第七五話「目的地が見つけられたら楽勝ですか? 」
“敵意の無い魔族達の集落”を後にした一行は
日之本皇国行きの船が出ると言う港を目指して居た。
道なりに進む内、周囲に潮の香りが漂い始め……
……木々の隙間から微かに見え始めた巨大な船の帆に
興奮を抑えられず居た一行。
……だが、更に近付くにつれ
遠くからでも一目瞭然な程の
巨大な帆を有するその船が
まるで“小舟”に思える程の“大海”が見え始め……
「……この大海を渡れば
主人公様が“目的地”とお定めに成られた
“日之本皇国”に辿り着く物かと思われます」
港に到着後
皆に対しそう説明したギュンターだったが……
……眼下に広がる大海に圧倒され
皆“それどころ”では無かった。
だが、この直後“大きめの咳払い”で注目を集めた彼は
更に……
「……さて、警戒すべきは“海賊”で御座いますが
現状“どの海域でどの時間帯が危険なのか”など
詳細な情報は一切持ち合わせておりません……ですので
安定した船旅の為にも
情報収集を行う事を強くお勧め致します」
ギュンターのこの提案に賛同し
直後、情報収集を行う事と成った一行。
……この後、要らぬ騒ぎを起こさぬ為
少数での情報収集を提案した主人公は
ギュンターとディーンの二人を連れ
港周辺での情報収集を開始した……だが
十数分程の後……
◆◆◆
「お帰りなさ~い! 役に立ちそうな情報とか有りました~? 」
そう、明るく訊ねたマリアに対し
酷く落ち込んだ表情を見せた主人公。
「な……何でそんな暗い雰囲気出してるんですか?!
まさか、日之本皇国が“無い”……とか?! 」
「いやそれは大丈夫だマリア……間違いなくあるし
直行便のチケットも売ってたから……唯、その……」
そう言って俯いた彼は
直後“ある情報”を口にした。
「此処を出発したら、その……
……政令国家への“定期連絡”が、出来なくなるみたいなんだ。
出港後暫くなら大丈夫みたいだけど
ある程度海を進むと、何処かのタイミングで
魔導通信が出来なくなるらしい。
けど……一度向こうに上陸した後
此方に“転移で帰ってくる”とかは出来るみたい。
唯、これにも制限はあるみたいでさ
川岸とか海岸に飛ぶ事は出来ても、直接
何処かの国に飛ぶのは難しいみたいで……」
そう酷く落ち込んで居た主人公に対し
ガルドは
「ふむ……で、有るならば主人公よ
皆、出港前に連絡を入れたい相手も多い事だろう。
そうで無くとも……今の内に
“暫く連絡が取れぬ”と伝えておくべきであろう? 」
「確かに……じゃあ取り敢えず……」
この後
最後の定期連絡を繋げた主人公。
……涙する者や、笑顔で別れを告げた者
そして、主人公は。
◆◆◆
「ええ、なので……日之本皇国って所に行って
それでも目当ての情報が無かったらこの旅を終えて
一旦、政令国家に帰ろうかなって思ってます」
「そうかい……暫く顔を見られないのは残念だが
何れにしても、もう少ししたら
主人公ちゃん達は帰ってくるんだね? 」
「はい! ……とは言え“精霊族の件”もありますし
帰還後もまた改めて旅をする可能性は大いにありますけど
何れにしろ直ぐに帰ります! 」
「そうかい! ……なら寂しくは無いさ。
主人公ちゃん達の探している物が見つかる様
陰ながら祈っておくとしようかねぇ……だが、その代わり
帰って来たら約束通り、あたしに一番に
“ただいま”って言っておくれよ? 」
「ええ! ……勿論ですッ!! 」
「良い返事だ! ……さて
あたしはそろそろ晩の仕込みをするから
主人公ちゃん達も怪我の無い様に無理せず過ごすんだよ! 」
「はいッ! ……ミリアさんもお元気で! 」
◆◆◆
この後
旅の集大成とも言える目的地への不安と期待を胸に
ついに出港する事と成った一行。
とは言え……高額な乗船料と子供達の事を考えれば
“移動船”を利用する事は得策とは言えず
熟考の後、オベリスクを用い
目立たぬ場所から出港する事を選んだ一行……だが。
この選択は後に、ある“騒動”を引き起こす
原因と成ってしまうのだった……
◆◆◆
「いや~流石はオベリスク、海の上でも安定してますね~」
「お褒めに預かり光栄で御座います主人公様……ですが
本来オベリスクは船で御座いますので、少々複雑でも御座いますね」
「それもそうですね! アッハッハッ! 」
出港後
順調に航海を続けて居たオベリスク
当然の様に周囲から見えるオベリスクの姿は偽装され、
その姿は何処にでもありそうな
小さな“木造船”の様相をして居た。
そして、その姿から想像出来る速度を決して超えぬ様
ギュンターは慎重な舵取りを続けて居た。
◆◆◆
一方、港では“移動船”が出港の準備を進める中
船長に対し、ハンチング帽を目深に被った一人の男が
静かに耳打ちをして居た……
「成程……それは頂けない。
この海域を移動する時は
必ず、私の“移動船”を利用するのが暗黙の了解である筈
何処の田舎者かは知らないが“ボロ船”で密航とは。
だが……その様な輩が増えでもすれば
此方も示しがつかん……報告ご苦労。
駄賃だ……さて、そろそろ出港時刻だ
後は私が……“処理”しよう」
「へい! 毎度っ! ……」
船長から駄賃を受け取ると、船から降り
何処かへと立ち去って行ったハンチング帽の男。
◆◆◆
一方……出港後暫く経ち船内で昼食を取って居た一行は
メルの“ある”大きな変化に興味を示して居た。
「……いや~それにしても航海中に食事って
何だか豪華客船にでも乗ってる様な気分になるね~!
……ってかメル、何だか今日は“良く食べる”ね? 」
隣に座るメルに対し
そう訊ねた主人公……
「えっと……そのっ、何だか
不思議な位にお腹が空いててっ……」
「メルよ……御主は既に
吾輩でも感心する程に食べて居るぞ?
もしや……“妊娠”でもしたのでは無かろうな?
もし、そうであるならば……主人公、責任は取るのだぞ? 」
このガルドの“ド直球な発言”に対し
耳まで真っ赤になりつつ全力で否定したメルと主人公。
しかし……彼がそう考えてしまう程
メルの食事量は常軌を逸して居た。
……この、あまりにも凄まじい食欲に
皆が呆気に取られて居た一方で
突如として思い出した様に語り始めたのは
精霊族のベンだった……
「あっ! ……そう言えば!
ねぇねぇメルちゃん! つい先日固有魔導を手に入れたよね? 」
「は、はいっ! お陰様で習得出来ましたけど
何故、今その話題をっ?? 」
「いや、メルちゃんの固有魔導って
端的に言うと
“オーク族の権化”みたいな感じだったでしょ?
だから……恐らくなんだけど、固有魔導発動後は
“オーク並みに食べる様に成る”
……みたいな副作用が出るんじゃないかな~って思ってね! 」
「そう言えば……確かに
固有魔導後からお腹が空いてた様な気がしますっ……」
そう言うと、少しばかり恥ずかしそうにしたメル
一方、そんな彼女に対し……
「別に恥ずかしがらなくて大丈夫だよ!
気を使わずどんどん食べて! ……沢山食べるメルも素敵だから! 」
そう言った主人公。
この後、彼の言葉に頬を赤らめつつ
引き続き食事を楽しんだメル……一方、主人公を含め
既に食事を終えていた者達は、食後の休憩がてら
甲板で周辺の様子を確認し始めて居た……
◆◆◆
「それにしても、まさかメルが固有魔導を……それも
明らかに“物理特化”なのを習得しちゃうとはびっくりだったなぁ」
周辺を見渡しながらそう言った主人公に対し
マリアは……
「ええ、私もビックリしました! ……と言うか
固有魔導発動中のメルちゃんって
ガルドさんより大きな身体に成ってましたよね?
正直、物理職の“先輩”な私としては若干ジェラシーだったりも? 」
「えッ? ……い、いやまぁ分からなくも無いけど
てか、固有“魔導”なのに物理特化な物があるのには驚いたよ」
そう言った主人公に対し
マグノリアは……
「いえ、何も不思議では有りませんワ?
ギュンターさんやディーンさんの固有魔導も
ある意味では物理型と呼ぶべき物ですもの。
それに、本来固有魔導とはその人の持つルーツや好み
それらを反映して生まれる物ですワ?
第一、魔導に限界は有りませんワ? ……その上
“特異な生まれの者”ならば尚更……」
と話すマグノリアを遮る様に
突如として遠くを指差し……
「待て……あの船、明らかに此方に近づいて居る
何やら妙な雰囲気だ……“海賊”やも知れん」
そう言うと
ギュンターに警戒を強める様指示を出したディーン
直後、慌ただしくなり始めた船内の様子に
食事を中断し甲板へと現れたメルは……
「おっ、おまたせしてすみませんっ! ……私も手伝いますっ! 」
少し慌てた様子でそう言った
だが、彼女を見るなりマリーンは……
「えっと……メルちゃん?
もしかして固有魔導発動して……る? 」
「へっ? ……してませんよっ?? 」
「じ、じゃあ……少し“食べ過ぎ”かも知れないわね」
「えっ? 食べ過ぎって……ど、何処かに鏡っ!
ハッ?! ……いやぁぁぁぁぁっ!!! 」
突如として悲鳴を上げたメルに慌て
勢い良く振り返った主人公。
直後、彼の目に写ったメルは……
「あ、あのっ……主人公さんっ……
こっ……こんな姿っ……み、見ないで下さいっ!! 」
常軌を逸した食欲のせいか
普段のメルよりも少々“大きく”なって居た彼女
端的に言えば……彼女は“ぽっちゃり”して居たのだ。
……言うまでも無く
彼女の固有魔導が持つデメリットが故なのだが
その一方で……顔を隠し、恥ずかしそうにして居たメルの事を
少しでも元気付ける為だったのか……
「……メル、気にしないでも大丈夫だ
きっとすぐに元通りに成るだろうし
仮にすぐには戻らないとしても全然問題無いよ!
だって……ムチムチっとしたメルも可愛いから! 」
そう言った主人公。
先程の“食事”と同じく、彼に取っては
“フォロー”のつもりだったのだろうが……
「ム……ムチムチって……ふっ……ふっ……
……“太ってる”って事ですねぇぇぇぇぇっ!!! 」
そう大声で泣き叫ぶと
逃げる様に操縦室へと姿を消したメル
当然、慌てて追いかけようとした主人公であったが……
「お待ち下さい主人公様!
貴方のデリカシーの無さが招いた結果
即ち“デリカ死”を責めても何にも成りませんわ!
メルさんとの問題はこの際
“時間が解決する物”として諦めるべきです!
それよりも……今はあの“敵船”への対応を優先して下さいませ! 」
と、至って真面目な顔で主人公に対しそう言い放ったタニア
当然、色々と“何か言いたげ”な様子の主人公だったが
差し迫る脅威を優先せざるを得ず……
◆◆◆
「……其処のボロ船!!!
死にたくねえなら大人しく停船してオレ達に従えッ!!! 」
直後
オベリスクに向けそう勧告した“敵船”の船長らしき男。
“敵船”は帆に髑髏を配した
見た目通りの、所謂“海賊船”であった。
……だが、この勧告に一切応じず
ギュンターは航行を続けた。
すると……
「チッ……いい度胸じゃねえか!
野郎どもっ!!! あのボロ船に鉛玉をお見舞いしてやれっ!!! 」
船長がそう命じるや否や
海賊船からは銃弾の雨が降り注いだ……だが
主人公の展開した防衛魔導はそれらを容易に防ぎ切り……
「チッ……魔導師が乗ってやがるのか!
野郎どもっ! あんなオンボロ船に乗ってる魔導師なんざ
大したタマじゃねえ筈だ!大砲でもなんでも
撃てるもん全て使って構わねえ!
……沈めちまうまで撃ち続けろっ!!! 」
直後
再びオベリスクに向けあらん限りの銃弾や砲弾……更には
弓矢まで用い、徹底的に攻撃を続けた海賊船の乗組員達。
だが、やはりその全てを防ぎ切った主人公
無論オベリスクには掠り傷一つ付く事は無く
尚も何事も無く航行を続けて居た。
一方……船長以下、海賊船の乗組員達は
皆呆気にとられ立ち尽くして居た。
……そんな中
これまで敢えて沈黙を守って居たギュンターは……
「……主人公様、ご苦労様で御座いました。
さて……そろそろ私めも反撃を致しませんと
このまま無視を続けて居ては些か失礼かと存じますが
ディーン様……宜しいでしょうか? 」
「任せる……だが、最小限度
且つ、一撃のみに留める様にな」
「承知致しました、ではご挨拶代わりに
副砲を一発だけ使用致しましょう」
そう言うと
オベリスクの副砲を海賊船に向け発射したギュンター
だが。
◆◆◆
「ふ、船が沈むぞ~っ!! ……」
彼の狙い通りに命中した砲弾は
僅か一撃にも関わらず
海賊船の船体を見事に“真っ二つ”に叩き割ってしまった。
「おや……想定よりも遥かに脆い船だった様で御座います
少々予定とは違いますが、仕方ありませんね……」
海賊船の想定外の脆さに
愚痴にも思える様な発言をしたギュンターは
この直後、運良く生き残り海賊船の“残骸”にしがみついて居た
数十名の海賊達に向け……
「さて、この中に生き残るに値する
“情報”を持つ者はおりますでしょうかな? 」
“拡声器”を用い、冷たくそう言い放った。
すると……
「た、助けてくれるってんなら何でもする!
アンタが情報を欲してるってんなら
知る限りの事を全て吐く!だからオレを! ……」
「いいや! おれの方がコイツより有用な情報を持ってるぜ!? 」
「んだとてめぇっ?!! ……」
生き残る為
我先に、と言い争い始めた海賊達
しかし、醜く言い争う海賊達に対し
「助かりたいが為の嘘を聞く程、私めも暇では有りません」
そう、切り捨てる様に言ったギュンター
だが。この直後……一人の“幼き海賊”は
そんな彼に対し、一際大きな声を上げた。
「ア……アンタ達を狙えって言った奴の事を知ってる!!!
妹の事を助けてくれるなら全部話す!!!
おいらの事は良いから……だから、頼むっ!!! 」
そう、必死に叫んだ“幼き海賊”
直後、この声を聞くや否や
「ギュンター……あの子供とあの子供の妹を乗船させろ」
「ご命令とあらば……ですが、ディーン様
幼子とは言え海賊で御座います……ご用心を」
この後、主人公の浮遊魔導に依り
“幼き海賊”と
その妹をオベリスクの甲板へと乗船させた一行。
◆◆◆
「がはっ!! ……げほげほッ!
た、助かったぁっ……って、何だこの船ッ?!
オンボロ船どころか“超弩級戦艦”じゃ……って!?
サナは?! ……サナ、無事か!? 」
「う、うん……テルお兄ちゃんも……無事? ……」
「ああ! おいらは大丈夫だ!
それよりも、サナ……何処も痛くねぇか?! 」
そうお互いを気遣って居た幼き兄妹
そんな中、ディーンはゆっくりと兄に近付き……
「さて……君の言う“情報”についてだが
我々に取って有益では無いと判断すれば
直ちに下船して貰う事になる……だが
この船の“秘密”を知った以上、生きたまま下船させる事は無い」
……そう、少々過剰に威圧した。
「う、嘘はつかねぇし絶対に有益だから聞いてくれッ!!
そ、その……おいらが
彼処で浮いてる“船長”の部屋の前を通り掛かった時
何時もみたいに魔導通信? ……って奴で
“移動船の船長”と話してるのが聞こえたんだ……
“見せしめにする、派手に分かりやすく
出来る限り、恐ろしく見える様
血祭りに上げてくれると助かる……報酬は何時もの倍出そう”
……って“移動船の船長”が言ってたんだよ!
だから、アンタ達を襲う様に指示したのは!! ……」
其処までを聞くと大きな溜息を吐いたディーン
そして、腰に携えた愛銃:オルトロスを構え……
「なっ?! ……待ってくれ!!
これ以上おいらが知ってる事は……やっ……止めッ……」
怯える兄へと向けられた銃口
直後、オベリスクの甲板に響いた一発の銃声……弾丸は
彼……の真横を通り過ぎ、彼の背後
オベリスクへとよじ登った海賊を貫いて居た。
◆◆◆
「……さて。
確かに有益な情報だ……約束通り君達の事は救おう。
だが、一つ約束して貰う必要がある。
勘の良い君なら既に理解して居るかも知れないが……」
「あ、ああッ! ……この船の“秘密”は誰にも話さないよ!
そ、その代わり……頼む! 妹の病気を治して欲しいんだ。
……装備を見りゃあ分かる
そっちのすっげえ高級そうな装備の
“小太りの姉ちゃん”は回復術師だろ? 」
海賊の少年テルは、あろう事か
銃声に慌て甲板へと現れたメルをそう形容した……いや。
して“しまった”……
「小太りって……い、いやぁぁぁぁぁっ!! 」
直後
再び泣き叫びオベリスクの船内へと消えていったメル。
そして……
「あちゃ~……これは尾を引くだろうな
っと……か、代わりに俺が診るよ! 」
(何であんなに気にしてるんだろう?
ムチッとしたメルだって凄く可愛いのに……)
……この後、主人公の治癒魔導に依り
テルの妹、サナの容態は回復……その後
二人を船内へ招いた一行は
この海域を後にした。
◆◆◆
「お、おい! おれ達も助けろよ!! ……おいっ!!!
ふざけんなてめぇっ!!! おいッ!!! ……」
◆◆◆
一方、主人公らが去って暫くの事
“普段の航路”であるこの場所を通った移動船……だが
海賊船の残骸とそれにしがみつく海賊達を目の当たりにした瞬間
移動船の船長はこれに気付かないフリをしつつ
全速力でこの海域を去った。
……移動船の背後に投げつける様に発せられた
“裏切り者”と叫ぶ海賊共を置き去りにしながら。
◆◆◆
所は変わり、元海賊船の乗組員である
“テル”とその妹“サナ”を乗せたオベリスクは
再び日之本皇国を目指し船を進めて居た。
だが、そんな一行の真横を猛スピードで抜き去った巨大な船。
直後、テルはこの船を指差し――
「あ、あれだ! ……あれの船長だよ!!! 」
――そう、一行に伝えたが
ギュンターを含め、誰一人として報復的行動を取ろうとはせず
オベリスクを追い越し、尚も猛進する移動船を
敢えて見逃した。
直後、当然と言うべきか
この判断に疑問を呈すように
「や……やり返さなくて良いのか?!」
そう問うたテルに対し
ギュンターは……
「ええ……船長以下、今回の件に関わった者達には
必ず何かしらの手段を持って対応致します
ですが、あの船の“乗客”には罪は有りません。
故に
“彼らが下船するまでは穏便に”
そう、考えただけの話で御座います」
笑みを浮かべ、そう応え……
「そ、そうなのか……爺ちゃん、アンタ中々怖い人だな」
そうテルに言われると、再び笑みを浮かべ……
「ええ、海賊船を“真っ二つ”にする程度には
恐ろしい性格をしておりますので……」
と、少々皮肉めいた発言を繰り出したギュンター
この後、テルの心に密かに刻まれた彼への評価が
“この爺ちゃん敵に回したら一番ヤバイな”
であった事は、言うまでも無いだろう。
◆◆◆
所は変わり、同時刻。
主人公の申し出に依り、正式に
メリカーノア大公国の統治領と成ったロミエル法王国
改め“メリカーノア領:ロミエル地区”
……この地区が有する“研究所”
その、半壊した建物へと訪れていたのは
アルバート大公|率いるメリカーノア軍の精鋭兵士数人と
ニ名のトライスター“ペニー“と“ローズマリー”であった。
彼らは――
「さて、皆……主人公はこの研究所が
“危険な研究をして居た”……と言った。
と言う事は、我が国の軍事力を更に強大な物とする為に
何か役立つ物があるかも知れないと言う事だ。
何でも良い、手当たり次第に探す様に……頼むよ? 」
――アルバートの命令を受け、書籍や薬草
その他様々な物を手当り次第に探し始めていた。
そして……
「アルバート大公殿下! ……此方の本なのですが
何故かは分かりませんが
妙に厳重に保管されておりまして……」
「ん? どれどれ……ほう、これは良さそうな物だ
他にも無いか確認しておこう……引き続き探して貰えるかな? 」
「ハッ! ……」
アルバート大公に手渡された一冊の本
その表紙には“双児宮之書”と記されて居た。
直後、暫くの間この本に目を通した後
アルバート大公は突如としてニヤリと笑い……
「この本は面白い……我が国の兵力が更に増強されるよ」
そう言うと
この書物を自らの懐にしまい込んだ。
研究所跡地から掘り出されたたった一冊の本
だが……この一冊こそ、この“研究所”が有する技術の
“礎”と言うべき物で――
「さて、そろそろ帰ろうか」
「ハッ! 全隊、アルバート大公殿下に続けッ!! 」
――この日より暫くの後
メリカーノア大公国へ新たな“研究所”が建造される事と成るのは
また、別のお話……
===第七五話・終===




