第四四話「楽園?……いいえ地獄です」
ギュンターの“ガス抜き”に依り
第一の依頼を危なげなく達成し
続く第二の依頼場所へと移動していた一行……だが
突如として一行の装着しているバッジから“声がし始めた”事で
彼らの状況は急激な変化を迎えた
「あ~……あ~……皆様。
……我が国から相当離れておりますが
そのまま脱出されますと……自動的にバッジが爆散します
決して無事では済みませんので……くれぐれも……
お逃げに成らない様にお願いします……尚……
現在位置も追跡可能です……
……バッジを無理に外そうとしても爆散します
それでは討伐依頼の成功を祈っております……」
「……成程、何処までも歪な国の様だ
主人公……出来るだけ急ぎこの歪な国を脱出する事にしよう」
「ああ、そうだな……」
この後、暫く進んだ先で
遭遇した討伐対象の魔物に対し
今度は主人公とディーンの二人に依る“ガス抜き”が発生し
一切の危なげ無く、討伐依頼を達成し……暫くの後
再入国の為門を通過しようとした一行。
だが、門番に制止され――
◆◆◆
「そこで止まれ……再入国だな?
再入国手続きをしてから入国しろ」
――門番の発したこの言葉に
“嫌な予感”を感じつつも素直に入国管理官の元へと向かった一行
だが、不幸にも予感は当たり
“再入国税”と言う名目で、共通金貨二五〇〇枚を要求され
持ち合わせでは足りなかった為
オベリスクから財宝を全て持ち出し
再入国税の支払いに充てた一行は
再入国後、達成した依頼の報酬を受け取りに向かった。
だが
◆◆◆
「お待ちを……私めが行って参ります
ディーン様、主人公様……どうか、もう暫くのご辛抱を」
ギュンターが此処まで気を遣う程
二人の形相は恐ろしい物と成りつつ有った。
そして
「ほう、お早いですな……ん?
おや? ……随分と討伐“超過”していますね?
では“契約違反”と言う事で“課税対象”になりまして
報酬は九割減少で……それでも多いですが“一二〇〇金貨”ですね」
「……その様な説明、最初に受けておりませんが? 」
「法律ですのでね……気に入らんのは分かりますがね? 」
ギュンターに対しニヤリと笑い掛け、そう告げた受付の男
「良いでしょう」
腸の煮えくり返る様な怒りを鎮めつつ
僅かな金貨を手に一行の元へと戻ったギュンター
そして、そんな彼の様子を見たディーンは
直ぐに労いの言葉を掛けた。
「……お気遣い感謝致しますディーン様。
それよりも……色々と難癖を付けられ
一二〇〇金貨程にしか成りませんでした
食い下がっては見ましたが、あまり騒ぎを起こすのも
得策ではないかと思い……申し訳有りません」
「構わん……気にするな」
「そうですよ、気にしないで下さいギュンターさん
こう言う国です、以降は俺も気をつけますから
お互い、もう考えない様にしましょう。
唯……これ以上イライラさせられるのも不愉快ですし
日も暮れてきましたけど、この国に長居してストレスを溜めるより
早めに出国して他の国で稼ぎませんか? それに……
……此処と比べるのが失礼な程
オベリスクの方が安心で安全で心地良いですから! 」
「主人公様まで……お気遣い感謝致します
では、その様に致しましょう……」
直後
ウバン王国からの出国を決め正門へと向かった一行
◆◆◆
「では私めが……」
「いえ、ギュンターさん……今度は俺が行きます
今度は俺が庇う番です! 」
「重ね重ねお気遣い頂き……感謝の至りでございます」
「ええ! ギュンターさんだって大切な仲間ですから!
では、行ってきますッ! ……」
笑顔でそう言うと
皆を残し入国管理官の元へと一人で向かった主人公。
だが……
「おや? ……どの様なご用件でしょう? 」
「出国したい……全員な」
「そうですか、ですが後一日と半分程期間が残って……」
「構わない、全員分のバッジを返せば出国出来るんだろ?
早く手続きをしてくれないか? ……」
「……そうですか
では、少々お待ちを……」
そう言うと席を立った入国管理官。
直後、彼は何処かへと魔導通信で連絡を取り始め……
……そして暫くの後
不穏な雰囲気を漂わせながら席に着いた。
そして、主人公に対し……
「えー……誠に失礼ではございますが
貴方……“トライスター”で有る事をお隠しに成られて
我が国へと入国なされましたね? 」
「この杖が見えないのか? ……俺は普通の魔導師だ」
「ええ、確りと見えては御座いますよ?
ですがそれよりも……“監視員”からの情報の方が
我が国では信じるに足りますのでね……ひひッ」
「成程……“覗き見てた”訳か
ディーンの言う様にとことん歪な国なんだな此処は。
で? ……今度はどんな“重税”を掛けるつもりだ? 」
「おや、居直りますか……まぁ良いでしょう
それと、お連れ様もただならぬ装備をお持ちの様で……
……あの様な“規格外の乗り物”を拝見した事は
今までに一度もございませんが、あの様な強力な兵器を隠し持ち
我が国へと入国されますと、我が国と致しましても……」
「だから……幾ら税を取りたいのかはっきり言え」
「チッ! ……こっちが下手に出て居れば生意気な態度だ
気に入らん……入国管理官に対する
“妨害行為”も付きますが宜しいのですね? 」
「……ああ好きにしろ
で、何度も聞いてるんだが……幾らだ? 」
「そうですか……では、以上を踏まえますと……おや?
これは、税金では収まりがつかない様ですな?
本来ならば禁固刑か死刑と成る重罪ですが……
……本日初めて我が国にお越しに成った御一行様ですので
特別に寛大な措置として――
“我が国の為に働くのであれば給料を税金の返済に当てる形で”
――ざっと三〇年程奉仕すれば
出国が許される“かも”知れませんな? 」
「……成程、冗談のつもりじゃ無さそうだな? 」
「どうお思いに成られても構いませんが
拒否されるならばバッジが……」
「“爆散”……ってか? 」
「ええ、良くご存知でいらっしゃいますね……ひひッ」
「……なぁおっさん、何で
今の今まで俺がこんなに我慢してたと思う? 」
「さぁ、存じ上げませんが……“死への恐怖”ですかな? 」
「全く以て不正解だよ……仲間の為を思えばこそ
仕方無く堪えてただけだ……だが。
お前はそんな俺の、命よりも遥かに大切な
“仲間の命を奪う”……と脅した訳だ。
俺の目を見て答えろ……“無事で済む”と思うか? 」
「ほう、武力で脅すと? ……出来るのですか?
私を攻撃しようとした瞬間バッジは爆散……」
「ん? ……武力で脅すなんて程度の低い事を
狂いそうな程“機嫌の悪い”俺がするとでも?
……攻撃する必要なんて全く無いし
別の方法を見せてやるからよく見てろ……」
そう言うと
全ての装備を外し始めた主人公。
……一旦は胸を撫で下ろした入国管理官だったが
主人公の唯成らぬ雰囲気を感じると
次第に慌て始め、更に続けた。
「……そ、装備を外していたとしても
何かしらの固有魔導を使える可能性はある筈っ!
わ、私に対し何かしらの魔導を放っただけでも
ばっ……爆散させますよ?!
そうでなくとも、何らかの暴力的な行為を行うつもりなら
そ、それでも……爆散させますよ?!
……い、一体何をするつもりかっ?!
え、衛兵! この者を捕らえ……」
「……黙れよクズが。
固有魔導:限定管理者権限――」
《《――命令を承認
中央処理機構より通達……
……対象へ限定的に
“管理者権限”を移譲します――》》
「なっ?! ……何処から声が?!
貴様っ! 何をするつもりか知らないがバッジを爆散……」
「……“これ”と同じバッジをこの世界から消去
制作方法も合わせて完全に消去だ……」
《《――検索中
……検索完了
二件の命令を承認しました……
……消去完了》》
「よし……次に、ウバン王国に存在する財宝
その他財力に関わる物を全て消去しろ」
《《――検索中
全て消去します……消去完了》》
「次だ……脅されるなどの外的要因がある場合を除き
ウバン王国に属する、または与する者の装備する武器
その他武器に成り得る類の物を全て消去しろ」
《《――検索中
全て消去します……消去完了》》
「俺とディーン……それからギュンターさんの魔導力を全て回復」
《《――命令を承認
“対象群”の魔導力を完全回復します
完全回復完了……実行時間終了
“対象”への“限定移譲”を終了します――》》
「なっ、何を言うかと思えば!!
今の声が何なのかは分からんが……
何れにしろ危険な行為を行おうとしたに違い無いっ!!!
第一、トライスターを逃す位ならば
バッジを爆散させた方が何倍も……ってあれっ!?
バッジが……無い?! ……衛兵ッ!
なっ!? 衛兵達!! 装備を何処へやった?!
何故肌着姿で立っている?!
なっ、なっ!? ……何をした貴様ァァァッッ!!! 」
「……今、思いっきり“本心”が聞こえたが
まぁ良い、所で……“覚えてる”か?
俺はお前に“無事で済む”と思うかを聞いた筈だが」
「な……何をするつもりだ?!
我が国は、我が国の民を脅かす様な野蛮な者には屈しない!! 」
「形勢不利と見るなり“被害者面”とは恐れ入るが
悪いけど、俺も……恐らくはディーン達も
お前達を攻撃するつもりなんかさらさら無い。
けど……お前達が無理やり閉じ込めてた
ハンター達を“止める気”も無い。
……彼らのバッジも“消えてる”から
この後、どう言う“結果”になるかはお前達次第だ……じゃあな」
そう言い残すと
慌てふためく入国管理官に背を向け
堂々とした足取りで一行の元へと戻った主人公
そんな彼に対し
◆◆◆
「“やり過ぎだ”……そう責めるべきとは思えない。
寧ろ気が晴れた位だ……だがしかし
この国は終わりだろうな……まぁ、この様な歪な国
誰かが終わらせるべきではあったのだろうが……」
そう、静かに告げたディーン
そんな彼に続く様にガルドは
「民も歪む程歪な国であったのだ。
……他者の苦しみを直視せず
その上に成り立つ国など必要無い……厳しい様だが
吾輩も賛成だ……
……生涯の友として誇らしくさえあるぞ主人公よ」
「ええ、私も賛成でございますグランガルド様……」
ギュンターを含め
主人公の働きに気を良くした者達が居た一方
其処では無い“別の結果”を見て居た者が
一行の中に居た。
「あ、あのっ! ……皆さんが怒るのも当然だと思いますし
わ、私も凄く嫌な国でしたっ……で、でもっ!
そっ……その……こ、子供達には罪が無いですし……そのっ!!
わ、私の勝手かもしれませんけど……せめて
子供達とその親御さんだけでも助けたいんですっ!
お、お願いしますっ!! ……駄目、でしょうか? ……」
そう、必死に訴えたメルの後方では
開放されたハンター達に依る
ウバン王国軍兵士への猛攻撃が行われて居た。
……現状、攻撃対象は兵士にのみ限られている様だが
長い間この国で虐げられて来た
ハンター達の溢れ出る怒りの矛先が
遅かれ早かれ王国の民達にも向けられるで有ろう事は
明らかだった。
「ええ……私もメルちゃんの意見に賛成よ
ねぇ主人公……私達が勝手な事を言ってるのは理解してる。
けど……どうにか出来ないの? 」
そう訊ねたマリーン
そして、マリアまでもが
「私もお二人の意見に賛成です、子供達だけでも助けませんか? 」
そう賛成した事で
主人公は急激に訪れた罪悪感に駆られ
「確かに子供達には罪は無い……皆、ごめん
其処まで頭を回せてなかった時点で最低だ。
……けど、今からハンター達を説得して子供達だけは助けると
確約をさせたとしても……此処ではもう
まともな生活なんて出来ない。
奪った俺が言うのはお門違いかも知れないけど
命を救うだけじゃ足りない……なら、俺は何をどうすれば
子供とその親を本当の意味で助けられるんだ? 」
そう頭を悩ませた主人公に対し
ガルドは
「ううむ……ならば、ラウド殿に連絡を入れると良い
彼ならば何か良い案を出してくれるだろう……」
そう提案した
直後、急ぎラウドへと魔導通信を繋いだ主人公は
◆◆◆
「ん? ……おぉ主人公殿!!
久し振りじゃのぅ! ……元気で居ったかのぅ? 」
「え、ええ……ですがそれよりも今は
緊急的な相談が……その、約一〇〇名程の子供と
その親御さんが暮らしていける場所、若しくは
その手段を教えてください! 」
「な、何じゃね唐突に? ……主人公殿、まさか
旅先で彼方此方の女性と“ぱふぱふ”を……」
「な゛ッ!? ……そんな訳無いでしょッ?!
仮にそうだとしたら“種馬”か何かですか俺は!!
って……そんな冗談を言ってる暇は無いんですッ!
そうじゃなくてですね! ……紆余曲折あって!!
俺が国をッ! ……その……滅ぼし……ちゃったんです」
「ん? ……今何と言ったんじゃね? 主人公殿」
「い、いえその……ウバン王国ってご存知ですか?
その国が、俺のせいで“滅亡の危機”です……」
「ふむ……地図には載っておるが、どんな国かは知らん
じゃが、一体何があったんじゃね? ……」
「そ、それが……外の人間から財力を奪う事で
国を繁栄させようとして居た国でして
事ある毎に税の名目で毟り取り
自国民には異常な程の贅沢をさせて居たんです。
……それだけならまだ良かったんですが、端的に言うと
そのせいで“俺や仲間達に危害を加え掛けた”ので
二度とそう出来ない様に、固有魔導を使って懲らしめたんです。
でも俺、怒りに任せて明らかに後先を考えないやり方を……
……冷静に成った今なら
もっとやり方だって思い付く筈なんですが
冷静さを欠いた行動に今は猛省して居る次第です……」
「ふむ……それで、御主はどうしたいのじゃね? 」
「それが、その……メル達が諭してくれた事もあり
せめて子供と親御さんだけでも助けようと思っては居るのですが
良い案が思いつかなくて……でも、こんな難しい話
ラウドさんにしか相談出来なくて……
……本当に申し訳有りません」
「ううむ……いきなり難問じゃのぅ?
どうした物か……いや、思いついたぞぃ!! 」
「えッ!? ……ど、どんな手ですか!? 」
「……リオス殿から聞いたのじゃが
帝国は“もぬけの殻”じゃったんじゃろう?
ならば……“其処へ移住させる”と言うのはどうじゃろうか?
……帝国ならば政令国家とも距離が然程離れて居らん故
生活に必要な物資も送り届けやすいしのぅ」
「な、成程! でも、帝国城には遺体の山が……」
「……何、そんな物は任せるのじゃ
帝国跡地には当然防衛魔導なんぞ展開されておらんじゃろうし
我が国の兵士を付近まで転移させ、急ぎ片付けさせる。
……これでどうじゃね? 」
「そ、それならッ! ……助かります!
では大至急その様にお願いします!
でも……俺のせいでご迷惑を掛けっぱなしで
本当に申し訳ありません……」
「何を言う? 政令国家としても旨味の無い話では無いぞい? 」
「へッ? ……と言うと? 」
「……既に訪れたのじゃから知っておるじゃろうが
帝国の領土は、我が国よりも遥かに広大で立地も良い
それ故、放置しておけば他国があの場所を奪わんとも限らん。
……そうなれば
次は、その国との“いざこざ”が起きる可能性大じゃろう?
じゃが、そうなる前に政令国家の息の掛かった民を移住させておけば
他国との戦争を未然に防げる……と言う事じゃよ。
って……そんな事よりも急がんと危ないのじゃろう?
主人公殿は救うべき者達を集める事に必死になるのじゃよ!
準備が整い次第連絡を入れるから
それまでに出来る限りの事をするんじゃよ?! 」
「は、はいッ! 感謝します! ……では通信終了! 」
◆◆◆
「……って事らしい
それで、その……この状況を作り出したのは俺だけど
俺一人では解決は難しいと思う……
……だから、皆にも協力して貰いたい」
この後、仲間達の協力に依り
民や、移住を希望する者達の救出に成功した主人公。
……一方、未だ怒りの収まらないハンター達は
一行との戦闘をも辞さない構えを見せたが
彼らに対する懸命の説得は何とか功を奏し
少なくとも、救出した者達だけは護る事に成功した。
そして……暫くの後
ラウド大統領からの連絡を受けた主人公は
転移魔導を用い、旧帝国城へと
救出した者達全員を送り届けたのだった。
だが……その反面
失われた命も無視出来ない数存在し
悲しみに暮れる民達の悲痛な叫びは
主人公達の耳と心を劈いた。
“仲間の為”
……直接奪った命では無いにしろ
冷静さを欠いた状態で行使してしまった
余りにも強大過ぎる力と……その“代償”
彼の行為は、果たして正しかったのか……否か。
何れであれ、この一件は主人公の脳裏に深く焼き付き
彼の心に心的外傷として色濃く残る事となった。
===第四四話・終===




