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異世界転生って楽勝だと思ってました。  作者: 藤次郎
第二章

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第四十二話「行楽気分の旅がしたい!」

《――出発早々“トラブル”に見舞われた一行は

気を取り直し、第一の目的地を目指していた。


その一方、さかのぼる事しばら

政令国家より北へと離れたある国の地下牢では――》


………


……



「ううっ……ママ……ごめんなさいっ……」


「反省したかしら? ……私は悲しい気持ちでいっぱいよ? 」


《――捕縛の魔導にり身動きの取れないネイトに対し

そう冷たく言い放ったのは、彼の母“グロリアーナ”であった――》


「もうしないって約束するよ……

だからこの拘束を解いて、お願いだよぉ……」


「いいえ? ……約束を破る悪い子はずっとこのままよ? 」


「お願いだよぉ……もうしないから……グスンッ」


《――火傷だらけの顔で涙ながらにそう懇願したネイト。


……そんな彼の姿にほんの一瞬、嫌悪感をあらわにした母は

深くため息をつき――》


「全く……分かったわ。


本当にもう勝手な行動はしないって約束出来るかしら? 」


「うんっ……ごめんなさいっ」


「仕方ないわね……ゲール、解放してあげなさい

それと……治療もよ」


《――そう

自らの部下らしき魔導師に命じ――》


「……かしこまりましたグロリアーナ様。


捕縛解除――」


《――拘束が外れた瞬間、地面に倒れ強く咳き込んだネイト。


そんな彼に対し――》


「……貴方が苦しむ姿を見るのは私だって辛いのよ?

兎に角……治療が終わったら部屋で大人しくておきなさい、良いわね? 」


「はい、ママ……大好き……だよ? 」


「ええ……貴方が素直で良い子なら私も大好きよ。


さてと、私はお仕事があるから

貴方はお部屋でのんびりしていてね……


……けれど、くれぐれも同じ過ちは繰り返さないで頂戴」


《――そう言い残すと

振り返る事無く自室へと戻って行ったグロリアーナ。


……直後、自室に戻った彼女は

魔導通信を使い、何処かへと連絡を取り始めた――》


………


……



「ええ……やはり命令に従わず単独で勝手な行動を。


私に取っては非常に厄介なタイミングですわ?

無論、罰を与えたのである程度大人しくはなりましたが……


……正直、他の“複製体”と同じ結果になりそうですわね? 」


「成程……やはりですか。


薬で素直に成るのは他の複製体でご存知でしょうが

やはりどうしても三割前後……ひどければ

五割程度は戦闘能力が落ちますのでね……」


「ええ……いざと言う時の為の策として考えては居ます。


ですから今も私の手元には不良品の様な複製体が何体も……


……他に解決策は無いのですか? 所長さん」


「ええ……申し訳有りませんが

やはり元に成ったご子息の性格に由来する部分が

良くも悪くも起因しておりましてね……


……調節は都度おこない生産致しましたが

それでも……技術は万能では有りません。


誠に……残念ですがね」


「……そうですわね。


追加生産は……やはり出来ないのですか? 」


「ええ、残念ですが……元となるご子息のご遺体が限界を迎えた為

これ以上の生産となると、ご子息のご遺体が崩壊する恐れがあり……


……完全な状態での保存が不可能に成るかと」


「!? ……それだけは困ります!!

……分かりました、こちらでも努力しましょう。


では、また後日……」


《――直後

意気消沈いきしょうちんした様子で魔導通信を閉じたグロリアーナ

一方、彼女と通信をしていた“相手”は――》


………


……



「全く……やはりあの複製体は不具合が多過ぎる。


そもそもベースの程度が低いのだろうが

“D.E.E.Nシリーズ”の足元にも及ばんな。


だが、追跡部隊からの連絡も途絶えてひさしい。


これは失敗と見て間違い無いか……全く、面倒な」


《――何処かの国の研究所


机には“所長”と書かれた名札……


……眼前の“資料”を見つめ

大きなため息を付きながらそう言った男……


……直後

ディーン隊全員の詳細な情報が記されたその紙を机に仕舞しまい込むと

不機嫌そうに机を叩いた……だが、そんな中


突如として何処からとも無く彼の背後に現れた“法衣姿”の老人は――》


………


……



「おやおや……損失を出しておきながら他人事とは頂けませんね?

このまま彼らを野放しにすれば国の損失です……所長

これ以上、私を失望させないで頂きたいですな? ……」


《――この老人が現れた瞬間

男は慌てて姿勢を正し――》


「なっ!? ……教皇様?!

そ、その件に関しましては……お許しが頂けるならば

少々調整不足ですが……出来るだけ調整を急ぎ

“E.D.E.Nシリーズ”を捜索に当たらせますので、何卒ご理解を……」


「そうですか……仕方有りません、良いでしょう。


しかし、それでも発見出来なかった時

貴方は一体……どの様な責任を取るのです? 」


「ど、どの様な裁きでも受ける覚悟でございます」


「そうですか、まぁ……良いでしょう。


本来ならばあの様な禍禍まがまがしい実験体など

けがらわしく思えてしまい嫌なのですよ?


ですが背に腹は替えられません……調整終了後

E.D.E.Nシリーズの使用を許可します。


……くれぐれも早急に解決して下さいね?

心から祈っていますよ? ……では」


《――そう言い残し所長室から煙の様に消えた教皇。


その、一方で――》


………


……



「チッ!! ……E.D.E.Nシリーズを急ぎ完成させねばならん!!

おい、其処の研究員!! ……出来るだけ早く起動出来る様に仕上げろ!!

これ以上の失敗は許されないんだぞ?! 理解わかっているのか?!

クソッ!! ……老いぼれめ!!! 」


「りっ……了解致しましたッ!!

E.D.E.Nシリーズの完成を最重要項目に変更します! 」


………


……



《――その一方

主人公達が旅立って数日後のヴェルツでは――》


「……ふははははっ!!

やはりだ……主人公ヤツなど居なくともこの国は平和だ!

奴との決闘には敗北したが……奴め、何をとち狂ったか“旅に出る”等と!

これで少しはこの国も安定し……」


《――と、彼の悪口を言い続けて居たジョルジュ。


だが、その背後には“鬼の形相”をしたミリアの姿があり――》


「……主人公ちゃんとの決闘に負けたにも関わらず

アンタみたいなのが自由にこの国を出歩けるのは

主人公ちゃんが“情けを掛けた”からだってのがまだ判らないのかい?!

アンタみたいな卑怯者の入店なんざお断りだよ!!


……金は良いからとっとと出ていきなっ! 」


《――直後

手に持っていたジョッキの酒を、ジョルジュの顔面目掛け

勢い良くぶちまけたミリア――》


「ぶはっ?! ……げほっ! げほっ!!


お……覚えていろ女将ッ!!

私にその様な態度を取ってただで済むと思うなよッ!

い、行くぞユーグッ! ……」


「はい、ジョルジュ様……」


「……脅しのつもりかい?!

うちの店に何かしようってんなら旦那が黙っちゃいないよっ?!

良いね?! ……二度と来るんじゃないよっ!!!


……全く。


それにしても……主人公ちゃん達は元気にしてるかねぇ?

ご飯、ちゃんと食べてるのかねぇ? ……」


《――ミリアがそう心配をして居た一方で

主人公達はオベリスクに揺られながら昼食を摂って居た。


だが――》


………


……



「……はぁ~っ。


それにしても、政令国家を離れてたった数日なのに

すでに寂しさが限界突破したんだけど

これってやっぱりホームシックかな?

何だか強烈にヴェルツに帰りたく成って来たんだが……


……部屋に転移しようかな? 」


「いつもならイジる所ですけど……確かに私も寂しいです

けど……何で主人公さんって後で後悔する様な事ばかり選ぶんですかね?

って言うか連絡入れましょうよ! ……魔導通信繋がるんでしょ?! 」


《――柄にも無く苛立いらだちをあらわにそう言い放ったマリア

だが、寂しさを感じて居たのは彼女だけでは無かった様で――》


「そっ……そのっ!

わ、私も……お母さんとお話したいですっ! 」


「私もメルちゃんと同意見よ、私もお母さんと話したいもの。


って言うか主人公……あまり負担に成らないなら一日に一度

もし負担が大きいなら一週間に一度で良いから

定期的に連絡を入れられたら嬉しいんだけど。


……それに、政令国家むこうの近況も気になるでしょ? 」


「ああ……それもそうだねマリーン。


確か、距離が離れてても魔導消費量に大した差は無かった筈だし

今まで魔導通信を負担に思った事なんて無かったから……よし!


じゃあ、これからは一日に一回位は連絡入れよう!

そしたら少しは寂しさも紛れるだろうし!


……って事で、早速連絡してみるとするか! 」


《――直後

ミリアに魔導通信を繋いだ主人公――》


………


……



「……ミリアさん、主人公です!

その……連絡遅れてすみませんでした! 」


「なっ?! ……主人公ちゃん?!

どうしたんだい? ……何か有ったのかい!? 」


「いえ、そうではなくて……その

これからは定期的に連絡をしようと思いまして! 」


「そうかい……嬉しいねぇ!

しかし、離れていても声が聞こえるなんてねぇ……皆は側に居るのかい? 」


《――そうミリアがたずねた瞬間

一斉に彼女に向け喋り始めた一行……そして

その声を聞いたミリアは――》


「皆元気そうな声だね……安心したよ!

そういえば……ご飯はちゃんと食べてるかい? 」


「ええ、今も頂いてます! ……ミリアさんお手製のお弁当とか

保存用の食料もですが……感謝してもし切れない程助かってます! 」


「そうかい! そりゃあ用意した甲斐が有ったよ……って。


それはそうと……聞いてくれるかい? 」


「はい、何でしょう? 」


「……思い出しても腹が立つが、恥知らずのジョルジュが

あろう事かうちの店で主人公ちゃん達の悪口を言ったんだよ!

勿論、酒かけて追い出してやったけどさ……」


「そんな事が……でもミリアさん

俺の所為で変に恨みを買う様な行動は控えてください。


ミリアさんに対して彼奴が何かしないとも限らないですし

ミリアさんに何かあったら俺は……」


「……大丈夫さね、うちには旦那も居るし

主人公ちゃんのお陰で大きくなったこの店には

“用心棒”だって居るんだよ? 」


「よ、用心棒ッ?! ……雇ったんですか? 」


「専用で雇った訳じゃないんだがねぇ、何を隠そう……エリシアだよ」


「エ、エリシアさんが用心棒?! ……どう言う状況ですかそれ?! 」


「いやねぇ……主人公ちゃん達が旅に出てからと言うもの

あのエリシアが“薬草採集が楽しくない”と言い出してねぇ……」


《――このあまりにも衝撃的な発言に

一行は言葉を失った――》


………


……



「ど、どう言う事ですか?! 何か悪い物でも食べた……とか? 」


「……違う違う。


寂しいのさ、エリシアも……勿論、あたしもさ。


それでね――


“薬草採集をやる時間が丸々浮いたしストレス発散がてら用心棒をやりたい”


――って言い出して、それならって事でウチで雇ったのさ」


「な、成程……“ストレス発散”って所は凄~く気になりますが。


って……エリシアさんは今ヴェルツに? 」


「ああ、奥に居るが……呼んで良いかい? 」


「はい! お願いします! ……」


………


……



「主人公っち~! 元気にしてる~? ……皆も元気かな~? 」


「エリシアさん! ……皆も俺も元気です!

でも……直ぐに連絡しなくて本当に申し訳有りません」


「ほんとだよぉ~……寂しかったよ~? 」


「い、以後気をつけます! ……ってそんな事よりも!

エリシアさん“薬草採集が楽しくない”って……大丈夫ですか? 」


「え? うん……まぁ、その辺は仕方無いよ!

一つ摘んでは皆の顔を思い出すから寂しくてね!


……でも、ミリアの所で用心棒してるから割と忙しいんだよ~?

悪酔いして暴れたり、喧嘩したりするお客を“浮遊魔導”で浮かせて~

軽い“雷魔導”で感電させながら外に投げたりとかね~! 」


「いやそれ……悪酔いに対する罰としては

余りにも“オーバーキル”に思えるんですけど……


……そこまでやるとお客さん減りません? 」


「え? ……そんな事無いよ~?

むしろ“もっとやってくれ”って変なお客が一定数居るから

私も困ってる位なんだよ~っ? 」


「エリシアさん、それは別料金……じゃなくて!

その手のヘンタ……いや“変人”には

その方法、逆効果かも知れませんね……」


「う~ん……どうすれば良いと思う? 」


「ま、まぁ……その手のお客はやんわり注意する程度って事で! 」


「そっか、そうしてみる~……って、忘れる所だった!

主人公っち……本当にジョルジュを野放しにして良かったの? 」


「……ええ、彼奴に取っての俺は

ある意味、魔族よりタチの悪い存在なんだと思います。


仮にも俺は彼奴の親を奪った訳ですから……ですが

もしあまりにも目に余る行動をしているのならそれは別問題です。


正直、エリシアさんに頼る形で申し訳ないですが

危ない状況を作りそうなら、それ相応の対応をお願いします」


「お~っ! 任せとけぃ! ――


“もうちょっと暴走してくれれば此方こっちだって対応が楽なのに”


――って思う位には私もアイツに苛立ってるから

後少しでも馬鹿やってくれたら私が責任を持って“焼き払う”からっ!


まっ! 元気な声聞けて安心したよ~

これからもちゃんと定期的に連絡してよね~! 」


「焼き払うのは流石に……って、はい!

これからはちゃんと定期的に連絡します! ……ではまた! 」


「うん……またねぇ~! 」


<――この後

久しぶりの連絡を目一杯楽しんだ俺達。


そして……夕暮れ時、俺達はこの日の目標地点である

魔王軍により壊滅した“旧帝国領土内”を進んで居た――>


………


……



<――念の為、オベリスクを下船せずに進み続けて居た俺達

道には帝国国民の亡骸なきがらがそこら中に散乱して居て……


……しばらくすると巨大な城壁に囲まれた大きな城が見えた。


とは言え、そのほとんどが崩壊し

最も魔王軍からの攻撃を受けたと見られる帝国城は

見る影が無い程の甚大じんだいな被害を受けていた。


……正門付近に転がる兵士達の肉片や骨

それにたかウジハエ……言うまでも無く


周囲は“見るに耐えない”惨状で――>


………


……



「……派手にやられておりますな

魔族に蹂躙じゅうりんされたとは聞いておりましたが

それにしてもひどい状況でございますね。


……とは言え、魔族特有の気配も有りませんし

恐らく此処は既に“もぬけの殻”では無いかと」


<――周囲の状況を確かめながらギュンターさんはそう言った。


だが、周囲に一体たりとも魔族が居ない事に疑問を感じた俺が


“……けど、帝国が崩壊したのは仕方が無いとしても

何故魔族が一匹も居ないんですかね?

魔族に取っては“領土”ってどうでも良い物なんでしょうか? ”


たずねた所――>


「気配が無い所から察するに

“どうでも良い”ので御座いましょうね」


<――と言ったギュンターさん。


そんな中、ガルドはある提案をした――>


………


……



「ふむ……ならば夜も遅い事だ。


今夜は捜索も兼ね、領土内ここで停泊するのはどうだ?

もぬけの殻とは言え、何らかの情報は得られるかもしれぬ」


「確かに……俺もガルドの意見に賛成だ。


得られる情報は多い方が良いし

この国の状況的に違ってては欲しいけど

“サーブロウ伯爵”がこの国の出身かもしれないし。


……ディーンはどう思う? 」


「私も賛成だ……その件も含め領土内を捜索

終わり次第、オベリスクを宿とするのが適切だろう。


では、状況開始――」


<――ディーンの号令にオベリスクを下船した俺達。


だが、直ぐに強い腐臭を感じた俺達は

口元に布を当て、足早に入城し帝国城内部の捜索を開始した――>


………


……



「やはりもぬけの殻でございますね……しかし

外から見るよりも内側の方が被害は少ない様ですが

それでも……気持ちの良い物では有りませんね」


<――其処彼処そこかしこに散らばる

帝国人の亡骸を見ながらそう言ったギュンターさん。


一方……周囲の状況に恐怖し、進む事すら覚束おぼつかなく成り始めていた

メル、マリア、マリーンの姿に――>


………


……



「えっとその……少し刺激が強いし

三人は目を閉じて俺に掴まって歩くのはどうかな?

正直、俺も平気って訳では無いけど……その、頑張るからさ」


<――怯える三人をまもる為

精一杯の勇気を振り絞りつつそう言った俺。


直後、直ぐに目をむぶり俺の服のすそを掴むと

先程よりは安心した様子で慎重に歩き始めた三人。


そして、そんな時――>


「主人公、強くるのは大変な事だ……だが、踏ん張るのだぞ」


<――ガルドが俺の事をそう励ましてくれた。


だが、その言葉に対し――>


「あ、あぁ! ……筋トレだよな! 」


<――と、的はずれな返答をしてしまう程度には

俺もこの状況に怯えていたのだった。


ともあれ……この後も城内を捜索していた俺達


だが、突如として――>


「シッ! 遠くの方で何か音が……」


<――と言ったタニアさん。


そんなタニアさんに対し、ギュンターさんは――>


「……妙ですな?

人の気配も魔族の気配も無かった筈ですが……」


「ギュンター……曲がりなりにも此処は“敵地”だ

警戒はおこたるべきでは無い……オウル、防衛魔導を」


「はい……“防護之衣プロテクションローブ”」


<――直後

ディーンの号令にり瞬時に警戒を強めた隊員達。


そんな中、女性陣は――>


………


……



「気配が無いのに何か居るって……もしかして……」


<――メルがそう言った事を皮切りに


“それって……お、おばけとか……”


――とマリーン


そして、マリアまでもが――


“の、呪われるとか……無いですよね?!

それこそ、無念の死に恨みを持ってる兵士の霊とかに! ”


――と“マイナス思考な具体例”を出して怯え始めた。


だが、三人を少しでも落ち着かせる為――>


「……そ、そんな訳無いじゃないか~三人共~っ!

流石に怖がり過ぎだぞ~?


あはっ! ……アハハハハ……」


<――と、必死に場の空気を和ませようとした俺。


だが……その瞬間

大きな物音が俺達の真後ろで発生し――>


「……ヒャハヒィィッ!?! 」


………


……



「すまん……廃材に足をぶつけてしまった」


「きっ、気をつけろよ~! ……オーク族族長グランガルドオォッ!! 」


「……何故肩書ごと全て叫んだ主人公?

そもそも……吾輩はもう族長では無いぞ? 」


「そ、そうだったなぁガルドぉ~……でも、怖かったぁぁぁっ!! 」


「シッ! ……あの部屋に何か居ますわ」


<――そう言ってタニアさんが指し示した部屋からは

薄明かりが漏れていた。


……光はゆらゆらと揺らぎ

不規則に動き……そして、耳をますとかすかに音が聞こえた。


直後……息を殺しつつ部屋へと近づいた俺達


すると……一際大きな音が部屋から発せられ

思わず大声を上げ掛けた俺の口を間一髪ふさいだガルド。


正直、もう恐怖は限界に達していた……だが、そんな時

部屋の中から――


“何か聞こえた様な……あっっ!! ”


――と何者かの声が聞こえたかと思った次の瞬間


“トォォォォッ!! ”


――奇声を発し俺に飛び掛かって来た黒い影。


だが……幸いにも防御魔導にはばまれ

謎の黒い影は俺の眼前で尻餅をついた。


同時に――


“きゃああああああああああああああああっっっっっ!! ”


――と、俺の背後で発せられた三人の悲鳴


そして“何かが破ける音”が城内に響き渡った――>


………


……



「うわぁぁぁぁぁぁっ!? ……って君は!! 」


「イテテテ……って、数日ぶりだね主人公っ!

ちょ~っと、びっくりしたけどっ! 」


<――黒い影はそう言って“天真爛漫てんしんらんまん”な態度を取った。


そう……黒い影の正体は

黒い衣服を身にまとい、口元を黒い布で覆った

全身黒尽くめのリオスであったのだ――>


………


……



「おや……リオス様でしたか。


それにその布は……通りで気配が判らない訳でございますな

ですが何故、リオス様がこの様な場所にいらっしゃるのです? 」


<――そうたずねたギュンターさんに対し

リオスは――>


「えっとね……魔族って金目の物にはまるで興味が無いみたいで

幸か不幸かこう言う場所には価値のある物が大量に残ってるんだっ!


だから……その収集っ! 」


「成程、左様でございましたか……リオス様の生活の知恵でございますね」


「うん! その通りっ!

でも……正直、墓暴きみたいであまり良い気分じゃないんだけどね。


……けど、訪れる国にっては僕達の種族だけで入国する場合

“保証金”って名目で大量のお金が必要な時もあるから

その為のたくわえって感じかな?


後は……情報を得る為の“賄賂代わり”だったり!

何だっけ……あ、そうそう! “背に腹は変えられない”って奴! 」


<――そう明るく語ろうとしていたリオス。


だが、彼は少し切ない表情をしていた――>


「……強盗してる訳じゃ無いし

リオスは種族のリーダーとして必死なだけだろ?

俺はそんなリオスが友達で良かったと思ってるし

誰が何と言おうと俺はリオスの味方だ。


ま……俺じゃ不足かも知れないけどね! 」


「ううん……やっぱり主人公は良い奴だね!

僕こそ仲間で良かったと思ってるよ! ……って。


所で主人公……さっきからずっと気になってたんだけど

何だか主人公の“後ろ”……特に

“お尻の辺り”……妙に“ひらひら”してない? 」


「ん? ……そう言えばさっきから

何かお尻がスースーする様なって思って……って。


うわぁぁぁっ?! ……なんじゃこりゃあああああああっっっ?! 」


<――瞬間

城内に俺の絶叫が響き渡った。


直後、俺の背後に居た三人は

とても申し訳無さそうにしつつ――


“あ、あのっ……ごめんなさいっ! ”……と頭を下げたメルに始まり


“多分、私が引き千切った感じです”……そう、自供したマリアと


“そ、その……き、綺麗なお尻ね! 主人公! ”……と

何のフォローにも成っていないフォローを口にしたマリーン。


直後、三人は……今の今まで握り締めていた

“ズボンの切れ端”を手渡して来たのだった。


そして、この瞬間気付いた……彼女達の悲鳴と共に

城内に響き渡った“何かが破ける音”は

“これ”が原因だと――>


………


……



「き、綺麗なお尻って……フォローに成ってないよマリーン」


<――手渡された切れ端でお尻を隠しつつ

静かに壁を背にした俺……そして

何事も無かったかの様にリオスに対し――>


「ねぇリオス……お金に成りそうな物の他に

何か情報が得られそうな物は無かった? 」


「え、えっと……本とか地図とか薬草とか

そんなのが沢山ある部屋があったよ? 」


「おぉ! ……その場所を教えてくれ! 」


「えっとね……ここから真っすぐ行って右に曲がると階段があるから

下の方まで降りるとすぐ分かると思う!


……あと、主人公達は“ビンボー旅”だし

この部屋に残ってるお宝も持って行った方が良いんじゃない? 」


「えっ? ……俺達も貰って良いの? 」


「うん、僕そんなに沢山持てないし! 後で仲間達も合流するけど

それでもそんなには持って帰れないし……だから

主人公達も持って帰ってよ! 」


「ありがとう……正直助かるよ」


「……では、ある程度頂いた後その部屋を捜索するとしよう

だがその前に主人公……これを腰に巻いておくと良い」


<――そう言うと

羽織っていた上着をそっと手渡してくれたディーン――>


「ああ、すまない……所でリオス

この場所で生存者、もしくは魔族を見かけたりはしなかった? 」


「……居なかったと思うよ?

けど……そもそも匂いが強烈過ぎて感覚が当てに成らないから

“絶対”……とは言えないかな? 」


「それもそうだね……さて、俺達は情報を探ってくるよ」


「うん! ……僕も後で行くね~っ! 」


<――この後

リオスの説明通り城を進んだ先で俺達がたどり着いた部屋の中には

数多くの本や地図、薬草や謎の液体などが数多く並んで居た――>


………


……



「それにしても……凄い量の本だな」


<――この後

合流したリオスとその仲間である獣人族達とも協力し

サーブロウ伯爵に関する情報を探し続けたが

役立つ情報は得られず――>


………


……



「それで最後よね? ……はぁ~疲れた……意外と大変ね」


<――汗を拭いながらそう言ったマリーン。


一方、メルは地図を手に入れた様で――>


「で、でも……地図は手に入りましたし

これから訪れる国の参考には出来ますっ! 」


「ええ……それに薬草もレアな物が沢山有りますわ?

必要そうな物を厳選し、少し頂いて行きますわ♪ 」


<――薬草学に長けたタニアさんは

上機嫌でそう言った――>


「しかし夜も遅い……今日の所はこの場所で休むのはどうだ?

幸いな事に……この部屋には悪臭も無い」


<――そうガルドが提案すると


“なら……数日ぶりに会えたし僕達も今日はここで休もうかな? ”


……と、リオスが言った瞬間

丁度お腹を鳴らしたマリアの“腹時計”にしたが

皆で食事を摂る事と成った俺達は

リオス達と数日振りに楽しく過ごしたのだった――>


………


……



「……例の小僧はまだ見つからぬのか? 」


「魔王様……それが、あの者が逃げたと思われる方角を

地図にて詳しく調べてみた所……怪しい国を発見致しまして」


「フッ……成れば我も出向こう。


其奴を全軍で踏み潰すのだ……」


「ハッ! ……ですが魔王様

出立の前に一つ具申ぐしんさせて頂いても宜しいでしょうか? 」


「何だ……申してみよ」


「あの小僧……認めたくは有りませんが

化け物のごとき力を有しております。


ですが、我らには優秀な魔導師が味方に居りますので……


……今回のいくさ、奴にも協力させるのは如何いかがかと」


「我は“全軍”と言った筈だ……奴も例外では無い」


「失礼致しました……おい、其処のお前!

“奴”を呼び出しておけ! 」


「ハッ! ……」


===第四十二話・終===

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