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異世界転生って楽勝だと思ってました。  作者: 藤次郎
第二章

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第四十一話「旅立ちって楽勝だと思ってました!」

《――政令国家での別れを済ませた一行は

ギュンターの固有魔導“戦艦オベリスク”へと乗り込んだ。


だが……目的こそあるものの“目的地”を考えていなかった主人公と

妙に張り切り過ぎたギュンターの所為で

旅の初日は散々な物と成るのだった――》


………


……



「……主人公様、目的地をおうかがいしておりませんが

ずはどちらに向えばよろしいのでしょうか? 」


<――ギュンターさんにそうたずねられた俺は

メルちゃんから受け取った絵本を見せながら


“この本の作者を見つけたい”と言った。


すると――>


「ほう……“見つけたい”ですか。


それはすなわち“何処に居るかも不明”と言う事でございますね? 」


「え、ええ……その通りです」


「……確かに不思議な内容の絵本ではありますが

そもそも何故この作者をお探しに成られたいのですか? 」


「その……これにえがかれている食べ物は

俺が前に居た事のある場所の物なんですが……


本来ならこれを作れる……と言うか

その“知識がある”国がこの世界に存在する筈が無いんです。


にも関わらずこれにはえがかれている。


作者にたずねれば何か分かるかもしれないと思ったんですが

持ち主であるメルに聞いても“拾い物なので知らない”と。


この絵本以外には情報も無いので

見つけられる確率の方が低い事だって分かっては居るんです。


でも……それでも何故か探してみたいんです。


正直、馬鹿げてますよね……」


<――と、ギュンターさんに対し

ある意味“馬鹿げた”旅の目的を話した俺。


だが、その様子を見ていたガルドは――>


「何を言うか……求める物が何であれ

御主の“失われし母国の技術”で有るのだろう?

探し求めようとするのが当然……無論、吾輩は協力をいとわぬ」


<――と

いささか盛大な“勘違い”をしてくれた心優しいガルド。


直後、そんなガルドに同意する様に――>


「兎に角だ……内容の重要度がどうであれ

主人公の望みならば私も協力を惜しまないつもりだ。


それに、様々な国をしらみ潰しに調べて回れば

何かしらの情報が得られるだろう」


<――“作者探し”への協力を惜しまないと約束してくれたディーン。


だが、そんな中ギュンターさんはある疑問を口にした――>


………


……



「……ええ、ディーン様

無論、私めもその意見には賛成でございます……しかし。


古い絵本ではある様ですが……主人公様

“この世界に存在し得ない”とは妙な事をおっしゃいましたね?

主人公様がられたと言う場所が存在していた時

書き記された可能性があるにも関わらず……


……何故“存在し得ない”とおっしゃられたので? 」


<――そう“痛い所”を突いたギュンターさん。


だが、俺を信じついて来てくれた人達に対して

俺の“真実”を語らない選択肢は無くて――>


………


……



「……そ、それはその……っとマリア。


俺を信じてついて来てくれた仲間だ

出来る限りなら隠し事はしたくない……話してもいいか? 」


「ええ、どうぞ」


「……ありがとな。


えっと……皆さんは変に思う話かもしれませんが、

これから話す話は全て真実でして。


その――


“この世界は全て俺の創造物だ! ”


――と言ったら信じてくれますか? 」


<――いたって真剣な顔でそうたずねた俺に対し

ディーンは――>


「主人公……いくら神がかり的な実力を持っているとは言っても

“神と思え”とは……あまりに荒唐無稽こうとうむけいだぞ? 」


「違うって! ……そんな大それた事は言ってないよ。


その……俺は“異世界転生者”って存在でさ

別の世界からこっちに飛ばされたんだ。


ただ唯一普通の転生と違うのは

俺の場合“自分で作った世界で生活しろ”ってルールが有ってさ。


……それで、試行錯誤して作り上げたのがこの世界なんだ。


だから、ギュンターさんが疑問に思った絵本の内容についても

俺の妙な“断言”も……絵本の中に描かれている

“たこ焼き”が……俺の元いた世界の物だからなんだ。


でも、そんな物を作り出した覚えは無いし

そもそも、この世界に本当に存在しているかどうか自体が……」


<――この後も必死に説明をしていた俺


最初こそ皆疑って居たが、最終的にはガルドもディーンも

俺の発言を信じてくれて――>


………


……



「……吾輩の目には嘘など無い様に見える」


「ああ、確かに嘘とは思えない

仮に主人公の言う事を真実としよう……だが、だとするならば

この世界を自由に作り直す事も可能なのか?


そもそも、今の話が仮に全て嘘であったとしても

主人公の固有魔導をもちいればその本の作者を

今すぐここに“呼び出す”事も可能だと思うのだが……」


「……いや、今から世界をいじるのは無理なんだ。


それに、俺もこの世界の全てを把握出来てる訳じゃないし

分からない事の方が多くて……ただ

固有魔導の件についてはそうかも知れない。


けど……作者を呼びつける事が出来た所で

“旅に出ます”と大手を振って出て来た手前

どちらにしろ、暫くは政令国家を離れないと駄目な事に変わりは無いだろ?


それから……今俺が話した事は、嫌かもしれないが真実なんだ

疑わしいと思うなら俺の事を自白の魔導で尋問してくれても構わない。


だから……この件を聞いてもし俺と旅をする事が嫌になったのなら

今のうちに政令国家に戻ってくれても構わない。


けどその場合、俺に馬車だけ借して貰える様お願いして来て欲しい」


<――思った事、知ってる事を洗いざらい全て話した俺。


すると、ディーンは高らかに笑い出し――>


………


……



「……全く、何を言うかと思えば。


我々は主人公に助けられた身

どんな事があろうとも主人公と同じ道を歩むと誓った筈

……勿論、君が嘘をついているとも思っていない。


そもそも、ただでさえ異質な固有魔導を持つ君が

我々の様に異質な……いや、少し待ってくれ。


ギュンターよ……主人公がこれ程我々を信頼してくれたのだ

我々の“秘密”も打ち明けるべきだとは思わないか? 」


「そうでございますね……私めはディーン様にお任せ致します」


<――直後

みずからと隊員達の秘密を話してくれたディーン――>


………


……



「……我々も人の事を言える程

“常識的な”固有魔導では無い事、見て分かると思う。


特に、ギュンターのオベリスクは常時発動が可能で

通常使用ならば魔導負荷は無に等しく、例えこわれても

自動修復される上、その他にも様々な能力を隠し持っている。


私の愛銃である“双頭之黒犬オルトロス”もそうだが

皆それなりに異質な力を持っている事は説明するまでも無いと思う。


……だが、我々の能力は元々持っていた物でも

己で発現はつげんした能力でも無くてね……」


「……どう言う事だ? 」


「主人公、白衣の男がいた内容は覚えているだろう?


……私達は奴の母国で改造手術を受けさせられ

固有魔導を無理やり“埋め込まれた”のだ。


そもそも、私達にほどこされた技術はあの国の最高機密事項だ

ゆえに、本来攻撃術師マジシャン型の魔導師ならおこなえる筈の

転移魔導は使えない様細工をほどこされ

万に一つも逃げ出せぬ様、普段は拘束され

あの国の軍事力として利用され続けていたのだ。


……とは言え、今まで下された命令は魔族や魔物などの討伐がおも

命令を受け入れる事にもさしたる抵抗は無かった……だが、ある時

どうしても受け入れがたい命令が下ってしまった。


当然拒否はした……だが、部下を盾に脅され

結果として私は命令にしたがう事を選んだ。


だが、作戦実行のその日……私達の元に“幸運が舞い降りた”


今しかない……そう判断した私は

ギュンターにオベリスクの“ある能力”を使用させた。


無論、呪具の発動範囲から逃げ切れるかは賭けだった……


……今、こうして此処に居られる事は奇跡と呼ぶ他無いだろう」


<――窓の外から遠くを見つめそう言ったディーン。


そんな中、眠い目をこすりながら俺に近づいて来たライラさん

彼女は俺に対し――>


「……呪具の呪い……主人公さんが解除してくれたから……

もっと助かった、だから……ありがとう」


「い、いえそんなっ!! 俺がそうしたかったからそうしただけで! ……」


<――この後

隊員全員に感謝され続け少々照れくさい時間となった俺。


ともあれ、一頻ひとしきり互いの身の上話に花が咲いた後――>


………


……



「さて、まずはどちらに向かいましょう……」


<――かじを握り締めそう言ったギュンターさんに対し

マリーンは少し慌てた様子で――>


「ち、ちょっと待って! まだ決まってないなら

その……寄って欲しい所があるの」


「はい、どちらにお寄り致しましょう? 」


「そ……その、出発前にお父さんに挨拶しておきたいから

出来たら“水の都”に寄って欲しいかなって……」


<――そうだよな。


暫くは帰ってこられないだろうし

俺だって大切な娘さんを引き連れて旅をするんだ

ちゃんと挨拶しておかないと! ……そう考えた俺は

“一度訪れた場所”と言う事もあり

何の気無しに“転移魔導での移動”を提案した。


だが――>


………


……



「……駄目よ、これから長い旅に成るんだから

そうやって無駄に魔導を連発していざと言う時に足りなくなったりしたら

全員が危険な目に合うかもしれないわ?

だから……転移よりは時間が掛かるかもしれないけど

魔導負荷がほとんど無いって言う

ギュンターさんのオベリスクに頼るべきだと思うわ? 」


「あ~……確かに、マリーンの言う通りだ

ギュンターさん……そう言う事なのでお願いしても宜しいですか? 」


「ええ、勿論お任せ下さい……しかし

マリーン様にはオベリスクが少々“鈍足”だと思われている様ですので

私めがあの国から脱出した際に使用した

能力の“片鱗”をお見せするべきではないかと考えて居るのですが……


……宜しいでしょうか? 」


<――そうマリーンに確認を取ったギュンターさん

当然この物言いに“地雷を踏んだ”と考えたマリーンは大慌てで――>


「ち、違うの! そう言う意味で言ったんじゃなくて!! ……」


「いえ……誤解無き様、ご説明をさせて頂きます。


不愉快に感じご提案申し上げた訳では御座いません――


“仲間で有る方々には、オベリスクの実力を知って頂きたい”


――そう、考えただけなのです。


ですのでお気に為さらず“深く着席”を

ディーン様……宜しいでしょうか? 」


「……ああ、許可しよう。


さて……皆しっかりと椅子に座り

肘置きをつかんでおく事をお薦めしておこう」


「えっ? ……そんなに? 」


「ええ、主人公様……“そんなに”でございますので

くれぐれもお手をおはなしに成られません様お願い申し上げます。


では……参ります。


オベリスク、第二形態


駿馬しゅんめ型”ッ!! ――」


<――瞬間

オベリスクは途轍も無い揺れと共に“変形”を始めた。


俺を含め、皆椅子から振り落とされそうになりつつも

必死にしがみつき耐え続け……暫くの後

揺れの収まりと同時に聞こえて来たマリーンの絶叫ぜっきょう――>


………


……



「……わ、私が悪かったからぁぁぁぁぁっ!!

って……もう、終わった……のよね?! 」


<――軽いパニック状態におちいりそう言ったマリーン。


だが、マリアは対照的で――>


「楽しいですね~……もう一回っ! 」


「マリア様……お楽しみ頂けた様で私めも嬉しく思っております。


本機は少なくとも後二~三形態ほど変形出来ますので

機会がございましたらご経験頂けるかと……」


「本当ですか? ……やった~っ! 」


<――ギュンターさんの説明に大喜びしたマリア。


そんな彼女に対し、思わず――>


「そういえば“転生の時も”そうだったよな……」


<――昔を思い出し、そう言った俺に対し

“あれ楽しかったですね~”と返して来た

絶叫マシーン“マニア”いや……“マリア”に若干イラッとしつつも

変形後は揺れも無く、内心ホッとして居た俺。


だが、安心していた俺の耳に聞こえて来たオベリスクの


“出力上昇音”


そして――>


………


……



「さて……目的地は水の都でございましたね?

全速力で向かいますので、皆様引き続き

しっかりと肘置きをお掴み頂けます様お願い申し上げます。


……では。


オベリスク駿馬型・全速前進ッ! ――」


<――瞬間


浮上し、急加速したオベリスクは

景色を見る余裕など与えず凄まじい勢いで爆走し続けた。


……到着までにようした時間はほんのわずかだったが

到着するまでの間、マリーンの悲鳴が

オベリスクの船内に響き渡ったのは言うまでも無い――>


………


……



「……私が悪かったからぁぁぁっっ!!!

ごめんってばぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! ……」


………


……



「……さて、到着でございます。


が……マリーン様、私めの方こそ申し訳ございませんでした。


乗り心地が“少々”悪いのが“駿馬しゅんめ型”の欠点でございまして

今後はマリーン様へ配慮させて頂きたく

緊急時以外の使用は見合わせますのでどうかお許しを……」


<――と言うギュンターさんの謝罪には全く見向きもせず


“……い、生きてるのよね?

主人公……私、生きてるのよね?! ”


……と、バキバキの目で

俺にたずねて来たマリーン――>


「ああ、生きてるよマリーン……けど、正直

俺も生きた心地がしてないかな……てか“駿馬しゅんめ”と言うよりも

“暴れ馬”に感じたんだが……」


「主人公様……申し訳ございませんでした

ですが……“暴れ馬型”は別でございます」


「あ、あるんですかッ?!

それは危なそうだ……ってメルッ?! 」


「はぅぅ~……」


<――俺達の中で一番

“こう言う状況”を怖がりそうに思えるメルが静かだったから

“意外と大丈夫なのか? ”……と思っていたら


メルは……振り落とされまいと

肘置きを必死に掴んだまま目を回していた。


それにしても……確かに凄まじい速力を有して居るとは思うが

ごくわずかな距離の移動で“これ”ならば――>


「取り敢えず……緊急時以外は使用しない方が良さそうですね」


<――心の底から思った事をそのまま口に出した俺に対し

申し訳無さそうにし始めたギュンターさん。


だが、そんな彼に対し――>


「え~? 私はすっごい楽しかったですよ?! ……もう一回っ! 」


「……だからマリアはアンコールやめいっ!!

って、さっきから大人しいけど……ガルドは平気なのか? 」


「……いや、並の事では驚かんつもりだったが

これは流石に……うぷっ!? 」


<――瞬間

強い吐き気をもよおしたガルド――>


「ちょっ?! ……状態異常治癒デバフヒールッ!! 」


「助かった……すまない主人公」


「グランガルド様まで……申し訳ございません」


<――と、深く反省している様子のギュンターさんに対し

追い打ちを掛ける様に


“二度目の筈だが……正直慣れん”


ディーンがそう言うと


“ドラゴンも……目を回してる……”


……と、続けたライラさんの横で

タニアさんが


“も、もう……らめぇ……”


……と、ヘロヘロになって居る後ろで


“今敵に襲われれば、防御出来る自信が……有りません”


そうオウルさんが言い切った事で――>


「皆様、心よりお詫びを……」


<――ギュンターさんは

完全に意気消沈いきしょうちんしたのだった。


そんな彼に対し、精一杯フォローを入れつつ――>


「……そ、そもそも緊急用ですし?!

不満が出る位で丁度だと思います!

むしろ、それ程の性能を持ってる事を誇りましょうギュンターさん!


っとマリーン! ……お父さんに挨拶しに行こうか! 」


<――実は我慢していた“吐き気”を治癒する為

一刻も早く下船しようとしていた俺。


ともあれ――>


………


……



<――下船後

こっそり治癒魔導を発動し無事に吐き気をおさえた俺は

遅れて降りて来たマリアに対し――>


「……今日はマリーンのお父さんに挨拶するんだから

さっきまでの浮かれ気分はおさえて真面目にな」


<――と、まるでマリアの父親みたいな口調で注意したのだった。


だが、そんな中――>


「流石に心得て……って。


あれって“お墓”……ですよね? しかも人が沢山居ますけど……」


<――そう言ってマリアが指差した場所には

大きな石碑の様な物が建てられて居て――>


「ほ、本当だ……行ってみよう」


<――この後

近づくにつれてその姿がはっきりと見えたその“お墓”は

湖のほとりに建てられた、とても立派な“慰霊碑いれいひ”だった。


……慰霊碑いれいひには水の都の王の名前“アルフレッド”と

この場所で命を失った民達の名前が数多くきざまれており

慰霊碑いれいひの前では

既に数十人程の水の都出身者達が祈りを捧げて居た――>


………


……



「……改めて見ると凄い人数だ。


……あの時、俺がもっと上手く動けていたら

この人達もマリーンのお父様も御存命だったのかと思うと

正直、胸が苦しいよ……」


<――石碑に連なる名前の多さに驚き

思わずそう口にしてしまった俺に対し、マリーンは――>


「そうかもね……でも、私は貴方の必死さを見てたし

そもそも貴方が助けてくれなかったら、私達は全員……


……だから気にしないで、とても感謝してる」


<――そう言って

俺などよりもはるかに大人な対応をしてくれた。


そんな中、俺達に気づいた一人の老齢な民は

マリーンの元へと近づき――>


「マリーン王女様……もしや

王へご挨拶にお越しになられたのですか? ……」


「……ええ、あなた達がこの墓を? 」


「はい……国王様亡き後

長らく苦しんで居られたマリーン王女様とマリーナ女王様の為

なによりも失われた者達への慰霊の為……皆で協力し

ドワーフ族やオーク族に頼み込み、ようやっと

この様に立派な慰霊碑いれいひを建てる事が叶いましてございます……」


「そうだったのですね……本来ならば王女である私が

あなた達よりも先に気付き動くべきであったと言うのに……苦労を掛けました。


仮にも王女だと言うのに有るまじき体たらく

この通りです……わたくしを許して下さい」


<――そう言って民達に向け深々と頭を下げたマリーン

だが、老齢な民はこれに慌て――>


勿体無もったいのうございます! ……頭をお上げくださいませ王女様っ!!!


……王女様も女王様も我々民の為に日々忙しくして居られました

ですから、私共も何か協力をさせて頂きたく思い慰霊碑を立てたのです。


もしそれでもまだ王女様が心苦しいとおっしゃられるのであれば

その気持ちは、亡くなった者達への祈りでお返し下さればと……


……恐れながら思っております」


「そう……ですね。


……私は駄目な王女です

民にこれ程気を使わせてしまうなんて。


民達よ……私は暫くの間、この国を離れ旅に出ますが

帰国のあかつきには貴方達の誇れる王女として、少しでも成長し

皆の元へ帰って来る事をこの慰霊碑いれいひに誓いましょう……」


「王女様……どうかお気をつけ下さいませ

貴女様がご無事でお帰りに成られる事だけが

我々民の心よりの願いでございます……」


「ええ……貴方達の愛に感謝します

貴方達が私の民で有るお陰で、私は誇りを持って旅立つ事が出来ます。


日々、貴方達が健やかである事を祈り旅を続けましょう。


さぁ、皆で慰霊碑いれいひに祈りを……」


<――この日


俺達はマリーンの“王女”としての立場と

その立ち居振る舞いを目の当たりにした。


……その迫力に圧倒されつつも、マリーンを尊敬そんけい

マリーンの民をおもう姿に神々しい何かを感じつつ

俺は、彼女と共に慰霊碑いれいひへと祈りを捧げた――>


………


……



「……良い祈りでした

父にも、民の皆にも届いた事でしょう……しばしの別れですが

私は貴方達の平穏無事を祈っています。


行きましょう……主人公」


「あ、ああ……もう良いのかい? 」


「ええ……これ以上ここに居たら、皆に泣き顔を見せてしまいそうなの

だから、早く……」


「……分かったよマリーン。


……皆様!!

王女様は俺が責任を持っておまもり致しますのでご安心を!


では! ……」


「ええ……お任せ致しますぞ主人公様」


<――この後

暖かく見送られた俺達は、笑顔で水の都を後にした――>


………


……



「……皆様、心より感謝申し上げます。


これで私も純粋な気持ちで旅が……って。


ごめんなさい、王女の話し方が抜けないわね……」


<――そう言って少し照れたマリーン。


だが――>


「なぁ……俺、マリーンが言う様に

王女として駄目だとは思えないし

むしろ今日のマリーンは凄くりんとして見えた。


嗚呼、マリーンって王女様だったんだ

俺達には砕けて話してくれるけど、本来仲間として迎え入れている事自体

光栄なんだよな……って思う位に! 」


「ちょっ……て、照れるからそんなに褒めないでよ!

そっ、それより! 早く目的地決めましょうよ! 」


「いや、そうは言っても地図的な物が無いと

一体何処に行けば良いのかが……」


<――と悩んで居た俺に対し

ディーンは――>


「……しらみ潰しに探すのであれば

手当たりしだいに様々な国へと出向けば良い話だ。


それに、地図ならばある……まずはこの国を目指そう。


とは言え、このままでは目立ってしまう……ギュンター、任せる」


「承知致しました……では。


オベリスク“隠密型”――」


<――瞬間、またしても変形を始めたオベリスク。


だが――>


「おぉっ?! ……って、さっきよりは揺れが少ないですね」


「ええ、隠密型は文字通り“隠密用”でございまして

戦闘力は少々落ちますが、悪目立ちはしないかと……では。


隠密型、微速前進――」


<――直後

ギュンターさんの命令によりオベリスクは馬車程度の速度で進み始めた。


とは言え、色々と便利過ぎるオベリスクに――>


「成程……形状変化して偽装する事で

威圧感満載なオベリスクの存在を気取られない様にしてるって事ですね!

“能ある鷹は爪を隠す”って感じがして好きです。


本当に羨ましいなぁ……」


<――と、羨ましさ全開に成っていた俺。


だがその一方で――>


ただ、一つ疑問が有るんですが……」


「……何で御座いましょう? 」


「その……どれだけ形が変わったとしても

外から見たら馬車以外の形をした

“巨大で異質な乗り物”だと思うんですけど

そう言った面で、面倒事に巻き込まれたりしないんですか? 」


「いえいえその様には見えておりません、隠密型の特徴は……」


<――とギュンターさんの説明を聞いていたら

前方に荷馬車強盗らしきぞくが数名現れた。


彼らはオベリスクの進路をさまた

武器で威嚇をしていたのだが――>


………


……



「これはこれは……強盗に狙われる程

“か弱い荷馬車”に見えて居る様です……ディーン様

対応はどの様に致しましょうか? 」


「……奴ら程度にオベリスクの火力は目立ってしまう。


タニア……任せた」


「ハッ! ――」


<――直後

命令を受けたタニアさんはオベリスク後方より飛び降り

か弱い少女の様な態度で、賊共へと近付いた――>


………


……



「ん? 何だぁ? ッテ……かぁ~わいい姉ちゃんだなぁおい!

金目の物を寄越よこしな! そしたら命は助けてやるよ!

それか俺達と良い事しようぜ姉ちゃんよぉ! 」


「……ご、ご勘弁を。


荷馬車には病に倒れた両親が居るだけです

急いで隣町の病院へ連れて行かなければ……それに

価値のある物など、この馬車には……」


「……っるせぇよ!

ならお前だけでも貰ってやるだけの話だ! ……来いっ! 」


「いやっ! ……離してっ! 」


「へぇ~? ……離して欲しいのか?

……なら、俺達と気持ち良い事しようぜ?

そうすりゃ離してやらなくもないぞ?

どうだ? ……嬢ちゃんよぉ~っ! 」


「み、皆さんを気持ち良く……そっ……そんな!

皆さんをって言っても……そ、その……一体何人をお相手に……」


「何人って……見ての通り俺達ゃ~四人だぜ!

俺達全員が満足したらここを通してやるよ!


……どうだ? 病気の両親を助けてやりたいんじゃないのかぁ~? 」


<――其処までを聞いた瞬間

タニアさんの態度はガラリと変わった――>


………


……



「では、これで“全員”と言う事ですか。


なら簡単な話ですわね――」


<――瞬間

タニアさんは盗賊達の視界から消え――>


「何っ?! ……ど、何処だっ?! 」


………


……



「……此方ですわ?

それにしても、素直に引いておけば良かった物を……」


<――慌てて周囲を見回す盗賊達に対しそう言ったタニアさん。


彼女は既に、遥か遠くの高台に移動しており

その場所で前に見た“吹き矢の様な構え”を見せた……直後


盗賊達は跡形も無く溶け去った――>


………


……



「……本当、世の中の男って腐ってますわね

素敵なのはディーン様と……主人公さん位かしら? 」


《――静かにそう言うとオベリスクへと帰還したタニア。


だが……一連の動きを目撃した主人公は呆気あっけに取られており

わずかながらタニアの戦法に恐怖して居て――》


………


……



「ディーン様……排除完了致しました」


「ああ、毎度の事ながら見事な手際だ」


「いえ、恐れ入ります……」


<――毎度の事?

ひょっとして何時もあんな怖い対処方法なのだろうか?


……と、少し恐怖を感じていた俺は

この瞬間、とても失礼な発言をしてしまった――>


「えっと、その……タニアさんを怒らせたら

ヤバそうだなって思いました……」


「その……お目汚し失礼致しましたわ」


<――この瞬間

ほんの一瞬ではあったがタニアさんは悲しそうな顔をした。


見覚えのある目……


……“悪口を言われた”人間の目だ。


良く考えれば分かった話だ……彼女を含め

ディーン隊の皆は母国で“汚れ仕事”を強要されていた。


彼女達に取って、一度でもチャンスを与えたこの対応は

まだ優しい方だったのだ……俺は

転生前の常識だけで彼女達の事を見ていた。


一刻も早く謝らなければ――>


………


……



「そ……その……あんな奴らを野放しにしていたら

タニアさんの様に対処出来る力を持って居ない弱い立場の人達は

危ない目に会い続ける事になる筈で……いや

俺が今言うべきはこんな事じゃない!


……タニアさん。


本当に……本当に申し訳有りませんでしたっ!!! 」


《――言うや否や

タニアに対し土下座をした主人公――》


「なっ!? ……主人公様?! 何故その様な事を?! 」


「……貴女の行動は何も間違って無いのに

俺は軽はずみな考えで貴女に失礼な発言を……どうかお許しください!! 」


《――主人公は床に頭を擦り付けるかの様にしてそう言った。


その一方で――》


「……い、いえそんな!

確かにあの技の見た目は決して美しい物では有りませんし

今度からは他の技を使いますから……その

完全にお認め頂ける様な綺麗な技を……」


《――そう言って主人公を気遣ったタニア。


だが、そんな彼女に対しグランガルドは――》


「タニア殿……技に綺麗や汚いの貴賤きせんは無い。


結局の所、相手をあやめる類の技はけがらわしく有るべき物。


私利私欲の為に悪用した訳でも無い

むしわきまえず引かなかった奴らの失策だ。


……タニア殿が気に病む事など無い筈。


吾輩の賛辞で少しでも気が軽くなるのであれば

“よくぞやった”と……褒めたたえよう。


主人公……既に分かっては居るだろうが

以後は気をつけて物を言う事だ……」


「そ、それは光栄でございます……で、ですが

私も流石にその……照れてしまいますので……その……

……もう、ご勘弁下さいませっ! 」


《――手際としてならば兎も角

今まで決して褒められる事など無かったみずからの技術に対する

始めての“賛辞”に、彼女は頬を赤らめ照れていた。


そして――》


「……無論、私もタニアの技は素晴らしいと思っている

恥じる事など微塵みじんも無い、誇るべき技術だ。


其処まで喜ぶのならば……常日頃

私も少しは褒めておくべきだったと後悔している所だ。


……さて、主人公よ

タニアももう気にはして居ない様だ、そろそろ頭を上げ……」


《――と主人公かれに対し頭を上げる様うながした瞬間


突如として苦しみ始めたライラ――》


………


……



「ド……ラゴンっ……だめっ! ……」


《――そう言い残し

慌ててオベリスクの外へと飛び出したライラ……そのただ成らぬ様子に

彼女を追い下船した一行……だが


次の瞬間――》


………


……



「……ギュオオオオオオオオオオオオオオン!!!!! 」


………


……



「だ……めっ……! 」


《――ライラの命令を受け入れず

突如として彼女の体から飛び出したドラゴン。


……ひどく興奮し

一頻ひとしきり周囲を飛び回った後


巨大な魔物を発見すると、魔物目掛け急降下し


その喉元に喰らいついた――》


………


……



「何……してる……のっ……! ……」


《――なおも呼び掛け続けて居たライラ。


だが、一連の様子を見ていたメルは――》


「あ……あのっ!

あれって、魔物を……食べてるのではっ? 」


《――彼女の言う様に、冷静に見れば

ドラゴンはただ魔物を捕食して居るに過ぎなかった。


だが……妙にえ、一心不乱に魔物を振り乱しながら

凶暴な姿で捕食する姿を見たライラは悲しんで居た――》


「なん……で……何でッ!

……戻って……お願い……ドラゴン……」


《――彼女がどれ程呼び掛けようとも

見向きすらせず魔物を喰らい続けたドラゴン。


……暫くの後、食欲が満たされたのか

一頻ひとしきり周囲を飛びまわった後

ドラゴンは何事も無かったかの様に彼女の体へと戻った――》


………


……



「何……で……何でッ……」


《――ひどく落ち込み

うつむいたまま静かに涙を流し始めたライラ。


そんな姿をただ見守る事しか出来なかった一行……だが


何かを思い出した主人公は、ライラに対し――》


………


……



「……あれだけ冷静に“必要部位をり分けた”ドラゴンが

魔物を食べる為に命令違反?


そんなに腹が……ってまさか!?


……ライラさん、本当に申し訳ありませんでした

今のドラゴンの行動は、恐らく……俺の所為です」


「何? ……どう言う事だ主人公ッ?! 」


<――言うや否や俺の胸ぐらを掴んだディーン


ライラさんの悲しみの原因が俺に有ると知った彼は

見た事が無い程に激昂げきこうして居た。


だが――>


………


……



「い、いや……ディーン達の呪いを解いた時

ドラゴンのライラさんに対する“吸収行為”を

出来ない様に禁止設定したのは覚えているだろ? 」


「……確かにそう言って居たがッ! ……いや、成程。


済まない主人公……いささか冷静さをいた態度を許してくれ」


「仲間の事に真剣になるのは普通だ……気にして無いよ。


兎も角……あの時、固有魔導のお姉さんが

“定期的に餌やりが必要”って最後に言ってたのをすっかりと忘れてた。


だから……俺の所為だよ。


……ライラさん本当に申し訳有りません

俺の所為でライラさんがこんな悲しい気持ちに……」


「……ううん、大丈夫。


ドラゴンと私が……無事なのは……主人公さんの……おかげ。


だから気に……しないで」


「……で、でも!!

このままではライラさんの心が苦しいままですし、俺に何か! ……」


「……まぁ待て主人公。


これから先、多かれ少なかれ依頼を受け魔物を相手取る事はある筈

必要部位以外の残りをドラゴンに与えて居れば問題には成らない。


そもそも、今回の一件は不幸な事故の様な物だ。


……ライラ、あまりドラゴンを責めてやるな

ただ腹が減っていただけだ

決してお前の事を嫌いになった訳では無い」


「はい……ディーン様……

これからは……ドラゴンにご飯……食べさせます……」


《――原因を知り、少し落ち着いた様子のライラ。


暫くの後……一行はオベリスクへと戻り

改めて第一の目的地へと進み始めた――》


===第四十一話・終===

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