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異世界転生って楽勝だと思ってました。  作者: 藤次郎
第二章

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第六十七話「楽な国家とキツい国家と……」

《――る数日前の事

八分の一もの兵を一夜にして失った者達であり

“対政令国家連合国”の一員で有る五カ国はひそかに集まり

今回の“作戦”にり、それぞれの国家の有する兵力に

重大な損耗そんもうまねいた件に関し……その失敗の責任を

互いの国へと擦り付け合っていた頃――》


………


……



「……我々は再三さいさん言っていた筈だ!

時間を掛け、内部から崩壊させた後での作戦展開でも遅くはないと!!

貴国が押し通したのが原因では無いのか?!


……ホロンデル首長国代表殿!? 」


「貴様……そもそも貴国の用意した兵の数は

他の参加国と比べいちじるしく少なかった様に思えるが?!

それが本作戦の失敗の一因だとは思わないのかね?

ボッスール王国代表殿?! 」


「な、何だとッ?! 」


「いやはや……御二方共、此処でそう言い争っていても

失敗が成功に変わる訳ではありません。


此処は……次の策を練るべきかと思いますがね? 」


「ほう? ……随分と貴国は余裕がある様ですなぁ?


まるでつい先頃、仇敵きゅうてきたるアラブリア王国に対し

あの様にみじめな敗北をきっしたとは思えない程です。


一体何故、その様に“余裕”がお有りなので?


……メッサーレル君主国代表殿? 」


「ほう……我が国にその様な口を聞くとはいい度胸ですね

クッ・タバール帝国代表?


……貴国の様に何世紀も前の装備と

何世紀も前の戦法を使い続けるしか脳の無い脆弱ぜいじゃくな国家が

我らと一戦交いっせんまじえる覚悟があると? 」


「……皆いい加減にしたまえ!!

原因の擦り付け合いで解決するなら軍など要らぬ筈!!


……互いの国家が有する軍事力を誇示こじする程の暇があるならば

今、しんに話し合うべき一件に関してろんじてはどうなのだ?! 」


「ほう……では一体何を話し合えと?

ぜひ貴方のお考えをお聞きしたい物ですな……チナル共和国代表殿? 」


「……言うまでも無く今作戦で我々は

“大敗をきっした”……それは揺るがぬ事実です。


ですが……それよりも大きな問題は

“捕縛された”と言う内部協力者と此方側の交渉人では?


良いですか? ……我が国は憂慮しているのです。


仮にその者達が我ら連合加盟国についての情報を漏らした場合

政令国家側はそれを理由に、我らの国々に攻め入る……しくは

不平等条約の締結ていけつせまる為

格好の口実として利用して来るのではないか……とね。


確か、交渉人の出身は“ホロンデル”でしたね?

代表殿? ……解決策は有るのですか? 」


「……ええ“公証人”は我が国の出身で間違い有りません……ですが。


その憂慮ゆうりょ徒労とろうに終わる事をお伝えしよう……」


《――直後

指を鳴らしたホロンデル首長国代表……瞬間


何処からとも無く“覆面姿の男”が現れ――》


「代表……お呼びでしょうか? 」


「……ああ、例の“解決策”を皆様に」


「承知致しました……私はホロンデル首長国

隠密部隊隊長、名前は……いえ。


取り敢えず、私の事は“隠密”……とでもお呼び下さい」


「無礼ですな……いくら“隠密部隊”とは言え

我らの前で顔も名前も隠すとは……」


「……顔や名前をお知りに成りたいのであれば

皆様の命と引き換えにして頂く必要がございますが……


……どうされますか? チナル代表殿」


「なっ!? ……良いでしょう。


それで……“隠密”殿

その“解決策”とやらを簡潔かんけつにお聞かせ願いたいのですが? 」


「ええ……では“簡潔かんけつに”申し上げます。


……口封じの為、刺客は既に送り込んでおりますし

少なくとも此処にお集まりに成られた連合国の皆様に

ご迷惑が及ぶ事はございません……ご安心を」


「そうですか……それならば一先ひとまずは安心と言えるでしょう

ですが、我々はもう一つ気になる情報を得ています

それは――


“メリカーノア大公国が政令国家側に付いている”


――と言う物です。


そして……今回の作戦が失敗に終わった原因も

メリカーノア側の用意した“トライスター”が原因とね……」


《――チナル共和国代表がそう言うや否や

この場に集まった者達は皆頭をかかえ始め――


“……あの国だけは敵に回したくないのだが”


“ええ、我が国もです……”


――などと口々に苦悩を吐露とろしていた。


だが、そんな中……突如として

代表達の集まる部屋の扉は開かれ――》


………


……



「おやおや……雁首揃がんくびそろえてとても悩んで居る様子だが

君達……大丈夫かい? 」


《――直後

部屋に現れたのはメリカーノア大公国の長“アルバート”であった。


警戒する一同……しかし

アルバートは更に続けた――》


「いやいや……そんなに警戒する必要は無い。


それに……る気なら君達程度に気づかれる様なヘマはしない

今日は君達に取引を持って来たのさ……どうだい?


話を聞くか……今直ぐ僕を追い返すか


君達はどっちを選ぶ? ……」


《――そう言って軽く微笑ほほえんだアルバート。


直後、用意された椅子に座ると……彼は

連合側に取って願っても無い程の“取引”を持ち掛けたのだった――》


………


……



《――その一方、数日を掛け

チナル共和国を目指し進み続けていた一行は

チナル共和国の正門前へと辿たどり着いていた。


……大きく開かれた正門は

オベリスクが余裕で通り抜けられるだけの広さをゆう

通り抜けるだけならば通行料も大した金額では無かった……だが。


この国ではたとえ“通り抜けるだけ”であっても

必ず“臨検りんけん”を受ける必要があった。


……とは言え

オベリスクの“特殊な内部”を見せる訳には行かず

船内にはゴブリン族の子供達を大勢引き連れたアリーヤが居る。


今更いまさら“拒否”や引き返す事など出来るはずも無く

他に迂回うかい出来る様な道は無かった。


そして――》


………


……



「……どうした?

臨検りんけんされては不味マズい物でも載せているのか? 」


「い、いえ! その……荷積みが“ギリギリ”でして!

臨検りんけんの際に荷崩にくずれの恐れがあり

とても繊細で貴重で高価な物ですので……」


「怪しいな……まさか

敵国の兵でも隠し立てしているのでは無いだろうなッ?! 」


「い、いえッ! そんな事は!! ……」

(やばい……この流れは色々とやばいッ!! ) 


退けっ! 強制執行きょうせいしっこうだッ!!! 」


「そ、そんなッ!? お待ち下さいッ!! ……」


《――直後

引き止める主人公かれの声には一切耳を貸さず

一直線にオベリスクへと向かった門兵……だが

この兵を止めようと動けば周囲を取り囲む兵も動くだろう。


どうする事も出来ず居た一行……だが

そんな兵に対し、オベリスクの影で立ちふさがる者が居た――》


………


……



「アラ? ……どうされたのかしラ? 」


「……ん? 貴様はあの男の横に居た筈。


いつの間に此処に……いや、まあ良い。


取り敢えず其処を退け……強制執行だ

この荷馬車の内部を臨検りんけんする、邪魔立てするならば……」


「“邪魔立て”……なんてそんな事しませんワ?

ワタシ達は普通の商人ですもの……何かを隠してるのでは無く

商品が壊れる事を心配しているだけですし

もしも壊れてしまったら、ワタシ達にはとっても大損害なのですワ?

その所為で行商の旅が続けられなくなってしまったら

ワタシ達……路頭に迷ってしまいますもの。


アナタが興味のある物なんてこの荷馬車には乗ってませんし

それを理解して貰えるのなら……


ワタシ……何でも致しますワ? 」


《――そう

皆に見えぬ所で兵士を誘惑していたのは“マグノリア”であった。


兵士はマグノリアの美貌びぼう妖艶ようえんさに生唾なまつばを飲み

少々鼻息を荒くしながら暫く考えをめぐらせていた……


……そして。


暫く考え込んだ後、この“取引”におうじる為か

マグノリアと共に“死角しかく”に隠れた兵は――》


………


……



「それで貴様……“何でもする”と言ったな? 」


「ええ……“何でも”致しますワ? 」


「ふむ、よく見なくても良い女だ……なら折角だ。


貴様の“奉仕ほうし”次第で臨検りんけんを無しにしてやらん事も無い。


どうする? ……」


《――鼻息荒くそう言い放つと

みずからの期待する“奉仕”を受け入れる為か

マグノリアの肩に手を掛け引き寄せた兵士。


だが、次の瞬間――》


「では……これを差し上げますワ♪ 」


「かはッ……貴……様……な……にを……し……た……っ……」


《――ふところから取り出した木の実を

兵士の目の前で破裂させたマグノリア。


直後……催眠状態におちいった兵の耳元で

マグノリアは静かにささやいた――


“荷馬車の中に問題は無い、入国を許可する

疑って済まなかった……よい旅を”


――しばらくの後、マグノリアに連れられた兵士は

一行の元へと戻るや否や――》


………


……



「荷馬車の中に問題は無い、入国を許可する」


《――そう言った。


そして――》


「……へっ?!

あ、いや……だ、だと思いましたよ!

じゃあ皆行こうか! それで俺達このままオベ……いや

“荷馬車”に乗ってそのまま通り抜けても良いですかね? 」


「疑って済まなかった、よい旅を……」


「ご、ご丁寧にどうも……じ、じゃあ行こうか皆……」


《――この後、疑問を感じながらも船内に乗り込んだ一行。


だが……この兵士がマグノリアに連れられ現れた事に疑問を感じた主人公は

マグノリアに対しそれとなく質問をした。


だが、帰された返事は――


“秘密ですワ♪ ”


――のみであったと言う。


ともあれ……こうして無事、チナル共和国へと入国出来た一行は

オベリスクから降りずに済む様、出来るだけ広い道を通りつつ

物資の購入などもおこなわずこの国を通り抜けるつもりで居た。


だが……チナル共和国を八割程通り抜けた所で問題が発生した。


何処をどう見ても“狭過せますぎる”のだ。


一行の眼前に見えて来た裏門は

何処をどう見てもオベリスクで通り抜けられる広さでは無く

皆を降ろし走り抜けるには警備が厳重で……


……この瞬間

一行の作戦に暗雲あんうんただよった――》


………


……



「……どうしよう、裏門にも当然のごとく兵士が山程居るし

かと言って転移魔導も使えそうにないし……困った」


《――そう頭を抱える主人公に対し

一人の子供が――


“主人公お兄ちゃん、僕達が居なかったらお兄ちゃん達は通れるの? ”


――そうたず


“そうかも知れない……けど、俺は君達をまもるって約束した。


絶対に誰一人として欠けさせないから安心して!

解決策は必ず出すから……だから、それまで待っててくれるかい? ”


――と彼の目をまっすぐに見つめて答えた主人公

彼はこの後も必死に解決策を思案しあんして居た……だがそんな中

ゴブリン族の子供が、ある“画期的な案”を出した――》


………


……



「あのっ……主人公お兄ちゃん!!

私達が“荷物”なら……大丈夫なんじゃないかなっ? 」


「えっ? ……どう言う事だい? 」


「えっとね、あのね……」


《――直後

この案を実行する為、慌ただしく成り始めた船内では……


……子供達の人数のニ倍程の大きな袋を用意し

オベリスクに備蓄びちくされた大量の食料を袋に詰め込むと

荷馬車では無く……えて

“人力の荷車”を数台まとめて購入した一行。


……その後、オベリスクから居りた彼らは

大通りから少しれた所にオベリスクを停船させると

オベリスク……もとい“荷馬車”が故障したかの様な演技をしつつ

入手した“荷車”に“袋”を載せ替え始めた。


そして……えて周囲に助けを求める様な素振りを見せ

“面倒事に関わりたく無い”大多数の人間を遠ざけると

その隙を狙い、オベリスクを収納したのだった。


そして――》


………


……



「……よし、後は裏門を通り抜けるだけだ。


皆、慎重にだぞ? ……」


「は~い……って、主人公さんの荷車だけ全然引けてませんけど? 」


「……わ、分かってるよ!

だからマリアに助けて貰ってるんじゃないか! 」


《――例にって

物理適性の“終わっている”主人公の荷車のみ

マリアが後ろから押す形と成っていたのは兎も角として……


……この後

順調にチナル共和国を通り抜け、ついに裏門へと到着した一行。


だが、再び臨検りんけんを受ける必要がある様で――》


………


……



「……お前達、其処で止まれ。


念の為、積荷つみにを確認させて貰うぞ?


ん? ……芋? ……何だ? この荷車全部が芋なのか? 」


「い、いえいえ! ……“根菜類”もありますし“穀物類”もありますよ?!

ま、まぁほとんどが食料なのですが……


その、荷馬車が故障してしまって苦労しておりまして……

この荷車も相当に重いので、これ以上の説明は……」


「ほう、それは災難だったな……おい、そっちの荷車はどうだ? 」


「ああ……こっちも似た様な物だ

その男が言う様に食い物ばかりだよ……だが、妙だ。


いくら“オーク”が居るとは言え

人数に対して余りにも食い物が多過ぎだとは思わないか? 」


《――そう言うと一行を疑いの眼差しで見つめた兵士。


だがそんな中、ギュンターは咄嗟とっさに――》


「ええ……おっしゃられる通りでございます。


ですが“全て私共が消費する物”と言う訳ではございません。


そもそも私共は商人でございます

様々な商品を扱う人種でございますので……」


「ん? ……それもそうか。


……だがアンタ、商人の割には着てる物が“上等”だな? 」


《――と、ギュンターを問い詰めた兵士。


だが、眉一つ動かさず――》


「ええ……私は彼らをたばねる立場で御座いますので

それなりの格好をしております。


商人は“信用”と“ハッタリ”が命でございますので……」


《――と返してみせたギュンター


この後……しばらくは一行の事を怪しんでいた兵であったが

ギュンターの堂々たる態度に“問題は無い”と判断したのか

それ以上の質問はせず臨検りんけんを終わらせると


一行が通り抜ける事を許可したのだった――》


………


……



「……いやぁ~っ!


危ない所だったけど……君の作戦のお陰で皆安全に通り抜けられたよ!

本当にありがとう! 助かったよ! 」


《――暫くの後

無事に裏門を通り抜ける事が出来た一行は

チナル共和国が見えなくなった頃、荷車を道の脇に放棄すると

荷袋から顔を出した子供達と共に再びオベリスクへと乗り込んで居た――》


「ううん……主人公お兄ちゃん達こそありがとうっ!

私達の事、見捨てずに助けてくれてっ! 」


「あ……ああ! 当然だよ!

さぁ! ……君も早くオベリスクに乗って! 」


<――屈託くったく忖度そんたくてらいも無い子供の言葉は

たまに大人を“ドキッ”とさせる。


この子が提案した作戦もそうだが……


……この子達は皆とても聡明そうめいに育っている

アリーヤさんと言う“最高の母”の元で。


だからこそ――


“何としてもまもらなきゃ”


――この瞬間


俺は、改めて気合を入れた――>


………


……



「しかし……ギュンターさんの咄嗟とっさ機転きてんが最高でしたね! 」


「主人公様、お褒めに預かり光栄でございます」


「……私達の“まとめ役”


咄嗟とっさの事とは言え良く似合っていたぞギュンター


しかし……何時も助けられてばかりだな、改めて私も礼を言わせて頂こう」


「ディーン様、この程度の事で礼など勿体無もったいのうございますッ! 」


「あ~っ……ギュンターさん、俺の時には素直に受け入れたのに

ディーンだけ扱いが別格ですね~……なぁ~んかズルいなぁ~っ? 」


「なっ?! ……け、決してその様な事は御座いません!! 」


「あははっ! 冗談ですって! ……」


《――危機をだっなごやかな雰囲気に包まれていた船内


しばしの後、再び日之本皇国を目指し

ゆっくりと速度を上げていたオベリスク……だが、直後


後方から猛烈な勢いで迫る軍服姿のエルフ族と思しき女性が見えた事で


事態は急激に変化する事となる――》


………


……



「……全てを麻痺させなッ!


電磁波之衝撃エレクトロ・マグネティック・パルス――」


<――直後

この女性が放った魔導にり、オベリスクはその機能を停止し――》


………


……



「おらッ! ……大人しく降りて来なッ!!! 」


《――直後

一行に追いついたエルフ族の女性は

周囲に響き渡る程の大声でオベリスクに向かいそう叫んだ。


……彼女には一分いちぶすきも無く

オベリスクは行動不能におちいっていた。


だが……このまま膠着こうちゃく状態を続ければ

いずれ援軍が到着し、離脱はより一層困難となる。


この場にしばしの静寂せいじゃくが流れ……


……意を決し、オベリスクから下船すると

この女性を打ち倒す為か戦闘態勢を取った一行……だが。


その中で……唯一人ただひとり

主人公だけは攻撃の構えを取らず――》


………


……



「……待ってくれ!

俺達はただの商人だッ! 貴方達の国に迷惑を掛けるつもりは無い!

何が気に触ったのかは知らないが、俺達の事は黙って見逃してくれッ!


この通りだッ! ……」


《――女性に対し頭を下げ、そう言った。


だが、これを聞いた女性はそんな彼の発言を大いに笑った。


そして――》


………


……



「……笑わせるんじゃ無いよ詐欺師がッ!

何処の商人がそんな“デカブツ”を乗り回すってんだい? 」


《――そう言い放ったエルフ族の女性。


直後、一行の表情が凍る中――》


「ど、どう言う事だ? 俺には貴女の言っている意味が……」


「アンタ……本気で言ってるのかい?


まあ良いさ……その“おとぼけ”に乗っかって説明してやるよ。


……良いかい? 荷馬車ってのは大抵の場合

“四輪で走った”あとが付くモンだ……其処で話は戻る訳だが。


アンタが“荷馬車”と言い張るその“デカブツ”が走った跡……


……一度、自分の目でしっかりと見てみな? 」


《――そう指摘され、振り返った一行

其処にきざまれて居た“あと”は

到底“荷馬車”の物とは呼べぬ姿で――》


………


……



「……どうだい?

理解出来たなら大人しく偽装ぎそういて、お縄につ……」


《――瞬間

主人公はこの女性に土下座をしながら――》


「……確かに、後ろのは“荷馬車”ではありません。


その上、ゴブリンの子供達まで積んでます……でもッ! 」


「何ッ!? ……ゴブリンだぁ?!

其処を退きな! 泣き落としで許される罪じゃないよッ?! 」


「いいえ……退きませんッ!!!

理解して貰えるとは思いませんが、それでも

説明を聞いて理解して貰えるまで!! ……絶対に退きませんッ!!! 」


「……ほう? 珍しい事も有るもんだね?

魔族以外は全ておそうと噂の“ゴブリン”を

まさかかばう“人間が”居るなんざ……珍しいついでに話してみな?


……納得させられると思うならね」


《――皮肉ひにくった様な笑みを浮かべそう言ったエルフ族の女性。


一方の主人公は、地面に手をついたまま必死にうったえた――》


………


……



「……本来のゴブリンは貴女が言った通りの生き物ですし

それを否定もしません……俺だってそう思ってましたから。


けど、彼らは……彼らだけは特別なんです。


人間と仲良くする為の教育を受け、平和に暮らす事を学んで来た

そして……そんな彼らを育てている方もまたゴブリン族の女性です。


……勘の良い貴女なら此処まで聞けば無害であると分かる筈。


お願いです……何も言わずに此処を通して下さい。


……この通りですッ! 」


《――再びエルフの女性に対し、頭を下げ頼んだ主人公。


だが――》


「いや……残念だが、アンタの言葉だけで

“はい、そうですか”……とは成らない。


……それはアンタも判ってる筈だろう?

大人しく“デカブツ”の偽装ぎそういてゴブリン共を降ろしな。


さもなきゃ、今直ぐ此処でアタシと戦う事になる訳だが……


……アタシは迷わず後ろの“デカブツ”を一番に破壊するよ?


そうなった時……アンタが大切だと言う“ゴブリン達”が

全くの無傷で済むと思うのかい? 」


「本当に……これだけ頼んでも分かってくれないんですか? 」

(クソッ!!! やるしか……無いのか……)


「ああ……その体勢から反撃出来る程アタシは甘く無いよ? 」


「くっ! ……何故……何故っ……」

(どうすれば……どうしても戦うしか無いって言うのか……ッ! )


《――この一触即発いっしょくそくはつの中


……オベリスクから下船し

頭を下げ続ける主人公の背中をそっとさすると

主人公かれの前に立った“アリーヤ”――》


………


……



「……もう良い、頭を上げな主人公さん。


それとエルフの兵隊さんや……


……アタシが犠牲になって気が晴れるならアタシの首を持っていけば良い。


だが、子供達と主人公このコ達に手出しをするなら……話は別だよ」


「……驚いた、流暢りゅうちょうに言葉を喋るだけでも不思議だが

そもそもゴブリンが人間をかばうなんて事自体……確かに

その主人公って子の言ってる事が嘘じゃないのは理解したさ。


……だがそれでも

偽装ぎそうしチナル共和国を通り抜けたのは不味マズい行為だ

その主人公って子が言う事も理解しないでもないが……って?!


……アンタの着てるその不思議な服

何だって“エルフの紋様もんよう”が入ってるんだい?!


しかもその紋様もんようは……」


《――突如として興奮し主人公に対しそうたずねたエルフの女性。


そして……彼の和服にほどこされた一つの紋様もんよう

くどい程に


“それだよ! その紋様もんようッ!! ”


と、繰り返し指差し続け――


“……こ、これは

俺達が旅立つ日、俺達全員に送られた大切な和装です。


オルガやガーベラさん、エルフ村の皆の思いが詰まった大切な……”


――そう答え掛けた主人公に対し


“……待て、今誰だって言いやがったッ?! ”


と、更に興奮した彼女は――》


………


……



「へっ? 俺は今、オルガやガーベラさんと言ったのですが……って。


あ、あの……お姉……さん? ……」


「ふっ……ハハハハッ!!

まさかとは思うが、アンタの言うオルガってのは

あの“泣き虫オルガ”の事じゃないだろうね? 」


「……な、泣き虫オルガ?

あ、あの……話が見えないんですが……」


しばらく会って無いからどんな顔になってるか解らないが……


……アンタ、見た所によると相当“やり手”の魔導師だろう?

隠してるのは“腕前も”だとアタシは踏んでるんだ。


魔導で通信位出来る筈だろ? ……本人に確認とってみな」


「え、ええ……魔導通信――」


………


…… 



「……オルガ、俺だ

突然で申し訳ないんだけど、一つ聞きたい事があって……」


「ん? おぉ久しぶりだ……な゛ッ?!


……おい、主人公。


一つたずねるが……何故


御主の横に……“ヘルガ”が居るッ!? 」


「えっ? ……」


「……ほう? 相当な使い手だろうとは思ってたが

まさか、魔導通信で顔まで見えるとはね……不思議な技を使うモンだよ。


所で……立派になったじゃないかい。


アタシの可愛い可愛い泣き虫な“弟”……オルガちゃん! 」


「……えっ?

いや、何か“既視感きしかん”があるとは思ってましたけど

まさか……オルガのお姉さんなんですかッ!? 」


「ああ、そうだよ? ……しかしアンタがオルガと知り合いとは

それに、あれだけ泣き虫だったオルガちゃんが

人間の友達をねぇ……」


《――直後

阿鼻叫喚あびきょうかんの騒ぎと成ったオルガ。


その理由は明白だ……ヘルガはこの後、何故オルガが

“傷の話”を極端に嫌がるのかを余す所無く全て一行に説明したのだから。


……ともあれ、この出会いに機嫌を良くしたのか

ヘルガは一行を見逃す判断をくだし――》


………


……



「……まぁ、ゴブリンとは言え害は無いんだろうし特別に見逃してやるよ。


だが……本来なら、主人公アンタみたいなのは

“我が国の繁栄の為”って理由で無理矢理にでも引き止めるべきなんだろうし

絶対に上もそう言う筈だろうが……


……それも特別に見なかった事にしてやるさ。


さぁ、アタシの気が変わらない内に行きな……


……もう二度と、敵として会わない事を祈ってるからさ」


「あ……ありがとうございますッ!

ヘルガさんがオルガと同じで優しい方で良かったです!

では、またお会いする日が有ったら……その時は味方として! 」


「……ああ、だが“味方”ねぇ?

出来ればそう有りたいもんだが……まぁ、細かい事は置いといて


良いからさっさと行きなッ! こわぁ~い援軍が来ちまうよ? 」


「は、はいッ! ……でっ、では失礼しますッ! ……」


《――こうして

無事チナル共和国を脱出する事に成功した一行……だが。


この日の夜……エリシアを経由し

オルガからの魔導通信が主人公の元へと届けられた。


そして……“例の話は他言無用である”と

嫌と言う程に念を押されたのだった――》


………


……



「E.D.E.Nシリーズ……起動を開始します!


エデン、グリフ、ダン……全個体正常に起動を確認……


……全行程完了です所長! 命令も可能です!


さあ、ご命令を!! 」


「よくやった。


では――


E.D.E.Nシリーズよ……お前達に課せられた最初の任務は

“D.E.E.Nシリーズの捜索”だ……迅速じんそく捕獲ほばく

我が研究所へと連れ帰れ……出来れば殺すな、無理ならば


――貴様らに任せる」


「……了解

活動に必要な推定魔導量を計算中ですので少々お待ちを……


……平均的な魔導適性を持つ人間で計算した所

約八十四名程の人間が必要ですわ? 」


「多いな……だが仕方あるまい。


目立たぬ様に現地調達を行え……良いな?


……くれぐれも目立つな

貴様らは我が国の最重要機密なのだからな……」


「了解……作戦を開始します

グリフ、ダン……行きますわよ」


「あいよ……姉御ッ……」


「……承知ッ!!


“バジリスク”……起動ッ! 」


===第六十七話・終===

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