第二十三話「楽に逃れる手段を下さい…」
《――ラウド大統領自ら
水の都からの避難民達を大統領城へと招き
彼らを正式に政令国家の民として受け入れていた頃
貴族達は秘密の会合を開いて居た――》
………
……
…
「ラウドめ……死にぞこないの攻撃術師風情が!!
“大統領”などと言う詭弁に乗せられ、この国の長などと!! 」
「全くだ! ……それに
“例のトライスター”……奴の存在こそが最も問題だ! 」
「……お前達はまだ良い方だ。
私など“奴隷売買”がやり辛くなったお陰で大損害だぞ?!
何が“差別撤廃”だ!
人間以外の下等な者共に何故我々貴族が気を使わねばならんっ!!! 」
《――口々に不満を語っていた貴族達
そんな中、一人の貴族が静かに口を開いた――》
「……お前達、不平不満はその辺にして置け
何処に耳があるか分かった物では無いぞ?
無論、お前達の不満は理解している
私は近々奴らと全面戦争をするつもりだ。
今日はその事をお前達に伝える為、集まって貰ったのだよ……」
「……で、ですがボルス様!
奴らは件のトライスターだけで無く
秘書には“バーバリアンの再来”と謳われている
あのゴリラ女を抱えているのですよ?! 」
「そうですぞ?! ……幾ら私達が軍を抱えているとは言え
あの様な化け物達に戦いを挑むなど無謀です!
……我らに勝ち目など無いではありませんか! 」
《――そう興奮する貴族達に対し
“ボルス”と呼ばれた貴族はニヤリと笑い――》
「ふっ……戦い方は何も一つでは無い。
武力でも金でも動かぬ相手ならば……“汚名”を着せれば良いだけの話」
「それは分かりますが、一体どうやって……」
「何、私に任せておけ……どうとでも成る。
フハハハハハハッ……」
………
……
…
《――その一方、夕暮れ時
約束通りマリーンらをヴェルツへと案内した主人公。
……夕食時のヴェルツは活気に溢れていた。
その余りにも賑やかしい雰囲気に狼狽えていたマリーナを横目に
席に着くなりマリーンは“スペシャルセット”を注文した――》
「あいよっ! ……すぐに作るから待ってておくれっ! 」
「……スペシャルセット? 何だか凄そうね、マリーン」
「ええ! 母上もきっとお喜びに成……」
「マリーン……水の都はもう有りません
民達は政令国家の国民と成ったのです……“無理な言葉遣い”はもう止め
普通の貴女で居ても良いのではないですか? 」
《――彼女の話を遮りそう言ったマリーナ。
すると彼女は、みるみる内に顔を赤らめ――》
「も……もうお母さんっ!
私にもイメージっていうのがあるんだから! 」
《――そう言った。
だが――》
「ブーッ!!! ……ゲホッゲホッ!!
嘘ぉ?! マリーン様、凄い変わり方を……ゲホッゲホッ!! 」
《――そのあまりの“変貌っぷり”に
思わず噴飯してしまった主人公――》
「主人公さん……汚いです……」
「ごめんメルちゃん……ゲホッゲホッ!! ……」
《――と、慌てて周囲を片付ける主人公に対し
マリーナは――》
「……驚かれるのも当然です。
ですが、この子なりに必死だったのです
“王女として頑張らなきゃって”……ある日を境に
お祖母様の喋り方を真似したりなんかして……
……“妾”なんて、今どき古いですものね」
「もう! ……お母さんっっ!!! 」
「えっ?! 一人称も“キャラ付け?! ”
ウグッ! ゲホッゲホッ!! 食事が変な所に……み……水を! ……」
「ち、ちがうのじゃ! ……妾は妾でありありですぇ! 」
「……もう文法がめちゃくちゃですよ。
って……ぐぇっ?! 気管に入ったッ!! ……」
「だ、だって……私が普通に喋ったら何の威厳も無いじゃない。
民を守る為、少しでも強い王女である為に
今まで必死で頑張ってたのよ! ……悪い?! 」
「そ、そう言う訳では……いえ、申し訳有りません。
少し意地悪でしたね……ですがマリーン様
民達は何もマリーン様の“喋り方”を信頼している訳では無い筈。
マリーン様が皆の為に必死で
“努力”されているからこそ信頼されているのだと思います。
マリーン様が本来の立ち居振る舞いをされたからと言って
それを残念に思う様な者など居ないでしょう。
それよりも……民達の事を一番に考えている事実そのものが
民達にとって自慢の王女様足り得るのだと俺は思います」
「で、でも……話し方がこんなのじゃ……」
<――彼女なりに気苦労が多かったのだろう
言葉遣い一つ欠けて居ても王女たり得ないのではと考えてしまう程に。
だが、そんな彼女に対しマリーナさんは――>
「……主人公様の仰られる通りです。
民達の為に強くあろうと努力し
民達の為を第一に考える貴女はとても素敵です……だけれど
貴女が気を抜かなければ民達にも安息が訪れないのだと知りなさい。
……無理をせず、本来の貴女を民達に見せるのです。
貴女はそのままが一番素敵なのだから」
<――と、彼女の事を
厳しくも優しい母の愛で包み込んだのだった――>
「そうですよマリーン様! ……それに
マリーン様にだってやりたい事はある筈です。
この国に移住した事で色々と夢を叶える事が可能なんですから
望まれないのであれば無理に政治に関わる事だって有りません。
ご希望があれば何でも……ぜひ仰って下さい! 」
「じ、じゃあまず……その“マリーン様”って呼んだり
丁寧過ぎる敬語もやめて? ……私の事は呼び捨てで良いから! 」
「さ……流石に呼び捨ては俺が気を使うので
此処は間を取ってマリーン“さん”と呼ばせて下さい。
け、敬語はその……俺の“癖”でも有るんで
その……徐々にと言う事で一つ!
って! ……そう言えば魔導適性があると仰ってましたよね? 」
「そうね……ただ装備を買うお金が無いだけ
民の殆どもそんな感じよ」
「では……明日辺りマリーンさんの装備を買い揃えに行きましょう。
マリーナ様ももし魔導適性があるのであれば同じ様に
民の皆さんも希望者は全員ギルドで魔導適性を測り
魔導適性に応じて“一時支度金”を出す形で調整を致します。
適正があり、望まれる方は皆魔導師に成れる様手配し
その他の職を希望される方にも順次手配を……如何がでしょうか? 」
「本当に良いの? ……でも私
まだこの国のお金何も持ってないわよ? 」
「えっと……マリーンさんの装備は俺の奢りって事で!
あっ……唯マリーナ様は大臣のお給料が出ますし
流石に俺の財布が持たないので何卒……」
「あら、残念ですわね~♪
ですが、娘にプレゼントして頂けるなんて……感謝致しますわ」
「いえいえ! ……出来る限り夢を叶えられる国でありたいですし
民達もこの国で生活する上で仕事が必要になってくる筈です。
ずっと国に頼りっぱなしって訳にはいかないですし
子供達は勉強、大人は好きな職を選び
今まで選べなかった事も選ぶ権利を手に出来る。
……そうして少しずつ、つらい気持ちも薄れていけば
幸せになれるんじゃないかなって……思ってます」
《――そう、真剣に語る主人公の姿を静かに見つめて居たマリーン。
直後、彼女は“自分の言葉”でこう告げた――》
………
……
…
「ありがとう主人公さん、貴方の事……大好きよ」
「なっ?! そ、その……こ、光栄ですっ!! 」
「だからっ! ……駄目ぇぇぇっ!!! 」
《――三度目とも成ると不思議は無いが
メルは明らかにマリーンの事を“恋敵”の様に警戒し始めた様で――》
「い、居なくなんて成らないから!
メルちゃんもいい加減安心してよ……」
「そ、そうじゃなくてっ! 私も主人公さんの事が……」
《――メルがそう言い掛けた瞬間
突如として開かれたヴェルツの入り口
其処に立っていたのは完全武装状態の衛兵達であった――》
………
……
…
「……物騒な姿で一体何だい!?
うちは飲み屋だよ?! 呑みに来たんじゃ無いなら帰りなッ! 」
「女将さん動かないで! ……主人公さん、貴方を逮捕します! 」
《――突如現れた衛兵は
そう言うと主人公に対し武器を差し向けた――》
「い、いきなり沙汰ですね……何の罪です? 」
《――冷静に対処しようとした主人公。
だが、一人の衛兵が主人公を過剰に威圧し――》
「とぼけても無駄だ! ……大人しく付いてこい犯罪者め!!! 」
《――突然の事に騒然と成った店内
メルは必死に主人公の無実を訴えた、だが――》
「黙れぇっ! ……邪魔をすればお前も逮捕するぞ! 」
《――“聞く耳を持たず”と言った様子の衛兵に
主人公はこの場を収める為か――》
「……分かりました、大人しく付いていきますから
皆さんには危害を加えないでください。
マリア、メルちゃんを頼んだ……」
《――マリアにそう言い残し
衛兵達に連行される事を選んだ主人公――》
………
……
…
《――その一方
店内に残されたメルは――》
「主人公さん……何でっ……マリアさん、早く助けに行きましょう! 」
「駄目です……此処に居て下さいメルちゃん。
……主人公さんが“此処に居る様に”って
あんなに真剣な顔で頼んで来たんです。
今は主人公さんを信じて此処に居るべき時です」
「……でもっ!
主人公さんは“此処に居る様に”とは言ってないですっ!
だから、私達が助けに行っても大丈夫な筈ですっ! 」
《――彼女自身もこれが詭弁である事は理解していた。
だが、それでも主人公の危機に
じっとしてなど居られなかったのだ。
……そして
そんなメルに同調する様に、マリーンさえも――》
「私もメルちゃんと同意見よ……何が起きたのかは分かんないけど
私達を助けてくれた恩人の危機を黙って見ているなんて無理よ!! 」
「メルちゃん……そんな揚げ足取りしないでくださいっ!
と言うかマリーンさんも落ち着いてくださいっ!! 」
《――必死に状況の沈静化を図ろうとして居たマリア
だが、マリーナさえも彼女の制止を受け入れては居らず――》
「……マリアさんには申し訳ありませんが
私も娘の意見に賛成です……ですが
私達では主人公さんをお助け出来る戦力には成れないのもまた事実。
どうすれば……」
《――主人公を救う為どう動くべきかを思案していた彼女達
だがそんな時、何かを思い付き――
“エルフの皆さんなら協力して下さるかも知れませんっ! ”
――そう言ったメル
直後――
“なら私も行くわ! エルフ族の居る所に案内して! ”
――そう言うと彼女の手を掴んだマリーン
二人は、マリアの制止も虚しく店を飛び出し――》
「……二人共待って下さい!!
先ずはラウドさんに確認の連絡を……ってあっ!
ちょっと……もうっ!! 」
《――マリアの制止を振り切った二人は
エルフの村へと走った――》
………
……
…
《――彼女達がエルフの村へと走り去った一方
既に投獄されて居た主人公は――》
「協力はします、ですが一度ラウド大統領と話を……」
「黙れ! ……罪人に権利など有りはしない! 」
「そうですか……」
《――この場で事を荒立てるのは得策では無いと判断した主人公
彼が大人しく引き下がると、衛兵達は牢に鍵をして去って行った――》
………
……
…
「……何故いきなりこんな事に成った?
ってか装備がなきゃ魔導通信も出来ないし……どうすれば良いんだ?
一体何の容疑だよ……くそっ! 」
《――この数分の後
大統領執務室では――》
………
……
…
「……何?! 主人公殿が捕まったじゃと?! 本当かねリオス殿!? 」
「うん……何の容疑かは知らないけど
ヴェルツから無理やり衛兵達に連れて行かれてたの!
僕、他の種族にも伝えてくるっ! 」
《――そう言うや否や
凄まじい勢いで走り去って行ったリオス――》
「主人公殿が逮捕など一体何故じゃ?! ……至急面会に行かねばっ! 」
《――ラウド大統領が立ち上がったその瞬間
執務室の扉は開かれ――》
「申し上げますッ! 」
「何じゃ!? ……わしは今急いでおるのじゃ! 」
「いいえ、お待ち下さい……主人公様が
“魔導武器店の店主を殺害した容疑”で逮捕勾留されており
関係者の欄にラウド様のお名前も……後はお判りですね?
ラウド様……ご同行願います」
「成程……貴族じゃな?
奴らめ、此処まで根回しが早いとは。
わしを主人公殿と同じ牢に入れると言うのならば、素直に応じよう」
「ええ、良いでしょう……ですが装備は全て預からせて頂きます。
では此方に……」
………
……
…
《――数十分後
主人公と同じ牢に投獄されたラウド――》
「主人公殿! ……無事じゃな? 」
「ラウドさん?! ……ラウドさんまで何故?! 」
「根回しが早い敵の様じゃ……所で、罪状は聞かされたか? 」
「いえ……何故逮捕されたかさえ分かりませんし
魔導通信が使えないので外との連絡も取れず……」
「ふむ……わしが聞かされたのは
御主が“魔導武器店の店主を殺害した”との事らしい。
わしも関係者として記載があったそうじゃよ? 」
「そんなバカな! ……敵は魔族でしょうか? 」
「いや……わしは貴族が怪しいと睨んでおる。
差し詰め、奴らの悪どい商売を全て“違法である”と
法で禁じたわし達の存在が相当に邪魔だったのじゃろう。
……もう少し慎重に事を進めるべきじゃったかもしれん
わしの軽率さ故に主人公殿をこの様な目に……
申し訳無い限りじゃ……」
「そんなっ! ……俺が急ぎ過ぎたからですよ!
ラウドさんこそ、俺の所為で……」
「煩い! ……静かにしろ! 」
《――そう二人を怒鳴り上げた見張りの衛兵。
先程の横暴な兵士の様だが、最初からこの兵に対し
僅かな違和感を感じていた主人公は
この者に対し質問を投げ掛けた――》
………
……
…
「一つ質問が……確固たる証拠が合って俺達を逮捕したのですか? 」
「何を馬鹿な事を……犯行現場からお前の服が出て来たのだ! 」
「成程……その証拠品は何処に? 」
「見て驚くなよ? ……これだ! 」
《――横暴な兵は主人公に対し
彼には全く見覚えの無い魔導師のローブを自信満々に見せつけた。
だが――》
「笑える位見覚えが無いんですが……まぁ仮に
それが俺の物だとしましょう、その上でお聞きしますが
犯行現場に“丸々服を残す馬鹿が”居ますか?
俺が“裸で帰った”とでも? 」
「し、知るか! ……犯罪者のやる事など俺には分からん! 」
「いや……冷静に考えたら有り得ない事だと分かりませんか? 」
「黙れっ! ……魔導で吹き飛ばされたいのか! 」
<――論で勝てないと踏んだ瞬間、この衛兵は脅しを掛けて来た。
この瞬間、ラウドさんの“読み”が正しい事が確定した。
ともあれ、興奮する衛兵に対しラウドさんは――>
「……まぁ、そう興奮するでない衛兵よ。
主人公殿も……少し抑えるのじゃ」
「ふんっ! ……どちらにしろお前達など明日には死刑だ!
今の内に悔い改めておくんだな……」
「なっ!? ……裁判もせずに死刑なんて
そんな横暴が許される訳が無いだろ!! 」
《――主人公の態度が逆鱗に触れたのか
それとも最初からそのつもりだったのか
横暴な衛兵は主人公に対し、魔導の杖を差し向けながら――》
「貴様……黙れと言ったのが聞こえなかったのか?
吹き飛ばされたいと取って良いのだな?! ……どうなんだ!? 」
《――言うや否や杖に力を込め始めた横暴な衛兵
だが――》
「待つのじゃ衛兵! ……主人公殿、落ち着くのじゃ! 」
「……ふっ、年寄の方が頭が良い様だな。
俺はこれから寝るんだ……騒ぐなよ?
次に後少しでも騒いだら、明日を待たずに……俺が殺してやる」
「……くっ! 」
「堪えるのじゃよ、主人公殿……」
………
……
…
《――その一方、エルフ族の村には
リオスの情報に依り集まった各種族の長達の姿があり――》
「……主人公が理由も無く罪の無い人間を殺しなどする訳が無い!
明らかな冤罪だ! 」
「ええ……きっと貴族が手を回したのよ! 」
《――オルガとガーベラは主人公の無実を信じそう言い放った。
無論、他の長達もそれに同意したが――》
「……だが、今動けば此方も危険だ。
明らかに冤罪だと判っていても
つい最近認められたばかりの私達異種族が“牢を破る”など
敵の思うつぼに成りかねんだろう……」
《――冷静にそう語ったクレイン。
だが、グランガルドはその考えすら超え――》
「……吾輩達の為、力を尽くしてくれた主人公を見殺しにするなど言語道断。
吾輩は、命尽きようとも……友を助けたいと思う」
《――そう言った。
そして、同じく物理職であるガンダルフもこれに同意し――》
「そうじゃ! 奴がわしらの事をどれだけ公平に扱ってくれたか……
……御主ら、よもや忘れた訳ではなかろうて!!! 」
《――紛糾する議論
そんな中、クレインは更に続けた――》
「何も“動かない”とは言っていないだろう!
今動くのが得策では無いと言っているだけだ! 」
「何じゃと? ……では何時どの様に動くんじゃ!? 」
「直ぐに思いつけば苦労はしない!! ……私だって歯痒いのだ! 」
《――普段冷静なクレインすら苛立ちを隠せない程の事態に
彼の妻、ミラは改めて状況の説明をした――》
「……ガンダルフ族長、貴方も落ち着いて。
兎に角……二人が牢に入れられている事だけは分かっているわ
その場所もちゃんとね……でも、牢を襲撃した所で
衛兵達を傷つけずに主人公さん達を救うのは無理。
もし、主人公さんを救う為に衛兵を一人でも傷つければ
更に状況は悪化するわ……分かるでしょ? 」
《――少し冷静に成ったグランガルドは
ミラの意見を聞くと、ある事を思い出した――》
「主人公が提唱する“差別と迫害の無い国”
その根底が瓦解する可能性があると言う事か。
吾輩達が追いやられた時を思い出す……
……当時もこの様な謀が行われていたのだろう。
全く、何時の世も……裏で糸を引く連中と言うのは不愉快極まる……」
《――話し合いは難航していた。
だが、クレインのとある一言をきっかけとして
解決の糸口が見え始め――》
………
……
…
「どうするべきか……借りにも私達異種族が関わったと思われぬ様な
救出方法が何かあれば良いのだが……」
「クレイン……今何と言った? 」
「……ん?
“私達が関わったと思われぬ方法を”と言ったのだが
オルガ……何を思いついた? 」
《――直後、オルガはニヤリと笑うと
“これが唯一の解決策と成り得る方法だ”……と言った。
その方法とは――》
………
……
…
「……我々の魔導力を主人公に送るのだ。
奴に我々の魔導力を分け与えれば
奴自身が固有魔導を使う事が出来る……そうなれば
自らの力で逃げ出す事も可能だ。
仮に我々が分け与えたと発覚した所で、人間を傷つける事には成らん。
“迫害”される迄には至らぬと思わぬか? 」
《――そう自信満々に語ったオルガだったが
その一方でミラはその意見に難色を示した――》
「正直……それでも足りるかどうか分からないわ?
主人公さんが常識では考えられない量の魔導力を持っている事は
エルフ系の種族ならば皆薄々感づいて居る筈。
それに……主人公さんの固有魔導は
その膨大な魔導力の殆どを消費してしまうと
少し前、本人から聞いた事があるわ。
その上更に不味い事に
彼は此処の所大量に魔導技を使用していた。
……疲弊している事も加味すると
私達から飛ばした魔導力が足りない確率の方が高い。
そして……もし、私達からの魔導力が少しでも足りなければ
そのまま、主人公さんは……」
《――そう語るミラであったが
そんな中、彼女に対し呼び掛けた者が一人――》
………
……
…
「……私達なら出来るわ! だから此処を通してッ!! 」
《――エルフ村の門前でそう叫んだ一人の女性
それは……“マリーン”であった。
直後、長達は彼女達を村へと案内し詳しい話を聞く事にした――》
………
……
…
「“君達なら出来る”……とは一体どう言う事かね? 」
《――クレインがそう訊ねると
マリーンは――》
「……私達“水の都”の出身者は
皆、魔導適性の高い者達ばかりなの……だから
皆で協力すれば必ず膨大な魔導力を集められる筈」
「ふむ……確か、水の都出身者は数百人程居た筈だが
その全てに魔導適正があると? 」
「ええ、殆ど例外無く……だから、私達の力も使って! 」
《――暫くの沈黙の後
クレインはマリーンらを作戦に含める決断をした。
直後、他の長達もこれに同意し
翌日を決行日と決め、準備に取り掛かり始めたのだった――》
………
……
…
《――その一方
深夜の牢獄では主人公とラウドが看守の眼を盗み――》
「主人公殿……起きておるか? 」
「ええ……どうしました? 」
「その……御主の“固有魔導”を使用し、逃げる事は出来ぬじゃろうか? 」
「それは……無理ですね。
此処の所の騒ぎで一日寝た程度では全く足りませんし
使える程回復する為には、どんなに早くても後三日は掛かりそうで……」
「そうか、唯一のチャンスじゃと思ったのじゃが……」
「ん? ……お前達何を喋っている! 」
………
……
…
「ぱふぱふはえぇのぉ~……むにゃむにゃ……zzz」
「そうですねぇラウドさん……zzz」
「何だ寝言か……しかし何と言うエロジジイだ。
いや……この男、会話が成立していなかったか?
まぁ良い、俺も寝るか……」
<――危ない所だった。
俺は眠ったフリをしながら……メルちゃんの事、マリアの事
沢山の大切な人々の事を考えていた。
……正直、俺がどうなっても構わないが
皆が危険な目に合うのだけは嫌だ。
だが、ラウドさんの言う様に貴族が糸を引いているのなら
どれだけ俺が大人しくしていても
後々皆が危険な目に合う可能性の方が高い。
その事に気がつくのに大した時間は掛からなかった。
だが……俺は
どうすれば良い――>
………
……
…
<――翌日の朝。
処刑場らしき場所に移送された俺達……
……試す迄も無く、魔導力は圧倒的に足りない様だ。
その上……顔には黒い布を被され、首には縄らしき物が掛けられた。
この状況、テレビで見たニュース映像みたいだな……
……だが、何処で選択を誤った?
何をすればこうならずにこの国を良い方向に導けた?
……俺のやってる事は全てエゴだったのか?
そんな事を考えていたら……突如として
偉そうな声で演説を始めやがった奴の声が聞こえて来た――>
………
……
…
「……本日、皆に集まって貰ったのは他でも無い
二つの重要な事柄について知って貰う為であるッ!
昨夜、この者達は魔導武器店の店主を計画的に殺害した
そしてそれを隠匿した罪に問われている!
実行犯は主人公! その事実を隠匿した者がラウド大統領だ!! 」
<――でかい声で濡れ衣を着せながら
俺達の顔に被せられた黒い布を取った男。
……成程、ラウドさんの言う通り見るからに“貴族”だ。
確か、俺達の行動一つ一つに猛反対してた奴らの親玉だったっけ。
……しかしまぁ、出任せばかり並べやがって
この貴族は俺達の顔を見ながら、ぬけぬけと
“この国を私物化した”だの
俺達が“この国の仕組みを破壊した”だのと色々と言ってくれた。
スライムの草原に壊滅的被害を与え……って
それは確かにその通りなのだが。
ともあれ……あろう事か、此奴は
暫定的に“国王に成る”とまで言いやがった――>
………
……
…
《――同時刻
各種族達は作戦を実行に移す為
処刑場で今一度作戦の確認をしていた――》
「良いか? 一度私が全員分の魔導力を吸収しガーベラに送る」
「ええ……貴方から送られてきた魔導力を
私が主人公さんに移す……でも言うは易し、行うは難しよ? 」
《――そう話していたオルガとガーベラ
だが、そんな二人に対し思い詰めた様子のメルは――》
「あ、あのっ! ……主人公さんの為なら
私、魔導力欠乏症で死んだとしても構いません。
だから……何としても主人公さんをお救いくださいっ! 」
《――と言った。
だがこの願いに対し、オルガは――》
「死ぬなどと……縁起でも無い事を言うな
その様な犠牲、主人公ならば絶対に喜ばない……奴は必ず助かる。
わかったなら気を引き締めろメル……そろそろ始めるぞ」
《――オルガの号令に、全員が手を合わせ始めた直後
大量の魔導力は少しずつオルガへと移動し始めた……だが
この途轍も無い魔導量には
流石のオルガも苦しめられている様子であった。
そして……魔導力を安定させる為
其処からさらにガーベラへと魔導力を移動させ始めたオルガ。
……直後、少しずつでは有るが
何とか主人公に対し魔導力を送り届ける事に成功し――》
「ぐっ、恐ろしい量ね……でもッ……主人公さん……ッ!
お願い……気付いてッ!! ……」
《――処刑台に括り付けられた主人公に向け
少しずつ流れ込んだ彼女達の魔導力。
この事にいち早く気付いたのはラウドだった……だが
処刑執行までの僅かな時間では
到底間に合う筈も無いと気付いたラウドは、彼らの時間稼ぎの為
必死に策を練って居た――》
………
……
…
「ではお前達……最後に言い残す事はあるか? 」
《――ラウドに対し
口元をニヤけさせながらそう訊ねた貴族の男ボルス。
だが、そんな中……僅かにでも時間稼ぎをする為
一か八か、ある“奇策”に打って出たラウド――》
………
……
…
「せめて……」
「……何だ? 」
「せめて……最後に……」
「最後に何だ? ……勿体振らずに早く言えっ! 」
「……ぱ」
「ぱ……だと? ふざけているのならば……」
「ぱっ……ぱっ……
……ぱふぱふしたかったんじゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!! 」
………
……
…
《――ラウドのこの発言に依り
処刑場には冷たい静寂が訪れた――》
「無駄に時間を使い何を言うのかと思えば……“晩節を汚す”発言だったな。
だが当然、そんな無駄な時間など無い……次。
主人公とやら……貴様は何か言い残す事は無いか?
“この老耄”と変わらぬ様な事ならば
止めておくのをお勧めするがな……」
《――そう訊ねられた主人公。
だが……彼は貴族の質問に反応せず
辺りを見回して居て――》
………
……
…
(……な、何だ? ……この尋常じゃない魔導力は?
一体……何処から……って……あ、あれは!! )
………
……
…
「ん? ……何を探している?
今更狂ったフリなどした所で誰も助けには来ないぞ?
何も言う事が無いならば……このまま粛々と処刑を執り行うだけだ。
衛兵……カウントダウンを」
「ハッ! ……五……四……三……二……一ッッ!! 」
「……待てッ!
最期に……言いたい事があるッ! 」
「チッ! ……何だ、言ってみろ」
《――苛立ちを隠せない貴族の男ボルスに対し
主人公は少し微笑むと……体に力を入れ、大きく息を吸い込み
ゆっくりと……だが、力の限りに叫んだ――》
………
……
…
「最期に言いたい事、それはな――
“限定管理者権限”ッッッ!!! 」
………
……
…
《《――命令を承認
対象に管理者権限を限定的に移譲します――》》
「何ッ?! 何だこの声は! ……貴様、何をしたッ?! 」
「……ラウドさんと俺の拘束を解除ッ!!
俺とラウドさんの装備を減衰装備を除き全て装備!
俺とラウドさんに虚偽の罪状を擦り付けた者と
その協力者達を全てこの場に召喚し……その全てに拘束具を!
俺に魔導力を分けてくれた皆の魔導力を全て回復!
それから……俺自身の魔導力も全て回復だッ! 」
《《――命令を承認
実行します――
“対象”の拘束を解除します……成功
“対象”の装備“減衰装備”を除き全て装着……成功
“対象”に該当する者をこの場に召喚……成功
“対象”に該当する者に拘束具を装着……成功
“対象”に該当する者達の魔導力を完全回復……成功
“対象”の魔導力を完全回復……ERROR
“魔導力異常”を検知しました
限定管理者権限を強制終了します――》》
………
……
…
「エラー? ……魔導力異常って何だ?
って……ぐあっ?! 何だッ?! 体が……重……い……っ……」
《――原因不明の固有魔導強制終了後
騒動の黒幕である貴族達と横暴な衛兵には拘束具が装着されて居た。
無論、皆口々に言い訳をして居たが、横暴な衛兵の――
“自分だけは無実だ”
――と言う発言を発端に
貴族同士の裏切り合いが始まり――》
「は……離せっ! 俺はただ職務を全うしていただけだ!
コイツラとは何の関係もない! お……俺は嫌だったんだ!!! 」
「な、何を言うか! お前に“ハーフ人外娘”を何人渡したと思ってる! 」
《――貴族達の見苦しい罪の擦り付け合いに
国民達はざわつき始めて居た。
その一方で、主人公の使用した
特異な固有魔導に驚いた一部の国民は――》
………
……
…
「なぁ、今の技って固有魔導……だよな? 」
「……限定は分かるけど“管理者権限”って何だ? 」
「それも気になるけど……“虚偽の罪状”って言ってなかったか? 」
「……と言う事は
貴族の奴らが私腹を肥やす為に
ラウド大統領や主人公さんを陥れたんじゃ……」
「……それに今あの貴族
衛兵に対して“奴隷を渡した”みたいな話をしてなかったか? 」
《――と、国民達が騒ぎ始めて居た頃
主人公は“魔導力欠乏症”とは違った
“謎の症状”に蝕まれていた――》
………
……
…
「ラウドさん……俺、何だかちょっと調子悪いみたいです。
……体力も魔導力も……回復……出来てないんで
代わりに……説明お願いしても良い……ですか?
……っ!! 」
「ふむ……疲れが溜まって居ったのじゃろうまぁ後は任せるのじゃ。
……さて諸君!
今回、我ら二人に虚偽の罪を擦り付けた者達がおる!
皆分かっておるじゃろうが……そこに居る拘束具を身に着けた者達じゃ!
……皆、国が大きく変わった事はよく知っておるじゃろう。
貧困が原因で教育を受けられぬ者にも教育を受けさせる事を良しとし
種族間の誤解を取り除く事で皆が幸せに暮らせる様努力し
国を良い方へと導こうと奮闘しておる主人公殿の様な者がおる反面
この者達の様に、私腹を肥やす為ならば
他者の事など気にも掛けぬ不届き者が居るのもまた事実じゃ。
今回の事で国民の皆も良く分かったじゃろう……故に
わしは今日、この者達にとって残酷な決断をしようと思う。
先ず、この者達の貴族階級の永久剥奪……次に
全ての財産を没収し、その余りある富を恵まれぬ者達へと再分配
その身を生涯開く事の無い牢獄へと送る事で全うさせる!
……わしはそう決めたが国民の皆に問う。
この者達に対する罰はこれで適切であるかを……
……皆の挙手で答えて貰う事とする! 」
《――ある意味では横暴とも思える程のラウドの提案に
貴族達は当然の様に猛反対の声を挙げた。
……だが国民達の多くは皆、此処に並ぶ貴族達から
今に至るまで抑圧され、搾取され続けて居た者ばかりであった。
“賛成多数”と成るのは必然で――》
………
……
…
「なっ、何を勝手な事を! 私は公爵家の家柄で……」
「黙れよ! ……俺は賛成だ!!! 」
「当然賛成だ! ……俺達が逆らえないと思って
今まで好き勝手やりやがって! 」
「牢獄でも生ぬるいけど……賛成よ!! 」
「ま、待てっ! 全て誤解だ!
……待て!! くそっ! ……やめろ! ……お前達ッ!
“手を挙げるなぁぁぁぁぁっ!!!!! ” ……」
………
……
…
「……さて、賛成多数じゃな?
それでは……先に話した通りこの者達の処遇は決定した。
魔導隊隊員諸君!! ……速やかに
この者達を魔導牢獄へと移送するのじゃ!!! 」
「……ハッ!!! 」
「ラ、ラウドさん有難うございます……てかすみません
俺ちょっと疲れてるみたいで……体が……あれ? 地震かな?
世界が揺れて……うぐっ!!!
……ぐぁぁぁぁぁぁっ!!! 」
《――突如として苦しみ始めた主人公
その体は激しく痙攣し……程無くして
彼は意識を失った――》
………
……
…
「何っ?! ……いかんっ! 誰か……回復術師を此処に!!! 」
「そんな?! 主人公さんっ!!!
極大治癒ッッ!!! ――」
《――主人公の一大事に慌て
駆け寄るや否や治癒魔導を使用したメル……だが
主人公の呼吸は既に止まって居て――》
………
……
…
「……嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!! 」
===第二十三話・終===




