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異世界転生って楽勝だと思ってました。  作者: 藤次郎
第二章

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第六十一話「もし一から作った世界が変わり始めても楽勝ですか?……」

《――両種族からの情報を頼りに

人間の村が有ると言う場所を目指し進んで居た一行


だが、主人公はオベリスクの船内で愚痴をこぼしていた――》


………


……



「……それにしてもつらい。


あのオセロはこの世界に生まれた一番最初のオセロだったじゃん?

仕方無いとは言え、手放す事に成っちゃったのは本当にショックだよ……」


《――と主人公

だが、そんな彼に対しマリアは――》


「と言うか、そんなに悲しむ位なら

“私達が使ってる方の”オセロを渡すべきだったのでは?

此方は“量産品”ですし」


《――その通りである。


確かに、正論ではあるのだが――》


「あ゛っ! ……そう言えば!!

な、なぁ……今からでも交換して貰いに行くべきかなッ?! 」


《――ツッコミを入れる余裕など微塵みじんも無く

そう真剣な表情で問い掛けた主人公。


これには流石のマリアも――》


「……ま、まぁ!

またあの種族達に会った時に交換して貰えば良いじゃないですか!

また会える為に置いて来た……そう!


……バルン村の時の服みたいな! 」


《――そう説得したマリア。


だが必死の説得もむなしく、主人公は――》


「あ……あれはほぼ要らない物じゃん!


“お尻に穴の空いた魔導服”と、この世界で最初に作られた

“オリジナル・オブ・オセロ”を一緒にするなァァァァァッ!!! 」


《――そうなかば発狂気味に答えた主人公。


だが――》


「引くほど命名の才能が無いわね」


《――と、追い打ちを掛ける様なツッコミを入れたマリーン

直後、更に阿鼻叫喚あびきょうたんな騒ぎと成ってしまったオベリスクの船内。


しかし、そんな中……突如として

一行の声をき消す程の大声で叫んだ者が居た――》


………


……



「……緊急事態で御座いますッ!!!

ゴブリンが人を……子供を襲っておりますッ!! 」


《――そう叫ぶ様に言ったのはギュンターであった。


直後、慌ててオベリスクを下船し戦闘態勢を取った一行


彼らの視線の先には……


目指す“人間の村”と思われる場所で

棍棒らしき物を持ったゴブリンが

年端としはも行かぬ人間の子供に馬乗りに成り

今まさに人間の子供を殴打せんとしている姿がった。


……当然、ゴブリンを討伐とうばつせんと攻撃準備をしていた一行


だが――》


………


……



「や……()めてっっっっ!!! 」


《――そう声を上げたのは馬乗りになられて居た子供


……では無く。


一行の眼前に立ちはだかった、これまた“人間の子供”で――》


「くっ! ……何してるッ!

其処を退くんだ!! ゴブリンを倒さないとその子がッ! ……」


《――そう説得をした主人公


だが――》


「違うっ! ……彼は僕の兄弟だ、今は“勇者ごっこ”で遊んでるだけ!

だから……お願いだから止めてっっ! 」


<――俺に対しすがる様にしてそう言った子供


だが、俺にはこの子の発言が理解出来なかった……当然だ。


……本来、ゴブリンは人間を襲い

男は殺し、女はなぐさみ者にした後やはり殺す。


……と言うのが定説である。


第一、棍棒こんぼうらしき物を持ち

人間の子供に馬乗りに成っている姿を見て

兄弟だ何だと言われた所で理解が出来る筈など無い。


……当然のごとく理解に苦しんでいた俺

だが、騒ぎを聞きつけ現れた“ゴブリン”は――》


………


……



「……何の騒ぎだい!

人が気持ちよく寝ている時に……って、何だいアンタ達ッ!! 」


<――現れるなりそう言って人間の言葉を話した

“老齢なメスのゴブリン”


そして、俺達に向け戦闘態勢を取った彼女は

次の瞬間、俺達に取って驚きの行動を取った――>


「何してるんだい! ……早くアタシの後ろに隠れるんだ!

ヨシヨシ、怖かったねぇ……」


<――と、ゴブリンの子供だけで無く

人間の子供までかばう様な素振りを見せると

まるで我が子をあやすかの様に優しく頭をでたのだ。


……この理解に苦しむ状況の中、俺は

この老齢なメスゴブリンに対し、恐る恐るたずねた――>


「あの……失礼な質問でしたら申し訳ありません。


あなたと、その子達はゴブリン族で……間違い無いですよね? 」


「見りゃあ分かるだろっ! ……巨人族ギガントにでも見えるかいっ!? 」


「い、いえ……その……


……人馬族(ケンタウロス)牛人族(ミノタウロス)達からこの村の存在を聞いて

そ、それでたずねて来たんですが……俺達には少々

何と言うかその……“理解出来ない状況過ぎる”と言いますか……」


《――そう告げた主人公の目をじっと見つめた老齢な雌ゴブリン


暫くの後……子ども達を遊び場へと向かわせると

一行をみずからの家へとまねき入れた――》


「……兎に角、ついて来な」


………


……



《――皆を部屋にまねき、それぞれに飲み水を差し出すと

静かに話を始めた老齢なメスゴブリン

彼女は、一行が持つ“疑問”に理解をしめし――》


「アンタ達人間がアタシ達ゴブリンを警戒する事に無理は無いさ。


正常なのはむしろアンタ達だ……異常なのだってわかってる

この村も、アタシもね……」


《――そう言うと、窓の外を見つめ

ため息を一つついたかと思うと、彼女はある“昔話”を始めた――》


「アタシが今より幾分いくぶんか若かった頃――」


―――


――



《――数十年程前の事


活気にあふれたこの村では……いつもの様に畑をたがやし、洗濯物を干し

日々の生活を送る人間達の幸せそうな笑顔であふれていた。


だが……ある日の夜、平和なこの村をゴブリンの大群が襲った。


……村人達の必死の抵抗もむなしく

村はゴブリン達によって破壊され

一夜にして見るも無残むざんな姿へと変貌へんぼうげた。


一方……女族長として名をせていたゴブリン族の族長“アリーヤ”は

村の完全制圧の為、この村の村長が住む建物へと向かい

村長を殺害した後、この建物を調べていた……だがその時


床下からかすかに泣き声が聞こえた事に気付いたアリーヤは

直ぐに床板を外しその場所を確認した。


……だが


其処で見つけた沢山の“小さな命”を

彼女は……どうしても手に掛ける事が出来なかった。


何故そう出来なかったのか……理由は単純だった

彼女が生まれつき“せぬ体”であった為だ。


だが……母性は人一倍強く、族長であるにも関わらず

同種族の間で生まれた子ゴブリン達の育成に強く関わる程

彼女は子煩悩こぼんのうであった。


そんな彼女の眼前でなおも怯える年端としはも行かぬ人間の子供達……


……この瞬間、彼女は決意した。


“後の人生はこの子供達を守り育てる為に使おう” ……と


この日、突如として全てを捨て去る決意をした彼女は

ゴブリン族族長の座を他のゴブリンに譲り

この村の財宝をも全て他のゴブリン達に譲り……一人

子供達と共にこの村で暮らす事を選んだのだ。


小ゴブリン達までもが同じくここに残ったのは

それが族長の座を降りるもう一つの条件だったから……と言う事らしい。


安全な場所で子供ゴブリンを育てさせる為……そして、後々邪魔に成れば

“アリーヤ共々、人間の子供など滅ぼせば良い”との考えで

この場所を任せた新しいゴブリンの族長だった様だが……


……この後、襲撃した国で全滅のき目に遭い

幸か不幸か……誰からもがいされる事無く

今日まで立派に人間とゴブリンの子供達を育てて来られたのだ――》



――


―――


《――だが。


其処まで話を聞いた所で主人公は疑問をていした。


“どう計算しても

アリーヤがこれ程に老いている事に辻褄つじつまが合わない”


……と。


聞けば彼女は人間で言う所の四〇歳程だと言う

だが……直後、その疑問は直ぐに解決する事となる。


……年端も行かぬ人間の子供を数十名かか

更にゴブリンの子供達を数十名かか

食欲の旺盛おうせいな子供達をただの一度たりともえさせる事無く


……病気をすれば薬草を探しに走り

たとえ自分が死んだとしても、自らの身を守れる様に鍛え上げる為

人間の子供達に対しては

ゴブリンの身には辛いであろう“対ゴブリン”の戦法を教え


ゴブリンの子供達に対しては

“決して人間を襲ってはいけない”と相反あいはんする教えを厳しく言い聞かせる為

幾度と無く苦労をし続けていたアリーヤ。


その……心と体への度重なる負担。


……幾度いくどと無く無理をしながら

その無理を幾度いくどと無く乗り越えて来た彼女が

実年齢よりはるかに老いて居る理由など

これ以上何かを説明されずとも一行には痛い程理解出来た。


……ともあれ、全てを話したアリーヤは

突如として頭を下げ、一行に対しある願いを伝えた。


その“願い”とは――》


………


……



「……あの子達は皆、丈夫に育ってくれた。


人間の言葉を教えるのには相当な苦労があったが

アンタ達と話してた所を見てりゃ

伝わる程度には人間の言葉も話せる様だ。


……其処でだが

アンタ達が悪い人間じゃ無いと見込んで一つ頼みたい事があるんだ。


……聞いて貰えるかい? 」


「はい……何でしょう? 」


「……あの子達がこのまま

アタシみたいに老いた汚らしいゴブリンと一緒に暮らし

こんなさびれた場所で一生を終えちまうのは

虫酸むしずが走る程に許せないんだ。


……アンタ達にとっては面倒な依頼かもしれないが

あの子達を無事に暮らせる国か村……そんな場所を知ってたら

その場所まで連れて行って貰えないかい?

無論、アタシみたいなのが一緒に暮らせるなんて思っちゃいない。


……アタシは今まで通りここで暮らすから

せめて人間の子供達だけでも、あの子達をどうにか

安全に幸せに暮らせる場所へ連れて行っておくれ。


この通りだ……」


《――そう言うとアリーヤは一行に対し深々と頭を下げ頼み込んだ。


だが、次の瞬間――》


………


……



「嫌だっ!!! 母さんと離れるなんて……嫌だぁぁぁぁぁぁっ!! 」


《――アリーヤの身をあんぬすみ聞きをしていた子供達は

部屋へと乱入し、そのまま

アリーヤとは反対の“あるお願い”をした――》


「……僕達は大丈夫だ!

だから、お母さんが安全に長生き出来る場所に連れて行ってあげて!

……お願いしますっ!!! 」


「……何言ってるんだい!!!

アンタ達をこんなさびれた村で一生を終える様な……

そんなつまらない人生を送る様な……


……そんな子に育てた覚えはないんだっ! 」


「嫌だっ! ママと離れる位なら……死んだ方がマシだっ!! 」


「馬鹿な事を言うんじゃないよっ!!! 」


《――アリーヤと子供達の言い争いは暫くの間続いた。


だが、そんな言い争いに終止符しゅうしふを打つかの様に

主人公は――》


「……皆さん、取り敢えず落ち着いて下さい。


どっちの意見も却下です……そんな要求は飲めません」


「待っておくれっ! ……子供達だけで構わないんだ

この子達が幸せに暮らせる場所へ……」


「ヤダ! お母さんを! ……」


「今俺は“落ち着いて下さい”って言った筈です……兎に角。


少しお待ちを――」


………


……



「……ラウドさん。


緊急と言うか何と言うか……お願いが! 」


「ん? ……何じゃね? その奥歯に物のはさまった様な言い方は。


……帰国したいならばいつでも歓迎じゃよ? 」


「い、いえ……それは有り難いのですがそうでは無くてですね

驚かずに聞いて欲しいのですが……と言うか見て欲しいのですが……」


《――そう言うと主人公は

後ろにいるアリーヤと子供達を紹介した。


そして……ゴブリンの身でありながら

人間の子供を女手一つで育て上げたアリーヤの功績と

子供達もこの“母”を信頼し、大切に思っている事……


……全てを説明し

彼女達を“政令国家で受け入れて貰えないか”……と頼み込んだのだ。


だが、ラウド大統領の答えは意外な物で――》


………


……



「主人公殿……今まで様々な者達を受け入れたし

それらは全て正しかった、今回の受け入れに関する要望も

恐らくは正しいのじゃろう……じゃが。


……今回ばかりは無理じゃ」


《――この、思いもよらぬ答えに

主人公は思わず――》


「……何故です? 彼女がゴブリンだからですか?

先程も説明しましたけど、アリーヤさんと子ゴブリン達は

いずれの種族に対して無害です、なのに何故駄目なんです?


そもそも、ラウドさんは“差別と迫害はくがいの無い国を作る”って……


……そう言う俺の目標に賛同してくれた筈じゃないんですか!!! 」


《――何時もとは違うラウドの様子に思わずそうただした主人公。


……だが、ラウドが断った本当の理由は

主人公が考える様な生易なまやさしい物では無くて――》


………


……



「違うのじゃよ主人公殿……


……主人公殿の申し出で様々な国や村を併合したり

友好国としての条約を締結したじゃろう? 」


「ええ……その中に反対勢力が居ると? 」


「“反対勢力”のぉ……ある意味ではそう言うべきなのかも知れんが……


……その昔、ゴブリンに襲われた大国があってな

被害は然程さほどじゃった様じゃが

ゴブリン達は不味マズい人物を手に掛けてしまったのじゃよ」


《――そう言うと口籠くちごもったラウド大統領

そんなラウド大統領に苛立いらだちを隠せない主人公は

再び彼を問い詰めた――》


「はっきり教えて下さい! ……何故、受け入れられないのか! 」


「先に……アリーヤ殿と言ったかな?

耳の痛い話をしますが、どうかご容赦ください……」


「……ああ、構わないさ」


「お気遣い痛み入りますぞぃ……さて、本当の理由についてじゃが

この話を聞けば理解して貰えると思う。


……とある国の王が日課にしておったのは領土内の夜回りでな

毎日欠かさずおこなっておったそうなんじゃが

ある日の夜回りの際……突如としてゴブリンの大群に襲われた王は

その手に掛かり崩御ほうぎょしてしもうたんじゃよ。


そして、その国の現在の正式名称は“メリカーノア大公国”と言う。


主人公殿……理解して貰えたじゃろう? 」


《――ラウドから伝え聞いた真実

それと同時に主人公の脳裏のうりよぎったある言葉――


“この国の友好国と君が信頼する政令国家が一戦交えた場合。


……しくは敵国や仇敵きゅうてきの肩を持つ様な行動を取った場合。


それすらこの国にほこを向けた事と同義だと、君は理解しているかい? ”


――直後

主人公かれはアリーヤ達の受け入れ要求を諦めた。


そして――》


………


……



「……無理を言って申し訳ありませんでした。


この件は政令国家にもメリカーノア大公国にも迷惑の掛からない形で

俺が責任を持って解決します。


では……」


《――魔導通信終了後

しばらくの間うつむき、頭をかかえ何かを考えて居た主人公。


そんな彼に対しアリーヤは――》


………


……



「迷惑を掛けて済まなかったね……あまり気に病まないでおくれ

今だって暮らしに困ってる訳じゃ無い、おりを見て……」


「……いいえ。


俺は“責任を持って解決する”と言いました

悩んで居たのは“他の国を探す条件”についてです。


悲しい事ですが……俺を含め

ゴブリン族にアリーヤさんや子供達の様な

“人間を襲わない者達が居る”……なんて思いもしませんでした。


そんな“新たな事象じしょう”を理解してくれて

皆さんを大切にしてくれる国をこれから探す大変さを考えていたので

つい頭をかかえてしまったんです……でも。


それでも俺、アリーヤさんも子供達にも

全員に幸せで居て欲しくて……完全に俺のエゴかもしれませんけど

助けられる命は助けたい。


絶対に……見捨てたくないんです」


「アンタ……だが、アタシ達全員をどうやって面倒見るってんだい?

表に停めてある“荷馬車”じゃ

アンタ達全員が乗ったら満員じゃないのかい?

そもそも頼んだ身分で烏滸おこがましいかもしれないが

たった今出会ったばかりのアタシ達に

其処までしてくれる義理なんかアンタ達には無い筈だよ? 」


《――と、至極しごく真っ当な疑問をていしたアリーヤ

だが次の瞬間、ディーンは二人の話を遮り――》


「割って入ってすまない主人公。


私にも意見を言わせて貰いたい……良いだろうか? 」


「……ああ、皆の意見も聞きたい」


「では……さて、アリーヤさん

貴女が気に掛けた“荷馬車”の件については心配無用です。


我が隊のかなめであるギュンターの誇る固有魔導

“戦艦オベリスク”は優秀な擬態能力を持っているのです

その為……ギュンター、しめせ」


「はい、おおせせのままに――」


《――瞬間、本来の姿をあらわしたオベリスク


呆気あっけにとられていたアリーヤと子供達……そんな中

あんに主人公の意見に賛成している事をしめしたディーンらに対し

感謝の意味を込め、静かに頭を下げた主人公。


そして……なおも驚き、興奮冷めやらぬ様子の子供達と

アリーヤ達に対し、改めてたずねた――》


………


……



「まず……皆さんが全員乗ったとしても

オベリスクの居住空間にはかなりの余裕があります。


勿論、食料も割と備蓄びちくがありますし……多分足りるでしょう。


……少なくとも水には困りません。


ただ、決して順風満帆じゅんぷうまんぱんな旅とは言えないかもしれませんし

恐らくはここで今まで通り暮らして居た方が遥かに安全だと思います。


それに……旅の途中

“気分をがいする経験を”する事だってあるかもしれません。


でも……それでも。


この村から旅立ち、俺達と一緒に安住の地を探す事を選びたいなら

俺達の旅に同行してみませんか? 」


《――そう言った主人公。


だが、彼の心配を他所にアリーヤの答えは――》


「何を言うかと思えば……乗るに決まってるだろう?

ほら! ……子供達を見てみなッ! 」


《――そううながされアリーヤの指し示す方に目をやった一行


子供達は……オベリスクの周りに集まり

興味津々な様子で目を輝かせ、早々に旅の支度を始めて居た。


この様子に、主人公は思わず――


“良かったです……誰一人悲しむ人が出なくて! ”


――と言って微笑んだ。


そして、そんな彼に対し――》


「……アンタはいい子だね、感謝するよ。


しかし、この恩は返しても返しきれない程だし

タダで助けて貰うのは流石に居心地が悪くて駄目だ。


……古びた装備だが、アタシが使う事は恐らくもう無いだろうし

こんなオンボロ装備で申し訳無いが……


……お礼代わりに受け取ってくれるかい? 」


《――そう言って

アリーヤが箪笥(タンス)から取り出し主人公へと差し出した装備は

持ち手から切っ先に掛けて大きく湾曲し

さながら三日月とでも呼べそうな形状をした“ナタ”と

それに合わせた小柄な盾であった。


の、だが……例にって

物理的な装備は所持する事すら厳しい主人公に取って

この二つの装備はとても


“重く”


全くもって受け取る事が出来ず――》


………


……



「ムッ……ムリムリムリムリッッ!!!

……無理ですッ! お、俺には重過ぎますッ!! 」


「全く……何処までも優しい子だ

アタシの悲しい記憶すらおもってくれるなんてねぇ。


……構いやしないから受け取っておくれッ! 」


《――と、更に強引に差し出したアリーヤ。


だが――》


「ち、違うんですっ! 純粋に重量が重すぎてっ……ウグッ! 」


《――と、大層苦しそうな様子の主人公と

理由に気付いたメルは――》


「……かっ、代わりに私が受け取りますからっ!


って……あれっ? 軽いですよ? ……これ」


《――この瞬間

冷や汗を流しながら必死の形相で受け取る努力をして居た主人公を横目に

いとも簡単に受け取ったメル。


そんな彼女に対し、酷く落ち込んだ様子の主人公は――》


「……か弱く見えるメルの方が俺よりも筋力的な意味で遥かに上か。


男としては地味にショックだな……はぁ~っ……」


「そ、そんなっ?! えっと……あのっ、そのっ……!


おっ……重いなぁ~っ!

……もっ、持ってるので精一杯ですっ~! 」


《――この

“ミエミエの気遣い”に――》


「ふ~ん……ああそうですか

“持つ事すら出来なかった”俺への当てつけですかそうですか」


「い、いえっ……あのっ……はうぅぅ……」


《――この後、暫くの間不貞腐ふてくされ続けた主人公。


そして……この一件が引き金となったのか

主人公の“物理コンプレックス”が

後にちょっとした騒動トラブルの引き金と成ってしまうのは、また別のお話。


ともあれ……アリーヤ達を乗せたオベリスクは再び

当初の目的である日之本皇国を見つけ出す為に船を進めていた。


そしてその途中、思い出した様にアリーヤに対し

日之本皇国に関する質問を投げ掛けた主人公。


……だが、やはり知らないとの事だった。


此処ここまでかなりの距離を進んで居た一行……だが

得られる情報の少なさにわずかな不安を持ちながらも

引き続き日之本皇国を目指し進んだ主人公。


そして数日後……けわしい森を進んだ先で

ある開けた場所へとたどり着いた一行。


だが……道は二手に分かれている、地図は当てにならない。


……どちらに行くかは完全に賭けであった。


結果として多数決でどちらの道へ行くかを決めた一行

結果、選ばれたのは左の道……


……ここからさらに数日を掛け進んだ一行はその先で洞窟を見つけた。


だが、洞窟の他に道は無く“行き止まり”で

引き返そうとするギュンターに“待った”を掛けた主人公は

眼前の洞窟への探索を皆に提案したのであった――》


===第六十一話・終===

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