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異世界転生って楽勝だと思ってました。  作者: 藤次郎
第三章

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第七十四話「楽勝を失い、そして……」

《――ロミエル法王国・研究所での死闘を終えた一行


マリーンを救い管理者の妻を救いE.D.E.Nシリーズをも救い

それらをわずか一日足らずで成しげた

奇跡と言う言葉ですら足りぬ程の幸運を得た主人公……だが

その代償として失われる事と成った強大な力――


“固有魔導”


――ましてや転生者として決して知るべきでは無いこの世界の仕組みや

その情報の一角を知る事と成ってしまった主人公かれは……


……そんな問題を全て些末さまつだと考える程

ある事に憂慮ゆうりょしていた……それはロミエル法王国の“行く末”だ。


“ウバン王国の二の舞に成りかねない”


……そう、一人思い悩んで居た主人公かれ

何時もの様に魔導通信をもちいて

ラウド大統領に対しこの国の統治を願い出て居た。


しかし――》


………


……



「ううむ……引き受けたいのは山々じゃが、今は無理なのじゃよ」


「……友好国との兼ね合いですか? 」


「そうでは無くてのぉ……政令国家は此処の所

急激に大きく成り過ぎて居るんじゃよ……それゆえ

その様に“遠い国”の統治が出来る程の人材が足りんのじゃ。


……とは言え、代案だいあんが無い訳では無いから安心せぃ! 」


「成程……それでその“代案だいあん”とは? 」


「我が国では無理じゃが……メリカーノア大公国ならば友好国じゃし

引き受けて貰えるかもしれんと思ってのぉ?

……アルバート大公に頼んでみると良いぞぃ! 」


「成程! ……って言うか

連絡の度に面倒事を押し付けてしまって本当に申し訳有りません。


今後は出来る限り、楽しい話題で連絡出来る様にしますので!


……では! 」


「うむ! ……あまり気負わず、無理せず旅をするのじゃよ! 」


《――この後

アルバート大公に対しロミエル法王国の統治とうちを願い出た主人公。


直後、これを二つ返事で引き受けたアルバートに対し謝辞を伝えた後

彼は休む事無く次なる“問題”の解決へとうつった。


それは、E.D.E.Nシリーズ……通称“エデン隊”に関する問題であった。


彼は……一度は敵対したエデン隊の命を助ける為

敵意の無い魔族達の集落へと転移した後、彼女達を助けて貰える様

集落の魔族達に頭を下げるつもりで居た。


だが――》


………


……



「私達がこの集落に対し甚大な被害をもたらした事

何を言えば許されるとは思っておりませんわ、ですが……」


《――転移後

集落の魔族達に対し頭を下げていたエデン。


部下であるグリフ、ダンもこれに続き彼らなりに精一杯

誠心誠意謝罪の言葉をべ……集落の魔族達はただ静かに

彼らの謝罪に耳をかたむけて居た。


そして……しばしの沈黙の後

集落の長はエデンに対し――》


………


……



「……気持ちは良く分かッタ、その件に関しては許そウ。


だガ、一つ……いや二つ程、訂正して貰いたい事が有ル」


「訂正? ……何を訂正すれば宜しいのですか? 」


「まず一つ目……貴女は今“甚大な被害”と言っタ。


だガ……我々は誰一人として負傷すらしていなイ。


“甚大な”とは……いささか失礼な話ダ。


だガ何よりも重要なのは二つ目の方ダ……」


《――そう言った瞬間

集落の長はとてもけわしい表情を浮かべていた。


一行に緊張の走る中、長は――》


………


……



「……我々は平和に暮らす事をとする魔族ダ。


魔王の配下に甘んじて居る者共とは根本が違ウ

貴女達が暴れた程度で許さぬ程に狭量きょうりょうで、改心した魔族モノを追い返す程に

愚かな存在だと思われている事が心の底から気に入らないのダ。


我々は……貴女達ガ

この集落で“暮らす”事を選ぼうともそれを受け入れるつもりダ。


私の言葉を理解したのなら、二つの発言を訂正して貰いたイ」


《――集落の長はそう言うと、エデン達に対し優しく微笑んだ。


そして――》


………


……



「ええ、おっしゃられる通り……いいえ。


それ以上に寛大かんだいで素晴らしい方々であると理解致しましたわ

失礼な発言……お許し頂けますでしょうか? 」


「ウム! ……では、早速貴女達の治療をしようでは無いカ!

皆の者……準備ダ!! 」


「さ、早速ですの?! ……い、いえ感謝致します

でも……少しお待ちを。


……ディーンさん、一つお願いがあるのですけれど宜しいかしら? 」


「……何だね? 」


「もし許されるならば、私達はこの集落に恩返しがしたいのです

ですから……無事に治療が終わり次第、出来ればこの集落にとどまり

今度はこの集落を守る為に戦いたいのですけれど……お許し頂けるかしら? 」


「ああ……それを君が望み、それを幸せと思うのであれば

私はそれを止めはしない……好きにすると良い」


「感謝致します……では、治療をお願い致しますわ」


「フム……嬉しい申し出ダ。


では早速治療を開始するガ……少し苦しいゾ」


《――この後


エデン、ダン、グリフの三名は無事治療を終え

晴れてこの集落の魔族達と共に平和な生活を送る事と成った。


だがその一方……エデン隊の無事を確認すると

早々に集落から立ち去る事を決めた様子の主人公――》


………


……



「急がずとモ、せめて数日此処で休んでも良いのだゾ? ……」


<――隠せないほど満身創痍まんしんそうな俺を心配し、そう気遣ってくれた集落の長。


だが俺は感謝をしめしつつもこれを断った。


この時、俺が妙に“急いで居た”理由は――


“ディーンの為”


――たとえ数日程度でも此処ここに居れば

間違い無くエデンさんとの別れが辛くなるであろう事

そもそも、この所の別れの連続に

少なからず彼が落ち込んでいる事を知って居たから。


けど……本当の所

俺自身も少なからず寂しさを感じていたのかも知れない。


その言い訳にディーンを使っただけかも知れない……けど。


いずれにせよ、旅の一つの目標である“日之本皇国”へと向かい

たとえ其処に目指していた物が無くても

俺はこの長い旅に一つの区切りを付けなければ成らない――>


………


……



「ええ……まぁ確かに体調が万全って訳では無いですが

何だか早く目的地にたどり着きたくて!

たっ……只の我儘ワガママなんですけどね!! 」


<――やせ我慢と照れ隠しの混ざった俺の態度に

何かをさっしてくれた集落の長は

これ以上俺を引き留めはしなかった――>


「フム……では、せめて皆の旅が平穏無事な物で有る事を祈り

我が集落に伝わる“門出の歌”を贈ろウ……」


<――長がそう言うと、集落の魔族達は次々と歌い始めた。


魔族も魔物も異種族も人間も……全ての垣根かきねを超え

聴く者全てを癒し……そして、勇気付ける様な

そんな歌声に送り出された俺達……


……この後、子供達を引き連れオベリスクへと乗船した俺達は

甲板に上がり、魔族達かれらの姿が見えなくなるまで手を振り続けた――>


………


……



「さよ~なら~ッ! また会える日を楽しみにしていま~すッ!! 」


「うム! ……お前タチの旅が順風満帆じゅんぷうまんぱんである事を祈っているゾ~!! 」


《――互いに手を振り

互いの無事を祈り、別れを惜しみ続けた彼らは……この後

幾度いくどと無く再会する事と成るのだが……それはまた、別のお話。


ともあれ……一行が日之本皇国を目指し旅を続けて

少し前……彼らと別れ

“竜族の集落”に残って居たライラは――》


………


……



「……ライラちゃん

“ドラゴン”の変化……そろそろ始まるみたいだ」


「うん……でも私……ドラゴンの事……信じてる……」


《――驚天動地きょうてんどうち期を迎えていたドラゴンと

その様子を、少し離れた場所から心配そうに見つめているライラの姿があった。


……そんな彼女の横に立って居たドラガは

彼女に対し――》


「大丈夫……食事は潤沢じゅんたく過ぎる程に用意したから

これでも足りなければ仲間達が狩ってくるから大丈夫だよ! 」


《――と、彼女ライラを安心させようとして居た。


その一方で……竜族達かれらって用意された

魔導力の高い魔物の肉をライラの眼前でむさぼり食って居た“ドラゴン”


……だが、その姿は今まで見たどの時よりもおぞましく

彼女(ライラ)すらわずかに“恐怖”する程の物であった――》


「頑張って……ドラゴン……」


《――(わず)かに感じた恐怖を押し殺し、静かにそう言ったライラ


一方、そんな“ドラゴン”をかこって居た集落のぜんなるドラゴン達は

“ドラゴン”の暴食を、まるで“応援”するかの様に

様々な鳴き声を上げながら魔物の肉を鼻先で押し出し

“ドラゴン”にあたえ続けていた。


そんな、ある意味で平和な様子をながめつつ――


“この様子なら、恐らくはぜんなるドラゴンとして

今まで通り二人で過ごせる筈……”


――そうドラガが言い掛けた

瞬間――》


………


……



“キ゛ャ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ンッッ!!! ”


………


……



「ドラ……ゴン? ……」


《――直後

周囲をかこぜんなる(ドラゴン)に向け

火炎を放出した彼女(ライラ)の“ドラゴン”――》


「……ま、不味(マズ)いッ!

ライラちゃん離れてッ!! ……」


《――呆然(ぼうぜん)と立ち尽くすライラの腕を引きながら

そう叫んだドラガ……一方


攻撃を受けた(ぜん)なる(ドラゴン)達は怒り狂い

異物(いぶつ)”と見なしたライラの“ドラゴン”を攻撃し始めて居た――》


()めてっ!!! ……ドラゴンに酷い事しないで!! ……」


《――周囲を取り囲む(ぜん)なる(ドラゴン)達は

“ドラゴン”に対し火炎を差し向け……その様子に慌てたライラは

この状況を止める為“ドラゴン”の元へと駆け寄ろうとした。


しかし、ドラガは彼女(ライラ)を制止し――》


「落ち着くんだ!!! ……今近づけば君の“ドラゴン”だけじゃ無く

周りを囲んだドラゴン達からも攻撃を受けてしまう!

どちらに転ぶにしろ……近づく事は許可出来ないッ!! 」


《――そう言われて(なお)

“ドラゴン”の元へと向かおうとしたライラを必死で引き止めた集落の竜族達。


……一方“異物(いぶつ)”と見なされ

(なお)も攻撃を受け続けて居た“ドラゴン”は衰弱(すいじゃく)し始めていた。


だが、にも関わらず(なお)(みずか)らを囲む(ぜん)なる(ドラゴン)達に対し

敵意を剥き出しに暴れようとしていた“ドラゴン”……そして

その“殺気”を感じ取った(ぜん)なる(ドラゴン)達は更に激しく“ドラゴン”を攻撃し始め――》


………


……



「ドラガさん!! ……ドラゴン達を……止めてっ!!! 」


「……無理だよ、(かれ)らは僕すら瞬殺する程に強いんだ。


それに、君のドラゴンはもう……悪に染まって……」


「嫌っ!! ……こんなお別れする位なら……

ディーン様と一緒に旅をして……ディーン様の前で暴れて……

ディーン様に倒された方が……何倍も……マシだったっ!!


……お願いドラゴンっ!!!

元の優しい貴女に戻ってッ!!! ……」


《――泣き叫び、必死に訴え続けたライラ


だが、彼女の声が“ドラゴン”に届いている様子は無く

更に悪に染まり、体色さえも変化し始めて居て――》


………


……



「あれは!? ……皆ッ!!!

避けろッッ!!! ――」


《――ドラガがそう言った瞬間


“ドラゴン”の(うろこ)は急激に黒く変色し

周囲を(かこ)(ぜん)なる(ドラゴン)達を吹き飛ばす程の衝撃波を発生させた……そして


直後、天高く飛翔(ひしょう)し……周囲に漆黒の炎を放ち

(ぜん)なる(ドラゴン)達を(めっ)さんとし始めた――》


………


……



「……もう駄目だ。


あの子は悪に染まりきってしまった……ライラちゃん。


残念だけど、もう……あのドラゴンは危険な存在に成ってしまったんだよ」


「……離してドラガさん。


悪に染まったと言うあの子を……もしも殺すと言うのなら

それなら……私も一緒に死にたい……


ずっと一緒じゃなきゃ……駄目……」


「な、何を言って……」


「離してッッ!!! 」


《――ライラの意思は固く、ドラガに対しそう言い放った。


一方……彼女のあまりの気迫に

竜族達は思わずライラの拘束(こうそく)(ゆる)めてしまい――》


………


……



《――直後

荒れ狂い、漆黒に染まったドラゴンの(そば)へと近付いたライラ


彼女は――》


………


……



「……ドラゴン……ごめんね……私は何にも……貴女の事……


……分かって無かったんだね。


私……何も知らなかったんだね。


驚天動地きょうてんどうち期”……そんな……


そんな時期がある事すら……


……何時も背中に乗せてくれて


ずっと一緒に居てくれて……楽しい時間だった。


ねぇドラゴン……貴女がまだ“卵”だった頃

私と“繋がってた”事……覚えてる? ――」


《――遠い昔


ロミエル法王国・研究所


“ディーン隊”は(おろ)か“D.E.E.Nシリーズ”とすら呼ばれる事無く

皆、(ただ)の“番号”で呼ばれていた頃まで(さかのぼ)る――》


―――


――



「チッ……まだ手術は終わらないのか? 」


「そ、それが……所長様

その……“四番”の(ドラゴン)なのですが、そもそも卵ですから

これを仮に体へと埋め込んだ所で、どれ程上手(うま)く行ったとしても

四番の腹を()(さば)いて(ドラゴン)が生まれるだけですし

貴重な実験体を無駄に減らしてしまうだけかと……」


「……そんな事はわかっているッ!!


だがな……これまで数百もの実験体を無駄にして

()りすぐりの実験体を五体も集めたのだ……四番(そやつ)のみ失敗では

(こま)としての程度が下がるだろうがッ!!!

(ドラゴン)孵化(うか)させる方法は()だ分かっていないのか?! 」


「い、いえ……(ドラゴン)の卵でございますから

(ドラゴン)に育てさせれば孵化(うか)は致しますが……」


「貴様……私を()めているのかッ?!


……(わず)(それ)一つ手に入れる為だけに

一体どれだけの実験体と改造兵が無駄になったと思っているッ?!

“出来ません”では済まされんのだぞ?!

貴様の命でも何でも……道具は何を使っても構わん

成功させられないのなら貴様も実験材料にしてやるから覚悟しておけッ!!!


……良いなッ?!! 」


「ひぃっ?! ……で、ですが……」


《――どれ程部下を恫喝(どうかつ)した所で

(ドラゴン)の卵を孵化させる方法が降って湧きなどしない事は

所長かれ自身も分かっていた……だが。


この恫喝(どうかつ)に恐怖し、身の危険を感じた部下は

突如(とつじょ)として、あまりにも突拍子(とっぴょうし)の無い提案をした――》


………


……



「で、あれば……四番にその……


母龍(ぼりゅう)の代わりをさせる”と言うのは如何(いかが)でしょうか……」


「ほう? ……どうするつもりだ? 」


「そ、その……現在分かっている事ですが

(ドラゴン)の卵が孵化(うか)する為に必要なのは“温度”では無く

特殊な魔導力でして……」


「それならば私も知っている……で、どうする? 」


「無論、人間には存在し()ない魔導力ですから用意は出来ませんが

その代わりに四番へ(あらかじ)め改造手術を(ほどこ)

その肉体と卵の持つ魔導を結びつける様に

“血液と魔導を混ぜ合わせる”のです!


……確か、あの“魔族女”もその様な事を言っていた筈ですし

この方法が成功すれば、使役(しえき)させる程では無くとも

意識の共有や命令程度ならば可能になるかと考えております! 」


「出来ると言うのだな? 失敗は許さんぞ……」


「え、ええ! 勿論でございます! ……直ちに手術を!! 」


《――この後


……(おさな)彼女(ライラ)の身体は

研究者の“我が身可愛さ”(ゆえ)に傷つけられ、改造を(ほどこ)され続けた――


――ディーン隊の中で最も手術回数と改造箇所の多かったライラ

彼女は、生きている事さえ奇跡と言うべき状況を生き延びた……だが

地獄など生ぬるい程の苦しみを味わい続けた彼女ライラ

幾度(いくど)と無く生死の(さかい)彷徨(さまよ)い続け

少しずつ、感情と呼べる物を失った。


……だが


(こう)”か“不幸(ふこう)”か――》


………


……



「つ……ついにやったぞ!!!


所長様っ!!! ……安定期に入りました!!


(ドラゴン)の卵に四番の血液が順応(じゅんのう)

四番にも(ドラゴン)の血液が順応(じゅんのう)し始めております!


こ、これならば……普通に使役(しえき)している物と

然程(さほど)変わらぬ能力が発揮(はっき)出来る物と思われますッ!! 」


「ほう、良くやった……これで貴様の無事も保証されたと言う事だ」


「あ、有難うございますッ!! ……」


《――手術の成功から数週間後

彼女(ライラ)は他の実験体達と同様、牢獄(ろうごく)へ閉じ込められていた。


……牢に閉じ込められた彼女は、感情を完全に失い

腹部に(くく)り付けられた(ドラゴン)の卵と痛々しい手術(あと)

(いびつ)に接続された(くだ)()

其処彼処(そこかしこ)から血を(にじ)ませたまま

一日中、その場に座り続けていた。


……そんな彼女に対し他の実験体達がどう呼び掛けようとも

彼女は常に無反応だった。


だが……そんな状況が数ヶ月程続いたある日の事


彼女は、数ヶ月振りに声を発した――》


………


……



「……ドラ……ゴン……私も……空腹……」


「よ、四番!? ……やっと話したか!!!


しかし……“ドラゴン”だと? ……誰と喋っている?

いや……まさかその卵と!? 」


《――ライラに対し驚きを持ってそう声を掛けた男

彼の囚人服の胸元には“一番”と(きざ)まれていた。


彼の……“現在の名前”は“ディーン”


ディーンが四番……もとい

ライラに対しそう(たず)ねると――》


「……ドラゴン……空腹……でも

“私を食べたく無い”……って……言う……」


「何? ……どう言う意味だ?


君を食べる? ……君の身体に浮かび上がっている

その“模様”が何か関係しているのか? 」


《――そう言って(ディーン)が指差した場所


ライラの身体に()られた刺青(いれずみ)

赤く、そして黒く(うごめ)いているかの様で――》


「ドラゴン……私の体……共有してる……」


「……すまない、私には君の言う事が理解出来ない。


だが……腹が減っているのだけは理解出来た

少しだけ待っていてくれ……」


《――直後

大声で叫び研究員を呼び寄せたディーン……だが。


その事に腹を立てた研究員から(ムチ)で叩かれる事と成った彼は

ライラの状況を説明し、食事を提供する様必死に頼み続けた――》


………


……



「チッ! ……腹ばかり減らしやがって!

良いな? 大人しくしてろよ?! ……ったく! 」


《――悪態(あくたい)をつきながら何処かへと立ち去った研究員


一方、ディーンの体には(ムチ)(あと)が痛々しく残った。


そんな(かれ)に対し――


“痛い……大丈夫……生きている? ”


――そう、いまいち要領(ようりょう)()ない発言を繰り出したライラ

だが、そんなライラに対し……(ディーン)

傷だらけの顔で微笑(ほほえ)み――》


………


……



「……ああ、心配してくれて有難う。


だが……この程度何とも無いさ

君は私などでは計り知れない程の苦しみを経験し続けた。


もし少しでも君の苦しみを取り除けると言うのならば

この程度の“(こと)”など毛程(けほど)でも無いさ。


君が今後……その年齢に相応(ふさわ)しい屈託(くったく)の無い笑顔を浮かべる事が出来る様に

出来る限り協力させて貰いたい……迷惑だろうか? 」


《――そう言って彼女ライラに対し再び微笑「ほほえ」んで見せたディーン。


……この暫く後

彼女ライラがディーンに対し忠誠(ちゅうせい)を誓う事と成るのはまた別のお話――》



――


―――


「……あの後、沢山怖い魔物と戦って

魔族とかも沢山倒して来た……それでも……あの“任務”だけは……

心優しい貴女が“許せない”って思って、私も……


……同じ事を思ったあの時。


ディーン様も、ギュンター様も……タニアも


オウルも……皆が……皆で考えて……動いた。


そうやって……命からがら逃げた時……


ドラゴンも私も、一緒に喜んだ事……覚えてる? 」


《――“ドラゴン”に対しそう(たず)ねたライラ


だが――》


………


……



「危ないっ!! ……避けるんだッ!! 」


《――ドラガの叫ぶ様な声が響いた直後


ライラに向け黒炎を吐き出した“ドラゴン”――》


………


……



「……痛い……よ……ドラゴン。


ねぇ……本当に……もう……元には戻れないの?


貴女の優しさは、心の強さは……そんなにも……簡単に壊れる物だったの?


そんなに私は……貴女を……何も分かってなかったの? ……」


「……もう良いやめるんだッ!!

その(ドラゴン)にはもう、君の声は届いて居ないッ!!! 」


《――そう必死に(うった)え掛けたドラガ

だが……退しりぞく所か更に一歩、また一歩と

“ドラゴン”近付き続けたライラ。


彼女は――


黒炎の燃え残る地へと……靴を焦がし、火傷を負いながらも

“ドラゴン”の為、必死にその距離を縮めていた。


――だが。


“ドラゴン”は大きく唸り声を上げ、彼女ライラの眼前へと降り立つと

彼女をその尻尾で弾き飛ばした――》


………


……



「かはッ……ド……ラゴン……ッ!!

思い……出して……一緒に……旅をした……時間を……」


《――激しく叩きつけられたライラ

それでも(なお)彼女は必死に訴え続けていた。


だが……そんなライラを踏み潰さんと彼女に近付いた

“ドラゴン”の姿に――》


………


……



「……分かってる……辛いんだよね……


貴女がそんなにも辛いのなら……良いよ……


でも……一緒……一緒にこの世界から……旅立とう? ……」


《――最後の力を振り絞るかの様にそう言ったライラ


そんなライラの言葉を気にも()めず

今まさにライラを踏み抜かんとしていた“ドラゴン”――


――だが


突如としてドラゴンの動きが止まった――》


………


……



「……また……生まれ変わ……ら……この……みたいに……

……高く……一緒に……っ……」


《――度重(たびかさ)なる“ドラゴン”の攻撃に

血反吐(ちへど)()き、意識さえ朦朧(もうろう)とし始めていたライラ……


……そんな彼女が(ふところ)から取り出し

大切そうに抱き締めながらそう言った一枚の“絵画(かいが)


それは“絵師クロエ”から貰ったあの“肖像画(しょうぞうが)”であった。


絵の中で仲睦(なかむつ)まじく過ごす二人……瞬間


“ドラゴン”は、激しい咆哮(ほうこう)()げ――》


………


……



《――再度(さいど)

激しく変化し始めた“ドラゴン”の体色……


……周囲の木々を()ぎ倒す程の凄まじい咆哮(ほうこう)

竜族であるドラガですらもひるむ程

激しく()げられた咆哮(ほうこう)の直後


“ドラゴン”の体色は漆黒から純白へと変化し始め――》


………


……



「き、奇跡だ! ……こんな事は初めてだよライラちゃんッ!! 」


《――この異例(いれい)と言える状況に興奮し

眼前のドラゴンをまじまじと見つめながらそう言ったドラガ。


だが、その直後……


……(ぜん)なる姿へと変貌(へんぼう)()げた“ドラゴン”の姿を確認すると

安心した様に意識を失いその場に倒れたライラ――》


………


……



「……ドラ……ゴン……おかえ……り……」


「なっ!? ……直ぐに治療だ! 皆急げッ!!! ……」


《――直後

彼女(ライラ)(かつ)ぎ建物の中へと運んだドラガ。


一方……無事、驚天動地きょうてんどうち期を乗り越え

(ぜん)なる(ドラゴン)として、文字通り“一回り大きく”成長した“ドラゴン”は

純白と成った体色と、透き通る様なその(うろこ)の効果か

光の加減にって白から赤……赤から白と

その色を美しく変化させていた……だが。


“ドラゴン”が驚天動地きょうてんどうち期を乗り越えた一方で

瀕死(ひんし)(おちい)って居たライラは

ドラガ達に懸命(けんめい)な治療を受け続けていた。


……本来であれば(すで)息絶(いきたえ)えていても不思議は無い程の

深刻な状況であった彼女の身体……だが。


……この後、数週間に渡り諦めず治療を続けた竜族達と

幾度と無く、生死の(さかい)彷徨(さまよ)い続けた彼女(ライラ)は――》


………


……



「……ドラゴン?


“オイタ”は二度と……“メッ! ” だよ? 」


《――彼女(ライラ)は、奇跡的な回復を()げていた。


だが、その一方……


……数週間ぶりに再会するライラに対し、とても居心地の悪そうな様子で

何とも言えぬ()き声を上げた彼女の“ドラゴン”――》


「グルルッ……」


「……うん、反省したなら……良いよ。


また一緒に……お空……飛ぼう? ……」


………


……



「グルルルッ! ……グルッ……」


《――直後

そっと彼女ライラに寄り添い甘えて見せた彼女(ライラ)の“ドラゴン”

そんな“ドラゴン”を優しく()でたライラは

屈託(くったく)の無い笑顔を浮かべたのだった――》


===第七十四話・終===

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