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異世界転生って楽勝だと思ってました。  作者: 藤次郎
第二章

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第六十九話「のたうち回る程の苦しさと転げ回る程楽しかった気持ちと……」

《――“敵意の無い魔族達”の暮らす集落で主人公の懐から飛び出した木片

この木片の正体は

無作為之板ランダムテーブル”と呼ばれる特殊な魔呪具の一部で有った。


……だが、その魔呪具が復活してしまった事で

直前の使用者であるエリシアの記憶は完全に“復活”してしまった。


ある日の事

政令国家・飲み屋ヴェルツでは

エリシアを“ある”記憶が苦しめていた――》


………


……



「……ずっと友達……違う……親友……ッ!!


……何でッ!!


ごめん……私が弱かったから……ぐぅっ!!


ミリアっ!! ……一番強いお酒、何も聞かずに瓶ごと出してッ!!! 」


「エリシア……いきなりどうしたんだい? 」


「……お願い、何も聞かないで。


私の事を心配してくれてるなら……持って来て……お願い……」


「ああ分かった……だが、話し相手が欲しかったらすぐに呼びなよ?

話を聞く位は出来るからさ……」


「ありがとう……っ!! ……」


《――なおも苦しむエリシア


そんな彼女を心配したミリアは……店で最も強く、

出来る限り“後残りしづらい酒”をエリシアへ渡すと

店の入口に“本日臨時休業”の札を立て掛け

静かに店の奥へと消えていった……そして。


苦しみを忘れる為か……


それともせめて弱める為なのか……


……グラスに並々とそそいだ酒を一気に飲み干したエリシアは

一筋の涙を流し、思い出したくも無い“過去”を思い出していた。


……彼女エリシアがまだ、今程腕の有る魔導師などでは無く

魔導師見習いとでも呼ぶべき程度の実力しか持たず

政令国家もまだ“王国”と呼ばれていた頃……


……彼女は

王国初代トライスターである“ヴィンセント”の弟子をしていた。


そして……師匠であるヴィンセントの教育方針にって

彼と共に様々な国を渡り歩き、訪れた様々な国に伝わる魔導の知識や

魔導道具の知識を日々、必死に学び続けていた彼女エリシア


きびしくも楽しく、けわしくも幸せな旅を進んでいた二人

だが、ある日の事……優しい師匠の“気まぐれ”か

それとも彼には“日常”であったのか……


……時代は

まるで、幼子が捨て猫を拾うかのごと

ある“路上暮らしの少年”を弟子と迎えた日にまでさかのぼる――》


―――


――



「君……其処の君! 」


「?! ……っ!! 」


「あぁっ! ……待って待って逃げないで!!


お腹……いて無いかい? ……ほら、これをあげよう! 」


《――警戒し、逃げようとした少年に対し

パンを差し出しながらそう言ったヴィンセント。


一方……数日間食事を取れて居なかった彼は

ヴィンセントの差し出したパンを恐る恐る……奪う様に受け取ると

それをむさぼる様に食べながらも

ヴィンセントへの警戒心は解かず居た少年……だが、そんな少年に対し

ヴィンセントは優しく微笑ほほえみ――》


「少年……君がもし

今の生活を続けていきたいなら僕はこのまま何も言わずに立ち去ろう。


だが、僕には君の中に……君自身を助ける力がそなわっている様に思う。


だから少年……僕の弟子に成りなさい。


苦しい思いや辛い思い……勿論

僕と旅をしている間にも間々(まま)有るだろう。


……けれど、君は必ず強くなれる。


そうなった時、今度は君が誰かを……いや、大切な場所を

大切な人をまもれる強さを発揮して欲しい……そう僕は願ってる。


君はどうしたい? ……僕は君の選択にゆだねるよ」


《――与えられた久しぶりの食事を貪り食って居た少年

彼はヴィンセントの提案を本当の意味で理解していたのか

それとも、彼の事を“食事をくれる男性”としか見ていなかったのか


いずれにせよ――》


………


……



「で……弟子に成る……」


「おぉ! ……それは良かった!

……エリシア、今日からこの少年が君のおとうと弟子だよ!

あね弟子として立派な姿を見せる様にね! 」


「は……はいっ! 宜しくね、少年! ……じゃおかしいか。


えっと、君の名前は? ……」


「名前……僕の……名前は……」


《――この出会いの後

きびしくも優しいヴィンセントの教育方針にって

弟弟子かれ”は破竹の勢いで成長を続け……


……姉弟子エリシアよりも一足早く魔導試験に合格した彼は

新人とは思えない程の実力を有する攻撃術師マジシャンへと成長していた。


だが……この頃から魔導師の修練をおろそかにし始め

個人的な“趣味”を優先し始めていた彼。


姉弟子であるエリシアの再三さいさんの注意も意味をさず

ある日の夜……これを見かねたエリシアは師匠へ相談をした。


だが、心優しい師匠ヴィンセントは――》


………


……



「……彼は多才で、その上多方面に興味がある。


私の弟子には……エリシア、勿論もちろん君も同じだが

魔導師と言う小さなわくはまって欲しいと思わないんだ。


魔導師と言う職業はあくまで手段の一つ……だけど

真面目なエリシアの事だ、納得出来て居ない事も理解している。


だから……不公平に成らない様、そして

君にも道を広げて欲しいから、君は嫌かもしれないが……


……僕は君にも、魔導師以外の道を経験して貰いたいと思っている」


「魔導師以外の道……ですか? 一体どんな……」


「……君の職業は攻撃特化だ。


実際“花形職業”だし最も重要な職業とされている……だけど

強さ故に弱くも有るんだ……“回復”も“防御”も出来ないからね。


だから……エリシア、君には“薬草の知識”を持って貰いたい」


「薬草の……知識ですか?

そんなの学ばなくても薬師の所で買えば……」


「無駄に感じて嫌かい? ……残念だなぁ。


僕は君がもっと強さと優しさをそなえた

素敵なレディに成長してくれる事を祈ってそう考えたんだけど……」


「素敵なレディ……わっ、分かりましたっ!!

薬草の勉強……がんばりますっ! 」


「おぉ! ……本当かい?! 良かった~ッ!


……エリシア、僕はね……せめて大切な弟子にだけは

トライスターの様に高過ぎた能力の所為で特別扱いを受ける

“呪われた存在”であって欲しくないと思っている。


だから僕は、君達二人が普通の職業で有った事を誇りにすら思っている。


……君には様々な技術を努力で勝ち取り

行く行くは世界最高の攻撃術師マジシャンに育って欲しい。


だからこそ、色んな技を持ってて貰いたいんだ……


……僕の何よりも大切な弟子だからね! 」


「は、はいっ! でも師匠は“呪われた存在”なんかじゃ……」


「有難うエリシア……君の優しさにはつい甘えたくなる。


我ながら良い弟子をとった物だ! ……はっはっは!!! 」


「ちょ、ちょっと! ……茶化ちゃかさないで下さいっ!

師匠は本当に素晴らしい魔導師で! ……」


《――この日から後

大量の文献ぶんけんを読みあさり、実際に薬草を探し

知識と経験を積んでいく事と成ったエリシア。


だが……そんなきびしくも楽しい修行旅の最中さなか


旅慣れている筈のヴィンセントにしては珍しく

森の中で方向感覚を失い……その所為で道に迷ってしまった一行は

帰り道すら分からぬ程の状況に立ち往生していた。


だが、そんな時――》


………


……



「あの、もしや……道に迷っていらっしゃるのですか? 」


《――彼らに声を掛けたのは

エリシアと同程度の年齢とおぼしき一人の少女であった。


一方……ヴィンセントはこの少女に対し

まるで救いの神が現れたかのごとく――》


「た……助かった~っ!!


あ、いや失礼……その……

貴女の言う通り、僕達は道に迷って居るんだ……それで

いきなりこんなお願いをするのは本当に、申し訳無いのだけれど……」


《――と、ヴィンセントが其処まで言い掛けた所で

少女は微笑ほほえみ――》


「申し訳無く成られずともお助けするに決まってますっ!


それと……この森は夜遅くなると沢山の魔物が出て危険ですから

急いで此処から一番近い村にご案内しますっ! 」


「ああ……気を使わせてしまってすまない

その村に到着したら何かお礼をさせて貰うよ! 」


「いえ、お気遣いなく! ……此方ですっ!


あっ! ……お礼の代わりって言うと変なんですけど

道中、もし魔物が現れたら皆さんのお力でお願いしますね! 」


「ああ、それは任せて貰おう! ……えっへん! 」


「師匠、そんなに威張いばる事じゃないと思います……」


「そ、そうだねエリシア……」


《――直後

少女に案内されひたすらに歩き続けた一行……


……昼頃に出発し

やっとの事で目的の村に辿たどり着いた時には日が落ち始めていた。


だが……にも関わらず

到着早々、少女は“此処までで帰りたい”と言いだした。


一方、少女の曇った表情に違和感を感じたヴィンセントは

彼女にある質問をした――》


………


……



「あの村から特段変な気は感じない……少なくとも

“迷った旅人を襲って金品を奪うたぐいの盗賊が居る”様には。


だけど……ならば何故、君だけがあの村を嫌がるのか。


……答えたくなければ答えなくても良い

嫌な気分にさせる質問かもしれないけど一つ聞くよ?


君は、あれ程の時間歩いたにも関わらず息一つ上げず

休憩もせず……途中、魔物が現れたときも眉一つ動かさなかった。


それだけじゃ無い……いま来た道を帰ると言う事は

君は先程の危険な魔物が現れる道を一人で……それも

暗闇の中帰る羽目になる……ただの人間

それも、君の様に華奢きゃしゃな少女にそんな芸当が出来る訳が無い。


僕の優秀な弟子二人があんなにも“バテている”と言うのに。


君は一体……何者だい? 」


《――そうたずねたヴィンセント。


少女はこの質問にうつむき……少し考えた後

悲しげな“満面の笑み”を浮かべ――》


………


……



「その……怒らないで聞いてください。


私……“半魔族”なんです。


……だから、私一人なら魔物が現れても襲って来る事は無いんです。


でも……その所為で

あの村に近づくと村の人達が嫌がるから……ごめんなさい。


皆さんは普通の“人間さん”だから……きっと

あの村の人達も優しくしてくれる筈です。


……だましたみたいでごめんなさい。


“半魔族に案内された”なんて……嫌……でしたよね……ッ……」


「そう言う事だったか……すまなかった。


だが、君に魔族の気が有る事は最初から感じていた……けど

不思議な事に悪意も殺気も何一つ感じなかった。


むしろ、此処までの道のりで僕が君から感じていたのは

優しさと誠実さだけだった……


……だから、君が悲しそうな声で


“此処までで帰りたい”


そう言った……言わなきゃ成らなかった原因を知りたかっただけなんだ。


ごめん……意地悪な聞き方をしなければ話して貰えないと思ってね

お詫びと言っては変かもしれない……だけどえて言わせて欲しい。


君が悲しむ原因である君の出自しゅつじについて

僕や弟子達が直ぐにどうこう出来るとは思えないし

扱いを変化させて行くのは簡単じゃ無いとも分かっている。


……だけど、僕は必ず君の様な素敵な存在が

全員笑顔で生きられる世界に変えて行く。


無論、僕の弟子達にもそう動いて貰いたいと思って居る。


二人共……良いね? 」


「はいっ! ……」


「……ええ、努力します」


《――直後

せきを切った様に泣き崩れた半魔族の少女。


そんな彼女を優しく抱きしめたエリシア……


……だが、この騒ぎを聞きつけた村の者達は

一行に対し“彼女と親しくした”と言う理由だけで

村へ入る事を拒絶きょぜつした。


一方のヴィンセントはこの対応に文句の一つすら言わなかったが

村に背を向け、弟子二人と半魔族の少女をしっかりと掴むと

無言のまま今来た森へと転移した……そして、そんなヴィンセントに対し

“自分の所為だ”……と謝り続けて居た半魔族の少女

だが、ヴィンセントはそんな彼女の謝罪を受け入れようとはせず


むしろ――》


………


……



「……謝るべきは僕の方だ。


何を言えば君が救われるのか……本当にすまない事をした。


……この通りだ」


《――ヴィンセントは深く頭を下げた。


そんなヴィンセントを少女は静かに見つめていた……そして


暫く何かを考えた後……少女は

一行を“ある場所へ案内する”と言い出した。


そして、その“ある”場所とは――》


………


……



《――暫くの後

少女は、みずからの親が暮らしていると言う

“魔族集落”へと一行を案内した……だが。


集落に現れた初めての人間に対し

魔族達は皆警戒心をむき出しにしていて――》


「……何故ニンゲンを連れ帰っタ!!

直ぐに追い返せ! ヴィオレッタ!! 」


「待って下さいお父さんッ!! ……あの村の人間さん達は

私の所為でこの人達を拒絶したんです……


それでも……この人達は私の事をかばってくれました。


だから……せめてお礼をしたいのです。


せめて今日だけでも構いません、この人達を

集落で休ませてあげて下さいっ!! ……」


《――暫しの静寂せいじゃくの後


少女の願いを聞き入れた魔族達は警戒を解き

一行を集落の奥へと案内した……だが。


……ヴィンセントの人柄がゆえ

意外にもあっという間に打ち解けた一行と魔族達は

豪勢な食事と歓迎の宴の中、直ぐに意気投合し

互いの身の上話などで大いに盛り上がりを見せる事と成った。


“一日だけ”と言う約束もいつの間にか消え去り

一行と魔族達は数週間に渡り友好的な関係を築き

エリシアと半魔族の少女は

いつの間にか“親友”と呼べる程の友情を築いていた。


だが……


……それを“原因”とした


ある“事件”が起きてしまう事と成る――》


………


……



《――ある日の事

ヴィンセントから“数日後に旅に戻る”と聞かされたエリシアは

親友と成った半魔族の少女“ヴィオレッタ”と離れる前に


せめて、彼女を不当に扱い続けているあの村の住人達と

彼女との関係性を良好な物へと変化させたいと考え


単身、村へと出向き村人達に直談判していた。


だが――》


………


……



「黙れ!! ……分別のつかないガキが! 」


「半魔族など……魔族と人間のハーフだぞ?

けがらわしい……その様な者をかばうなど! 」


「……まだ立ち去らないつもりか!?

いくら子供とは言え、我が村に厄災やくさいもたらす存在ならば

それ相応の対応をする事になるが……それでも良いと言うんだなッ?! 」


《――考えられた結果ではあったが

この村には、誰一人として彼女エリシアの願いを聞き入れる者など居なかった。


そして、状況はさらに悪化した――》


………


……



「お前達は揃いも揃って人間のクズばかりだ!!

……ヴィオレッタの何が悪いッ!

お前達みたいな奴らの方が余程けがらわしいよ!!!!


いいよ? ……勝てると思うなら掛かってこいっ!! 」


《――他に方法はあったのかもしれない。


理解させるのに時間が掛かるだけだったのかもしれない。


……だが、若きエリシアの行動は

あらゆる面で時期尚早じきしょうそうと言う他無かった。


彼女エリシア一人に対し、相手方の用意した魔導師は十数名

それでもエリシアは必死に戦った。


だが……まだ駆け出しの魔導師であるエリシアに

多対一の戦闘は荷が重く――》


………


……



《――時を同じくして

魔族の一人がこの状況をヴィンセント達に伝えた事で、事態は急展開を迎えた。


慌てた様子で転移魔導をもち

弟弟子の他に……同行を懇願こんがん

彼の服のすそを決して離そうとはしなかった

“ヴィオレッタ”をも引き連れ現場に急行したヴィンセント……だが。


……其処で一行が目にしたのは

ひどく負傷し捕縛されて居たエリシアの姿であった。


だが、状況をさっしたヴィンセントは頭を抱えて居た……


……有り体に言えば“弟子が圧倒的に悪い”のだから。


“弟子を返せ!! ”とすごむ訳にも行かず

凶行きょうこうに及ぶ事を望まない”と伝え

村人達の怒りをしずめる事を優先していたヴィンセント。


……だが、その一方で


“弟弟子”は、慌てふためくヴィオレッタの耳元で

ささやいた――》


………


……



「僕の作ったこの薬を飲めば、理論上……“超速移動”が可能になる

彼奴アイツらから姉弟子エリシア様を救えるかもしれない。


でも……人間には強過ぎる薬だから僕には使用不可能でね。


だが、魔族の血が流れてる君ならもしかしたら……」


《――ヴィオレッタは全てを聞き終える前に

弟弟子の差し出したこの薬を飲み干した。


……そして、弟弟子の説明通り

“超速移動”を発現はつげんさせたヴィオレッタは

その能力を駆使くしし、あっと言う間に

村人達の手からエリシアを救い出した。


……この、あまりの出来事に腰を抜かした村人

だがその一方で……エリシアを救出し終わった後

ヴィオレッタは村人達に対し――


害を与えるつもりは毛頭無い事

だからと言って“魔族を警戒するな”と言う訳では無い事


とは言え、彼女の家族であり森に暮らす魔族達だけは

村人達に危害を加える事は絶対に無い事を知っていて欲しいと言う事

出来れば村人達と仲良く出来ていたら嬉しかったと言う事


――そんなありったけの想いの全てを伝えると

ボロボロのエリシアに肩を貸し

ヴィンセントらと共に集落へと帰還したのだった――》


………


……



《――その日の夜の事


集落では……号泣し、皆に謝り続けて居たエリシアと

一方で、少々の事ならば笑って許す心優しいヴィンセントが

今回の一件で珍しく見せた怒り顔に

集落の魔族達までもが恐れおののいて居た。


だが――》


………


……



「……待って下さいヴィンセントさん!

元はと言えば私の所為で

心優しいエリシアがあんな行動をする羽目に成ったんです!


私がもっと早くあの村に行って

もっと早く今日みたいに想いを伝える事が出来てたら……


……しかられるべきは私です!


だからヴィンセントさん、もうエリシアをしからないでくださいっ!


……お願いしますっ!! 」


《――そう言って彼女エリシアかばったヴィオレッタの優しさに

更に号泣したエリシア……直後

ヴィンセントは彼女エリシアしかる事を止めたのだった――》


………


……



《――数時間後


泣き腫らした目をこすりつつ

エリシアは一人、集落の中に自生じせいしている

“特殊な薬草”をメモに取っていた。


みずからの失態を忘れたかったのか、それとも――


あれだけ必死に訴え掛けたヴィオレッタの言葉を聞き

なお明確めいかくな拒絶をしてみせた村人達に対する怒りを抑える為


――であったのか。


いずれにせよ……一心不乱に

つ過剰な程にしっかりと

特殊な薬草の形状をえがき続けていたエリシア。


だが、そんなエリシアの背後に忍び寄る影――》


………


……



「あ~っ! ……その葉っぱ~っ!

本物はそんなに色~濃くないよ~ぉ? 」


《――直後

エリシアに対し、そう声を掛けたのはヴィオレッタであった――》


「なっ?!! ……びっくりしたぁもうっ!!!


って……ヴィオレッタ、さっきはありがとう。


でもごめんね、私が弱かった所為で……


……師匠が言ってた事、まだまだ実現出来る程の実力は無いみたい。


本当に……ごめん……」


「……んもぉ~っ!


馬鹿だなぁ~エリシアったらぁ~!


私エリシアみたいな友……違う! “親友”っ!


……初めて出来たんだよ~っ?

エリシアみたいな、優しくてぇ~可愛くてぇ~

すっごい素敵な親友が出来ただけでも、私はとっても幸せなんだよ~?

だからもう、さっきの事は気にしないで~っ! ……ねっ? 」


《――彼女ヴィオレッタに取っては

大多数の気心知れぬ者達からの責め苦よりも

“真の自分”を認め、親友と成ったエリシアの悲しむ姿を見る事の方が

何倍も苦しかったのだろう……


……何時も多方面に気を配り

自分と言う存在を抑える事が日常と成っていた彼女ヴィオレッタ

エリシアと過ごす平和な時間だけが

彼女本来の、優しくおっとりとした人柄で居られる唯一なのだから。


だが……そんな彼女ヴィオレッタの優しい人柄を

“知って居るからこそ”自分を責めたエリシア――》


「で……でもっ!

私の所為でヴィオレッタは……」


「もぉ~っ……私は、エリシアさえ親友で居続けてくれるなら

何も悲しくないし~苦しくないっ! ……分かった?

……エリシアが悲しそうにしてると私まで悲しく成っちゃうから

お願いっ! ……嫌な事はもう考えないで?


それよりも、私との時間を楽しく過ごして欲しいなっ! ……」


「うん……分かった。


……私、一生ヴィオレッタの親友で居る!

って……な、何だか恥ずかしい宣言しちゃったけど……絶対だからッ!


とっ、所で! ……この薬草って何する物で

どんな効果があるのか……ヴィオレッタは知ってる? 」


《――ただの照れ隠しのつもりでそうたずねたエリシア。


だが、この薬草には――》


「ん~? ……えっと、これの能力はねぇ~!

“永久の繋がり”って花言葉の~……


……確か回復薬の材料だったと思うよっ♪


花の部分が材料で~茎から枝の部分は

すっごく丈夫な“アクセサリ”に出来るんだよ~? 」


「そ、そうなんだ……じゃあ私、ヴィオレッタとの“親友の証”として

これでお揃いのアクセサリ作るよ!


後少ししたら私達は旅に戻るけど……離れてても親友だから!

また……必ず会いに来るから! 」


「寂しくなるね……でも、そんな風に思ってくれて私も嬉しいっ♪


じゃあ、私はエリシアのアクセサリ作るぅ~♪

エリシアは私に作ってねぇ~! 」


「おぉ、良いね! ……よーしっ! 」


《――こうして

旅立ち前夜……二人は心から笑い

二人仲良くお揃いのアクセサリを作ると……それを交換し

永久とわの友情を確かめたのだった。


……そして


翌日、別れの時――》


………


……



「……エリシア、もう泣かないで? 」


「だって……だってっ!

私……私ッ! ヴィオレッタと離れたく……ない……よッ!! ……」


《――嗚咽おえつらしながらそう言ったエリシア。


一方……そんな彼女に対し

ヴィンセントは――》


「……エリシア。


修行が終わって一人前に成ったなら自由に何処へでも行って構わないし

その時、君がヴィオレッタさんと共に過ごす事を選択するのも君の自由だ。


だからこそ……今は早く旅立ち、ヴィオレッタさんの為にも

一刻も早く最高の魔導師に成る努力をするんだ。


それは、君が願った彼女の“幸せ”の為でもある……良いね? 」


《――そう優しくげた。


直後、エリシアは静かに涙を拭うと――》


………


……



「……分かりました師匠。


じ、じゃあねヴィオレッタ……一生親友だから!

また、必ず此処に戻ってくるから……出来るだけ早く

急いで戻ってくるからッ!! ……またねっ! 」


「うんっ! ……私も、もっともっと色んな事を学んで

エリシアと一緒に過ごせる様になるから!


怪我しないでね~! ……


悲しい事や辛い事が有っても負けないでね~! ……」


《――こうして

魔族達の住む集落を後にした一行は、再び長い旅路を征く事と成った――》


………


……



(寂しいけど……我慢だ私ッ! ……必ず最高の魔導師になるんだ! )


《――想いを胸に旅を続ける決意をしたエリシア。


一方……暫く進んだ道の先、日も落ち始め野営の準備をしていた一行。


だがそんな中……何やら慌ただしい様子で

一行の横を通り過ぎた魔導師達……そのただごとでは無い様子に

一人の魔導師を呼び止め、ヴィンセントはたずねた――》


………


……



「ちょっと君! ……血相けっそう変えて何が有ったんだい? 」


「な何って……“バケモン”が現れたんですよ!

何でもその“バケモン”に村が襲われてるって話で!

村から魔導通信で救援要請が有って……って。


……急いでいるのでこれで失礼します! 」


《――そう言い残し

再び慌てた様子で走り去った魔導師……だが

彼らの向かった方角はヴィンセント達がたった今来たばかりの道

村と呼べる物は一箇所……ヴィオレッタを迫害はくがいした


あの“村”である――》


「……まだ距離は近い

幸い我々全員の魔導力には相当な余裕がある。


……二人共、救援に行くよ」


《――直後

あの村の救援に行く事を二人に対して提案したヴィンセント。


だが、当然の様にこれに反対したエリシアを

ヴィンセントは強くしかった――》


「エリシア……魔導と言う絶大な力を

みずからの損得だけに使用する”事は

世界の破滅を……何よりも、みずからの人生をけがす事になる。


……“世界最高の魔導師を目指す”と約束したのなら

嫌な事さえ自分のかてとするんだ……良いね? 」


《――直後

静かにうなずきヴィンセントの服を掴んだエリシアは

彼の転移魔導にって先程の村に到着した――》


………


……



《――ヴィンセントの予想通り、襲われていたのは先程の村であった。


……増援として送られた魔導師達は強大な化け物の存在に打つ手無く

一人、また一人と打ち倒され

背後に見える村は激しい炎に包まれていた――》


「……くっ、遅かったか!!


二人共、僕の後ろで武器だけ構えておきなさい!

それにしても初めて見る魔物だが……


あれは一体……」


《――化け物はすでに崩壊した村を

何故か執拗しつように攻撃し続け……そして時折ときおり

転移と見紛みまがう程の速度で“超速移動”を繰り返して居た。


そんな中――》


「恐ろしい……って、何ですかね? あれ」


《――弟弟子の指し示した化け物の腕。


其処に目をやった瞬間……エリシアは絶望した。


化け物の腕に巻かれた

今にも千切れそうな“手作りの腕輪アクセサリ”を目撃した事にって――》


………


……



「あ……あれは……私がヴィオレッタにあげたアクセサリ……


……嘘……嘘よ! ……そんな訳無いッ!! 」


「何っ!? ……一体どう言う事だエリシア!

くっ! 不味マズい……此方こちらに気がついた様だ!


二人共! 避けろッ!!! ……」


《――瞬間

一行目掛け攻撃を繰り出した“化け物”……だが

いまだ修行中の身である弟子二人には

到底回避出来る筈も無い程の攻撃で……


……直後、咄嗟とっさに二人をかか

ギリギリの所で二人を退避たいひさせようと動いたヴィンセント。


そんな彼に向け、再び超速移動を発動させた“化け物”は

弟子二人をかかえたヴィンセントに体当たりを繰り出した――》


………


……



「ぐわっ!! ……」


《――直後

弟子二人を守る為、二人を魔導で弾き飛ばしたヴィンセントは

すんでの所で展開した防衛魔導越しに

化け物の体当たりを受けた……だが、その衝撃は凄まじく

彼は瓦礫の中へと弾き飛ばされてしまった。


……一方、ヴィンセント咄嗟とっさの判断にって

弾き飛ばされていた居た弟弟子は

周囲の瓦礫がれき衝突しょうとつし骨折……その痛みと衝撃にって気絶し

エリシアは運良くしげみに投げ飛ばされた事で

軽いり傷をうにとどまって居た――》


………


……



《――その一方


一頻ひとしきり周囲を見回した後、再び崩壊した村を攻撃し始めた


“化け物”……だが、そんな中


“化け物”を攻撃するでも無く、逃げるでも無く

ただ呆然ぼうぜんとしていたエリシア。


……暫くの後


彼女は“化け物”の元へと歩み寄り――》


………


……



「ねえ、ヴィオレッタ……何がったの?


……この際、村の事なんてどうでも良い。


これは師匠に怒られそうな駄目な考えかもしれないけど

それでも……ここ

私の大切な親友のヴィオレッタを苦しめたばしょだから。


正直“いい気味だ”って思っちゃってるし……けどッ!!


何で心優しいヴィオレッタが……何でッ!!


何でいきなり……こんな……ッ!!


……一生親友だって約束したじゃん!!


何でそんな“姿”に成ってまで……


……何でそんな取り返しのつかない事しちゃったんだよッ!! 」


《――そう叫んだエリシア


直後……彼女の声に気づいた化け物は

“超速移動”を発動しエリシアを捕えると……そのまま

彼女の体を強く握り締め持ち上げた……だが、この瞬間


エリシアの腕に巻かれた

“手作りの腕輪アクセサリ”はかすかに光り――》


………


……



「……ア゛ァ゛アァァァァッッッ!!!


エ゛リ゛……シア゛ァァァァァ!!! ……」


………


……



「そうだよヴィオレッタ……貴女の親友のエリシアだよ。


ずっと……ずっと親友だって約束したでしょ?


お願いだから……嫌な気持ちが発散はっさん出来たなら元に戻って。


また一緒にさ、楽しい話とか……遊んだりとか……しよう? 」


「親……友……ッ! ……アガアアアアアアアッッッ!!! 」


「……へっ?

ヴィオレッ……タ? ……」


《――刹那の一瞬

冷静さを取り戻したかに見えた次の瞬間……エリシアを睨みつけ

そのまま彼女の体を握り潰さんとした“化け物”


だが――》


「――爆雷の魔導ッ!


雷鎚イカズチッッ!! ――」


………


……



《――直後

すんでの所でエリシアを救ったヴィンセントは

“化け物”を打ち倒す為、即座に最上級魔導の詠唱えいしょうを始めた……だが

エリシアは――》


「師匠駄目ッ! ……ヴィオレッタは今不安定なだけですッ!! 」


《――そう必死に制止した。


だが、彼女を振り解き捕縛魔導で封じたヴィンセントは――》


………


……



「……全ての罪は僕が背負う。


本当に、済まない――」


《――直後

必死に泣き叫ぶエリシアを背に


ヴィンセントは最上級魔導を発動した――》


………


……



「エリ……ア……あ……っ……エ……リシア……」


「……ヴィオレッタっ!!!


そんな……師匠ッ……何でッ!! 何でッ!! ……」


「……エ……リシ……ア……


師匠さんを……責めちゃ……駄目……だよ……


もう……なか……ないでわら……って……


エリシ……ア……私達……永遠……に……

友ダ……じゃ……無……て……シン……ユ……」


《――直後

眠る様に息を引き取ったヴィオレッタ


……燃え盛る瓦礫の中


声を枯らし泣き叫ぶエリシアの声だけが周囲に響いた――》



――


―――


《――どれ程の時間が経ったのだろうか


グラスに残った最後の酒を飲み干し

朦朧もうろうとする意識の中で……エリシアは


ある重要な事実を思い出して居た――》



「あの後……アイツは確かに

“失敗か”って言いながら馬車の外に薬瓶を投げ捨てた。


……アイツが……アイツの所為だ……


全て思い出した……全部……っ……全部ッ!!


アイツが壊したんだッ!! ――」


………


……



「――ライドウッ!!! 」


===第六十九話・終===

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