第四二話「行楽気分の旅がしたい!」
出発早々“トラブル”に見舞われた一行は
気を取り直し、第一の目的地を目指して居た。
……一方、遡る事|暫く
政令国家より北へと離れたある国の地下牢では
「ううっ……ママ……ごめんなさいっ……」
「反省したかしら? ……私は悲しい気持ちでいっぱいよ? 」
捕縛の魔導に依り身動きの取れないネイトに対し
そう冷たく言い放った彼の母“グロリアーナ”の姿があった。
「もうしないって約束するよ……
だからこの拘束を解いて、お願いだよぉ……」
「いいえ? ……約束を破る悪い子はずっとこのままよ? 」
「お願いだよぉ……もうしないから……グスンッ」
火傷だらけの顔で涙ながらにそう懇願したネイト。
そんな彼の姿にほんの一瞬、嫌悪感を顕にした母は
深く溜息を吐き
「全く……分かったわ
本当にもう勝手な行動はしないって約束出来るかしら? 」
「うんっ……ごめんなさいっ」
「仕方ないわね……ゲール、解放してあげなさい
それと……治療もよ」
そう自らの部下らしき魔導師に命じ
「……かしこまりましたグロリアーナ様。
捕縛解除――」
一方、拘束が外れた瞬間
地面に倒れ強く咳き込んだネイト、そんな彼に対し
「……貴方が苦しむ姿を見るのは私だって辛いのよ?
兎に角……治療が終わったら
部屋で大人しくておきなさい……良いわね? 」
「はい、ママ……大好き……だよ? 」
「ええ……貴方が素直で良い子なら私も大好きよ。
さてと、私はお仕事があるから
貴方はお部屋でのんびりしていてね……
……けれど、くれぐれも同じ過ちは繰り返さないで頂戴」
そう言い残すと
振り返る事無く自室へと戻って行ったグロリアーナ。
……直後、自室に戻った彼女は
魔導通信を使い、何処かへと連絡を取り始めた。
◆◆◆
「ええ……やはり命令に従わず単独で勝手な行動を。
私に取っては非常に厄介なタイミングですわ?
無論、罰を与えたのである程度大人しくはなりましたが……
……正直、他の“複製体”と同じ結果になりそうですわね? 」
「成程……やはりですか。
薬で素直に成るのは他の複製体でご存知でしょうが
やはりどうしても三割前後……酷ければ
五割程度は戦闘能力が落ちますのでね……」
「ええ……いざと言う時の為の策として考えては居ます。
ですから今も私の手元には
不良品の如き複製体が何体も……
……他に解決策は無いのですか? 所長さん」
「ええ……申し訳有りませんが
やはり元に成ったご子息の“性格”に由来する部分が
良くも悪くも起因しておりましてね……
……調節は都度|行い生産致しましたが
それでも……技術は万能では有りません。
誠に……残念ですがね」
「……そうですわね。
追加生産は……やはり出来ないのですか? 」
「ええ、残念ですが……元となるご子息のご遺体が
“限界”を迎えた為、これ以上の生産となると
ご子息のご遺体が崩壊する恐れがあり
今後、完全な状態での保存が不可能に成るかと」
「!? ……そ、それだけは困ります!!
分かりました……こちらでも努力しましょう。
では、また後日……」
直後、意気消沈した様子で
魔導通信を閉じたグロリアーナ……一方
彼女と通信をして居た“相手”は
◆◆◆
「全く……やはりあの複製体は不具合が多過ぎる。
そもそも“元”の程度が低いのは言わずもがなだが
“D.E.E.Nシリーズ”の足元にも及ばんとは……だが
追跡部隊からの連絡も途絶えて久しい。
これは“失敗”と見て間違い無いか……
……全く、面倒な」
何処かの国の研究所
机には“所長”と書かれた名札……眼前の“資料”を見つめ
大きな溜息を付きながらそう言った男……直後
ディーン隊全員の詳細な情報が記された紙を机に仕舞い込むと
不機嫌そうに机を叩いた……だが、そんな中
突如として何処からとも無く彼の背後へと現れた
“法衣姿”の老人は
「おやおや……“損失”を出しておきながら
他人事とは頂けませんね?
……このまま彼らを野放しにすれば国の損失です
所長……これ以上、私を失望させないで頂きたいですな? 」
と言った。
一方、この老人が現れた瞬間
所長と呼ばれた男は慌てて姿勢を正し
「なっ!? ……教皇様?!
そ、その件に関しましては……お許しが頂けるならば
少々調整不足ですが……出来るだけ調整を急ぎ
“E.D.E.Nシリーズ”を捜索に当たらせますので
何卒ご理解を……」
「そうですか……仕方有りません、良いでしょう。
しかし、それでも発見出来なかった時
貴方は一体……どの様な責任を取るのです? 」
「ど……どの様な裁きでも受ける覚悟でございます」
「そうですか、まぁ……良いでしょう。
本来ならばあの様な禍禍しい実験体など
穢らわしく思えてしまい嫌なのですよ?
ですが背に腹は替えられません……調整終了後
E.D.E.Nシリーズの使用を許可します。
……くれぐれも早急に解決して下さいね?
心から祈っていますよ? ……では」
そう言い残し所長室から煙の様に消えた教皇
その、一方で
「チッ!! ……E.D.E.Nシリーズを急ぎ完成させねば!!
おい、其処の研究員!!
……出来るだけ早く起動出来る様に仕上げろ!!
これ以上の失敗は許されないんだぞ?! 理解っているのか?!
クソッ!! ……老いぼれめ!!! 」
「……り、了解致しましたッ!!
E.D.E.Nシリーズの完成を最重要項目に変更します! 」
◆◆◆
一方、主人公達が旅立って数日後のヴェルツでは
「……ふははははっ!!
やはりだ……主人公など居なくともこの国は平和だ!
奴との決闘には敗北したが……奴め
何をとち狂ったか“旅に出る”などと!
これで少しはこの国も安定し……」
と、彼の悪口を言い続けて居たジョルジュ
だが、その背後には“鬼の形相”をした
ミリアの姿があり――
「……主人公ちゃんとの決闘に負けたにも関わらず
アンタみたいなのが自由にこの国を出歩けるのは
主人公ちゃんが“情けを掛けた”からだってのがまだ判らないのかい?!
アンタみたいな卑怯者の入店なんざお断りだよ!!
金は良いからとっとと出ていきなっ! 」
――言うや否や
手に持って居たジョッキの酒を
ジョルジュの顔面目掛け勢い良くぶちまけたミリア
「ぶはっ?! ……げほっ! げほっ!!
お……覚えていろ女将ッ!!
私にその様な態度を取ってタダで済むと思うなよッ!
い、行くぞユーグッ! ……」
「はい、ジョルジュ様……」
「……脅しのつもりかい?!
うちの店に何かしようってんなら
旦那が黙っちゃいないよっ?! ……良いね?!
二度と来るんじゃないよっ!!! ……全く。
それにしても……主人公ちゃん達は元気にしてるかねぇ?
ご飯、ちゃんと食べてるのかねぇ? ……」
ミリアがそう心配をして居た一方で
主人公達はオベリスクに揺られながら昼食を摂って居た。
だが……
◆◆◆
「……はぁ~ッ、それにしても
政令国家を離れてたった数日なのに
既に寂しさが“限界突破”したんだけど
これってやっぱりホームシックなのかな?
何だか強烈にヴェルツに帰りたく成って来たんだが……
……ミリアさんの言う通り、部屋に転移しようかな? 」
「いつもならイジる所ですけど
確かに私も寂しいです……って言うか何で主人公さんって
後で後悔する様な事ばかり選ぶんですかね?
って言うか連絡入れましょうよ!
まだ、魔導通信も繋がるんでしょ?! 」
柄にも無く苛立ちを顕に
そう言い放ったマリア……だが、寂しさを感じて居たのは
彼女だけでは無かった様で
「そっ……そのっ!
わ、私も……お母さんとお話したいですっ! 」
「私もメルちゃんと同意見よ、私もお母さんと話したいわ?
って言うか主人公……余り負担に成らないのなら
一日に一度……もし負担が大きい様なら
一週間に一度でも良いから
定期的に連絡を入れられたら嬉しいんだけど。
……それに“政令国家”の近況も気になるでしょ? 」
「ああ……それもそうだねマリーン
確か、距離が離れてても
魔導消費量に大した差は無かった筈だし
今まで魔導通信を負担に思った事なんて無かったから……
……よしッ!
じゃあ、これからは一日に一回位は連絡入れよう!
そしたら少しは寂しさも紛れるだろうし!
って事で……早速連絡してみるとするか! 」
この後
ミリアに対し魔導通信を繋いだ主人公
◆◆◆
「……ミリアさん、主人公です!
その……連絡遅れてすみませんでしたッ! 」
「なっ?! ……主人公ちゃん?!
どうしたんだい? ……何か遭ったのかい!? 」
「い、いえそうではなくて……その
これからは定期的に連絡をしようと思いまして! 」
「そうだったのかい! ……嬉しいねぇ!
しかし……離れて居ても声が聞こえるなんてねぇ!
皆は? ……近くに居るのかい? 」
ミリアさんがそう訊ねた瞬間
一斉に彼女に向け喋り始めた皆
そして、その声を聞いたミリアさんは
「おやおや、皆元気そうな声だねぇ……安心したよ!
そういえば……皆、ご飯はちゃんと食べてるかい? 」
「ええ、今も頂いてます!
ミリアさんお手製のお弁当とか、保存用の食料もですが
感謝してもし切れない程助かってますよ! 」
「そうかい! そりゃあ用意した甲斐が有ったよ!
って、それはそうと……ちょっと聞いてくれるかい? 」
「は、はい……何でしょう? 」
「それがねぇ? ……思い出しても腹が立つが
あの、恥知らずのジョルジュって子が居るだろう?
あの子ったら、あろう事かうちの店で
主人公ちゃん達の悪口を言ったんだよ!
勿論、酒かけて追い出してやったけどさ! ……」
「そんな事が……でもミリアさん
俺のせいで変に恨みを買う様な行動は控えてください。
……ミリアさんに対して彼奴が何かしないとも限らないですし
万が一にもミリアさんに何かあったら、俺は……」
「……大丈夫さ、うちには旦那も居るし
主人公ちゃんのお陰で大きくなったこの店には
今や“用心棒”だって居るんだよ? 」
「よ、用心棒ッ?! ……や、雇ったんですか? 」
「いや……専用で雇ったって訳じゃないんだがねぇ?
何を隠そう……“エリシア”だよ」
「エ、エリシアさんが用心棒?!
ど、どう言う経緯でそうなったんですかそれッ?! 」
「それがねぇ? ……主人公ちゃん達が旅に出てからと言うもの
あのエリシアが“薬草採集が楽しくない”
なんて言い出してねぇ……」
この、あまりにも衝撃的な発言に
俺達は全員言葉を失った
「ど、どう言う事ですか?!
何か悪い物でも食べた……とか? 」
「違う違う……単純に寂しいのさエリシアは
無論、あたしもだが。
それでね――
“薬草採集をやる時間が丸々浮いたし
ストレス発散がてら用心棒をやりたい”
――って言い出して、それならって事でウチで雇ったのさ」
「な、成程……“ストレス発散”って所は凄~く気になりますが
って……それなら今、エリシアさんはヴェルツに? 」
「ああ、奥に居るが……呼んで良いかい? 」
「はい! お願いしますッ! ……」
◆◆◆
「は~ぁぃ♪ 主人公っち~!
元気にしてる~? ……皆も元気かな~っ? 」
「……エリシアさん! 皆も俺も元気です!
でも……直ぐに連絡しなくて本当に申し訳有りません」
「それそれ! ほんとだよぉ~っ……寂しかったよ~? 」
「い、以後気をつけますッ! ……ってそんな事よりも!
エリシアさん“薬草採集が楽しくない”って……大丈夫ですか? 」
「え? うん……まぁ、その辺は仕方無いよ!
一つ摘んでは皆の顔を思い出すから……寂しくてね!
でも、ミリアの所で用心棒してるから割と忙しいんだよ~?
悪酔いして暴れたり、喧嘩したりするお客を
“浮遊魔導”で浮かせて~……その後
軽ぅ~い“雷魔導”で感電させながら
外に投げたりとかね~っ! 」
「い、いやそれ……悪酔いに対する罰としては
余りにも“オーバーキル”に思えるんですけど……
……そこまでやるとお客さん減りません? 」
「え~? ……意外かも知れないけどそんな事無いよ~?
寧ろ“もっとやってくれ”って変なお客が一定数居るから
私も困ってる位なんだよね~っ……」
「エリシアさん、それは別料金……じゃなくて!
その手のヘンタ……いや“変人”には
その方法、逆効果かも知れませんね……」
「う~ん……その場合、どうすれば良いと思う? 」
「ま、まぁ……その手のお客はやんわり注意する程度って事で! 」
「そっか、そうしてみる~……って、忘れる所だった!
ねぇ、主人公っち……本当にジョルジュの事
“野放し”にして良かったの? ……」
「……ええ、彼奴に取っての俺は
ある意味“魔族よりタチの悪い存在”なんだと思います。
仮にも俺は彼奴の親を奪った訳ですから……ですが
もしあまりにも目に余る行動をして居るのならそれは別問題です。
……正直、エリシアさんに頼る形で申し訳ないですが
危ない状況を作りそうなら、それ相応の対応をお願いします」
「お~っ! 任せとけぃ! ――
“もうちょっと暴走してくれれば此方だって対応が楽なのに”
――って思う位には私もアイツに苛立ってるから
後少しでも馬鹿やってくれたら私が責任を持って“焼き払う”からっ!
まっ! 取り敢えず元気な声聞けて安心したよ~
これからもちゃんと定期的に連絡してよね~! 」
「や、焼き払うのは流石に……って、はい!
これからはちゃんと定期的に連絡しますので!
……ではまたッ! 」
「うん……またねぇ~! 」
この後
久し振りの連絡を目一杯楽しんだ俺達。
そして……夕暮れ時、俺達は
この日の目標地点である、魔王軍により壊滅した
“旧帝国領土内”を進んで居た。
◆◆◆
「酷い惨状ですな……」
念の為
オベリスクを下船せず進み続けて居た俺達。
道には帝国国民の亡骸がそこら中に散乱して居て
ギュンターさんはそんな状況を見つめつつボソリとそう言った。
ともあれ……暫くすると
巨大な城壁に囲まれた大きな城が見えて来た。
……とは言え、その殆どが崩壊し
最も魔王軍からの攻撃を多く受けたのだろう帝国城は
見る影が無い程の甚大な被害を受けて居た。
正門付近に転がる兵士達の肉片や骨
それに集る蛆や蠅……言うまでも無く
周囲は“見るに耐えない”惨状で
「……派手にやられておりますな
魔族に蹂躙されたとは聞いておりましたが
それにしても酷い状況でございますね。
とは言え……魔族特有の気配も有りませんし
恐らく此処は既に“もぬけの殻”では無いかと」
周囲の状況を確かめながら
ギュンターさんはそう言った……だが
周囲に一体たりとも魔族が居ない事に疑問を感じた俺が
「……帝国が崩壊したのは仕方が無いとしても
何故魔族が一匹も居ないんですかね?
魔族に取っては“領土”ってどうでも良い物なんでしょうか? 」
と訊ねた所、ギュンターさんは
「気配が無い所から察するに。
仰られる通り……“どうでも良い”ので御座いましょうね」
と、周囲を軽く見回しながら
僅かに嫌悪を感じた様にそう言った。
一方、ガルドはそんなギュンターさんの
“感覚”を信じた上で
「ふむ……ならば夜も遅い事だ。
今夜は捜索も兼ね、領土内で停泊するのはどうだ?
もぬけの殻とは言え、何らかの情報は得られるかも知れぬ」
「ああ、確かに……俺もガルドの意見に賛成だ。
得られる情報は少しでも多い方が良いし
この国の状況的には違ってては欲しいけど
“サーブロウ伯爵”がこの国の出身かも知れないもんな。
……ディーンはどう思う? 」
「ああ、私も賛成だ……その件も含め領土内を軽く捜索し
終わり次第、オベリスクを宿とするのが適切だろう。
では、状況開始――」
ディーンの号令に依りオベリスクを下船した俺達。
だが、下船直後から強い腐臭を感じた俺達は
口元に布を当て、足早に入城し
帝国城内部の捜索を開始する事と成った。
「やはりもぬけの殻でございますね……しかし
外から見るよりも内側の方が被害は少ない様ですが
それでも……余り気持ちの良い物ではありませんね」
其処彼処に散らばる
帝国人の亡骸を見ながらそう言ったギュンターさん。
一方……周囲の状況に恐怖し
進む事すら覚束なく成り始めて居た
“三人娘”の姿に
「えっとその……少し刺激が強いし
三人は目を閉じて俺に掴まって歩くのはどうかな?
正直、俺も平気って訳では無いけど……その、頑張るからさ」
怯える三人を護る為
精一杯の勇気を振り絞りつつそう言った俺。
……直後、直ぐに目を瞑り俺の服の裾を掴むと
先程よりは安心した様子で慎重に歩き始めた三人。
そして、そんな時
「主人公、強く在るのは大変な事だ……だが、踏ん張るのだぞ」
ガルドが俺の事をそう励ましてくれた
だが、その言葉に対し
「あ、あぁ! ……筋トレだよな! 」
と、的はずれな返答をしてしまう程度には
俺もこの状況に怯えて居たのだった。
ともあれ……この後も城内を捜索していた俺達、だが
突如として
「シッ! 遠くの方で何か音が……」
と言ったタニアさん、対するギュンターさんは
「妙ですな? ……人の気配も
魔族の気配も無かった筈ですが……」
と、首を傾げつつも警戒心を強めた。
「……ギュンターよ
曲がりなりにも此処は“敵地”だ
警戒は怠るべきでは無い……オウル、防衛魔導を」
「はい……“防護之衣”」
直後、ディーンの号令に依り瞬時に警戒を強めた隊員達
そんな中“三人娘達”は
「気配が無いのに何か居るって……もしかして……」
メルがそう言った事を
皮切りに
「それって……お、おばけとか……」
とマリーン
そして、マリアまでもが
「の、呪われるとか……無いですよね?!
それこそ、無念の死に恨みを持ってる兵士の霊とかに! 」
と“マイナス思考な具体例”を出して怯え始めた
だが、三人を少しでも落ち着かせる為
「そ……そんな訳無いじゃないか~三人共~っ!
流石に怖がり過ぎだぞ~? あはッ!
アハハハハ……」
と、必死に場の空気を和ませようとした俺
だが……その瞬間
大きな物音が俺達の“真後ろ”で発生し
「ヒャッハ?! フヒィッ!?! 」
「すまん主人公……廃材に足をぶつけてしまった」
「きッ、気をつけろよぉッ!?
オーク族族長グランガルドオォッ?! 」
「何故肩書ごと全て叫んだのだ主人公?
そもそも……吾輩はもう族長では無いぞ? 」
「そ、そうだったなぁガルドぉ~ッ!!! ……
……ってか、びっくりしたなぁもぉぉぉぉぉッ!!! 」
「シッ! ……あの部屋に何か居ますわ」
直後
そう言ってタニアさんが指し示した部屋からは
薄明かりが漏れて居た。
……光はゆらゆらと揺らぎ
不規則に動き……そして
耳を澄ますと微かに音が聞こえた。
……息を殺しつつ部屋へと近づいた俺達
だが、この直後|一際大きな音が部屋から発せられ
思わず大声を上げ掛けた俺の口を間一髪|塞いだガルド。
……正直、俺の恐怖心は限界に達して居た
だがそんな時、部屋の中から
「何か聞こえた様な……あっっ!! 」
と言う、何者かの声が聞こえた次の瞬間――
「トォォォォッ!! 」
――と、奇声を発し
俺へと飛び掛かって来た黒い影……だが。
幸いにも防御魔導に阻まれ
謎の黒い影は俺の眼前で尻餅をついた。
だが、そのせいで
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!! 」
と、俺の背後で発せられる事と成った三人娘達の悲鳴
そして、この直後“何かが破ける音”が
城内へと響き渡った。
「うわぁぁぁぁぁぁぁッッッ!? ……って君は!! 」
「イテテテ……って、数日ぶりだね主人公っ!
ちょ~っと、びっくりしたけどっ! 」
黒い影はそう言って
“天真爛漫”な態度を取った。
……そう。
“黒い影”の正体は、黒い衣服を身に纏い
口元を黒い布で覆った、全身黒尽くめの“リオス”だった。
「おや……リオス様でしたか。
それにその布は……道理で気配が判らない訳でございますな
ですが、何故リオス様が
この様な場所にいらっしゃるのです? 」
そう訊ねたギュンターさんに対し
リオスは
「えっとね……魔族って意外にも
金目の物にはまるで興味が無いみたいで
幸か不幸か、こう言う場所には
価値のある物が大量に残ってるんだっ!
だから……その収集って感じかなっ? 」
「成程、左様でございましたか
リオス様の“生活の知恵”……でございますね」
「うん! その通りっ! でも正直
“墓暴き”みたいであまり良い気分じゃないんだけどね。
……けど、訪れる国に依っては僕達の種族だけで入国する場合
“保証金”って名目で大量のお金が必要な時もあるから
その為の蓄えって感じかな?
後は……情報を得る為の“賄賂代わり”だったりも!
何だっけ……あ、そうそう!
“背に腹は変えられない”……って奴! 」
そう明るく語ろうとしていたリオス
だが、彼は僅かに切ない表情をして居て
「別に誰かを襲ってる訳じゃ無いし
リオスは種族の長として必死なだけだろ?
俺はそんなリオスが友達で良かったと思ってるし
誰が何と言おうと俺はリオスの味方だ。
……ま、俺じゃ不足かも知れないけどね! 」
「ううん……やっぱり主人公は良い奴だね!
僕こそ仲間で良かったと思ってるよ! ……って。
所で主人公……さっきからずっと気になってたんだけど
何だか主人公の“お尻の辺り”
妙に……“ひらひら”してない? 」
「ん? ……そう言えばさっきから
何かお尻がスースーする様なって思って……って。
……うわぁぁぁッ?!
なッ、なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁッッッ?! 」
瞬間
城内に響き渡った俺の絶叫……直後
俺の背後に居た三人娘はとても申し訳無さそうにしつつ
「あ、あのっ……ごめんなさいっ! 」
と
頭を下げたメルに始まり
「多分、私が“引き千切った”感じです」
そう言って
“自供”したマリアと
「そ、その……き、綺麗なお尻ね! 主人公! 」
と、何のフォローにも成っていない
フォローを口にしたマリーンの三人は
今の今まで握り締めて居た
“ズボンの切れ端”を手渡して来たのだった。
……と言うか、漸く気付いた
三人娘達の悲鳴と共に城内に響き渡った
“何かが破ける音”は……“これ”が原因だと。
「それ……フォローに成ってないよマリーン」
直後、手渡された“切れ端”でお尻を隠しつつ
静かに壁を背にした俺……そして
何事も無かったかの様にリオスに対し
「な、なぁリオス……お金に成りそうな物の他に
何か情報が得られそうな物は無かった?
後……出来たら“ズボン”とか無かったかな? 」
「え、えっと……ズボンの在り処は判らないけど
本とか地図とか薬草とか
そんなのが沢山ある部屋があったよ? 」
「おぉ! ……その場所を教えてくれ! 」
「えっとね……ここから真っすぐ行って
右に曲がると階段があるから
下の方まで降りるとすぐ分かると思う!
それと……主人公達は“ビンボー旅”だし
この部屋に残ってるお宝も
持って行った方が良いんじゃないかな? 」
「えッ? ……俺達も貰って良いの? 」
「うん、僕そんなに沢山持てないし!
後で仲間達も合流するけど
それでもそんなには持って帰れないからさ!
だから、主人公達も持って帰ってよ! 」
「ありがとう……正直助かるよ」
「感謝するリオス殿……では、ある程度頂いた後
その部屋を捜索するとしようか。
だが、その前に主人公……これを腰に巻いておくと良い」
そう言うと、羽織っていた上着を
そっと手渡してくれたディーン
「ああ、すまない……所でリオス、この場所で生存者
若しくは魔族を見かけたりはしなかった? 」
「……どっちも居なかったと思うよ?
けど、そもそも匂いが強烈過ぎて感覚が当てに成らないから
“絶対”……とは言えないかな? 」
「それもそうだね……さて、俺達は情報を探ってくるよ」
「うん! ……僕も後で行くね~っ! 」
この後
リオスの説明通り城を進んだ先で
俺達がたどり着いた部屋の中には、数多くの本や地図
薬草や謎の液体などが数多く並んで居て……
◆◆◆
「それにしても……凄い量の本だな」
この後
合流したリオスとその仲間である獣人族達とも協力し
“サーブロウ伯爵”に関する情報を探し続けたが
役立つ情報は得られず
「それで最後よね? ……はぁ~疲れた……意外と大変ね」
汗を拭いながらそう言ったマリーン
一方のメルは地図を手に入れて居て
「で、でもっ……地図は手に入りましたし
これから訪れる国の参考には出来ますっ! 」
「ええ……それに薬草はレア物が沢山有りますわね?
必要そうな物を厳選し、少し頂いて行きますわね♪ 」
“薬草学”に長けたタニアさんは
とても上機嫌な様子でそう言った
「しかし、夜も遅い……
……今日の所はこの場所で休むのはどうだ?
幸いな事に……この部屋には悪臭も無い」
そう
ガルドが提案すると
「なら……数日振りに会えたんだし
僕達も今日はここで休もうかな? 」
と、リオスが言った瞬間
丁度お腹を鳴らしたマリアの“腹時計”に従い
皆で食事を摂る事が決定し……この後
俺達はリオス達と数日振りに楽しく過ごしたのだった。
◆◆◆
主人公一行が再会の宴に興じて居た頃
同時刻……魔王城にて
痺れを切らした魔王の怒りが城中に充満して居た
「……例の小僧はまだ見つからぬのか? 」
「魔王様……それが、あの者が逃げたと思われる方角を
地図にて詳しく調べてみた所……怪しい国を発見致しまして」
「フッ……為れば我も出向くとしよう
其奴を全軍で踏み潰すのだ……」
「ハッ! ……ですが魔王様
出立の前に一つ具申させて頂いても宜しいでしょうか? 」
「何だ……申してみよ」
「あの小僧……認めたくは有りませんが
化け物の如き力を有しております。
ですが、我らには優秀な“魔導師”が味方に居ります……
……今回の戦、奴にも協力させるのは如何かと」
「我は“全軍”と言った筈だ……“奴”も例外では無い」
「し、失礼を致しました! ……おい、其処のお前!
“奴”を呼び出しておけ! 」
「ハッ! 」
===第四二話・終===




