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異世界転生って楽勝だと思ってました。  作者: 藤次郎
第一章

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第二十六話「物で釣ったら楽勝だと思ってました。」

《――襲撃から一夜明け、ラウド大統領は昨夜の一件を国民達へ説明。


各種族に対するねぎらいや勲章の授与なども行われ

この際にも主人公の拘束緩和の是非ぜひう投票をおこなった。


……だが、国民の半数以上が反対に投票し

主人公の釈放は更に遠のいてしまった。


そして……この決定を受けてか“地下特別警戒監獄”では

珍しく、強い不満を口にした主人公――》


………


……



「何か最近……すっごい気分悪いんだよね。


俺、別にこのままでも良いのに投票やって否決されてさ?

それが原因で訪れる仲間が皆全員悲しそうな顔でさ?

俺の心配ばかりしてくれて、それに対応し続けてると……


……本当ホント、すっごい気分悪いんだよね」


《――と不満を語って居た主人公。


そんな彼に対し、メルは――》


「……で、でもっ!

少しづつ話に出しておかないと主人公さんが……」


「……いや、国民皆が平和に生きていけるなら

此処から出られなくても良いよ。


俺は二人が居てくれるだけで幸せだから。


大体……現世での俺の“腐りっぷり”は話したでしょ?

絶世の美女二人に側に居て貰えるこの状況は

俺に取っての何よりの幸運だから……良いの! 」


「あの……美人って褒めて頂けるのは嬉しいですし

私もお側に居られるだけで幸運だと思っています。


勿論、私達がいて安らぐとおっしゃられるなら

幾らでもお側に居たいと思います。


……でも、主人公さんがどんなに民の平穏を願い続けていても

民のほとんどが主人公さんの事を全く気遣って居ない現状が

私にはどうしても許せないんです」


「メルちゃん……有難う、大好きだよ」


「へっ?! ……わ、私も大好きですっ!


でも……だからこそ一緒に色んな所を見て回りたいですし

いろんな事を経験したいんです。


なのに、主人公さんがずっと此処に幽閉されていたら……


……私、皆さんに嫌われても良い!

無理矢理にでも封印を解いて

今直ぐにでも主人公さんと逃げたいですっ! 」


《――本当にそうしかねない程の形相でそう言い放ったメル

マリアもこれに同調し――》


「私の斧があれば“それ”が可能だと

ガンダルフさんから教えて貰いましたし……


……何なら今直ぐでも破れますよ?

どうします? 主人公さん……此処は一つ“悪役”に成ってみます? 」


「ま、待った! ……二人が俺の事を大切に思ってくれるのは嬉しいよ

だけど落ち着いてくれ……俺の所為で

二人が罪人扱いされるのだけは勘弁ならない」


《――などと話して居た一行に対し

扉の向こうから声を掛けて来た者が居た――》


「……何やら物騒な話をしておるのう?

余り不味い方向に熱心にならずに

これに熱心になってくれれば……作ったわしも嬉しいがのぉ? 」


………


……



「あっ……ガンダルフさん! 」


「御主に頼まれたこの

“オセロ”? ……と言うのが完成したから持ってきたぞぃ! 」


「おぉ……流石はドワーフ族屈指の職人ですね!

半端じゃ無い作りの良さに驚いてます……」


「はっはっは! ……流石は見る目があるのぉ主人公よ!

気分が良いからお代は遊び方を教えて貰う事で良しとしよう! 」


「本当ですか?! ……では早速ルールを説明しますね! 」


《――この後、ガンダルフだけで無くメルも

興味津々にルール説明に耳を傾け……そして暫くの後


ルール説明が終わるや否や、二人は――》


………


……



「面白そうじゃな、一度やってみたくなったわい! 」


「わ、私もっ……! 」


「と言う事は……ガンダルフさん対メルちゃんの対戦ですね! 」


「頑張りますっ! ……ガンダルフさんが先攻でどうぞ! 」


「ふむ、ではわしから……黒い駒じゃったな?


……では此処じゃ!


ほっほ~……わしの方が多いぞ! 」


「むぅ~……じゃあ私は此処にっ! 」


「うむ……では此処じゃ! ……」


《――暫く経ち、勝負は中盤戦へと移行

ガンダルフ側の駒が圧倒的に多く

メルの白駒は極僅ごくわずかであったが――》


………


……



「う~ん、既にガンダルフさんの方が圧倒的に多いです……」


「ふむ! ……わしはオセロの才能にあふれておるかもしれんな! 」


《――勝ち誇るガンダルフ

しかし、主人公はメルを励ますフリをしつつ

メルに対し攻略法を教え続けた――》


「メルちゃん、まだ諦めちゃ駄目だ……オセロは最後まで分からない」


「で、でも……」


「……大丈夫、俺を信じて。


このまま少ない個数しか取らなくて良いから」


「でも、それだと負けちゃいますよ? ……」


「……大丈夫だ、良いから俺を信じて

メルちゃんにチャンスが向いてくる瞬間が必ず訪れる配置だ」


「分かりました、じゃあ私は……」


《――勝負は後半戦に突入

相変わらずガンダルフの黒駒が多数で

メルの白駒は数えられる程しか無かった。


しかし――》


ほとんどわしの駒だらけじゃぞ~?


……これはもうわしの勝ちじゃ! 」


「いいえ? ……油断大敵ですよガンダルフさん?

メルちゃん、盤面をよく見るんだ……」


「よく見ろって言われても……あっ、ここっ! 」


《――メルは熟考し駒を置いた。


すると、盤面の駒は縦横斜めに広がりながら続々と

白駒へ変わって行き――》


「何じゃと?! ……では此処じゃ!


……何っ?!


一枚しかひっくり返らんかったぞぃ?! 」


「じゃあ次は……此処ですっ! 」


《――メルの置いた駒は

またしても大量の白駒を増やし――》


「ぐっ……何故じゃ!?


……何っ?! ……置く所が無いじゃと?! 」


「ではガンダルフさんは一度休みで……


……メルちゃんがもう一度置けます」


「じゃあ……此処っ! 」


《――メルの一手により

盤面はそのほとんどが白駒で埋め尽くされ――》


「なんとぉ!? ……くそっ!

ここしか置けぬ……またしても少ないではないか! 」


「最後のマスですね……えいっ! 」


………


……



「……勝者、メルちゃん! 」


「やりましたぁ主人公さんっ! 」


「メルちゃん……おめでとう! 」


「ぐぬぬ……あんなにも終始押しておったのに……」


《――遊びとは言え

相当に悔しそうなガンダルフに対し、主人公は――》


「ガンダルフさん……どうですか? オセロは」


《――そう問い掛けた。


一方のガンダルフは暫しの沈黙の後――》


………


……



「……主人公殿。


このオセロとやらを大量生産し、販売しても構わんか? 」


「へっ? ……も、勿論です!

ガンダルフさんが儲かるなら俺も嬉しいので!


……喜んで! 」


「ふむ……じゃが、わしだけで無く

主人公に対しても発案料はしっかりと払う!

儲けの一割は御主の物じゃ! ……これは流行るぞぃ! 」


「それは助かりますけど……でも

大量生産されるのであれば値段帯別で

三種類位に分けて作るのが良いかもしれませんね。


……どうせなら子供から大人まで遊んで欲しいですし

ドワーフ族の作る製品は全て“質が良過ぎて”その分高いので

庶民にはとてもじゃ無いですけど手が出せませんから……


……最高級の材料で手間を掛けて作った物を特級

普通の材料で作った物を中級


……材料と手間を抑え、出来る限り低価格に抑えた物を

初級と分けて販売するのはどうでしょう? 」


「……成程、それならば皆が買いやすい価格に出来る上

弟子の腕を鍛える為に初級の制作を利用する事も出来るではないか!

その方法で生産を始めよう! ……助かったぞ主人公!


さて……そうと決まればわしはこれから工房にもるが

御主に渡したオセロは間違い無く最高級の素材で作った物じゃからな!


……皆で遊んでおるのじゃぞ!


ではな~っ! ……」


《――言い残すや否や

ガンダルフは凄まじいスピードで走り去って行った――》


………


……



「はい! ……ってもう居ない?!

しかし……凄い張り切ってたなぁ」


「そうですね……ってメルちゃんおめでとう!

遊びとは言えガンダルフさんに勝つなんて凄いですよ! 」


「いえいえっ! 主人公さんが色々と教えてくれたからですっ♪ 」


「いや、俺はヒントを出しただけだ

盤面を読めたメルちゃんが凄いんだよ? ……おめでとう! 」


「て、照れますからやめてくださいっ! 」


「照れなくて大丈夫だって!

……さて、次はマリアと俺で対戦してみるかい? 」


「おっ、負けませんよぉ~? ……」


《――この時、地下に居る三人は知らなかった。


この後、政令国家で異例と言える程の流行を見せた後

他国にも輸出され、他国との貿易の要になるまで全世界規模で流行し

各国主催の大会が開かれるまでになったオセロの存在を――》


………


……



《――そう遠く無い


未来の“魔王”――》


「……これで貴様は終わりだッ!!! 」


「ま、魔王様ッ! ……どうか、どうかお待ち下さいっ!! 」


「ほう? ……魔王に異を唱えると言うか」


「い、いえ……しかしこのままでは……」


くどいッ! ……フンっ!!!


……これで我の石が過半数と成った。


我の勝ちだ……」


「ま、参りましたッ……」


………


……



《――時は過ぎ、オセロが発売されてからおよそ一ヶ月後の事

主人公幽閉から八ヶ月目と成る今日……大統領執務室では

彼の釈放に関する話し合いが行われて居た――》


「……最後は主人公殿に関する議題じゃが

わしも良い加減に釈放してやりたいと思っておる。


主人公殿発案のオセロも発売から一ヶ月が経ち

今や国民のほとんどが持っておる上に

箱には大きく“主人公発案”と書かれておる。


それ故、主人公殿に対する風当たりも

以前よりは良い方へと変化したのではないかと思う。


この時期にもう一度、改めて国民投票を行ってみようと思うのじゃが

何か意見のある者は居るかのう? 」


《――ラウド大統領の提案に集まった長達は当然の様に全員賛成し

この日、急遽国民投票を行う事が決定された。


……そして同時刻


“政令国家地下特別警戒監獄”では

オセロの大流行についての会話で盛り上がりを見せて居た――》


………


……



「そう言えばオセロですけど……すっごい流行ってるんですよ? 」


「へぇ~……どの位流行ってるんだ? マリア」


「持ってない人なんて居ない位には流行ってますよ? 」


「嘘ぉ?! ……そんなに流行ってたのか!? 」


《――などと話していた主人公だったが

突如として勢い良く部屋の扉が開かれたかと思うと

ガンダルフが現れ――》


「主人公ッ!! ……今日は確実に御主を釈放させる為

足を運んだのじゃ! 良いな?! 」


《――と、現れるや否や

唐突な発言を繰り出したガンダルフ――》


「い、いきなり何ですか!? ちゃんと説明して下さいよ!! 」


「……すまん、気がいた。


オセロは御主の言う通りに販売した所、飛ぶ様に売れた

流石に最近は売上その物も落ち着いたが、客の多くが


“他にこんなゲームは無いのか? ”


……と口々にたずねて来るのじゃよ。


主人公の事じゃ“他にアイデアがあるのでは? ”と思ってのう?

あるならばぜひ教えてくれぬか?


それを……“人質”ならぬ“物質ものじち”にして

御主への国民のイメージを良い方向へ向けると言う算段なんじゃよ! 」


「それってつまり――


“新しいゲームを手に入れたかったら俺を釈放しないと無理ですよ”


――と脅って事ですか? 」


「脅しでは無い! 釈放したら

面白いゲームが更に増えると言うだけの話じゃ! 」


「何だかそう言うやり方苦手なんですよね……でも、分かりました。


折角俺の為に考えて下さったんです

……どう使うかもガンダルフさんに任せます。


新しいゲームのルールと道具の形状を説明しますね」


《――主人公がそう言った瞬間

ガンダルフはガッツポーズを取りながら


“やはりアイデアが有ったか!”


と、言った。


ともあれ……主人公の伝えた“新しいゲーム”は

“バックギャモン”と呼ばれる物で――》


………


……



「……ルールは単純です。


自分の駒を相手より先に全てゴールさせれば勝ち

相手に先にゴールされてしまうと負けと言う単純な物です」


「ほぉ……オセロとはまた違ったルールじゃが

道具はどんなのを使うんじゃ? 」


「……駒はオセロに似ていますが、裏表と色の指定は無く

自分の駒と相手の駒の見分けがつく色ならば何色でも構いません。


それと、サイコロと言う道具を使いますので

一人二個……合計四個用意してください」


「サイコロじゃと? ……占い師が使う様なアレか? 」


「えっと……六面体の四角に一から六が刻まれてあり

全ての面が裏表で合計七に成る様な配置ならその道具ですが

占い師が使っているのはそれですか? 」


「少し違うのぉ……よし、それも作ろう! ……他に必要な道具は? 」


<――この後、詳細なルールや必要な物を全て聞き終えると

ガンダルフさんは――>


………


……



「うむ……ではこれを“物質ものじち”にするかせぬかは別として

主人公には必ず最高級の材料で作ったバックギャモンとやらを届けてやろう!

そしてわしはメル殿とリベンジマッチじゃ! ……


……覚悟しておくのじゃぞぃ? メル殿! 」


「はいっ! 」


<――この瞬間


メルちゃんとガンダルフさんの間に

ある種のライバル心が目覚めた様に見えた。


そして……この直後、例にって

ガンダルフさんは凄まじいスピードで走り去っていったのだった――>


………


……



「……私、ガンダルフさんと遊ぶのが楽しみですっ! 」


「それは良かった……それなら

ルールを良く見て覚えておくと有利かもしれないね! 」


「はいっ! 頑張ってまたガンダルフさんに勝ちますっ! 」


<――遊びとは言え戦いに燃えるメルちゃん

その一方で、マリアは俺に対し――>


「それにしても主人公さん……


……良くそんなにボードゲームのルールしっかり覚えてますね? 」


「えっ? ……いや、全部一人遊びだったけどね。


もしも友達が出来た時用に備えて

一通りのゲームのルールは丸暗記してたから……その影響かな? 」


「うわ……何か悲しっ」


「ちょ?! ……マジで泣くよ!? 」


「……冗談です、それが役に立ってるんですから良いじゃないですか!

実際私達とも遊んでますから“予定通り”って事ですし? 」


「う~ん何か釈然しゃくぜんとしないけど……まぁありがとな。


……っと、そろそろお昼ごはん食べたいね」


「そうですねぇ~……今日は何にしますか~? 」


《――やはり、この時も三人は知らなかった。


後に、国を大きく二分する事と成る

“バックギャモン派”と“オセロ派”の壮絶な争いを……


そして、オセロと同じく世界中で流行る事も――》


………


……



《――そう遠くない未来の


“魔王”――》


「……同じ者が揃えば

我が軍の行進は貴様の息の根を止めるであろう。


フンッ!!! ……な、何っ?!


“一”など揃った所で……対して進めぬでは無いかッ?! 」


「フッフッフッ……魔王様、形勢逆転でございますね。


キエィィッ! ……私の勝ちですな!! 」


「おのれサイコロめ……己ぇぇぇぇっっ!!! 」


………


……



《――主人公から新たなゲームを教わったガンダルフは

その足で、ラウド大統領に対し

物質ものじち”作戦について説明して居た――》


「ふむ……物質ものじちとは考えたのぉガンダルフ殿。


しかし、国民の中には“物で釣った”事を

問題視する者が出てくるのではないか? 」


「確かにそれはいなめんが、何もしなければ主人公は! ……」


「そう興奮するでない……主人公殿を釈放したいのはわしも同じじゃよ。


じゃが、あまり過剰にあおればひずみが発生する事もある。


あまり焦らず、オセロの時と同じ様に

“主人公発案”と箱に書いておく程度に収めるのが

国民の感情を緩やかに変える事が出来るのではないかとわしは思うんじゃよ。


……無論、最終手段としてならば良いとは思っておる。


いよいよどうにも成らぬ時ならば

物質ものじち作戦”を使う事もあるじゃろうからのう? 」


「うむ……少し焦って居ったのかもしれんな。


……しかし、少しでも早く主人公が釈放されると思って

案を出したのじゃが……兎に角、失礼する」


《――ガンダルフは

少し落ち込んだ様子で執務室を後にした――》


………


……



「……わしも焦っては居るんじゃよガンダルフ殿。


しかし……どうにかして主人公殿を

国民からの信頼の厚い形で釈放してやれぬものじゃろうか?


釈放を急いだ結果、傷つくのは主人公殿自身じゃし……」


《――と、執務室で一人思案中のラウド大統領の元に

酷く慌てた様子のリオスが現れた――》


「た……大変だよラウドさん! 」


「何じゃ?! ……何が有ったのじゃ! 」


「帝国が……襲われてる」


「どう言う事じゃ!? ……何処に襲われておる? 」


「それが……魔族軍が一斉攻撃を始めたみたいなんだ。


帝国の軍人が次々と魔族に殺られてるみたいで……」


「成程……恐らくこの間の一件で見限られたんじゃろう

魔族共の事じゃ“役に立たんなら餌にでもする”つもりなんじゃろうて。


しかし、ミネルバ殿の言う通りに成ってしもうたのう……」


「……今の所こっちに来る気配は無いけど

安心は出来ないよ? ……」


「うむ……それに関しては不幸中の幸いじゃと思うが

我が国でも最上級の魔導師である主人公殿を幽閉したまま

もし攻め入られでもすれば、恐らく我が国も無事ではすまんじゃろう」


「そうだね、主人公の件も含めて早くどうにかしないと……」


《――この会話からわずか数時間後の事

帝国軍は壊滅、帝国はさながら魔族達の食料庫と成り果てて居た――》


………


……



「魔王様……この国の兵士、及び抵抗勢力は全て排除致しましたッ! 」


「うむ……食料庫の確保は完了か。


此処で力を蓄え……そして、幾度と無く我が配下の者共を苦しめ

我を愚弄した“政令国家”を必ずや落とし

我が種族の繁栄を、未来永劫……揺るがぬ物とせよッッ!!!! 」


《――魔王がそう命じるや否や

配下の者共は、それに答えるかの様に

地響きのごとうなり声を上げた――》


………


……



《――同時刻


主人公は長い幽閉生活の中……いや。


転生してから、常日頃と感じていたであろう事柄を

マリアとメルに打ち明けて居た――》


「……美味しかった~ご馳走様っ!


っと……最近思う事が有るんだけどさ」


「何ですか? ご飯だけじゃなくて“私達も食べちゃいたい”

とか、そう言う系ですか? 」


「……ち、違うわ!

二人共確かに魅力的だけど……ってそうじゃ無くて!!!

元居た世界の味が恋しく成って来ただけ!


要するには“日本食”って事だけどさ……」


《――彼のこの発言に

メルは興味を示し――》


「あの……日本食ってどんな物なんですか? 」


「えっとね~……豆腐、焼き魚、刺し身、納豆、すき焼き、天ぷら


……他にも沢山あるけど、どれもとっても美味しいんだよ? 」


「そうなんですね! 主人公さんの故郷の味か~

是非食べてみたいですっ! ……」


《――と希望を語ったメルに対し

マリアは少々現実的で――》


「……でも日本食って調味料すら難度高くないですか?

味噌も醤油も“発酵”が必要ですし

それを実現する為の“菌類”がこの世界にあるとは限りませんし……」


「そうなんですか? でも何か方法が……あっ!!!

主人公さんの“固有魔導”で生み出したりって出来ませんかね? 」


「その手があったか! ……って、出来るとしても今は無理っぽいな

“この状態”だし……」


《――主人公は

足の鎖を指差しそう言った――》


「そ、そうですよね……ごめんなさいっ! 」


「いや、アイデアはあればあるほど助かるし

出られたら試してみるから落ち込まないで!


……ありがとうメルちゃん! 」


「と言うか、主人公さんが具体名出すから食べたくなって来ましたよ~」


「あ~……マリア、それは本気ですまんかった。


……あと俺もだ。


あっ! 何のなぐさめにも成らないけど……“箸”なら作れるな」


「……箸って何ですか? 」


「食事に使う道具で、てのひらの大体……一.五倍位の長さの

細い棒を二本用意したら、それはもう箸だね」


《――そう説明した主人公


すると、メルは何かを思い出し――》


「へっ?! 確か、そんな感じの物が家にある絵本に載ってた様な……」


「えっ?! く、詳しく説明してくれるかい? 」


「はい、でも説明するより見た方が早いと思うので一度取りに帰りますっ!

ちょっと待ってて下さ~いっ! ……」


<――そう言うや否や

メルちゃんは急いで絵本を取りに帰った――>


「……何だろ? もしかしたら日本と近い何かが有るのかな? 」


「そうかも知れないですね……

そもそも、主人公さんはこの世界の作成時――


“地形はゲームの世界と地球を足して二で割った様な”


――って指定されてましたし、ひょっとすると

この世界の何処かに“納豆菌”とか“麹菌”もあるかもですよ? 」


「確かに……まぁ仮に日本食は無理でも

着物とかの和装的な物なら何とか作れそうだ! 」


「そうですね~……着物は着てみたいかもしれないです! 」


「おっ! ……マリアは絶対似合うよ!

てか、メルちゃんにもマリーンさんにも似合いそうだな!


……って、言ってて思い出したけど

俺、花火大会とかお祭とか行った事すら無いから

この世界に花火があるのかは知らないけど

もしあるのなら、日本の祭りスタイルで浴衣とか着た皆と一緒に

“射的”とか“金魚すくい”とかしてさ!


……で!

一緒にかき氷食べながら! ……ってマリア、うつむいてどうした? 」


「主人公さん……本当に悲惨な人生だったんですね」


「ちょ?! マジで泣くよ?! 」


「でも……正直楽しそうですよね。


私も折角主人公さんに付いて来たんですから

楽しい事なら一緒にやってみたいですし!


……もし全ては実現出来なかったとしても

今は仲間が沢山居るんですから、皆さんに協力して貰って

主人公さんの夢を一つでも多く叶えられる様に頑張りましょう! 」


「マリア……そ、その……改めて、ついて来てくれてありがとうな」


「いえいえ! ……転生時

私の事を“可愛い”って言ってくれたお礼みたいな物ですから! 」


<――と、和やかな雰囲気で話して居た俺達の元に

絵本を持ったメルちゃんが帰って来て――>


………


……



「絵本持ってきましたっ! 」


「おぉ! ……早速見てもいいかい? 」


「はいっ! ……主人公さんの言う

“箸”って道具らしき絵が書いてあるのは後ろの方ですね! 」


「ふむふむ、う~ん……んッ?!


こっ、これは?!! 」


「な……何かありましたか?? 」


「このページを見て! ……これ絶対“たこ焼き”だよ!

と言う事はさっきのページのは……成程ッ!!


“爪楊枝”だ! ……これ爪楊枝の“二本差し”だよ!! 」


「そ、その……たこ焼きって何ですか? 」


「これも日本食の一種だよ!

たこって言う海の生き物が居て、それを具材にした丸い……う~ん。


……何て表現したら良いんだろ?

小麦粉を溶いた生地の中に、野菜とたこを入れて

丸く焼き上げた一口サイズの食事……かな? 」


「……と言う事は、このページに載ってる

“この生き物”がたこって事ですよね? 」


「うん、そうだね……って、メルちゃん? 」


「じ、じゃあ……“水の都”で見た様な凶悪な魔物を

主人公さんの世界では……食べて居たって事ですかっ?!


しゅ、主人公さんってやっぱり凄い人なんだ……」


《――この瞬間

メルは“大きな勘違い”をした――》


「違っ……あんなに大きなサイズの魔物じゃなくて!

と、兎に角美味しいんだって!


……でも完璧な状態で食べるなら、キャベツに鰹節に長ネギ

卵に揚げ玉にマヨネーズ、ソースに青のり

まぁ、それらは全部好みにもよるけど紅生姜も必要かも知れないし……」


「何だか沢山必要なんですね……高級な料理なんですか? 」


「……いいや? 恐らくヴェルツの豆スープ位の値段かな? 」


「それだけの材料を使ってそんなに安いんですか?! 」


「元の世界ではそうだったけど……」


「って……そんな事より!

これがたこ焼きって言う実在の食べ物なのであれば

何処かでこの料理を食べる事が出来るのでは!? 」


「確かに……そうかも!


てかそう言えば著者の名前が“サーブロウ伯爵”って成ってるけど

日本人の“三郎”って名前に似てるな。


なぁ、そうは思わないか? マリア」


「言われてみれば確かに日本人っぽい名前ですね。


けど、主人公さんの他に転生者なんて居る筈ありませんから

確率は相当低いですけど……」


「う~ん……此処から出られたら会いに行ってみたい。


と言うか、メルちゃんはこの絵本を何処で手に入れたの? 」


「それは……捨てられてあったのを持ち帰っただけなので

詳しい事は何も……」


「だとすると難しいか……でもまぁ

空想だけでこんなに似通った物を書く確率は相当低そうだし

この世界の何処かに日本っぽい物が有る可能性が出ただけでも希望だな。


……メルちゃん、本当にありがとう」


「はいっ! ……主人公さんのお役に立てて嬉しいですっ! 」


「此処から出られる日が来たら

二人と一緒に日本食を探す旅に出てみたい物だね! 」


《――と、話す三人に対し


“そんな旅をするなら私も連れて行ってよ”


と、声を掛けながら現れたのは――》


………


……



「ん? ……ってマリーンさん?!

も、勿論大歓迎ですけど……てか、三人の美女に男は俺だけとか

“どんなハーレム旅だよ! ”って突っ込まれそうで怖いですね……」


「三人の美女? それって私も……そ、その兎に角っ!!

なら……び、美女達の“一人”がお願いしてるんだけどっ!!

旅に出る時は、私も連れて行ってくれるのよねっ?!! 」


《――と、顔を真っ赤にしながら主人公を問い詰めたマリーン。


一方、半ば強引に同意させられた形と成った主人公。


だが、突如としてマリーンは冷静になり――》


「でも……国民投票が上手くいかないと駄目なんでしょ? 」


「ええ、過半数が賛成してくれないと駄目ですね……」


「……けど、そのルールだって主人公が決めた物でしょ?

なら、ルールを改定して直ぐにでも出られる様にしたら良いのに……


……何でそうしないのよ? 」


「……それだけは絶対に駄目です。


その手段を取った瞬間から国は腐敗し始め

国民は国に不信感を抱き、それをおさえる為に国は更に強権発動をする。


そして加速度的な負の連鎖が始まる……


……そんな方法を取る位なら

俺がこの国から追放される方がまだ現実的です」


「ねぇ……民の事を一番に考えてるのは分かるけど

民の勝手さを全部許容してたら、主人公の幸せは一体何時訪れるの? 」


「……さっきも言いましたけど

こんな美女達に囲まれて仲良くして貰ってるだけで

俺に取っては元の世界での腐った生活より余程幸せなんです。


“生産性の無い幸せ”って思われるかもしれないですけど

大多数の気心知れぬ人間と触れ合うより

俺には今の時間の方が何千倍も幸せなんですよ」


《――軽い気持ちでそう言ったつもりの主人公であったが

直後、そんな主人公に対し不満を爆発させたマリーン――》


………


……



「そう……私達の気持ちは無視なのね? 」


「い、いえそう言う訳では……」


「いいえ? ……あなたは今少なくとも私達の

“あなたと一緒に旅をしたい”……って意見は完全に無視したわよ?

あなたがかばってる“気心知れない”国民って者達の為に」


「そ、それは……申し訳無いとは思ってますよっ!!

でも……じゃあどうやって脱出すれば良いんですか?!

俺はルールを破りたく無いですし

仮に破るとしても装備が何もありませんから

恐らく此処に居る三人の誰かが武器か何かで

この“封印”を破壊して脱走だと思います。


……確かにそうすれば俺は助かるかも知れません

でも、間違い無く三人は重罪人として裁かれる事になる」


「そんなの……一緒に逃げるなら別にいいじゃない

二度と帰ってこなければ安全でしょ? 」


「ええ、そうかも知れません……でもメルちゃんには

この国に住んでるお母さんがいる。


……やっとこの国で笑って過ごせる様に成ったんです。


それだけじゃない……マリーンさんのお母さんだって居ますし

元水の都の民達も沢山居る……それに

俺達の味方をしてくれている各種族の皆さん達を置いて逃げると言う事は

その皆さんにも少なからず負の感情が向く事に成るって事です。


みんなを裏切って、俺だけ助かって……どうすれば? 」


「そ、そんな事言うなんて……ずるいわよ! 」


「ええ……俺はずるいですよ

でも、大切な人を傷つけない“ずるさ”で有りたい。


俺の事を気遣い、色々と思案して頂いてる事は

痛い程分かっていますし感謝してもしきれません。


だけど……だからこそ裏切る行為だけはしたくない。


お願いです、俺が正式にこの牢獄から釈放されるまで待っ……


……いや。


そんな事頼む権利なんて、俺には無いですよね。


なのでその……何か楽しめる事を見つけて下さい

それで俺の分まで幸せに……」


「馬っっ鹿じゃないの!? ……本っ当に我儘わがままな男ね!


貴方不在で楽しい事? ……もし私が

“見つけるのは無理”って言ったらどうするつもりなの?


まぁ……“責任とってくれる”って言うなら

ずっと側で待っててあげなくも無いけど? 」


「えっ? 責任ってその……」


「結婚……かしらね? 」


《――マリーンの発言には全員が驚いていた。


だが、主人公は直ぐに答えを出した――》


「絶対に嫌ですっ! 」


「な、何で即答で拒否なのよ!! ……泣くわよ?! 」


「だって、そんな約束したら死亡フラグが! 」


「どう言う意味よ?! ……私と結婚するのが死ぬ程嫌って事?!

失礼にも程が! ……」


《――と興奮するマリーンだったが、そんな彼女をさえぎる様に

妙にハイテンションなガンダルフが現れ――》


………


……



「おーーーい! ……主人公っ!!

バックギャモン第一号が完成したぞい!! ……早速メル殿と勝負じゃ! 」


「……ぬわぁぁっ?! びっくりしたっ!!

でも助かったぁぁっ!! 」


「……どう言う意味よ主人公っ!

私との話はまだ終わ……ってそれは何? 」


「おぉ、マリーン殿! ……これは主人公発案の新しいゲームじゃよ!

オセロでの負けを取り戻したくて必死に作ったんじゃが

これでも時間が掛かった方じゃよ、なにせ弟子と練習を……


……い、いやなんでも無い!


メル殿“正々堂々と”勝負じゃ~っ! 」


「いや、ガンダルフさん

今、完全にインチキを自白した様な……」


《――主人公のツッコミに対し全力で聞こえないフリをしたガンダルフ。


……しばしの攻防の後

勝利したのは、弟子達と練習試合をしていたガンダルフであった――》


………


……



「負けちゃいましたぁ~……でもこのゲーム楽しいですっ! 」


「はっはっは! ……リベンジ成功じゃ! 練習した甲斐があったぞぃ!


……ハッ。


な、なんでも無いぞぃ!! 」


「うわぁ……ずるいな~ガンダルフさん……男らしくないな~」


《――主人公はガンダルフを

死んだ魚の様な目で見つめながらそう言い続けた。


すると――》


「や、やめいっ! ……そんな目で見るでない!

これはタダにしておくからそんな目で見るでない! 」


「助かりますけどズルいな~……ってそう言えば!

オセロの利益ってどの程度になったんですか?

物凄い流行ったって聞きましたけど……生活は楽になりました? 」


「おぉ! ……すっかりそれを忘れておったわい!

主人公は装備を奪われておるからインベントリも使えんし

一時的にわしの金庫に御主への発案料を保管しておるが……


……正直、恐ろしい金額じゃぞ? 」


「恐ろしいって……いくら位に成ったんですか? 」


「聞いて驚くでないぞ? 主人公への発案料は……」


「……発案料は? 」


「約……一千五〇〇万金貨じゃよ」


「……は?


あのえっと、一五〇〇金貨じゃなくて今


一“千”五〇〇“万”金貨って……えぇぇぇぇぇっ?! 」


《――このあまりの金額に

腰を抜かす程の驚きっぷりを見せた主人公。


そして――》


「主人公ったら大金持ちじゃない!

……でもそうなるとドワーフ族も相当稼いだのね? 」


《――とマリーン

しかしガンダルフは首を横に振り――》


「……本来ならばな、じゃがこの国には世話になっておるし

更にこの国を発展させる為にと思ってのぉ

自主的に“税”と言う名目で利益のほとんどを収めたぞい?

所で……先程から主人公が固まっておるが大丈夫か? 」


「えっ? ……主人公さんっ?! 」


《――心配するメル、その一方

主人公は金額を聞いた瞬間からずっと“固まって”居た。


そんな主人公に対しマリアは――》


「復活してくれないと……揉みますよ! 」


《――と言った。


だが“経緯を知らない”マリーンは思わず――》


「揉むって“何を”よ?! ……って大丈夫?!


ねぇ! ……主人公ってば! 」


………


……



「ハッ?! ……一千五〇〇万金貨!!

おっ……おっ……大金持ちだぁぁぁぁぁ!! 」


《――“復活”した主人公は

繋がれた鎖を引きちぎらんばかりに

若干気持ちの悪い動きで体全体をくねらせ、踊り狂い始めた――》


「しゅ、主人公さんっ?! ……」


「あらら……完全にトリップしてますね」


「正直、見たくない姿ね……」


《――当然の如く

女性陣は“引いて”おり――》


………


……



「主人公……はよう落ち着かんと

財布の中身が“増えた”代わりに、皆の信頼が“無く”なって行っとるぞ? 」


《――そうさとしたガンダルフに対し

主人公は――》


「……有難うございますガンダルフさんッ!!!

これで皆にお返しが出来る! ……今までのお礼がやっと返せる!

本当にありがとうございますっ!!! 」


《――そう言いつつ

ガンダルフと固い握手を交わしたのだった。


ともあれ、幸いな事に女性陣からの“評価”も元に戻り


そして――》


………


……



「俺、此処から出たら皆に沢山お返しをして! それから……」


《――直後、様々な希望を語り始めた主人公。


そんな彼の元へ――


“希望を持つのは良い事だ”


――そう言いながら現れた次なる訪問者は


エルフ族族長、オルガであった――》


………


……



「主人公、元気な声が聞こえてホッとしたが……人の事ばかりでは無く

御主自身が何か欲しい物などある時は何時でも言うんだぞ? 」


「ご心配有難うございます……けど、欲しい物ですか?

そんな物有ったかな……って、あっ!


和装だ! ……そ、その実は

エルフ族の女性達に作って頂きたい物が有りまして!

ちょっとだけ待ってて下さいね! 」


《――直後、主人公は着物やはかま

浴衣や甚平、作務衣など……思いつく限りの和装を

全て紙に書き記し、オルガに手渡した――》


「ふむ……しかし何とも不思議な服だ、靴も不思議な形をしている」


「これは草履って言って……って長くなるので端折はしょりますが

兎に角……それを作って頂けたら凄く嬉しいです!

先ずはメルちゃんとマリアとマリーンさん……それと

暇があれば俺のも作って頂けたらな~なんて……」


「勿論だ! ……だが、制作費用は取らんぞ?

私からのプレゼントとして受け取って欲しいからな。


とは言え……ガンダルフの所の様に流行るやもしれん。


もし構わないのならば一般販売をしても良いか? 」


「ええ、勿論です! 」


「助かる……しかし発案料を払いたい所だが

主人公のインベントリは使えんし……」


「ん? ……ならばわしの所に預けると良いぞぃ?

わしも主人公の稼ぎを預かっておるし

同じ金庫に入れておけば良い話じゃよ! 」


「それは助かる! ……主人公、構わないか? 」


「……ええ! これで皆にプレゼントが出来ます!

びっくりする程にナイスタイミングでしたオルガさん!


……最高です! 」


「うむ……任せておけ!

ならば、私は急ぎエルフの村に帰るぞ! ……ではな! 」


「はい! ……宜しくおねがいします! 」


「ならばわしもそろそろ帰ろうかのぉ……ではのう! 」


「はい、ガンダルフさんもまた今度っ! 」


《――とても喜んでいた主人公。


だが、そんな彼よりも更に喜んでいたのは

突然のプレゼントに驚いていた女性陣で――》


………


……



「とても楽しみですっ!

プレゼントだなんて……有難うございます主人公さんっ! 」


「ですね~……有難うございます」


《――メルとマリアの二人がそう言うと

照れ隠しのつもりだったのか――》


「い、いやぁ~……こんなに素敵な三人に着物を着て貰えるなんて

ある意味、俺の方がお礼言う立場だと思うなぁ」


《――と、少し頬を赤くしながらそう言った主人公。


その一方でマリーンは――》


「……見た事の無いデザインだけど

それでも服のプレゼントなんて何だか嬉しいわね。


ありがと主人公……チュッ」


《――直後

主人公の頬にお礼代わりの“キス”をした事で


状況は“狂い”始め――》


「なっ?!……あwせdrftgyふじこlp ?! 」


《――主人公が深刻なERROR


もとい“パニック”におちいった事を皮切りに――》


「あっ、ずるいですっ! わ、私もお礼のキ……キスをっ! 」


「面白そうなので私も~……ん~っ……」


「メルちゃん?! マリア?! ……ふ、二人共っ!

悪ふざけは止めっ……」


《――直後、メルとマリアは

左右からはさむ様に主人公の頬へとお礼のキスをした。


いや“してしまった”所為で――》


「なぁっ?! ……はうっ?! 」


《――過度な興奮状態に耐えきれず

鼻血を出しながら気絶してしまった主人公。


そして……これまた何とも見事なタイミングで

一行の為におやつを持参したミリアが登場し

鼻血でシーツを真っ赤に染めた主人公を発見した事で

地下牢は阿鼻叫喚の騒ぎと成ってしまったのであった――》


………


……



《――同時刻


政令国家より遠く離れた砂漠地帯……其処に建つ一軒の“建物”


……その中には

ある“現象”について話す者達が居た――》


「……突如として一定範囲の魔物達が空高く吸い上げられ

その全てが南方へと消え早八ヶ月程か……


……あの恐ろしい光景は一体何だったのだろうな? ギュンターよ」


「ええディーン様……あれは恐ろしい光景でした

あの日から数ヶ月後には魔物も少しづつ見られる様に成りましたが

逃亡生活中にあの様な現象……私めも流石に肝が冷えました」


「ああ……とは言え

一度南方を調べるべきかも知れないと考えて居た所だ」


「……我らは少数精鋭の部隊ですから、ご命令頂ければ直ちに行動に移り

必ずやディーン様の望まれる結果をご提供させて頂きます」


「いつも助かっている……所で、タニアは何処へ居る? 」


「お気遣い痛み入ります……と、タニア様ならば既に

ディーン様の後ろにおられますが? 」


「ほう……流石だタニア、全く気が付かなかったぞ」


「嫌ですわ……お世辞はお止めください。


ディーン様の……“黒くて固ぁ~い”のが当たっておりますわ? 」


「……良からぬ言い方をするなタニア。


それは私の愛銃、オルトロスだ……だが、後ろを取るのが上手くなったな」


「いえ……もう少し努力致しますわ♪ 」


「さて、ディーン様……全員を招集致しますかな? 」


「うむ、頼んだギュンター……全員招集だ、南に進路を向ける」


「……かしこまりました。


魔導通信、オウル様ライラ様……直ちにおいで下さい! 」


「……ギュンター様、ご用件は何です? 」


《――直後

現れたのはフクロウの様な見た目をした男、オウル――》


「眠い……なんですか……ギュンター……さん」


《――二人目

遅れて現れたのは赤いドラゴンの刺青が入った少女、ライラ――》


「そろそろ出発でございます、ご準備を……」


《――執事の様な立ち居振る舞いで、燕尾服に身を包んだ老紳士

ギュンターがそう言うと――》


「進路を南方へ向ける……これは吸い込まれた魔物の謎を探る為の作戦だ

危険な旅に成るかも知れないが、私はお前達の能力を信頼している。


私達が安住の地を得るその日まで、お前達には頑張って貰いたい。


では……くぞ」


《――隊のリーダーらしき男

ディーンがそう言うと、部下達は一糸乱れぬ様子で敬礼した――》


………


……



「……さてギュンター、出発だ」


「承知致しました。


では……戦艦“オベリスク”


発進ッ!! ――」


《――ギュンターがそう命じた瞬間


砂塵を巻き上げつつゆっくりと浮き上がり

地上戦艦としての様相をあらわにした“建造物”


“戦艦オベリスク”と呼ばれたそれは

その巨大な船体を南方へと向け、ゆっくりと進み始めた――》


===第二十六話・終===

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