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異世界転生って楽勝だと思ってました。  作者: 藤次郎
第二章

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第五十三話「新たな仲間が居たら楽勝……?」

《――新たな仲間と共に“精霊の住処すみか”を後にした一行は

当初の予定通り、次なる国を目指し着実に森を進んで居た。


だが――》


………


……



「ふぅ~……けっこう大変だけど、意外と歩けなくも無いな。


まぁ……キツイけど」


「本当に主人公さんって物理適正弱々ですよね~

私なんて歩くとか苦でも何でも無いですけど

オベリスクのお風呂に入れないのが一番辛いって位ですし? 」


<――マリアとそんな話をしていたその時


“お風呂? ……それは何をする物なの? ”


と、不思議そうにたずねて来たリーアに対し――>


「えっと……お風呂っていうのは、疲れた身体を癒す為と

一日の汚れを落とす為に温かいお湯に浸かったり

体を洗ったりする行為の事……それがお風呂に入るって事だ! 」


<――と説明した所


“そう……それは裸で行うのネ? ”


と、少し笑みを浮かべながらたずねられた所為で――>


「いっ?! ま、まぁ服が濡れたら気持ち悪いし?!

……とっ、当然裸だけど!? 」


「フフッ♪ ワタシの身体……想像しちゃったのかしらネ♪ 」


「いっ?! いやその……」


「……主人公さんっ? 」


「ぬわっ!? お、怒らないでよメル……」


「いえ……別に怒ってませんっ! 」


「……絶対怒ってるじゃないか。


って言うかリーア、そういうノリを控えてくれないか?

さっきみたいな“袋叩き”はもう勘弁して欲しいし……頼むよ」


「そう? ……アナタがそう言うなら控えるわネ♪ 」


<――等と話しながら歩いていた俺達

だがそんな中、タニアさんは思い出した様に――>


「……そう言えば主人公様、政令国家への連絡はどうされるのです? 」


「どうされるのですって……あっ!!

ミリアさんとエリシアさんに連絡入れるのをすっかり忘れてた!!!

一度休憩を兼ねて連絡を入れなきゃ!


魔導通信、ミリアさんへ! ――」


………


……



「ミリアさん! ……連絡が遅れてすみませんでしたッ! 」


「なっ?! ……主人公ちゃんかい?!

無事だったんだね?! ……全く! 心配したじゃないかいっ!

ちゃんと連絡しなきゃだめだって言った筈だよっ! 」


「いっ!? いえその……ご心配をお掛けしてしまい

本当に申し訳有りませんでしたッ!!!

その……紆余曲折有って“通信が不可能な地域に”居たので……」


「ああ、ラウドさんから聞いたよ……谷底へ落ちたらしいじゃないかい!

危険な旅なら止めて帰ってくるんだよ?

それに、直るとは言えオベリスクが壊れたって話じゃないかい。


……直す間だけでも、一旦帰って来る訳には行かないのかい? 」


「ええ、確かにそれも手だとは思うんですけど……」


<――と、話していた俺を不思議そうな顔で見ていたリーア


直後、彼女は突如として――>


………


……



「……魔導通信って顔が見えなくてまどろっこしいのネ?

ワタシが“変えて”あげるワ♪ ――


――“鷹之目イーグルアイ


どうかしら? ……これで“お互いに”顔が見えている筈よん♪ 」


<――瞬間

リーアの唱えた謎の魔導にって、俺は現在のヴェルツを

ミリアさんは現在の俺達を明瞭めいりょうに見る事が出来る様に成り――>


「リーア一体何を……って、ミリアさん!?

……いや、ヴェルツごと鮮明に見えてる?! 」


「なっ……魔導通信は顔が見えなかったんじゃないのかい?!

って、主人公ちゃん達……なんだか仲間が増えてるじゃないかい!


……主人公ちゃんの横にいる女の子と

メルちゃんの肩に乗ってる子は誰さんだい? 」


「ワタシは精霊族の女王、マグノリアですワ♪ 」


「同じく精霊族……ベンって呼んでね! 」


「……せ、精霊族だって?!

主人公ちゃん達は本当に友達をつくるのが上手いねぇ~」


「ええ、本当にありがたい限りです……っと、そう言えば

……エリシアさんはどちらに? 」


「ああ……そろそろ帰ってくるんじゃなかったかねぇ?

って、噂をすれば……」


「ただいま~……って何それ?!

主人公っち達が居る……訳じゃないみたいだけど

って……うおぉぉぉっ!!?


そ……その薬草は!! 」


<――現れるなり過度な興奮状態と成ったエリシアさん

まぁ、エリシアさんらしいと言えばらしいのだが

彼女はこの状況の不思議さよりも薬草に興味を示し――>


………


……



「主人公っち!! ……その薬草は取っておいた方が良いから!

絶対ッ! ぜぇぇぇぇぇぇぇぇったいに! 」


「……ぬわぁっ!? エリシアさん近いッ!!

っと……これですか? 」


「そうそれ! ……煮出したエキスが超絶美味しい上に

体を癒やす効果が有るんだよ~っ?

凄い珍しい薬草なのに大量に有るじゃん!


……けど、全部摘んじゃ駄目だからねぇ~?

自生しなく成ったら可哀想だし勿体無いから……三割迄ねぇ~!

あと、その横の雑草も抜いてあげて! ……そうそれ! 」


「は、はいっ! ……って言うか挨拶もまだなんですが。


ともあれ……お久しぶりです、ご心配をおかけしてしまって申し訳……」


「……って嘘ぉ?! 」


「ぬわぁっ?! ……まだ何か薬草が?! 」


「違うよ! ……主人公っちの横に居るのって“精霊族”だよね?

しかもその姿は多分女王……何で一緒にいるのっ?! 」


「えっと……紆余曲折有りまして」


<――と、説明に苦慮くりょしていた俺の横で

リーアは――>


「それは……このニンゲンに無理やり手篭てごめにされ

“ついて来なければ森を滅ぼすぞ”と脅されたのですワ……」


「……っておぉぃぃぃぃぃぃっ!!!

誤解ごかいしか招かない様な嘘を言うなぁぁぁっ! 」


<――リーアの大嘘を全力で否定して居た俺。


だが、エリシアさんはそんな状況を笑うでも責めるでも無く

リーアに対し――


“冗談はさておいて……本当の事を説明して? ”


――そう問いただした。


すると――>


………


……



「エリシアさん……ワタシ達に伝わる口伝はご存知? 」


「……“特別にして特異な生まれの者

生死のさかい彷徨さまよいし時、精霊の加護が宿る”


……だっけ? 」


「ええ、その通りですワ」


「成程……主人公っちとメルちゃんね……契約も済ませてるんだ?


って言うか、皆が危ない目にあったみたいだけど

一つ質問があるんだよね……精霊族の女王、マグノリアさん?

何故、主人公っち達に“樹木巨獣ギガトレントけしかけた”のかな?


あれは本来、凄く大人しい魔物の筈だよ? 」


<――この質問を受けた瞬間、わずかだがリーアの顔が強張こわばった。


そして……暫くの沈黙の後

重い口を開いたリーアは――>


………


……



「ええ……如何いかにもワタシがけしかけましたワ。


でも、決して皆さんを殺めてしまわぬ様

ワタシの力で落下の衝撃から精一杯守り

鬼人オーガ族をも向かわせ、全力で守ったのです。


でもそれは……ワタシ達の願いを聞き入れて頂きたかったから。


最低な行いとは分かっていましたが……苦渋の決断でしたワ」


「成程……精霊族が清廉潔白せいれんけっぱくな存在だと言うのは幻想だった訳だ?

中々に悪どいやり口だけど……何でそんな事したのかな? 」


「ああ、俺にも聞かせて欲しい……返答次第では許せないよリーア。


俺の事はまだ良い……だけど、俺の大切な味方に

生死に関わる怪我を負わせた責任が……まさか

君に有るとは思って居なかったから」


「……先程お話した通りの理由ですワ。


魔族達が全ての森を焼き払ってしまえば、ワタシ達だけでは無く

森に住む全ての生きとし生ける者達……いては

癒やしの力の永久的な消失に繋がるのですワ。


だから……何としても魔族に対抗出来るだけの力が欲しかった。


……許されない罪だと理解していますワ

勿論、全てが終わったらワタシが全責任を負います。


許してとは言わないワ……身勝手な言い分だと分かっています。


でも……」


「……分かった、だけど二度目は勘弁してくれ。


今度はせめて……予告してくれ」


「主人公……ええ、約束するワ

二度とこんな事はしない……本当にごめんなさい」


………


……



「……まぁ、薬草が取れなくなっちゃっても困るし~ぃ?

主人公っちが良いって言ってるんだから私は別に良いけどね~


……って言うか主人公っち、理由が理由みたいだし

飲み込めない部分もあるだろうけど、あまり責めてあげない方が良いかもね」


「ええ……勿論理解してます。


それに、俺だって人の事を言えない行いをしましたから……


……エリシアさん。


彼らは旧帝国城で無事に暮らしていますか? 」


「やっぱり“その一件”か~……少し気にし過ぎだよ主人公っち?

まあ、元気にしてるっぽいけどね~?

少しづつ政令国家式の生活に慣れてきてるみたいだし~ぃ? 」


「良かった……帰国したら改めてちゃんと謝りに行きます。


……リーアのやった事はこの際考えない事にしておく

俺達は一刻も早く旅の目的の達成と、森を守護する為に動く。


……これ以外の事は考えないけど

それらは全て仲間を一人も失わない事が前提だ。


リーアも、皆も……それで良いかい? 」


<――半ば強引な幕引きをした俺

だが、仲間達は皆そんな俺に賛同してくれた。


そして、そんな様子を見ていたミリアさんは――>


「いい仲間を持ったね主人公ちゃん……さて、そろそろ店も忙しくなる頃だ

また明日辺り……必ず連絡しておくれよ? 」


「ええ、勿論です! ……では! 」


「ちぉょっと待ったぁぁぁっ主人公っちぃぃぃっ!!!

その薬草……取り忘れちゃ駄目だからね!? 」


「ぬわっ?! ……ええ、三割まででしたね!

……ちゃんと採集しておきます。


今日からはまた毎日連絡出来ると思いますので……ではまた明日! 」


………


……



「――さてと、


休憩って言いながら熱くなり過ぎたな……」


<――通信終了後、何気無くそう言った俺に対し

タニアさんは――>


「……それならばエリシアさんのおっしゃっていたこの薬草を

早速せんじて飲んでみませんか?

……休憩には飲み物が付き物ですわ? 」


「おぉ! それもそうですね!

じゃあちょっとお茶の代わりに……」


<――直後

エリシアさんから教わった薬草をせんじて飲む事にしたのだが

辺りには水源もなければ、故障中のオベリスクから水を用意出来る筈も無い。


少なくとも次の目的地にたどり着くまでは不可能かと思われたその時

突如として呪文を唱えたリーア。


その直後……周囲の木々から少しずつ水分が集まり始めたかと思うと

彼女は、其処から得た水を使用し空中で器用に薬草をせんじ始めた。


感心しつつその様子を見ていると、今度は大きな葉っぱでカップを作り

其処へせんじた薬草の汁を注いだ後……皆に渡すと

如何いかにも“褒めて欲しそう”な表情を浮かべたまま

俺の方をじっと見つめたリーアに――>


「す、凄い技術力だ! ……流石精霊族の女王だね! 」


<――と、明らかに棒読みな俺の褒め言葉に

リーアは大喜びし、またしても俺の頬へ口づけをした。


……例にって女性陣の顔が引きって居たが

俺は全力で見て見ぬ振りをした……ともあれ。


暫くの後……エリシアさんから教わった“薬草茶”で

久しぶりに安らぎを得た俺達は……休憩を終え

再び次の目的地を目指し歩を進めるのだった――>


………


……



《――同時刻

政令国家東門前には……門番に対し

少し緊張した面持ちで話し掛ける“小太りの男性”の姿があった――》


「あ、あの……門番さん、失礼なのですが

政令国家と言う国は此方で間違い有りませんか? 」


「ん? 如何いかにも此処ここが“政令国家”だが……何用か」


「良かった! ……たどり着いた!!

帰ったら爺やに褒めて貰おう……ゴホンッ!


い、いえ実は“主人公様”の紹介で

ゲームの購入の為訪れた次第なのですが……」


「ん? ……ゲーム購入? 主人公様?


……たっ、大変失礼致しましたッ!

し、少々お待ちを! ――」


《――言うや否や

大層慌てた様子でラウド大統領宛の魔導通信を開いた門番……


……直後、通信を聞きつけ東門へと現れたラウド大統領は

現れるなり――》


「ふむ……貴方が例のお客人じゃな?

遠い国から我が国のゲームを求めお越しになったと聞いておりますぞぃ! 」


「あ……あの、貴方は? 」


「これは失礼した……わしはこの国の大統領……つまり

“長”をつとめておるラウドと言う物ですじゃ!

……以後宜しく頼みますぞぃ」


「おぉ! ……国の長自ら出迎えて下さるとは!

主人公様と同じく素晴らしい人達で溢れた国と言う事を理解しました!

あっ……申し遅れました!

私は、アラブリア王国第一王子で“ムスタファ”と申します。


我が国の民の為、この国で生まれた娯楽“ゲーム”を必ずや手に入れ

我が国の民達にこの喜びを届けたいと思っている次第です!


……突然の訪問でご迷惑をお掛けせぬ様

立場を隠しての訪問となってしまった事、深くお詫び致します。


ですが、どうかこれに気を悪くせず

我が国へゲームをお売り頂けないでしょうか? 」


《――小太りの男

もとい“ムスタファ”がただの庶民では無い事を知った瞬間

ラウド大統領と門番は“硬直”していた。


だが、暫くの後……我に返ったラウド大統領は

彼を心良く受け入れ、大統領執務室へと招いた。


その一方……執務室へとまねかれたムスタファは

着席するや否や……“主人公との出会い”に始まり

そして主人公の“人柄への賛美”や彼の“魔導適正の高さへの賛美”

更には“政令国家への賛美”や“ゲームへの賛美”など……


……ありとあらゆる“賛美”を並べ立て、たたえ続けた。


そうして一頻ひとしきり話し続けた後

ようやく肝心の“ゲーム購入個数”を伝えられたラウド大統領は

再び“硬直”する事と成った――》


………


……



「し、しかし……その個数を一気にと成ると、流石に時間が必要ですな」


「ええ……その件に関しても主人公様からお話がありましたので

私は……そうですね、何処かに宿を取り

暫くこの国でご厄介に成ろうかと思っているのですが……


……何処かに安宿がありましたら其処で構いません

民達の為、少しでも良い土産を沢山買って帰りたいので! 」


「ふむ……しかし安宿と言われましてものぉ

他国からのお客人をぞんざいに扱う訳にも参りませんゆえ……


……そうじゃ!

幸いこの城には客間が沢山ありましてな、もしお嫌で無いならば

この国にいる間はこの城を

宿としてお使いに成られてはどうじゃろう? 」


「何と?! ……喜んで!

これでもっと民達にこの国の娯楽を買い与える事が出来ます!


……でしたら、先程お願いしたオセロの個数を

更に千個程追加しても構いませんか? 」


「か、構いませんが……しかし

“安宿”の定義がいまいち我が国とは違う様ですのぉ」


「いえ、第一便としての購入ですからこれでも……」


「ん? ……今何と? 」


「ですから、第一便としての購入で……ってラウド様? 」


「か……か……」


「か? ……何です? 」


「……金持ち過ぎじゃろぉぉぉぉぉ?!


ハッ?! ……失礼した。


思わず取り乱してしまい、お恥ずかしい限りですじゃ……」


「い、いえいえ! ……財力をお褒めに預かり光栄の至りです。


……ですが、いくら財を成して居たとしても

政令国家このくにの様に精神的な豊かさをはぐくめぬ国では

何処どこまでもつまらぬ国で終わる事と成るでしょう……その為

まずは“ゲーム”を足掛かりとして、この素晴らしき国の形を……


……恐れながら、模倣もほうさせて頂きたいと思っている次第です」


「ふむ……我が国を褒めて頂いて有り難く思いますぞぃ

ですが同時に、国を統治する者として気苦労が耐えない事もお察ししますぞ。


しかし……我が国も主人公殿が居なければ

今の様な姿には成り得なかったのですぞ?


まぁ、何れにせよ……良い方向へと向かうには

それ相応の苦労も苦悩も有ると言う物……


……褒めて頂いた礼と言っては無礼かもしれませんが

今後ムスタファ殿の国家と有効的な関係と成れる様

まずはその橋渡しの意味も込め、大統領わしの権限により

貿易ぼうえきの税は免除し……その分、少しでもそちらの国の民達に

ゲームが行き渡る様にさせて頂こうと思っておりますじゃ! 」


「な、何と?! ……ラウド様、感謝致します!

此方こそ喜んで……我が国と末永い国交をお願い致します! 」


「……此方も宜しくお願いしますぞい!


……所でムスタファ殿、やんごとなきお立場にも関わらず

護衛らしき者が見られぬようじゃが……


……ここまでの道のり、よくぞご無事でしたな?

護衛も無しで此処まで無事にたどり着くとは

さぞ腕に覚えがあるとお見受けしますぞぃ? 」


「ええ! ……爺や直伝のこの構えがありますから!


……ふんっ! 」


《――主人公に披露した物と変わらず

“対してキマっていない構え”を披露したムスタファ――》


「そ、そうでしたか……流石は一国一城のあるじですな! 」

(ううむ、悪い御仁ではなさそうなんじゃがのぉ……)


………


……



「……兎に角。


各種ゲームの発注はわしの方からガンダルフ殿に伝えますゆえ

ムスタファ殿は我が国の観光でもさってくだされ。


それと……連絡と護衛を兼ね、優秀な魔導兵を一人つけますから

何か要する物があれば魔導兵に伝えて貰えれば幸いですじゃ」


「……いえ、護衛など必要ありません。


この国の民を信じておりますから……それに

仮に悪漢に襲われ、万が一私が倒れる事に成ったとしても

それは我が国の恥であり、政令国家に迷惑を掛ける事など決してございません。


そもそも、爺や直伝の構えもありますから! ……ふんっ! 」


《――再び披露した構えは、やはり

全くと言って良い程“キマって”いなかった――》


「し、しかし、せめて魔導通信の手段は……」


「ご安心を! ……魔導通信位ならば私にも使えますから!


そんな事よりも……私は一刻も早く

この国の民が食べている食事を食べてみたいのですよ!


それと言うのも……旅の途中

食事は味気無あじけなく少量で、生きた心地がしなかったのです。


お陰でとても空腹で……」


「ふむ……それならばヴェルツがこの国一番の名店ですぞぃ!


……主人公殿も行きつけの店ですし

お代も気にしなくて構いません、存分に食事を楽しんでくだされ! 」


「おぉ! ……主人公様が行きつけだと言うのならば間違い有りませんね!

では早速行って参ります……また後ほど! 」


《――言うや否や、体型からは想像のつかない速度で走り去り

大統領執務室を後にしたムスタファ。


一方……ムスタファが走り去ったのを確認した後

ラウド大統領はヴェルツに居るエリシアに急ぎ連絡を入れ

ムスタファにバレぬ様、陰ながら“護衛をする様”頼んだのだった――》


………


……



《――しばらくの後、昼食時のヴェルツ


……マナーの悪い客など誰一人として居らず活気にあふれた店内。


だが……そんな平和な店内に突如として現れた小太りの男

もとい“ムスタファ”……彼は、勢い良く入り口の扉を開けるやいな

女将のミリアに対し――》


「主人公様が食べて居たメニューと同じ物を特盛で!

最低でも六つはお願いしますっ!!! 」


《――と、言い放った。


……突如平和な店内に響き渡った異様な注文に店内にいる者達は静まり返ったが

暫しの沈黙の後……注文を受け付けたミリア

そして……ムスタファを大きな丸い机の席へ案内すると

腕捲うでまくりで気合を入れたミリアは厨房へと早歩きで消えて行った――》


………


……



「はいお持ちっ! ……って。


それにしてもアンタ、こんなに沢山食べられるのかい?

うちは安くて多くて美味いのが売りの店だよ? 」


「ええ……ここの所まともな食事が出来ていませんでしたから


それにしても美味しそうだ……


……こんなに美味しそうな物を主人公様は食べていたのですね。


爺やが見たらまた太るって怒られるかな? ……いや。


長旅で沢山脂肪を消費した筈……では、頂きますっ! 」


《――言うや否や

勢い良く一皿目に手を付けたムスタファ。


一方……彼の一口の大きさに驚きつつも

それを微笑ましくムスタファを見ていたミリアだったが

突如としてムスタファの手は止まり……


……喉を詰めたのかと心配するミリアに対し

大きく首を横に振ったかと思うと、大きく息を吸い――》


………


……



「う……美味すぎるっっっ!!!!!

こんなに美味しい食べ物がこの世界にあったとは!


シェフ! ……アナタは天才ですっ!!! 」


《――と、興奮気味にミリアを褒め称えたムスタファ。


突然の事に驚いたミリアであったが……ほっとむねを撫で下ろした後

褒め言葉に気を良くしたのか

食後のデザートをサービスする事にしたのであった。


……ともあれ。


暫くの後、満足げな表情を浮かべ食事を終えたムスタファは――》


………


……



「いやぁ~食べた食べたっ!! ……全てが最高に美味しかった!

こんなにも贅沢な食事ですが……おいくらなんです? 」


「ん? ……ついさっきアンタは他国からの大事なお客さんだって

ラウドさんから連絡を貰ったからねぇ……お代は要らないよ? 」


「ええ、それは助かるのですが……個人的にまた訪れた時

この様に豪華で最高な食事を食べる為に

一体いくら用意すれば足りるのかを知りたくて……」


「何だって? ……嬉しい事を言ってくれるじゃないかい!

そうさねぇ、それだけの量だと……


……ざっと銅貨六〇〇枚って所かねぇ?

うちの店でも高い方に入るメニューを全て特盛だからねぇ……」


「それは……共通通貨だとどの位です? 」


「同じ位さね……共通銅貨六〇〇枚だよ」


「……嘘だ」


「嘘じゃないよ? ……高いって言うのかい? 」


「そんな訳ありません! ……安過ぎるって言いたいんです!

一体何故これだけの食事でこの価格に?


まさか、主人公様の様な慈善事業じぜんじぎょうを……」


「違うよ! ……これでも儲けは出てるつもりさね。


大量に材料を仕入れる事で安くして

大勢のお客に提供するから安く出来るだけさね」


「何と……素晴らしい考え方です!

改めてこの国の全てを模倣もほうすべきと感じました!

そうすれば我が国の……い、いえ!

私がつかえる国の人々がもっと豊かな暮らしに成れるでしょう! 」


「……嬉しい事を言うじゃないかい。


とは言え、そもそもこの国の現在の形を作ったのは

アンタが“様付け”で呼んでる主人公ちゃんのお陰さね。


って……そう言えば聞きそびれてたけど

主人公ちゃんとはどう言う関係だい? 」


「主人公様は……命の恩人、とでも言うのが妥当でしょうか」


「何だって?! ……詳しく教えておくれ! 」


「ええ! ……あれは私が飲み水に困っていた時でした。


彼はわずかな共通銀貨で水を売ってくださり

私が“もっと欲しい”と求めると、最後には一樽一金貨する樽を

四つも無料でプレゼントして下さったのです! 」


《――目を輝かせ自慢気に語ったムスタファ


しかし、この場にいる者のほとんどが共通銀貨の価値を知っていた為

それがたとえ一枚だとしても、たかが水で足元を見る価格をつけ

尋常ならざる暴利をむさぼったのだと

大きな勘違いをする者が相当数存在した。


そう、ミリアでさえも――》


「そ、そうかい! ……それは良かったねぇ! 」

(……水に銀貨だって?!

明日、連絡の時にこっぴどく叱っておかなきゃ駄目だね!! )


「ええ! ……主人公様はとても素晴らしい良い御仁です

それに……トライスターとは恐れ入りました。


……私の住む国ではわずか数十名しか居ないのです。


その様に貴重な存在であるトライスターが自由に旅をするなど

私の住む国ではそこまでの潤沢な軍事力は持ち合わせておりませんし

その様に寛大かんだいな考えを持つこの国はやはり流石としか言えません!


っと……そう言えば主人公様の旅の目的は

“絵本の情報”だと言っていましたが……


……それは余程に重要な情報なのですか? 」


《――この衝撃的な発言にヴェルツに居る者達は固まった。


トライスターが数十名“も”居ると言うのだから……そして

それを“少ない”かの様に語ったのだから――》


………


……



「そ……そう言えばそんな事を言っていたねぇ

確か、主人公ちゃん自身にとって重要な事だって言ってたよ? 」


「そうでしたか……っと、食事が終わったと言うのに

長く居座ってはご迷惑になりますね!

ではまた……夕食時にお世話になりますっ! 」


《――ムスタファはそう言い残し嵐の様にヴェルツを去った。


そして……ムスタファの去った後

店内が客達の噂話で騒がしく成った事は言うまでも無いだろう。


ともあれ……この後、ムスタファの発注したゲーム制作にてんてこ舞いのドワーフ族達と

素材集めに奔走ほんそうするオーク族達で、政令国家はさなが

“ゲームバブル”とでも言わんばかりに、この後約一年以上に渡り活気づいたのは

また別のお話である。


そして……ムスタファが訪れてから数週間後、第一便ゲーム輸送の為

政令国家から大量の荷馬車が出発したのと同時に

オセロの権利を譲渡されていたミリアの手元には驚く程の金貨が舞い込んだ。


……このあまりにも尋常成らざる金額が

数週間毎にミリアの元へと振り込まれ続け

その都度、興奮気味のミリアが主人公に対し――


“主人公ちゃんも半分位受け取りな!”


――と、魔導通信越しに“恒例行事”のごとく口にし続けたのも

また、別のお話である――》


===第五十三話・終===

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