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異世界転生って楽勝だと思ってました。  作者: 藤次郎
第一章

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第二十八話「楽に再スタートとは行かず? ……後編」

<――挨拶回りの最中、突如として起こった地響きと轟音

急ぎ発生源と思しき東門へと飛んだ俺達。


だが、其処に“有った”物は俺達の想像を軽く超えて居た――>


………


……



「な、何だあれ……」


「何でしょう……見た所、巨大な“船”に見えますけど……」


「こ、怖いですっ……」


<――轟音と共に

政令国家東門前へ現れて居たのは巨大な戦艦だった。


そしてこの直後、戦艦から此方に向け発せられた男の声は――>


「此方から危害を加えるつもりは無い……私達はただ

この国の国王に話を聞きたいだけだ、国王と話をさせて貰いたい」


<――そう一方的な“要求”を伝えて来た。


だが、男の声は“魔導拡声メガホン”では無く

明らかに“スピーカーし”の声だった……俺もマリアも

この世界にそんな文明を設定した覚えが一切無いのにも関わらずだ。


一体何が起きている? ……余りにも理解の出来ないこの状況に

俺は……その声から感じ取った“嘘の無さ”を信じる事にした――>


「……魔導通信


ラウドさん――」


………


……



「――ええ“戦艦”が東門前に。


男の声で“国王と話がしたい”と……ええ。


“国の仕組みが変わった”事を知らない様です」


「ふむ……兎に角、すぐに行くから待っておるんじゃよ!!


転移の魔導、東門へ! ――」


《――急ぎ東門へと転移したラウド大統領

眼前の戦艦に驚愕きょうがくしつつも、政令国家の長として

その責務を果たす為、戦艦に向かい――》


………


……



「わしが国王、もとい……大統領をしておるラウドじゃ!

何の用かは知らぬが此方に戦闘の意思は無い!

一度、顔を見て話せるじゃろうかっ!! ……」


《――かすかに見える人影に向けそう問うたラウド大統領


その直後――》


「大統領? ……まぁ良い。


少し待って居てくれ……」


《――開かれたタラップ


其処から下船して来た一団の長と思しき男……


……赤黒い長髪に鋭い眼光

一瞬の隙も無い立ち居振る舞いを見せたこの男は


ラウド大統領に対し、深々と一礼した後――》


………


……



「……お初にお目に掛かる、私の名前はディーン。


我がディーン隊の隊長を努めている者だが……ラウド大統領殿。


申し訳無いが、私は大統領と言う役職を聞いた事が無い

まずはその説明をして頂きたい」


「うむ……大統領と言うのは国民の投票で選ばれた長の事じゃよ

前国王が魔族に成り代わられており、その血筋も途絶えておった為

国の崩壊を招かん為に決まった仕組みなのじゃ」


「成程……では、本題だが

半年と少し前……此方の方角に“大量の魔物”が飛来しては居ないだろうか? 」


「……何故その様な質問をするのかね? 」


「ん? ……何か知っている様な目だが、出来れば隠さず教えて頂きたい」


「……“原因”を見つけたらどうするつもりかね? 」


「教えては頂けないのか? 」


《――この、一触即発の状況に

ディーン隊の副隊長であるギュンターは――》


「ディーン様、お戻り下さい……話すつもりは無さそうです」


「いや……残念だがその隙を与えて貰えるとは思えない。


ラウドの背後に……腕利きが数名居る」


《――主人公らの方に視線をやりつつそう言ったディーン


だが――》


………


……



「あ、あの……すみません」


「……君は? 」


「主人公と申します……俺は、この国の外交大臣でもあり

そして……魔物を“吸収した”張本人です」


《――彼がそう言った瞬間

ラウド大統領は彼を強く制止した、だが――》


「ほう、不思議な事を言う……人間が魔物を吸収?

いくら大臣とは言え……君の様な子供がかね?


確かに、魔導適正は高そうだが……いや、色々と詳しく聞きたい。


……話して貰えるかな? 」


「ええ、勿論です……が、その前に

民が怖がります……せめて戦艦の動力をお切り下さい」


《――と、一切動じずそう要求した主人公の姿に

このディーンは微笑み――》


「……と、言う事らしい。


ギュンター……“仕舞しまえ”」


「……了解致しましたディーン様。


戻れ、戦艦よ――」


《――ギュンターがそう発した瞬間

彼の持つ小瓶へと収まってしまった戦艦……その姿は、さなが


“ボトルシップ”の様で――


“よ……予想外過ぎて言葉が出ません”


――直後、主人公がそう言うと


“……お褒めの言葉ととらえておきます”


とだけ返し、深々とお辞儀をしたギュンター


そして――》


………


……



「……さて、これで話して貰えるかな? 」


「ええ……ですが

他国からのお客様とこの様な所でお話するのも失礼に当たりますので

皆様……宜しければ、俺の腕を掴んで頂けますか? 」


「良いだろう……皆彼に掴まる様に」


「マリアとメルちゃんも……では皆さん

御手をお離しにならない様にお願いします。


……では行きます。


転移の魔導、大統領執務室へ! ――」


《――“ディーン隊”と名乗る一行を引き連れ、執務室へと転移した主人公。


だが、これに驚いた様子のディーンは――》


………


……



「転移魔導とは驚いた……初めての経験だ」


「喜んで頂けたのなら幸いですが……兎に角、ご質問の続きをどうぞ」


「ああ、単刀直入に聞くが……君は魔族、しくはは魔族の手先か?

あるいは“改造”を受け……いや。


……最後のは忘れてくれて構わない」


「どちらも否定します……魔族は憎むべき敵です。


普通の……と言っても信じて頂けないかもしれませんが“人間”です。


その……此方からも質問を一つだけ宜しいでしょうか? 」


「答えて貰うだけでは不公平だ……一つと言わず答えよう」


「有難うございます、では此方も単刀直入に最重要な質問を一つだけ。


この国を襲う……もしくは滅ぼす等

この国に悪影響を与える様な目的は御座いますか? 」


《――このあまりにも直球な問い掛けに執務室の空気は張り詰めた。


だが――》


………


……



「……本来ならば“場合にる”とにごすべきなのだろう。


だが、正直に答えよう……この国や君が

魔族や魔王にくみしていないのなら決して手は出さない

何より、無闇矢鱈むやみやたらに刃を向ける趣味は無い。


とは言え……個人的な興味と危機管理の為に聞いておきたいのだが

先程君は“俺が吸収した”……と言ったね?

それが一体どう言う事なのかを詳しく説明して貰いたい」


「ええ……ですが正直、俺は覚えて無いんです。


ですので、伝え聞いた話の受け売りに成ってしまいますが……


……俺が生命の危機におちいった直後、俺の固有魔導が暴走し

俺の命を守る為に異常な事態を引き起こしたそうです。


そして……その所為で国民を怖がらせてしまい

俺は地下牢に一年程幽閉されていました。


ちなみに……今日釈放されたばかりです」


「成程、正直に話している目だ……偽りがない事を確認した。


流石に君の固有魔導がどんな物なのかを教えて貰う事は……無理かな? 」


「それは……お約束して頂けるならお教えします」


「……何を約束すれば良い? 」


「この国の国民に成る、しくは友軍か友好国でも何でも構いません

どの様な形でも良いので……味方に成って頂けませんか? 」


「それは外交として? ……それとも此方の戦力が目当てかね? 」


「いえ……ディーン様のお人柄に魅力を感じたと言うのが素直な感想です

失礼な言い方で申し訳有りませんが、教養の無さと笑ってお許しください」


「いや、光栄だよ……では、暫定的に“傭兵”としてならばどうかね? 」


「ええ、それで充分です……此方は何をお支払いすれば? 」


ずは君の固有魔導について……それが一つ目の報酬だ

その他は食事と武器弾薬等の補給、宿の提供等……


……私達が生活する上で必要な物を提供して頂きたい」


「……ラウド大統領、構いませんか? 」


「うむ……許可する」


「ではその様に……まずは俺の固有魔導についてでしたね」


「ああ、魔物を吸収など聞いた事が無い……一体どんな固有魔導なのかね? 」


「……先ほど説明した理由に絡み、この国の民の安寧の為

今此処で発動させる事は出来ませんが……端的に説明をするならば

“全ての事象に強制的に介入出来る”……と言うのが精一杯の説明です」


「良く分からないが……それが暴走したと言う事は

国民は相当に恐怖したのだろう……故に一年の幽閉、納得はした。


だが、もう少し具体例は出せないのかね? 」


「では……あくまで例え話ですが、固有魔導を起動した状態で

“ディーン様を消去”と言えば

恐らく、ディーン様はこの世界から消滅するかと思われます」


「成程……説明が難しい事も理解したよ

君が本当に邪悪な存在ならば今直ぐにでも悪用するのだろうが

今までに暴走したのは、君が生命の危機におちいった時だけかね? 」


「はい、一度だけです……国を良くする為に奔走ほんそうした結果

食事と睡眠の不足に魔導の乱発による慢性的まんせいてきな魔導力の回復不足……


……暴走の原因を作ってしまったのは恐らく俺自身です。


今後、絶対無いとは言い切れませんが

二度と起きない様、細心の注意を払って居るつもりです」


「ふむ……ならばこうしよう

私達はこの国の傭兵として雇われる形を取る、報酬は先程の内容で問題ない。


……その上で“君の監視”も行おう。


万が一君が暴走した場合には此方で対応する

それはこの国の為でもあり、私達ディーン隊の為でも有る。


だが、何よりも……心根の真っ直ぐな君の名誉の為だ」


<――この直後、ラウドさんの承認に

ディーン隊は“傭兵”として正式に迎え入れられた。


だが、この時……あまりにも真っ直ぐな目で

“君の名誉の為”と言われた事に少しドキッとした俺は

逆に違和感を感じる程の素っ気無い対応をしてしまった――>


「ええ……その時はお願いします。


で、では……俺達は用がありますので

皆様は一先ひとまずこの国の観光をどうぞ。


おすすめはドワーフの工房です……ボードゲームが楽しめますので」


「ボードゲーム? ……何だねそれは? 」


「遊び道具ですが……詳しくはドワーフの工房でお聞き下さい。


……ではラウド大統領、俺達は引き続きオークの居住区

並びに、ドワーフの居住区に挨拶回りに……」


<――そう言ってこの場を立ち去ろうとした俺

だが――>


「……待ってくれ、ドワーフの工房と“居住区”が近いのであれば

其処まで一緒に連れて行って貰えないだろうか? 」


「あ~……“転移魔導”って意味なら俺もそうしたいのですが

幽閉中に出来た建物ですので一度歩きで行かないと飛べなくて……


その、申し訳有りません……」


「成程、それは悪い事を聞いた……


……では、私達が“同行”するのは構わないか? 」


「ええ……なら先にドワーフの工房に行きましょうか

一度近くまで飛びますので、掴まって下さい。


……それでは行きますッ!


転移の魔導、ギルドへ! ――」


<――直後、ギルドに到着した俺達は

メルちゃんの案内でドワーフの工房へと向かった――>


………


……



「……此処が新しく出来たドワーフ族さん達の工房で

その後ろが居住区ですっ! 」


<――何故だか妙に緊張気味なメルちゃんは

ディーン隊の皆さんに対してそう説明をした。


一方、彼女の説明を聞き終えると一言御礼を言ったディーンさん……だが

対するメルちゃんは、やはり何処か緊張して居て――


“い、いえ! ……お役に立ててよかったですっ! ”


――と答えた後、少しばかり“あたふた”として居た様に見えた。


ちなみに、これは後で知った事だが……この時、メルちゃんは

ディーン隊の皆さんの事を“俺に対する最大の脅威”だと思って居たらしい。


まぁ、俺が暴走したら俺を“始末する”役目を買って出たんだから

そう思うのも分からなくは無いのだが……いずれにしても

メルちゃんにいらぬ心配を掛けてしまったのは事実だ――>


………


……



「……ではドワーフ族の工房をご案内しますね!

まぁ、く言う俺も此処に来るのは初めてなのですが……」


<――ともあれ。


メルちゃんから案内を引き継いだ俺は

重厚感のただよう工房の扉を開いた――>


………


……



「いらっしゃ……おぉ主人公! ……ん?

後ろに居るのは……何方どなたかな? 」


「……お初にお目に掛かる、私はディーン。


後ろにいるのは部下のギュンター、タニア、ライラ、オウルだ。


……我々はえんあってこの国の傭兵と成った者、だが

期間は特に設けて居ない……勝手だが、此方の都合も有るのでね。


とは言え、しばらくはこの国にお邪魔させて頂く事に成る

短い間かも知れないが、よろしく頼む」


<――そう言うとガンダルフさんに握手を求めたディーンさん。


一方、ガンダルフさんは握手を受け入れつつ――>


「ふむ……しかし皆只者ただものでは無さそうじゃな。


この国には無い装備品もちらほらと……いや、いらぬ詮索じゃったか。


っとマリア殿! ……ようやく盾が完成したぞ!

ほれっ! ……持って行くが良い! 」


「えっ?! 凄い……色も一緒じゃないですか!

と言うか、良くこんなに寸分違わずな感じに作りましたね?! 」


「……そりゃお前さんの持ってる武器も防具も

全て元々わしらドワーフの技術で作られておるからな。


あの時は……っといかんいかん! 昔話に花を咲かせても仕方が無いわい!


それはそうと……主人公、何の用じゃね?

その様子じゃと、ディーン隊の皆さんを

“見せびらかし”に来た訳ではあるまい? 」


<――ディーンさんの直ぐ近くで

ずっと“もじもじ”して居た俺の様子に違和感を感じたのか

ガンダルフさんはそう言った。


そして――>


「そ、その……“今回の件”で各所にお礼を言いにまわって居るのですが

ガンダルフさんにはとてもお世話になりましたので、その為というのが一つ。


それから、ディーン隊の皆さんに

“ゲーム”をご紹介したかったと言うのが二つ目の理由です」


「……何じゃ、そう言う事じゃったか!

しかし……気など使わんでも良い、わしが好きで動いたのじゃからな。


ともあれ、ゲームの紹介ならわしに任せるが良い!


ディーン殿……これが記念すべき一作目のゲーム、オセロじゃ

そしてこっちが二作目……バックギャモンじゃ!

どちらも二人で対戦をする遊びなのじゃが……」


<――直後

ガンダルフさんの“セールストーク”を

興味津々に聞いていたディーン隊の皆さんだったが――


“この国の貨幣に持ち合わせが無い為、後日うかがおう”


――と、少し残念そうに言ったディーンさんの様子に

俺は――>


「あっ! ……なら俺がプレゼントします!

ガンダルフさん、俺の払いでどちらも“特級”をお包みして下さい! 」


「ほう? ……流石、発案者は太っ腹じゃのう? 」


「いえいえ、そもそも

貧乏生活と無縁に成ったのはガンダルフさんのお陰ですから! 」


<――などと話していたら

ディーンさんはオセロの箱を持ち、俺の名前を見つめながら――>


「ふむ……確かに箱には君の名前が発案者として書いてある

主人公君……君は多才なのだね」


「い、いえ……この所とても暇だった物で……」


<――などと話していると

ガンダルフさんは申し訳無さそうに――>


「ううむ……すまん、バックギャモンの特級が売り切れておる

明日以降に届けるので構わんじゃろうか? 」


<――と言った。


だが“届け先”……つまり

彼らの宿泊先がまだ決まっていない事に気付いた俺は

直ぐにラウドさんへと魔導通信を繋いだ――>


………


……



「……おぉ! 丁度伝えようと思っておった所じゃよ!

東門宿を使える様に手配したゆえ

御一行には主人公殿から伝えて貰えるじゃろうか? 」


「ええ、ではその様にお伝えします……では! 」


<――直後、ガンダルフさんにもこの件を伝えた俺は

工房ここと同じく、俺の幽閉中に出来た東門宿に向かう為

一度、東門付近へ彼らを連れて行く事と成った――>


………


……



「……俺も詳しい場所を知らないので

宿への案内は付近にいる憲兵にお任せする形には成りますが

名前からして東門の近くである事は間違い無いと思いますので

一度皆様を東門付近へ転移でお送りします! 」


「それは助かる……では皆、主人公君に掴まれ」


「えっと……メルちゃんとマリアは此処で待ってて!

すぐ戻ってくるから! ……では行きますね。


転移の魔導、東門前へ! ――」


………


……



《――この後、ディーン隊を連れ東門前へと転移した主人公。


近くに居た憲兵に対し一行を東門宿へと案内する様頼んだ後

ドワーフの工房へ“蜻蛉返とんぼがえり”と成った彼に対し――》


「忙しい所済まなかったね……また後日」


「いえいえ! ……では、また後日!


転移の魔導、ドワーフの工房へ! ――」


《――主人公かれの去った後

副隊長ギュンターは――》


「しかし……あの様な若き青年がこの短期間に

転移魔導を“ただの移動手段”のごとくに連続使用するとは。


私めは、恐ろしい相手と渡り合うディーン様の元でご奉仕出来ている事を

とても光栄に感じております」


《――と言った。


だが、そんな彼に対しディーンは――》


「いや、違うな……彼は“恐ろしい相手”では無い。


彼の力は確かに凄まじいが、同時に彼はとても真面目だ

彼の人を幸せにしたいと言う言葉に偽りは無いだろう。


まぁ、敵に回したく無いのも確かではあるが……」


《――そう言って、何かを思い出し微笑ほほえんだ。


一方、工房へと戻った主人公は――》


………


……



「お疲れ様です主人公さん……それにしても大変な相手でしたね」


《――ねぎらいの言葉もそこそこに

ディーン隊を警戒する様な発言をしたマリア。


だが、そんな彼女に対し――》


「そうだな……お互い理解し合えた様な気もするけど

それだって俺の勘違いかもしれない……まぁ成る様に成るさ。


さてと……メルちゃん

引き続きオーク族の居住区への案内頼めるかな? 」


「はいっ! ……こっち側からだと

水の都出身者の居住区を通ってから行けますよ! 」


「へぇ~そうなんだ……丁度良いしそっちから行こっか!


って事でガンダルフさん、また……」


「……待つのじゃ主人公!

そろそろ御主の“取り分”を持って帰ってくれんか?

これが中々に嵩張かさばるんじゃよ……」


「あっ、そう言えば! ……って多過ぎませんッ?! 」


《――主人公の眼前には

彼の身の丈とたがわぬ程の高さに積まれた金貨があった。


そのあまりの量に圧倒されて居た主人公だったが

同時に、彼が心に決めて居た――


“皆に恩返しをする為、皆の為に使う”


――と言う願いを充分に叶えられるだけの金貨を前に

ガンダルフに対し深々と頭を下げ――》


「……これで、皆に恩返しが出来ます。


本当に有難う御座いました、ガンダルフさん……」


《――そう言った。


だが、対するガンダルフは――》


「……“人の為”も御主らしくて良いとは思うが

たまには自分の為にも使うんじゃよ?


まぁ、御主の金じゃ! どう使うも御主の好きにすれば良いがのう! 」


「ええ! 俺もたまには豪勢にぱーっと使ってみます! 」


「うむ……じゃが、あまりタガを外し過ぎぬ様にのう?

ともあれ……“挨拶回り”の途中だったのじゃろう?

日も暮れ始めて居るし、急いだ方が良いのでは無いか? 」


「あっ! ……そうでした!

また後日、改めて御礼に来ますので! それでは! ……」


《――直後

ガンダルフに別れを告げ

水の都出身者の居住区らしき場所へと到着した一行は――》


………


……



「おぉ……俺が想像してたよりも立派なつくりだ。


良かった……」


《――と、驚きと喜びを感じて居た主人公。


そんな中、彼に声を掛けて来たのは、マリーンの母

“マリーナ”であった――》


「……あら?

主人公さんにお二人さんまで……どうされたのです? 」


「えっとその……俺の件でご迷惑をお掛けした方々に

お礼とお詫びをしておりまして……」


「その様にお気を使われなくても構いませんのに……


……所で、皆さん凄い汗ですが……此処まで

まさか“歩きで”お越しになられたのですか? 」


「え、ええ……新しく出来た場所へは流石に飛べなくて

お見苦しい所をお見せしてしまい申し訳有りません……」


「いえ、その様な意味で言ったのでは……兎に角

皆様のお陰で私も……そして民達も、安定した暮らしをさせて頂いております。


改めて感謝を……」


《――そう言うと

深々と頭を下げたマリーナ――》


「あ、当たり前の事をしただけですから……頭をお上げくださいっ! 」


「……皆様にはそうであっても

私達が救われたのは事実です……今後とも末永く宜しくお願い致します」


「こ、こちらこそ……宜しくおねがいします! 」


《――暫くの後

水の都出身者の居住区を後にした一行は

最後の目的地であるオーク族の居住区へと向かった……だが。


オーク族の新しい居住区に辿り着いた頃には夜も更け

あたりは松明たいまつの明かりのみと成って居て――》


………


……



「こ、此処がオーク族の居住区ですっ……けど


流石に……ちょっと疲れましたぁ~っ……」


《――此処まで文句の一つも言わずに案内を続けていた彼女メル

だが、流石にへたり込みそう言った彼女に同意する様に――》


「私も流石に歩き疲れましたよ~……だ~っ! お風呂入りたいっ! 」


《――汗を拭いながらそう言ったマリア。


そんな二人に対し――》


「メルちゃん、案内ご苦労様……本当にありがとね。


それからマリア……俺も同じ気持ちだ。


ともあれ……此処が新しいオーク族の居住区か

ちゃんとした広さもあるし、グランガルドさんが希望してた通り

農業も畜産も両方出来る様に成ってるし……良かった良かった」


《――と、胸を撫で下ろしていた主人公の背後に迫る

一際大きな“影”――》


………


……



「こんな時間にどうした? ……何か有ったか? 」


「ぬおぉっ?! ……グランガルドさん!?

い、今……何処から来ましたッ?! 」


此処ここが隠し扉に成っていてな……と、そんな事はどうでも良い。


御主達は何か用が有って訪ねて来たのではないのか? 」


「何故に隠し扉……っと、そんな事は置いといて!


……俺が幽閉されてから釈放されるまでの間

言葉で表すには難しい程、皆様にはお世話に成りましたので

今日はその御礼を伝えて回っているんです。


……ですが、最後に成ってしまった上

こんな夜遅くになってしまって本当に申し訳有りませんでした……」


「何を言う……礼を言うべきは吾輩達の方だ。


御主が居なければ吾輩達はいま

旧居住区に“幽閉”されていただろう。


……此方こそ、恩を返すのが遅くなって済まなかった」


《――そう言うと

グランガルドは主人公達に深々と頭を下げた――》


「そんな……頭を上げて下さいッ! 俺の方こそ感謝してもしきれませんよ!


そもそも、グランガルドさんが

俺みたいな無礼者の話をちゃんと聞いて下さって

大きな心で受け入れて下さったからこそですよ!

いくらお礼を言った所で感謝しきれない程の事だと思っています。


……これからもご迷惑をお掛けする事が多々あるかもしれませんが

これから先も変わらず懇意こんいにして頂けますか? 」


「うむ……たとえ命尽きようとも

吾輩と御主との友情が消える事は無いと誓おう……吾輩の方こそよろしく頼む」


「はいっ! ……お願いします! 」


《――直後

固い握手を交わした主人公とグランガルド。


だが、そんな彼らの背後では――》


………


……



「す、素敵な友情過ぎる~っ……うぇぇぇぇぇんっ!! 」


「えっ?! マリア?!


マリアが……“あの”マリアが泣いてる……だと?! 」


「ど、どう言う意味ですか主人公さぁぁぁぁん!! 」


「ふむ……“マリアーバリアンの目にも涙”か」


「も゛ぉ゛ぉぉぉぉぉっ!

グランガルドさんまでぇぇぇぇっ! ……」


「ふふっ♪ “語呂が悪い! ”……ですか? 」


「メルちゃんも゛ぉぉぉっ! ……先に言わないでよぉぉぉっ! 」


《――騒がしい一日と成った今日と言う日。


主人公かれしたう者達……


……主人公かれしたう者達


結果として、それぞれの関係性を

一層深い物へと昇華させる出来事と成った幽閉生活。


……砂漠の都市から現れた謎の一団は

存外あっさりと主人公の要求を受け入れ、暫定的ではあるが仲間と成った。


だがその一方で……くも平和な出来事が続いたこの数日後

帝国は完全に魔王軍に喰らい付くされたのだった――》


===第二十八話・終===

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