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異世界転生って楽勝だと思ってました。  作者: 藤次郎
第二章

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第六十話「目標を見つけたら楽勝だと思ってました! 」

《――メリカーノア出国後

“日之本皇国”の情報を頼りに、森の奥深くを進みながら

同時に森を占拠する魔族の捜索もおこなって居た一行


……そして夜


投獄から数え、約一〇日ぶりの定期連絡――》


………


……



「はい、本当にご心配をお掛けしてばかりで……」


「本当だよ全く! ……それと、くどい様だけど

オセロの利益、いい加減に主人公ちゃんも受け取りなっ! 」


「いっ、いえ俺は別に……と言うか発案料、凄い金額らしいですね」


「そうなんだよ……主人公ちゃんに貸したお金なんて

とっくの昔に上回ってる位さね、だから主人公ちゃんが……」


「いえ! ……だとしても、ミリアさんには

一生掛かってもお礼出来ない位の恩があるんです。


少なくとも俺はそう思ってます……だからそのお願いは聞けませんッ! 」


「全く強情ごうじょうだねぇ……まぁ良いさ!

前も言ったが、帰って来たらウチの宿でずっと暮らしてて良いんだからね?


と言うより、主人公ちゃん達が住む専用の家を

一人に一軒建てられる程にお金が舞い込んでるんだけどねぇ……」


「えっ!? ……そこまでとは」


「なら……やっぱり受け取るかい? 」


「いえ! ……っと、そろそろ見張りの交代時間なのでまた明日! 」


「あぁ、怪我しない様にするんだよ! ……」


………


……



「……それにしても、まさか水を大量に買ってくれた“あの人”が

そこまで偉い人だったとはびっくりだよ……」


「ほら~っ! ……やっぱりもうちょっと高くしても良かったのに! 」


「マリアお前……引く程がめついな」


「ガルルッ! ……ってまぁ

私はミリアさんがうるおってるならそれで良いんですけどね~」 


《――などと話しつつ日之本皇国を目指して居た一行


一方、政令国家では“ゲーム”の他に

バルン村名物の名水……通称“ミネラルウォーター”や

エルフ族お手製の“和装”などもムスタファの母国へ輸出される運びとなり

国を上げての一大産業と成っていた頃……急遽きゅうきょ

母国での行事の為に帰国する事となったムスタファは――》


………


……



「それでは皆様……特に女将ミリアさん。


貴女の作る極上の食事をしばらくの間口に出来ない事が一番の不満ですが

それも……仕方の無い事なのですッ!


……くっ!! 」


《――ヴェルツで提供される料理の虜と成ってしまったムスタファ

母国の為とは言え、余程悔しかったのか

目に涙を浮かべつつ離れがたそうにしていた。


だが、そんなムスタファに対し――》


「毎日来てくれてたもんねぇ……あたしも寂しいさ

だから、帰国途中に少しでも食べられる様……多めに用意したよっ! 」


《――と、ミリアが差し出したヴェルツ特製弁当の量は凄まじく

並の成人男性ならば数ヶ月は持つのではないかと思われる程に

専用の荷馬車にうず高く積み込まれて居た。


これにムスタファは大層喜び――》


「なんとぉ?! ……女将ミリアさん!

もし我が国へお越しの際には、我が国でも最上級の“国賓待遇”を

是非ともお約束させて頂きたく思います! 」


《――そう

完全なる“職権乱用”である――》


「国賓だなんて……光栄さねぇ~

主人公ちゃんが帰って来たら、その時一緒にお邪魔しようかねぇ! 」


「ええ、是非! ……ではラウド大統領

暫くお会い出来ませんが、改めて今後とも

我が国との友好関係を末永すえながく宜しくお願い致します」


「勿論ですじゃ! ……所で、本当に護衛は一人も要らんのですかな? 」


「ええ! ……爺や直伝のこの構えがありますからっ! 」


《……例にって

“対してキマって居ない構え”を皆に披露したムスタファ。


この場にいる全員の脳裏に浮かぶ“ある種”の不安感……だが

本人が必要無いと言う以上

無理に護衛を付けては失礼に当たると判断したラウド大統領は

“不安感”を完全に顔に出しつつ――》


「そ、そうですな! ……ではくれぐれもお気をつけて

無事なご帰国をお祈りしておりますぞぃ! 」


「ええ! ……まつりごとが片付き次第、また直ぐにでも帰ってきます!

ヴェルツの食事も恋しくなるでしょうし

今度は爺やも連れて来たいですしね……っと、いけない!

そろそろ旅立たねば……では皆様、また会える日まで~っ!! 」


《――そう言うと

ヴェルツ特製弁当がうず高く詰め込まれた荷馬車に乗り込み

ゆっくりと母国への帰路へいたムスタファ。


この後……盛大に見送りをする政令国家の者達が見えなくなった頃

ムスタファは一人、荷馬車をたくみに操りながら

早速、ヴェルツ特製弁当を一つ開封し食べ始めて居た――》


………


……



「……やっぱり美味いっ!

それにしても素敵な国だったなぁ~政令国家!

流石、主人公様の母国だ……我が国もあの国の様な姿を目指さねば!


だが……他国との争いをこれ以上続けていては

民達に本当の幸せが訪れる筈も無い。


……早く帰国し、政令国家で学んだ物事を爺や達に相談しなければっ! 」


《――そんな決意を胸に

ヴェルツ特製弁当を一つ、あっという間に平らげたムスタファ。


そして、空になった空き箱を荷馬車の端へ

静かに置いたかと思うと――》


「っと……ここら辺なら誰も見てないかな? 」


《――と、荷馬車を止めた。


そして――》


………


……



「……どれだけ信頼出来る国の人達であっても

“一枚岩とは限らない”……って爺やも言ってたし。


さてと――」


………


……



「――魔導通信、爺や。


今から帰るから正門前だけ防衛魔導を切ってて……うん、ありがとう。


転移の魔導……我が王宮、正門前へ――」


《――瞬間

荷馬車ごと母国へと転移したムスタファ。


彼は“超長距離転移”が出来る程の攻撃術師マジシャンの能力を有していた。


一方、日之本皇国を目指して居た一行は――》


………


……



「だぁぁぁぁ~~~っ! 主人公さ~ん!

ずーっと同じ様な道ばっかりで……暇過ぎますよぉ~っ!! 」


《――船内で暇を持て余していた。


……どうやら、日之本皇国へたどり着くまでには

相当な日数が掛かる様で――》


「分かったから静かにしろってマリア……って言うか。


確かに恐ろしい程長い森が続いてますけど……ギュンターさん

地図では今どの辺になるんですかね? 」


「それが……地図上では大凡おおよそこの辺りなのですが

メリカーノアで新たに入手した地図と

私共が所持していた地図を照らし合わせた所

どちらの情報も正しいとは言えず……妙なのです」


「えっ?! ……それって大丈夫なんですか? 」


「現在地の完全な把握は不可能ですが

周囲から危険な魔物の気配も魔族の気配も致しませんし

このまま進み続け、マギー様のご希望された“森を襲う魔族共”の捜索と

その討伐任務も合わせて行いつつ

日之本皇国を目指す予定と成っておりますのでご安心ください。


……ただ、聞き及んだ限りですと

日之本皇国は相応に遠い場所に存在する様ですので

それなりに到着までの日数は掛かる物かと……」


「えっと……どの位掛かります? 」


「正確には判断出来かねますが……三ヶ月は掛かるのではと

もし何処かでトラブルが起きればそれ以上掛かる可能性もございますね」


「うわ……相当遠いんですね」


「ええ、水ならば主人公様がお作りに成られるので問題ございませんが

食料は最低でも一度、何処かの国や村で調達する必要があるかと思います。


ですので、それも含めればその程度の日数を要する物かと試算致しました」


「そうですか……」


《――などと話して居た一行のその先

遥か遠くに薄っすらと見えて来た“大きな門”


警戒しつつ近づいた一行だったが……


……其処には門番も居らず門戸もんこは開かれていた。


さいわいオベリスクが侵入出来る程の大きな門であった為

そのまま門をくぐり抜けた一行……だが

内部はもぬけの殻といった状態で――》


………


……



「皆様、念の為警戒はおこたらずお願い致します……」


「……そうは言うがギュンター殿

領内には生物の気配が一切感じられないぞ?

この国は既に崩壊して居るのではないかと吾輩は思うのだが……」


《――と、勘の鋭いギュンターとグランガルドのお陰もあってか

危なげなく謎の国を探索していた一行。


だが……領内を抜け

暫く進んだ道の先――


“皆さん……あれっ! ”


――遥か遠方であらそう集団を指さしながらそう言ったメル。


直後、オベリスクの速度をわずかに下げたギュンターは

暫くの後……これが“人馬族ケンタウロス”と“牛人族ミノタウロス”の争いである事を知った。


状況こそ理解出来なかったが……彼らに気付かれぬ様

遠くからその様子を観察していた一行……だが


突如として一行の存在に気がついた様子のニ種族は

オベリスク目掛け急接近し

あっという間にオベリスクの周囲を取り囲んでしまった。


そして、人馬族(ケンタウロス)の男は――》


………


……



「何者だ?! ……荷馬車から降りろ!

……従わなければ、不本意だが攻撃を行う事となる! 」


《――そう言い放った。


一行は素直にこれに従い、オベリスクから下船した。


すると、マリーンを見た牛人族(ミノタウロス)の男は――》


「……貴様、魔族の匂いがするな?

まさか貴様ら……魔族の手の者かッ?! 」


《――言うや否や

この場にいる一行に対し武器を差し向けた牛人族ミノタウロス達。


だが――》


「待ってくれ! ……まずは話をさせてくれないか!? 」


《――そう要求した主人公に対し二種族共警戒を解かず居た。


だが……人馬族ケンタウロスの長と思しき男が

主人公かれとの会話を望んだ事で

事態は“不思議な方向へ”向かっていく事となる――》


………


……



「……ず結論から先に言っておきますが

俺の後ろにいる仲間達の誰一人として、魔族……もとい

魔王にくみする様な人は居ません。


確かにマリーンは半魔族ですが

彼女が危ない存在で無い事は俺の命を掛けてでも保証出来ます。


俺達はただ、捜し物の為に旅をしているだけで

決して貴方達の平穏を乱そうとはしていない。


もしもこの地域に入った事自体が問題だったなら

迂回うかいするから大事にはしないで欲しい……どうでしょう? 」


《――そう丁寧に説明をした主人公。


だが、人馬族(ケンタウロス)の長らしき男から帰ってきた返答は

想像の“斜め上”で――》


「……薄々そんな事だろうとは思ったが、一応確認をしたまでだ。


怖がらせてしまったのなら謝ろう……だが、そんな事はどうでも良い

そんな事よりも……我らの勝負を見届けて貰いたいのだッ! 」


《――この想像をぜっする答えに

主人公は暫くの間“ポカーン”としていた。


だが、ふと我に返り――》


「えっと……どう言う事ですか? 」


《――と、至極真っ当な質問を投げ掛けた。


当然だろう……突如攻撃の意思をチラつかせ

半ば強制的に下船させ、臨戦態勢で取り囲んだ挙げ句

“勝負を見届けて欲しい”と言われ

“そうですか! 分かりました”……と成る方が異常である。


ともあれ……この直後

人馬族(ケンタウロス)の長らしき男は主人公の質問に答える為、みずからの種族である人馬族ケンタウロス

そして敵対している牛人族ミノタウロス境遇きょうぐうについて話し始めた。


だが――》


………


……



「……我ら二種族は見ての通り、その境遇きょうぐうが似通っている

そして、居住に適した場所も似ているのだ。


我ら二種族は戦い、奪い合う運命に……」


《――と、ここまで話した所で

牛人族(ミノタウロス)の長らしき男が割って入り――》


「……馬は馬屋で生活出来るだろうが!

我々の体は人間だが貴様らはほとんどが馬では無いか!!!

……そもそもを紐解ひもとけば

貴様らが我々の居住する場所を奪おうとしたのが始まりだった筈! 」


「……何だとっ?!

我々の森に後から現れ勝手に家を建て!!! ……」


「まぁまぁまぁ!! ……あのっ!

一緒に暮らすと言うのは……無理なんでしょうか? 」


《――主人公のこの質問に対し

両種族の長は激昂げきこうし――》


「何を言うか!! ……こんな牛顔の者達が側にいては

我ら崇高すうこう人馬族(ケンタウロス)の格が下がる! 」


「何っ?! ……走りながら糞尿を垂れ流す様な体で良くも抜かす物だ! 」


「何をぉ!!! ……」


「い、いやそのお二方とも……あのっ……喧嘩は……」


《――両種族長同士の争いにまたしても火がついてしまった事で

主人公の制止など聞こえぬ程の言い争いが続いた。


そして、それはとても長く――》


………


……



(……って言うかこれ、一体何の時間なのだろうか?

俺らにはそもそも関係ない争いなんだけど……収まる気配がないし。


てかそういえば政令国家でもこんな事があった様な気がするな

今と成っては皆仲良く過ごしてるけど……


……懐かしいな

早く帰って皆にまた会いたいな……って。


……それにしても長いな?


てか……マジで何なんだ?


イライラして来たな……


……あ゛っーもう!!


知るかっ!!! ――)


<――そう考えた俺は

大きく息を吸い――>


………


……



「……だから、喧嘩すんなって言ってんだろうがァァァッ!!! 」


《――突如として“ブチ切れた”主人公の怒号に

両種族長同士の争いは止まり――》


「……あのですね、今から俺が

貴方達“愚かな”種族に対して少々説教させて貰いますけど……」


「何だと? 貴様、取り消さぬなら我がひずめサビにしてくれるぞ……」


「珍しく同意見だ……我が角のやしに……」


「だから……黙って聞けってんだよアホ種族共!

まずは俺達を見ろ……なにか気づく事があるだろ? 」


《――主人公の横暴とも言える態度に両種族の長は苛立いらだちつつも

彼の言う通りに一行を見回した。


そして――》


「……多種多様な種族を引き連れ旅をしているのは理解するが

貴様の無礼な発言を許すだけの理由には成らんぞ? 」


《――と、人馬族(ケンタウロス)の長。


だが――》


「……いや、やっぱり理解出来てないよアンタ達

よく聞いてくれ、俺は別に仲間を“引き連れてる”訳じゃ無い。


仲間との信頼の元、上下関係無く……種族の差別も垣根かきねも無く

お互いがお互いの為を思って“協力”し“信頼”しあって旅をしているんだ。


……それがアンタ達は何だって?

どっちが上だのどっちが下だの……死ぬ程下らない問題で言い争って

挙句の果てに見ず知らずの俺達に対し

そんなつまらない上に全く意味の無い勝負の“見届人に成れ”と言う。


てかそもそも俺達が本当に“魔族の手先”だったら

そんなつまらない勝負の見届けをして貰う為だけに

わざわざアンタ達は“敵の攻撃範囲まで近づいた”事になる。


……大体、アンタ達にはそれぞれの種族の良い所も悪い所もある筈だろ?

それが何で相手の欠点ばかりを攻撃し続けて

何で全く協力出来ないのか俺には理解出来ない。


……俺が納得出来る位の真っ当な理由があるなら是非教えて貰いたいね」


《――苛立いらだちをぶつける様にそう言い放った主人公


……そして、この問いに答える為

重い口を開いたのは人馬族(ケンタウロス)の長で――》


「……我らの争いを“下らん”と切り捨てるか。


貴様の暴言は不問にしてやろう

だが貴様の言う“協力”など出来る訳が無い。


……互いに決して忘れる事の出来ぬ“負の歴史”があるのだぞ?

長きに渡る争いに決着をつけ、どちらかが正しいと決まるその瞬間まで……」


「だから……それが下らないって言ってるんだよ

それに……それなら一つだけ聞きたい事がある」


「……何だ、失礼ついでにあと一つならば許してやろう」


「じゃあ一つだけ……アンタ達が俺達を“魔族の手先”だと勘違いした瞬間

たった今アンタが協力出来ないと切り捨てた相手と

迅速に自然に陣形を組み、俺達を完璧に包囲したよな?


……つまり、皮肉にも協力出来ていた訳だ。


共通の敵さえ居れば協力出来るなら、下らない争いを止めて

一刻も早く協力関係を築き……いつか本当に訪れるかもしれない

“本物の魔族達との戦いにそなえる”って気には成らないのか? 」


《――主人公の指摘に

牛人族(ミノタウロス)の長は――》


「……成程、一理あると言えよう。


だが、互いに負の歴史がある状況で過去の件にびも入れず

その上、今日から“仲間だと認めろ”などと……


……いくら防衛の為とは言え、遺恨いこんが残るとは思わないのか? 」


「その点が問題なのは俺だって分かるよ……けど俺は

俺を殺そうとした奴を牢に入れず、其奴(そいつ)の望み通り旅に出た身だ。


無論、俺にだってアンタ達の言う“遺恨いこん”が無かったとは言わない。


けどさ……いつまででもその“遺恨いこん”を理由に

互いに神経も体力もありとあらゆる物を削り合って……


……それ“楽しいのか? ”


アンタ達は人間族より余程長生きなのかもしれないけど

それでもさ……命って、有限なんだぞ?

失われた人々は二度と帰ってこないんだぞ? ……」


《――主人公かれは何かを思い出したかの様に

苦痛に顔を歪ませながらそう言った。


この、異様な雰囲気に両種族は共に沈黙し……その後


主人公かれに対し、静かに――》


………


……



「楽しい訳など……無いだろう」


「珍しいな……同意見だ」


《――と、言った。


そんな二種族に対し、主人公は――》


「……確かに、ついさっき現れた俺にはアンタ達種族の

根深い“遺恨いこん”がどんな物なのかなんて

本当の意味では理解出来てないよ……けど

アンタが説明したみたいに“境遇きょうぐうが似通っている”なら

お互いの負の部分をこれ以上責め続けてお互いに苦しむより

この厳しい世界を楽しく生きる為、全力で協力して欲しいと思ってる。


もし、どうしても住む所に困るってんなら

少し遠いけど“政令国家”って所がある

少なくとも人間以外の種族を差別的に扱う様な奴は居ないと思うから

協力以前に住む所に本気で困ってるなら移住する事も考えてくれ」


《――そう言った瞬間


“ほう? ……貴様にその権限があるかの様な口振りだな? ”


と言った牛人族ミノタウロスの長

これには人馬族(ケンタウロス)の長も同意し――》


「い、いやまぁ……権限がある様で無い様で……と言うか

困ったら何時も“ラウドさんに甘えてるだけ”って気がしないでも……って!

兎に角……俺に権限云々は兎も角としても

移住が出来る様に話は通しておくから少し待っててくれ! 」


《――そう言った直後

ラウド大統領へ魔導通信を繋げた主人公――》


………


……



「魔導通信……ラウドさんへ!


……あの、もしかしたら数週間から数ヶ月以内に

政令国家に人馬族(ケンタウロス)牛人族(ミノタウロス)の二種族が

移住するかもしれないんですが……問題ないですかね? 」


「ん? ……何時もながらえらくいきなり沙汰じゃのぉ?!

まぁ構わんが……人数はどの程度じゃ? 」


「両種族合わせておよそ……千名弱かと」


「ふむ……まぁその程度であれば

旧帝国城地域にも空きが有る事じゃし、構わんぞぃ? 」


「助かりました! ……でも

毎回いきなり無茶なお願いしちゃって本当に申し訳ありません」


「なに、何時もの事じゃ! ……流石に慣れたぞぃ!

所で……後ろに居られるのが両種族の長とお見受けするのじゃが」


「ええその通りです……なので、各種法律や種族毎の決まり事等々

移住を希望される場合は出来る限り早期に

できれば今すぐにでも話し合いをするのが適当かと思います……」


《――この後、ラウド大統領と両種族の長達による取り決めや

その他諸々の話し合いがり行われ……さしたる苦労無く

近日中に両種族とも政令国家へと移り住む事に取り決められたのであった。


……だが、無事に決定した移住計画とは別に

ニ種族の間に“ある問題”が浮かびあがる事となる――》


………


……



「――良かった、これでちゃんと俺も謝る事が出来そうだ。


ず、俺の言い分を理解して貰う為だったとは言え

族長であるお二人に対し失礼な態度と失礼な発言を続けてしまった事

どうかお許し下さい……この通りです」


《――主人公は深々と両種族長に対し頭を下げ

両種族長共こころよく謝罪を受け入れ

むし主人公かれに感謝をするまでにいたっていた。


だが、問題は“其処”では無くて――》


………


……



「とは言え……一つだけどうにも釈然しゃくぜんとしなくてな」


《――と、人馬族(ケンタウロス)の長。


続く牛人族ミノタウロスの長もこれに同意し――》


「三度続けば珍しくもないが……同意見だ」


《――そう言った。


そして――


“何が釈然としないんです? ”


――とたずねた主人公に対し


“頭では理解をした、だが……どうにも

体が闘争とうそうを求めている様なのだ

……今まで長きに渡り決着のつかぬ勝負を続けていた我らに取って

いきなり仲間だと言われれば、正直モヤモヤとしているのが実情だ”


――そう、人馬族(ケンタウロス)の長は言った。


だが、この意見に主人公はニヤリと笑い――


“……勝負が付けばスッキリする訳ですね? ”


と言い


“先程も言ったが

今の今まで我ら種族同士の勝負に決着がついた試しが無い。


……一体どうやって決着をつけると言うのだ? ”


――人馬族(ケンタウロス)の長に言われ


再びニヤリと笑った主人公は――》


………


……



「……この“ゲーム”で決着をつけてください!

スッキリと決着が付く筈ですッ! 」


《――そう言って主人公の取り出した“ゲーム”

それは……オセロであった。


直後、物珍しさに両種族の長が目を輝かせていると

ルールの説明を始めた主人公……暫くの後

両種族の長達による“一騎打ち”が行われる運びと成ったのだが――》


………


……



《――暫しの攻防の後、僅差きんさ牛人族(ミノタウロス)の長が勝利し

両種族による長きに渡った争いはここで幕を閉じた……かに見えた。


だが当然の様に幕は閉じず……


……負けた人馬族(ケンタウロス)達は

声を揃え――


“一度の勝負で決着を決めるなど! ”


――と余計に興奮し始め、それに乗せられる様に

牛人族(ミノタウロス)達も興奮し始めてしまった。


……頭を抱える主人公。


だが、彼は解決策を思いつかず頭を抱えた訳では無かった。


彼は“手放さなければ成らない事に”頭を抱えていたのだ。


そう“オセロ”を――》


………


……



「はい、両種族共だまりやがれ」


《――と、若干キレ気味に両種族をなだめた主人公は

続けて――》


「……長々続いた争いですし

一回で結果が決まる事に納得出来ないのも理解しますし

結果が出たんだから黙れって言う側の気持ちも良く分かります。


……けど、このままじゃ何一つとして解決しない。


本当はこれ、とても大切な物なんですけど……でも

両種族の絆をつむぐ為の道具になるなら手放す他無さそうです。


両種族の長にこのオセロをお譲りしますから

一ヶ月に一回でもこのオセロで勝負して

勝った方が一ヶ月間所有出来る権利を持つ。


今後“争い”はそれだけにして下さい……どうです? 」


《――主人公のこの発案に

今の今まで争って居た両種族達は大人しくなり――


“それは平和的であり名案だな……その案、飲もう”


と言った牛人族ミノタウロスの長に続き


“仮とは言え、負けたのだ……異論無い”


と同じく主人公の提案を受け入れた人馬族ケンタウロスの長――》


「……俺的には寂しいし悲しいですけど平和な結果で良かったです。


じゃあ、これお渡ししますけど……本当に大切な物なんで

もし今度再び会えた時――


“少しでも壊れてたら”


――そこそこキレます」


《――そう言いながら牛人族(ミノタウロス)の長に対しオセロを手渡した主人公。


だが……この発言と共に、珍しく主人公から放たれた

並々ならぬ殺気を感じた両種族は共に身震みぶるいをしたのだった。


ともあれ――》


………


……



「さてと……これで問題は無くなったと思うので、一つ質問を。


日之本皇国って場所を目指しているんですが……


……こっちの方角であってます? 」


《――この質問に対し、両種族とも首を横に振った。


だが、間違った方角と言う意味では無く

両種族共その国を知らないと言う事らしい。


だが、その代わりにこのまま暫く進んだ先に

“人間の村がある筈だ”と教えてくれた両種族。


……暫くの後

一行は両種族に別れを告げると再びオベリスクに乗り込んだ。


だが……見送りもそこそこに

両種族は再びオセロで勝負をしていて――》


(あらら……一ヶ月に一回とは行かなそうだな……)


《――ともあれ。


そんな両種族を微笑ほほえましく眺めて居た主人公と共に

一行の乗ったオベリスクは次なる村を目指し進むのだった――》


………


……



《――所変わり

ムスタファの母国“アラブリア王国”では――》


「ムスタファ様っ! ……お怪我はございませんかっ!? 」


《――帰国早々、ムスタファの元へと走り寄った老齢な男性

どうやら、ムスタファが“爺や”と呼ぶ者らしく――》


「ただいま爺や! ……政令国家って言う国とね! ……」


《――そう話し掛けた瞬間

これをさえぎられてしまったムスタファ。


だが“爺や”にさえぎられた訳では無く――》


………


……



「おい“じじい! ” “ばばあ”が居らぬぞ!

……何処に行ったのじゃ?! 」


「カミーラ様……“じじい”では無く“爺や”とお呼び下さいと何度も……」


些細ささいな違いを気にするでないっ!

そんな事よりも……って?!


兄様(あにさま)っ?! ……帰って来てたのか?!

お帰りなさいなのじゃぁぁぁ~っ!!! ――」


《――瞬間

ムスタファに飛び掛かりそのまま抱きついたのは

ムスタファの妹“カミーラ”であった。


彼女はしばらくの間ムスタファに対し頬ずりをしたかと思うと

ムスタファの背後に止められた

“荷馬車”からただよう香りに気付き――》


「……兄様兄様あにさまあにさまっ!

あの馬車から香ってくる……食欲を爆発させる物はなんじゃ?! 」


「ん? ……それはね!

っと……ここで話していても仕方無い、王宮に入ろうカミーラ。


……衛兵達、荷馬車の荷物を王宮へ運んでくれるかい? 」


《――直後

衛兵達にって迅速に慎重に運び込まれ始めた“ヴェルツ特製弁当”


この後……ムスタファが帰還する為だけに開かれて居た

“視認出来る程に”堅牢けんろうな防衛魔導は

その役目を果たす為、再び完全な形で展開された――》


===第六十話・終===

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