第六四話「国同士のいざこざを楽に解決する方法はありますか? 」
遡る事|暫く
政令国家の台頭を快く思わない国々が集まり開かれた会談にて
正式に“対・政令国家連合国”及び連合軍が発足した。
……連合国に加盟した国々は、周辺諸国に対し
少々強引とも取れる方法で連合軍への参加を募り始め
その強引さとは裏腹に、彼らは着実に戦力を固め始めて居た。
一方……そんな事実を知る由も無く
“神々の村”を後にした一行は、再び日之本皇国を目指し
戦艦:オベリスクでの旅を続けて居た。
だが、そんな彼らの旅と時を同じくして
政令国家に対し“ある”取引を持ち掛ける者達が現れて居て
◆◆◆
政令国家:大統領執務室
ラウド大統領や各種族の長達……そして、主人公の希望に依り
新たに併合した村や国のそれぞれから選出された
新たな大臣らは一様に険しい面持ちで円卓を囲んで居た。
その理由は“連合国側の使者”が
政令国家に対し“到底受け入れ難い要求”を携え
現れて居た事に起因する。
……話し合いは数時間に及び
互いに一歩も譲らぬ膠着状態が続き
執務室は如何ともし難い重苦しい空気に包まれて居た。
だが、そんな中
「……何度も言っておるが
政令国家は“勢力拡大”などと言う邪な考えで
周辺の村や国家を併合した訳では無い! 」
執務室にラウド大統領の怒号が響き渡った
だが、連合国側の使者は
「ですから、状況を見れば
それ自体が詭弁だと申しているのです!
そもそも……聞く所に依れば貴国出身のトライスターが
身勝手極まる理由で国を崩壊させ、更に
そのせいで困窮した民達を
あたかも救済するかの様に見せかけ
貴国が半ば強引に併合したと聞いておりますが?! 」
「……我が国出身のトライスターが
国を一つ崩壊させてしまった事は否定せん。
じゃが……そもそも貴殿が
“身勝手極まる理由で崩壊させ”と言った国は
他国からの人間に対し、非人道的な行いをしておったそうじゃぞ?
……無論“内政干渉”をするつもりはないが
少なくとも、貴殿の問題視しておる我が国出身のトライスターは
その愚かな行為の一環に依って
仲間の命を脅かされたが故に
やむを得ず、降りかかる火の粉を払ったまでじゃ。
それでも、仲間の為とは言え騒動の最中
多数の命が失われてしまった事には本人も心を痛めておった。
その本人から“どうしても”とその国の民達を託されたが故に
わしらは彼らを我が国の民として迎えたのじゃ。
無論それだけでは無いぞぃ? 併合後も幾度と無く
事ある毎に迎え入れた民達の状況を魔導通信で訊ねて来る程じゃ
本人も余程後悔し、猛省しておったのじゃろうとわしは思う。
所で……貴殿は先程から我が国の行いを責め続けておるが
貴殿の言い分に合わせて考えれば、連合国に参加した国々の様に
無理やり周辺国に圧力を掛け、併合後も
民達に何かと理由をつけ重税を課し
半ば奴隷の様な扱いをする様な恐ろしい政治は
少なくとも我が国では行われておらんし
その様な“残忍”な行為は我が国では“違法”じゃぞい? 」
「き、詭弁だッ! “論点のすり替え”だっ! 」
「ほう? “重税”にも“奴隷扱い”にも否定はせんと言うのじゃな? 」
「貴様っ!! ……ま、まぁ良い!
どの様な理由であれその様な“危険分子”を
無責任にも“野に放ち”我々連合国を含めた周辺国に対し何の責任も負わず
その上、我々連合国にも加わらず
連合国側を非難すると言うのであれば
貴国は今後、必ず後悔する事に成るでしょうなッ!! 」
「それは……“脅し”と取っても良いのじゃな? 」
「……ご想像にお任せ致しましょう。
さて……今回の交渉は“決裂”とみなし
我々連合国側に属する国々へその様に通達を行いますが
本当に……宜しいのですね? 」
「うむ、此方の考えを理解して貰えなかった事は残念に思うぞぃ? 」
「……そうですか。
では、これにて失礼……」
そう言い残し執務室を後にした連合国側の使者。
一方……使者の立ち去った執務室では
連合国側との戦争が起きかねないこの状況に関し
対抗策やその他様々な話し合いが行われていた。
……だがそんな中、何かを思いついた様子のラウド大統領は
メリカーノア大公国のアルバート大公に対し魔導通信を繋げ
◆◆◆
「どうされました? ……お声に余裕を感じませんが」
「流石、良くお判りですなアルバート大公。
隠しても仕方の無い事……率直に申し上げるが
我が国は連合国側と戦争に成るかもしれんのですじゃ……」
「それはまた……“既定路線”な話ですね
差し詰め“連合国側”は主人公君を因縁の“ネタ”に使った。
……と言った辺りでしょう? 」
「ええ、仰る通りですじゃ……じゃが
主人公殿が悪い訳では……」
「……ええ、それは理解していますし
そもそも我々の国にも“使者”が現れ――
“凶悪な政令国家を討つ為に協力を! ”
――と、要請されてしまいましたのでね。
ですが……我々メリカーノアと政令国家は既に“友好国”です
それに昔馴染みのラウドおじさん……いえ、ラウド大統領の頼みです。
我が国は精一杯協力させて頂きますのでご安心を」
「おぉ! ……それは助かりますぞぃ! 」
この瞬間
メリカーノア側の協力を取り付け胸を撫で下ろしていたラウド大統領。
一方で……この日より遡る事数日前
連合国側の“使者”はムスタファの母国である
アラブリア王国にも訪れて居て
◆◆◆
周辺国との争いが故
ムスタファの望む“政令国家の様な真の意味で豊かな国”と成るには
まだまだ遠いと思われる状況が続いて居たアラブリア王国。
そんな中、突如として
昼夜問わず鳴り響いて居た戦場の音が止んだ。
魔導砲撃は止み、敵兵は後退……
……この異質な状況にアラブリア兵達は警戒を強めて居た。
だが、この後も敵兵が現れる事は無く……直後、代わりに現れたのは
身奇麗な御者の操る“馬車”一台であった。
暫くの後……馬車はアラブリア王国の正門前へと辿り着き
其処から降りて来た一人の男は門番に対し
「……私は連合国の使者でございます
大変重要な交渉事の為、急ぎ入国を許可して頂きたい」
「連合国だと? ……戦闘が止まったのは貴様のせいか? 」
「ええ……貴国の敵方に交渉致しましたので
少なくとも私共がこの国から立ち去るまでは
戦闘再開は無いものかと思いますが……」
「ほう? 連合国と言うのは大層な“コネ”を持って居るのだな?
まぁ良い……だが、入国前に念の為検査をする」
「ええ、敵意はございませんので……」
暫くの後、入国を許可された使者は
ムスタファの待つ王の間へと案内され
◆◆◆
「本日は入国の許可、並びに交渉……」
「難しい挨拶とか嫌いだし率直に聞く……何が望みだい? 」
主人公を始めとする
政令国家の皆に見せた雰囲気とは一線を画す雰囲気で
使者に対しそう問うたムスタファ
「え、ええ……では
本日貴国をお訪ねした理由ですが……貴国程の超大国に対し
“連合国の配下に加われ”……などと言う大それた事は申しません。
ただ……可能であればですが、少々“お力添え”を頂き
我々連合国に取って“危険分子”と成りうる“とある国”を
場合によっては排除する為……そのご協力を頂きたく
本日はお願いに上がった次第でございます……」
「ほう……何処の国が危険分子だと言うのかな? 」
「その国の名は……“政令国家”でございます」
「ふむ……何故その“政令国家”が
君達に取っての“危険分子”なのかを詳しく教えて貰いたいね? 」
「ええ……その国自身もそうですが
その国出身の“トライスター”に問題がありまして……
……我々連合国側と関係性の近い国を一つ、私利私欲の為に滅ぼし
その“おこぼれ”に与らんと、政令国家は
その崩壊した国の民達を無理やり併合した。
と……聞き及んでおります」
「成程……それはまた酷い事をする国も在ったもんだね?
で、その“悪どい国”はその崩壊した国の“民達”を手に入れて
一体どんな“利益”を得たんだい? 」
「そ、それは……民は国の財産と申しますし、その……」
「……まあ良いや。
他にその“怖いトライスター”がどんな“悪どい”事をしたのか
知ってる限りで構わないから教えて欲しいのだけど……良いかな? 」
「え、ええ! ……勿論でございます!
……そのトライスターは事もあろうに
商人の国“ナンダーラ・ダイ”で商人達の商売を不当に妨害し
彼らが得られる筈だった利益をほぼ全て独占した。
……と、聞き及んでおります!
本当に“悪の権化”の様な存在でございまして! ……」
「うん……大体判ったからもう良いや
説明ご苦労様……其処まで聞けば私の答えは完全に決まった」
「で、では! アラブリア王国軍のお力を
お借り出来ると言う事で! ……」
「ん? ……誰が協力するって言った?
寧ろその逆だ……私の大切な恩人とその母国を
よくもまぁ其処まで悪どく“脚色”して紹介出来た物だね?
感心を通り越して……呆れるよ」
「お、恩人?! ……そんなバカな!
ムスタファ様は何か勘違いを……」
「……勘違いなどしていない。
君が口にした“商人達”の話で確信したよ
君が言う商人達が居るのって
あの甘辛い焼き菓子が“名産”のあの国の事だよね? 」
「甘辛い焼き菓子? ……い、いえッ! その……」
「……危うく私もその“名産”の被害者に成る所だったのを
間一髪助けてくれたのが君が言う“悪のトライスター”だ。
さて……我が国の協力は微塵も望めないって事実が
少しでも理解出来たなら……お帰り願おうか?
正直、恩人と憧れの国を貶されて非常に不愉快なんだ」
「ぐっ……そ、それは大変失礼を致しました
で、では……早急に立ち去らせて頂きます。
お時間を割いて頂き……」
「……“堅苦しい挨拶は要らない”と言った筈だよ?
あっそうだ……近衛兵、使者さんがお帰りに成るから
遠い所まで来てくれたお礼に、お見送りとお土産を
“喉が渇く”だろうから……甘辛い味付けの物は手渡さない様に」
「ハッ! かしこまりました! ではこちらへ……」
「ええ、し、失礼を致しました……」
そう言い残し
直後、苦虫を噛み潰した様な表情で
この場を逃げる様に去っていった連合国の使者……一方
使者が立ち去った王の間では
「あ~っ!! ……本当に腹が立つよ!
主人公様と政令国家を悪く言うとは……全く! 」
「……ムスタファ様、お気持ちはお察し致しますが
もう少し感情をお抑えになった方が宜しいかと。
王としての体裁と言う物もありますし……」
「ハッ! そうだったそうだった……爺やの教えをまた破っちゃったや
爺やには何時も苦労掛けるね、ごめんよ……」
「とんでもございません!
少しずつ先代を超える程の立派な王に成られて居るものと! ……」
などと話して居た二人。
◆◆◆
一方……ムスタファの怒りを買った使者は
手土産としてアラブリア王国名産であり
“冷遇”と言う花言葉を持つ花の咲く“果物”を手渡され
正門まで見送りと言う名の“見張り”を大量に付けられて居たのだった。
当然の如く、この状況に
大人しく立ち去ろうとして居た使者であったが
直後、突如として腹の辺りを押さえると
「も、申し訳ございません! ……は、腹を下した様で!!
お手数ですがその、お手洗いを……お借りできませんかっ!
うぐっ!! ……で……出るっ! 」
「なっ!? ……待て待て待てッ!!
この様な所で“産み落とされて”は敵わん!
其処が手洗い所だ! 外で待っているから終わったら声を……」
「感謝致しますっ……うぐっ! もう半分出掛けて……はひっ?! 」
「……なっ?!
全く、何と言う使者だ……」
◆◆◆
直後
手洗い所へと駆け込んだ使者は……急激に大人しくなり
外部との魔導通信を試みた……だが。
アラブリア王国の誇る特級魔導師達が展開する
強力な防衛魔導に依りそれは叶わず
直後、小さく舌打ちをした使者……だが。
彼にはまだ“奥の手”があった。
「……やはり通信は無理か。
まぁ良い……何れにせよ
この国自体が連合国に取って目障りであった事に違いは無い。
フッフッフッ、これを仕掛けておけば……」
◆◆◆
数分後、何事も無かったかの様な顔で近衛兵に連れられ
アラブリア王国から出国した使者は……馬車に乗り込み
不敵な笑みを浮かべた後、門番と近衛兵達に会釈すると
遥か遠くへと走り去って行った……そして。
……同日の深夜
使者の仕掛けた“奥の手”は静かに発動した
◆◆◆
「……ええ、そろそろ貴国が攻め入る為の“穴”が開く頃です。
王国正門から少し離れ、左に逸れた草陰に
目印がございますので……はい。
ええ、ご武運をお祈りします……」
◆◆◆
深夜
アラブリア王国の防衛魔導は過剰な程に完璧な状態で展開されており
見張りの兵達の士気も高く、一切の隙など無い様に見えた。
だが、使者の仕掛けた“奥の手”は
その完璧な防御にほんの小さな……
……それで居て、とても致命的な穴を開けて居た。
使者の使用した“手洗い所”……その個室から怪しい光が放たれた
次の瞬間
「……“放り出す場所”から“登場”とは皮肉な事だが
贅沢を言っている場合では無いな……ふっ」
続々と現れた黒ずくめの兵士達
彼らはアラブリア王国に敵対する国の兵士達であった……
……直後、侵入者達は見回りをして居たアラブリア兵を
無残にも殺害……その後、幾つかに隊を分け
迅速且つ静かにアラブリア王国内を制圧して回った。
そして……一際豪勢な扉の前へと辿り着いた侵入者達は
静かに扉を開き……そのベッドで眠る“少女”を殺害せんと
一直線に剣を振り下ろした……だが。
剣がベッドを切り裂いた時には其処に“少女”は居らず……
……直後、いつの間にか侵入者達の背後を取っていた“少女”は
寝ぼけ眼を擦りながら
「じじ~~いッ! ……ばば~~ぁッ!!
てっ……敵襲じゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 」
と
アラブリア全域に響かんばかりの声量で叫んだのだった。
「なっ?! 貴様魔導師であったか?!
面倒なッ! ……死ねぇぇぇっ!!! 」
「ん? ……えらく遅いのぉ?
おんどれ達、その程度であたしを狙うとは
無頼漢千人(無礼千万)じゃ!
えええぇぃっ!!! ――
――消滅の魔導:完全消去ッ! 」
「なっ、何が起きた……この技は……この強さ……は……」
直後、彼女の使用した“トライスター専用技”に依って
文字通り“消滅”した侵入者達。
そして
◆◆◆
「魔導通信――
――じじい! ……ばばあ! ……兄様!
敵が入ってると言っておるじゃろうが~っ!!
侵入場所の特定早くしないと
“ごっつ”めんどくさいのじゃ~っ! 」
「……ばあやとお呼び下さいと
何時も口酸っぱく言っておりますのに……しかし
“敵襲”とは穏やかではございませんね……
……急ぎ“女中隊”を動員致しますから
カミーラ様は安全な場所へとご避難下さい……」
「何、敵襲だって?! ……カミーラは無事かい? 」
「兄様こそ無事か?! 太りすぎて死んでないぢゃろうな!? 」
「うわぁ……ひっどいなぁ、せっかく心配したのに
って! こっちにも侵入者が近づいてるみたいだ……爺や。
爺やに教わった“構え”で敵を驚かせてみるよ! ……」
「何っ?! ……ムスタファ様!
爺やが今向かいますぞぉぉぉぉぉっ!!! ……」
◆◆◆
所は変わり王の寝室
敵兵の気配を感じる扉に向かい
例の“大してキマっていない構え”を続けて居たムスタファ。
だが、扉をこじ開けんとして居た敵兵達は……直後
言葉を発するどころか、その“存在”にすら気が付かず
“消滅”した。
◆◆◆
「いやはや、無能な兵ばかりで助かりまし……おや?
慌てたせいか、襟が崩れてしまいましたな……」
そう言った直後、襟を正し
衣服の埃を払った後
何事も無かったかの様に、静かにゆっくりと
ムスタファの居る寝室の扉を開いた“爺や”は
「ご、ご無事でございましたかぁぁぁぁムスタファ様っ!!!
何処もお怪我は……なっ!? い、衣服にシワが!!
おのれ敵兵め……許せんっ!!! 」
「待った待った! ……爺やったら何時も優しいなぁもう
服は着替えたら良いだけだから気にしないで。
そんな事より……流石は爺やだね!
目にも留まらぬ早業とは爺やの事だよ! 」
「滅相もございません! ……それで言わせて頂ければ
ムスタファ様の構えは敵が恐れ慄く程の完成度に成りましたな! 」
「またまた~っ! 褒めてくれて嬉しいけど……本当にキマってる? 」
「勿論でございますとも! ……」
◆◆◆
この後
アラブリア王国内部に侵入した敵兵は全て“爺や”及び
“女中隊”の手に依り完全に排除され
手洗い所に仕掛けられた“穴”も直ぐに発見され迅速に塞がれた。
そして……数日後、外部の者達が利用出来る全ての設備を
“魔導封じの建材”を用いて建て替えたアラブリア王国の防衛網は
更に強固な物と成ったのであった。
一方……この事件より少し後の事、各国の森を焼き払い
暴虐の限りを尽くしていた魔王軍は
ついに“一角獣”を発見して居た
◆◆◆
何処かの森
魔王軍が焼き払い、かつての姿を失ってしまったこの森には
神々しい姿をした一角獣が現れて居た。
……魔族共が取り囲む中
一度強く嘶いた一角獣
瞬間
「ぐっ!? ……あ゛がぁぁぁぁっ!!! ……」
取り囲んで居た魔族達は突如として発狂し
続々とその場に倒れ……絶命した。
“聖なる一角獣の嘶き”
……この、魔を打ち倒す能力は
この場に居る多くの魔族を怯えさせた……だが
その絶大なる力を以てしても
上級魔族や魔王に対しては大した意味を為さず……
「ライドウよ……一角獣をどうすれば我らの糧と成る? 」
「魔王様、私にお任せ下さいませ……」
「ふむ……やってみせよ」
瞬間、ライドウはニヤリと笑うと
一角獣を挑発する様に
辛うじて残って居た木々を火の魔導で燃やしてみせた。
直後……挑発に乗せられた一角獣は
ライドウに向かい突進を繰り出し……直後
角に魔導力を集中させ、光の槍を放った
「なっ!? ……」
雷音轟かせ凄まじい勢いでライドウに迫った光の槍
しかし……既の所でこの攻撃を避けると
一角獣の前から消えたライドウ
直後……彼は
一角獣の背後に現れるなり
「……今のは“驚いた演技”です
さて……お返しにこの“首飾り”をどうぞ」
そう言って再びニヤリと笑うと
一角獣の首に特殊な鎖を付けたのだった。
直後、抵抗する力を失ったかの様に
その場に座り込んでしまった一角獣……そして
そんな一角獣を指し示しながら
「魔王様……今から私が一角獣の心臓を取り出し
魔王様にお渡し致します……魔王様はその心臓を“半分”食して頂き
残り半分を握りつぶして頂きます。
そして……お手を伝う血液に魔王様の魔導力を注いで頂きますと
魔王様は勿論の事……契約で繋がっている配下の皆様にも
凄まじい力と生命力が与えられる筈で御座います。
……更に、一角獣の消えた森では
“悪鬼”と呼ばれる魔物が大量発生致しますので
此方は魔王様の手駒としてお使い頂けるかと……」
「ほう……それはまた興味深い。
ライドウよ……貴様と約束していた“一角獣の角”だが
一度……我に見せて貰おう」
「ええ、勿論でございますが
先に折ってしまうと“心臓の儀式”が意味を成しませんので……」
「ふむ、ではまず儀式を済ませよ……」
「はい、では参ります……
ふッ!! ――」
瞬間
ライドウの一撃により絶命した一角獣
直後……彼が、金色に輝き
未だ脈動するその心臓を魔王へと渡すと
ライドウの指示通り儀式を開始した魔王。
すると……
「ぐっ?! ……な……何が起きた?!
此処は……ま、魔王様?! ……わ、我々は一体何を?! 」
……周囲を見回し驚いた様にそう訊ねた者達
彼らは、つい先程“一角獣の嘶き”に依り
“絶命した”筈の魔族達であった。
そんな彼らの姿と、自身にも湧き上がった絶大な魔導力に
満足し、珍しく笑みを浮かべた魔王は……
「ライドウよ……角を我へ」
……直後、一角獣の角を確認した後
一切の魔導力を持たないこの角を
“価値の無い物”として約束通りライドウに手渡した魔王。
これから暫くの後、ライドウの宣言通り
“悪鬼”と呼ばれる悍ましい魔物は大量に発生し始め……
……穏やかで荘厳な雰囲気を纏っていたこの森は
宛ら……“魔の森”とでも呼ぶに相応しい
惨状と成ってしまったのだった。
そして
「悪鬼共よ……我が種族の下僕と成るが良い」
そう発せられた魔王の号令に対し
悍ましい唸り声を上げた悪鬼の大軍は
体を歪め、頭を垂れ
魔王に対し“絶対服従”の姿勢を取った。
===第六四話・終===




