《――そう微笑みながら
少し冗談交じりにそう告げたミカド――》
「い゛ッ?! そ、そうでは無くて!! ……」
「ふふっ……すまない
からかい甲斐の有る反応をするのでつい……ね。
……聞きたい事は“探し物”についてかな? 」
「はい! ……その、俺達は今
ある絵本の作者を探してまして……その絵本の作者が
“サーブロウ伯爵”って言う名前で……」
「君……今、誰と言った? 」
「えッ? ですから、サーブロウ伯爵と……」
「……君は幸運だ、この国に訪れた事も
私と話をした事も、この私に認められた事もね。
だけど……その男が目的だと言うのならば
“不運”と言う他無いだろう……悪い事は言わない
あの様にイカれた老人には近付かない事だ
恐らくは相当に嫌な思いをする事になるだろうからね」
「イ、イカれた老人? ……それは一体どう言う……」
「詳しい話をするにしても、他国からの客人に対し
“立ち話で終わらせた”とあっては我が国の格が落ちかねない。
……もし、迷惑でなければ私に付いて来て貰いたい
だけどその前に、一つだけ質問をして置こう。
主人公君……」
「は、はい……何でしょう? 」
《――そう聞き返した瞬間
主人公に急接近し、彼の胸ぐらを掴むと
主人公の顔を引き寄せその“臭いを嗅いだ”ミカド
そして――》
「最初から気には成って居たが
君からは何故か薄っすらと“動物の死臭”がするんだ
飲み屋の店主に聞いた情報とも合致する……
……“噂”を流したのは君だね? 」
《――先程までとは打って変わり
氷の様に冷たい表情で主人公に対しそう訊ねたミカド
そのあまりの気迫に主人公の体は硬直し
指一つさえ動かす事が出来ず居た……そしてこの直後
精一杯に目を逸しつつ――》
「は、はい」
《――と、だけ答えた主人公
そして――》
「質問に答える時は、目を見てくれるか」
《――冷たくそう言った彼女の目を
恐る恐る見つめた主人公に対し――》
「主人公君……私はね
彼処に居る船長が言う様な“良からぬ企み”を
君達がして居るとは到底思えないし
そもそも思って居ない……そして、君達の中に
誰一人として悪人と呼ぶべき者は居ないと確信して居るし
私も、私の信頼する“入国審査官”も
人を見る目は腐っていないつもりだ……だが、それでも
君達に対して一つだけどうしても許せない事が在る。
何か分かるかな? ……」
「い、いえ……ご機嫌を損ねる様な事を……」
「恐らくは癖だろうと分かっては居るが
そう謙らず黙って最後まで聞きたまえ主人公君。
私はね――
“他国に訪れて早々、他国の捜査機関をかき乱す様な”
――そんな無礼者達が虫酸が走る程嫌いなのだよ。
何処かで何らかの不正を知ったのなら
何故素直にその事を然るべき機関へ伝えず
寧ろ騒ぎを引き起こす原因に成る様な行動を取ったのか
確りと説明して貰いたい。
まさかとは思うけれど――
“我が国の程度を試した”
――そんな話じゃ無いだろうね? 」
「そ、その……仰る通りな部分が半分
目立つ行動を控える為に敢えて変装し
この国の“暗部”と呼ばれかねない物を
見やすくする為……過ぎた事をしてしまったとは思っています。
けど、実際そこに居る船長さんは! ……」
「成程、分かった――
“我が国の捜査能力が低い事に痺れを切らし協力しただけだ”
――と言う訳だね? 」
「そ、そんな恣意的な受け取り方しないで下さい!
俺達は唯ッ! ……」
「分かって居る……そんなつもりで無い事位はね。
けれど――
“敢えて泳がせて居たのに”
――余計な事をしてくれた理由には成らないよ? 」
「そ、それは一体どう言う……」
「何れにしてもここでは色々と目立つ
それと、その作戦の立案は君じゃ無いね? ……
……恐らく立案者は彼だ。
その件に関しても聞きたいんだ
君の仲間達も含め全員付いて来て貰おう……と、その前に」
《――そう言って主人公から手を離すと
主人公に対しその場から動かぬ様に命じた。
直後――》
「……六道一閃流奥義
六之陣:地獄道・獄門――」
《――柄頭を強く握り、静かにそう呟いたミカド
その場から動いた様子の無い彼女の視線の先では
船長以下、主犯と見られる者達の首を一周する様な
“赤い筋”が入って居た。
……だが、一見すれば意味不明なこの状況を前に
唯一人、主人公だけはある“既視感”を感じて居た。
その一方で――》
「……さて、この後の光景は刺激が強い。
直視しない為にも、出来るだけ早く荷馬車に乗り
私の馬について来なさい……民達も背を向けて置く様に」
《――愛馬に跨りそう言うと
少し急ぎ気味に先導を始めたミカド……直後
そんな彼女に遅れぬ様、慌てて荷馬車へと乗り込んだ一行の背後では
罪人達に対し一斉に背を向けた民衆と
“赤い筋”から鮮血が噴き出し
次々と絶命した“罪人達”の姿があった――》
………
……
…
《――暫くの後
彼女の居城を目指して居た一行は
道中、道行く民達がミカドに一礼し
中には彼女に対し手を合わせ
祈りを捧げる者まで見られた事に
僅かながら違和感を感じて居た……そして
そんな様子をぼんやりと見ていた主人公は、思わず――》
「これは……余程慕われて居るか
余程“怖がられて居るか”のどちらかだよね……」
《――先導を続けるミカドに聞こえぬ様
荷馬車の中でひっそりと皆に語り掛けた
“つもり”であったのだが――》
「ふっ……私は“半分半分”だろうと思うがね」
《――と、本人に直接応えられ
背筋を凍らせる結果と成ったのであった――》
「いやそのあのえっとあの……ゴメンナサイ」
「ふふっ……相変わらず面白い御仁だ」
《――ともあれ
……この後、ミカドの居城へと辿り着いた一行は
城内部の貴賓室へと案内され――》
………
……
…
「さて……早速だが本題に入ろう」
《――到着早々
開口一番そう言ったミカド……彼女は
重苦しい表情を浮かべつつ――》
「君達が海賊船を沈めた張本人である事は
私も何と無く理解して居る……だが
それを責めようと言う訳では無い……先程も言ったが
泳がせて居たにも関わらず
それを邪魔されてしまった事が何とも面倒でね。
其処で……君達には二つの内
一つの事柄を選び協力して貰いたい……そうすれば
君達に対する罪は全て免除しよう。
更に、それだけでは無く……個人的にはお勧め出来ないが
“どうしても会いたい”と言うのならば
サーブロウ伯爵に関する情報も
私が知る限りで良ければ教えてあげよう……どうする? 」
《――と直球な質問をした
そんな彼女に対し、主人公は――》
「ご迷惑をお掛けしてしまったのは事実ですし
申し訳無いとは思っています……けど
何れにしても内容に依ります。
俺達が海賊船を轟沈したのは
単に降り掛かる火の粉を払っただけですから
それを罪だと言われても困ります」
「ほう……私に対しその様に無礼な発言をした者は久々だよ
けれど“愛らしい顔”に免じ、特別に許そう。
……“内容に依る”と言ったね?
では、説明してあげよう……一つ目は
そちらのギュンターさん、貴方に我が国の防衛力と成って貰う事だ」
《――そうミカドが言い放った瞬間
即座にこれを拒否した主人公、だが――》
「主人公君……私は、せっかちな者と“話を遮る者”を好かん
最後まで聞きなさい……二つあると言ったでしょう?
二つ目は……一つ目の内容を受け入れられぬ場合
この海域を暗躍している
“海賊”の討伐任務を一定期間担当して貰う事だ
此方は貴方達の有する“戦力”ならば充分可能な筈だと思うが。
……どうだろうか? 」
《――そう問うたミカドに対し
主人公は――》
「先ず、入国早々
数々のご迷惑をお掛けしてしまった事を謝罪します
でも……一つだけ疑問があるんです。
生意気な返答で申し訳無いですが、俺の質問に答えてください
その内容に依っては……協力も考えます」
「ほう……何を聞きたい? 」
「俺達が“入国審査官”からこの国の武力についての説明を受けた際
俺やその他の魔導師に対し
かなり非礼とも思える宣言を受けました。
“魔導師や、トライスター程度で”……と言う風にです。
……唯、それが誇張で無く紛れ無い事実なのだとしたら
なぜ“程度”と蔑む者達に対しそんな重要任務への協力要請を?
それも半ば言いがかりの様な理由で俺達を脅してまで。
俺には理解出来ないんです……ミカドさん自身
今仰った様な卑怯な論法を
心の底から嫌って居る様に思えるのに。
これは俺の“見当違い”でしょうか? 」
《――ミカドに対し、そう訊ねた主人公
すると――》
「やはり……君は有能な男の様だね。
……仰る通り、こんな“言い掛かり”で君達を利用するのは
本来なら虫酸が走る程に嫌で嫌で仕方が無い。
だが、悲しい事に“豪剣”やら“剣神”と謳われる私の剣ですら
船対船の戦いでは全くの役立ずでね……その上
更に歯痒い事に、私達の国には
魔導を使える者が殆ど居らず
遠距離攻撃を得意とする者も数少ない……仮に居たとしても
潤沢な装備を持つ海賊相手では
太刀打ちが出来ない程度の実力しか有さない者達なのだよ。
それで……一度、他国から魔導師やトライスターを雇い
対海賊任務を任せてみたが、結果は惨敗。
人数の問題かと思い、更に大量に雇った事もあった……だが
悪しき前例の二の舞に成っては元も子も無いと考えた私は
念の為……私を含め、剣豪と呼ばれる職業を生業とする者達と
一騎打ちで“模擬戦闘”を試した……だが、結果は言うまでも無く
五対一であっても此方が圧勝してしまった。
だからこその“入国審査官”の言葉なのだ
因みに……彼も剣の腕は一流でね。
……彼の発言は君達に取って無礼な物だったかも知れないが
そう言う事情も鑑みて貰いたい」
「成程……そうだったんですね。
……その、俺が思うに恐らく“剣豪”って職業は
地上戦なら最強に最も近い職業かも知れません。
けど、そうなるともう一つ疑問が……」
「ほう……何かな? 」
「そ、その……其処まで“結果”が見えて居るのなら
何故海賊達はこの国に対して
一斉に攻めて来たりしないんです? 」
「ああ……君が考える事も理解はして居るよ
けれど、我が国にも一応は“海軍”と呼ばれる物がある。
……それに加え、沿岸部に設置した大砲を用い
近付く海賊船を攻撃する程度の事は出来るし
仮に上陸されても陸の上ならば負ける事など無いだろう。
それを知ってか、海賊達も無闇に
我が国に攻め入ろうとはしなくなった……だが
今のままでは一生掛かっても我が国に安寧は訪れない。
“せめて本拠地が判明すれば”……と
あの移動船の船長を泳がせて居たのだが
今回の事でそれも無駄骨と成ってしまった。
……それが真実だよ」
「ありがとうございます……真実を聞けてホッとしました
それなら手伝います……たとえ俺だけでも」
《――突如として主人公の言い放ったこの提案に
仲間達は驚いて居た……だが
主人公は更に続けた――》
「唯、個人的に一つだけモヤモヤとした疑問があるので
それだけ解決出来たら本気で協力します……構いませんか? 」
「うむ、聞こう」
「では……一度、俺と一騎打ちで決闘して貰えませんか? 」
《――主人公がそう言った瞬間
先程の惨状を見て居た仲間達は
慌てて主人公を制止した、だが
仲間達を宥めつつ彼は続けた――》
「無論、お互いに死んだり死なせたり
怪我したり怪我させたりとかは絶対に嫌なので
致死性の無い感じでお願いしたいんです。
……それこそ“峰打ち”にして貰えたら!
って……良く考えたらその剣は両刃ですよね? 」
《――主人公がそう言うと
ミカドは慌てた様子で主人公を問い質した――》
「ま、まさか……私の剣筋が見えて居たのか!? 」
「いいえ? ……何にも全く見えませんでしたよ?
ミカドさんは一歩も動いてない様に見えてましたし
鬼神の如き凄まじさを思い出して今も恐怖してる位です。
唯、鞘の形状が
“両刃っぽいな~”……って思ってそう言っただけです」
「そ、そうか……それで、一体どうなったら勝ちなのか
ある程度は君が決めれば良いが……どうする? 」
「ミカドさんは剣ですから、俺の体のどこに当てても勝ち
要するに“一本取れたら”ミカドさんの勝ちって事で!
逆に俺は魔導師なので
ミカドさんを“行動不能”にすれば勝ち……
……って感じでどうでしょう? 」
「成程……日時は何時、何処で行うつもりかな? 」
「えっと……今、此処で」
「それは“この部屋で”……と言う事かい? 」
「ええ……あッ! 勿論
調度品とかは壊さない様にしますのでッ! ……」
「そんな物は構わないが……それより
魔導師である君にはとても不利な条件だと思うが
一体何故この部屋を選んだのかな? 」
《――そう訊ねたミカドに対し
主人公は何故か少し尊大な態度を取り――》
「“不利”かどうかは……やってみてから決めてください
但し、皆は危ないから部屋の外へ出ててくれ」
《――そう応え
ミカドはこの挑発を真っ向から受けた。
……直後、皆が部屋から出たのを確認すると
早々に部屋の鍵を閉じた主人公……そんな彼の異質な雰囲気に
ミカドは僅かに警戒しつつも――》
「開始の合図はどうする? 」
「では、この金貨を投げますから
これが地面に落ちたらって事で! 」
「良かろう……だが、私の剣は君が言った様に両刃だ。
“非致死性”と言う以上
鞘か剣の鎬が君に触れた場合
君の負け……と言う事で良いのかな? 」
「ええ、それでお願いします……俺は
ミカドさんを行動不能にすれば、それがどんな方法であっても
そうなった時点で俺の勝ちって事で構いませんよね? 」
「……ああ、仮にも豪剣のミカドと恐れられて居る私だ
行動不能にされてしまえば負けを認めざるを得ないだろう。
それで構わない……では合図を」
《――直後
天井に向け金貨を投げた主人公……だが、金貨が床に落ちた瞬間
ミカドは主人公の喉元を的確に
剣の鞘で軽く叩いた……筈だった。
だが……この直後、ミカドの持つ鞘にはヒビが入り
主人公自身も全く苦しんでは居らず
急ぎ鞘を当てた“筈”の喉元に目をやったミカド。
攻撃部位には“黒い粒子”……そして、彼女の“視線”に呼応する様に
彼女が狙おうとする場所全てに“先回り”し
彼女の動きの全てに先手を打ち続けた……だが
これに全く動揺の色を見せなかったミカドは――》
「……“唯の優男では無い”とは思って居たが
中々に恐ろしい技を持って居るのだね? ……確かに
並の剣豪では決して勝てないだろう。
だがッ! ――」
《――直後
瞬時に距離を取った彼女は
ヒビの入った鞘だけを持ち、剣を置き
宛ら“居合術”の様な構えを見せ……
……額を伝う汗が目に染み入ろうとも
瞬き一つせず、一切の隙を見せず居た。
暫しの後……主人公が瞬きをした瞬間
彼女は、常人離れした速度で突進し
凄まじい勢いで鞘を振り抜いた――》
………
……
…
「なっ!? ……避けら……れた……だ……と? ……ッ……」
《――直後
そう言い残しその場に倒れたミカドは
自らの背後に立つ主人公を睨みつけた後
強い“眠気”に抗えず
そのまま強い“睡眠状態”に陥った。
……だが、何故主人公は詠唱も無く睡眠の魔導を使用出来たのか?
その答えは、この時彼が使用して居た
“トライスター専用技”にあった――
“裏起動:
全ての技を無詠唱且つ通常よりも早く発動させる効果を持つ
但し、裏起動発動中の魔導消費は
通常時の一〇倍と成る”
――直後、閉じられて居た部屋の扉を開くと
仲間達を部屋へと戻した主人公。
そして――》
………
……
…
「いや~……“実際に見ると”迫力が凄くて怖かったな。
っと“目覚めのベル”――」
《――直後
ミカドを目覚めさせた主人公
一方……目覚めた瞬間、ミカドは負けを悟り
拳を強く握ると、自らの敗北に対する悔しさを
静かに顕にして居た。
そして――》
「約束だ……君の望みを聞こう」
《――そう、何かを諦めた様に言い放ったミカド
だが、主人公の答えはミカドの想像とはまるで違って居て――》
………
……
…
「では、一つ目ですが……魔導師とかトライスターを
“程度”って思っちゃう認識の甘さを
せめて、ミカドさんだけでも改めてください。
とは言え、正直“普通に戦ってたら”俺程度じゃ
ミカドさんには絶対に勝てる気がしませんでしたけど。
でも、その反面……今まで出会った魔導師達とは
“たまたま有利な条件で戦えて居ただけ”
……そんな可能性だって有った筈です。
敵の実力を見誤るのは国を護る上で
最低の認識だと思いますし、余りにも油断が過ぎてると思います。
もっともっと警戒をしてください
出来る事なら全国民にこの事を徹底して欲しい位です」
「なっ?! 油断など……いや、済まない
私は実際に負けた……君の言う油断が故だろう。
即座にそうさせて貰う……それで、君は今“一つ目”と言ったが
二つ目は何が希望なのかね……」
「えっと……見て貰えば分かりますが
俺達ってかなりの“大所帯”なので、宿代とか結構困るんです。
なので、数日か数週間か分からないですけど
少なくとも東側にいる時だけでも、宿代の免除
若しくは、ご迷惑に成らない場所での
“オベリスクの使用”をお許しください。
……構いませんでしょうか? 」
「そ、その様な簡単な事ならば許可するが
これだけの結果を出しておきながら、本当にそれだけで良いのか? 」
「ええ! それと……どちらもお許し頂けるって事なので
“海賊退治”の方も協力したいと思います……けど
タダ働きは流石に嫌なので幾らかは報酬を下さい。
その……旅をするにもお金が掛かりますし
子供達の食費位は稼ぎたいので! ……流石に駄目ですかね? 」
「いや、海賊退治に協力して貰えると言うのなら
それなりの報酬も用意しよう」
「では決定で! でもその前に一つだけ謝罪を……その
何と言うか……“卑怯な戦い方”してごめんなさい」
「ん? 君は正々堂々と……」
「いえ、その……俺、ミカドさんの使ってる“流派”
何から何まで知ってるんです……隠しててごめんなさい」
「何っ?! ……どう言う意味だ?! 」
《――直後、酷く警戒し
慌てた様子でそう訊ねたミカドに対し――》
「詳しい話はあまり話したくありませんが……言う為れば
俺は“免許皆伝”って感じでして……」
(……と言うか、この世界で長らく生活してて漸く
この世界を作り上げる時に参考にした“俺の好きなゲーム”の
俺の持ちキャラの技がそのまま出て来たから
ギリギリ対応出来たってだけなんだけどね。
ま、そんな事絶対に言える訳無いよな……)
《――内心そんな事を考えながら
受け答えて居た主人公に対し、ミカドは――》
「成程……嘘を吐いて居る様には見えない。
唯……疑って居る訳では無いが
真に免許皆伝だと言うのなら、表の奥義では無く
“秘奥義”の構えを今、此処で披露して貰う訳には行かないだろうか?
と、とは言え!! ……技を発動させる事は避けて貰いたい」
《――と、僅かに怯えた様子でそう言ったミカドに対し
これを快諾した主人公は彼女に対し
“秘奥義”の構えとその名称を伝えた――》
「い、いえその……俺も
“発動”は流石に勘弁して貰いたいので助かります。
そ……それで“秘奥義”って多分ですけど
六道一閃流:天界道・有頂天の事ですよね? 」
「間違い無い……その構え
そして、その名を知って居る時点で免許皆伝なのだろう
だが……それにしては君に物理適正が有る様には見えない
お世辞にも“構えがキマって居る”とは言えないし
第一……“剣”も持って居ないではないか」
「け、剣ですか?! ……み、見せたくないけど持ってますよ?
あッ、でも! ……け、決して“性的な意味”の
比喩表現的な“剣”では無くてですねッ?! 」
《――そう言うと主人公は“何故か”顔を赤くした
だが、そんな彼の様子にはまるで興味を示さず
彼の腰に提げられた“水晶”に目を移したミカドは――》
「……その水晶は確かに剣の柄に見えなくも無いが
刀身が無い剣など……いや、まさか!? 」
《――“魔導之大剣”を見つめつつ
何かを察した様にそう言ったミカドは、口元を抑え
主人公の様子を窺って居た――》
「そ、その……恐らく
ミカドさんが思ってる事が正解だと思います……唯
凄く危ないし“燃費”が悪いのであまり使いたく無いんですけどね」
「と言う事は……君は宛ら
“魔導剣士”とでも言うべき存在なのだね。
故に構えに若干の差があると……だが
他国にも私と同じ流派を使う者が居ようとは
だが、師匠は私に一子相伝だと……いや、済まない。
……これ以上は君も余り話したい話では無いだろう。
さて……海賊については調べの付いて居る所と
一切判明していない部分が半々だ……だが、君は先程
海賊船の乗組員に攫われたと言う者達を救出し
親元へと返した……そう言って居たね? 」
「ええ、言いましたが……」
「それならば、その者達に訊ねれば
敵の本拠地を知る事が出来るかも知れない。
そうと決まれば、先ずは
その家に案内して貰いたいのだが……構わないだろうか?
先程君は酷く“面倒そう”に言って居たが……」
「い、いえその状況が状況ですので……“転移魔導”で構わなければ
それで移動したいのですが、宜しいですか? 」
「ああ、迷惑でなければ……頼めるだろうか? 」
「勿論です! ……では、ミカドさんも
皆も俺に掴まって! ……行きますッ!
転移の魔導、テル君サナちゃん達の家の前へ! ――」
===第七八話・終===




