第七十三話「楽勝を奪われたとしたなら……後編」
《――突如として激しい光を発した人形
そして、その人形から声が響いた次の瞬間――》
………
……
…
「全く……最初からそうだが
君は本当に“我儘の権化”だ……本当に、非常に手間が掛かる。
“死への介入は禁止事項だ”……と何度聞けば気が済む? 」
《――主人公に対しそう話し掛けた人形。
直後、主人公の手から離れ歩き始めた人形……そして
この者が現れた瞬間、主人公以外の時間は全て“停止”していた。
だが、そんな状況よりも主人公は――》
………
……
…
「……なぁ。
アンタの存在が“意味不明”なのはこの際どうでも良いよ……けど頼む
方法なんて何でも良い……マリーンを助けて欲しい。
その為なら俺の命すら要らない……本当に何でもするって誓うよ。
だから……頼む」
《――地面に頭を擦り付け必死にそう頼み込んだ主人公
だが――》
「……私の存在が“意味不明”とは失礼だね?
本当に私の声に聞き覚えはないのかね? 」
「き、聞き覚え? ……待ってくれ。
アンタ……もしかしてあの時の“おっさん”か?! 」
「“おっさん”とは失礼な……私は唯声が“ダンディ”なだけだッ!
まぁ良い……自己紹介位はしておこう。
私の名前はヴィシュヌ……ある地域の凄まじい神と全く同じ名前だが
勘違いしないでくれ……少なくとも私は神じゃない。
私は……この世界の管理者とでも言うべきかな?
一応、君の世界を管理している者だよ」
「なら話が早い! アンタの権限で……」
「いいや……それは出来ない相談だ
命を復活させる為には、世界に途轍も無い負荷が掛かるし
その所為で他の異世界が“容量”を超える事も有る。
一年と少し前、死に掛けた……いや“完全に死んだ”君を助けただけでも
本当は相当に良くない行為だったと後悔している位だ。
何せあの行為の所為で他の転生……いや、少し話が逸れた」
「って事は……俺の知らない内に俺を助けたのはアンタって事か。
な、なら言いたい事があるッ! ……」
「……同じ事をこの子にしろと言うなら断るよ? 」
「いや……俺の話を聞いてから改めて答えを聞かせて欲しい。
俺が死に掛けた時、アンタは助けてくれた……けど
その所為で牢屋に一年も入れられた……勿論それを責めてる訳じゃ無い。
そうじゃ無く……その苦しい期間中、ずっと支えてくれた仲間を
唯の一度も……こんなに大切な存在を
生き返らせる事を認めないなんて余りにも酷過ぎるだろ?
……お願いだ、マリーンを救ってくれ。
頼む……“この世界では無理だ”って言うなら他の異世界でも何でも良い。
どの世界でも良いからマリーンを生き返らせてくれ
方法はそっちに迷惑が掛からない程度の簡単な物でも良いから……
だから……頼むっ!! 」
《――そう言って再び頭を下げた主人公
そんな彼の姿をを暫く見つめた後……ヴィシュヌは
静かに、諭す様に――》
………
……
…
「……必死になる気持ちも、状況も確りと分かっている。
だが、現時点では“仮の存在”であり“作り物の世界”に存在する
作り物の命を他の場所に転生させるのは不可能なのだよ。
諦めるんだ主人公君……」
「諦めろ? ……ふざけるなッ!!!
仮の存在? 作り物だと?! ……ふざけるなッ!
元の世界での俺の命を強制的に勝手に奪っておいて何が作り物の世界だよ?!
何様だッ! ……勝手なルールばかり押し付けるな!!!
世界を作り直してくれって言ってるんじゃ無いだろ?!
たった一人助けてくれって言ってるだけだ!
これが嫌がらせ以外の何だってんだよッ!!
……何で駄目なのか説明してみろよ!!! 」
「……口だけは達者だが、人生を投げて居たのは君だ。
いざ転生させて貰える段階で大喜びして居たのは何処の誰か……
……よもや忘れた訳では無いだろう?
そもそも……勝手を言って居るのは君だ。
儘成らない事が起きる度
ルールを都度捻じ曲げていてはこの世界は崩壊してしまう。
……そうする内に君は
間違い無く、大切な人を一人も失いたく無いと
君が望む全ての人間を“蘇生”させようとするだろう。
だが……仮にそれが出来てしまうのだとこの世界の住人に知れ渡った時
一体どんな事が起きると思っているのかね?
……一度死んだ筈の人間が元の生活を送っている異質さに全員が気づき
君が妙な力を持っている事に気づき
この世界が君の作った世界なのだ……と、この世界の全員が気づいた時。
この世界に、一体何が起きると思っているのかね? 」
「そ、そんなの俺が黙ってたら……」
「……今日までの間、君がどれだけの人間に“真実”を話してしまったのか
もう……忘れたのかい? 」
「そ、それは! ……やたらに話した訳じゃ無い!
信頼出来る人にしか話してないだろ!? 」
「確かにね……だがその“信頼出来る人”の“大切な人”に何かが有った時
その“信頼出来る人”は果たして本当に“信頼出来る人”のままだろうか?
……“ねずみ算式”に増えていくとは考えないのかね?
もし断れば、君の言う“信頼出来る人”は少なからず君の事を恨むだろう。
そんな状況で、その“信頼出来る人”が
絶対に秘密を守り続けてくれると思っているのかね? 」
「そ、それは……」
「……私を納得させるだけの答えを君に用意出来る訳など無い。
分かったら、諦めて素直に受け入れる事だ」
「……嫌だ、諦めたりなんかしない。
アンタは同じ立場に置かれて、そんなに簡単に諦められるのかよ!!
アンタには……大切な人は居ないのかよッ?!! 」
「……居たよ、今の君に似た様な状況に追い込まれてね。
勿論助けたさ……どうなったと思う? 」
「何だよ……アンタの経験談だって言いたいのか? 」
「ああその通り……“管理者”なんて面倒な仕事を
何故私が続けていると思うのかね? 」
「……自分と同じ失敗をくり返させない為とでも言うつもりか? 」
「それも無いとは言わない……だが
私はこの仕事を今直ぐにでも辞めたい……“辞められるものなら”ね」
「何? ……どう言う事だ? 」
「元々、私も君と同じ“転生者”なのだよ……境遇も似た様な物だった。
まぁ、君ほど“ハーレム”ではなかったが
君の歩んだ道と似た様な道を選んだ……そうして日々を過ごしていた。
そんなある日、私は街で悪漢を倒した……ただ、珍しく怪我をしてね
心配した私の妻が手当をしてくれていた時だ
私を狙った最後の一撃は事もあろうに彼女の心臓を貫いた。
彼女は……即死だった。
私は――
――形も残らぬほど悪漢を殴打し
凶弾に倒れた彼女の元へ寄り添った。
その時もこの世界と同じで……死者の蘇生は不可能だった。
だが、君と同じく何をしてでも妻を助けたかった私は……」
「……何をしたんだ? 」
「私は……前世での経験上、法律や機械の知識に長けていてね。
だがそれが拙かった……ルールを
“迂回する方法”を見つけ出してしまったのだよ」
「まさか……“生命力の移譲”か?! 」
「その通りだ……だが、考えて欲しい
悪漢を殺めてしまった後に一体誰から命を取る事が出来るのかを。
辺りを見回した私の目に映ったのは――
――たった今悪漢から助けだした女性だった」
「ま……まさか!? 」
「……私は狂っていたのだろう、その当時も作り物の世界だった。
別にこの命を奪った所で代わりなど幾らでも居る
私の大切な妻を生き返らせる事が出来るなら
私は鬼にでも悪魔にでも何にでも成ってやる……そう考えた私は
助けた筈の女性から生命力を奪い、その代わりに妻を助けたのだよ。
……だがその後、どうなったと思う? 」
「どう……なったんだ? 」
「……息を吹き返した彼女を見た民達は
私と彼女を酷く怖がったのだ……そしてその場所に居られなくなった。
無論、それだけならば良かった……その日の夜の事だ
民達は私と彼女をこの世から消し去ろうと
まるで魔女狩りの様に家を取り囲み
家に火を放ち……ありったけの魔導で攻撃し……出られぬ様に封じ込め
私達を攻撃し続けたのだよ。
……その中には以前私が助けた者達も数多く居た。
そして、その間も私は彼女に問い詰められていた――
“……何故私達は攻撃されているの?
何故貴方と私を化け物だなんて呼んでいるの?
何故私は……生きているの? ”
――真実を言える訳など無い。
君の“親友の命”を生贄にしたのだよ……などとはね。
……理解したかね? 君の要求を受け入れ続ければ
いつか必ず全てが崩壊するのだと言う事を」
「話は大体分かった……一つ質問していいか? 」
「……何かね? 」
「その後、一体何がどうなって管理者にさせられた? 」
「……君の世界に合わせて言えば
“転移魔導”も使えず攻撃を受け続け
“防衛魔導”に使う魔導力も底をつき掛けて居た時……
……突如として妻は私の張った防衛魔導から飛び出した。
そして彼女は民達に対し――
“何故貴方達が私達を攻撃しているのかが判らない
だけどせめて、彼だけでも助けて欲しい”
――そう必死に叫び続け
聞く耳など持たぬ者の攻撃に依って
彼女は二度目の死を迎えたのだよ……
……その様を目撃してしまった瞬間、私は全てを諦めた。
防衛魔導を解き……
世界から消え去る事を選び……そうする内に
私の体は皆の放った攻撃に依って消滅し始めていた。
だがあの時“そのまま消し飛ばされていたら”
どれ程楽だったのだろうね――
――攻撃……いや、全てが“停止”した直後
君に対しての“私”の様に……奴が降りて来たのだよ」
「成程……アンタの世界の“管理者”か」
「その通り……この世界をPCと考えた時
その“OS”の虚を突いた様な行動に
奴は憤慨する所か大笑いしながら褒め称えて来た。
……一頻り笑い称賛し、急に真顔になったかと思ったら
私に対し“取引をしないか? ”と言った。
警戒した私が“内容による”と返すと――
“……大切な彼女を蘇らせ
ここでの辛い記憶を消し去り、君と同じ空間で暮らせる様取り計らおう”
――そう言った。
勿論それを断る選択肢などあの時の私に有る筈も無く
私は二つ返事で答えた……答えてしまったのだよ」
「……裏があったんだな? 」
「ああ……彼女の名前は“マリアンヌ”
転生者の“担当官”にされたのだよ……君の担当でも有った」
「なっ!? ……どう言う事だ!? 」
「君の頭に浮かんだ事が正解さ……君と旅をしていて
今は……甲冑姿で固まって居る其処の女性がそうだ。
……奴が何故こんな酷い仕打ちをしたのかすら未だに分からない。
奴はそれっきり私の前から姿を消したのでね……
……だが、では何故この場から離れず管理者を続けているか?
そうしなければマリアンヌが……彼女の全てが……消え去るのだよ」
「一体どんな契約を結ばされた? ……何があった? 」
「……奴は悪魔の様に言葉巧みに私を謀った。
私と同じ空間に、異世界の管理運営に幸せを感じる様
“調整”された妻を置いたのだよ。
……無論、完全に私との記憶が無いならば
私も諦めを付けたかもしれない……だが、奴は悪魔の様だと言っただろう?
私が全てを投げ出したく成る度、妻の記憶は一瞬だけ戻り
私の心配をしてくれて……私と一緒にいる時間を幸せだと
そう言って私に愛をくれたのだよ……」
「……なんて酷い事をッ!!
けど……知らなかったとは言え
俺がその奥さんを連れて行った様な物なのに
何故、忌み嫌う方法を使ってまで俺を蘇生させてくれたんだ? 」
「君の事は……恐らくは同族嫌悪だろうが、心の底から嫌っている。
だが……君を心配し
慌てふためき悲しむ彼女の顔を見ていられなかったのだよ。
……私とは添い遂げられなかったが
もしかすれば妻が幸せになれるのはこの世界なのかもしれないと
そんな淡い期待の様な物があったのかもしれない。
……それに、転生者自身が死を迎えると
君達の暮らす世界は正常では無くなり遅かれ早かれ崩壊する様作られて居る。
ある側面から見れば、妻が君の世界と共に消滅してしまえば
このつらい日々から私は開放されただろう……だが
やはりそれは辛かったのだよ……」
「……なぁ。
その“禁止事項の抜け道”が、まだ残ってるのは一体何故なんだ?
その方法を使えばマリーンを助ける事だって出来るだろ? 」
「全ては話せないが、奴は……管理者である私が
転生者である者を救う為にのみこの機能を使える様
迂回ルートを狭め、敢えて残したのだよ。
だから当然、君の世界で生まれた住人には適用不可能だ
助ける方法はどれだけ頼まれた所で……無いのだよ」
「我儘かも知れないが……そんな話は認めない。
アンタの奥さんを何らかの形でアンタの元に返せる様に
限定管理者権限でどうにか記憶を戻せるか試して
もし成功したら、他の全てを捨ててでもマリーンを生き返らせる為……
……協力してくれるか? 」
「無理だ……君に私が固有魔導として与えた“限定管理者権限”は
私の権限を更に限定的にして私の権限で与えた物だ。
そんな限定的な権限で記憶を戻す事など出来る筈が無い。
説得している私も悲しいのだ……諦めてくれ」
「嫌だ……やらずに後悔するなんて嫌なんだよ。
……俺もアンタも異世界で足掻いて藻掻いて
苦しくても必死に乗り越えて来たんだろ?
後一回でも足掻き、藻掻いたら何かが掴めるかも知れないし
アンタの言う“抜け道”だって現れるかも知れない。
……その僅かな可能性に懸けてみようとは思わないのか?
何よりもその為に一番手っ取り早いのは
アンタの持ってる“管理者権限”なんじゃ無いのか? 」
「確かに……君が言う事は正しいのかも知れない、だが……」
「……だがもへったくれもあるかよ。
今もアンタがこうして俺と話し続けてくれてるって事は
“もしかしたら得られる何かがあるかも知れない”って
僅かにでも考えてるからじゃ無いのかよ!? 」
「……もし失敗すれば
私も、この世界も……ただでは済まされないのだぞ? 」
「構わない……アンタが言ったんだろ?
この世界は“仮り物で作り物”だって。
兎に角……時間制限が鬱陶しいから出来る限り伸ばしてくれないか?
色々と試せる時間が欲しいんだ……頼むよ」
「ま、まだ私は協力するとも何とも……いや。
説得は無駄の様だな……分かった、だが……余り無茶は出来ん。
……せいぜい倍の一分が関の山だ
それを過ぎて使う事も不可能では無いが
この世界は先程も言ったが“パソコン”と同じでね。
一分を過ぎ、君が私の権限と同等の物を使い続ければ
この世界の“セキュリティ”が重大な欠陥だと判断し
この世界がその存在を阻止しようと動く可能性がとても高い。
最悪の場合君は死ぬ……そしてこの世界も道連れと成ってしまう」
「……分かった。
一分だな? 思い付く限りの事を試してみるよ……」
「……設定はし直した、残り時間は逐次報告する。
だが、結果はどうあれ一分を限度に終わらせてくれ……良いね? 」
「ああ分かった……少し待っててくれ
思い付く限りの事を頭の中でリスト化するから……」
「……準備が整ったら、君のタイミングで発動するんだ」
《――この後
辺りを見回し何かを考えた後、目を瞑り深呼吸をした主人公。
……暫くの後
ゆっくりと目を開き、管理者へと合図を送り
“管理者権限”を発動した彼は――》
………
……
…
「マリアンヌさんの消された記憶を蘇らせろ! 」
《《――“ERROR”
アクセス権限が有りません――》》
「なら……俺に出会う前のマリアの記憶
元々マリアンヌさんの中に存在していた記憶だけを完全コピーしろ! 」
《《――命令を承認
複製中……データの破損、若しくは
復号化不能領域が複数カ所存在します――》》
「主人公君……後五〇秒だッ! 」
「なら、破損データ復号化不能領域も含めその状態で全てを完全コピー! 」
《《――命令を承認
複製中……成功――》
「良しッ! ……次に、ヴィシュヌさんの記憶に残る
“マリアンヌさん”と完全同一形状の“素体”を
この“研究所で使われた技術”を用いて新しく生成! 」
《《――命令を承認
個体名“マリアンヌ”の素体を生成中です――》》
「主人公君! 後二〇秒だ! ……急げ! 」
「……分かってる!!
次に……ヴィシュヌさんの記憶に残る
マリアンヌさんに関する全ての記憶やデータをコピーし
破損、若しくは復号化不能領域と思われる位置にデータ及びファイルを統合し
新しく生成したマリアンヌさんの素体に入力ッ!
それから研究所で改造される前のマリーンの“素体”を生成だッ!!! 」
《《――個体名“マリアンヌ”の素体生成を完了しました。
データ統合中……統合中……統合中――》》
「不味い……主人公君! 一分を過ぎたッ!
此処から先は何が起きるか分からん! ……急ぐんだ!! 」
《《――個体名“マリーン”の素体を生成中――》》
「やっと光が見えたんだ! ……続けるぞ!
その素体にマリーンの全ての記憶を入力しろ! 」
《《――個体名“マリアンヌ”の全データの統合を完了しました
素体に入力中……
……個体名“マリーン”の素体生成を完了しました。
個体名“マリーン”のデータを完全複製完了
素体にインプット中――》》
「主人公君! ……不味いぞ、何かが来る! 」
「大丈夫だ! 後少しで二人が! ……」
「避けろ主人公君ッ!!! ――」
………
……
…
《――瞬間
主人公が振り返るよりも遥かに早く彼を拘束した
“謎の存在”
……直後、主人公は意識を失った。
その一方……“謎の存在”を視認した瞬間
憤慨し声を荒げた管理者……だが
そんな彼を宥めつつ
ニヤけ顔で語り始めた“謎の存在”――》
………
……
…
「まぁまぁまぁ! ……落ち着いて! 落ち着いて!
って言うか……久しぶりだねぇ?
人の身には過ぎた名前の“ヴィシュヌ”君? ……まぁ、名前は兎も角として。
……当時、君の編み出した抜け道にはとても驚いたけど
まさか君が管理する異世界にもこんな逸材が現れるとはねぇ。
これは……因果応報かな? 」
「……貴様ッ!! 主人公君を離せ! 」
「ん? 良いけどちょ~っと待ってね? 今から……」
《《――個体名“マリアンヌ”のデータは正常に素体に入力されました。
……起動まで二分
個体名“マリーン”のデータは正常に素体に入力されました。
起動まで四分――》》
「……って、あらら。
本当に面白い事を考える子だね、主人公子は」
「何でも良いから離してやってくれ……頼む」
「……いや、離すのは良いんだけどね?
こんな抜け道がまだ……ん?
……って、これ良く見たら“裏技之書”の内容を使ってるじゃん!!
素でこれを使っちゃう辺り怖い子だよ? この子!
消去も……やっぱり無理だよね~
……要は完全に“修正不可能”なタイプか!
あっはっはっはっは!!! ……とても不愉快だ。
殺してしまおうかな? ――」
《――言うや否や
拘束した主人公を浮かび上がらせた“謎の存在”は――
――彼の“延髄”に向け
光る針の様な物を突き刺した――》
………
……
…
「やめろ! ……何をしている!? 」
「ん? ……このままだとこの子
これから先も“修正不可能”な事をやりそうで危ないじゃん?
だから、君がこの子に与えた固有魔導を完全に消去してるだけだよ?
限度を超えた能力を与え過ぎだよ全く! ……感心しないね? 」
「本当に……本当にそれだけだろうな?!
貴様の口の上手さには私も苦しめられた。
今言った意外の事を……本当にしていないと言えるのか!? 」
「ん? ……してないけど?
それより、君の愛しい愛しい奥さんがそろそろ起きそうだけど
そんなに怒った怖ぁ~い顔……見せたいのかな? 」
《――“謎の存在”がそう言った瞬間
彼の妻としての記憶を持った
“素体のマリアンヌ”は意識を取り戻し――》
………
……
…
「マリアンヌ!! ……私が分かるか? 」
「んっ……あら、おはようございます貴方……って
どうしてそんなに慌てているの? ……と言うかここは何処なの?
って! ……ねぇ、何で私こんなに薄着なの?!
もしかして……ムラムラしているの?
分かった……私に破廉恥な事をするつもりね? 破廉恥な本みたいに! 」
「マリアンヌ……本当に私を覚えているのだな?!
良かったっ……本当に……本当にっ!! 」
《――直後
蘇った妻を力強く抱きしめたヴィシュヌ
そんな彼に対し――》
「ねぇ貴方……何でそんなに泣いているの?
何かあったなら私に教えて? ……一緒に解決しましょ? 」
「……ああ、君とは沢山話したい事が有る。
まずは……」
《――ヴィシュヌがそう言い掛けた瞬間
“謎の存在”は――》
「個体名“マリアンヌ”を停止」
「!? ……何をするッ?! 」
「いやいや……そもそも話の途中だし、後でやってくれるかな。
……別に話が終わったら解除してあげるしさ?
っと……やっとこの子から固有魔導を消去出来たよ。
これで二度と……何があろうと
この子は“限定管理者権限”を使えないって事!
とは言え……この子の設定数値は本当にバランス悪いねぇ?
……これだけの事をやらかす位だし、逆に物理特化に変えちゃおうか? 」
「そんなルール無視が何処にある?! ……横暴だ! 」
「……あれぇ?
それって君とこの子が“最も言っちゃ駄目”な言葉じゃないの~? 」
「……固有魔導の削除だけで彼には充分に重い罰だろう。
頼む、私の妻を蘇らせてくれた恩人なのだ……
……どうか許してやってはくれないか」
「あらら~……冗談に其処まで本気に成られるとつまらないね?
何だか凄くとっても……不愉快だ」
「済まなかったな……だが、貴様は私に対しても
良い話に見せ掛けた一種の呪いを置き土産に
今の今まで雲隠れして居たでは無いか!!!
何故、私にこんな仕打ちを……妻の記憶をこの様な形で封じずとも
記憶を残したままにする道など幾らでもあっただろうに!!!
……二人で幸せに暮らせるのならば、私は管理者の仕事を
貴様が望むだけの時間、素直に続けた筈だッ! 」
「いやぁ~……ごめんね?
奥さんの為なら君が他にも抜け道を見つけるんじゃないかって
泳がせたくてワザと意地悪したつもりだったんだけどね?
けど……君の実力を過大評価し過ぎてたみたいでさ~?
“馬鹿の一つ覚え”みたいにあの抜け道しか使えないんだもん!
……あっはっはっはっは!!! 」
「たった……たったそれだけの為に
私達の仲を何十年も引き裂いたと言うのかッッ! 」
「“それだけ”……って言うけど結構重要な事だったんだよ?
そもそも、何十年も“引き裂いた”のに君の肉体年齢はそのままでしょ?
感謝して貰いたいもんだね~
奥さんが“ジジイ”になった君を見てがっかりしなくて済んだんだし?
けど、まさか君じゃ無くてこの子が“裏技之書”の内容を……
……まぁ“ヒント”が近くに有ったとは言え
まさか自力で編みだすとは夢にも思わなかったよ。
本当に……不愉快だ」
「……主人公君の処遇はこれからどうなる?
私と妻のもだが……」
「ん? ……どうしようかな~と思ってた所。
けどまぁ……不愉快だけど、今の所は大きな問題には成らないっぽいし
仕方無いから全員生かしておく事にしようかな? ……但し。
これだけの騒ぎになっちゃった以上
君をこれ以上“管理者”として居させる訳には行かない。
リスクでしか無いし、そもそも“不愉快”……だし? 」
「どう言う事だッ!? また妻と私を離れ離れにッ! ……」
「しないしない……取り敢えず君達夫婦は
“この子”の世界に“転生者”として飛ばしてあげよう。
でも……君達の能力は君に選ばせたくないなぁ? 」
「構わない……私達が二人幸せに暮らせると言うなら
如何なる波風も立てない……多くは望まない
妻との生活を守れるだけの力があればそれで良い」
「あっ、そう? ……じゃあ君達は転生後
“平和そう”な所に飛ばして欲しいんだね? 」
「ああ……平和“そう”では無く
完全に安全で不利益が無く、襲われる事も無く
私も妻も元の記憶を持ったまま、幸せに暮らす事の出来る
“恒久的な平和のある場所”へと……飛ばして頂きたい」
「うわ~……信じられない位不愉快な物の言い方をするね?
そんな言い方すると……根に持っちゃうよ?
まぁ、グダグダ言うのも面倒だし……安全な所に飛ばす事を約束しよう。
君の戦闘力はどんなに頑張ってもその子の国で言う所の
“Sランクのハンター”程度、仮にもし君がこの子と戦う様な事があったら――
――即死かな?
まっ、食うには困らないんじゃない?
精々可愛い奥さんとお幸せにね~! 」
「……感謝する。
ならば出来る限り堅実に生き
前回の様な無謀を控えて生きると約束しよう」
「あれ? ……珍しく素直だね?
……んじゃそう言う事で~!
君達は安全な場所に飛ばしてあげようッ!
エイッ!! ――」
《――直後
“謎の存在”が腕を一振りした瞬間――
“ヴィシュヌ”とその妻“マリアンヌ”は
主人公の作り上げた異世界の何処かへと転生させられた。
そして、それを確認すると――》
………
……
…
「さて……次は、この“お寝坊さん”の番かなっと?
ほ~ら、起きた起きたッ! ――」
《――瞬間
主人公の身体を地面へと叩きつけた“謎の存在”
その凄まじい衝撃に依り主人公の意識は強制的に戻され――》
………
……
…
「……ぐはっ?! な、何が!? 」
「お~っ……おはよう! “不愉快な転生者”主人公君! 」
「不愉快なって……あ、アンタは誰だ? 」
「えっとね、僕の名前は……教えない!
一応“元管理者”よりも上の存在さ。
……そんな事よりも、君が僅かな時間の中で
まさかまさかな“物”を見つけて来たのがとっても不愉快でさ?
出来たら消え去って欲しい位なんだけど……流石に嫌だよね? 」
「会って早々恐ろしく嫌われてるのが意味不明だが……
……要件は何だ? 」
「え~っと……いくつか説明があるのと“警告”が一つかな? 」
「……話してくれ」
「おやおや? ヴィシュヌ君より素直だね~
……じゃ、説明を先に済ませて置こう!
君が――
“ヴィシュヌ君の奥さんを新たに生成した上に
マリアちゃん自体も残し、更にマリーンちゃんまで
ちゃんとした姿に作り直しちゃったのよ~
キャー流石はこの世界の創造主たる主人公
世界最強の超絶イケメン転生者様ぁぁぁぁぁ~っ♪ ”
――って事については、正直感心しちゃったし
ある意味では偉業とも……“異形”とも言えるし?
思う所は多いけど今回に限り許してあげよう。
勿論、皆今まで通り一緒に居ても宜しいッ!!
けど……何より問題なのは僕が相当不愉快に成った事さ。
だから、罰として君の固有魔導は剥奪しておいたよ? 」
「……分かった、それで皆が無事で済むって言うなら俺はそれで構わない」
「おぉ! 素晴らしく素直で良い子だねぇ!
是非ともヴィシュヌ君にも見習って欲しい位だ!
……ってまぁそんな話は置いといて。
彼は正直“危険因子”だったから
管理者の能力を剥奪して君の世界で引き取って貰う事になったんだけど
奥さんも一緒に飛ばした後に気が付いちゃった。
……困るんだよね~
顔だけじゃ無く“全ての元が一緒”の人間が二人って言うのはさ。
君の“マリアちゃん”も、彼の“マリアンヌちゃん”も
どっちも彼の事を覚えているし……かなり悩ましい。
君なら解決方法……思いつくよね?
ま、もし思いつかないって言うのなら
君のマリアちゃんの事“消さなきゃ駄目”になるんだけどね? 」
「なっ?! ……なら!
ヴィシュヌと奥さんの顔……それからマリアの顔を
“認識阻害”とかで
全くの別人の顔に見える様、設定したりは出来ないか?
……俺達が鉢合わせても気づかない位
それこそ、だれが見ても別人と思う様な……」
「ほぉ、面白い事考えるねぇ……それ採用!
んじゃこの件はこれで決定ッ! 後は――
――“警告”だけだね」
「どんな警告だ? 」
「えっとね~……今度もし“僕が出て来なきゃ駄目な程”の行為をしたら
君を“地獄に行く方がマシだ”と思える程、苦しめる事を約束する」
「……嫌な約束だな。
ならもしも不味い行動っぽかったら
何らかの手段を用いて連絡してくれないか?
その行動を直ちにやめる様努力するから……じゃないと
分からない内に不味い行動取ってて
分からない内にキレられても困るし……お互いに損だろ? 」
「ほうほう、新しい切り口だ……良いよ?
その時は連絡してあげる……っと、僕が話したいのはこの位かな? 」
「なら……一つ質問良いか? 」
「答えられる範囲なら答えてあげよう」
「まさかアンタも“転生者だった”って事は……無いよな? 」
「想像力豊かだねぇ~君! ……でもまぁ想像に任せるよ!
取り敢えず僕も忙しいし、長話は嫌いだからそろそろ時間を動かすね?
って事で……
バ~イッ! ――」
《――直後
“謎の存在”が消えた瞬間
停止していた時間は動き出し――》
………
……
…
「マ……マリーンっ!! 」
「んっ……主人公? ……私……生きてる……の? ……何で? 」
「そ、それは……きっと奇跡が起きたんだよ!
そんな事よりも、何処も異常は無いか? ……どこか気持ち悪いとか」
「大丈夫よ? どこも異常は無いと思うけど……って。
何で私こんなに薄着なのよ?!
さっきまで着てた服は何処に消えたのよ!?
ちょっと主人公?! ねぇッ! ……」
「良いんだ……マリーンが無事なら……本当に……良かった……ッ!! 」
《――直後
マリーンを力の限りに抱き締めた主人公。
……一方、突然の猛烈な彼の愛情表現に
耳まで真っ赤になったマリーンは、直ぐに
“普段とは違う”彼の雰囲気に気付き――》
………
……
…
「……大丈夫だから安心して主人公。
……私、絶対に貴方の元から離れたりなんてしないから。
もう大丈夫……それより“あっち”を助けましょう? 」
《――直後
マリーンの指し示した場所では
E.D.E.Nシリーズに対し一方的な攻撃を続けて居るディーン隊の姿が有った。
だが、主人公は……そんな彼らを冷静に見つめ
一切慌てる事も無く――》
「大丈夫だ……俺に考えがある」
《――そう言うと
大きく息を吸い――》
………
……
…
「……お~~~いッ!!!
ディーン! ……エデンさ~ん!! ……二人共~~ッ!!
一瞬で良いから戦闘を止めて周りを見てくれぇぇぇぇッ!!
戦う理由はもう無いぞぉぉぉぉぉッッ!! 」
《――そう叫んだ主人公。
そんな彼に対し――》
「……ねぇ主人公。
あの人達“そんな理由”だけで戦ってる様には見えないし
そんな事でこの戦闘が止まるとは思えな……」
《――マリーンがそう言い掛けた瞬間
戦闘は完全に停止したのだった。
……そして
呆気に取られて居たマリーンを余所に――》
………
……
…
「あら……本当ですわね?
私達の呪いは……って?! 解除されてますわよ!?
それなら……戦う理由が全て消えましたわ?
全隊員ッ! ……戦闘中止ッ!! 」
《――直後
エデンの号令を受け戦闘行為を停止したE.D.E.Nシリーズ。
だが、その一方で――》
「……それにしても、所長様だけで無く
国の長である教皇様まで失われてしまっては
私達はこの国で一体誰に仕えるべきなのでしょう……」
《――戦う目的は疎か、彼女らの脳に組み込まれた
“隷従”と言う考え方さえも維持出来ない現状に
そう不満を漏らしたエデン……だが、そんな彼女に対し
ディーンは――》
「ならば……エデンよ、この国は君達が治めると良い。
君は何故か“誰かに認めて貰おう”と必死になって居た
君には嫌な話かもしれないが……私の妹にも君ほどでは無いが似た所は有った。
だから……誰かに認めて貰うのでは無く
自らが上に立ち、誰かを“認める存在”として生きると良い。
誰に脅されるでも無い、そんな生活を……」
「いいえ……それは出来ませんわ? 」
「……何故だ? 」
「私達は……敵である“魔族”と大差の無い存在
定期的に“食事”を取らなければ緩やかな死を迎える……
……そんな存在ですの。
そんな私達がこの国を統治すると言う事は
宛ら“食料庫を維持する”のと大差ありませんわ?
……お分かり頂けたかしら?
と言うか、そんな事よりディーンさん?
アナタに一つ……お願いがあるのですけれど」
「……聞こう」
「私達を……消し去って下さらないかしら? 」
「なっ?! ……何を言う?! その様な事が出来る訳が!! ……」
《――突然の申し出に慌ててそう返したディーン。
だが……エデンの部下二人もこれに同意し
全ての武装と装備を解除し、彼の前にその身を差し出した。
……そんな彼らの姿に戸惑いを隠せず居たディーンに対し
エデンは――》
………
……
…
「ディーンさん……私は、貴方の妹さんに対する愛がとても羨ましい。
だから……私の事を妹だと仰って下さった事
まるで妹さんから“横取り”したいみたいですし
それは少しの時間では有りましたけれど……それでも確かに
愛と言う物を感じる事が出来ました……感謝致しますわ」
《――そう言うとディーンに対し深く頭を下げたエデン
だが、そんな彼女に対し――》
「何を言う! ……君に妹としての記憶が無いとしても
私は君を大切な妹として……そうで無くとも大切な存在として
変わらず愛を持って接する事は出来る!
主人公……エデン達は確かに魔族の流れを組む存在だ
だが、もう既に戦いの意思も攻撃の意思も無い
悪事に手を染める事など先ず有り得ない筈だ!
頼む……この通りだ。
君の力を……彼女達全員を救う為の力を……貸して欲しい……」
《――深々と頭を下げそう頼み込んだディーン
だが、主人公はそんなディーンを笑いながら――》
………
……
…
「……いや~意外過ぎて笑えたぁ~ッ!
てか……ディーンって意外と馬鹿だったんだな。
……俺が言った事、もう忘れたのか? 」
「主人公、何を……」
「ディーン、俺は……“皆を助ける”って言ったんだ
全員助けないなんて選択肢は最初から無いよ! 」
「主人公……この恩は生涯忘れない」
「いや、忘れてくれても別に……って!
そうと決まればエデンさん、貴女達が危惧してる
魔族の“マズい”部分、解決するなら“何でも”しますか? 」
「え、ええ……」
「それは良かった、なら! ……」
《――そう何かを言い掛けた瞬間
すかさずマリアは――》
「あ~っ!! ……主人公さん!
エッチな要求でもするつもりじゃないでしょうね!? 」
「ちょ!? ……違うわっ!!
た、確かにエデンさんは魅力的な女性だけど!! ……って。
そうじゃ無くてさ……子供達を預かって貰ってるあの集落!
彼処ならエデンさん達を助ける術を知ってる筈だろ?
唯……エデンさん達には彼らを攻撃をした過去がある。
……まずはそれを許して貰わなきゃ駄目だろ?
だから……助けて貰える為なら
“頭でも何でも下げる覚悟があるか”……それを聞きたかったんだよ! 」
「成程! ……って何と無く分かってましたけどね~」
「マリア、お前なぁ……」
《――ともあれ
この後、エデンは主人公に対し――》
………
……
…
「と、兎に角……助けて頂けると言うのならご指示通りに致します」
「良かった! ……ならエデンさん一行も含めて
皆、急いであの集落に帰ろうよ! 」
《――こうして
彼は、全ての危機的状況を奇跡的に解決し……
……誰一人失わず、誰一人見捨てず
彼自身の命と、彼の大切な仲間達との生活と命を取り戻した。
その為に……決して小さくは無い“代償”を払って。
管理者と言う存在の謎……この世界の謎
皆の前で何時もの様に明るく振る舞って居た彼は
数多くの謎と苦悩を胸の奥へと仕舞い込んで居た――》
===第七十三話・第二章・終===




