第四〇話「楽しく笑顔で旅立ちを」
《――旅に備え、最大限
疲労回復と魔導力の回復をしておく為
部屋に籠もり続けて居た主人公……だが
突然の“旅立ち宣言”から後
彼の元を訪ねて来た各種族は一人としておらず
ある意味不自然な政令国家での日常はあっと言う間に過ぎ去り
一週間後の朝、彼は旅立ちの日を迎えて居た――》
………
……
…
「はぁ~ッ……一週間出歩かずに食って寝ての生活は
ある意味幸せで、ある意味……病んでるな」
「そうだな主人公……自堕落に見えなくも無い
だが、長い旅と成るやも知れんのだ……回復が優先であろう」
「ああ、そうだね……って今更だけどガルド
“宣言”からずっとだけど、何故俺達の部屋で寝泊まりし始めたんだ? 」
「何? ……“生涯の友に付いて行く”と言っただろう?
寝食を共にするのは生涯の友として当然の事だ」
「そうなのか……俺もまだ知らない事が多いみたいだ
失礼な事をしない内に、旅の道中にでも
“生涯の友”について色々と教えてくれ」
「勿論だ……吾輩も主人公の望む事、望まざる事を知っておきたい」
《――直後
そう話す二人の元へメルが現れた、だが――》
「あ、あのっ……おはようございます主人公さんっ!
そっ……それと、グランガルドさん……そのっ……あのっ!
出来ればふ、服を着て頂けると……たっ、助かりますっ!! 」
《――鞄で顔を隠しながら
“素っ裸のグランガルド”に対しそう頼んだ――》
「あ~……そう言えばそうだった
俺は気にしてなかったけど、まさかガルドが
“真っ裸で寝る”とは思ってなかったよ。
とは言え……その、女性陣には刺激が強いし
これからはちょっとだけ気をつけて貰っても良いか? 」
「うむ……これは大変失礼をした、以後気をつけよう」
《――この後
足早に一階へと降りて言ったメルと入れ替わる様に
彼らの部屋へと訪ねて来たディーンは――》
「主人公……今日は色々と忙しい一日になる
早急に準備を整え、作戦を円滑に……
……いや済まない、つい癖が出てしまった。
それよりも……朝食は頼んでおいた
我々は下に居るから早く降りて来るんだぞ? 」
「おぉ! 流石はディーン! 気が利くぅ~ッ!
すぐに行くよ! ……ありがとう! 」
《――暫くの後
旅立ちの準備を整えた一行は
ヴェルツでの最後の朝食を摂り始めて居た。
……だが、その一方で
ミリアは憤慨して居て――》
………
……
…
「一気に皆居なく成るなんて寂しくなるねぇ……
……にしても何だいっ?!
エルフもダークエルフも獣人もオークもドワーフも
この一週間、主人公ちゃんに会いにも来ないなんて薄情な!
まぁ良いさ……ウチは主人公ちゃんのお陰で立派な店に成ったんだ
あたしからの餞別は料理や食材位しか用意出来ないが
主人公ちゃん達の事を考えて選りすぐりの食材ばかりを
ありったけの量用意したからねっ! ……受け取ってくれるかい? 」
《――直後
凄まじい量の食材や料理を持ち出しながら
そう言ったミリア――》
「凄い量だ……でも、本当に宜しいんですか? 」
「……勿論さね!
せめて食べ物には困らない様に旅を楽しんで欲しいと思ってねぇ」
「ミリアさん……ありがとうございます
でも、そうなると俺からも何かお礼がしたいな……ってそうだ!
……ミリアさん、ゲームならどれがお好きですか? 」
「何だい藪から棒に……ゲームかい?
それなら……オセロかねぇ? 旦那とよく遊んでるからねぇ」
「成程……ではオセロの“権利”は
ミリアさんにお譲りしておきますね! 」
「な……何でだい?!
まさか、帰ってこないつもりじゃないだろうね?! 」
「へッ? ……そ、そうではなくてッ!!!
その……ミリアさんには
最後の最後までお世話になりっぱなしですし
常日頃、俺からも何かミリアさんに
お返しをしなければ……って思ってたんです。
……それに“五〇万金貨”の借りを返さず
無責任に旅立つのだけはどうしても避けたいんです。
ですから……どうか受け取って下さい。
……権利を譲渡した件については
後ほどガンダルフに伝えておきますから」
「主人公ちゃん……何処までも素直な良い子だねぇ。
そんな素直な子だから
あたしも何かしてあげたく成っちゃっただけさね。
分かった……権利は素直に受け取っておく
だが、その代わりと言っちゃ変だけど
帰って来たら一生涯ウチでの衣食住はタダだ
だからちゃんとウチに帰って来なよ?
良いね? 必ずだよ? ……約束してくれるかい? 」
「ええ! ……その時は力いっぱい甘えます! 」
「よし! ……なら受け取っておくさ!
だけど本当に寂しくなるねぇ……何時でも帰って来なよ?
もし旅が辛かったらこっそり部屋に“転移”して良いんだからね?
主人公ちゃん達の部屋は誰にも貸さず置いとくからさ」
「ミリアさん……本当にありがとうございます。
って言うか俺、失礼かもしれませんが
ミリアさんの事何時の日からか、その……
……母親の様に思ってました。
だから正直、凄く寂しいです
旅に出るって言った事を後悔する程に……で、でもッ!!
……俺、旅で少し強くなって帰ってきますから!
絶対に一番に“ただいま! ”って……
……ミリアさんに言いに帰って来ますからッ! 」
《――大粒の涙を流しながら
唯ひたすらに、懸命にミリアへの感謝を伝えた主人公。
……そんな、不器用でなりふり構わぬ純粋な愛に応えるかの様に
彼女はそっと主人公を抱き締めた――》
「お母さんって……呼んだって良いんだよ? 」
「……今そう呼んでしまったら旅に出たくなくなります。
帰って来た時、そう呼びます……必ず」
《――ヴェルツでの別れを済ませた一行
この直後……それぞれの大切な者達との別れを済ませる為
一度解散し、ギルドの前で落ち合う事を決めた。
……それぞれが別々の方角へと向かう中、主人公は
エリシアを訪ねる為、ギルドへと向かった――》
………
……
…
「し、失礼します……主人公ですけど……」
《――ギルド二階
エリシアの部屋を訪れた主人公――》
「主人公っち? ……入って良いよ」
「失礼します、約束通りご挨拶をと……」
「うん……色々言いたい事とか話したい事は有るけど
その前に先ず一つ謝っとくよ……ごめん。
主人公っちが気に入ってくれてる“喋り方”
する余裕、全然無いや……」
「そ、その……俺も正直寂しくて
何喋って良いか分からない位なんで……」
「うん、私も……それで
主人公っちに図々しいお願いしたいんだけど
もし主人公っちが旅の途中で
ある場所に立ってる“お墓”を見つけたら
これを供えて欲しいの……頼んで良いかな? 」
《――そう言ってエリシアが主人公に手渡した物は
古びた首輪と……ごく僅かだが
魔導力を感じる小さな“木の欠片”であった――》
「い、良いですけど……“ある場所”とは? 」
「私の師匠のお墓、多分一緒に……友達も眠ってると思う」
「そうですか……この国から遠いんですか? 」
「ごめん……私は覚えて無くてさ。
……何故、場所を覚えてないのかは分かんなくて
だけど、思い出そうとすると頭が痛くなって……本当にごめん
旅立ちの日に変な事頼んじゃって……でも。
きっと主人公っちなら見つけられる気がするの……
……だから、お願い」
「ええ……分かりました、もし差し支えなければ
師匠さんのお名前かお友達のお名前を聞いても宜しいですか? 」
「うん……師匠の名前はヴィンセント
友達の名前は……ヴィオレッタ」
「お二人とも素敵な名前ですね……必ずお供えします」
「うん、ありがとう……お願いはそれだけ
ごめんね、こんな暗い顔でこんな面倒事押し付けちゃって……」
「いえ、エリシアさんの気持ちが晴れるなら
俺はそれで大丈夫です……それより、旅に出る事を
何の相談も無く決めてすみませんでした……
……大臣の職を三つも兼任してる人間が
やって良い行いじゃないですよね。
“引き継ぎ”みたいなのも出来てないですし
エリシアさんには迷惑ばかり掛けて……」
「……そんなの良いの良いの!!
国民なんて主人公っちの苦労の一パーセントも
理解していないのが殆どなんだから!
……寧ろ、主人公っちがそうやって
自分のやりたい事を選べてる事の方が私は嬉しいんだよ?
あと……ちょっとだけ“羨ましくもある”かな?
正直、珍しい薬草とかあったら
直ぐにでも持って帰って欲しい位なんだけど
多分、途中で枯れちゃうよね……てか
主人公っちって“おっちょこちょい”だから
触ると危ないのとか“鷲掴み”しちゃいそうだし?
……やっぱ、止めといた方が良いかもね~っ! 」
「あッ! 酷いッ!
俺そんなに“おっちょこちょい”じゃ無いですよ!
でも……エリシアさんに薬草の知識量で勝てる人なんて
見つける方が難しいと思います。
だから、エリシアさんから見たらきっと
皆“おっちょこちょい”なのかもしれないですね! 」
「……ありがと。
元気付けるつもりが、私が元気付けられちゃったや……っ……」
《――そう言った瞬間
彼女は一筋の涙を流した……そして
それを隠す様に俯くと、そのまま主人公へと近づき
彼に対し別れの抱擁をして――》
「……早く帰っておいで、また薬草一緒に取りに行きたいし。
主人公っちみたいな子が居ないと
この国は、宛ら“引っこ抜いた草花”みたいに
あっと言う間に枯れちゃうんだから……だから。
私達が枯れない内に帰って来て……お願い……」
「……はいッ!
俺“花咲かじいさん”みたいになりますからッ! 」
「何だよそれっ……意味……分かんないよ……
……でも、良い響きじゃないか
だけど……本当に“おじいちゃんに成る”位帰って来なかったら
私だって怒るからね? ……もう、行って良いよ。
その……長く引き止めてごめんね」
「エリシアさん……ちょっと旅に出るだけです
捜し物を見つけに行って来るだけですから……
……見つかりそうに無かったら帰って来ますし
見つかったら切り上げてもっともっと早く帰って来ますから!
ですから……もう、そんなに悲しまないでください」
「うん……早く帰って来てね。
暫くは魔導通信で連絡取れるだろうし
毎日じゃ無くても良いから、たまには連絡してね? 」
「はい、必ず……じゃあそろそろ行きます!
帰って来たら薬草取りに行きましょうね! 」
「うん! ……泊まり込みで採集しに行くぞ~っ! 」
「望む所ですッ!! ……では、行ってきますッ!! 」
「うん! またねぇ~っ! ……」
《――涙を拭い
エリシアに対し精一杯の元気な顔を見せながら
彼女の部屋を後にした主人公。
……その後、彼が階段を降りて行く音を確認すると
紙に何かを書き始めたエリシアは
直後、それを扉の外に張りつけた後
部屋に戻り椅子に顔を埋め
声を押し殺す様に咽び泣いた。
彼女が扉に貼り付けた紙には――
“絶対に入るな!”
――と
なぐり書きで書かれて居た――》
………
……
…
「あ~……最悪だ
寂しさがだんだん酷く成って来た
エリシアさんにも相当お世話になったし
正直……別れが辛過ぎた」
《――別れの余韻残る主人公は
既にギルド前で待って居たガルドとメルに対しそう言った――》
「私も……お母さんと離れるの
本当に寂しいですっ……」
《――この瞬間
そう言って涙を流したメル
そんな姿を見た主人公は貰い泣きをして居た。
……だが、そんな彼らに対し
ガルドは励ましの言葉を掛けた――》
「何……永久の別れと言う訳でも無い
再会した時の喜びを楽しみに“待って居る”と考えるのだ」
「ありがとうなガルド、少し勇気が出たよ
って……それにしてもマリア遅くないか?
“ガンダルフさんの所に挨拶に行ってきます! ”
……とは言ってたけど、えらく長い事掛かってるし
まさかゲームでもして遊んでるのか? 」
<――と噂をして居ると
マリアは何やら残念そうに帰って来て――>
「何でだろう、どうしてだろう……」
「お帰りマリア! ……ってどうしたの? 」
「それが……何故か皆さん一人も居ないんです。
あっちこっち探してたんですけど
ドワーフ族自体一人も居なくて……しかも
居住区までもぬけの殻だったので
旧居住区まで探しに行ったんですけど
やっぱり居なくて……仕方が無いので帰ってきました」
「何? ……何かあったのか?
でも何かあったなら流石に俺にも連絡が来そうだけど……」
<――と、悩んで居た俺に対し
メルも同じ様な事を言い出し――>
「あっ……そっ、そういえばっ!
お、お母さん以外のダークエルフ族さん達も
エルフ族さん達も居ませんでしたっ! 」
「は? ……どう言う事だ?
……俺達が旅に出るって日に全員居ない?
特にエルフ系種族は“森が一番”って言ってたよな?
な、何で居なくなってるんだ? ……」
<――と悩む俺の横では
ガルドまでもが――>
「わ、吾輩も
最後の別れを済ませる為居住区を訪れたが
やはり……もぬけの殻だった」
「……可怪しい、何でみんな居ないんだ?
まさか、俺が居なく成るからって途端に変なのが政治家になって
みんなを追い出したりした訳じゃないだろうな?
……ちょっと確認を取るよ。
魔導通信――
――ラウドさん」
………
……
…
「おぉ、主人公殿……いよいよ今日じゃったな
しかし寂しくなるのぅ……」
「……ええ、ですがそんな事より
各種族が“各居住区から消えた”と言う話を聞きました。
もしかして……何かあったんですか? 」
「ん? ……その件に関しては黙秘するぞい?
じゃが安心してくれて良い、皆御主が心配する様な
事件になどは巻き込まれておらんからのぅ? 」
「それ……本当ですか? 」
「安心せいと言うて居るじゃろうに! ……全く
わしには信頼が無いのかと少々ショックを受けるぞい? 」
「い、いえ……申し訳ありません。
ここの所色々あり過ぎて疑心暗鬼に……でも
ラウドさんが問題無いと仰るなら信じます。
……そもそも、旅立つ前に一度
連絡をしておかないとって思ったのもありますし」
「うむ、そうじゃろうと思って
既にわしは東門で待っておるぞい? 」
「ほ、本当ですか!? ……良かった
最後に顔を見られるだけでも嬉しいです」
「うむ、わしもじゃよ! ……
……さて、これ以上は東門で顔を合わせて喋るぞぃ! 」
「はい! ……では通信終了! 」
………
……
…
「――っと。
何か異常がある様な喋り方では無かったけど
明らかに何かを隠しては居た。
気にはなるけど……顔を見て判断すべきかな? 」
<――そう考えを口にして居た俺に対し
マリーンは――>
「主人公って時々怖い位冷静よね……危ない位」
<――と言った
直後、その“発言”に当然と言うべき違和感を感じた俺は――>
「そりゃあ、大切な人達の一大事かも知れないからさ
少し過敏なのかも知れないけど……所で
マリーンの所は“もぬけの殻”には成ってなかったの? 」
「さ、さぁ? ……どうかしらね! 」
<――この質問をした直後
マリーンは妙に余所余所しく成った――>
「やっぱり……何か知ってる顔をしてるな。
……なぁ、マリーン
何か知ってるなら教えてくれないと、俺……泣いちゃうぞ?! 」
「なっ!? ……泣けばいいじゃない!
幾ら泣いたって絶対言わないからッ! 」
「“言わない”……と言う事は何か知ってるって事だな? 」
「なッ?! ……は、嵌めたわね!? 」
「その発言も凄く怪しいぞ? ……兎に角
隠してる事が俺に取って損なのか得なのかはどうでも良い。
聞きたい事は一つだけだ……マリーン
全員無事で、何も問題は無いんだな?
問題が少しでもあるなら、俺は
旅を先延ばしにしてでも全力で皆を助けるつもりだ。
その邪魔をするなら……マリーン、君でも許さない。
本当に……問題無いんだな? 」
「ちょ、ちょっと?! ……そんなに怒らないでよ?!
当然でしょ?! 仮にお母さんに何かが遭るなら
私が冷静で居られないわよ! ……それにしても
主人公、少し優し過ぎよ?
自分の事を棚に上げて人の心配ばかりしないでよね?
貴方だって……私には大切な人なんだから」
「ありがとう……でも、俺は
俺の事を大切にしてくれた人達の事を
心配せずには居られないんだ。
……まぁ、何とも無いなら良い
ラウドさんも待ってる事だし、一度東門に行こうか」
「え、ええ……行きましょ! 」
<――この後
俺達は東門へと向かった……だが。
到着後、ラウドさんは何故か領土内では無く
東門の外に一人で立っており
手招きをしながら満面の笑みを浮かべて居た。
……色々と怪しい状況の中
そんな行動をされれば誰でも違和感を感じる筈だ。
直後、俺はそんなラウドさんに対し
警戒心を顕に近付いた――>
………
……
…
「お~主人公殿~! こっちじゃよ~! 」
「……何、下手な演技をしてるんです?
気持ちの悪い態度は止めてくださいラウドさん」
「ううむ……なぜそんなに警戒しておるんじゃね? 」
「……当然です、各種族達も水の都の民達も居らず
国民の半分……特に、俺と存在に
異議を唱えた人間ばかりが国の中に居るとか
妙を通り越して気持ちが悪くて当然です。
一体何があったんです? まさか魔族に……」
<――と、ラウドさんに対し
疑いの眼差しを向けて居た俺……だが
この直後――>
「全く……最後まで疑われるとはのぅ
少し早いが……今じゃッ!!!
せーのっ!! それぇぃ!!! ――」
「なッ?! 防衛魔導ッ! ……って。
は? ……」
《――この瞬間
ラウド大統領の合図に依って
東門の外へと建てられて居た
“何か”を覆う為の巨大な幕は外され
突如として一行の眼前へと現れた巨大な建造物……それは
急拵えで建造された“櫓”であった。
……櫓の上には
一行を見送る為か、沢山の人々が待機しており
ラウド大統領の掛け声に合わせ
一行に対し――》
「……主人公様!
……御一行様!
……楽しい旅を!
体に気をつけ!
一刻も早く!
帰って来てください! 」
《――そう、叫ぶ様に言って大きく手を振り
彼らの旅立ちを、最大限祝福して居て――》
「み、皆ッ?! って、これ……この櫓が全部?
う、嘘だろ? ……」
《――そう驚く主人公に対し
マリーンは微笑みながら――》
「ふふふっ♪ ……驚いたかしら? 」
《――そう訊ね
そんな彼女に続ける様に――》
「いや~苦労しました
私に演技をさせるなんて……苦手なのに! 」
《――そう言ったマリア
直後、メルまでもが申し訳無さそうに――》
「そ、そのっ……私も実は知ってましたっ!
ごっ……ごめんなさいっ!
主人公さんを喜ばせようと思って、つい……」
《――そう言うと
ガルドは――》
「うむ……勘の良い御主の事だ
吾輩の嘘の矛盾点に気付くのではないかと
酷く肝を冷やした……この様な事は吾輩も苦手だ」
《――と、胸を撫で下ろしながらそう言った
一方、この予想外な出来事に――》
「み、皆……俺達の為に?
俺に……こんなにも手間を掛けてくれたのか?
マジかよ……そんなの……卑怯だよ……ッ……!!! ……」
《――言うや否や
緊張の糸が解れたかの様に号泣し始め
その様を見た者達は、主人公に対し皆一斉に謝り始めた。
……だが、主人公は
泣きじゃくりながらも皆の謝罪を制止し――》
「違う……違うんだ皆ッ……俺……俺ッ……
……こんなに沢山の誰かに祝福されたり
大切にされた事が無くて……俺、余りにも嬉しくて……
こんなの……耐えられる訳無いよ……
……寂しいじゃないかよッ!
皆と離れるの……辛くなるじゃないかよッ!
俺……皆の事……俺ッ……俺ッ……」
「す……済まなかった主人公
お前を驚かせ、喜ばせるつもりが……」
《――直後
主人公の元へと駆け寄り
彼の背中を擦りながらそう言ったオルガ。
そして――》
「ああ、男泣きとは言え……済まない事をした様だ……」
《――同じく彼の元へと駆け寄り
困った様にそう言ったクレインに続き――》
「主人公さん……私達だって
貴方と離れなければならない事は
例えそれが少しの時間だとしても、寂しいのです。
ですから……その寂しさを紛らわせる為
これをお送りします……寂しい時はこれを着て
一瞬でも、私達の事を思い出してください。
私達も貴方や皆さんの事を思い出す時
皆がこれを着て下さった姿を思い出し……
……何れ皆さんがお戻りに成られる日までの間
寂しさに耐えられるだけの“嬉しい記憶”を頂く為に」
《――そう言ってガーベラの手渡した物は
主人公を含めた全員分の“和装”のプレゼントであった。
だが、これらは唯の和装では無く……
……エルフ族に伝わる様々な紋様や
エルフ族の本来の服装のデザインが取り入れられた
なんとも珍しく、且つ美しい
新しい“和装”の姿をして居て――》
「……こんなに素敵な和装は初めて見ました。
俺、大切にします! ……早速皆さんに着た姿を!! 」
《――直後、急いで袖を通し
誇らしげに見せた主人公に対し――》
「やはり……とてもお似合いです
たまにで構いませんから袖を通してあげてくださいね」
「いやいや! たまにと言わず毎日でも着たいですよ!
着心地も良いですし……本当に嬉しいです!
これはもう……家宝ですね! 」
《――ガーベラに対し
そう、最大限喜んでみせた主人公……一方
そんな彼の姿を眺めて居たクレインは
妻であるミラに対し――》
「どうやら贈り物の時間らしい……ミラ“あれ”はどうした? 」
「ええ、此処に……主人公さん、私達からは“これ”を」
《――そう言ってミラの差し出した物は
指輪にしては大きく、腕輪にしては小さい
宝石の様な物で作られた“輪”で有った――》
「えっと……すみません、この輪っかは一体……」
「それは、主人公さんに訪れた最大の危機に
“身代わり”と成ってくれる効果がある物です。
……懐に入れて置く事で効果を発揮しますから
どうか、肌身離さずお持ちに成って居てください」
「そ、そんな凄い物……貰って良いんですか? 」
「ええ、主人公さん達の為にお作りしたのですから是非」
「ありがとうございます……唯そうなると
何だか貰い過ぎて気を使っちゃいますけど……」
《――恐縮する主人公
だが、この場に集まっていた各種族の長達は
この後も皆続々と彼にプレゼントを渡し始めた――》
「なぁにを水臭い事を!
わしからも御主にプレゼントじゃぞ? ……ほれっ! 」
「ん? これは! ……ってガンダルフ。
なぁ……何で“ペアリング”なんだ?
まさか“御主とわしのじゃ! ” ……とかって言わないよな? 」
「違うわいっ!!! 気色の悪い事を言うで無いわ!!
御主が少し前――
“マリーンにもお揃いを買う”
――とか何とか言っておきながら
未だに手に入れておらんかったから
気を使って作ってみただけじゃ! 」
「あぁ成程! ……ありがとう!
……じ、じゃあその……マリーン
お、遅くなったけど……許してくれるかい? 」
「ええ……貴方が指にはめてくれたら許してあげる」
「へッ?! ……わ、分かった。
……ってあれ? 此処じゃ無いな
此処でも無い……あれ?
この指輪“薬指”にしか合わないぞ!? 」
「べ、別に薬指で良いでしょ?
それより……何で“左”じゃなくて“右”にしたのよ? 」
「え゛ッ?! い……いや、それは流石にほらその……」
「まぁ……許してあげる
主人公が私の左手の薬指に着けさせたく成るまで
私……待ってるから」
「な゛ッ?! ……そ、それはッ?!
って……は、恥ずかしいからやめてくれってッ! 」
《――そう慌てて居た主人公に対し
マリーンの母、マリーナは――》
「娘の事……汎ゆる意味で宜しくおねがいしますね
……そう言う事ですので、これは
“嫁入り道具”としてお受け取りを……」
「ちょおッ?! ……今、完全に
プレゼントの“意味”を変えましたよねッ!?
って……これは一体? 」
「これは、水の都に伝わる“願いが叶う人形”です
これを持って願い続けると願いが叶うのですよ? 」
「な、成程……ありがとうございます!
何だか色々と沢山お願いしちゃいそうですけど
沢山叶えて貰える様に、大切にしますね! 」
「ええ……三個までなら叶えてくれますが
四個以降は爆発しますのでご注意下さいね? 」
「え? ……怖ッ!?
何その“優しい人が怒ったら怖い”……みたいな作りッ!! 」
「ふふっ♪ ……冗談です
幾つお願いをしてもきっと叶えてくれるでしょう」
「冗談が怖過ぎですよ……と、兎に角! 大切にしますッ! 」
《――などと話して居たその時
オーク族の新族長“グランゴードン”は――》
「では、我々からも……主人公様
我々には、オーク族と“生涯の友”と成った
オーク族以外の者に対し“名誉オーク”として
その者を認める慣例がございます。
ですので、是非……これをお受取りください」
《――そう言ってグランゴードンが主人公へと手渡した物は
オークの顔を模した彫金の施された
途轍も無く重量感のある首輪で――》
「凄く“ゴツい”ですね……ラッパーみたいだ」
「ラッパ? ……楽器で御座いますか? 」
「い、いえ……今のはこっちの話なので!!
そ、それよりも……光栄です!
この名誉に恥じない行動を取れる様心掛けますッ! 」
「いえ、こちらこそお受け取り頂けて光栄です
これから先も、我らオーク族との友情が
変わらぬ事を祈っております……」
「は、はいッ! 」
《――続く獣人族族長リオスは
主人公に対し――》
「うわ~っ……何だかキラキラしててキレイだね~それ!
じゃあ、僕からは……これあげるっ! 」
「何だか不思議な模様だけど、このスカーフは一体……」
「それはね~っ! ……僕達獣人の友達である証だよっ!
どこかで僕達の種族に出会ったらそれを見せてね!
無条件で仲良く出来るよ! ……因みに
エリシアもおんなじ奴を持ってるの~! 」
「成程……それは嬉しいよ! 」
「……と、言うか僕も割と旅してるから
ひょっとしたらどこかで会えるかもね! 」
「ああ……その時は宜しくな!
スカーフもずっと付けておくよ! 」
「うん、こちらこそっ! って……それ、結構高級品だから
落とさない様に気をつけてね? 」
「え? ……どの位するんだ? 」
「主人公……贈り物の値段聞くのは良くないよ? 」
「う゛ッ、凄い正論だけど
元はと言えばリオスが始めた流れの様な気が……」
《――様々な種族の長達が主人公に贈り物を送る中
メルの母、メアリが主人公に贈った物は――》
「主人公さん……どうか、娘を宜しくお願い致します
私からは……これをお贈りします
とても古い物ではありますが、きっと
主人公さんの役に立つ筈です。
……もし、どうする事も出来ない程の危機が訪れたなら
その時は、それを地面に落とし割って下さい。
……貴方がなら、きっと危機から逃れられる筈です」
「成程……“煙玉”っぽい使い方なんですね!
分かりました! ……大切に肌身離さず持っておきます! 」
《――この後
各種族の長、仲間達の親兄弟との別れを済ませた主人公は
彼の旅立ちを悲しむ約半数の民の中から選ばれた
“代表者”と話して居た――》
………
……
…
「……主人公様。
貴方が“一時的”とは言え、この国を去る事はとても寂しく
また、私共に取って最も悲しい事件でございます。
私達はこの先、何を目標に生きていけば良いのでしょうか?
主人公様のお作りになられた法や物
これらを一体、どの様に維持していけば良いのか……
……主人公様がご不在の間
果たして、私達に勤め上げる事など出来るのでしょうか? 」
「そんな……そこまで思って頂けて居たなんて
思いもしませんでした……ですが、一つだけ。
皆さんは……大きな“勘違い”をしています」
「か、勘違い? ……それはどの様な事でしょうか? 」
「それは……皆さんが
“自分達の実力を過小評価し過ぎ”と言う事です。
……俺が例の問題で幽閉されて居た時
それでも、この国は正しい方向に進んでいました。
それは、断じて俺の力などでは無く
皆さんがこの国を想い、この国が
良い方向へと向かえる様に意識を持ち
目標に向かい続けた結果です。
だから……例え俺が居なくても
この国は正しく、差別や迫害の無い国へと
進んで行ける善なる力を持って居られる筈です。
……俺の所為で、これから先
この国の民同士が争う様な事があってはならない。
お願いです、例え意見の合わぬ相手であっても
出来る限り敬い
出来る限りで構いませんから仲良くして下さい。
俺はそれを望むだけです……無論
絶対ではありませんし無理はせず
“一方だけが苦しむ”事が無いのが前提ですが」
「……そのお言葉を確りと胸に刻み
主人公様がお戻りになられた時
“私共に任せて良かった”……そう思って頂ける様
責任を持って日々を過ごそうと思います。
主人公様……皆様もどうか、お体に気をつけて
安全な旅を為さってくださいませ」
「はいッ! ……皆様もどうかお元気で! 」
………
……
…
「……皆、別れは済んだようじゃな?
では……主人公殿、わしからも餞別じゃ!
少ないが旅の“資金”にすると良いぞぃ! 」
「えッ? ……あの、ラウドさん
このお金“見た事無い”デザインしてますけど……」
「おぉ、そうじゃった……
……伝えるのをすっかり忘れておったが
この国が“政令国家”と成り
平和である事を知らん国もまだまだ多くてのぅ?
昔の“王国”の様な国だと思われておるフシがあり
未だに国交の無い国や
我が国の通貨を拒否する国もあってのぅ。
……故に殆どの国で使える金が
多少は必要じゃろうと思って
用意しておったと言う訳じゃ……って、主人公殿?
いきなり固まって……どうしたのじゃね? 」
「いや……と、言う事は
“大所帯”で、恐らくはお金も相当に掛かるのに
僅かなお金で旅しなきゃ駄目って事ですか? 」
「う、うむ……恐らくその金額では
一ヶ月程持てば良い方じゃぞ? 」
「マ……マジですか?!
……でも、がんばります!
今までの貧乏生活も割とどうにかなってましたし! 」
《――と、やる気を見せた主人公
だが、この直後マリアは冷静に――》
「いや、今まで大丈夫だったのって
十中八九ミリアさんのお陰では? 」
「そ、そうだった……どうしようッ?!
って……悩んでも仕方が無いし
俺の持ってるお金が他所で使えないなら
そもそも持ってても仕方が無いって事なので
貰う代わりと言っては何ですけど
今の持ち金は皆さんに譲りますね!
って……そうなれば、権利もこの機会です
和装の権利はダークエルフ族へ
ジェンガの権利はオーク族へ
オセロ……は、ミリアさんにお譲りしたので
バックギャモンは国民の皆さんの生活の
安定を支える為使って頂ければと思います。
唯、配分を間違えてるかも知れませんので
とりあえず不公平の無い様に
皆さんで分け直してくださって構いませんので! 」
<――と、良いのか悪いのかは判らないが
旅立ちの日に“身軽な立場”になった俺に対し
ラウドさんは酷く慌てて居て――>
「何と……じゃがその様に全て渡してしまったら
帰って来た後の“稼ぎ”はどうするんじゃね? 」
「いえ、俺の代わりに大臣三人分を雇う苦労を考えると
これでも足りなく無いですか?
そう考えたら一種の“迷惑料”みたいな物と言うか……」
「その様な事を気にしておったのかね……しかし
そもそも、主人公殿は腕の良いハンターじゃし
稼ぎ先は幾らでもある、万が一帰国後
仕事が無いなどと言う事があっても……安心するが良い。
……必ず、何かしらの役職は用意しておくでのぅ! 」
「それは助かります……唯
旅立つ前に一つだけ気掛かりがありまして……」
「ん? ……何じゃね? 」
「“魔王軍”の事です……
……あれだけ甚大な被害を被れば
暫くの間は攻めてこないだろうとは思いますが
それでも、俺達が旅に出て居る間に
攻め入ってこないとも限らない……それだけが心配で
何か解決方法が無いかな……と思ってまして」
「ふむ……確かに攻め入って来んとは限らんが
“たられば”で話をして居ては何も生まれん
主人公殿は気にせず旅をすれば良いんじゃよ。
……それに、もし本当に不味い状況に陥ったならば
どうにかして連絡を入れる故、安心するんじゃよ! 」
「う~ん、でも……ってそうだ!
どうせ俺は旅立つんです……なら
国民の皆さんにした“約束”を
もう一度だけ破らせてください。
……これは、俺に取って大切な皆さんを護る為
だから……もう一度だけ。
ごめんなさいッ! ――」
《――言うや否や
固有魔導を発動した主人公――》
「――“限定管理者権限ッ!!! ” 」
………
……
…
《《――命令を承認
中央処理機構より通達……
……対象へ限定的に
“管理者権限”を移譲します――》》
「政令国家に敵意のある全ての魔族に対し
政令国家、並びに政令国家に属する
全ての者達を認識発見出来ない様“認識阻害”を付与しろ! 」
《《――検索中
検索完了……設定中
“二四体の魔族、及び魔族系種族”を除き
エリア“政令国家”及び“政令国家居住者”を
認識発見不可状態に変更中
変更を完了しました――》》
「……待て! 二四体の魔族
及び魔族系種族とは一体何者だ!? ……害は無いのか? 」
《《――質問への回答:対象者内訳
魔王管理下に無い魔族種:二三体
半魔族種:一体
……全員に認識阻害を設定しますか?
YES or NO――》》
「害が無い存在なら“阻害”はしなくても良い!
味方に成るかも知れないなら或いは……
……ってやばッ! そろそろ時間だ!
俺の魔導力を完全回復ッ! 」
《《――命令を承認、魔導力を完全回復します
完全回復完了……実行時間終了
“対象”への“限定移譲”を終了します――》》
………
……
…
「ふぅッ……危なかった~ッ!
でも……これで恐らく
この国を認識出来る“危ない魔族”は居なく成った筈ですから
少なくとも、これで皆さんの生活は安定するかなと……」
「ううむ……相変わらず
主人公殿はとんでも無い事をやってのけるのぅ?
しかし、反対派の国民がこの様を見ておらん事が残念でならん。
全く以て由々しき話じゃが……兎に角じゃ
主人公殿……一日でも早く帰って来るのじゃぞ? 」
「はい……捜し物を見つけたら直ぐに! 」
「うむ、では……わしらは
その“探し物”が早く見つかる事を祈って居るとしよう
では……気をつけてのぅ!! 」
「はいッ! ラウドさんも皆さんも……お元気でッ! 」
………
……
…
《――政令国家に別れを告げ、大いなる旅路に就いた一行
この日、ラウド大統領より伝えられた
厳しく突き刺さる現実……貧乏生活は免れない様だが
主人公には、沢山の仲間が居る。
“主人公達の戦いはこれからだ!! ”……では無く。
主人公達の旅路は、まだ
“始まったばかり”――》
===第四〇話・第一章・終===
次話からは第二章に突入致します。
そして……親愛なる読者の皆様
第一章の終わりまでご愛読頂き本当にありがとうございます。
これからもどうか、引き続き
本作「異世界転生って楽勝だと思ってました。」を可愛がって下さいませ。
末永く宜しくお願い致します。




