第七一話「楽勝を奪われたとしたなら……前編」
マリーンを人質に取られ、騒然とする船内
ディーンは自らに責任があると考えていた
「全て私のせいだ、済まない……」
「……頭を上げてくれディーン
責めるつもりは無いし、そもそもそんな暇も無い
それよりも、確認しておきたい事が幾つか有る
先ずは彼女の事を詳しく教えて欲しい。
出来る限り、いや……“全て”」
真っ直ぐに彼を見つめ
そう言った主人公
「……彼女の名はエデン、先程も言ったが私の妹だ
だが、彼女は魔族に襲われ死んだ筈……
……何故生きているのかすら判らないが
少なくとも“他人の空似”などでは断じて無い……」
「分かった……じゃあ次は
ディーン達の居た国について教えてくれ
ディーン達は其処で身体や魔導の流れを
“改造された”と言ってたよな? ……覚えて居る範囲で構わない。
……ディーン達の他に
改造を施されたと思しき人達を見た事は? 」
「“改造兵”と呼ばれる者達ならば数十体程
我々が戦闘訓練をして居た時に見かけたが
あれは大した戦力では無い筈だ……だが、それとは別に
私達には立ち入れない区画があり
其処に私達とは別の“研究対象”が居る……
……と言う様な噂を聞いた事が有る。
だが、詳しい事までは判らない……役に立てず済まない」
「大丈夫だ……さて、今分かる事はこれ位か
後は……いや、深く考えなくても大丈夫だ。
俺達は唯、マリーンを救って旅に戻るだけ――
“任務:囚われの姫を助けに行く! ”
――って感じのゲームでもしてる位の気持ちでさ
深く考え過ぎず動けば、案外簡単に助け出せる筈だ。
だから……」
冷静を装い、空元気をして見せた主人公
誰よりも焦りと不安を感じて居るその事実を隠そうとしたのか
そうでもしなければ不安で押し潰されそうだったのか……
一方、そんな主人公の姿を
静かに見つめて居たガルドは
「ディーンよ……一つ聞かせて貰おう
これは仮定の話では無い……御主の胸にある真実だけを答えよ。
……御主の妹君が生きて居た事は
吾輩も自分の事の様に嬉しく思って居る……だが
マリーンを助ける為、妹君を“諦めなければ”成らない時
御主は一体何方を取る腹積もりか……答えよ」
そう、訊ねた。
無論、安易に答えが出せる様な問題では無い事など
訊ねたガルド自身が一番理解して居た。
だが……それでも、ディーンの目を見据え
唯、彼が答えるのを待って居たガルド。
そして――
「わ、私は……」
「……待ったッ!!!
ディーン……その質問には答えないでくれ
それから、ガルド……申し訳無いけど
その質問は無かった事にしてくれ。
……俺のせいでこんな辛い役目を
ガルドに背負わせる羽目に成ったんだって事も痛い程分かってる
本当にすまない、だけど……理由はどうあれ
ガルドの様に優しい男の口から
命に貴賤をつける様な言葉を訊きたくは無いんだ。
……俺は何時も自分勝手で、矛盾した事ばかり言ってるし
此処の所の俺がずっと甘い事ばかり言ってるのも理解してる。
けど、それでも駄目なんだよ……比べちゃ……駄目なんだ。
ごめん……上手くも言えないし、不甲斐無くて
我儘ばかりで……すまない」
「……いや。
吾輩も少し気が動転していた様だ……以後気をつける
“何れも助ける”……それで良いのだな? 」
「ああ……そう言う事で頼む。
それと、ガルドが謝る事は無いよ
俺の方こそ嫌な立場に立たせてすまなかった
もっと俺が……」
「ハイ! ハイ! ハイ! ……ストーップッ!!!!!
……って言うか皆さん重く考え過ぎでは?
要するに今やるべき事は
私の“斧りんマークⅡ”で無理も道理も纏めて
ぜ~んぶ! ……ぶった切っちゃえば良いって事ですよ!! 」
“双之斧”を構えそう言い放ったマリア
直後
「あぁ! ……そう言う事だ!
“マリアーバリアン”の異名を全世界に轟かせてやれ!! 」
「はい! ……って
思わず返事しちゃったじゃないですか主人公さんッ!!
もぉ~っ! ……語呂が悪いっ! 」
「うむ……吾輩もその考え、嫌いでは無いぞマリア殿
吾輩達は今まで幾多の困難を乗り越えて来た
誰一人失わず連れ帰る事など、容易い筈」
「ああ……ガルドの言う通りだ!
例えどんな罠や困難があったとしても
俺達はマリーンとエデンさんを無事に連れ帰る。
それに……良く考えたら、政令国家に現れたあの“白衣姿”の敵
アイツに自白させた防衛設備の場所だって役立つじゃないか!
いや……もし仮に役に立たなくても良い
何としてでもマリーンとエデンさんの事を助ける
その為なら“悪魔にでも何にでも成ってやる”
……そんな覚悟で挑めば
どんな事でも必ず成せる筈だッ!! 」
マリアの発言は凄まじい起爆剤と成り
俺達の心に、希望と言う名の大火を灯した。
……その激しい炎は
この場にいる魔族達や子供達までをも熱くさせた
とは言え……この戦いに子供達を連れて行く訳には行かない。
この直後、俺は……二人を助け出し
俺達が再び集落に戻るまでの間
子供達の事を集落で預かって貰える様
集落の魔族達に頼んだ……直後、これを快諾した彼らは
救出作戦への協力も買って出てくれた。
だが
「そ、その……お気持ちだけって事で!
そもそもさっきの戦いで痛い程分かりましたが
奴らと戦うには、オベリスクの“限界性能”が鍵だと思うので
正直に言えば俺達の重量でもギリギリじゃ無いのかなと!
……それこそ、備蓄食料すら全部下ろしたい位なので!
兎に角……そう言う事なので!
皆さんはこの集落で子供達を護って居て下さい。
心配無用です! ……必ず全員笑顔で帰って来ますからッ! 」
この時
俺は、集落の魔族達に対しとても大きな“嘘”をついた。
俺は……“万が一”を考えて居たのだ。
万が一、俺達が全滅の憂き目に遭ったとしても
彼らならば子供達を立派に護ってくれるだろう。
とは言え……育ち盛りの子供達ばかりだ
少しでも食料に困らない様
出来る限りの食料は置いていこう……
……これだけの食料が有れば直ぐには困らないだろう。
そう、考えたのだ。
「ふム……それならば仕方あるまイ
安心しロ、子供達は必ず守ル……お前タチなら勝てル」
「はい! ……必ず」
暫くの後
集落での別れを済ませた俺達は……救出作戦実行の為
ディーン達の出身国“ロミエル法王国”へ向かう事と成った。
……直後
静かに発進したオベリスク……背後に見える魔族達は祈りを捧げ
子供達は此方に向かい――
“頑張れぇぇぇぇっ!! ”
“負けるなぁ~~っ!!! ”
“マリアーバリアンのお姉ちゃ~~んっ!!
悪い奴らをぶっ飛ばせぇぇ~っ!! ”
――そう
俺達が見えなくなるまで叫んで居た。
◆◆◆
「……あくまで“たまに”ですけど
たまになら……“語呂が悪くても”良いかもですね」
少しだけ前置きを強調しつつも
マリアはそう呟き
「ああ……とは言え、無事に帰ったら
子供達からもっと沢山“そう”呼ばれると思うけどな」
そう俺が返すと
「うむ……覚悟しておいた方が良いだろうな」
そう言って笑ったガルド。
◆◆◆
それぞれの決意を胸に
ロミエル法王国を目指して居た一行
一方、研究所では
「エデンよ……私は“D.E.E.Nシリーズを連れ帰れ”と命じた筈。
……その娘は一体何だ? 」
「お言葉ですが……所長?
この娘は奴らを誘き出す為の、言わば……“餌”
この場所に誘い込みさえすれば
あの不良品達に……いえ。
“D.E.E.Nシリーズ”に協力していた
不愉快な“子供”の異常な能力を
大幅に弱体化させる事が出来る筈と考えたのですわ?
と言う事で……作戦を円滑に進める為です。
“例の装置”の使用許可……頂けますかしら? 」
所長に対し
そう注文をつけたエデン
「“子供”だと? ……何者だ? 」
「……“D.E.E.Nシリーズ”に協力し、規格外の魔導適性を持ち
妙な服を着た不愉快な子供……としかご説明出来ませんわ?
詳しくお知りになりたいのであれば
ご自分でお確かめに成られた方が宜しいのでは?
少なくとも……あの装置を出し惜しみすれば
勝てるものも勝てませんわよ? 」
「生意気な口を……だが、興味深い
有用であれば研究材料としてその子供が使えるやも知れん。
……装置の使用は許可しよう
だが、必ず全員捕らえる事が条件だ。
失敗は許さん……良いな? 」
「ええ……仰せのままに、ですが
その前に“もう一つだけ”お願いがございますの……」
「何だ? ……まだ他にも
“使いたい道具がある”とでも言うつもりか? 」
「いえ……その、私も部下も……少々“空腹”でして……」
「ふっ、成程な……おい、其処のお前
E.D.E.Nシリーズに“食事”を用意してやれ」
「はっ! ……直ぐにお持ちします! 」
「……待てッ!! まさか此処に持ってくるつもりか?
馬鹿がッ!!! ……第二研究室に運べッ! 」
「し、失礼を! ……」
「……チッ、無能が。
まぁ良い……すまんが
私はお前達の“食事方法”を見るのが少々苦手でな
とは言え、食事を取らせず敗北されては元も子も無い。
好きなだけ喰らうが良い……だが、失敗だけは許さん
私の顔に泥を塗る様な事に成れば貴様らは“廃棄処分”だ。
良いな? ……肝に銘じろ」
「ええ……私達の実力の全てを遺憾無く発揮し
私達が最も有用であると所長様にお認め頂ける様
誠心誠意努めさせて頂きますわ! 」
「ふむ、良い心掛けだ……
……おっと、その“小娘”は此方で預かろう。
ん? この娘……“半魔族”か?
これは、面白いッ!! ……」
◆◆◆
所は変わり
引き続きロミエル法王国を目指し
一直線に森を突き抜け驀進していたオベリスク
そんな中、一人甲板に立ち周囲を見渡して居た主人公……
……砂塵巻き上がる中、目を凝らし
周囲を注意深く観察して居た彼の目に飛び込んで来た光景
それは……殆ど原型を留めて居ない
大量の“人間の死体”であった。
……直後、強い吐き気を覚えた主人公。
だが、更に観察を続けこの惨状を
“魔族の食事に依る物である”と結論付けた。
その上で
「この状況……周囲に魔族が居るって事か?
今だけは絶対に遭遇したくないが、こう言う時に限って……
……そう考えたら、念の為に防衛魔導の展開はして置くべきか?
いや、此処で無駄に魔導力を消費したら……くそッ!!
……落ち着け俺ッ! 焦ったら失敗するッ!!
失敗したらマリーンは……くそッ!
……何馬鹿な事を考えてんだよ俺はッ!!!
落ち着けったら落ち着け俺……
……先ずはあの国の防衛設備を思い出す事が先決だ。
あの国の防衛設備は……」
今にも押し潰されそうな不安と戦いながら
ありと汎ゆる可能性と、その対応策を考えて居た主人公。
だが……この直後、突如として何かを思い出した彼は
慌てて操縦室へと駆け戻り
◆◆◆
「ギュンターさんッ! ……俺、思い出したんです!
……少し前、ギュンターさんが教えてくれた
オベリスクの“変形”……その変形の中で
唯一俺達が見た事の無い型が一つ有った事を!
ギュンターさん……“暴れ馬型”は
一体どんな能力を持って居るんですか? 」
この質問に対し
暫く考えた後、少し微笑むと
“妙案見つけたり”
と言わんばかりの表情を見せたギュンター
直後、彼は
「“暴れ馬型”……でございますか。
“あれ”の特徴をお伝えするならば――
“如何なる障害をも撥ね飛ばす”
――と言うのが適切かと。
無論、この圧倒的不利な状況を
打破する突破口ともなり得るでしょう、ですが……」
「……欠点があると? 」
「ええ……強大な力を持つが故に、一度起動すれば
私めの操舵を一切受け付けぬ様に成ってしまいます。
その為、仮の話ではありますが……敵方の反撃が想定を下回り
開放した能力を発揮しきらず、万が一持て余す様な事態と成った場合
制御不能状態のまま暴走を続け……オベリスクは
二度と起動しなく成ってしまうのです。
ですが、例えその様な結果に終わるとしても……ディーン様。
……暴れ馬型の使用許可を頂けますでしょうか? 」
主人公から暴れ馬型の事を訊ねられた時点
いや、恐らくはそれよりも前から既に
そうする事を決めて居たのだろう。
彼は、何一つとして後悔の無い
清々しさすら感じる程の表情でディーンに対し使用許可を求めた。
そして……直後
その覚悟を受け取る様に
「……お前の船だ、私の許可など要らない
お前がそう判断をしたのならば……私からは何も言う事など無い」
「ディーン様……この船は、私めの“全て”で御座います
半端な幕引きを迎えるつもりなど……
……断じて、御座いません」
「良く言ったギュンター……ならば
私達の大切な仲間であるマリーン、並びに妹を救う為。
そして、あの“研究所”を……完膚無き迄
再起不能な迄に……
……私達の様な者達をこれ以上作り出させぬ為
全力を以て叩き潰す事を命令する。
その力を有するこの“鍵”は……お前に返そう」
直後、懐からメダルの様な物を取り出し
それをギュンターさんに手渡したディーン。
そして……メダルを強く握り締めると
大きく深呼吸をしたギュンターさんは
舵を撫でた後
まるで“永久の別れ”の様な表情を浮かべた。
……“人馬一体”と言う言葉があるが
ギュンターさんとオベリスクの関係性は、まさにそれだと思う。
この直後、ギュンターさんが舵を強く握り締めると
オベリスクはそれに呼応する様に加速を強めた
だが、同時に……ギュンターさんに対し
“暴れ馬型”の事を訊ねてしまったせいで
ギュンターさんの全てを奪う事に成るかも知れない。
そうも考えて居た俺は
この事を酷く後悔し始めて居た、だが。
「……オベリスクよ、楽しいですね。
さて……皆様、ご着席を。
“揺れる”……などと、その様に
“生易しい”物では済みませんので」
ギュンターさんはそう言うと
手にして居た小さなメダルを舵の中心に嵌め込んだ。
そして
「地上戦艦オベリスク:暴れ馬型“完全開放”ッ!! ――
――敵はロミエル法王国とそれに与する全ての者達ッ!
我らの眼前に立ちはだかる全ての者を
完膚無き迄に踏み潰すのですッ! ――」
瞬間
激しく軋み始めた船体……その音は、宛ら
“馬の嘶き”の様だった
「……ぬわぁぁッ!?
何だこれッ?! ……揺れとかってレベルじゃ……無いッ!!
まるで攻撃でも受けてるみたいな……って?!
なッ?! ……はぁッ?!
く、雲ぉッ?! ……そ、空飛んでるぅッ?! 」
余りの揺れの酷さに慌て
恐れ慄き窓の外を見た瞬間、気が付いた。
俺達が……いや、オベリスクが“空を飛んで居る”事に。
転生前“飛行機は無し”と設定した筈のこの世界で
“地上戦艦が”空を飛んで居る事に――
◆◆◆
「主人公様……暴れる馬は
“空を飛ぶかの様に”走る物でございます」
「い、いや飛ぶ“かの様”って次元じゃ無くて
明らかに実際飛んでますよこれぇッ?!
って……こ、これなら“上”から狙えるんじゃ?! 」
「……ええ、充分に“可能”でしょうな
さて……そろそろロミエル法王国が見えて来る筈で御座います。
皆様、ご準備を……」
「はいッ! 皆ッ! 戦闘準備を! ……」
「……お待ちを、主人公様。
そうでは御座いません、私は……激しい揺れと衝撃への
“ご準備を”……と申したのです。
全て“この子”にお任せください……皆様は
改めて椅子に深く座り直して頂けますと幸いで御座います」
俺達に優しく微笑みながらそう言ったギュンターさん。
直後……その指示通り、椅子により一層深く腰を掛け
ロミエル法王国への到着を待って居た俺達。
すると
「いよいよですか……オベリスク、任せましたよ」
直後
舵から完全に手を離し
自らも深く座ったギュンターさん。
……この時の彼は
まるで“ティータイム”かの様に落ち着き払って居た。
「屠りなさいオベリスク……貴方の思うがままに」
◆◆◆
所は変わり“研究所”
突如として響き渡った轟音と激しい揺れ……
……警告音が鳴り響き、突然の事に慌てふためく研究員達
建物を襲う衝撃と激しい揺れは次第に激しさを増して居た。
だが、そんな中
所内で唯一人冷静な男が居た
「どうやらお前の仲間が来た様だ……えらく派手な登場でな」
意識の無いマリーンに対し
そう声を掛けた男。
“所長”
◆◆◆
同時刻、数多の兵や防衛設備を物ともせず
正門を粉砕し、ロミエル法王国内部に侵入したオベリスクは
周囲の建物や設備を次々と薙ぎ倒しながら
驀進し続けて居た。
「な、何も街路樹まで焼き払わなくても……」
文字通り
“暴れ馬”の如き暴走振りに思わずそう声を漏らした主人公。
だが
「ええ確かに……能率を考えれば
少々無駄が多い動きで御座いましょう……ですが。
“彼女”のやりたい様に遣らせるのが一番です
第一、既に此方の操作は受け付けませんので」
「あ、いえその……す、すみません」
この後も“一切の区別無く”
目に付く全てを手当たり次第に破壊し尽くしたオベリスク……
……ロミエルの防衛設備は全く歯が立たず
次々と破壊され、再起不能な迄の大損害を与えられて居た。
だが……研究所の入り口に差し掛かった瞬間
突如として、オベリスクは“強制解除”され
「え? ……へッ?
うわぁぁぁぁぁぁぁぁッ?! ……」
◆◆◆
「ふふっ……やはりこの“装置”はとても便利ですわね~♪
まあ、その代わり? ……此方も
バジリスクを使えなくなってしまいますけれど? 」
研究所前にて
“妙な装置”を右手に持ち
そう、満足気に言ったのは“エデン”であった。
一方……“強制解除”されたオベリスクから
“投げ出され”て居た一行は……受け身程度では逃しきれない
激しい衝撃をその身に受けて居た。
だが……そんな状況にありながら、逸早く立ち上がり
燕尾服に付いた泥を払いながら
静かな怒りを顕にした“老兵”
「私めと……私めの“船”の覚悟に泥を塗る行い
これは……貴女方の仕業ですな? 」
静かなる殺気を放ちそう発したのは
ギュンターであった。
「まぁ怖い……ですが
不良品の覚悟など、知る訳がありませんわ? 」
不遜な態度でそう返したエデン
一方、ディーンは
「ぐっ……エデン……マリーン君を返すんだ……
……もしもあの所長の“呪い”に脅されて居るのなら
それを消し去る事も……充分に……可能だ……ッ……
……主人公の力なら
全員を助ける事が出来……る……エデン
昔の……様に……兄妹仲良く……暮らそう……」
痛みを堪え
必死に説得を試みて居たディーン
だが、エデンは
「先程から馴れ馴れしい……それに、妹ですって?
私が貴方の様な不良品の妹であった事など
只の一度も有りませんわよ?
全く以て不愉快ですわ? ……グリフ! ダン!
……殺してしまいたい気持ちは山々でしょうが
出来るだけ生かして捕縛しますわよ! 」
「承知」
「あいよ姉御っ! ……」
エデンの持つ特殊な道具の効果に依り互いに船は使えず
生身での対決となる事は明白だった……
……一方、ディーンの望みを叶える為
出来得る限り彼女を傷付けず救い出したかったのだろう。
これまで気絶した“フリ”を続けていた主人公は
彼女の一瞬の隙を突き
彼女に対し睡眠の魔導を放った……“筈”だった。
「何ッ!? わ、技が……出ないッ?! 」
「やはり! 良い“装置”ですわねッ!! ――」
◆◆◆
彼女の使用した“装置”は
魔導を用いる、全てを阻害する特殊な道具であった。
あらゆる魔導の絶対的な――
“使用不能”
――直後、防衛魔導すら展開出来ず居た主人公は
彼女の繰り出した超速度の突進攻撃を
まともに食らう……筈だった。
直後、彼を庇いその身を呈したのは
ガルドであった
「グッ! ……貴様ァァァッ!!! ……」
「あらあら……“豚”はやはり煩く鳴くものですわね?
そんな遅い攻撃……当たりませんわよ?
と言うか……そちらの駒は殆どが魔導師なのですわね?
これは随分と私達に分がある様ですわよ?
……グリフ! ダン!
“一撃離脱戦法”で行きますわよ! 」
直後
一斉に距離を取ったE.D.E.Nシリーズは
それぞれに武器を構え、一行の隙を伺い始めた。
「ぐぅっ……グハッ! ……」
「……ガルドッ! 確りしろッ!
完全回復ッ!! ……くそッ!!
治癒魔導も発動しない……」
エデンの攻撃に依り
防具を突き破る程の大怪我を負って居たガルド。
……そんな彼の為、治療を施そうとした彼であったが
やはり、装置に阻まれ治療は叶わず……
「……あの者達が狙い目ですわね
グリフ! ダン! ……あの三人を集中して狙いますわよッ! 」
物理適性を殆ど有して居ない主人公とメル。
ガルドは負傷の為、立つ事すらまま成らずに居た
そして……この圧倒的不利な状況下に置かれた三人に対し
これを好機と“三人”だけを
執拗に狙い始めたE.D.E.Nシリーズ。
「ふふふっ♪ ……不良品が寄り集まり
不良品を守る姿は、何とも滑稽ですわね? 」
「……黙りなさい。
“ディーン様の妹君であるから”と黙っていましたが
どれ程口調で誤魔化しても、その品性の下劣さは
決して隠せぬ貴女の根源の様です。
……これ以上ディーン様の顔に泥を塗る様な発言は慎みなさいッ!
“不出来な妹さんッ! ”……」
「ッ?! ……黙るべきは貴女ですわ“毒薬女”ッ!!
身分不相応なその装備……
……私が直々にお似合いの姿に“直して”差し上げますわッ!! 」
「……させません。
ディーン様が私に対し――
“まるで天女の様だ、今直ぐ抱き締めたい程に似合って居る”
――と仰ったこの装備は
貴女の様な下劣な者に触れさせなど致しませんわッ! 」
「タニア、私は其処まで褒めた覚えは……」
どさくさに紛れ
“話を盛った”タニアは兎も角として……
……この後も三人を庇いながら戦い続けた
タニア・ディーン・マリア・ギュンターの四人
「……オラッ! ギュンター!
爺の癖にそんなに動いて大丈夫か?
杖でも付いてな……老害がッ! 」
「タニア様……“品性下劣”はこの者も同じ様です」
「んだと爺ッ!? てめぇ泣いて謝っても許さねぇぞこらッ!!
おいダン! この爺を先に殺るぞッ!! 」
「承知……だが……」
「“だが”……もへったくれもあるか馬鹿がッ!!
ったく、仕方ねぇ奴だよおめぇは……
……あ~あっ!
背中の大剣は“クソ以下のお飾り”なのかよ? 」
この瞬間
敢えてかの様にそう口汚く罵ったグリフ
直後……突如として凄まじい殺気を発した
“ダン”は
「何ッ?! ……ぐッ! 」
大剣を引き抜くや否や
ディーンを“弾き飛ばし”即座にギュンターへと迫り
恐ろしいまでの腕力で彼をも圧倒した
「お~ぉ~……やっぱり怖ぇな? ダンの大剣を“貶すのは”よ?
さてと……どうだ? 爺さん
ダンの大剣……相当やべぇだろ? 」
直後
“ダン”の圧倒的な戦闘力を前に
得意げな様子でそう言ったグリフに対し
ギュンターは虚勢を張った……だが
この後、防戦一方と成った彼の姿に
誰よりも歯痒さを感じて居たのは、主人公だった。
「なッ!? ……ディーンッ! ギュンターさんッ!
くッ……マリア頼む、俺達の事はもう良い……だから
彼奴らを止めてくれッ……お前の力で……頼むッ!! 」
……圧倒的不利な状況に“決死の判断”を下した主人公
だが、彼女は
「……大丈夫です、漸く私が
皆さんには勿論、主人公さんにも秘密で特訓してた
あの“技”を使う時が来たってだけです……でも、初めて使うので
もし、失敗しても怒らないで下さいね? 主人公さん。
さてと、行きますッ――」
直後、静かに構えを解いたマリアは
“双之斧”を分解……一丁を背後に装着すると
盾を左手に持ち、右手にもう一丁を天に向け構え――
「――マリアーバリアン奥義ッ!!
“語呂とバランスが悪いからこそ強い回転攻撃ッ!!! ”
……って、やっぱ今の無しッ!!
やっぱり深夜のテンションで付けた名前って碌でも無いし
一回名前を考え直……って言ってる場合じゃないし
取り敢えず……うりゃぁぁぁぁぁッ!!! 」
――その“ネーミングセンス”はともあれ。
この時、異常な程に低く構えて居た彼女に
危険を感じたエデンは、彼女に対し超速度で迫り
これに慌てたマリアは即座に技を発動させた。
だが、エデンは既の所で立ち止まり
「……勿体振った割に
只の“回転攻撃”とはお粗末ですわね?
そのまま回っていなさい! 私が断ち切って上げますわ!
回転しながら死になさ……って?!
きゃあぁぁっ!!! ――」
瞬間
尚も回転を続けて居たマリアに対し強烈な斬撃を放った。
だが……マリアは彼女の一撃を物ともせず
それどころか、一切弱まる事の無かった“異常な回転力”は
エデンの放った斬撃ごと彼女の体を
“巻き込んだ”
「……掛かりましたねッ!
一見すれば隙だらけのこの回転に触れたら最後ッ!
斧の“形状”を考えれば、手出しは自殺行為に等し……って。
何だか“回転軸”がズレてる様な……って、あわわわわわ?!
止まらないぃぃぃぃぃぃぃぃっ?!! ――」
直後、完全に“重心のズレた”マリアは
エデンと共に“明後日の方向”へと吹き飛び城壁へと激突……
……その規格外の衝撃に依って
エデンと共に“気絶”してしまったのだった。
「なッ……いやどう言う攻撃ぃッ?!
って……マリア起きろッ!! 」
直後、この“予想外の結果”に
今が危機的状況である事さえも忘れ
そうツッコミを入れて居た主人公。
一方
「姉御っ?! ……クソ甲冑女がッ! 殺してやるッ!! 」
瞬間、エデンの身を案じ城壁へと走ったグリフ
だが、それに依って生じてしまった一瞬の“隙”に
「“捨身技”とは
流石はマリア様で御座いますな……フンッ!! 」
言うや否や、グリフの背後に斬撃を叩き込み
これを無力化したギュンター
この直後――
「なっ?! ……グリフ!?
……チッ、気を抜き過ぎだッ!!
焚き付けるだけ焚き付けておいて
一気に数的不利を招くとは……だが、まあ良い。
大剣の持つ圧倒的な力で、貴様らなど全員……」
――グリフの油断に苛立ちつつ
そう言って再び大剣を構え直したダンであったが
「あらあら? ……大変ですわよ?
ダンと言う名の剣士さん? ……貴方のその大切な“大剣”
酷い“汚れ”がついてますわよ?
そっちじゃなくて、其処ですわ? 其処……」
この瞬間、戦闘の構えを解き
彼に歩み寄りながら、そう言って
彼の大剣を指差したタニア
「ど、何処だ?! ……って。
……何もついていないでは無いかッ!!
“毒薬女ッ! ”貴様、何故その様な嘘を……
……うぐぅッ?! 」
「何故と言われましても……
……“痺薬”を吹き掛ける為としか言えませんわね? 」
直後、その“奇策”に依り
ダンへと“痺薬”を吹き掛けた彼女は
この後、ギュンターとの共闘に依り
E.D.E.Nシリーズ全個体の捕縛を成功させた、だが。
◆◆◆
「エデン……頼む、私は唯
あの頃の様に兄妹仲良く……」
「黙りなさいっ! ……私に兄など居りませんわ?!
私が仕えるのは所長様だけ!
貴方の様な不良品の事など知りませんわッ!! 」
戦闘終了後
必死に説得をするディーンに対し
汚物を見る様な目つきのままそう言い放ったエデン。
だが、根源と成る考え方に
ある種の“歪み”を感じたディーンは
「エデン……本当に私の事を覚えて居ないのか? 」
何かを確かめる様にそう問い、エデンは再び
「ですから、知らないと言っているでしょうッ! 」
そう応えた。
……平行線を辿った二人の言い争い
だが、そんな二人の背後から
この状況を嘲笑うかの様に現れた
一人の“男”――
「ふっ……覚えて居る筈が無いだろう!
D.E.E.Nシリーズ……個体名:ディーンよ! 」
“所長”
そして……彼に遅れる事僅か
その背後から現れたもう一人の存在……それは
“マリーン”だった。
「なッ?! くそッ!! ……マリーンを開放しろ! 」
「黙れクソガキ、私の話を遮るな……お前の事は後回しだ。
さて……ディーンよ、お前に一つ聞く
私がお前達の身体に施した“呪い”についてだが
まさか、自力で解除した訳ではあるまい? 」
「貴様の疑問に答えるつもりは無い」
「生意気な口を……まぁ良い、些末な話だ
そんな事よりも、だ……其処に居る貴様の“妹”だが
何故“貴様を覚えていない”のか……知りたくは無いか? 」
「……聞かせて貰おう」
「ほう? ……妹の事と成ればえらく“素直”な物だな?
良かろう、何故お前を覚えていないのかを教えてやろう。
私が“記憶を消した? ”……違う。
改造手術の副作用で記憶が“消えた? ”……それも違う。
貴様の妹は、貴様の記憶にある通り
数年前に間違いなく“死んだ”……では、何故
貴様の妹がこうして目の前に居るかを教えてやろう。
“エデン”……もとい“E.D.E.N”は
貴様の“妹”の死体から遺伝子を取り出し
複製体として生み出す過程で魔族の遺伝子を混ぜた実験体だ。
故に……貴様との思い出など
そもそもある筈が“無い”のだよッ!!
……フッハッハハハハッ!! 」
「何……だと……所長、貴様ッ!!
貴様ァァァァァァァァッ!!!!! ……」
「おっと、其処まで……それ以上近づけば
貴様の大切な“仲間”の命が失われる事に成るぞ? 」
「ぐッ、卑怯者がッ! 貴様の様な……くっ……!! 」
「フッ……苦痛に歪む顔も面白いが、私は
お前達が絶望に沈む顔を見てみたく成ってしまったよ。
さて……其処のクソガキ、主人公と言ったか? 」
「……ああ、そうだ。
所で……アンタは凄い研究者だろうし
絶対的にこっちが不利なのも良く理解した。
“絶対的にアンタが強い”……認めるよ
だから……マリーンを返してくれ。
……頼む」
「ほう? 意外にも素直なガキでは無いか……構わんぞ?
その素直さに免じて、この女を返してやろう。
ほら、連れて帰るが良い……」
「なッ?! ……ほ、本当に良いのか?! 」
「ああ、構わんぞ? ……無事に連れ帰れると思うのならなッ!!!
奴らを殺せッ! “実験体Mッ! ”――」
「了解……戦闘を、開始します」
直後
“マリーン”は主人公に対し“攻撃の意思”を見せた。
===第七一話・終===




