第二三話「楽に逃れる手段を下さい…」
ラウド大統領自ら
水の都からの避難民達を大統領城へと招き
彼らを正式に政令国家の民として受け入れて居た頃
貴族達は秘密の会合を開いて居た
「ラウドめ……死にぞこないの攻撃術師風情が!!
“大統領”などと言う詭弁に乗せられ、この国の長などと!! 」
「全くだ! ……それと“例のトライスター”
奴の存在こそが最も問題だ! ……あの様なガキが
我が物顔で歴史ある大臣を兼任などと!!! 」
「……お前達などまだ良い方だ。
私など“奴隷売買”がやり辛くなったお陰で大損害だぞ?!
何が“差別撤廃”だ!
人間以外の下等な者共に何故我々貴族が気を使わねばならんっ!!! 」
口々に不満を語って居た貴族達
そんな中、一人の貴族が静かに口を開いた
「お前達……不平不満はその辺にしておけ
何処に耳があるか、分かった物では無いぞ?
無論、お前達の不満は理解して居る
私は近々奴らと全面戦争をするつもりだ。
今日はその事をお前達に伝える為、集まって貰ったのだよ……」
「……で、ですがボルス様!
奴らは“件のトライスター”だけで無く
秘書には“バーバリアンの再来”と謳われて居る
あのゴリラ女を抱えて居るのですよ?! 」
「そうですぞ?! 幾ら我々が軍を抱えて居るとは言え
あの様な化け物達に戦いを挑むなど無謀です!
我らに勝ち目などある訳が! ……」
そう興奮する貴族達に対し
“ボルス”と呼ばれた貴族はニヤリと笑い
「ふっ……戦い方は何も一つでは無い
武力でも金でも動かぬ相手ならば……
……“汚名”を着せれば良いだけの話」
「い、一体どうやって……」
「何、私に任せておけ……どうとでも成る
フハハハハハハッ……」
◆◆◆
貴族達の秘密会合から暫くの後。
……夕暮れ時、約束通り
マリーンらをヴェルツへと案内した主人公。
とは言え、夕食時のヴェルツは活気に溢れており
その余りにも賑やかしい雰囲気に狼狽えて居たマリーナを横目に
席に着くや否や、マリーンは
“スペシャルセット”を注文し
「あいよっ! ……すぐに作るから待ってておくれっ! 」
「ス、スペシャルセット? ……何だか凄そうね、マリーン」
「ええ! 母上もきっとお喜びに成……」
「マリーン? ……水の都はもう有りません
民達は政令国家の国民と成ったのです。
……その“無理な言葉遣い”はもう止めて置きなさい
これからは、普通の貴女で居ても良いのではないですか? 」
彼女の話を遮りそう言ったマリーナ
すると彼女は、みるみる内に顔を赤らめ
「も、もう……お母さんっ!
私にもイメージっていうのがあるんだから! 」
そう、叫んだ
直後
「ブーッ!!! ……ゲホッゲホッ!!
嘘ぉッ?! マリーン様、凄い変わり方を……うぐッ!?
……ゲホッゲホッ!! 」
その、あまりの“変貌振り”に
思わず噴飯してしまった主人公
「主人公さんっ……き、汚いですっ……」
「ごめんメルちゃん……ゲホッゲホッ!! ……」
と、慌てて周囲の片付けを始めた主人公に対し
マリーナは
「……お、驚かれるのも当然ですわね。
ですが……この子はこの子なりに必死だったのです
“王女として頑張らなければ”……と、ある日を境に
お祖母様の喋り方を真似したりなんかして……
……“妾”なんて、今どき古いですものね? 」
「もうっ! ……お母さんっ!!! 」
「えッ?! 一人称も“キャラ付け”だったんですか?!
って……ウグッ! ゲホッゲホッ!!
ご飯が変な所に……み……水ぅッ……」
「ち、ちがうのじゃ! ……妾は妾でありありですぇ?! 」
「いや、もう文法がめちゃくちゃですよ……」
「だ……だって!
私が普通に喋ったら何の威厳も無いじゃない。
……民を守る為、少しでも強い王女である為に
今まで必死で頑張ってたのよ! ……悪いっ?! 」
「そ、そう言う訳ではッ! ……いえ、申し訳有りません。
ですが、マリーン様……民達は何も
マリーン様の“喋り方”を信頼して居る訳では無い筈。
マリーン様が皆の為に必死で努力されて居るからこそ
信頼されて居るのだと思います。
仮にマリーン様が本来の言葉で話されたからと言って
それを残念に思う様な者など居ないでしょう。
寧ろ、民達の事を一番に考えて居る事実そのものが
民達にとって自慢の王女様足り得るのだと、俺は思います」
「で、でも……話し方がこんなのじゃ……」
◆◆◆
彼女なりに気苦労が多かったのだろう
言葉遣い一つ欠けて居ても
王女たり得ないのでは……と考えてしまう程に。
だが、そんな彼女に対し
マリーナさんは
「……主人公様の仰られる通りです。
民達の為、強くあろうと努力し
民の事を第一に考える貴女はとても素敵です……けれど
貴女が気を抜かなければ
民達にも安息が訪れないのだと知りなさい。
……無理をせず、本来の貴女を民達に見せるのです。
貴女は、そのままが一番素敵なのですから」
と、彼女の事を
厳しくも優しい母の愛で包み込んだのだった
「そうですよマリーン様! ……それに
マリーン様にだってやりたい事はある筈です。
この国に移住した事で叶う夢だってあるかも知れませんし
もし、望まれないのであれば
無理に政治に関わる事だって有りません。
ご希望があれば何でも……ぜひ仰って下さい! 」
「主人公……じ、じゃあ。
先ず、その“マリーン様”って呼んだり
丁寧過ぎる言葉遣いを止めて?
わ……私の事は呼び捨てで良いから! 」
「さ、流石に呼び捨ては俺が気を使うので
間を取ってマリーン“さん”と呼ばせて下さい。
け、敬語はその……俺の“癖”でも有るんで
その、徐々にと言う事で一つ! ……って。
そう言えば、民達の多くには
魔導適性があると仰ってましたよね? 」
「ええ、そうね……唯、装備を買うお金が無いだけ」
「では……明日辺り
マリーンさんの装備を買い揃えに行きましょう!
マリーナ様も、もし魔導適性があるのならば同じ様に
民の皆さんも希望者は全員ギルドで魔導適性を測り
魔導適性に応じて“一時支度金”と言う形で調整を致します。
適正があり、望まれる方は皆魔導師に成れる様手配し
その他の職を希望される方にも順次手配を……
……い、如何がでしょうか? 」
「本当に良いの? ……でも私
まだこの国のお金何も持ってないわよ? 」
「あ、ではその……えっと
マリーンさんの装備は俺の奢りって事で!
それでその……マリーナ様は大臣のお給料が出ますし
流石に俺の財布が持たないので何卒……」
「あら、残念ですわね~♪ ……ですが
娘にプレゼントして頂けるなんて、心より感謝致します」
「いえいえ! 出来る限り夢を叶えられる国でありたいですし
民達もこの国で生活する上で仕事が必要に成って来る筈です。
ずっと国に頼りっぱなしと言う訳には行きませんし
子供達は勉強、大人は好きな職を選び
今まで選べなかった事も選ぶ権利を手に出来る。
……そうして少しずつ、辛い気持ちが薄れていけば
幸せになれるんじゃないかなって……思ってます」
そう、真剣に語る主人公の姿を
静かに見つめて居たマリーン……直後
彼女は“自分の言葉”でこう告げた
「ありがとう主人公さん、貴方の事……大好きよ」
「なッ?! そ、その……こ、光栄ですッ!! 」
「だからっ! ……駄目ぇぇぇっ!!! 」
三度声を上げたメル
この瞬間、最早マリーンの事を
“恋敵”の様に警戒し始めて居て
「……い、居なくなんて成らないから!
メルちゃんも良い加減安心してよ……」
「そ、そうじゃなくてっ! ……わ、私も
主人公さんの事が……」
彼女がそう言い掛けた瞬間
勢い良く開け放たれたヴェルツ正面玄関
……其処に立って居たのは
完全武装状態の衛兵達であった。
「……物騒な姿で一体何だい!?
うちは呑み屋だよ?! 呑みに来たんじゃ無いなら帰りなっ! 」
「女将さん動かないで! ……主人公さん、貴方を逮捕します」
突如として現れた衛兵は
そう言うや否や主人公に対し
武器を差し向けた
「い、いきなりなんですか? ……一体、何の罪です? 」
冷静に対処しようとした主人公
だが、一人の衛兵は主人公を過剰に威圧した
「とぼけても無駄だ! 大人しく付いてこい犯罪者め!!! 」
突然の事に騒然と成った店内
メルは必死に主人公の無実を訴えた。
だが
「黙れぇっ! ……邪魔をすればお前も逮捕するぞ! 」
“聞く耳を持たず”と言った様子の衛兵に
主人公はこの場を収める為か
「……分かりました、大人しく付いて行きますから
皆さんには危害を加えないでください。
マリア、メルちゃんを頼んだ……」
マリアにそう言い残し
衛兵達に連行される事を選んだ主人公
◆◆◆
暫くの後
店内に残された者達は
「主人公さんっ……何でっ!
マリアさん、早く助けに行きましょうっ! 」
「駄目ですメルちゃん……此処に居て下さい
主人公さんがあんなに真剣な顔で頼んで来たんです。
今は……主人公さんを信じて此処に居るべき時です」
「違いますっ! ……主人公さんは
“此処に居る様に”なんて言って無いですっ!
だっ……だからっ!
私達が助けに行っても大丈夫な筈なんですっ! 」
彼女自身
これが詭弁である事は理解して居た。
だが、それでも危機に際した主人公の為
じっとしてなど居られなかったのだ。
直後、そんな彼女に同調したマリーンは
「……私もメルちゃんと同意見よ
何が起きたのかは分かんないけど、私達を助けてくれた
恩人の危機を黙って見て居るなんて無理よ!! 」
「メルちゃんそんな揚げ足取りしないでください!
と言うか、マリーンさんも落ち着いてください!! 」
必死に状況を収めようとして居たマリア
だが“マリーナ”さえ彼女の制止を受け入れる事は無く
「マリアさんには申し訳ありませんが
私も娘の意見に賛成です……ですが、私達では
彼をお助け出来る戦力を持ち合わせていません。
一体、どうすれば……」
主人公を救う為
どう動くべきかを思案して居た彼女達
そんな中、メルは
「エルフの皆さんなら協力して下さるかも知れませんっ! 」
と言った
直後、マリーンは彼女の手を掴み
「なら私も行くわ! エルフ族の居る所に案内して! 」
直後
二人はマリアの制止を振り解き店を飛び出した
「ちょっと!! ……二人共待って下さい!!
先ずはラウドさんに確認の連絡を……ってあぁっ!
ちょっと……もうっ!! 」
完全にマリアの制止を振り切った二人は
エルフ村へと走って行った
◆◆◆
彼女達がエルフの村へと走り去った一方
牢屋へと投獄されて居た主人公は
「何があったのかは知りませんが協力はします
ですが、先ずは一度ラウド大統領と話を……」
「黙れ! ……罪人に権利など有りはしない! 」
「なッ……そう、ですか」
この場で事を荒立てるのは得策では無い
そう判断した主人公……彼が引き下がった直後
衛兵達は牢に鍵を掛け去って行った
「くッ……何でいきなりこんな事に成った?
ってか、装備が無きゃ魔導通信も出来ないし
一体どうすれば良いんだ? 大体、一体何の容疑だよ?!
……くそッ! 」
◆◆◆
「何?! 主人公殿が捕まったじゃと?!
それは本当かねリオス殿!? 」
「……うん、何の容疑かは知らないけど
ヴェルツから無理やり衛兵達に連れて行かれてたの!
僕、他の種族にも伝えてくるっ! 」
そう言うや否や
凄まじい勢いで走り去って行ったリオス
「主人公殿が逮捕など……一体|何故じゃ?!
至急面会に行かねば……」
そう言ってラウド大統領が立ち上がったその瞬間
執務室の扉は開かれ
「申し上げますッ! 」
「何じゃね!? ……わしは今急いでおるんじゃ! 」
「いいえ、お待ち下さい……主人公様が
“魔導武具店の店主を殺害した容疑”で逮捕、勾留されており
関係者の欄にはラウド様……貴方のお名前も。
……後はお判りですね?
ラウド様……ご同行願います」
「成程……貴族じゃな?
奴らめ、此処まで根回しが早いとは。
良かろう……わしを
主人公殿と同じ牢に入れると言うのならば
素直に応じよう……」
「良いでしょう……ですが、装備は全て預からせて頂きます。
では、此方に……」
数十分後
ラウド大統領は主人公と同じ牢に投獄される事と成った
◆◆◆
「主人公殿! ……無事じゃな? 」
「ラウドさん?! ……ラウドさんまで何故?! 」
「根回しの早い敵の様じゃ……所で、罪状は聞かされたか? 」
「いえ……何故逮捕されたかさえ分かりませんし
魔導通信が使えないので、外との連絡も取れず……」
「ふむ……わしが聞かされたのは
御主が“魔導武具店の店主を殺害した”との事じゃった
因みにわしも“関係者”として記載があったそうじゃ」
「そんなバカな! ……敵は魔族でしょうか? 」
「いや……わしは貴族が怪しいと睨んでおる
差し詰め、奴らの悪どい商売を全て“違法である”と
法で禁じたわし達の存在が相当に邪魔だったのじゃろう。
迂闊じゃった……もう少し慎重に
事を進めるべきだったかも知れん。
わしの失策のせいで主人公殿をこの様な目に……
……申し訳無い限りじゃ」
「そんなッ! ……俺が急ぎ過ぎたからですよ!
ラウドさんこそ、俺のせいで……」
「煩い! ……静かにしろ! 」
瞬間
二人を怒鳴り上げた見張りの衛兵
先程の横暴な兵士の様だが、最初からこの兵に対し
僅かな違和感を感じて居た主人公は
この者に対し疑問を投げ掛けた
「一つ質問が……確固たる証拠が有って
俺達を逮捕したんですよね? 」
「何を馬鹿な事を……犯行現場からお前の服が出て来たのだ! 」
「成程? ……それで、その証拠品は何処に? 」
「見て驚くなよ? ……これだ! 」
横暴な兵は主人公に対し
彼には全く見覚えの無い
“魔導師のローブ”を自信満々に見せつけた。
だが
「……笑える位見覚えが無い事は兎も角として
仮にそれが俺の物だとしましょう……その上でお聞きしますが
普通、犯行現場に“丸々服を残す馬鹿”が居ます?
貴方は俺が“裸で帰った”……とでも? 」
「し、知るか! ……犯罪者のやる事など知るか! 」
「いやいや、冷静に考えたら有り得ない事だと分かりませんか? 」
「黙れっ! 吹き飛ばされたいのか! 」
論で勝てないと踏んだ瞬間
衛兵は脅しを掛けて来た……そして、この瞬間
ラウドさんの“読み”が正しい事が確定した。
この直後、興奮する衛兵を宥めたラウドさん
だが
「ふっ! どちらにしろお前達など明日には死刑だ!
今の内に悔い改めておくんだな……」
「なッ!? ……裁判もせずに死刑なんて
そんな横暴が許される訳無いだろ!! 」
俺の発言が逆鱗に触れたのか
そもそも最初からそのつもりだったのか
直後、この横暴な衛兵は魔導杖を差し向けながら
「貴様……黙れと言ったのが聞こえなかったのか?
吹き飛ばされたいと取って良いのだな?! ……どうなんだ!? 」
そう言うや否や
杖に力を込め始めた、だが
「待つのじゃ衛兵! ……主人公殿、落ち着くのじゃ! 」
「ふっ……年寄の方が頭が良い様だな。
私はこれから寝る……騒ぐなよ?
後少しでも騒いだら、明日を待たず……私が殺してやる」
「くッ……」
「……堪えるのじゃよ、主人公殿」
◆◆◆
その一方、エルフ村では
リオスの情報に依り集まった各種族の長達の姿があった
「主人公が理由も無く罪の無い人間を殺しなどする訳が無い!
明らかな冤罪だ! 」
「ええ、きっと貴族が手を回したのよ! 」
オルガとガーベラは主人公の無実を信じそう言い放った
無論、他の長達もそれに同意して居た。
だが
「……とは言え、今動けば此方も危険だ
明らかに冤罪だと判って居ても
つい最近認められたばかりの“多種族”が
牢を破るなど、敵の思う壺だ……」
冷静にそう語ったクレイン
だが、グランガルドはそんな思考すら超越し
「……吾輩達の為
力を尽くしてくれた主人公を見殺しにするなど言語道断。
……吾輩は、命尽きようとも友を助ける」
そう断言した
そして、同じく物理職であるガンダルフもこれに同意し
「そうじゃ! 奴がわしらの事を
どれだけ公平に扱ってくれたか……御主ら
よもや忘れた訳ではなかろうな?! 」
紛糾する議論
そんな中、クレインは更に続けた
「……何も“動かない”とは言っていないだろう!
“今動くのは得策では無い”と言っているだけだ! 」
「何じゃと? ……では何時どの様に動くんじゃ!? 」
「直ぐに思いつけば苦労はしない!!
私だって……歯痒いのだ! 」
普段冷静なクレインすら
苛立ちを隠せない程の事態に
彼の妻、ミアは改めて状況の説明をした
「ガンダルフ族長……貴方も落ち着いて
兎に角……二人が牢に入れられて居る事だけは分かっているわ
場所もちゃんと判明しています……でも。
あの警備では牢を襲撃した所で
衛兵達を傷つけずに主人公さん達を救うのは無理。
もし、主人公さんを救う為衛兵を一人でも傷つければ
更に状況は悪化するわ……分かるでしょ? 」
少し冷静に成ったグランガルドは
ミアの意見を聞くと、ある事を思い出した
「主人公が提唱する“差別と迫害の無い国”
その根底が瓦解する可能性があると言う事か。
吾輩達が追いやられた時を思い出す……
……当時もこの様な謀が行われて居たのであろう。
全く、何時の世も裏で糸を引く連中と言うのは
不愉快極まる者共よ……」
話し合いは難航して居た。
だが……クレインの“とある一言”を切っ掛けに
解決の糸口は見え始めた
「どうすべきか……仮に私達が関わったと思われぬ様な
救出方法があれば良いのだが……」
「クレイン……今何と言った? 」
「“私達が関わったと思われぬ方法を”と言ったのだが
オルガよ……一体何を思いついた? 」
直後、ニヤリと笑ったオルガに対しそう問うたクレイン
そんな彼に対し
「恐らく、これが唯一の解決策と成り得る方法だ……」
そう言った。
直後、オルガの口から語られた“方法”とは
「……我々の魔導力を主人公に“送る”のだ。
そして奴に我々の魔導力を分け与えれば
奴自身が“固有魔導”を使う事が出来る。
そうなれば、奴自らの力で逃げ出す事も可能な筈
仮に我々が分け与えたと発覚した所で
人間を傷つける事には成らん……
……“迫害”されるまでには至らぬと思わぬか? 」
そう自信満々に語ったオルガだったが
一方でミアはその意見に難色を示した
「正直……それでも足りるかどうか分からないわ?
主人公さんが常識では考えられない量の魔導力を持って居る事は
エルフ系の種族ならば皆、薄々勘付いて居る筈。
それに……主人公さんの固有魔導は
その膨大な魔導力の殆どを消費してしまう……と
少し前、本人から聞いた事があるわ。
その上更に不味い事に、彼は此処の所
大量に魔導技を使用して居た……
……酷く疲れて居る事も加味すると
私達から飛ばした魔導力が足りない確率の方が高い。
そして……もし、私達からの魔導力が少しでも足りなければ
そのまま、主人公さんは……」
そう語るミアであったが
そんな中、彼女に対し呼び掛けた者が一人
「……私達なら出来るわ! だから此処を通してッ!! 」
エルフ村の門前でそう叫んだ一人の女性
それは“マリーン”であった。
直後、長達は彼女達を村へと案内し
詳しい話を聞く事にした
「“君達なら出来る”……とは一体どう言う事かね? 」
クレインがそう訊ねると
マリーンは
「……私達“水の都”の出身者は
皆、魔導適性の高い者達ばかりなの
だから、皆で協力すれば必ず膨大な魔導力を集められる筈」
「ふむ……確か、水の都出身者は数百人程居た筈だが
その全てに“魔導適正”があると? 」
「ええ、殆ど例外無くね……
……だから、私達の力も使って! 」
暫しの沈黙の後
クレインはマリーンらを作戦に含める決断をした。
……直後、他の長達もこれに同意
翌日を“決行日”と決め、準備に取り掛かり始めた
◆◆◆
その一方
深夜の牢獄では、主人公とラウドが看守の眼を盗み
「主人公殿……起きておるか? 」
「ええ……どうしました? 」
「一度、御主の“固有魔導”を使用し
それで逃げる事は出来ぬじゃろうか? 」
「それは……残念ながら無理ですね
此処の所の騒ぎで一日寝た程度では全く足りませんし
使える程回復する為には
どんなに早くても後三日は掛かりそうで……」
「そうか、唯一のチャンスじゃと思ったのじゃが……」
「ん? ……貴様ら! 何をコソコソと!!! 」
「ぱ……ぱふぱふはえぇのぉ~……むにゃむにゃ……zzz」
「そうですねぇラウドさん……zzz」
「何だ、寝言か……しかし何と言うエロジジイだ
いや、待てよ……此奴ら今、会話が成立していなかったか?
……まぁ良い、私も寝るか」
間一髪
“寝言のフリ作戦”が成功したかどうかは定かでは無いが
どうにか難を逃れた彼らは、この後
それぞれに考えを巡らせて居た
(メルちゃん、マリア……正直
俺なんてどうなっても構わないが
皆が危険な目に遭うのだけは嫌だ。
……だが、ラウドさんの言う様に
“貴族が糸を引いている”のなら
どれだけ俺が大人しくしていても
後々、皆は危険な目に遭う事に成るだろう。
だが……もしそうなら
俺は、どうすれば良い? ……)
◆◆◆
翌日の朝
“処刑場”らしき場所へと移送された俺達……
……試すまでも無く、魔導力は圧倒的に足りて居ない。
その上、顔には黒い布を被され
首には縄らしき物を掛けられた……この状況
テレビで見た“ニュース映像”みたいだ……
……俺は何処で選択を誤った?
何をすればこうならず、この国を良い方向に導けた?
俺のやってる事は全てエゴだったのか?
そんな事を考えていたら……突如として
偉そうな声で演説を始めやがった
男の声が聞こえて来た
「……本日、皆に集まって貰ったのは他でも無い
二つの重要な事柄について知って貰う為である!
……昨夜、この者達は魔導武具店の店主を
計画的に殺害、そしてそれを隠匿した罪に問われて居る!
実行犯は主人公! その事実を隠匿した者がラウド大統領だ!! 」
でかい声で濡れ衣を着せながら
俺達の顔に被せられた黒い布を取った男。
成程……ラウドさんの言う通り見るからに“貴族”だ。
確か、俺達の行動一つ一つに猛反対してた奴らの
“親玉”だったっけ? ……しかし
此処まで来ると呆れてくる。
……この後もこの貴族は俺達の顔を見ながら
“この国を私物化した”だの、俺達が
“この国の仕組みを破壊した”だの色々と言ってくれた。
“スライムの草原に壊滅的被害を与え”
って、まぁ……それは確かに俺のせいだが。
……ともあれ
あろう事か、此奴は暫定的に
“国王に成る”とまで言いやがった。
……駄目だ。
絶対に阻止しなければッ!!
◆◆◆
同時刻
各種族達は作戦を実行に移す為
“処刑場”で今一度、作戦の確認をして居た
「……良いか?
最初に私が全員分の魔導力を吸収しガーベラに送る」
「ええ……貴方から送られてきた魔導力を
私が主人公さんに移す……でも
言うは易し、行うは難しよ? 」
そう話して居たオルガとガーベラ
だが、そんな二人に対し思い詰めた様子のメルは
「あ、あのっ! ……主人公さんの為なら
私、魔導力欠乏症で死んだとしても構いません
だから……何としても主人公さんをお救いくださいっ! 」
と言った、だがこの願いに対し
オルガは
「死ぬなどと……縁起でも無い事を言うな
その様な犠牲、主人公ならば絶対に喜ばない……
……奴は必ず助かる。
分かったなら気を引き締めろメル、そろそろ始めるぞ」
オルガの号令を受け全員が手を合わせ始めた直後
大量の魔導力は少しずつオルガへと移動し始めた。
……だが、この途轍も無い魔導量には
流石のオルガも苦しめられて居た。
暫くの後、送られて来た魔導力を安定させる為
其処から更にガーベラへと魔導力を移動させ始めたオルガ。
一方、ガーベラは撚り纏められた糸の様に
魔導力を一つに纏め上げ続け……直後
少しずつではあったが、どうにか
主人公に対し魔導力を送り届ける事に成功した
「ぐっ、恐ろしい量ね……でも……主人公さん……ッ!
お願い……気付いてッ!! ……」
処刑台に括り付けられた主人公に向け
ガーベラ達は少しずつ魔導力を送り続けた。
……この作戦に逸早く気付いたのは
主人公では無く、ラウドであった……だが
処刑執行までの僅かな時間では
到底間に合う筈も無く、その事に気付いた彼は
作戦を成功させる為、時間稼ぎの策を練って居た
◆◆◆
「ではお前達……最後に言い残す事はあるか? 」
ラウドに対し
口元をニヤけさせながらそう訊ねた貴族の男“ボルス”
だが、そんな中……僅かにでも時間稼ぎをする為
一か八か、ある“奇策”に打って出たラウド
「せめて……」
「……何だ? 」
「せめて……最後に……」
「最後に何だ? ……勿体振らずに早く言え! 」
「……ぱ」
「ぱ……だと? ふざけているのならば……」
「ぱっ……ぱっ……
……ぱふぱふしたかったんじゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!! 」
ラウドのこの発言に依り
処刑場には冷たい静寂が訪れた
「無駄に時間を使い何を言うのかと思えば……
……“晩節を汚す”発言だったな。
だが当然、そんな無駄な時間など無い……次
主人公とやら、貴様は何か言い残す事は無いか?
“この老耄”と変わらぬ様な事ならば
止めて置く事をお勧めするがな……」
そう訊ねられた主人公。
だが、彼は貴族の質問に反応せず
辺りを見回して居た
(な、何だ? ……この尋常じゃない魔導力は?
一体、何処から……って……あ、あれは!! )
「ん? ……何を探している?
今更狂ったフリなどした所で誰も助けには来ないぞ?
何も言う事が無いならば、このまま粛粛と処刑を執り行うだけだ。
衛兵……カウントダウンを」
「はっ! 五……四……三……二……」
「ま……待てッ!
さ、最期に……言いたい事があるッ! 」
「チッ! ……何だ、言ってみろ」
苛立ちを隠せない貴族の男“ボルス”に対し
主人公は少し微笑むと……体に力を入れ
大きく息を吸い込み、ゆっくりと
だが、力の限りに“叫んだ”
◆◆◆
「最期に言いたい事、それはな――
――“限定管理者権限”ッッッ!!! 」
《《――命令を承認
中央処理機構より通達……
……対象へ限定的に
“管理者権限”を移譲します――》》
「何?! 何だこの声は?! ……貴様、何をしたッ?! 」
「……ラウドさんと俺の拘束を解除ッ!!
俺とラウドさんの装備を減衰装備を除き全て装備!
俺とラウドさんに虚偽の罪状を擦り付けた者と
その協力者達を全てこの場に召喚し、その全てに拘束具を!
それから……俺に魔導力を分けてくれた皆の魔導力を全て回復!
それと……俺自身の魔導力も全て回復だッ! 」
《《――命令を承認
実行します――
“対象”の拘束を解除……成功
“対象”の装備品
“減衰装備”を除き全て装着……成功
“対象”に該当する者をこの場に召喚……成功
“対象”に該当する者に拘束具を装着……成功
“対象”に該当する者達の魔導力を完全回復……成功
“対象”の魔導力を完全回復……ERROR
“対象”の“魔導力異常”を検知しました
限定管理者権限を強制終了します――》》
「……ERROR?
ま、魔導力異常って何だ? って……ぐッ?!
何だッ?! 体が……重……い……ッ……」
原因不明の固有魔導強制終了後
この場へと“召喚”された対象者達
騒動の黒幕である貴族達と
横暴な衛兵には拘束具が装着されて居た。
……皆、口々に身の潔白を証明しようとして居たが
横暴な衛兵の――
“此奴らは兎も角、私は無実だ”
――と言う発言を発端に
貴族同士の裏切り合いが始まり
「は……離せっ! 私は只職務を全うして居ただけだ!
此奴らとは何の関係も無い!
わ、私は嫌だったんだ!!! 」
「な、何を言う?!
お前に“ハーフ人外娘”を何人渡したと思って居る?! 」
彼らの見苦しい罪の擦り付け合いに
国民達は皆、ざわつき始めて居た。
……一方で、主人公の使用した
特異な固有魔導に驚いた一部の国民は
「なぁ、今の技って固有魔導……だよな? 」
「……限定は分かるけど“管理者権限”って何だ? 」
「それも気になるけどさ
今“虚偽の罪状”って言ってなかったか? 」
「……と言う事は、貴族の奴らが私腹を肥やす為に
ラウド大統領や主人公さんを陥れたんじゃ……」
「……それに今あの貴族、あの衛兵に対して
“奴隷を渡した”……みたいな話をしてなかったか? 」
そう国民達が騒ぎ始めて居た頃
主人公は“魔導力欠乏症”とは違う
“謎の症状”に蝕まれて居た
「ラウ……ドさん……俺……何だか
ちょっと調子悪いみたい……です……体力も魔導力も……
回復……出来てない……ので……代わりに説明
お願いしても良い……ですか? 」
「ふむ……疲れが溜まって居ったのじゃろう。
まぁ後は任せるのじゃ……さて諸君!
今回、わし二人に虚偽の罪を擦り付けた者達がおる!
皆分かって居るじゃろうが
其処に居る拘束具を身に着けた者達じゃ!
……皆、国が大きく変わった事は良く知っておるじゃろう。
貧困が原因で教育を受けられぬ者にも
教育を受けさせる事を是とし
種族間の誤解を取り除く事で
皆が幸せに暮らせる様努力し
国を良い方へ導こうと奮闘しておる
主人公殿の様な者がおる反面、この者達の様に
私腹を肥やす為ならば、他者の事など
気にも掛けぬ不届き者が居るのもまた事実じゃ。
……今回の事で国民の皆も良く分かったじゃろう。
故に、わしは今日この者達に取って
残酷な決断をしようと思う。
……先ず、この者達の貴族階級の永久剥奪
次に、全ての財産を没収し
その余りある富を、恵まれぬ者達へと再分配……その身を
生涯開く事の無い牢獄へと送る事で全うさせる!
わしはそう決めたが……国民の皆に問う
この者達に対する罰はこれで適切であるかを……
……皆の挙手で答えて貰う事とする! 」
ある意味
横暴とも思える程のラウドの提案に
貴族達は当然の様に猛反対の声を挙げた。
だが……民衆の多くは皆、此処に並ぶ貴族達から
今に至るまで抑圧され、搾取され続けて居た者ばかりであった。
“賛成多数”と成る事が必然と言える程に
「……なっ、何を勝手な事を! 私は公爵家の家柄で! 」
「黙れよ! ……俺は賛成だ!!! 」
「当然賛成だ! ……俺達が逆らえないと思って
今まで好き勝手やりやがって! 」
「牢獄でも生ぬるいけど……賛成よ!! 」
「……ま、待てっ! 全て誤解だ!
待て!! くそっ! ……やめろ! ……お前達っ!
“手を挙げ”るなぁぁぁぁぁっ!!!!! ……」
◆◆◆
「……さて、数えるまでも無く賛成多数じゃな
これで、先に話した通り……この者達の処遇は決定した。
……魔導隊隊員諸君!!
速やかにこの者達を“魔導牢獄”へと移送するのじゃ!!! 」
湧き上がる歓声
民衆は皆、この決定を拍手で迎え……貴族達は皆
悲痛な叫びをあげながら魔導隊員達に連行されて行った。
……無事、状況は快方へと向かったかに思えた
直後
「……ラ、ラウドさん有難うございます……てかすみません
俺ちょっと疲れてるみたいで……体が……あれ?
地震か? ……世界が……揺れて……うぐッ?!!!
……ぐぁぁぁぁぁッ!!! 」
突如として苦しみ始めた主人公
その体は激しく痙攣し……程無くして
主人公は意識を失った
「何っ?! ……いかんっ! 誰か……回復術師を此処に!!! 」
「そんな?! 主人公さんっ!!!
極大治癒ッッ!!! ――」
主人公の一大事に慌て
駆け寄るや否や治癒魔導を使用したメル。
だが、主人公の呼吸は既に止まって居て
「……嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!! 」
===第二三話・終===




