第五九話「楽しかった思い出と苦しかった思い出と……」
ローズマリーの要求を拒んだ主人公。
一方、そんな彼らを取り囲むメリカーノアの兵士達……だが
兵士達も“トライスター”と思しき存在を相手取る事に
些か腰が引けている様子……
……余りにも長い膠着状態の末
流石に業を煮やしたローズマリーは
「……いい加減、諦めるなら諦める
抵抗するなら抵抗するで決めて下さらない?
この状況……嫌になりますわ? 」
「……どっちも嫌です、皆さんを傷つけたくも無いですし
この国で足止めされるのも嫌なんです
そっちこそ……諦めて貰えないんですか? 」
「あらそう? ……ではお聞きしますけれど?
仮に、私よりも強いであろう存在をみすみす取り逃がしたとして
私がこの国で得られる“優遇措置”がそのまま有り続けると思って? 」
「身勝手な事を……分かりました
牢にでも何にでも入れてくださいよ……その代わり
一生協力はしませんから! 」
主人公のこの発言は
ローズマリーの逆鱗に触れた
「そうですか……私にその様な口の聞き方をする人間に
久々出会いましたわ? ……良いでしょう。
爆炎の魔導――
――紅色之超爆発ッッ!! 」
直後
凄まじい爆炎が一行を包み込む様に降り注いだ、だが
直ぐに防衛魔導を展開し、これを全て無力化する事に成功した主人公。
だが
「はい! ……“抵抗”しましたわね!?
兵士の皆さん? ……さっさと彼らを捕まえてくださるかしら?
私は帰りますから……」
そう言い残し何処かへと立ち去ったローズマリー
……暫くの後、装備を奪われた一行は
牢屋へと押し込まれてしまったのだった。
◆◆◆
投獄から数時間後の事
メリカーノアの上院議員らは一行の元を訪れ取引を持ち掛けた。
……だが、結果は言うまでも無く
主人公は明確な拒否を伝え
議員達は釈放を認めず……そのまま数日が過ぎた。
だが……不幸中の幸いとでも言うべきか
はたまたこの国の法律のお陰か、拷問の類いは一切行われず
食事も毎食三度、確りと提供され続けた。
だが、政令国家で幽閉されて居た時の様な
希望は持てず
◆◆◆
「皆ごめん、俺の勝手な判断で……」
「……何を言う主人公。
御主の心の傷を掘り返す様な事を
あのまま無理に行わせて居たならば
吾輩は生涯後悔し続ける事に成って居ただろう。
……余り気に病むな、それに何れ奴らも諦めるだろう」
そう主人公を慰めたガルド
だが、水を差す様にギュンターが語り始めた
「……果たしてそうでしょうか?
牢獄に入って数日、面会禁止と言う訳でもありませんのに
面会人は一切おりません……オウル様も、サラ様も
ライラ様のお世話に成られたと言う絵師のクロエ様ですらもです」
「何を……情報が伝わって居ないだけだろう」
「いいえガルド様……伝わって居ても
伝わって居なかったとしても“問題だ”……そう言って居るのです」
ギュンターのこの発言に依り
何かに気付いた主人公は
「成程……伝わって居なかったとしたら“情報統制”
伝わって居て、来ないのだとしたら
何らかの“例外法”ですか」
「ええ……恐らくはそうでしょうな」
この後も暫くの間
牢獄での生活を余儀無くされた一行……そして
……再び定期連絡が途絶えた事に
ミリアやエリシア達が不安を覚え始めて居た頃
仲間の一人が発案したある“作戦”
◆◆◆
「主人公さ~ん……良い加減固有魔導使ってくださいよぉ~?
適当に“取られた物全部回収~”……とか唱えたら
簡単にこの国から出られるんじゃないですかぁ~? 」
そう
うんざりした様子で発案したのはマリアであった。
だが……この馬鹿げたアイデアを実現出来る
唯一の固有魔導を持つ、これまた馬鹿げた能力の持ち主
“主人公”……彼はこの発案通りに
牢獄内で固有魔導を発動……出来なかった。
「あれっ? 残存魔導力は足りて居る筈なのに……ってか
そもそも魔導力が足りないとすら言われなかったぞ?
どう言う事だ? ……」
と、不審がって居た主人公
だが、この直後……彼らの元へと現れた
酷く慌てた様子の衛兵に依って
その理由は判明する事と成る
「貴様……今、何かしらの魔導を発動させようとしたなッ?! 」
「えッ? い、いえ別に~……」
「……誤魔化した所で直ぐに分かる。
何せ、この牢はあらゆる魔導を封じる素材で出来て居る上
魔導の流れを感知すれば私に分かる様に成って居るのだからな!
しかし……装備も無しに魔導を放とうとするとは
“固有魔導”まで有して居ると言う事か……油断ならん奴だ。
本来ならこんな扱いはしない……
……だが、お前達が悪いんだからな? 」
そう言うと
脱獄を図った事への罰として一行に手錠を掛け始めた衛兵。
この後……食事時以外は常に手錠を掛けられ
殆ど身動きが取れない状況に置かれてしまった一行は
此処から更に数日……絶望の中で過ごす事と成った。
……だが。
解決の糸口は突突として訪れた
◆◆◆
「あれは確か……そうだッ!!! 」
瞬間、そう叫んだ主人公
「何ですかいきなり! びっくりしたじゃないですか! 」
「ご、ごめんマリア! ……でも思いついたんだッ!!
……昔、映画か何かで見た事があるんだけど
親指の関節を外したら手錠って直ぐ外れるみたいなんだよ!
とは言え、結構痛いらしくて……でも
一回やって見る価値はあるかもしれないと思うんだ! 」
そう自信満々に語った主人公に対し
マリアは冷静に
「いや……そんな事する位だったら
あの時何かしらの方法を使って
さっさとこの国から逃げてたら良かったんじゃないですかね?
って言うか、手錠が外れた所で
この場所からは出られませんよ? 」
「う゛っ……わ……悪かったよ、でも……」
「……分かってます。
主人公さんの気持ちが理解出来ない訳じゃ無いですし
オウルさんの事もありますし……そもそもあの“時”だって
私達を護る為に固有魔導を使っただけで……」
「い、いや……どっちがどうとかは置いといて!
兎に角……この作戦を試す価値はあるだろ?
それに、手錠さえ外せてたら
次に配膳が来たタイミングで脱獄出来るかも知れないし! 」
「それもそうですね……でも何だか痛そうですし
“言い出しっぺの法則”って事で……主人公さんからどうぞ! 」
「う゛ッ……そ、そうなるよな
でも、頑張ってみるよ……確か、映画では
親指の付け根を……って。
……いだだだだだだだだッッッ!!! 」
「ちょっとぉ??! ……主人公さん?!
我慢して下さいって!!
静かにしないと見張りの兵が来ますから! 」
「ち、違う! 違うんだッ! ゆ……指じゃないッ!
あ゛ぁぁぁい゛だだだだだだだッッッ!!! 」
「ちょ、煩いですって主人公さん!
もう! ……何処が痛いんです!? 」
「変な所に力が入ったみたいで……ぐぁぁぁッ!!!
わっ……わっ……」
「“わっ”って何処ですか?! 」
「わ、脇腹が攣ったんだぁッ!! ……痛ってえぇッ!! 」
「あの~……本気で呆れた顔見ます? 」
「ちょッ!? ……心配してくれよマリア?!
うげッ?! 余計に酷く攣ったッ?! ……
ぐあぁぁぁぁぁッ!!! ……」
などと騒いで居ると
案の定衛兵が現れ
「おい貴様ッ! 何を騒いでいる?! ……静かにしろッ!! 」
「た……助けて……脇腹が……ッ! ……」
「ん? ……脇腹がどうしたと言うんだ?!
貴様、さては騙し討ちでもするつもりだなッ?! 」
「なッ? 違ッ!! ……ってか
どう思ってても良いから助けてぇぇぇぇッ!!
……お願いだからぁぁぁあぁあッ!!!
脇腹が……脇腹がッ……とってもッ……とってもッ!!
……痛いのぉぉぉぉッッッ!! 」
この、あまりにも情けない主人公の懇願に
流石の衛兵も呆れ返り……
……直後、牢の鍵を開けた。
瞬間――
「なっ!? ……ぐはっ……」
――目にも留まらぬ速さで兵士へと飛び掛かった者
それは……ギュンターであった。
彼は……主人公の発案通り、親指の関節を外し
早々に“手錠抜け”を成功させて居た、そしてこの直後
彼は、無力化した衛兵の持つ鍵と装備を奪った上で
「……主人公様、素晴らしい陽動作戦でした
お陰様で容易に脱出が……」
「陽動作戦とか知らんからぁぁぁッ!!!
俺の脇腹を助けてぇぇぇ~~ッ!!! 」
直後、そう言って苦しむ主人公に対し
困ったように施術を施したのだった。
だが……当然と言うべきか、この後|暫くの間
主人公がこの一件を“ネタ”にされ続けたのは言うまでも無いだろう。
……ともあれ、脱獄を成功させた一行は
奪われた装備を取り戻す為、装備の捜索を開始した。
慎重に探り続ける事一〇数分……一行は鍵の掛かった鉄扉の部屋を発見
扉には“保管庫”と書かれて居た。
……直後、この扉を開ける為
兵から奪った鍵の束を一つずつ試す一行であったが
中々合致する鍵を見つける事は出来ず……半分程を試した頃
業を煮やしたガルドは
「此処は……吾輩に任せて貰おう
征くぞ……ふんッッッ!!! ――」
――瞬間
体当たりを繰り出したガルド……その凄まじい威力に依って
堅牢な鉄扉はいとも容易く湾曲し
衝撃に耐えきれなかった蝶番は引き千切れ
扉は轟音を立て吹き飛んで行ったのだった。
「さッ、最初から……いや、流石はガルドだな! 」
……ともあれ。
直後、保管庫から奪われた物を全て取り戻し
牢獄から脱出する事に成功した一行は
急ぎ脱出を図った。
だが……一行が脱出した先に待ち構えていたのは
ローズマリー率いるメリカーノア軍の兵士達であった。
◆◆◆
「くッ! ……時間が掛かり過ぎたか! 」
「“時間”ですって? …… 勘違い為さらないで?
あれだけ“騒ぎ立てて”いれば、どんな間抜けでも気づきましてよ? 」
そう言って主人公を煽ってみせたローズマリー
だが、そんな彼女に対し
「敵の言い分とは言え、完全同意するしかないですね」
そう二度三度と深く頷いたマリア
「う゛ッ……ごめん」
「まぁ、どうでも良いのですけれど
“戦わない”つもりなのでしたら
大人しく牢へと戻ってくださるかしら? 」
そう言って再び主人公を挑発したローズマリー
……状況を見れば戦う他に手段は無く
まして、手加減して勝てる様な生易しい相手で無い事は
火を見るよりも明らかであった……だが
この期に及んで尚、主人公は苦悩し動けずに居た。
すると
「主人公……歯を食いしばれ」
言うや否や主人公を殴り飛ばしたディーン
一方、突然の事に何一つとして対処出来ず
凄まじい勢いで地面へ倒れ込んだ主人公……だが
そんな彼に対しディーンは
「……主人公よ。
私の事をあれ程までに褒め称え尊敬し
同行を光栄とまで言ってくれたのならば
君自身にも“旅の長”である自覚を持って貰いたい。
無論、君に“過去”を考えるなとは言わん
それが君の良い所だと言う事も私は良く知って居る……だが
君が敵と味方に対し全くの別け隔て無く
全ての存在に等しく気遣いをした時……
……例えそれが僅かであったとしても
君の事を理解し、時には愛してくれる者達が苦しみ
片や、護るべき仲間を苦しめる者達が
諸手を挙げて喜ぶ様な状況が出来た時点で
そんな物は優しさとは呼べない……唯の偽善だッ!
君が尊敬してくれる私が……
……その私が尊敬する男である君には
もう少し、聡明な男で居て欲しいと……私は思って居る」
そう諭したディーン
この場に静寂が流れ……暫くの後
主人公はゆっくりと立ち上がった。
そして
「……そうだよな、俺は皆に甘え過ぎだし
今ディーンが言ってくれた、本来なら当たり前の事にすら
考えが回ってなかったんだろうと思う……けど。
けどッ! ……それでも俺が
この人達を傷つけたくない気持ちは……一切“変わらない”」
「ッ!? ……まだ言うか主人公ッ!!! 」
直後
再び拳を振り上げたディーン、しかし
主人公は更に続けた
「……まだ話は終わって無い
だからこそ、俺はこの選択肢を選ぶつもりなんだ
笑って許してくれるよな? ……ディーン」
静かにそう告げた主人公。
次の瞬間……大きく息を吸った彼は
叫ぶ様に呪文を唱えた
「土の魔導……花よ、満開に咲けっ!!! 」
減衰装備を一切使用せず
政令国家で発動させた初級の技などとは
まるで比べ物にならぬ程の規模で発動した
とんでもない量の花弁は
一行を取り囲んで居た兵士らと
ローズマリーをいとも容易く飲み込み
渦を巻きながら、ゆっくりと
周囲を蠢く様に流れて行ったのだった。
「よし! 皆……逃げようッ! 」
直後、そう号令を掛けた主人公……だが、そんな彼に対し
マリアはボソリと
「あの~……あれだと普通に“攻撃”された方が
何倍も楽だと思うんですけど? ……って言うか
“花”も“エゴ”も“満開”ですね? 主人公さん? 」
「う゛ッ……あ、あれは……その……
は、花弁は……その……
や、柔らかくていい匂いだから……良いのッ!!
……良いから早く逃げるぞッ!! 」
と、酷く苦しい言い訳を発した直後
この場から逃走し、正門へと辿り着いた一行。
だが、正門には尚も一行の行く手を阻む者が居た。
◆◆◆
「いやはや……一体どうするのだろうかと様子を見て居たのだが
君……とても滑稽な行動を取るね? 」
「くッ! ……退いてくれッ! 」
「……いやいや、そう言う訳には行かない
悪いけど……戦って貰うよ? 」
「嫌だ、退いてくれッ! 」
「君が拒絶した所で僕は関係なく攻撃するが? 」
「分かりました、じゃあ一つだけ聞いてください……」
「……何だい? 」
「眠れッ、永久に!! ――」
「何っ?!! そんな馬鹿……な……って、成ると思ったかい? 」
「――なッ?! 睡眠魔導が効かないだとッ?! 」
「いやいや、君は騙し討ちが上手いみたいだからね
念の為、防衛魔導を展開して置いたのさ
さて、中々に利己主義者な君をどうするべきか……」
「“見逃す”って手は……本当に無いんですか? 」
「ん? ……まぁ、頑なに“攻撃系”を使わない所を見て居ると
少々可哀想には思うけど……実力の有る者、特に
トライスターはこの国に留めるべき存在なんだ。
……この国を更に良くして
皆が楽に遊んで暮らせる様にして行く為には
他国の追随を許さない圧倒的軍事力が必須だ。
だから……君には悪いけど、観念して貰いたい」
「……でしたら、一つだけこっちも譲歩します
こんな仕組みを作り出してるこの国の上層部に伝えて貰えますか? 」
「ほう? ……聞こうか」
「俺達はどちらにしろ出国します……但し。
この国に危機が訪れた時……とは言え
この国が他国を攻める為の戦力には加わりませんし
どんな理由があれ拒否します……けど。
この国の存亡が危うく成った時
魔導通信で呼んでください……必ず助けに来ると約束します。
だから俺達を見逃して欲しい
これが最大限の譲歩です……そう、お伝え下さい」
「ほぉ~? ……面白い事言うねぇ君!
所で、それを伝える前に聞きたいんだけれど……
……君がもしこの国を“滅ぼす側”に属していた場合
君は一体どうやってこの国を助けに来てくれるのかな? 」
「そ、それは……」
「やはり即答出来ない訳だ……それでは伝えられないね? 」
そう言いながら主人公の目をじっと見つめて居たこの男
対する主人公は
「違う……ありえない!
あの国が、政令国家がこの国を襲うなんて
絶対にありえないッ!! 」
「ん? ……君、政令国家出身かい?
確かにあの国は大きく変わったと伝え聞いてるよ。
この国でも賭博場で“ゲーム”とかって物を
使わせて貰ってるみたいだけど……で。
……どうしてそう言い切れるんだい? 」
「政令国家は、俺の心から信頼する人達が護って居る
最高の理想の国だからだッ! 」
「成程? ……またまた独善的な考えを押し付けてくる訳だ。
……まぁ確かに、あの国が大きく変わった事は聞いて居るし
実際、今までの様に危険な国では無いとも聞いて居る。
だが仮に……この国の友好国と
君が信頼する政令国家が一戦交えた場合
若しくは敵国や仇敵の肩を持つ様な行動を取った場合。
それすらこの国に矛を向けた事と同義だと
君は理解しているかい? 」
「なら、それならッ! ……少し待ってください」
「仕方無い……一分位なら待ってあげよう」
「感謝します……魔導通信
ラウドさん! ――」
◆◆◆
「――主人公です! 緊急です! 」
「何じゃね? またも長らく連絡がつかず……」
「その件に関しても後で説明します……それよりも
メリカーノアと言う国と国交を結び
友好国として“不可侵条約”的な物を結んで貰えませんか? 」
「またえらくいきなり沙汰じゃのぅ?
しかし、相手国との話し合いすらない状態では……」
と、急いで話して居た俺の背後で
この男性は
「ん? ……魔導通信なのに
話し相手の顔が見えるって一体どう言う事だい? 」
「その説明も後で詳しくします!
兎に角! 貴方はこの国の長をこの場に……」
「何を言う……もう、来て居るだろう? 」
「ど、何処に?! 」
「何処って……君の目の前さ。
遅くなったけど名乗るべきか……僕の名前はアルバート
この国の長だ……そして、お久し振りですラウドさん。
……いや、ラウド大統領とお呼びするべきかな? 」
「何と?! ……アルバート大公であったか
主人公殿、一体どう言う流れで大公と知り合ったのじゃね? 」
「アルバート大公? あの……この国の正式名称って……」
「ん? ……メリカーノア“大公”国だよ? 」
「と言う事は俺、この国の長とこんな会話を?
……って言うか、一国の長に対して
攻撃じゃ無いにしろ……魔導放っちゃったって事ですか? 」
「別に僕は気にして居ないが
状況だけ見たら“斬首”でも不思議は無いね? 」
「い゛ッ?! そ、その件に関しましては本当に……」
「ふっ……そんな事を責めるつもりは無いよ。
……さて、ラウド大統領
主人公君の紹介で我が国と政令国家は
友好国として“不可侵条約”を結ぶ事になりそうです。
……宜しいでしょうか? 」
「そ、それは構いませんが……しかし
アルバート大公、立派に成られて……」
「昔話は後々……それではラウド大統領
只今を以て、我がメリカーノア大公国と政令国家は
“不可侵条約”を結び……友好国として
共同歩調をとる事で条約の締結と致します……宜しいですか? 」
「旧友のご子息の頼みとあらば……勿論ですじゃ!
して主人公殿……何故いきなりこの様な事に成ったのじゃ? 」
「そッ、それは……その……」
と主人公が口籠っていたその時
やっとの事で花弁の山から脱出したローズマリーは
一行へと追いつき……
「はぁはぁッ! ……許しませんわッ?!
爆雷槍……」
「……待てローズマリーッ!!!
話はついた……それに君は少しも怪我をしなかった。
気持ちは分かるが……少し抑えてくれると僕としても助かる」
「で、ですが! ……いえ、分かりましたわ
命拾いしましたわね? ……主人公さん? 」
「ええ……互いに怪我が無くて良かったです」
「……さて、友好国からの客人と言う事になれば
邪険に扱ってはいけないし
出来れば饗すべきなのだが。
君達は……旅立つ予定だったね? 」
「……面倒な条件をお飲み頂いた事が
何にも勝る最大のお饗しでした……アルバート大公
色々とご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
そう言って
深々と頭を下げた主人公
「ああ、確かに……“あの”花弁の後片付けは
非常に面倒かも知れないね? 」
「なッ?! そ、それはッ! ……まッ“魔導よ消え去れッ! ”
ほ、本当に失礼を……」
「いやいや、冗談のつもりだったのだが……君は真面目だね
だが……そんな優しくて真面目な君に一つだけ忠告してあげよう。
……優しさと真面目さだけでは決して越えられない壁が
この先必ず君の眼前に現れる事になる。
そう成った時、今の君では絶対に大切な仲間を救えない
それどころか……大切な人達を
失う結果を招く事態にすら成りかねない。
優しさを捨てるべき時の判断だけは
決して間違ってはいけないよ? 」
「き……肝に銘じておきます」
「一応忠告はした……後は君次第だ。
さて……此処から先の道のりは険しい
今回の様に平和的解決が出来る国ばかりだと思っていたら
あっと言う間に君達はボロ布の様に成ってしまうだろう。
この世の中に甘い国など無い……そう思って行動する事だ
では良い……いや、安全な旅をね」
「……お気遣い感謝します
じゃあ皆……行こうか! ――」
こうして、意外な展開に依り
無事メリカーノアを出国する事が出来た主人公一行
だが
◆◆◆
主人公一行を笑顔で見送って居たアルバート大公
だが、その後ろには不満げな様子のローズマリーが居た。
……暫くの後、一行が見えなくなった頃
アルバートに対し
「恐れながら……私と
議会の考えを申し上げても宜しいでしょうか? 」
「ああ……聞こう」
「……では申し上げます、私自身認めたくもありませんが
あれだけの実力者達……特に主人公と言うあの男。
……あの男達を引き留めず剰え送り出してしまうなど
我が国の国力増強の妨げに成ってしまいますわ?
何故、あの様にいとも簡単に送り出したのです? 」
「……何を言うかと思えば
大局を見極める目を養う事が出来れば
君も、そして……役立たずで愚鈍な上院議員共も
少しは我が国の為に成るのだろうね? 」
「なっ……其処まで仰られると
私も流石にムカつきますわ?
納得出来るご決断の理由……詳しくご説明頂きたいですわね? 」
「……もぬけの殻とは言え帝国領すら手中に収め
更に領土の拡大を続ける政令国家と言う“大国”を
争わずして手中に収め“友人”と成れる上
さらにあれだけの大国の長を
あのお人好しのラウドが受け持って居ると言う事実。
……正直、抱腹絶倒モノの冗談なのだよ。
あの様なお人好しが長であれば、何れ
あの国の全てを我が国の物とさせる事すら容易いだろう
これでもまだ……不満だと言うのかね? 」
「いえ……流石はアルバート様ですわね。
ご指摘の通り、私ももう少し
“大局を見極める目”を養うべきかも知れませんわね。
……それよりもアルバート様? そうなった暁には
是非、私を政令国家方面の司令官としてでも
ご推薦頂きたいものですわ♪ 」
「ふむ……考えておこう」
「あら嬉しいっ♪ ……っと、そういえば
あの者達の中で一名だけこの国に残った者が居る様ですわよ? 」
「完全……いや、絶対防御だったか
聞く所によると“除隊”されたらしいが……
……どうやら、ある女薬師との婚姻が原因らしい。
まぁ何れにせよ……あの者達は全員お人好し揃いだ
国家を運営して行く為の行為が、全て
“綺麗事”だけでまかり通ると思って居るのだからね。
さて……そろそろ夕食時か
ローズマリー……君も一緒にどうかね? 」
「ええ……喜んでご一緒致しますわ♪ 」
◆◆◆
同時刻
“研究所”
「……どの程度完成した? 」
「およそ八割程度かと」
「後、どれだけ掛かる? 」
「完全体に仕上げるまで早ければ二ヶ月、遅ければ……」
「遅ければだとッ?!!
遅ければ……貴様をE.D.E.Nシリーズの餌にするまでだと言った筈。
もう一度聞く……あとどれだけ掛かる? 」
「に……二ヶ月後には
完全体をご提供出来ると断言致しますッ!!! 」
===第五九話・終===




