第四九話「楽には解決出来ない事柄」
深夜
樹木巨獣討伐の疲れを癒やす為眠りに就いて居た一行
一方、政令国家より北へと離れた謎の国では
「……グロリアーナ様、遠いですが
“妙な気”を感じ取りました……お気付きに成りましたか? 」
「ええ……これは間違い無く魔族の物。
恐らく、この場所が魔族に知られてしまったのでしょう
やはり“複製体番号九”……あの子のせいよ!!!
……せめて“魔剣”が完全体に仕上がる程魔族を吸収させて居たならば
寧ろこの状況は好機であったと言うのにッ!!!
全く……明らかに時期尚早ですわね」
「ええ、左様で……ですが他の複製体共も総動員させれば
或いは……ん?
……失礼“ネイト様”が来られます。
この話は後程……」
「ええ……」
魔王軍の気配を間近に捉え
警戒心を顕にして居たグロリアーナ
戦いの時は刻一刻と迫って居た。
◆◆◆
所は代わり、浴場騒ぎの翌日
引き続き森の奥深くを進み続け
地図上ならば丁度森の約半分を進んだ“筈”の一行。
……だが、オベリスクには“妙な障害”が発生して居た。
「どうした? 間違い無く私は直線に進んで居る筈
何故だオベリスクよ……何故……」
「どうした? ギュンター」
「ディーン様……原因は私めにも判りかねますが
方位計の針が定まらずひたすらに“回転”を続けて居るのです
無論、周囲には妙な気配なども感じられません……」
「何? ……オベリスクの方位計が狂った事など
今まで唯の一度も無かった筈……
……念の為、全員警戒体制を取れ」
「ええ、既に全砲門の準備も整っております
ですが、こう成ってしまいますと
目視と感覚だけが頼りで御座いますので
少々、この森を抜けるまでに時間を要するかと……」
直後
騒がしくなり始めた船内……だが
周囲に目立った異常もなければ、他は全て正常に稼働する中
“方位計”だけが異常を示して居るこの状況に
主人公は脳裏に浮かんだ“原因”を口にした。
「あの……それってこの森の“磁場”が可怪しいからでは? 」
「差し支えなければご教示を
“磁場”……とは何でございますか? 」
「えッ? ……い、いやあの
方位計が何故必ず“北を向く”のかはご存知ですか? 」
「いえ……ご教示願えますでしょうか? 」
「勿論です! ……けど
ギュンターさんがこれを知らないとは意外でした
ともあれ……俺自身もそんなに詳しい訳では無いので
ちょっと間違ってる所があるかも知れませんが
分かりやすく言えば、この世界は“球体”で
中心には核と呼ばれる場所があり
その働きのせいで“磁力”と呼ばれる力が発生して居るんです。
そして、方位計が感じ取る事の出来る“磁力”が
本来ならば“北を向く様に”発生しているんですが
恐らくこの森はその磁場が“滅茶苦茶”なんだと思います」
「成程……では、宛ら
“迷いの森”とでも名付けるべき場所ですな」
「ある意味そうですね……ですが
ギュンターさんの操舵技術を持ってすれば
絶対にこの森を脱出出来ると俺は信じています」
「ええ、ご期待にお答えするべく全力を以て……」
「……っと言って置きながらちょっと待ったぁぁッ!!
ギュンターさん! ……突然ですが、良い案を思いつきましたッ! 」
「え、ええ……どの様な案でございましょうか? 」
「その……ライラさんの協力が必要ですが
バードア……いや。
“龍之眼作戦”とでも名付けましょう! 」
「何……それ……ちょっとカッコいい……かも……」
作戦名を聞いたライラは少し喜び
興味津々な様子で主人公の方を見つめて居た。
「そ、その……喜んで貰えて良かったです!
……とは言え、ライラさんが巨龍を
“何の位の時間出現させられるか”を知らないので
正直、それ次第にはなりますが……兎も角。
先ず、ライラさんに上空から全体を確認して頂き
オベリスクが正しい方向へ進める様に指示出しをする。
次に、その情報を頼りに
ギュンターさんは逐次オベリスクの進路を修正する。
それを続けて森を抜ける……と言うのはどうでしょうか? 」
「名案だ、その作戦で行こう……ライラ、頼めるか? 」
「はいディーン様……ドラゴンと一緒に……頑張ります
でも、今の調子なら……一〇分が限界……です……」
申し訳無さげにそう言ったライラさん。
この後“一〇分”と言う制限時間に何とか間に合わせる為
更に案を考えた俺は
「……大丈夫、間に合わせます!
もう一つ案を追加します……俺達は
地図に記載された“橋”に向かいたいのですが
距離は相当なものだと思われます。
なので、時間内に間に合わせる為にも
ライラさんが通った道順上、つまり“橋までの道筋”に
何か目印に成る物を、地面に向かって一定間隔で投げ
ギュンターさんはそれを目印に進めば良いかと! 」
と、提案した
この方法なら巨龍の限界速度で橋まで飛翔し
余裕を持ってオベリスクに帰還する事が出来ると思えたから。
だが、この案に対しギュンターさんは
「成程……しかし、ある程度私の目印に成る様な物を
その様に大量に……となりますと
ライラ様お一人では少々大変かと思います。
ですので……出来ましたら主人公様も
ライラ様と共に巨龍の背に乗って頂き
上空より魔導で目印に成る様な何かを作り出し
一定間隔で森へと打ち込んで頂ければ
それを目印に出来るのでは……と考えますが、如何でしょうか? 」
「成程! 名案ですギュンターさん! ……って、ちょっと待った
俺、地味に“高所恐怖症”なんですけど……」
良案だと感じたと同時に
絶望をも感じる事と成った俺に対し
直後、マリアは
「……ほうほう? これはこれは
主人公さんの“絹を裂く様な悲鳴”が聞けそうな作戦ですね! 」
「な゛ッ?! ……マリアお前
言っとくけどマジで怖いんだからな?! 」
と、半ギレして居た俺に対し
直後、マリーンまでもが
「そもそも、この作戦の発案者は主人公なんだし
昨日、私達の裸見たんだから……そ、その位頑張ってよね!! 」
「う゛ッ……マリーンまで痛い所を
ってか!! 俺が入ってる事に気が付かなかったのはそっちだろッ?!
しかも裸なんて全然見えなかったしッ!
単純に俺は“殴られ損”だッ!! 」
「あら……どうかと思う発言ね? 私達三人はまだしも
ライラさんとタニアさんは仮にもディーン隊の人達よ?
貴方が隊長であるディーンさんと仲が良いから言えないだけで
本当は二人共……」
「なッ?! ……分かった、やるよ……やれば良いんだろッ?!
くそぉッ!! ……そ、その……ライラさん。
巨龍って“大人しく”飛んでくれたりします……かね? 」
この瞬間、半ば諦めた様にそう訊ねた俺
だが、直後返って来た答えは
「うん……大人しく飛んで……間に合うなら……
そうする様に……努力すると……思う……多分……」
「ちょぉッ!? ライラさん今、特大の“死亡フラグ”立てましたね?
でも仕方無いか……俺が言い出しっぺですし……はぁ~ッ。
やりますよ、やればいいんでしょ……ううぅッ……」
「気張るのだぞ……主人公」
「あ、ああ……頑張ってくるよガルド
けど……皆、俺に幻滅しないでね? 」
「それは“悲鳴の程度”にもよりますよね? 」
「マリア、お前……無事に帰って来たら絶対に揉んでやる」
「キャー見るだけでは飽き足らず
実際に触ろうとするなんてヘンタイだー」
「う、煩いッ!! ……とッ、兎に角!!
ライラさん、さっさと行きましょうッ! ……」
言うや否や
強引にライラの手を引き早足にオベリスクを下船した主人公。
ともあれ……緋色の巨龍を前に及び腰と成って居た主人公は
顔面蒼白に成りながらも巨龍の背に乗った。
……直後、空高く飛翔した巨龍
例に依って“絹を裂く様な主人公の悲鳴”が
辺り一面に響き渡る事と成った。
◆◆◆
「いッ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁッ?!
たかぁぁぁぁぁぁぁぁッ?!! ……怖い怖い怖い怖いッ!! 」
「主人公さん……落ち着いて……大丈夫……だから
ドラゴンも煩いって……言ってる……から……」
「でも高いの怖いのぉッ……
ごめんなさいッごめんなさいッごめんなさいッ……」
「駄目……主人公さんが……変になった
頑張って……そろそろ何か……目印……打ち出して……」
「うぅッ……わ、分かりました……土の魔導:石柱ッ!
石柱! ……石柱ッ! ……って危なぁッ!?
い、今落ち掛けた……怖いぃッ!!
……石柱!
ひぃッ?! ……突風がぁッ!?
イヤァァァァァァァァッ!? 石柱ぅぅぅぅぅッッッ!! 」
……この後
危な気“しか無く”
“龍之眼作戦”を遂行し続けた主人公。
一方のライラは主人公の滑稽な姿を間近で感じ
ほんの少しだけ微笑んで居た。
「石柱ぅぅぅ~~~っ……も、もうらめぇ……ッ……」
◆◆◆
「こ、怖かった……ハァハァ……
本当に怖かったよぉッ……二度と嫌だ
空怖い空怖い空怖い空怖い空怖い……」
どれ程の時が流れたのだろうか?
気が付くと俺は、地上に立って居た。
「主人公さんっ! 大丈夫ですからっ!
今はもう地上ですからっ! ほらっ!
お空はあ~んなに上にありますからっ!! 」
「ありがとうメル……でも、これで一安心かな?
ってか、情けない姿過ぎて恥ずかしいし……俺
もっと強い男に成れる様に努力するよ」
「ほう……肝が据わった主人公か
それはそれで見てみたいものだが
個人的に私は今の主人公が好みだ……見て居て“安らぐ”物がある」
「な゛ッ?! ……ディーンって変な所“ドS”だよね!? 」
「主人公よ……恐怖に打ち勝つと言うのは並大抵では無い
良くぞ達成した物だ……流石、吾輩の認めた漢よ」
「……ガルドは本当に優しいな
こんな俺の事をいつもフォローしてくれてありがとな! 」
と感謝を伝えた俺
だが、この直後ガルドは妙に“モジモジ”とし始め
「い、いや……吾輩も……実は、高い場所が苦手でな……」
「なッ……ガ、ガルドに怖い物があったとは
でも……仲間だな! ガルドッ! 」
「う、うむッ!! 」
直後
固い握手を交わした俺達……そしてこの瞬間
俺達の固い絆を更に強固にする
“高所恐怖症同盟”が誕生したのだった!
っとまぁ……ともあれ。
暫くの後、決死の思いで打ち込んだ“石柱”を頼りに
漸く橋の近くへと辿り着いた俺達。
◆◆◆
「橋が見えて参りました……しかし、立派で御座いますな」
オベリスク前方には
“大橋”と呼ぶのに相応しい程の
立派な石造りの橋が掛かって居た
そして、この直後――
“オベリスクの渡れる強度がある”
――と判断したギュンターさんは
慎重にオベリスクの舵を取り始め
「……この橋を渡りきった後もまだ少し森が続く様だが
地図を見る限りでは然程広くも無い。
その上、森を抜ければ国がある……巨龍の餌や
その他の補給を考えれば“助かった”と言う他無いだろう」
「そうだなディーン……俺も“怖い思い”をした甲斐があったよ
しかし……橋って石造りでも揺れる物なんだな
実は俺、これも“苦手”なんだよなぁ……」
などと話して居る間に
橋の中心までたどり着いたオベリスク
頑丈な橋はオベリスクの重量を物ともせず
一切危なげ無い様子だった……だが。
この直後、背後から
急速で接近する巨大な魔物が現れた瞬間。
事態は“一変”した。
「ば、馬鹿な?! ……“二体目”だと?! 」
オベリスクの後方、橋の袂には
先程の樹木巨獣などとは比べ物に成らない程の
“超巨大個体”が立って居た……そしてこの直後
此奴は俺達に向け
“人の言葉を話し始めた”
◆◆◆
「オマエタチ……ヨクモ……ワガ……シュゾクヲ……
ユルサナイ……ユルサナイッッッ!!! ――」
◆◆◆
言うや否や、怒り狂い
先の樹木巨獣など
まるで比較に成らない程の一撃を放った“超巨大個体”
「ぐっ! 間に合わないっ!!! 」
瞬間、オウルさんの声が聞こえた
そして……“硬い物を粉砕する様な”音も。
……何だ?
空が遠ざかって行く……マリア?
……メル? ……マリーン?
あれは……オベリスクの……主砲ッ!?
これ……は……一体……
俺達は
一体……
◆◆◆
「……おかしいねぇ?
いつもなら主人公ちゃんが連絡くれる頃なんだが……」
「主人公っちの事だから
また忘れてるとかじゃないのぉ~っ? ミリア」
「それなら良いんだがねぇ……」
◆◆◆
所は変わり、深夜
月明かりに照らされた幾万の軍勢
「魔王様、到着でございます」
魔王軍第一大隊
大隊長マインは膝をつき、静かにそう伝えた。
直後
「全軍を持って“小僧”を捕らえよ……良いな? 」
地を這う様な魔王の号令に
陸海空、全てを覆い尽くすかの如く
一斉に進軍を開始した魔王の軍勢……草木を薙ぎ倒し
周囲を焼き払いながら……たった一人の“子供”を探す為
全てを滅しながら進軍を続けて居た。
だが
「――食らうが良いッ!
龍之火炎息ッ! ――」
瞬間
何処からとも無く放たれた炎の渦は魔王へと一直線に飛来
その玉座ごと魔王を焼き払わんとした、だが
「なッ?! ……ま、魔王様っ?! 」
「フッ……この程度の児戯など他愛も無いわ。
だが……我に対する無礼な行い
償わせねば成らぬであろう――」
火炎に包まれたまま
眉一つ動かさずそう言った魔王は
「――掌握せよ。
“暴食者之掌握” 」
この瞬間、そう静かに発し――
「ウグッ!? ……さ、流石は魔王……ッ……
良くぞ私を見つけ出した……ぐぅっ!
だが、貴様など直ぐに……様が……滅ぼし……」
――遠くに見える山の頂きに現れた
禍々しく蠢く巨大な“掌”は
魔王の“掌”と寸分|違わぬ動きで
一人の魔導師を磔にして居た。
今にも握り潰されんとする最中
藻掻き苦しみながらも
魔導師は魔王にそう嘯いて居た。
彼の名は“ゲール”
「フッ……貴様が何者であれ
我に対する非礼は万死に値する……だが
その前に……話して貰おう……」
「グッ!! ……たとえ拷問されたとて……吐かんぞ?
魔王よ……グロリアーナ様とネイト様ならば
お前達魔族など直ぐにでも滅ぼし……
……その悲願を成就される事だろうッ!! 」
「フッ……愚鈍な考えを持つ者よ。
……貴様がどう足掻いた所で
我が“暴食者之掌握”からは逃れられぬ……
……其奴らの居場所を“謂え”」
「馬鹿め! 吐かぬと言って居……
……あ゛あ゛あ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッッ!!!!! 」
瞬間
ゲールを貫いた無数の小さな棘……
……その棘は彼の精神を蝕み
彼を絶望が如き痛みで苦しめ続けた
「……二度は謂わぬ」
「あ゛ぁぁぁぁぁぁ!!! ……い……言わ……ん……お前……達……
魔族を滅ぼす……た……め……うぐッ?!
あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁッッ!! ……」
「フッ……忠誠心の高さは褒めてやろう。
だが、不愉快だ……もう良い。
喰らい尽くせ。
“暴食者之掌握”よ」
直後
生々しい音を立て、ゲールを喰らい始めた
“暴食者之掌握”……暫らくの後
“ゲール”は血の一滴すら残されぬ程に喰らい尽くされた。
◆◆◆
「マインよ……“小僧”を見つけ出せ
そして……“奴”にも探らせよ」
「ハッ! ご命令のままにッ!
おい! 魔導師ライドウ! ……魔王様がお呼びだッ! 」
大隊長マインがそう呼び掛けた直後
何処からとも無く現れた一人の魔導師
“ライドウ”
……銀の髪を垂らし、片目に眼帯をしたこの男は
現れるや否や
「おや、これはいけない……マイン様、少し此方に
完全回復……治りましてございます」
即座に回復魔導を放ち
魔王に対し頭を垂れながら
「流石は魔王様で御座います……
……先程の攻撃で無傷とは、感服致します」
そう、賛辞を送った。
だが
「世辞が為、貴様を呼び付けた訳では無い……急ぐが良い」
「これは……大変失礼を致しました
では、お望みの儘に……探索魔導:活動的走査
……ふむ、小僧らは間違い無くこの国に
更に追跡を続けさせて頂きます。
成程、あの辺りに……ん?
防衛の魔導:鉄壁!! ――」
瞬間、何かを察知し
魔王軍全てを包む巨大な魔導障壁を即座に展開したライドウ
……これに遅れる事、一瞬
彼らの元へと振り注いだ大量の“剣気”は
彼の展開した魔導障壁に依りその全てが防がれ――
「――鬱陶しい蠅め。
此方は貴方達が何処に居るのか
確りと見えて居るのですよ? ……まぁ良い
“隠れ場所”を失えばどうなるか……焼き払ってあげましょう。
……暴虐の炎よ
全てを焼き払い、全てを滅するのだッ!
“大虐殺之獄炎”――」
直後
ライドウに依って上空へと発せられた赤黒い炎
それは渦となり
剣気の放たれたその場所を焼き払わんと飛翔し……
……遠方に連なる山々を平地へと変えた。
だが……黒煙の上がるその場所からは、悲鳴では無く
冷めた女の声と、興奮した“子供の声”が轟いて居た。
「……魔族以外に魔導師まで居るとは想定外よ
その上“トライスター”だなんて……本当に最悪だわ」
「凄い凄い凄いッ! ……ママ凄いや! 凄い火だったのに全部消したね?!
ゲールはかなり役たたずだったけど……やっぱりママは強いんだ!
けど……まだ魔族が沢山居るよ?
僕が! 僕が! 僕がッ! ……倒して良いんだよね?! 」
「ええ……全てを葬り去るのよ。
いい子ねネイト……沢山魔族を倒す事の出来るネイトなら
ママは大好きよ? ……だから、ちゃんと全部。
……倒すのよ? 」
「やったぁぁぁっ! ……頑張る!!!
僕頑張るから!!! ママの一番は……僕の物だよっ!! 」
直後嬉嬉として“魔剣”を構えたネイトは
「僕はママの一番……だから僕は
この武器にお前達を食べさせるんだ。
……どんどん食べさせたいからじっとしててね?
ねぇ? ねぇ? ねぇッ?!! 」
魔王に対しそう強く嘯いたネイト、だが。
「フッ……斯様な小僧一人が為
我が配下の多くが没したと謂うか……全く
腸の煮えくり返る……小僧よ
貴様に詫びが為の刻を与えよう……」
「へっ? ……何言ってるの?
お前も僕の武器に食べられるんだよ?
……準備は良い?
行くよ?! 行くよ!? 行くよぉッ??! ――」
瞬間
魔王の眼前から消えたネイト
彼は、周囲の魔族を魔剣へと喰わせながら
着実に魔王との距離を詰めて居た。
「フッ……小僧らしい単調な動きよ。
“呪殺之柩”――」
直後、ネイトに向け
凄まじい速度で迫った禍禍しき“柩”
だが、これを軽々と避け
「遅い! 遅い! 遅ぉ~いッ!! 」
言うや否や、彼は魔王の喉元目掛け
一直線に突進をした、だが。
「フッ……愚かな……」
そう発し手を振り下ろした魔王
瞬間、彼は魔剣|毎遥か遠くの大木へと叩き付けられ
そのまま意識を失った……一方、これに慌て
懐から何かを取り出した“グロリアーナ”は――
「牢獄開放ッ! 」
――そう叫んだ。
直後、彼女を囲う様に現れた八つの檻
其処には彼と瓜二つの“複製体”の姿が在った。
だが、どの複製体も生気と呼ぶべき物は無く
その目は一様に虚空を見つめて居た。
「制限解除……全ての魔族を討伐しなさい、私の息子達ッ!!! 」
直後、そう命じたグロリアーナ……この命令に
“複製体”達は静かに頷き、行動を開始した……だが。
魔王は唯、一言
「くだらぬ……ライドウ、貴様に任せよう」
そう言うと、玉座へと深く腰掛け、目を瞑った。
「ええ……お任せを、魔王様……」
直後、魔王に対し一礼したライドウ
この瞬間、彼の目に映る魔王の姿は
宛ら“何かを待って居る”様な姿であった。
◆◆◆
「う……ううっ……ぐっ?! ……お前っ!!!
お前お前お前ェッ!!! ……」
一方、暫くの後目を覚まし
そう声を上げた複製体番号九:“ネイト”
その瞬間、目を開き彼に対し睨みを効かせた“魔王”
「フッ……寝覚めはどうだ? “小僧” 」
常人には直視する事すら恐ろしい魔王の視線
だが、この直後……彼に取って遥かに恐ろしい事実は
魔王から齎された恐怖では無かった。
彼に突きつけられた“八体の存在”……そう、彼は知らなかった。
……一心不乱に戦う八体の自ら
指が千切れ……腕が千切れようと毛程も気に掛けず
唯、魔族を滅する事だけを命じられ戦い続ける
純粋な“武器”としての“自ら”と同様の存在を。
「ね……ねぇママ……どう言う事?
ね、ねぇ……ねぇ、ねぇッ!!
ママッ!!! ……」
「ネイト……貴方は何も考えなくて良いの
武器に魔族を食べさせる事……今は、それだけを考えなさい。
……良いわね? 」
「でも……おかしいよママッ!!
僕が一番だって……僕だけを愛してるって!
……ねぇママ! ……あれは一体何なの?!
何で“僕”が沢山居るの!?
ママ……
ママ……
ママッ!!! ……」
彼の涙ながらの訴えに対し
暫くの間、無言を貫いた後
観念した様に“真実”を語り始めたグロリアーナ
「ネイト……貴方は……貴方は、私の最愛の息子。
その……“複製体” なのよ
其処で戦って居る複製体達もそう。
私は、本当の意味での貴方のママでは無いわ? ……でも
貴方が、この中で一番強い事だけは揺るがない真実……
……今もまだ、貴方が私を愛してると言うのなら
夫を食い殺し……息子をあんな姿にした魔族達を
その根源である魔王を……何をしてでも倒しなさいっ!!!
……良いわね!!? 」
“愛など初めから無い”
そう言ったに等しい態度を貫いた彼女。
その様を……唯
愕然とした様子で見つめるしか出来なかったネイト
……幾許かの時が流れ
彼は、一筋の涙を流し
◆◆◆
「……分かったよママ、僕に任せて。
駄目だったらごめんね……怒らないでね。
でも……多分、今の僕じゃ勝てないと思うから……そしたら
どうか、逃げてねママ……僕はどんなママでも……
……僕は……僕は……僕はッ!!!
ママが……大好きだから……」
言うや否や
彼は自らの身体に向け“魔剣”を突き刺した。
「ぐぅっ……か……はぁっ……はぁはぁはぁっ……グゥゥゥゥゥッ!!! 」
直後、激しく蠢き、彼の身体に深く潜り込み
完全に彼の身体へ飲み込まれて行った魔剣
……直後、彼の皮膚は赤黒く変色し
悍ましい“異形の姿”へと変化した。
「ママ……逃ゲテ……マゾク……ゼンブ……ゼンブゼンブゥ!!!
……食ベルカ゛ラ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アァァァァッ!!! 」
瞬間“其れ”は魔王の視界から消え
魔族数百体を一瞬にして“消滅”させた
「何もかも……全てが不愉快な小僧よ……」
魔族の肉片を両手に掴み
貪り喰らう“其れ”に対し
嫌悪の視線を差し向けつつそう言った魔王……一方。
「では、魔王様……私にお任せ頂くと言うのはどうでしょう? 」
「好きにするが良い……我は興が削がれた」
◆◆◆
そう言うと
再び玉座に深く座り目を瞑った魔王……一方
不敵な笑みを浮かべ、深く息を吸ったライドウは
「仰せのままに……さて、直ぐに終わらせてあげましょう
固有魔導:“時之狭間”――」
そう唱えた瞬間
ネイトだった“其れ”とグロリアーナは完全に“停止”した。
「いやはや……“時之狭間”を使うのは久し振りですが
やはり愉快な時間ですねぇ? ……さて、どう苦しめるか?
あぁ、思い付きました……先ずは“母親”から……ふふふっ」
言うや否や
“母親”を捕縛したライドウ……そして
周囲に居た数体の魔族に対し
“彼女を喰らう様”指示を出し
そして……彼女の時間を正常に
“戻した”
◆◆◆
「なっ?! 何が起き……は、離しなさいっ! 下等な魔族共!
やめっ……やっ……」
乾いた空気に響く切断音と悲鳴
魔族に依って切り裂かれたグロリアーナは
この直後、多数の魔族達に――
“分け与えられた”
――まるでお菓子を頬張る子供達の様に
彼女の肉片を頬張ると嬉しそうに雄叫びを上げた魔族達
そして……その様子を確認するや否や
ネイトだった“其れ”に見せつけるが為だけに
ライドウは“其れ”の時間をも、正常に戻した。
「グゥアァァァ……ウグッ?
……マ……マ?
ア゛……ア゛ガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァァァァッ!!! 」
激しく咆吼を挙げた“其れ”は
グロリアーナの肉を喰らう魔族達を瞬殺し
そして、ライドウに依る捕縛の魔導でその動きを封じられた。
だが
「ガアァァァァ……ハナゼ……コ゛ノ゛ヤ゛ロ゛ウ゛!!!
オマエ……コ゛ロ゛ス゛ウ゛ゥゥゥ……ガァァァァァァァァッ!!!! 」
瞬間、捕縛を打ち破り
一層凶悪な姿へと変化した“其れ”は
唸り声を挙げるや否や
再び、周囲の魔族を“消滅”させた。
「……何と、面白いですねぇ?
ですが……流石にやりすぎですッ!! 」
直後、再び“時之狭間”を起動し
“其れ”の時間を止めたライドウ……だが、僅かに
其れは“動いて”居た。
「喰ウ……喰ワセロ……ガァァァァァァァァ!!! 」
直後、再び“其れ”は唸り声を上げた。
……その声は木々を激しく揺らし
地を割り……そして、ほんの一瞬ライドウの集中を途切れさせた。
瞬間
「ウガアァッ!!! ……ギャァァァァァウッ!!!!! 」
「フッ……ライドウの術から逃れるだけに飽き足らず
我の術に在りて斯様に藻掻くとは……
……我が呼ぶのも可笑しな話では在ろうが。
この……“化け物”が」
自らへと斬り掛かった“其れ”に対し
そう、侮蔑とも称賛とも取れぬ様子で言った魔王に対し
“其れ”は応えるでも無く、藻掻き続け
「ママヲ……返セ……ママヲ……ウガァァァァッ!! 」
「“化け物”よ……答えよ
何故、我が眷族を狙った? 」
……この瞬間
更に強く“其れ”を捕縛し静かにそう問うた魔王
「ママガ望ンダ! ……ボクヲ……大好キダッテ!
ボクノコト……ママハ期待シテタ! ……ナノニッ!!! 」
「フッ……あの様な母が恋しいとは。
我には到底理解出来ぬ……あの女に取って貴様など
手駒と呼ぶ事さえ烏滸がましい……」
「ソレデモッ!!! ……ボクハ、ママガ大好キ……ダッタ
生キテ居テ……欲シカッタ……ナノニッ!!! 」
「フッ……“子”の心“親”知らずと言った所か
全く、興の削がれる事だ……
……全てが癇に障る不愉快な小僧よ
安らかに眠り、我の糧と成るが良い――」
「オマエ……絶対ニ……許サナイ……
……ガアアアアアァァァッ!!! 」
(ママ……大好き……だ……よ……)
“其れ”……“彼”は、消えゆく最後の瞬間まで
自らの母に対し、真っ直ぐで歪んだ愛を貫き
その、短過ぎる生涯を閉じた。
◆◆◆
「……全く
腸の煮えくり返る……不愉快なッ!! 」
瞬間珍しく感情を顕にした魔王の姿に
配下の魔族達は皆|怯え切って居た。
だが、そんな中
「……魔王様、至らぬ限りで申し訳有りません
しかし、まさかあの化け物が
あの様な“抵抗力”を持って居ようとは……」
「謝罪など不要……ライドウよ、我は城へと帰還する
我が配下の帰還は貴様に任せよう……良いな? 」
「ハッ……御任せを」
◆◆◆
同時刻 “迷いの森”
“超巨大個体”は崩落した橋の前で立ち止まったまま
怨み深い視線を崖の下へと注いで居た。
視線の先……崩落した橋の下には
叩き伏せられ、原型を留めぬ程に大破した
オベリスクの“残骸”が散らばって居た。
===第四九話・終===




