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異世界転生って楽勝だと思ってました。  作者: 藤次郎
第二章

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第四十九話「楽には解決出来ない事柄……」

《――深夜

樹木巨獣ギガトレント討伐の疲れを癒やす為、眠りに就いて居た一行。


その一方で、政令国家より北へと離れた謎の国では――》


………


……



「……グロリアーナ様。


遠いですが“妙な気”を感じ取りました……お気づきに成りましたか? 」


「……ええ、魔族の物に違い有りません。


恐らくはこの場所が魔族に知られてしまったのでしょう

やはり“複製体番号九レプリカナイン”……ネイトの所為で!!!


せめて“魔剣”が完全体に仕上がる程に魔族を吸収させて居たならば

むしろこの状況は好機であったと言うのにッ!!!


全く……明らかに時期尚早ですわね」


「……左様ですな、ですが他の複製体レプリカ共も総動員させれば

あるいは……ん?

……失礼、ネイト様が来られます。


この話は後程……」


「ええ……」


《――魔王軍の気配を間近にとら

警戒心をあらわにして居たグロリアーナ》


………


……



《――翌日

引き続き森の奥深くを進み続け

地図上ならば丁度森の約半分を進んだ“筈”の一行。


だが、オベリスクには“妙な障害”が発生して居た――》


………


……



「間違い無く私は直線に進んでいる筈……何故だオベリスクよ」


「ん? ……どうしたギュンター」


「ディーン様……原因は私めにも判りかねますが

方位計の針がさだまらず、ひたすらに“回転”を続けているのです。


無論、周囲から妙な気配なども感じられませんし……」


「何? ……オベリスクの方位計が狂った事など

今までただの一度も無かった筈……念の為、全員警戒体制を取れ」


「……既に全砲門の準備も整っております。


ですが、こう成ってしまいますと目視と感覚だけが頼りで御座いますので

少々この森を抜けるまでに時間を要するかと……」


<――直後、騒がしくなり始めた船内


……だが、周囲に目立った異常もなければ

他は全て正常に稼働する中、方位計だけが異常を示して居るこの状況。


直後、俺の脳裏に浮かんだ“原因”


それは――>


………


……



「あの……それってこの森の“磁場”が可怪おかしいからでは? 」


「……差し支えなければご教示きょうじ

“磁場”……とは何でございますか? 」


「えっ? ……いやあの

方位計が何故必ず“北を向く”のかはご存知ですか? 」


「いえ……ご教示きょうじ願えますでしょうか? 」


「勿論です……が、ギュンターさんがこれを知らないとは意外でした。


……ともあれ、俺自身もそんなに詳しい訳では無いので

ちょっと間違ってる所があるかもしれませんけど……


……分かりやすく言えば、この世界は球体で

中心には核が有り……その働きの所為で

“磁力”と呼ばれる力が発生して居るんです……そして

方位計が感じ取る事の出来る“磁力”が

本来ならば“北を向く様に”発生しているんですが

恐らくこの森はその磁場が“滅茶苦茶”なんだと思います」


「成程、ではさながら……“迷いの森”とでも名付けるべき場所ですな」


「ある意味そうですね……ですが、ギュンターさんの操舵そうだ技術を持ってすれば

絶対にこの森を脱出出来ると俺は信じています」


「ええ、ご期待にお答えするべく全力を持って……」


「……っと言って置きながらちょっと待ったぁぁッ!!

ギュンターさん! ……突然ですがいい案を思いつきましたッ! 」


「え、ええ……どの様な案でございますか? 」


「その……ライラさんの協力が必要ですが

バード、いや……“ドラゴンアイ作戦”とでも名付けましょう! 」


「何……それ……ちょっとカッコいい……かも……」


《――作戦名を聞いたライラは少し喜び

興味津々な様子で主人公の方を見つめて居た――》


「そ、その……喜んで貰えて良かったです!


……とは言え、ライラさんがドラゴンを

の位の時間出現させられるか”を知らないので

正直それ次第にはなりますが……兎も角。


ず、ライラさんに上空から全体を確認して頂き

オベリスクが正しい方向へ進める様に指示出しをする。


次にその情報を頼りに

ギュンターさんは逐次ちくじオベリスクの進路を修正する。


それを続けて森を抜ける……と言うのはどうでしょうか? 」


「名案だ、その作戦で行こう……ライラ、頼めるか? 」


「はいディーン様……ドラゴンと一緒に……頑張ります。


……でも。


一〇分が限界……です……」


<――申し訳無さげにそう言ったライラさん。


この後“一〇分”と言う制限時間に何とか間に合わせる為

更に案を考えた俺は――>


………


……



「……大丈夫、間に合わせます!


……もう一つ案を追加しますが、地図で確認する限りだと

此処に橋がありますので此処へ向かえればそれで良い訳です。


なので……ライラさんは空から此処までの道筋に

何か目印に成る物を地面に向かって一定間隔で投げ

ギュンターさんはそれを目印に進めば同じ事かと! 」


「成程……しかし、ある程度目印に成る様な物を

その様に大量にとなりますとライラ様の荷が重い様に感じます。


ですので……主人公様、ライラ様と共にドラゴンの背に乗って頂き

上空より魔導で目印に成る様な何かを作り出し

一定間隔で森へと打ち込んで頂ければ

それを目印に出来るのではと考えますが……如何いかがでしょうか? 」


「成程! ……名案ですギュンターさん!


って……ちょっと待った。


俺、地味に“高所恐怖症”なんですけど……」


「ほうほう……これは

主人公さんの“絹を裂く様な悲鳴”が聞けそうな作戦ですね! 」


「マリアお前……マジで怖いんだからな?! 」


「そもそもこの作戦の発案者は主人公なんだし

そもそも昨日、私達の裸見たんだから……その位頑張ってよね!! 」


「う゛っ、マリーンまで痛い所を……ってか!!

俺が入ってる事に気が付かなかったのはそっちだろッ?!

しかも裸なんて全然見えなかったしッ!


……単純に俺は殴られ損だッ!! 」


「あら……どうかと思う発言ね? 」


「なっ?! ……分かった、やるよ。


……やれば良いんだろッ?!


くそぉっ……そ、その……ライラさん。


ドラゴンって“大人しく”飛んでくれますかね? ……」


<――なかば諦めた様にそうたずねた俺。


だが、直後帰って来た答えは――>


「……うん。


大人しく飛んで……間に合うなら……そうする様に……努力する……」


「ちょぉッ!? ……ライラさん今、特大の“死亡フラグ”立てましたね?

でも……仕方無いか。


俺が言い出しっぺですし……やりますよ……ううぅ……」


「気張るのだぞ……主人公」


「あ、ああ……頑張ってくるよガルド。


けど……皆、俺に幻滅げんめつしないでね? 」


「……悲鳴の度合いにもよりますよね? 」


「マリアお前……無事に帰って来たら絶対に揉んでやるからな? 」


「キャー見るだけでは飽き足らず実際に触ろうとするなんてヘンタイだー」


「う、うるさいっ!! ……とっ、兎に角!!

ライラさん、さっさと行きましょうッ! ……」


《――言うや否や

強引にライラの手を引き早足にオベリスクを下船した主人公。


ともあれ……ライラのドラゴンを前に及び腰の主人公は

顔面蒼白がんめんそうはくに成りながらもドラゴンの背に乗った。


直後――


“嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁっ?! ……高ぁぁぁぁぁっ!? ”


――空高く飛翔したドラゴン

例にって

“絹を裂く様な主人公の悲鳴”があたり一面に響き渡り――》


………


……



「主人公さん……落ち着いて……大丈夫……だから。


ドラゴンもうるさいって……言ってる……から……」


「こ、怖いっ、高い……ごめんなさいごめんなさい……」


「駄目……主人公さんが……変になった。


頑張って……そろそろ何か……目印……打ち出して……」


「うぅっ……わ、分かりました……


土の魔導、石柱ッ! ……石柱!


石柱ッ! ……って危なっ!?


い、今落ち掛けた……怖えぇ!! ……石柱!


突風がぁっ!? イヤァァァァァァァァァァッ?!?


石柱ぅぅぅぅぅッッッ!! ――」


………


……



《――この後、あぶ“しか無く”

ドラゴンアイ作戦を遂行し続けた主人公……その一方で


ライラは主人公かれ滑稽こっけいな姿を間近で感じ

ほんの少しだけ微笑んで居たのだった――》


「……石柱ぅぅぅぅ~~~っ……も、もうだめぇ……」


………


……



「こ……怖かった……ハァハァ……本当に怖かった。


二度と嫌だ、空怖い空怖い空怖い空怖い空怖い……」


「主人公さんっ! 大丈夫ですからっ! ……今はもう地上ですからっ!! 」


「あ、ありがとうメル……で、でも……これで一安心かな?

ってか情けない姿過ぎて恥ずかしいし……


……俺、もっと強い男に成れる様に努力するよ」


「ほう……今よりも肝が据わった主人公か

それはそれで見てみたいものだが、個人的には今の主人公が好みだ。


その……見ていて“安らぐ”物がある」


「な゛っ?! ……ディーンって変な所ドSだよね!? 」


「主人公よ……恐怖に打ち勝つと言うのは並大抵では無い。


良くぞ達成した物だ……流石は吾輩の認めたおとこよ……」


「……ガルドは本当に優しいな。


こんな俺の事をいつもフォローしてくれてありがとな! 」


<――と感謝を伝えた俺

しかしガルドは妙に“モジモジ”とし始め


そして――>


………


……



「い、いや……吾輩も……実は、高い場所が苦手でな……」


「なっ?! ガルドに怖い物があるとは……でも、仲間だなガルド! 」


「う……うむ!! 」


<――直後

固い握手を交わした俺達……そしてこの瞬間

俺達の固い絆を更に強固にする“高所恐怖症同盟”が誕生したのだ!


っとまぁ……ともあれ。


……決死の思いで打ち込んだ石柱を頼りに

ようやく橋の近くへとたどり着いたオベリスク――>


………


……



ようやく橋が見えて参りました……しかし、立派で御座いますな」


<――オベリスク前方には

“大橋”と呼ぶのに相応しい程の立派な石造りの橋が掛かって居た。


……この後

“オベリスクが渡れる強度が有る”と判断したギュンターさんは

慎重にオベリスクのかじを取り始め――>


………


……



「……この橋を渡りきった後も森が続く様だが

地図を見る限りでは然程さほど広くも無い。


……その上、森を抜ければ国がある。


ドラゴンの餌や、その他各種補給を考えれば

“助かった”と言う他あるまい」


「そうだなディーン……“怖い思い”をした甲斐があったよ。


しかし……橋って石造りでも揺れる物なんだな。


実は俺、これも苦手なんだよなぁ……」


<――などと話している間に橋の中心までたどり着いたオベリスク。


頑丈な橋はオベリスクの重量を物ともせず

危なげも無い様子だった……だが。


背後から急速で接近する巨大な魔物が現れた瞬間

事態は“一変”した――>


………


……



「ば、馬鹿な?! ……二体目の樹木巨獣ギガトレント?! 」


<――オベリスクの後方、橋のたもとには

先程の樹木巨獣ギガトレントなど比べ物に成らない程の“超巨大個体”が立って居た。


そして……此奴は俺達に向け


“人の言葉を話し始めた”――>


………


……



「……オマエタチ……ヨクモ……ワガ……シュゾクヲ……


ユルサナイ……


ユルサナイッッッ!!! ――」


<――言うや否や

怒り狂い、先の樹木巨獣ギガトレントなどまるで比較に成らない程の一撃を放った


“超巨大個体”――>


………


……



「ぐっ!! ……間に合わないっ!! 」


<――瞬間


オウルさんの声が聞こえた……それと“硬い物を粉砕する様な”音も。


……何だ?


空が遠ざかって行く……


……マリア? ……メル? ……マリーン?


あれは……オベリスクの……主砲ッ!?


これ……は……一体……俺達は……


一体――>


………


……



「……おかしいねぇ。


いつもなら主人公ちゃんが連絡くれる頃なんだが……」


「主人公っちの事だからまた忘れてるとかじゃないのぉ~? 」


「それなら良いんだがねぇ……」


………


……



《――深夜

月明かりに照らされた幾万の軍勢――


“……魔王様、到着でございます”


魔王軍第一大隊・大隊長マインは静かにそう伝えた――


“全軍を持って“小僧”を捕らえよ……良いな? ”


――直後


地をう様な魔王の号令に

陸海空全てを覆い尽くすかのごとく一斉に進軍を開始した魔王の軍勢


……草木をなぎ倒し、周囲を焼き払いながら


たった一人の“子供”を探す為

全てをめっしながら進軍を続けていた……


だが――》


………


……



「――食らうが良いッ!


龍之炎息ドラゴンブレスッ! ――」


《――瞬間

何処からとも無く放たれた炎の渦は魔王へと一直線に飛来し

その玉座ごと魔王を焼き払わんとした。


だが――》


「……グウッ?!

ま、魔王様ッ……ご無事でございますかッ?! ……」


「フッ……この程度の児戯じぎなど他愛たあいも無いわ。


だが……我と

我が配下に対する無礼な行いはつぐなわせねば成らぬであろう……」


《――火炎に包まれたまま

眉一つ動かさずそう言った魔王は


直後――


掌握しょうあくせよ、暴食之掌握グラトニーグラブ


――そう


静かに唱えた


瞬間――》


………


……



「……ウグッ!?

さ、流石は魔王……良くぞ私を見つけ出し……グアァッッ! 」


《――遠くに見える山のいただきに現れた禍々しくうごめく巨大な“てのひら”は――


――魔王の“それ”と寸分たがわぬ動きで一人の魔導師をはりつけにしていた。


一方……今にも握り潰されそうなその締め付けに藻掻もがき苦しみながらも

なおも魔導師は魔王にそううそぶいて見せた。


……彼の名は


“ゲール”――》


………


……



「フッ……貴様が何者であれ、我に対する非礼は万死にあたいする。


だがその前に……話して貰おう……」


「グッ!! ……たとえ拷問されたとて……吐かんぞ?


魔王よ……グロリアーナ様とネイト様ならば

お前達魔族など直ぐにでも滅ぼし……悲願ひがん成就じょうじゅされるだろうッ!! 」


愚鈍ぐどんな考えを持つ者よ……貴様がどう足掻あがいた所で

我が“暴食之掌握グラトニーグラブ”からは逃れられぬ……其奴ソヤツらの居場所をえ」


「馬鹿め! 吐かぬと言って居……


……あ゛あ゛あ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッッ!!!!! 」


《――瞬間

ゲールをつらぬいた無数の小さなトゲ……


……そのトゲは彼の精神をむしば

“激痛”と言う言葉では軽過ぎる痛みで彼を苦しめ続けた――》


………


……



「フッ……二度はわぬぞ」


「あ゛ぁぁぁぁぁぁ!!! ……い……言わ……ん……お前……達……

魔族を滅ぼす……た……め……うぐッ?!


あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁッッ!! ……」


「フッ……忠誠心の高さは褒めてやろう。


だが、不愉快だ。


もう良い……らいくせ、暴食之掌握グラトニーグラブよ――」


《――直後


生々しい音を立てゲールをらい始めた暴食之掌握グラトニーグラブは……


……その全てを

血の一滴すら残さぬ程にらい尽くした――》


………


……



「マインよ……小僧を見つけ出せ“奴”にもさぐらせるのだ」


「……ハッ!


魔導師ライドウ! ……魔王様がお呼びだッ! 」


《――魔王軍第一大隊・大隊長マインがそう呼び掛けた直後


何処からとも無く現れた一人の魔導師“ライドウ”


……銀の髪を垂らし片目に眼帯をしたこの男は

現れるや否や――


“おや、これはいけない……マイン様、少し此方こちらに。


完全回復パーフェクトヒール……治りましてございますよ”


――即座に回復魔導を放ち

魔王に対しこうべれ――


“流石は魔王様で御座います……先程の攻撃で無傷とは、感服かんぷく致します”


――そう賛辞さんじを送った。


だが――》


………


……



世辞せじが為、貴様を呼び付けた訳では無い……急ぐが良い」


「……これは大変失礼を致しました、では……お望みのままに。


探索魔導、活動的走査アクティブソナー――


――ふむ。


間違い無くこの国に……更に追跡を……成程。


あの辺りに……んッ?!


……防衛の魔導


鉄壁アイアンウォール!! ――」


《――瞬間


何かを察知さっちし、魔王軍全てを包む程の巨大な魔導障壁を即座に展開したライドウ


……これに遅れる事一瞬

彼らの元へと振り注いだ大量の剣気は魔導障壁にりその全てが消滅した――》


………


……



「……鬱陶うっとうしいハエめ。


此方は貴方達が何処に居るのかしっかりと見えているのですよ?


まぁ良い……焼き払ってあげましょう。


……暴虐ぼうぎゃくの炎よ

全てを焼き払い、全てを滅するのだッ!


大虐殺之獄炎ヘルファイア・オブ・カーネイジ”――」


《――直後


上空に発せられた赤黒い炎……それはうずとなり


剣気の放たれたその場所を焼き払わんと飛翔し……


……遠方につらなる山々を平地へいちへと変えた。


だが……黒煙の上がるその場所からは

興奮した“子供の声”が聞こえ――》


………


……



「……魔族以外に魔導師まで居るとは想定外よ。


その上“トライスター”だなんて……最悪だわ」


「凄い凄い凄いッ! ……ママ凄いや! 凄い火だったのに全部消したね?!

ゲールはかなり役たたずだったけど……やっぱりママは強いんだ!


けど……まだ魔族が沢山居るよ?

僕が! 僕が! 僕がッ! ……倒して良いんだよね?! 」


「ええ……全てをほうむり去るのよ。


いい子ねネイト……沢山魔族を倒す事の出来るネイトがママは大好きよ?

だから、ちゃんと全部……倒すのよ? 」


「やったぁぁぁっ! ……頑張る!!!

僕頑張るから!!! ママの一番は……僕の物だよっ!! 」


《――直後

嬉嬉ききとして“魔剣”を構えたネイトは――》


………


……



「僕はママの一番……だから僕は、この武器にお前達を食べさせるんだ。


……どんどん食べさせたいからじっとしててね?

ねぇ? ねぇ? ねぇッ?!! 」


《――魔王に対しそう言った。


だが――》


「……斯様かような小僧一人がため我が配下の多くがぼっしたとうか


全く……はらわたの煮えくり返る。


小僧よ……貴様にびがためときあたえよう」


「へっ? ……何言ってるの?

お前も僕の武器に食べられるんだよ?


行くよ?! 行くよ!? 行くよッ??! ――」


《――瞬間


魔王の眼前から消えたネイト


彼は……周囲の魔族を魔剣に食い殺させながら


徐々に魔王へと近付いて居た、だが――》


………


……



「フッ……小僧らしい単調な動きよ。


呪殺之柩カースド・コフィン”――」


《――直後


ネイトに向け凄まじい速度で迫った禍々しき“ひつぎ”……だが

これを軽々と避け――


“遅い! 遅い! 遅~いッ!! ”


――そう言うと魔王の喉元目掛け一直線に突進をしたネイト


だが――》


………


……



「フッ……愚かな……」


《――そうはっし手を振り下ろした魔王


瞬間――》


「ぐあ゛っ!? ……」


………


……



《――遥か遠くの大木に叩き付けられた直後、意識を失ったネイト


一方、これに慌てふところから何かを取り出したグロリアーナは――


“牢獄開放ッッ! ”


……そう、叫んだ。


瞬間――》


………


……



《――グロリアーナの眼の前に現れた

ネイトと瓜二つの“複製体レプリカ”八体……だが

どの複製体も生気せいきは無く

その目は虚空こくうを見つめていた――》


「制限解除……全ての魔族を討伐しなさい」


《――直後

そう命じたグロリアーナ……この命令に

“複製体”達は静かにうなずき、行動を開始した。


……だが


魔王はただ一言――》


………


……



「くだらぬ……」


《――そう言うと、配下の魔族らに全てを任せ

玉座へと深く腰を掛け目をつぶった。


その姿は、さながら“何かを待っている様子”で――》


………


……



《――暫くの後

目を覚ました複製体番号九レプリカナイン“ネイト”


……その瞬間、魔王も目を開きネイトに対しにらみを効かせた。


だが……その直視する事すら恐ろしい魔王の視線などよりも

ネイトに取って遥かに恐ろしい事実を突きつけた八体の存在……


……そう。


ネイトは知らなかった……魔族と戦う八体の自分


指が千切れ……腕が千切れようと毛程も気にせず


ただ、魔族を滅する事だけを命じられ戦い続ける純粋な


“武器”として機能する“自分と同じ顔をした存在を”――》


………


……



「……ね、ねぇママ……どう言う事?


……ねぇ、ねぇ、ねぇッ!!


ママッ!!! ……」


「ネイト……貴方は何も考えなくて良いの

武器に魔族を食べさせる事……今はそれだけを考えなさい。


……良いわね? 」


「……おかしいよママッ!!


僕が一番だって……僕だけを愛してるって!


……ねぇママ! ……あれは一体何なの?!


何で“僕”が沢山居るの!?


ママ……


ママ……


ママッ!!! ……」


《――ネイトの涙ながらの訴えに無言をつらぬいた後

観念した様に真実を語り始めたグロリアーナ――》


………


……



「……貴方は


貴方は……私の最愛の息子の――


“複製体(レプリカ”


――其処で戦っている複製体達もそうよ。


私は……本当の意味で貴方のママでは無いわ……でも

貴方が一番強い事だけは真実……今もまだ貴方が私を愛してると言うのなら

夫を食い殺し……息子をあんな姿にした魔族達を

その根源である魔王を……何をしてでも倒しなさいっ!!!


……良いわね!!? 」


《――“愛など初めから無い”


そう言ったにひとしい態度をつらぬいた彼女グロリアーナ


その様を……ただ愕然がくぜんとした様子で見つめるしか出来なかったネイト。


だが、しばしの沈黙の末……ネイト


一筋の涙を流し――》


………


……



「……分かったよママ、僕に任せて。


駄目だったらごめんね……怒らないでね。


でも……多分、今の僕じゃ勝てないと思うから……そしたら逃げてねママ。


僕はどんなママでも……僕は……僕は……僕はッ!!!


ママが……大好きだよ……」


《――言うや否や

ネイトは自らの身体に向け“魔剣”を突き刺した――》


………


……



《――激しくうごめき、ネイトの身体に深く潜り込み

完全にネイトの身体へ飲み込まれて行った魔剣。


直後……ネイトの皮膚は赤黒く変化し

おぞましい“異形の姿”へと変化した――》


………


……



「ママ……逃ゲテ……マゾク……ゼンブ……


……食ベルカ゛ラ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アァァァァッ!!! 」


《――瞬間


れ”は魔王の視界から消え魔族数百体を一瞬にして消滅させた――》


………


……



「何もかも……全てが不愉快な小僧よ……」


《――魔族の肉片を両手につかむさぼらう“れ”に対し

嫌悪の表情を浮かべつつそう言った魔王――》


………


……



「では魔王様……私にお任せ頂くと言うのはどうでしょう? 」


「好きにするが良い……我はきょうがれた」


《――そう言うと、再び玉座に深く座り目をつぶった魔王。


一方……不敵な笑みを浮かべ

深く息を吸ったライドウは――》


………


……



「……ぐに終わらせてあげましょう。


固有魔導……“時之狭間トキノハザマ”――」


《――そう唱えた瞬間


ネイトだった“れ”とグロリアーナは完全に“停止”した――》


………


……



「いやはや……固有魔導を使うのは久し振りですが

やはり愉快な時間ですねぇ? ……さて、どう苦しめるか?

あぁ、思いつきました……まずは“母親”から。


ふふふっ……」


《――言うや否や“母親グロリアーナ”を捕縛したライドウ

そして、周囲に居る数体の魔族に対し

彼女グロリアーナらう様、命令し

彼女グロリアーナの時間を正常に


“戻した”――》


………


……



「なっ?! 何が起き……は、離しなさいっ! 下等な魔族共!


やめっ……やっ……」


《――乾いた空気に響く切断音と悲鳴


一体の魔族にって切り裂かれたグロリアーナは

この直後、多数の魔族達に“分け与えられた”


……まるでお菓子を食べる子供の様に

彼女の肉片を頬張ほおばると嬉しそうに雄叫びを上げた魔族達


そして……その様子を確認するや否や

ネイトだった“れ”に見せつけるが為だけに

れ”の時間をも正常に戻したライドウ――》


………


……



「グゥアァァァ……ウグッ……マ……マ?


……ア゛ガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァァァッ!!! 」


《――激しく咆吼ほうこうを挙げた“其(それ”は

直後、グロリアーナの肉を喰らう魔族達を瞬殺――


――他の魔族たちをも狙い掛けた瞬間ライドウに捕縛された。


だが――》


………


……



「ガアァァァァ……ハナゼ……コ゛ノ゛ヤ゛ロ゛ウ゛!!!

オマエ……コ゛ロ゛ス゛ウ゛ゥゥゥ……ガァァァァァァァァッ!!!! 」


《――瞬間


捕縛を打ち破り、一層凶悪な姿へと変化した“れ”は

うなり声を挙げた瞬間

この場にいる約三分の一の魔族を瞬殺した――》


………


……



「……何と、面白いですねぇ?

ですが流石にやりすぎですッ!! ……」


《――直後

再び時之狭間を起動し“れ”の時間を止めたライドウ


だが……わずかだが


れ”は“動いていた”――》


………


……



ウ……ワセロ……ガァァァァァァァァァ!!! 」


《――直後再び“れ”の挙げたうなり声


衝撃波となり地面を激しく揺らした規格外の衝撃に

一瞬だが固有魔導を維持する集中が途切れたライドウ……瞬間


れ”はライドウの眼前から消え、彼の背後へと斬り掛かった。


だが――》


………


……



「ウガアァッ!!! ……ハナセ……グガァァゥ!!! 」


「……ライドウの固有魔導では飽き足らず、我のじゅつに掛かりまだ動くか。


フッ……我が呼ぶのも可笑おかしいが


“化け物”め……」


「ママヲ……返セ……ママヲ……ウガァァァァッ!! 」


「……ライドウ。


解除して構わぬ、我に任せるが良い……」


《――直後

魔王の命令に“時之狭間”を完全に解除したライドウ……だがその瞬間


れ”は魔王にかすり傷をわせた――》


………


……



「フッ……我が術の中にり、なお我に傷をつけるとは不愉快な。


“化け物”よ……答えて貰おう。


何故我が眷族けんぞくを狙った? ……」


《――更に強く“れ”を捕縛し

静かにそううた魔王――》


………


……



「……ママガ望ンダ! ……ボクヲ……大好キダッテ!


ボクノコト……ママハ期待シテタ! ……ナノニッ!!! 」


「フッ……あの様な母が恋しいとはな。


我には到底理解出来ぬ……あの女に取って貴様など

微塵みじんも重要では無かった様に見えたがな……」


「……ソレデモ……ボクハ……ママガ大好キ……ダッタ……


生キテ居テ……欲シカッタ……ナノニッ!!! 」


「フッ……“子”の心“親”知らずと言った所か。


全くきょうがれる事だ……


……全てがしゃくさわる不愉快な小僧よ。


安らかに眠り、我の糧と成るが良い――」


「オマエ……絶対ニ……許サナイ……ガアアアアアアァァァァッ!!! 」


………


……



“ママ……大好き……だ……よ……”


………


……



《――“其れ”……いや。


ネイト”は……消えゆく最後の最後まで

みずからの母に対し、ある意味で真っ直ぐな

ある意味でゆがんだ愛を貫き……その


短過みじかすぎる生涯を閉じた――》


………


……



「……全く


はらわたの煮えくり返る……不愉快なッ!! 」


《――瞬間

珍しく感情をあらわにした魔王の姿に配下の魔族達は皆おびえて居た。


そんな中――》


「……魔王様、至らぬ限りで申し訳有りません

しかし、まさかあの化け物があの様な機動力を持っているとは……」


「謝罪など不要……ライドウよ、我は城へと帰還する。


我が配下の帰還は貴様に任せる……良いな? 」


「ハッ……御任せを」


………


……



《――同時刻


迷いの森……“超巨大個体”は崩落した橋の前で立ち止まったまま

うらみ深い視線を崖の下へとそそいで居た……


……だが、暫くの後この場を静かに去っていった“超巨大個体”


崖の下には……叩きせられ原型をとどめぬ程に大破した

オベリスクの“残骸ざんがい”が散らばって居た――》


===第四十九話・終===

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