第六五話「幸せって楽に見つかる物なのでしょうか? 」
数週間を掛け、引き続き日之本皇国を目指して居た一行
幸か不幸か“神々の村”で受け取った大量の備蓄食料のお陰で
食事に関する問題は解決して居た。
……だが、その一方
ライラには“別の問題”が発生して居て
「ギュオオオオオンッッッ!!! 」
「何で……食事なら足りてる筈なのに……何でッ……!! ……」
オベリスクに揺られ
何の不自由も無く旅を続けて居た一行
だが、突如としてオベリスク船内に響き渡った
巨龍の咆哮と、苦しむライラの姿に
「オベリスク、緊急停止ッ!!! ――」
ギュンターの咄嗟の判断に依り停船したオベリスク
直後……慌てた様子のライラはオベリスクから飛び降り
それを見計らったかの様にライラの体から離脱した巨龍は
瞬く間に空高くへと飛翔し
その様を悲しげな眼差しで見つめる彼女の事など
歯牙にも掛けない様子で飛び続けて居た……だが。
……空腹にしては餌を探す様子も無く
飛ぶには不必要な程に体を畝らせながら
時折、ライラでさえ聞いた事の無い
奇妙な啼き声を上げて居た巨龍……
……一方、そんな様子を地上から見上げていたライラは
その行動の意味を理解する事が出来ず、唯立ち尽くして居た。
本来ならば巨龍の発する啼き声の意味など
手に取る様に理解し、意思の疎通も
卒無く行うライラにすら
何一つ理解の出来ないこの奇妙な啼き声。
だが、そんな中
「ギュアァァァァァァァァッ!!!!! 」
突如として響き渡った
ライラの巨龍に呼応するかの様な咆哮
直後
「……な……に?
君は……何処の巨龍? ……何で
“ドラゴン”と一緒に……飛んでる……の? ……」
彼女の“ドラゴン”目掛け凄まじい勢いで接近し
彼女の“ドラゴン”と共に空を舞い始めた――
“謎の巨龍”
――突如として一行の眼前に現れた“謎の巨龍”は
彼女のドラゴンを軽く覆い隠せる程に巨大で
青い皮膚と黄昏色の鱗を輝かせて居た。
その体には、人の手に依って装着されたのであろう
美しい紋様の施された防具と装飾品……そして
その“背”には、何者かが騎乗していて――
「いやぁ~っ! お前が人見知り、いや……
……“龍”見知りしないなんて珍しい事もある物だ!
所で……その子の名前は? 其処の悲しげなお嬢さん? 」
――直後
ライラの“ドラゴン”を引き連れ舞い降りた巨大な謎の巨龍と
その背から降りつつ、彼女に対しそう質問をした男
だが、この男はどうやら“人間族”では無かったようで。
「ドラゴンの名前は……“ドラゴン”……だよ?
貴方こそ……何者……なの? 」
「うわぁ~……巨龍に“ドラゴン”って名前ねぇ?
まぁ、名前がどうあれ君が巨龍に対して愛が有るなら
別に否定はしないけどね……っと、申し遅れてごめん。
僕はドラガ……見ての通り“竜族”だ
それで、君達はこんな所で何をしてるんだい?
って言うか、その巨龍“そろそろ”みたいだけど……」
「……横からすまない、私はディーンと言う者だ
ライラの“ドラゴン”がご迷惑をお掛けした。
……我々の旅の目的だが
我々はある国を目指して旅を続けている
“日之本皇国”と言う国なのだが……如何せん
我々の地図はあまり当てにならなくてね……とは言え
もし貴方達竜族の“領土領域を侵してしまった”のであれば
許して欲しい……」
「へっ? ……いや、別に気にしないで良いよ!
この道は皆の物だし、そもそも竜族に取って地上は……」
そう話して居たディーンと
“竜族の男ドラガ”……だが、直後
そんな二人の会話を遮り
「……待ってッ!
この子が“そろそろ”って……どう言う……意味? ……」
そう訊ねたライラ。
直後……彼女の不安な眼差しに、ほんの一瞬
複雑な表情を浮かべた“ドラガ”は
「えっ? ……ああ、そうだったのか
“繋がり”が強いから既に知ってるものかと……君は人間なんだね。
その……巨龍にはね
大きく分けて四回……“変化”があるんだ」
「変化? ……どう……変化……するの? 」
「それは……って、取り敢えずこんな所で説明してても危ないし
そもそも此処は物凄く凶暴な魔物が多いから
続きを話すなら僕達の集落に戻って話したいんだけど……どうかな? 」
「ディーン様……主人公様……良い? 」
「ああ、勿論だ……主人公、構わないだろうか? 」
「……愚問だぞディーン?
仲間の一大事だろ? ……良いに決まってるじゃん! 」
「っと……許可は下りたみたいだね
なら、僕が先導をするからその荷馬車で付いて……って。
……荷馬車が付いてくる様な速度でゆっくり飛べるかな?
まぁ、遅れそうなら言ってくれれば……」
そう気を使ったドラガに対し
ギュンターは
「お気遣い痛み入ります……ですが
その程度の事、容易き事に御座います」
「そう? ……じゃあその言葉を信じるよ
んじゃ、行こうか“蒼き黄昏”
飛翔っ! ――」
命じるや否や
“蒼き黄昏”こと
彼の巨龍は天高く飛翔した。
直後、連れ立って飛び掛けたライラのドラゴン……だが
直ぐに彼女の方に振り向くと、彼女に対し
“早く乗れ”とでも言わんばかりに合図を出し
少し慌てて背に飛び乗ったライラを確認すると
“蒼き黄昏”に連れ立ち飛び立った彼女の“ドラゴン”
……一方、此方も妙に“気合の入った”様子で
皆に乗船を促したギュンターは
「……皆様、確りとご着席頂きましたか?
子供達……皆、主人公様の防衛魔導に包まれておりますね?
では、参ります……オベリスク第二形態
駿馬型ッ!!! ――」
「う、嘘でしょ?! ……それは……
それだけは……やめてぇぇぇぇぇっ!! ……」
直後、船外にまで響き渡ったマリーンの悲鳴
一方……森を掻き分け凄まじい勢いで突き進んだオベリスクは
ドラガの案内に遅れる事無く、無事に集落へと辿り着いて居た。
だが
◆◆◆
「も……もう使わないって……言ったのに……
ギュンター……さんの……嘘……つきっ……ハァハァ……っ……」
「大変申し訳ございませんでしたマリーン様……ですが
ディーン様のお顔に泥を塗る様な事態だけは避けたく思い……」
「あらそう……その為なら
私の“顔が青褪めて”も……良いって事ね。
主人公……悪いけど……私は……ちょっと……
此処で休んでる……わ……ねっ……」
「あ、ああ……分かった、マリーンは楽にしててくれ
そ、その……念の為メルも側に居てやって欲しい」
「は、はいっ! ……行ってらっしゃいませっ! 」
「ああ、行ってくるよ……じゃあ皆、行こうか」
この後
アリーヤ率いる子供達と
マリーン、メルの二人をオベリスクに残し
“集落”の入り口へと向かった一行は
◆◆◆
「おっ! お帰り~戦士長の兄ぃ! ……ん?
そっちの巨龍と……後ろのは一体誰だい? 」
「直ぐ近くの森で困って居たから連れて来たんだ。
……僕達に害を為すつもりは無さそうだし
彼らとは話したい事も有る……例外的に
集落に入れてやっても良いだろうか? 」
「う~ん、兄ぃの頼みかぁ……本来駄目だと思うんだけど
ま、一応今回だけって事なら許されるんじゃないかな? 」
「無理を言ってすまない……
……さて御一行さん達、僕達の集落へようこそ。
と、その前に……巨龍達も竜族達も
騒がしいのは苦手だから、あまり騒がない様にお願いしておくよ」
「……ええ、無理を通して頂いて感謝しています
皆、特にマリア……大人しくな」
「えっ? 何で私だけ!? ……主人公さん酷いっ! 」
ともあれ。
ドラガさんに連れられ集落の中心部へと案内された俺達は
其処で多種多様な巨龍達と
これまた多種多様な竜族達に出会った。
だが……竜族の殆どは
明らかに歓迎とは言えない雰囲気を漂わせ
俺達の事を訝しむ様に見つめて居た。
まぁ、仕方無いだろう……入口での話を聞く限り
この集落に龍系種族以外が立ち入る事自体
異例中の異例なのだろうから。
ともあれ……この重苦しい空気の中
ドラガさんは
「……皆、僕の勝手な判断で驚かせてしまってすまない
だが、苦情よりも先ず……彼女の巨龍を見て欲しい」
そう言うとライラさんの“ドラゴン”を指し示し
“事情”を知った殆どの竜族達は直ぐに納得してくれた。
だが
「その子が巨龍の“姉弟”だからってのは分かる
だけど、何も後ろの“別種族達”まで連れて来る事は無かったんじゃない?
……危険だよ」
「ドラッケン、君の意見は尤もだと思う
だが彼らは……」
この後
一部の反対者と軽い言い争いの様に成ってしまったドラガさん。
だが、そもそも俺達の同行が問題なのだと分かった以上
黙って見て居る事は出来なくて
「あ、あの……俺に話させて頂けませんか? 」
「ん? 良いけど……」
「有難うございます……では、先ず
ご迷惑をお掛けしてしまった事への謝罪をさせてください。
次に……俺達には
皆様の生活を乱す積りなど微塵もありません
唯、俺達では理解の出来なかった巨龍の異変が
俺達の大切な仲間の“姉弟”に何か異変が起きたと言うのなら
せめてそれを解決する時間を頂きたいと願って居る次第です。
その間だけでも構いません、俺達が居る事が駄目だと言うのなら
俺達はオベ……荷馬車で待機し、決して出歩かないと誓います
ですので、どうか……ライラさんと巨龍をお助けください」
唯唯必死に頭を下げた俺。
すると……此処まで不信感を顕にして居た竜族達の中でも
最も俺達の存在を嫌がって居た
“ドラッケン”と呼ばれる男性も一定の理解を示してくれて
「……人間族にもマトモな立ち居振る舞いが出来る奴も居るのか。
分かった、許可しよう……但し
君自身が言った様に“解決するまでの間”だけだ……良いね? 」
「は……はい! 有難うございますッ! 」
この後
改めて客として扱われ始めた俺達には
飲み物などが提供され、僅かではあるが
竜族達とも少しずつ打ち解け始めて居た頃、俺は
先程ドラガさんが言って居た“四回の変化”について
改めて訊ねる事にしたのだが
「それでその……先程ドラガさんが仰って居た
“大きく分けて四回の変化がある”と言う件についてなのですが……」
そう訊ねた瞬間
ドラガさんは酒の入ったグラスを口に運び
それを飲み干すと
「ああ……巨龍には大きく分けて四回変化がある。
……最初の変化は“成長期”
この頃までに巨龍と築いた友情や絆は後々に活きてくるし
一番発揮される時期でもあるから
この頃までに友情を積み上げておかないと
最悪、僕達竜族ですら襲われる可能性がある。
……次の変化は“思春期”って言うんだけど
よく分からないタイミングで怒ったり、拗たり
時には甘えたり、そして……無口になったりする時期だ
でも、決して愛が無い訳じゃなくて
体の作りが急激に変わり始める頃だから……
……要は“難しい時期”なんだ
愛を持って接し続けたら大丈夫なんだけどね。
そして次、これが割と対処に困る時期なんだ。
その名も……」
「……その名も? 」
「その名も……“反抗期”
……この時期はもう本当に大変で、言う事は聞かない
暴力的になる、自分が悪くても認めない等……」
「あ、あの……」
「ん? ……何か分からない所があったかい? 」
「い、いや……その、何と言うか大変失礼なんですけど
今の今まで聞いて居て漠然と思って居たんですが
何かその――
“世の中の親達全員が感じるであろう子育ての悩みを”
――唯、尤もらしく
説明しただけの様な気がするのですが……」
「そうだね……ある意味ではそうかも知れない
“此処までは”……ね」
「……と言うと? 」
「言ったでしょ? ……大きく分けて“四回”あるって
中でも最後の“変化”だけは本当に……本当に大変なんだ……」
そう言ったドラガさんの顔は曇りに曇って居た。
そして……空に成ったグラスへと並々注いだ酒を
再び一気に飲み干すと、大きな溜息を吐き
「……皆もう薄々気付いているとは思うけど
その子に訪れている変化こそ“四回目”の変化だ。
さっきも言ったが……四回目の変化が最も厄介なんだ。
僕達はこう呼んでる――
――“驚天動地期”と」
「そ、その……“驚天動地期”って言うのは
具体的に何が起きるんですか? 」
「端的に言えば、生きるか死ぬか……善か悪か
何れにしか成らない……詳しくは説明しようが無い。
……巨龍から突然変異的に生まれたと言われて居る
僕達竜族にも、実は少しだけ残ってる現象だから
感覚的には理解しているけど、言葉での説明はちょっと難しい。
……ごめん」
「……説明が出来ないのは仕方ありませんが
ライラさんの巨龍が無事で済む方法は無いんですか? 」
「有るには有る……けど恐らく
一度、君達と離れる必要があると思うんだ」
「離れる? ……どう言う事ですか? 」
「……巨龍に訪れる“驚天動地期”の苦しみを和らげ
少しでも良い方向へと向ける為の方法は二つしか無いんだ。
一つは……他の巨龍と“つがい”に成る事
もう一つは……“善なる変化”を遂げた巨龍達に囲まれた状態で
これから訪れるであろう“異常な空腹”を完全に満たし続け
自らの身体に起こる激烈な変化と戦う事……
……此方は相当に大変な儀式さ」
「成程……何れにしても
巨龍はこの集落に居続ける必要が有る訳ですね……」
此処まで
二人の会話を静かに聞いていたライラ
だが直後、彼女は静かに立ち上がると
声を震わせながらドラガに対し訊ねた
「わ……私は……もう……一緒に居られない……の? ……」
「安心して……君は一緒に居て大丈夫だから。
まぁ……君は竜族じゃ無いが、今回の様な状況なら仕方無い
集落の皆も君の事なら受け入れるさ」
「有難う……でも……そうじゃないの
ディーン様……私、どうしたら……良い? ……」
巨龍と離れディーン隊に残る選択肢
ディーン隊を離脱し巨龍と暮らす選択肢
……何れを選ぶせよ
何れかと離れる事を選ばなければ成らない状況に
ライラは苦悩し……そして。
何れをも選びかねていた彼女に対し
ディーンは迷う事無く、毅然とした態度で
こう、告げた
「ライラ……前にも言った筈だ
我らディーン隊が目指すのは“平和で幸せな暮らし”だと。
ライラ……悩む事など何も無い
私はお前が隊を抜ける選択を取ったとしても
それを決して責めたりはしない
それに私達には、この“指輪”が有る。
……寂しくなったとしても居場所位は分かる
気など使わず“ドラゴン”の幸せと自らの幸せを選ぶと良い。
それに……ドラガさん、この場所ならば“ドラゴン”の苦しみは消え去り
何れ、時が経てばライラ自身も自由に旅を出来るのだろう? 」
「ああ、此処よりその可能性が高い場所は無いと保証するよ
それに、巨龍が安定したら君達の元に戻って構わない
一つだけ、守って欲しい事があるとすれば
“この場所の秘密”だけさ」
「“この場所の秘密”とは? 」
「……気付いて無かったのかも知れないけれど
竜族以外の種族にはこの場所は決して発見出来ない様
ある細工をして居るんだ……なのに何故すんなり入れたと思う?
それは、彼女の“ドラゴン”が居るからさ……だけど
一度でも入れたと言う事は、次回から
この場所を見つける事が簡単って事でもある。
悪い奴らにこの場所がバレても困るから
“秘密は守って欲しい”って言っただけさ
兎に角……ちゃんと約束して欲しい。
……どんなに完璧な国に対しても
どんなに良い人だと思う相手に対してでも
この集落の事だけは決して話しちゃ駄目だ。
……皆、約束してくれるかい? 」
直後
ドラガの言う“秘密”を守ると固く誓った一行。
ドラガは安心した表情を見せると、集落の皆に許可を求め
ライラが集落で暮らす事も認められた。
だが
「さて……悲しいかも知れないけれど
驚天動地期が始まるまで
恐らく時間的な猶予はあと数日も無いと思う
だから、君達は早めにこの場を去った方が良いだろう。
……もし、万が一にも巨龍が悪に染まった場合
その姿を目撃してしまったら、君達はとても苦しむ事になる。
悪い事は言わない、どんなに遅くても
明日の朝までには集落を後にした方が良い」
「そう……ですか」
「主人公君……いきなりで寂しいだろうけど
少しでも安全に驚天動地期を終える為だ
どうか理解して欲しい……それと
君達が目指してるって言う“日之本皇国”だっけ?
あの国には僕も一回しか行った事が無いから
あまり詳しい事は説明出来ないけど、此処からこの方角に進むと
“チナル共和国”とかって国があるみたいだから
其処を通り抜けて更に真っ直ぐ行けば
あの国に行く為の船が出て居る場所があった筈だし
その船に乗れば恐らく長くても数週間で辿り着く筈さ。
……まぁ、君達がもし巨龍に乗れでもしたら
もっと手っ取り早いんだろうけどね」
「と言う事は、もう少しで辿り着くって事ですか?! 」
「……君達がどれ程探してたのかは知らないけど
そう言う事に成るね、おめでとう……って、言うべきなのかな? 」
「あ、有難うございますッ!
今まで得た中で一番嬉しい情報です! ……でも。
ライラさんと離れるのは、やっぱりとても寂しいですが……」
俺がそう言った
直後
「オウル殿に引き続きライラ殿までもとなれば
流石の吾輩も少々……寂しく感じてしまう」
と、ガルドも別れを惜しみ
更に
「私めもそう感じて居ります
恐らく皆様も、同じ御気持ちかと存じます」
そう
ギュンターさんが言うと
「……ああ、我がディーン隊の隊員が
一人、また一人と幸せを掴む度
私の心にも幸せと寂しさが同時に押し寄せて居る。
だが、悲しむ事は無い……寂しいが、喜ばしい事なのだ。
……不遇な出自の我々が
皆等しく幸せを掴めるその日が来た時
ともすればその日は皆
離れ離れに成ってしまって居るのかも知れない。
だが……距離がどんなに離れて居たとしても
我がディーン隊の絆は決して失われない。
……我が最大の友である主人公を見習い
隊の皆に配ったこの“指輪”が
我がディーン隊の絆を永遠に結び続ける事だと信じて居る。
ならば……何も悲しむ事など無いのだ」
皆の前でそう言い切ったディーンの瞳は
これ以上無い程真っ直ぐで
別れの日の寂しさも幸せも、その全てを受け入れて居た。
……そんなディーンの強さに触れた俺達は
仲間の幸せを願い……皆、力の限りに泣いたのだった。
そして
暫くの後。
◆◆◆
敢えて長居はせず……俺達は
この日の内にこの場所を立ち去る決断をした
「ディーン様……主人公様……皆……もし……ちゃんと……
ちゃんとドラゴンが……治ったら……また……
皆と一緒に……旅が……したい……また……また一緒に! ……」
そう必死に伝えるライラさんの姿は
今までに見たどの時よりも強い意志を感じさせた。
……俺だって、皆だって彼女と離れるのはとても寂しい。
だが、それでも
「……分かってます。
俺だけじゃ無く……み~んな分かってます!
それに、皆心からそう願っています! ……だから
せめて笑顔でお別れしましょう! 」
“悲しい顔を最後に見せたくなかった”とか
“泣きそうなのを堪える為に敢えて笑った”とか
“別れの寂しさを認められないから”とか……
……そんな全てを内包した俺の
“ズルい提案”は皆に受け入れられ
「……主人公の言う通りだ。
だがライラよ……“もし”では無く
“必ず”ドラゴンが治る事だけを考えてやれ
主人公の言う“死亡フラグ”は、きっとそう言った細部に宿って居る。
ライラよ……お前が信じ、心から祈れば
必ず万事良い方向に向かう……そう信じるのだ」
この瞬間
これまでで一番完璧な“死亡フラグ”の使い方を披露したディーン。
そして
「……しかし、吾輩も笑顔と言うのは不得手であるが
ライラ殿と“ドラゴン”殿の無事を祈ればこそ……
……笑う他あるまいッ! 」
そう言って“不得手”と言う笑顔を精一杯作ったガルド
だが、端的に言えば
“すっげぇ怖い顔”であった事は言うまでも無い。
……とは言え、そんなガルドの顔もまた
別れの寂しさを打ち消す素晴らしい出来事と成った。
この日、この瞬間
心の底から笑顔に成った俺達は
また会える日を心待ちに……いや。
“必ず無事に再会する”事だけを考え
集落を去ったのだった
「では皆様……お席に確りとご着席を。
オベリスク第二形態:駿馬型ッ!! ――」
「えっ? 」
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! 」
◆◆◆
恐らく
“駿馬型”で集落を去ると言う決断は
ギュンターさんなりに考えた
別れの寂しさを和らげる策だったのだろう。
だが……この一件の後、マリーンが暫くの間
ギュンターさんと口を聞かなく成ってしまったのは
結構大きな“副作用”だった気がする。
===第六五話・終===




