第四十話「楽しく笑顔で旅立ちを」
《――旅に備え
最大限回復する為、部屋に籠もり続けて居た主人公。
だが、突然の“旅立ち宣言”から後
彼の元を訪ねて来た異種族は一人としておらず
ある意味不自然な政令国家での日常はあっと言う間に過ぎ去り
一週間後の朝、彼は旅立ちの日を迎えて居た――》
………
……
…
「はぁ~っ……一週間出歩かずに食って寝ての生活は
ある意味幸せで、ある意味……病んでるな」
「そうだな主人公……自堕落に見えなくも無い
だが、長い旅と成るやも知れんのだ……回復が優先であろう」
「ああ、そうだね……って今更だけどガルド
“宣言”からだけど、何故俺達の部屋で寝泊まりし始めたんだ? 」
「何? ……生涯の友に付いて行くと言っただろう?
寝食を共にするのは生涯の友として当然の事だ」
「そうなのか……俺もまだ知らない事が多いみたいだ
失礼な事をしない内に、旅の道中“生涯の友”について色々教えてくれ」
「勿論だ……吾輩も主人公の望む事、望まざる事を知っておきたい」
《――そう話す二人の元へメルが現れた。
だが――》
………
……
…
「あ、あのっ……おはようございます主人公さんっ!
そ、それと……グランガルドさん……そのっ……あのっ!
出来れば服をっ……着て頂けると……助かりますっ!! 」
《――メルは鞄で顔を隠しながら
“素っ裸のグランガルド”に対しそう頼んだ――》
「……そう言えばそうだった、俺は気にしてなかったけど
まさかガルドが真っ裸で寝るとは思ってなかったよ。
その……女性陣には刺激が強いし
これからはちょっとだけ気遣い頼んでもいいか? 」
「うむ……これは大変失礼をした、以後気をつけよう」
《――この後“足早に”一階へと降りて言ったメルと入れ替わる様に
部屋へ訪ねて来たディーンは――》
………
……
…
「主人公……今日は色々と忙しい一日になる
早急に準備を整え、作戦を円滑に……いや済まない、つい癖が出てしまう。
朝食は頼んでおいた、我々は下にいるから早く降りて来ると良い」
「流石ディーン! ……気が利くぅ~っ!
すぐに行くよ! ……ありがとう! 」
《――暫くの後
旅立ちの準備を整えた一行はヴェルツでの最後の朝食を取り始めて居た。
だがその一方で、ミリアは憤慨して居て――》
………
……
…
「しかし、一気に皆が居なく成るなんて寂しくなるよ……
……にしても何だいッ!
エルフもダークエルフも獣人もオークもドワーフも
この一週間全く主人公ちゃんに会いにも来ないなんて薄情な!
まぁ良いさ……ウチは主人公ちゃんのお陰で立派な店に成ったんだ
あたしからの選別は料理や食材位しか用意出来ないが
主人公ちゃん達の事を考えて選りすぐりの食材ばかりを
ありったけの量用意したからねっ! ……受け取ってくれるかい? 」
《――直後
凄まじい量の食材や料理を持ち出しそう言ったミリア――》
「凄い量だ……本当に宜しいんですか? 」
「……勿論さね!
せめて食べ物には困らない様に旅を楽しんで欲しいと思ってね」
「ミリアさん……ありがとうございます。
でも、そうなると俺からも何かお礼がしたいな……ってそうだ!
……ミリアさん、ゲームならどれがお好きですか? 」
「何だい藪から棒に……ゲームかい?
それなら……オセロかねぇ、旦那とよく遊んでるからねぇ」
「成程……ではオセロの“権利”はミリアさんにお譲りしておきますね! 」
「何でだい?! ……まさか
帰ってこないつもりじゃないだろうね?! 」
「へっ? ……そ、そうではなくてッ!!!
その……ミリアさんには最後の最後までお世話になりっぱなしですし
常々俺からも何かミリアさんにお返しをしなければって思っていたんです。
それに……“五〇万金貨”の借りを返さずに
無責任に旅立つのだけはどうしても避けたいんです。
ですから……どうか受け取って下さい。
……権利を譲渡した件については
後ほどガンダルフに伝えておきますから」
「主人公ちゃん……何処までも素直な良い子だねぇ。
そんな素直な子だから
あたしも何かしてあげたく成っちゃっただけさね。
……分かった、素直に受け取っておくよ。
その代わりと言っちゃ変だけど
帰ってきたら一生涯ウチでの衣食住はタダだ
だからちゃんとウチに帰って来なよ? ……良いね?
……約束してくれるかい? 」
「ええ! ……その時は力いっぱい甘えます! 」
「よし! ……なら受け取っておくよ!
だけど本当に寂しくなるねぇ……何時でも帰って来なよ?
……旅が辛かったらこっそり部屋に“転移”して良いんだからね?
主人公ちゃん達の部屋は誰にも貸さず置いとくからさ」
「ミリアさん……本当にありがとうございます。
って言うか俺、失礼かもしれませんが……ミリアさんの事
何時の日からか、その……母親の様に思ってました。
だから正直、凄く寂しいです……旅に出る事を後悔する程。
……で、でもッ!!
俺、旅で少し強くなって帰ってきますから!
絶対に一番に“ただいま! ”って……言いに帰って来ますからッ! 」
《――大粒の涙を流しながら
唯ひたすらに懸命にミリアへの感謝を伝えた主人公。
そして……そんな不器用でなりふり構わぬ純粋な愛に答えるかの様に
ミリアはそっと主人公を抱き締めた――》
………
……
…
「お母さんって……呼んだって良いんだよ? 」
「……今そう呼んでしまったら旅に出たくなくなります。
帰って来た時、呼びます……必ずっ! 」
《――ヴェルツでの別れを済ませた一行
そして……それぞれの大切な者達との別れを済ませる為
一度解散し、ギルドの前で落ち合う事を決めた。
……それぞれが別々の方角へと向かう中
エリシアの元を訪ねる為、主人公はギルドへと向かった――》
………
……
…
《――ギルド二階
エリシアの自室へと訪れた主人公――》
「主人公っち? ……入って良いよ」
「失礼します、約束通りご挨拶をと……」
「うん……色々言いたい事とか話したい事は有るけど
その前にまず一つ謝る……ごめん。
主人公っちが気に入ってくれてる“喋り方”する余裕……全然無いや」
「……そ、その……俺も正直寂しくて
何喋って良いか分からない位なんで……」
「うん、私もだよ……
……それで、主人公っちに図々しいお願いしたいんだけど
これを……もし主人公っちが旅の途中で
ある場所に立ってる“お墓”を見つけたら供えて欲しいの。
……頼んで良いかな? 」
《――そう言ってエリシアが主人公に手渡した物は
とても古いネックレスと、ごく僅かだが
魔導力を感じる小さな木の欠片であった――》
「良いですけど……“ある場所”とは? 」
「……私の師匠のお墓、多分一緒に……友達も眠ってると思う」
「そうですか……この国から遠いんですか? 」
「ごめんね……私は覚えてないの。
……何故場所を覚えてないのかは分かんなくて
だけど、思い出そうとすると頭が痛くなって……本当にごめん
旅立ちの日に変な事頼んじゃって……でも。
きっと主人公っちなら見つけられる気がするの……だから、お願い」
「ええ……分かりました。
差し支えなければ、師匠さんのお名前か
お友達のお名前を聞いても宜しいですか? 」
「うん……師匠の名前はヴィンセント
友達の名前は……多分、ヴィオレッタ」
「お二人とも素敵な名前ですね……必ずお供えします」
「うん、ありがとう……お願いはそれ位かな?
ごめんね、こんな暗い顔でこんな面倒な事頼んじゃって……」
「いえ、エリシアさんの気持ちが晴れるなら俺はそれで大丈夫です。
それより、いきなり旅に出る事を
何の相談も無く決めてすみませんでした……
……大臣の職を三つ兼任してる人間がやって良い行いじゃないですよね。
引き継ぎみたいなのも出来てないですし、迷惑ばかり掛けて……」
「……そんなの良いの良いの!!
国民なんて主人公っちの苦労の一パーセントも
理解していないのが殆どなんだから!
寧ろ主人公っちがそうやって
自分のやりたい事を選べてる事の方が私は嬉しいんだよ?
あと……ちょっとだけ“羨ましい”かな?
正直、珍しい薬草とかあったら持って帰って欲しい位なんだけど……
……多分途中で枯れちゃうよね。
てか、主人公っちって“おっちょこちょい”だから
触ると危ないのとか鷲掴みしちゃいそうだし……
……やっぱり止めといた方が良いかもね! 」
「あっ! ……酷いッ!
俺そんなに“おっちょこちょい”じゃ無いですよ!
……でも、エリシアさんに薬草の知識量で勝てる人なんて
見つける方が難しいと思います。
だからエリシアさんから見たら
皆“おっちょこちょい”……なのかもしれないですね! 」
「……ありがと。
元気付けるつもりが私が元気付けられちゃったや……っ……」
《――そう言うと一筋の涙を流したエリシア。
そして……それを隠す様に俯くと、そのまま主人公へと近づき
彼に対し別れの抱擁をした――》
………
……
…
「……早く帰っておいで、また薬草一緒に取りに行きたいし。
主人公っちみたいな子が居ないと
この国は、宛ら“引っこ抜いた草花”みたいに
あっと言う間に枯れちゃうんだから……だから。
私達が枯れない内に帰って来てね……」
「はいっ……はいッ!
エリシアさん……俺“花咲かじいさん”みたいになりますからッ! 」
「何だよそれっ……意味分かんない!
けど、良い響きじゃないか……でも
本当に“おじいちゃんに成る”位帰って来なかったら私だって怒るからね?!
……もう、行って良いよ。
その……長く引き止めてごめんね」
「……ちょっと旅に出るだけです
捜し物を見つけに行ってくるだけですから……
……見つかりそうに無かったら帰ってきますし
見つかったら切り上げてもっともっと早く帰って来ますから!
ですから……もう、そんなに悲しまないでください」
「うん……早く帰って来てね。
暫くは魔導通信で連絡取れるだろうし
毎日じゃなくても良いから、たまには連絡してね? 」
「はい、必ず……じゃあそろそろ行きます!
帰って来たら薬草取りに行きましょうね! 」
「うん! ……泊まり込みで採集しに行くぞ~っ! 」
「望む所ですっ!! ……では、行ってきますっ!! 」
「うん! またねぇ~っ! ……」
《――涙を拭い
エリシアに精一杯の元気な顔を見せながら彼女の部屋を後にした主人公。
……その後、彼が階段を降りて行く音を確認すると
紙に何かを書き始めたエリシアは……それを扉の外に張りつけた後
部屋に戻り椅子に顔を埋め、声を押し殺す様に咽び泣いた。
扉に貼られた紙には――
“絶対に入るな!”
――と
なぐり書きで書かれて居た――》
………
……
…
「……最悪だ、寂しさがだんだん酷く成って来た
エリシアさんにも相当お世話になったし、正直……別れが辛かったよ」
《――別れの余韻が残る主人公は
既にギルド前で待って居たグランガルドとメルに対しそう言った――》
「私も……お母さんと離れるの、本当に寂しいですっ……」
<――そう言って涙を流したメル
そして……そんな姿を見た俺も貰い泣きして居た。
だが、そんな俺達に対し
ガルドは励ましの言葉を掛けてくれた――>
「……永久の別れと言う訳でも無い
再会した時の喜びを楽しみに“待っている”と考えるのだ」
「……ありがとうガルド、少し勇気が出たよ。
って……それにしてもマリアが遅くないか?
“ガンダルフさんの所に挨拶に行ってきます! ”
……とは言ってたが
えらく長い事掛かってるし、まさかゲームでもして遊んでるのかな? 」
<――と噂をしていたその時
残念そうに帰って来たマリア――>
「何でだろう、どうしてだろう……」
「お帰りマリア! ……ってどうしたの? 」
「それが……何故か皆さん一人も居ないんです。
あっちこっち探してたんですけどドワーフ族自体一人も居ないんです
しかも居住区までもぬけの殻だったので
旧居住区まで探しに行ったんですけど、やっぱり居なくて……
……仕方が無いので帰ってきました」
「何? ……何かあったのか?
でも何かあったなら流石に俺にも連絡が来そうだけど……」
<――そう悩む俺に対し
メルも同じ様な事を言い出して――>
「……そ、そういえば! お母さん以外のダークエルフ族さん達も
エルフ族さん達も居ませんでしたっ! 」
「えっ……どう言う事だ?
……俺達が旅に出るって日に全員居ない?
特にエルフ系種族は森が一番って言ってたよな?
何で居なくなってるんだ? ……」
<――と悩む俺の横では
ガルドまでもが――>
「吾輩も……最後の別れを済ませる為居住区を訪れたが
やはりもぬけの殻だった」
「……おかしい、何でみんな居ないんだ?
まさか、俺が居なく成るからって途端に変なのが政治家になって
みんなを追い出したりした訳じゃないだろうな?
ちょっと確認を取るよ……魔導通信、ラウドさん」
………
……
…
「主人公殿、今日じゃったな……寂しくなるのぉ……」
「……ええ、そんな事より
各種族が各居住区から消えたと言う話を聞きました。
もしかして……何かあったんですか? 」
「ん? ……その件に関しては黙秘するぞい。
じゃが安心してくれて良いぞぃ?
皆御主が心配する様な事に巻き込まれている訳では無いぞい」
「……本当ですか? 」
「安心せいと言うて居るじゃろうに! ……全く
わしには信頼が無いのかと少々ショックを受けるぞい? 」
「い、いえ……申し訳ありません。
ここの所色々あり過ぎて疑心暗鬼に……でも
ラウドさんが問題無いと仰るなら信じます。
そもそも旅立つ前に一度連絡をしておかないとって思ったのもありますし」
「うむ、そうじゃろうと思って東門で待っておるぞい」
「本当ですか!? ……最後に顔を見られるだけでも嬉しいです」
「うむ、わしもじゃよ! ……さて、これ以上は東門で顔を合わせて喋るぞぃ! 」
「はい! ……では通信終了! 」
………
……
…
「――何か異常がある様な喋り方では無かったけど
明らかに何かを隠しては居た。
気にはなるけど……顔を見て判断するべきか」
<――そう判断していると
マリーンが俺に対し――
“主人公って時々怖い位冷静よね……”
――と言った。
何とは無くその雰囲気に違和感を感じた俺は――>
「いや……大切な人達の一大事かと思ってね
少し過敏なのかもしれないけど……所で
マリーンの所は“もぬけの殻”に成ってなかったの? 」
「さ、さぁ? ……どうかしらね! 」
<――この瞬間
マリーンは妙に余所余所しく成った――>
「何か知ってる顔をしてるな……マリーン。
教えてくれないと……泣いちゃうぞ?! 」
「なっ!? ……泣けばいいじゃない! 泣いたって絶対言わないからッ! 」
「“言わない”……と言う事は何か知ってるって事か」
「はっ?! ……嵌めたわね!? 」
「……隠してる事が俺に取って損なのか得なのかはどうでも良い。
全員無事で何も問題は無いんだな?
……問題が少しでもあるなら
俺は旅を先延ばしにしてでも全力で皆を助けるつもりだ。
その邪魔をするならマリーン……君でも許さない。
……本当に問題無いんだな? 」
「ちょ、ちょっと?! ……そんなに怒らないでよ!!
……当然でしょ?
仮にお母さんに何かあったら私が冷静で居られないわよ!
それにしても……主人公少し優し過ぎよ?
自分の事を棚に上げて人の心配ばかりしないでよね?
貴方だって大切な人なんだから……」
「ありがとう……でも、俺は
俺の事を大切にしてくれた人達を心配せずには居られないだけだよ。
まぁ、何とも無いなら良い……ラウドさんも待ってる事だし東門に行こう」
「え、ええ……行きましょ」
《――この後
東門へと向かった一行……だが、到着後
ラウド大統領は何故か領土内では無く東門の外に一人で立っており
一行に手招きをしながら満面の笑みを浮かべていた。
当然、その行動に違和感を感じた主人公は
警戒心を顕に近付き――》
………
……
…
「お~主人公殿~! こっちじゃよ~! 」
「……何を下手な演技をしてるんです?
気持ちの悪い態度は止めてくださいラウドさん」
「ううむ……なぜそんなに警戒しておるんじゃね? 」
「当然ですよ……異種族も水の都の民達も居らず
国民の半分……特に、俺に反対した人達だけが国の中にいる状態とか
妙を通り越して気持ちが悪いですよ。
……一体何があったんです?
まさか魔族に……」
《――と、ラウドに対しても疑いの眼差しを向け始めた主人公
だがその時――》
「全く……最後まで疑われるとはのう。
少し早いが今じゃ! ……せーのっ!!
それぇぃ!!! ――」
………
……
…
《――瞬間
ラウド大統領の合図に依って
東門の外に新しく建てられた“何か”を覆う為の巨大な幕が外された。
……突如として一行の眼前に現れた巨大な建造物。
それは……急ごしらえの“櫓”であった。
櫓の上には、主人公らを見送る為か沢山の人々が待機しており
ラウド大統領の掛け声に合わせ、主人公らに対し――》
………
……
…
「主人公御一行様……楽しい旅をっ!
体に気をつけて、一刻も早く帰って来てくださいね! 」
《――そう言って手を振り
彼らの旅立ちを最大限祝福したのだった――》
………
……
…
「み……皆さん?! 」
《――そう驚く主人公に対し
微笑みながら――
“ふふふっ♪ ……驚いたかしら? ”
――と訊ねたマリーン
続いて――
“苦労しました~! 私に演技をさせるなんて……苦手なのに! ”
――マリアがそう言うと
申し訳無さそうに――
“そ、そのっ……私も実は知ってましたっ!
ごめんなさいっ! 主人公さんを喜ばせようと思って、つい……”
――メルがそう言うと
グランガルドは――
“うむ……勘の良い主人公が
吾輩の嘘の矛盾点に感づくのではないかと肝を冷やした……”
――と、胸を撫で下ろしながらそう言った。
一方、この予想外な出来事に――》
………
……
…
「み、皆……俺達の為に?
俺達に……こんなにも手間を掛けてくれたのか?
マジ……かよ……」
《――言うや否や、緊張の糸が解れたかの様に号泣し始め
その様を見た者達は主人公に対し一斉に謝り始めた。
だが、主人公は泣きじゃくりながらも皆の謝罪を制止し――》
………
……
…
「……違う……違うんだ皆ッ……
……俺……俺っ!
こんなに沢山の誰かに祝福されたり、大切にされた事が無くて……
……俺、余りにも嬉しくて……こんなの……卑怯だよ……っ!!
……寂しいじゃないかっ! 皆と離れるの……辛くなるじゃないかっ! 」
「済まなかった主人公、お前を驚かせ、喜ばせるつもりが……」
《――主人公の元へと駆け寄り
彼の背中を擦りながらそう言ったオルガ。
そして――》
「ああ、男泣きとは言え済まない事をした様だ……」
《――同じく彼の元へと駆け寄り
申し訳無さそうにそう言ったクレインに続く様に――》
………
……
…
「主人公さん……私達だって、貴方と離れなければならない事は
例えそれが少しの時間だとしても寂しいのです。
ですから……その寂しさを紛らわせる為
これをお送りします……ですから、寂しい時はこれを着て
一瞬でも私達の事を思い出してください。
……私達も皆様の事を思い出す時
皆様がこれを着た姿を思い出し……お戻りに成られる日までの間
訪れる寂しさに耐えられるだけの“嬉しい記憶”が欲しいのです」
《――そう言ってガーベラの手渡した物は
主人公を含めた全員への“和装”のプレゼントであった。
無論、唯の和装では無く……
……エルフ族に伝わる様々な紋様や
エルフ族の服装のデザインが取り入れられた
なんとも珍しく、且つ美しい
新しい“和装”の姿であった――》
………
……
…
「……こんなに素敵な和装は初めて見ました。
俺、大切にします! ……早速皆さんに着た姿を!! 」
《――直後
急いで袖を通し、誇らしげに見せた主人公に対し――》
「やはり……とてもお似合いです
たまにで良いので袖を通してあげてくださいね」
「いやいや! たまにと言わず毎日でも着たいですよ!
着心地も良いですし……本当に嬉しいです!
これはもう……家宝ですね! 」
《――そう、ガーベラに対し最大限喜んでみせた主人公。
一方……そんな彼の姿を眺めて居たクレインは
妻であるミラに対し――》
「そうか、贈り物の時間なのだな……ミラ、あれはどうした? 」
「ええ、此処に……主人公さん、これをどうぞ」
《――そう言ってミラの差し出した物は
宝石の様な物で作られた大きな“輪”で有った――》
「えっと……この大きな輪は一体? 」
「……主人公さんに訪れた最大の危機に
身代わりと成ってくれる効果のある輪です。
懐に入れて置く事で効果を発揮しますから
肌身離さずお持ちに成って居てくださいね」
「そんな凄い物……貰って良いんですか? 」
「ええ、主人公さん達の為にお作りしたのですから是非」
「ありがとうございます……ただ
何だか貰い過ぎて気を使っちゃいますけど……」
《――恐縮する主人公
だが、この場に集まっていた異種族の長達は
皆続々と彼にプレゼントを手渡し始め――》
………
……
…
「……何を水臭い事を!
わしからも御主にプレゼントじゃ! ……ほれっ! 」
「ん? これは! ……ってガンダルフ。
何で“ペアリング”なんだ? ……まさか
“俺”と“ガンダルフ”のだ! ……って言わないよね? 」
「違うわいっ!!! ……気色悪い事を言うで無い!!
御主が“マリーン殿にもお揃いを買う”とか何とか言っておきながら
未だに手に入れておらんかったから……気を使って作ってみただけじゃ! 」
「あぁ成程! ……ありがとう!
じ、じゃあ……その……マリーン
遅くなったけど……許してくれるかい? 」
「ええ……指にはめてくれたら許してあげる」
「へっ?! ……わ、分かったよ!
ってあれ? 此処じゃないな……此処でもない……あれ?
この指輪……薬指にしか合わないぞ!? 」
「別に薬指で良いでしょ?
それより……何で“左”じゃなくて“右”にしたのよ? 」
「へっ?! いやそれは流石にほらその……」
「まぁ……許してあげる
主人公が私の左手薬指に着けさせたく成るまで……私、待ってるから」
「そ、それは……って、何か恥ずかしいからやめてくれよ~ッ! 」
《――そう慌てる主人公に対し
マリーンの母、マリーナは――》
………
……
…
「……娘の事、宜しくおねがいします。
これは“嫁入り道具”としてお受け取りを……」
「ちょっ?! ……今完全にプレゼントの意味を変えましたよねッ!?
……って、これは一体? 」
「……水の都に伝わる“願いの叶う人形”です
これを持って願い続けると、願いが叶うのですよ? 」
「成程……ありがとうございます!
何だか色々と沢山お願いしちゃいそうですけど
沢山叶えて貰える様に大切にしますね! 」
「ええ……三個までなら叶えてくれますが
四個以降は爆発しますのでご注意下さいね? 」
「……えっ怖っ!?
何その“優しい人が怒ったら怖い”……みたいな作り!! 」
「ふふっ♪ ……冗談です
いくつお願いをしてもきっと叶えてくれるでしょう」
「冗談が怖過ぎですよ……っと、大切にしますね! 」
《――などと話していたその時
オーク族“新族長”ゴードンは――》
………
……
…
「では我々からも……オーク族と“生涯の友”と成ったオーク族以外の者を
“名誉オーク”として認める慣例がございます。
ですので、是非……これをお受取りください」
《――そう言ってゴードンが主人公に手渡した物は
オークの顔を模した彫金の施された
途轍も無く重量感のあるネックレスで――》
「凄くゴツいですね……ラッパーみたいだ」
「ラッパ? ……楽器ですか? 」
「い、いえ……こっちの話なので!!
そ、それよりも……光栄です!
この名誉に恥じない行動を取れる様心掛けますッ! 」
「いえ……こちらこそお受け取り頂けて光栄です
これから先も我らオーク族との友情が変わらぬ事を祈っております」
「はいっ! ……」
《――続く獣人族族長リオスは
主人公に対し――》
「うわ~っ……何だかキラキラしててキレイだね~それっ!
じゃあ僕からは……これあげるっ! 」
「何だか不思議な模様だけど、このスカーフは一体……」
「それはね~っ! ……僕達の友達である証だよっ!
どこかで僕達の種族に出会ったらそれを見せてね!
無条件で仲良く出来るよ!
……因みにエリシアも持ってるの~! 」
「成程……それは嬉しいよ! 」
「と、言うか僕も割と旅してるから、どこかで会えるかも?! 」
「ああ……その時は宜しくな!
スカーフもずっと付けておくよ! 」
「うん、こちらこそっ! ……でも、落とさない様に気をつけてね? 」
《――様々な種族の長達が主人公に贈り物を送る中
メルの母、メアリが主人公に贈った物は――》
………
……
…
「主人公さん……どうか娘を宜しくおねがいします。
私からは、これをお贈りします……とても古い物ではありますが
きっと主人公さんの役に立つ筈です。
……もし、どうする事も出来ない程の危機が訪れた時
それを地面に落とし割って下さい。
貴方なら、きっと危機から逃れられる筈ですから……」
「成程……煙玉っぽい使い方なんですね!
分かりました! ……大切に肌身離さず持っておきます! 」
《――この後、各種族の長や仲間達の親兄弟との別れを済ませた主人公は
彼の旅立ちを悲しむ約半数の民の中から選ばれた
“代表者”と話して居た――》
………
……
…
「……主人公様。
貴方が一時的にとは言えこの国を去る事はとても寂しく
また、私共にとって悲しい事件でございます。
……私達はこの先、何を指針に生きていけば良いのでしょうか?
主人公様のお作りになられた法や物
これらを一体どの様に維持していけば良いのか……主人公様がご不在の間
果たして私達に勤め上げる事が出来るのでしょうか? ……」
「……そこまで思って頂けて居たなんて思いもしませんでした
ですが、一つだけ……皆さんは大きな“勘違い”をしています」
「勘違い? ……どの様な事でしょうか? 」
「それは……皆さんが自分達の実力を過小評価し過ぎと言う事です。
俺が例の問題で幽閉されて居た時、この国は正しい方向に進んでいました
それは断じて俺の力などでは無く、皆さんがこの国を想い
この国が良い方向へと向かえる様に意識を持ち
目標に向かい続けた結果が今現在のこの国の姿なのです。
だから……例え俺が居なくてもこの国は正しく
差別や迫害の無い国へと進んで行ける善なる力を持っているんです。
俺の所為でこれから先、この国の民が争う事が遭ってはならない。
お願いです……例え意見の合わぬ相手であっても出来る限り敬い
出来る限りで構いませんから仲良くして下さい。
俺はそれを望むだけです……勿論、苦しく無い事が前提ですが」
「……確りと胸に刻み、主人公様がお戻りになられた時
私共に任せて良かったと思って頂ける様
責任を持って日々を過ごそうと思います。
主人公様もどうかお体に気をつけて、安全な旅をなさってください」
「はいっ! ……皆様もどうかお元気で! 」
………
……
…
「皆、別れは済んだな? ……では。
主人公殿……わしからも選別じゃ!
少ないが旅の資金にすると良いぞぃ! 」
「……えっ?
ラウドさん、このお金“見た事の無い”デザインしてますけど……」
「そうじゃった……伝えるのをすっかり忘れておったが
この国が政令国家と成り、平和である事を知らん国もまだまだ多くてな。
昔の“王国”の様な国だと思われておるフシがあり
未だに国交の無い国や、我が国の通貨を拒否する国もあるのじゃよ。
故に殆どの国で使えるお金も
多少は必要じゃろうと思って用立てたんじゃよ……って主人公殿?
いきなり固まってどうしたのじゃ? 」
「……と、言う事は“大所帯”で恐らくはお金も相応に掛かるのに
僅かなお金で旅しなきゃ駄目って事ですか? 」
「うむ……そうじゃな、恐らくその金額では一ヶ月持てば良い方じゃぞ? 」
「マジですか……でもがんばります!
今までの貧乏生活も割とどうにかなりましたし! 」
《――と、やる気を見せた主人公に対し
マリアは冷静に――》
「今まで大丈夫だったのって、十中八九ミリアさんのお陰では? 」
「そうだった……どうしよう。
って! ……悩んでも仕方が無いし
俺の持ってるお金が他所で使えないなら持ってても仕方が無い物なので
貰う代わりと言っては何ですけど、皆さんに譲りますね。
そうなれば……権利もこの機会です
和装の権利はダークエルフ族へ、ジェンガの権利はオーク族へ
オセロはミリアさんにお譲りしたので……
……バックギャモンは国民の皆さんの生活の
安定を支える為使っていただければと思います。
ただ、配分を間違えてるかもしれないので
とりあえず不公平の無い様に皆さんで分け直してくださいね? 」
「何と?! ……じゃがその様に全て渡してしまったら
帰って来た後の稼ぎはどうするんじゃね? 」
「いや……俺の代わりの大臣三人分を雇う苦労を考えると
これでも足りなく無いですか? ラウドさん。
そう考えたら一種の迷惑料と言うか……」
「……その様な事を気にしておったのかね。
しかし……主人公殿はそもそも腕の良いハンターじゃし
稼ぎ先は幾らでもある
万が一帰国後仕事が無い等と言う事があっても安心するが良い。
必ず、何かしらの役職は用意しておくでのう! 」
「助かります……唯(ただ
旅立つ前に一つだけ気掛かりがありまして……」
「ん? ……何じゃね? 」
「魔王軍です……あれだけ甚大な被害を被れば
暫くの間は攻めてこないだろうとは思いますが
それでも、俺達が旅に出ている間に攻め入ってこないとは限らない。
……それだけが心配で
何か解決方法がないかなと思ってまして」
「ふむ……確かに攻め入って来んとは限らんが
たらればで話をしていては何も生まれん
主人公殿は気にせず旅をすれば良いんじゃよ。
もしも本当に不味い状況に陥ったならば
どうにかして連絡を入れる故安心するんじゃよ! 」
「う~ん、でも……ってそうだ!
国民の皆さんにした“約束”
……もう一度だけ破らせてください。
それは、俺に取って大切な皆さんを護る為に……だから
もう一度だけ。
ごめんなさいっ! ――」
《――言うや否や
固有魔導を発動した主人公――》
………
……
…
《《――命令を承認しました。
“対象”へ限定的に管理者権限を移譲します――》》
………
……
…
「……政令国家に敵意のある全ての魔族に対し
政令国家、並びに政令国家に属する全ての者達を認識発見出来ない様
“認識阻害”を付与しろ! 」
《《――検索中
検索完了……設定中
二四体の魔族系種族を除き
エリア“政令国家”及び“政令国家居住者”を認識発見不可状態に変更中
変更を完了しました――》》
………
……
…
「……待て!
二四体の魔族系種族とは一体何者だ!? ……害は無いのか? 」
《《――対象者内訳
魔王管理下に無い魔族種:二三体
“半魔族種”:一体
認識阻害を設定しますか? YES or NO――》》
「完全に害が無い存在なら認識阻害は掛けなくても良い!
味方に成るかもしれないなら或いは……ってやばっ!
そろそろ時間だ! ……俺の魔導力を完全回復ッ! 」
《《――命令を承認、魔導力を完全回復します。
完全回復完了
……実行時間終了。
“限定管理者権限”を終了します――》》
………
……
…
「ふぅ、危なかった……でも
これで恐らくこの国を認識出来る危ない魔族は居ない筈ですから
皆さんの生活が安定してくれるかなと……」
「ううむ……主人公殿はとんでも無い事をやってのけるのぉ
しかし、反対派の国民がこの様を見ておらん事が残念でならん。
全くもって由々しき事じゃが……兎に角!
主人公殿……一日でも早く帰ってくるのじゃぞ? 」
「はい……捜し物を見つけたら直ぐに! 」
「……うむ
わしらもその“探し物”が早く見つかる事を祈っておる。
気をつけてのぉ~っ!! 」
「はい! ラウドさんも皆さんもお元気でッ! ……」
………
……
…
《――政令国家に別れを告げ、大いなる旅路に就いた一行。
ラウド大統領より伝えられた
厳しく突き刺さる現実……貧乏生活は免れない様だが
主人公には沢山の仲間が居る。
“主人公達の戦いはこれからだ!! ”……では無く。
主人公達の旅路は
まだ“始まったばかり”――》
===第四十話・第一章・終===
次話からは第二章に突入致します。
そして、親愛なる読者の皆様
いつもご愛読頂き本当にありがとうございます。
これからもどうか引き続き
本作「異世界転生って楽勝だと思ってました。」を可愛がって下さいませ。
……宜しくお願い致します。




