第七二話「楽勝を奪われたとしたなら……中編」
《――主人公に対し攻撃の意思を見せたマリーン
だが、突如として彼女は苦しみ始めた――》
………
……
…
「うぐっ!! ……があああああぁっ!!! ……」
「なッ?! マリーンッ!!!
くそッ!! ……マリーンに何をしたッ?! 」
「ん? ……この娘は半魔族だったのでな
少々魔族の“色”を強める薬を打っただけだ
急拵えだが、満身創痍の貴様らでは倒せまい?
特に……貴様の様に“魔導に偏った”ガキではなッ!
さて“そろそろ”か……」
《――そう言うと
尚も苦しみ悶えるマリーンへと視線を移した所長
直後、マリーンの身体は黒い繭に包まれ――》
「マ……マリーン?! 」
《――漆黒の肌、紫の瞳
自らの体を覆い隠せる程の巨大な翼
彼女は……“魔族”と見紛う程の
変貌を遂げ――》
「……ほう、なかなか美しい姿に変化する物だな?
よし“M”よ……先ずは小手調べだ。
……D.E.E.Nシリーズを全員捕縛しろ」
「了解……優先対象を変更、D.E.E.Nシリーズ
捕縛します――」
《――直後
無感情に命令を実行に移したマリーン……彼女は
瞬時にディーン・タニアの両名を捕縛し
続け様にギュンターをも捕縛した。
だが……一方で、彼女には
時折妙な“停止時間”が存在して居て――》
「チッ、調整が足りんか……」
《――そう苛立ちを顕にした“所長”
その一方――》
「マリーン……何してるんだよ!
ディーン達は仲間だろ!? おいッ! マリーンッ!!! 」
《――そう、必死に呼び掛け続けて居た主人公
だが、彼の声が彼女に届く事は無く――》
「煩いガキだ……M、そのガキを黙らせろ」
「了解、命令を実行します」
《――直後
一切の躊躇い無く
主人公に向け鋭く尖った爪を差し向けたマリーン
だが、これを既の所で防ぎ切ったマリア
とは言え、その衝撃は凄まじく――》
「……痛ッ……マリーンさん……
流石の私も……怒ります……よ……ッ……! 」
《――激しく弾き飛ばされたマリア
その、凄まじい衝撃に
意識を保つ事さえ危うい彼女の事を支えながら――》
「マリアッ!!! ……何してるんだよマリーンッ!
マリアも仲間だろ?! ……頼む、思い出してくれッ! 」
《――そう、尚も叫び続けて居た主人公
だが、そんな彼の声を鬱陶しく思ったのか――》
「理解力の足りんガキだ……Mに貴様の声など届きはしない
さて、そろそろ飽きて来た……M、全員纏めて始末して構わん
“血肉”の何れかが取れれば実験には充分だ……殺れ」
「了解、第一目標は主人公……ッ……」
「ん? 」
《――この瞬間
“所長”の命令に対し、再び“停止”したマリーンは――》
「主……人公……仲間……」
《――直後
涙を流し――》
「マ、マリーン? ……そうだッ!!
仲間だ! 俺達は大切な仲間で! ……」
《――そんな彼女の“不安定さ”に活路を見出した主人公は
両手を広げ、彼女の元へ歩み寄ろうとして居た。
だが――》
「ぐあッ! ……ギャァァァァァァァッ!!! 」
「マ……マリーン? 」
「……目標の接近を確認
命令を実行します――」
《――直後
無情にも彼女の爪は主人公の腹部を貫いた――》
………
……
…
「――目標の生命反応低下
及び、意識の途絶を確認しました」
《――無感情にそう言ったマリーン
彼女の足元には意識を失った主人公……そして
そんな彼に縋り付くメルの姿があった。
……響き渡るメルの泣き声
幾度と無く彼の名を呼び
幾度と無く治癒魔導を試み続けたメルの想いは
無情にも“魔導封じの呪具”に依って打ち砕かれ
主人公の容態は悪化の一途を辿って居た――》
「何て……事……を……ッ……何て事をするんですかッ!!!」
《――そう叫び、斧を振り上げたマリア
だが、既に満身創痍と成った彼女の一撃は
マリーンに届く事無く……直後、マリアは意識を失った――》
「ふっ! ……恐ろしい程に脆い物だな?
お前達の“仲間”と言う感覚は……まぁ、そうで無くては
此方が困るのだがな? ……さて、Mよ。
耳障りだ………その騒がしい“女”も殺ってしまえ」
「命令を承認しました、目標の殺害命令を実行します」
《――直後
再び戦闘態勢を取ったマリーンは
彼女を軽々と持ち上げ、そのまま地面へと叩き付けた。
……全ての魔導を封じられた状況の中
それは“永久防護”さえ例外では無く
この瞬間、メルを襲った痛みと言う言葉では不適当な程の衝撃
だが……常人には耐えられぬ程の激烈な苦しみに耐え
彼女は、辛うじてその生命の炎を繋ぎ止めて居た――》
「ぐっ……マリーン……さん……やめ……てっ……」
《――そんな中
彼女の鞄から飛び出した精霊族のベン
魔導封じ効果が故か、弱々しくも飛び立った彼は
瀕死の重症を負ったメルに対し、振り返る事さえ無く
その場を離れて行った……だが。
彼の行動は“逃亡”では無かった。
彼は――》
………
……
…
「メルちゃん……さよならっ! ……」
《――言うや否や
“エデン”へと特攻を仕掛けたベン……直後、彼の活躍に依り
魔導封じの呪具は完全に破壊された。
……全ては“呪具”を消し飛ばす為
この、絶体絶命の状況を打破する為
決して阻害される事の無い“体内での魔導爆発”を用い
刺し違える覚悟で“呪具”を破壊した彼は
自らの命を燃料とした“魔導爆発”に依り
瀕死の状態に陥って居た……だが
そんな状況下に遭って尚、彼はメルに対し
状況を打破する為に必要な
唯一絶対の答えを伝えようとして居た――》
「メルちゃ……ん……君の……中には……オークの……血が
流れ……てるんだ……ッ……君の……特別な生まれの……力
固有魔導……を……発現させる……んだ……ッ……」
「……ベン!? ……分からないっ……分からないよ!
私に固有魔導なんて……どうやって……」
「違う、君は知って居る筈だ!!
唯……足りないだけなんだっ!! 」
「足りないって……何がっ?! 何が足りないのっ?! 」
「全てを……全てを投げ捨てる覚悟で……ッ!!
祈……るんだっ!!! 後少しで……君は……うぐぅっ!! ……」
《――誰一人として立ち向かえる者の無い中
それでも、命を賭し……息も絶え絶えに成りながら
ベンが必死に彼女へ伝えようとした事――
“オークの血”
“特別な生まれの力”
“固有魔導”
――断片的過ぎるこの情報を元に“新たな力”を得る事など
不可能とすら思える程の要求だった。
だが……彼女は思い出した
彼女の憧れであり、最愛の存在が語った
“状況”を――》
―――
――
―
「あのっ! ……主人公さんの固有魔導って凄い能力ですけど
一体どうやって習得したんですかっ?
そ、そのっ! ……私ももっと皆さんのお役に立ちたいので
是非とも“固有魔導習得のコツ”みたいな物を私にもっ! ……」
「……えッ?
メルはそのままでも別に……って
これじゃ答えに成って無いよね……でも実際
その時の事を話しても、多分メルの役には立てないと思うんだよね」
「ひ、酷いですっ! 私だって頑張って強くなろうとっ! ……」
「えッ? ……ち、違う違うッ!
そう言う意味じゃなくてッ!!!
何て言うかその……あの日、俺は別に
“特別な事をした”とかって訳じゃ無くて!
唯……必死で“願い続けた”だけなんだ」
「願い続けた? ……どっ、どう言う事ですかっ?? 」
「“皆を助けられるならば、俺の命すら投げ出しても良い”
……そう、自分でもびっくりする位
本当に“全部”……見事な位
全てを投げ捨てる覚悟で祈り続けたんだ。
そうやって必死で祈った結果
ギリギリの所で固有魔導を“授けられた”ってだけだから……」
《――この瞬間
そう真剣に語った主人公……だが、そんな彼に対し
マリアは少し意地悪げに微笑みながら――》
「え~? ……その説明は“臭過ぎ”ません?
そもそも、主人公さんって魔導師としての能力値が“規格外”ですし
既に習得してたのを“気が付かなかっただけ”
……とかじゃないんですかぁ~? 」
「マリアお前……それ、褒めてる様で
物凄~く貶してるよな? って言うか
そもそも“俺の能力”じゃ無いんだってば!
どう説明して良いのか分かんないけどさ……
……“天国っぽい所”から
俺に声を掛けて来た“おっさん”が居て
その“おっさん”が俺に固有魔導として……」
「ナニソレ、キモチワルイ」
「っておいッ!!! 」
―
――
―――
「分かり……ました。
ベン……貴方の言って居る意味が……私にも分かりましたっ!!!
……神様、私はどうなっても構いません
だから、主人公さんを助けてくださいっ!!
マリーンさんを……皆さんを元の関係性に戻せる様
どうか……どうかっ!! ……私に力をっ!
主人公さんを……救えるだけの力をっ! ……」
《――この瞬間
天を仰ぎ、そう祈りを捧げ始めたメル……だが
この行動を嘲笑った所長は――》
「何をごちゃごちゃと……面倒だ、M
半端に生かす必要は無い……殺せと命じた筈だ。
どれからでも構わん……全てを殺せ」
《――そう、冷酷に命じた
直後、命令を受けたマリーンは――》
「了解、目標……全敵の殺害……個体名“エデン”保護の為
“ベン”を優先し殺害します――」
《――今にも消え入りそうなベンの命を
刈り取らんと、差し迫った。
だが――》
………
……
…
「マリーンさん……相手は私ですっ!!! 」
《――瞬間
そう呼び掛けた声と共に発せられた凄まじい闘気
直後、マリーンの手は既の所で止まり――》
「対象をメルに変更、対象を殺害します――」
《――直後
凄まじい勢いでメルに向け突進を繰り出したマリーン
だが――》
………
……
…
「マリーンさん……私、思い出したんです。
……勿論、私は主人公さんの様に強くないですし
そもそも私は回復術師ですから
攻撃系の技が使えない事も良く理解してますし
何よりも……主人公さんや皆さんの優しさで
一緒に旅をさせて貰ってるだけなんだって
自分でも良く分かってるんです……きっと
本当は私、お荷物なんですっ……だけど。
……だけどっ!!!
それでも……そんな私でもっ!
皆さんの事が大好きですし……大切なんですっ!
皆さんの事を……何としても護りたいんですっ!!!
だから……今だけは私が皆さんを護るんです。
護られるだけのメルじゃないっ!
……全力の私を見せるんですっ!!!
たとえそれが、主人公さんに嫌われる行為だとしてもっ!
マリーンさんの事を……倒さなきゃいけないとしてもっ!!! 」
《――この瞬間
涙ながらにそう語ったメル。
対するマリーンは――》
「ぐガッ……サ……殺害……対象:メル
脅威度:最高……全ての命令を破棄し、優先撃破します」
《――折れた翼から突き出た鈍色の骨
瓦礫を押し除け――
“大きく姿の変化した”
――彼女を睨みつけながら、そう言った。
マリーンの瞳に映るメルの姿……それは
紛う事無き“オークの血”を感じさせる物であった。
……この瞬間、彼女に発現した“固有魔導”は
彼女に二つ有るルーツの内の一つ――
“オーク族”
――その“始祖”の姿に変化する事
彼女は……ガルドすら霞む程の
強靭な肉体を手に入れて居た――》
「何だ? ……何だ何だ何だその女は?!
……面白いっ!!!
只のハーフ族と考えて居たが
貴様の様な小娘が居たとはなっ!!
これは……研究材料として是非とも手に入れたい!!
何をしているっ?! M
何をしているっ?! E.D.E.Nシリーズ共っ!!!
……早くその娘を捕らえんか馬鹿どもがッ!! 」
《――嬉々とした表情を浮かべつつそう命じた所長
だが……彼女達は身構えたまま動かなかった。
その“理由”は――》
「……ベン君、君のお陰で私達も全力で戦える様に成った。
君の、その精神に敬服すると共に
それを決して無駄にはしないと誓おう……さて、エデン。
もとい……“E.D.E.Nシリーズ”よ
私の妹の姿をした君に、一つだけ伝えて置こう。
“すまない”と――」
《――静かにそう言ったディーン
直後――》
「――固有魔導:地獄之番犬
裁きを与えよッ!! ――」
《――その手から溶け落ちた彼の愛銃:オルトロスは
三ツ頭を有する“漆黒の番犬”へと姿を変えた。
そして――》
「お久しぶりですわね“ワンちゃん達”……っと失礼
ディーン様……私も補佐を致しますわね。
固有魔導:斑黒猫
掻き乱して――」
《――瞬間
猫系獣人族と見紛う姿へと変貌を遂げたタニア
一方、ギュンターは“固有魔導”では無く――》
「流石はお二人で御座います……さて
私めも久し振りに“これ”を使用する時が来た様ですな? ……唯。
あまりに久しく使っておりませんので
“鈍ら”に成っていなければ良いのですがね――」
《――直後
燕尾服の下に巻き付けられた“何か”を取り出すと
それを一度振り回したギュンター
その手に有ったのは、身の丈三倍を超える
“長剣”で――》
「――ふむ、切れ味は落ちていない様ですな。
さて……全力で掛かって頂けますかな?
あまりに不甲斐無い相手では、剣が機嫌を損ねてしまいますので」
《――“城壁を両断した後”
ダンに向け、そう挑発をしたギュンター
一方、これに憤慨した所長は――》
「チッ! ……E.D.E.Nシリーズよ、先にD.E.E.Nシリーズを倒せ!!
私に歯向かう様な失敗作など殺しても構わんっ!!
万が一にも失敗すれば貴様らも廃棄処分だッ! ……良いな!? 」
《――そう、命じたのだった。
一方……“魔導封じ”の効果から逃れたマグノリアは
急ぎ主人公を始めとする“重症者達”に対し
彼女の固有魔導である
“精霊女王之歌声”を用いた治療を行おうとして居た。
……だが、反面
彼女は“躊躇”をして居て――》
「この様に早期に“使い切る”事に成るなんて……」
《――そう言って拳を握り締めたマグノリア
彼女の固有魔導には“デメリット”が存在して居た――
“三度を超え歌声を聴きし者、祝いを失い呪いを得る”
――此処で使い切る事に
僅かながら躊躇いを感じて居たマグノリア
だが――》
「今しか機会は無い……それに
主人公が死ぬのだけは、見たく無いのですワ。
例え魔族を討ち滅ぼす為には成らずとも
ワタシは、主人公を失いたく無い――
――固有魔導:精霊女王之歌声ッ!!! 」
《――直後
彼女は、皆に対する“最後の治癒”を開始した――》
「うぐっ……ぐはっ!? ……ゲホッゲホッッ!!
リ……リーア? ……み、皆ッ?! ……マリーンは!? 」
《――主人公を皮切りに
仲間達が皆、続々と治癒され始めて居たその一方
状況を不利と見るや、研究所内部へと退避した“所長”
一方――》
「有難うリーア……傷は完全に治った
後は、俺の力で全員助けて……全員倒すッ!! 」
《――そう、意気込んだ主人公
だが、そんな彼を慌てた様子で制止したベンは――》
「待ってッ! 君は戦っちゃ駄目だっ!
もし、万が一……“あの姿に成った”マリーンさんを
元に戻す方法が無かった時、君の固有魔導以外では
彼女を治せないかも知れない。
……君も知って居る筈! 君の固有魔導は魔導消費が肝だ
だからお願いッ! ……今は我慢してメルちゃんや皆に任せてっ! 」
《――懸命にそう言ったベン
そして、この直後……激しく響いた轟音に
思わず視線を向けた主人公は――》
「あ、あれは……オーク族? でも、服が……まさかメル?! 」
《――固有魔導の所為で“大きく見た目の変化した”メル
彼の知る、普段の優しく愛らしい姿とは
大きく異なるその姿、だが――》
「あっ! 主人公さんっ!!
やっとお目覚めに成ったんですねっ! ……あっ、でもえっと
い、今はちょっと……そのっ……
……マリーンさんと“女の戦い”って奴を頑張ってるんですっ!!
そのっ、お見苦しい姿をお見せしちゃって……ごめんなさいっ! 」
《――この瞬間
主人公に心配を掛けまいと気丈に振る舞ったメル
そんな彼女の姿に――》
「……分かった。
今日だけは“女の戦いって奴”に口出ししないよ、だけど
その代わり……解決した後は
“仲直りのジュース”を皆で一緒に飲もう!
それと……勝った方には
何か欲しい物を一つプレゼント!! ……って
これだと煽ってるみたいだよな! アハハハ……」
《――押し寄せる不安の中
必死に……叫ぶ様にそう伝えた主人公。
そんな彼に対しメルは――》
「はいっ!! 」
《――そう
“満面の笑み”で応えたのだった――》
………
……
…
「……なっ?!
先程よりも押されているでは無いか馬鹿共がッ!!!
せめて一人位倒せんのかグズ共がッ!!! 」
《――その一方
大量の改造兵達を引き連れ、再び一行の元へと現れた“所長”は
現れるなり、そう憤慨して居た。
だが、そんな彼の立ち居振る舞いに――》
「全く……何処までも上に立つ者の器では無いな」
「ええ、主人公さんみたいな“甘々で泣き虫でひ弱な人”でも
彼処まで仲間のやる気を下げる事はしませんからね~」
《――そう、少しばかり嫌味に言った
ガルドとマリア――》
「ぐっ……貴様らの様な“仲良しこよし”で
駒を失う度に一喜一憂する様な者共など
戦場では何の役にも立たんわッ!! 」
「あ~……やっぱりだこの人。
……ガルドさん、この人やっぱりアホです
こう言う発言が原因で“あんな戦いに成ってる”のとか
まるで見えてないんですよ? きっと」
《――そう言ってマリアが目を向けた先には
ディーン隊とE.D.E.Nシリーズの姿があり――》
………
……
…
「おい姉御ぉ……そろそろ防御も限界だぜ……キッツ……」
「チッ……分かっていますわ!!
ダンッ!! 今ですわッ!!! ……」
「承知ッ!! ――」
《――瞬間
戦艦:バジリスクを出現させたダンは
出現と同時に“全弾発射”を発動させ
空を埋め尽くす程の砲弾をディーンら目掛け一斉に降り注がせた。
だが――》
「甦れッ! オベリスクよ!!! ――」
《――瞬間
オベリスクを緊急発動したギュンター……だが、直後
彼を含め……皆、砲弾の雨に飲まれ黒煙の中に包まれてしまった。
……降り注いだ砲弾に依り周囲の地面は抉れ
其処彼処から黒煙の上がる中――》
「いやはや……間に合って良かったですな、ディーン様」
「全くだ……しかしギュンター“オベリスク”は大丈夫か? 」
「無論でございます……“本体”は無事でございますから」
「ですが、私は服が汚れてしまいましたわ? ……全く
折角ディーン様が
“嗚呼、この世に舞い降りた天女の様だ! ”
と褒めて下さった大切な装備だと言うのに……」
「タ、タニアよ……さっきも言ったが
私は其処まで褒めた覚えは……」
《――黒煙の中から発せられた
ディーン達の声……その、楽しげな会話は
彼らの無事を物語って居て――》
「ま、まさか“愛機”を盾にするとは……」
《――薄っすらと見えた人影を確認した瞬間
酷く肩を落としながらそう言った“ダン”
そして――》
「……ええ、大切な“愛馬”で御座いますので
この様に痛めつけられるのはとても腹立たしい限りで御座います。
ですが……ディーン様やライラ様をお護り出来るのならば
たとえ大破してしまおうとも、大した損害ではありません。
とは言え……“愛馬”を傷つけた事を許すつもりは御座いませんよ? 」
《――直後
オベリスクの影から現れたギュンターは
冷たい殺気をその身に纏わせながらそう言った。
この後……ディーン隊の三人は、その圧倒的な連携力で
E.D.E.Nシリーズに一切の隙を与える事無く
圧倒的優位に立ち続け――》
………
……
…
「ぐっ……貴様ら、何をチンタラとやっているッ!?
私に恥をかかせるつもりかッ!! 」
《――そんな彼らの様子に
再び激昂した“所長”……だが
そんな所長に対し――》
「恥だと? ……吾輩の“生涯の友”は定期的に“かいて居る”が
少なくとも、吾輩はそれを蔑もうとは……見下そうとは思わぬ。
やはり貴様には人の上に立つ器などありはしない様だ……」
「だっ……黙れぇぇぇっ! “ブタ公”
……良いだろう、貴様らのその軽口
何処まで通用するか見せて貰おうではないかッ!!!
改造兵共ッ!! ……全員纏めて掛かれェェェッ!!! 」
《――直後
一〇〇を優に超える改造兵達は
群がる様に二人へと襲い掛かった、だが
この途轍も無い数の暴力に押されず
襲い来る敵を軽々と薙ぎ倒し続けた二人は
援軍としてこの場に到着したロミエル正規軍をも容易に打ち倒し
所長の“手駒”を完全に殲滅し――》
「なっ……何なんだ貴様らはッ?!
く、くそっ……殺られてたまるか!!
この程度の事で私の研究者としての人生をッ!!!
……お、おい貴様らッ! それ以上近付くんじゃ無いッ!!
こんな所で殺られる位ならば、貴様ら諸共巻き添えに
E.D.E.Nシリーズに仕掛けて置いた“呪い”を発動させるぞ!?
わ……分かって居るのか!?
発動すれば、この付近一帯は跡形も無く吹き飛ぶのだぞッ?!
い、良いんだなッ?! ……」
《――酷く興奮した様子で
懐から何らかの呪具を取り出しそう言った所長
だが……この瞬間、突如としてその背後に現れた
“黒い影”――》
「……おやおや、あまりに騒がしいので来てみましたが
とんでも無い騒ぎに成って居ますねぇ? ……」
「なっ?! き、教皇様っ?!
ご、ご安心を! もう少しで奴らを! ……」
《――何処からとも無く所長の背後へと現れた
“教皇”……彼は、暫くの間
“所長”の弁明をにこやかな表情で聞き続け――》
「えぇえぇ、そうですかそうですか……その様に考えて居たとは。
それは何とも“愚かしい”――」
《――突如として発せられた凄まじい殺気に
金縛りの如くに固まった“所長”
直後……そんな彼の首を静かに刎ねると
“教皇”はE.D.E.Nシリーズに仕込まれて居た呪具を完全に解除した。
……この異質な敵に慄き
慌てて距離を取ったマリアとガルド
だが……そんな二人には目もくれず
“教皇”は既に絶命した“所長”に向け――》
「――所長殿。
貴方“程度”に道連れにされては、この国の格が落ちる
それに貴方は“命に変えて責任を取る”と言った
自らの言葉に責任を持ちなさい……」
《――と、吐き捨てた直後
所長の全てを魔導で焼き払い――》
「さて……貴方達は、人間の女性とオーク族の雄ですか
何れ劣らぬ良い腕をお持ちです……ですが。
私に勝てますかな? ――」
《――言うや否や
二人の眼前から消えた“教皇”は――》
「おや? ……遅いですねぇ? 」
《――直後、マリアの背後を取りそう言った
だが、咄嗟に範囲攻撃を繰り出したマリアは
既の所で九死に一生を得て居た――》
「とりゃぁぁぁッ!!! 」
「おっと、危ない危ない……良い反応ですな? 」
《――熾烈を極めた教皇との戦い
一瞬たりとも気を抜けない状況の中
互いの背中を守りながら教皇の隙を窺って居た二人。
一方、教皇は余裕の笑みを浮かべつつ――》
「おやおや、酷く警戒されている様ですね……
……私の様な老人相手に、其処まで警戒されずとも良い物を」
《――そう言った。
この後、圧倒的な実力差に苦しめられて居た二人は
必死にお互いを鼓舞しあい、この戦いに耐えて居た。
一方……尚も暴走を続けるマリーンを
メルは必死に“引き戻そう”として居た――》
………
……
…
「……マリーンさん、思い出してください。
水の都の民達を……貴女が苦しんだ魔族の血の事を
私達が大好きな主人公さんの事を……皆さんとの絆を。
何よりも……貴女自身の優しさをっ! 」
「ギギッ……ガァァァァァァッ!!!
モクヒョウ……ゴロ゛……ス!!! ――」
《――瞬間
メルに対し突進を繰り出したマリーン
だが、これを容易に弾き飛ばしたメル。
……固有魔導を発動した彼女に取って
暴走状態のマリーンは、既にさしたる脅威では無くなって居た。
だが……幾度と無く彼女に突進を繰り返すマリーンの
“痛々しい姿”は、確実に彼女の心を傷付けて居た――》
「……マリーンさんがどれだけ私を攻撃しても
もう、全然痛く無いんですっ……だから
その事を怒ったりもしません、でも……でもっ!!
マリーンさんの辛そうな姿を見続けるのは……
……もう、耐えられませんっ!
お願いっ!! ……私達の元に戻って来て下さいっ!!! ……」
《――必死の説得も虚しく
尚も彼女に向け突進を繰り出し続けたマリーン
それぞれの想いと共に繰り広げられて居た戦いの中……
……そんな仲間の姿を
唯、見守る事しか出来ずに居た主人公は――》
「マリーン! ……メル! ……マリア! ……ガルドッ!!!
くッ!! ……」
「待つんだ主人公!!! ……気持ちは分かる
だけど……動いちゃ駄目だっ!! 」
「……退いてくれベン!
これ以上このまま“座して待つ”なんて俺にはもう出来ないッ!! 」
《――既に“限界”を迎えて居た主人公
そんな彼を必死に説得していたベンとマグノリア
だがそんな中、再びメルへと突進を繰り出したマリーンに
突如として、ある“異変”が起きた――》
「グゥゥッ!! ……ぐっ! ……あああっ!!! 」
《――これまで“薬”の効果に依り
“魔族”としての側面を強められて居たマリーン
……だが、突如として
紫に染まって居た瞳は
彼女本来の物へと戻り始め――》
「……その……声は……メ……ル……ちゃん……!?
うぐぅぅっ!!! ……」
「?! ……はいっ! メルですっ!
あっちには主人公さんも居ますから!
だから……一緒に“仲直りのジュース”を飲みましょうっ!
それで今回の事は仲直りですっ! だから! ……」
「うぐっ!? ……主人公ッ!!!
あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っっ!! ――」
《――直後
割れんばかりに痛む頭を抑えながら――》
「こん……な目に……私を苦しめた……のは……誰ッ!!? 」
《――再び、紫に染まった瞳で
メルを睨み付けながらそう訊ねたマリーンに――》
「そ、それは……あの“法衣姿”の方が倒した
“所長”って方で……でも、その人は既に……」
「了……解ッッッ!! ――」
《――瞬間
彼女はメルの眼前から“消え” ――》
「マ、マリーン……さん?
……ッ!? 」
《――直後
衝撃波を轟かせ、転移と見紛うばかりの速度で
空と地上の“隔て無く”連続移動を繰り返したマリーン
それは……誰を狙うでも無く、唯ひたすらに
その“速力”を更に向上させる為であった――》
「……おやおや?
“あちらさん”は遂に狂ってしまった様ですねぇ?
……お可哀想に、さて
此方もそろそろ終わりにしましょうか
“お二人さん”……逃げ回るのも其処までですよ? 」
《――肩一つ揺らさず
息一つ弾ませる事無く、二人に対しそう言った“教皇”
……そんな彼とは対照的に、二人は既に満身創痍であった。
言うまでも無い“圧倒的不利”
だが――》
「苦しい……原因……命令……了解ッ!!
所長、教皇……許さない許さない許さない許さ……ない……!
ゆ゛っ゛!! ……キ゛ャ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!! 」
《――直後
ロミエル法王国全域に響き渡った超音波の様な――
“悲鳴”
――その“発生源”は
空中で漂う様に静止して居たマリーンであった――》
「おや? これは流石に……」
《――その姿を見上げ、静かにそう言い掛けた教皇
だが、この瞬間――》
「か……はッ……な……に……が……起きたので……す……」
《――口元を血に塗れさせたマリーン
そんな彼女の姿を見上げながらそう言った教皇。
マリーンは……“教皇”の喉笛を噛み千切り
その頭部を抱えたまま虚空を見つめて居た――》
「成程、これだから魔族は……嫌いな……ので……すよ……」
《――漸く自らの状況を察した教皇は
薄れゆく意識の中でそう蔑み――》
「ですが、只では死にません……よ。
固有……魔……導……“反逆”――」
《――死の直前、放った最後の魔導
この固有魔導は……術者が受けた物と
“同じ傷”を相手にも与えると言う物であった――》
………
……
…
「が……はッ……」
《――直後
赤黒く抉られた彼女の喉笛
鮮血吹き出す中、彼女は――》
「メルちゃん……仲直りのジュース……飲めそうも無いわ……ね
主人公……ずっと愛して……た……」
《――空を見上げながら
“最期”にそう言った――》
………
……
…
「う、嘘だろ? ……マリーン。
マリーン?! ……駄目だ、死なせないッ!!
“限定管理者権限”ッッ!! ――」
《《――命令を承認
中央処理機構より通達……
……対象へ限定的に
“管理者権限”を移譲します――》》
「良し! ……今直ぐにマリーンを生き返らせろッ! 」
《《――“ERROR”
禁止事項に抵触します――》》
「禁止? ……ふざけるなッ!!
なら、この国の全ての人間を使っても良い
“生命力の移譲”とかって機能で
マリーンを生き返らせてくれッ!!! 」
《《――“ERROR”
“対象”の権限が不足しています――》》
「権限が不足? ……どう言う意味だよ?!
くそッ! ……どんな方法でも良い!
マリーンを復活させる為なら何でも良いから!!
何かそうする為の方法を教えてくれッ!!! 」
《《――“ERROR”
不正なコマンドを確認しました
“対象”への“限定移譲”を強制終了します――》》
「なッ!? ……お、おい! 待てよ!
マリーンを……おいッ!!! ……」
《――尚も必死に呼び掛け続けた主人公
だが、彼の腕の中で彼女は既に息を引き取って居た――》
………
……
…
「……駄目だ。
駄目だ! 駄目だ! 駄目だ! 駄目だッ!!
……こんな別れなんて望んで無いッ!!!
何も叶えずに魔導力だけ消費してんじゃねえよ!!!
完全回復ッ!! ……くッ!!!
何か……何か方法くらいある筈だろッ!?
此処は俺のッ!! ……俺の作った世界だろうがッ!!
俺が楽しめる世界じゃないのかよッ!!?
こんなの……俺の望んでる事じゃ無い事位分かるだろッ?!!
そうだ……そうだッ!! ……マリーナさんから貰った人形だ!!
こいつに頼めばきっとマリーンは!!
……頼むよ人形、何でもする!
俺の命でもくれてやるからッ!!! ……頼むから
マリーンを……助けて……くれ……ッ……」
《――泣き叫び
遂には縋る様に必死に願い続けた主人公
だが、そんな彼の姿を傍で見守って居たメルは――》
「主人公さん……もう、マリーンさんは……」
「……離してくれッ!!!
何でこんなクソみたいな理由で
マリーンが死ななきゃならないんだよッ!!!
マリーナさんに対して、水の都の民達に対して……
……お父さんである水の都の王に対してッ!!!
どうやってッ……何を持って顔向け出来るってんだよッ!
くそっ……頼むよ……マリーナさん!!!
……貴女の大切な娘の危機なんですッ!!!
この人形が本当に冗談無しの掛け値無しに
願った事をちゃんと叶えてくれる物だってんなら
この一回だけで良い……だから……頼むッ!!!
マリーンが死んだら、俺は……俺は……ッ……」
「……主人公さん。
もう、マリーンさんの事を眠らせてあげて下さい
主人公さんのそんな顔……マリーンさんは……見たく無……」
「……煩いッ!!
煩い煩い煩いッ!!!
そんなに簡単にマリーンの事を諦められるメルなんか……
……大嫌いだッ!!! 」
《――瞬間
彼女を押し退け
尚もマリーンの亡骸に縋り
“願いを叶える”と言う人形を片手に
声を枯らし泣き叫び続けた主人公……幾度と無く
彼女に完全回復を施し続けながら
魔導量の心許無い中、彼は最後の頼みとばかりに
人形に対し残り少ない魔導力の供給を行った。
だが、何かが起こる事は無く――》
「俺の……俺のクソみたいな命なんかより
マリーンの命は何千何億倍も重要な命なんだよッ!!
グッ……た……のむッ! ……頼……むから……ッ!!! 」
《――無理な魔導供給に依り衰弱し始めて居た主人公
そんな彼の暴挙とも言える行動に仲間達は慌て
彼を羽交い締めにして居た……だが
それでも尚、彼は諦めず――》
「命の移譲……いや
トライスター専用技にもそんなのは無い。
だが、何かがあった筈だ……命に関わる何かが……
闇の魔導……生贄の魔導……これだッ!!! 」
「なっ?! ……主人公さんっ!! その技は駄目ですっ!! 」
「煩いッ!! ……離せッ!!! 」
《――メルの制止を振り切り
彼が発動させようとして居た魔導
彼が見つけた“生贄の魔導”とは
自らの命を“生贄”に対象者を生き返らせる事の出来る
唯一の魔導技であった……だが、同時に
生き返った対象者は人では無い“何か”として蘇る事
それは俗に“魔物”や“鬼”と呼ばれる存在である事
メルは、其れを知って居た――》
「主人公さんがそんな事をしてっ!
主人公さんが死んで……それで何でっ!!
……何でマリーンさんが何で喜ぶと思うんですかっ?!! 」
「ならどうやって……どうやってマリーンを助けたら良いんだよ?!
何をどうやったらこんなクソみたいな状況を変えられるんだよ?!!
何でこんな事に成るんだよッ!? ……」
《――激しく言い争い
興奮し、手にして居た人形を強く握った主人公
瞬間、強く発光した人形は――》
………
……
…
「全く……とんでも無い“駄々っ子”を転生させてしまった様だ」
《――そう
確かに声を発した――》
===第七二話・終===
精霊女王マグノリアの固有魔導《精霊女王之歌声》についての機密情報
効果:使用者の望む相手に対する精神と肉体の双方への治癒効果
及び、幸運値の大幅上昇に依る“奇跡”の発生確率上昇効果
備考:歌声が聞こえる筈の範囲に存在して居ようとも
使用者の望まない相手にその効果と歌声が届く事は無い。
情報源:秘密裏に彼らを覗く者




