第二十一話「外交は楽勝?……前編」
<――執務室に居た俺達の元へ突如として現れた“異国からの使者”
近衛兵に“マリーン様”と紹介された女性は
現れるなり――>
………
……
…
「……妾はマリーン、水の都からの使者じゃ。
貴国の国王が変わったと聞いたが……それは御主か? 」
<――水色の髪に緑の瞳
若く容姿端麗なこの女性は、少し尊大にも見える態度で
ラウドさんにそう訊ねた――>
「“国王”……では無く“大統領”と言う役職じゃがのう?
して……本日はどう言ったご用件じゃろうか? 」
「大統領? 聞き馴染みのない役職じゃが……国王と何が違うのじゃ? 」
「詳しい説明は主人公殿に頼むとしよう」
「ええ……では代わりに俺が。
マリーン様……“大統領”とは、国民の投票によって選ばれ
身分の関係無く成る事が出来る存在です。
……平たく言えば、元の王国と言う存在が“世襲君主制”であるのに対して
大統領は国の為になる人材を国民の中から
国民自身が選ぶ事が出来ると言う仕組みでございます」
「それはまた酔狂な……しかし、国民が勝手者ばかりであれば
碌でも無い者が大統領に成るであろう? 」
「確かに……その可能性が“無い”とは言い切れません。
……ですが“世襲君主制”で血縁さえあれば成れてしまう王よりも
国民の為を思い、立候補した者の方が
圧倒的に良い長に成る確率は高いのではと俺は考えています」
「……ほう、御主は政治家かぇ? 」
「はい……外交及び、教育及び、法務大臣をさせて頂いております」
「三つを兼任とは……人手が足りないのかぇ? 」
「い、いえその……とっ、所でマリーン様!
本日はどう言ったご用件でお越しに成られたのでしょうか? 」
「……おお、そうであった。
新しい国王……もとい、大統領へと変わった事で
我が国との関係性に変わり無いかと確認をしに参った次第じゃ」
<――そういったマリーンさん。
だが――>
「……誠に申し訳の無い事なのじゃが
わしは貴国との関係性を良く知らんのじゃよ。
前国王とはどう言った取り決めをしておったのかのぉ? 」
<――ラウドさんはそう訊ねた。
これに対し“協定書を交わした筈”と答えたマリーンさんの言葉に
慌てて近衛兵に協定書を探してくる様命じたラウドさん――>
………
……
…
「……マリーン殿、暫くお待ち頂けるじゃろうか? 」
「分かった……ではその間に、この国の事を詳しく教えて貰おうかぇ? 」
「ええ構いませんが、大きく変化している途中じゃからのぉ
確定の話が出来んのでな……此処はやはり、詳しくは主人公殿に……」
<――そう言いつつ俺を横目でチラリと見たラウドさん。
“また丸投げ?! ”
内心そう思いつつも説明を引き受けた俺は――>
「……マリーン様がお聞きに成られたい話は
恐らく、王国時代との差異についてですね? 」
「その通りじゃ……話してくれるかぇ? 」
「勿論です、まずはこの城の内部に学校が出来た事でしょうか――」
<――この後
マリーンさんに対し“義務教育学校”についての説明を始めた俺。
学費は国が負担している事や
この学校には種族の差別すら無い事などを話した所――>
………
……
…
「……のう、御主は今
“種族の差別無く”と申したが……」
「ええ、それが二つ目でもあります。
我々は多種族国家としてこの国を再編している最中なのですが
恐らくその反応を見る限り……マリーン様の母国に於かれましては
多種族に対する感情が“余り良い物では無い”のかと邪推します。
……どうでしょう? 」
<――そう訊ねた瞬間
マリーンさんは周りに居る各種族長達の顔を見渡しながら
少し居心地の悪い顔をしつつ語り始めた――>
「……包み隠さず答えれば
妾の国ではオークやダークエルフは忌み嫌われる存在じゃ。
に、人間を喰らうと聞くぞぇ? ……そもそも
先程から気に成っておったのじゃ。
この場にはあらゆる種族が居るが……皆、大臣なのかぇ? 」
「そうですが……やはり色々とお伝えしなければならない事が有る様です。
……まず第一に、マリーン様が仰った一部種族へのお考えは
人間の勝手な思い込みや嘘による所が大多数です。
その為、我が国では“義務教育学校”で正しい知識を教える事によって
正しい方向へと導く事を目指しているのです。
マリーン様が仰られた“人間を喰らう”と言うのも
恐らくは文献等に記載されていた情報が元の知識かと思いますが……
……どうでしょうか? 」
「確かに……文献からの知識じゃ」
「やはりそうでしたか……我が国の古い文献にも
余りにも事実と異なる情報ばかり記載されておりましたので。
俺の個人的意見にはなりますが
記載した人間の悪意を許せなく成る程でした」
「では……オークもダークエルフも、人間は喰わぬと言うのかぇ? 」
<――この質問に
グランガルドさんとクレインさんは――>
「当然だ……差し詰め我輩達の
“悪食”とも揶揄される食欲から連想しただけであろう」
「同じく……私達ダークエルフは
殆ど人間と変わらない食事を摂るのだから」
「それは……知らぬ事とはいえ失礼をした、妾の勉強不足じゃ」
「頭をお上げ下さい……マリーン様が話の分かる方で良かったです。
さて、引き続きこの国の説明を行いたいのですが……」
<――と、説明を続けようとしていたその時
“協定書”を持った近衛兵が現れ――>
………
……
…
「うむ、ご苦労じゃ……」
<――直後
近衛兵の手渡した協定書に目を通して居たラウドさん。
そんなラウドさんに対し
妙に緊張した面持ちで――>
「……妾の達との取り決めは協定書に記載されている物と相違無く
今後も変わらず通り執り行われるのか? 」
<――何かを急いているかの様にそう問うたマリーンさん。
だが――
“……暫し待ってくだされ。
ふむふむ……何と?! ……これは何とも。
主人公殿、これをどう思うかね……? ”
――そう言ってラウドさんが差し出して来た協定書には
“水の都”側に取って余りにも酷な協定文が
書き連ねられて居た――>
………
……
…
「何だこの協定書?! ……マリーン様、本当に今までもこの様な協定で? 」
「王国時代からならばそのままで変化は無い筈じゃが……
……どうしてじゃ? 」
「で、ですが! ……これではそちらが圧倒的に損をする協定ですよ!?
一体何故こんな酷い協定をお飲みに成ったのです? 」
「それは……妾の国の事情を説明しなければ
理解はされぬのであろうな……」
<――直後
マリーンさんは――>
………
……
…
「……妾の母国は“水の都”と呼ばれて居るが
名前だけ聞けば聞こえは良いであろう? ……だが現実には
船上で生活をする事を余儀無くされた
宛ら……“難破船”の様な国なのじゃ」
「そ、その……他の土地に移り住めない理由でも? 」
「……移り住めるものならば直ぐにでも移り住みたい
しかし……何処の国も妾達を受け入れてなどくれぬのじゃ。
じゃが、そんな最中……王国だけが“協定を結ぶのならば”と
巨大な船を建造する材料と人員を寄越してくれた。
……文字通り
我が国は“藁にも縋る思い”で協定を結んだのじゃ。
しかし、月日が過ぎれば船は痛むであろう?
既に木材など一切取れぬ様に成ってしまった水の都では
他国から木材を譲り受ける他無い。
生命線に等しい木材供給の為ならば
それが如何なる不平等であろうとも飲む他無い……仕方が無いのじゃ。
故に頼む……この通りじゃ
今まで通り木材を融通して貰いたい、その代わり……
……妾の国の女は協定通りの数、御主達の国へと渡す
男も奴隷として規定数渡す。
だから、どうか……今まで通り……ッ!! ……」
<――そうして必死に頭を下げるマリーンさんの瞳には
悔しさと情けなさの入り混じった涙が滲んで居て――>
………
……
…
「えっと……協定に関する裁量その他は、外交大臣である俺にも決定権がある。
……そうですよね? ラウドさん」
「その通りじゃが……どうする気じゃね? 」
「良かった、ではこの協定は……“破棄”します」
<――そう言いつつ協定書を破り捨てた俺。
その様を目にしたマリーンさんは
俺に縋り涙ながらに懇願し始めた。
だが、俺は決してマリーンさんに意地悪をした訳では無くて――>
………
……
…
「……何をするのじゃ?!
必要ならばもっと差し出す! だから……どうか!
どうか……っ……ッ!!! 」
<――尚も慌てふためくマリーンさんに対し
俺は――>
「……説明不足だった事を謝罪します
ですから落ち着いて下さいマリーン様。
俺が破棄すると言ったのは
“こんな不平等な物を”……と言う意味です。
当然、代わりの協定書をすぐに用意致しますからご安心下さい。
……もっと平等で、お互いが幸せになる様な協定を
改めて我が国と結んでは頂けませんか? 」
「……そ、そうして貰う為にはどうすれば良いのじゃ?
御主が望むならば……この身でも差し出すぇ? 」
「うわぁ~とても惹かれるなぁ~……って!!!
そっ、その様な事は求めてませんッ!!! 」
《――主人公は耳まで真っ赤に染めつつ必死に否定した。
だが――
“鼻の下を伸ばしながら言うと説得力無いですよ? ”
と、マリアに言われ
“……主人公さん? ”
と、メルに圧を掛けられた主人公であったが――》
………
……
…
「ふ、二人共……その視線止めてくれ。
ゴホンッ! ……とっ、兎に角!
新たな協定書ですが……水の都の皆様が
“今まで通りの生活”を望まれるのであれば
木材の安定供給はこれまで以上に行います。
勿論、それに必要な人員も……ですがもし
皆様が“政令国家で暮らしたい”と望まれるのなら
すぐにとは行かないかもしれませんが
我が国の居住区を拡張し、皆様をこの国の民として迎え
行く行くは我が国の国政にも関わって頂ける様に手配します。
そう言う協定を新たに結び直したい……と言っているんです」
「で……では此方は何を差し出せというのじゃ?
女も男も要らぬと言うなら何を差し出せるのじゃ?
他に差し出せる物など何も……」
「う~ん……“感謝と信頼”ですかね? 」
《――そう告げられたマリーンは暫くの間“ポカーン”としていた。
そして、ふと我に返り――》
………
……
…
「ほ……本当にそれだけで良いのかぇ?
……この国に何の得も無いではないか!? 」
《――マリーンのこの“尤も”な指摘を受け
ラウド大統領は主人公に対し、少し意地悪げに訊ねた――》
「確かに……全く得がないのぉ主人公殿?
……さてはこの場で圧倒的な恩を売り
あわよくばマリーン殿と“ぱふぱふ”するつもりじゃなかろうのぉ? 」
「マリーン様程の美女と“ぱふぱふ”か……幸せな時間だろうな~
……って!?
ラウドさんまで何を!?
って言うか、民が増えれば後々の国力増強に繋がる事位
ラウドさんだって分ってて言ってますよね?! 」
「うむ、理解はしておるが……面白くてのぉ~っ! ほっほっほ! 」
「ほっほっほ! ……じゃないですよ全く!!
そ、その……マリーン様
お見苦しい所をお見せしてしまい大変申し訳有りませんでした。
話を戻しますが……マリーン様はどう為さりたいですか?
我が国に移り住まれるか、今まで通り水の都に残られるか
どちらでもお望みの形で構いません。
唯その代わりと言っては何ですが
我が国とは最低でも“友好国”と言う形を取って頂き
貿易、その他に優遇措置など取れると此方としても幸いです」
《――終始笑顔での会話を意識し続けて居た主人公
彼は、彼女の緊張と悲しみを取り除く事に全力を尽くして居たのだ。
だがその一方……余りの“満額回答”に
逆に困惑すると言う、謎の状態に陥って居たマリーンは――》
………
……
…
「す、直ぐに決めるのは無理じゃ! 一度国に帰り確認をしなければ! 」
「……成程、それもそうですね。
えっと……今木材は足りていますか? 」
「正直少し心許無い、しかし……」
「……どちらを選ばれるにしろ、どちらも選びたいにしろ木材は必要な筈。
どれ程必要だとしても必ず用意させて頂きます」
「そ、それならば……五十本程……頂いても良いかぇ? 」
「その程度でしたら恐らくすぐに準備出来るかと思いますが
その……お持ち帰りに成る手段は御座いますか? 」
「……頼んでおいて申し訳無いが
妾の馬車ではとても全ては乗らぬ……じゃが
どうにかする他あるまい」
「そうですか……では護衛と外交を兼ねて
俺とマリア、メルちゃんの三名が同行しても宜しいですか? 」
「それはもちろん構わぬが……しかしそちらは良いのか?
……仮にもこの国の大臣であろう?
御主程の者が不在では、この国の国政が停滞してしまうのでは無いかぇ? 」
「お褒めに預かり光栄ですが……多分全く困らないと思います!
なので……お気遣いなさらないで下さい。
……いざと成れば転移魔導で戻れますし
問題があれば魔導通信で連絡も取れますので! 」
「何?! ……御主は魔導師としても優秀な存在なのかぇ?!
ならば、御主を見込んで相談があるのじゃッ! 」
<――言うや否や、グッっと距離を詰めて来たマリーンさん。
いい香りがしてちょっとドキッとしたが
其処は必死に堪えつつ――>
「で、出来る限りならご協力させて頂きますが……何でしょう? 」
「……先程も申したが妾の国は水の都じゃ。
それ故、水生の魔物が多く生息しておるのじゃが
最近、その魔物が原因で民が死亡する事件が多発しておるのじゃ。
頼み事ばかりですまぬが……力を貸しては貰えぬか? 」
「……そう言う事でしたら是非!
所で、水の都に魔導師は何名程いらっしゃるのでしょうか? 」
「……魔導適正こそ高い者ばかりじゃが
魔導に用いる道具を揃える余裕が無い故
皆、船を修理する為の道具を武器として使うしか無いのが実情じゃ。
故に……居らぬのと変わりは無い」
「成程……水や食料は足りていますか? 」
「……辺り一面が湖じゃ、水は尽きぬが食料は心許無い」
「では、当面の食料も持って行きましょう……民は何名程です? 」
「約七〇〇名程居るが、病気の者も居る故……」
<――と、話すマリーンさんに対し
メルちゃんは――>
「それなら私がある程度治せますからご安心下さいっ!
それに、主人公さんは回復術師としても優秀ですから! 」
「何? ……回復術師としても?
しかし転移魔導は回復術師の持つ技では無い筈。
攻撃術師の技を持ち、回復術師としても優秀とは……御主何者じゃ? 」
「えっと……“トライスター”はご存知ですか? 」
「話には聞いた事があるが、まさか御主……トライスターなのかぇ?! 」
「ええ、一応……ですからご安心ください」
「全く……御主達には驚かされてばかりじゃな」
《――と、本来ならば彼の能力に驚く彼女が正常なのだが
主人公にある意味“慣れている”ラウドは思わず――》
「マリーン殿、その様にいちいち主人公殿に驚いておっては……
……日が暮れますぞぃ? 」
《――と
ツッコミを入れたのだった――》
「そ、そうは言ってもじゃな! ……いや、すまぬ」
「いや……わしも主人公殿と同じく、早く水の都を助けたいだけじゃよ。
そう言う事じゃからして……わしは
主人公殿の決定に従い木材と食料を我が国から用立てよう。
主人公殿、マリア殿、メル殿の三名は
マリーン殿のお供として水の都へと直ちに出発するのじゃ! 」
<――と、正式に命令を下したラウドさん。
だが、俺には一つ気に成って事が有って――>
………
……
…
「……いえ、お待ち下さい。
流石にこの物資の量ともなれば準備にそれなりの時間が掛かる筈です。
ですので……俺は一度ミリアさんとの“ある約束”を果たす為
その間だけでも一度ヴェルツへ戻り、約束を果たし次第出発……
……と言う形を取っても宜しいでしょうか?
それに、水の都からの使者であるマリーン様に
“蜻蛉返りでご帰国頂くのは無礼かと。
ですので、ヴェルツでのお食事も合わせてご提供できればと思って居ます」
「約束じゃと? まぁ丁度良い……食事の提供もその通りじゃ。
では……食事が終わる頃までには全てを用立てて
ヴェルツ前に手配しておくから安心すると良いぞぃ? 」
「了解しました……ではマリーン様、俺に掴まってください。
……マリア、メルちゃんも」
「こ、これでよいのかぇ? 」
「はい……しっかり掴んで居て下さいね?
では……転移の魔導、ヴェルツ前へ! 」
………
……
…
「なぁっっ?! ……いきなり転移魔導じゃと?!
何と、城があんなに遠い……」
「……驚かせてしまい申し訳有りません。
それと、私用に付き合わせてしまい申し訳ございません」
「……構わぬ、妾も正直その……腹が減っておったのじゃ」
「お気遣い痛み入ります……ではヴェルツへご案内します」
「いや、気遣いでは無く本当に減っておったのじゃが……」
………
……
…
「お帰り主人公ちゃん! ……ん? そちらの女性は“誰さん”だい? 」
「ただいまです! ……
……此方はマリーン様、水の都からお越しのお客様です。
その、マリーン様にもお食事を用意して頂けますか?
俺は“さっき”のをお願いします! 」
「……あらそうなのかい!!
他国からのお客さんなら腕に縒りを掛けて
ウチでも一番豪華な料理を出さなきゃヴェルツの名が廃るってもんさね。
そう言う事だから……ちょっと待ってておくれよっ! 」
<――そう言うと
ミリアさんはこれ以上無い程に張り切り
凄まじい勢いで厨房へと消えていった、だが――>
「こ、これ女将っ! 妾には余り持ち合わせが……」
「……ご安心をマリーン様。
お代は全て此方持ちですので、安心してお召し上がりください」
「そ、そうか……何から何まですまぬ。
しかし……前王国と比べ
何故こんなにも妾達に寛容になったのじゃ? 」
「それは多分……差別や迫害の撤廃が根底に有るからですかね?
少し現実的な例え話ですが
人間同士と異種族との間で無駄な争いを行って居た場合
その隙を狙った魔王軍にいとも簡単に壊滅させられると思いませんか?
……ですので、魔王軍に負けぬ為にも無駄な争いは極力減らし
お互いに協力をしていけたらと言う信念の元
努力している最中と言いますか……」
「成程……それは御主の発案かぇ? 」
「殆どは……ですが、協力して頂けてると言う事は
皆さんもきっとそれを望んでいたのだろうと思っています」
「……おまたせ! ヴェルツ特製スペシャルセットだよ!
マリーンさんもたくさん食べておくれよ? 」
《――この瞬間、ミリアが運んで来た料理は
いつもヴェルツに入り浸っている筈の主人公達ですら
目にした事の無い程、豪勢な物で――》
………
……
…
「斯様に豪勢な食事、母上にも食べさせたい……」
《――ほんの一瞬、年相応の反応を見せたマリーンに対し
主人公は何かを察したのか――》
「……旧王国が行った事とは言え
苦しい思いをさせてしまい申し訳ありませんでした。
少しでも皆様の生活が楽になる様、全力で協力させて頂きます
ですが……今はマリーン様が英気を養う時間です。
どうぞ、ごゆっくりご堪能下さい」
《――何かを心に決めた様子でそう言った。
そして、そんな主人公の心遣いに――》
「御主は良い男じゃ……顔も眉目秀麗じゃ。
お、想い人は居らぬのかぇ? 居らぬのなら妾と……」
《――と、マリーンが言い掛けた瞬間
メルは机を叩きながら立ち上がり――》
「だっ! ……駄目ですっ!!! 」
《――と、言った。
だがその直後、我に返り――》
「ハッ!? す、すみませんっ!! ……何でも無い……ですっ」
「メルちゃん?! びっくりした~……どうしたの? 」
「い、いえ……主人公さんがマリーン様とそのっ……結婚したら
一緒に居られなく成ってしまう様な気がして……ごめんなさいっ! 」
「大丈夫だ……何があっても絶対に離れたりはしない。
メルちゃんを悲しい思いにさせたりはしないから……
……それだけは信じて欲しい」
《――メルをじっと見つめそう伝えた主人公だったが
メルは少し不満そうに返事をするに留まった。
ともあれ……暫く経ち、大量の物資を載せた馬車が
ヴェルツの前へ到着した頃――》
………
……
…
「……失礼致しますッ! 物資と馬車の準備が整いました!
馬車の数が予定よりも多く成りましたので、我々も同行致します! 」
「ご苦労様です……ではマリーン様、そろそろ行きましょうか。
ミリアさん! ご馳走様でした~ッ!
お代は全て大統領府宛でお願いしま~すッ! 」
「分かってるよ! ……気をつけていってくるんだよ~! 」
「はいッ!
……では行きましょうマリーン様、道案内をお願いします」
「承知した……女将殿、大変に美味な料理であった」
「ありがとねぇ……また来ておくれ!
マリーンさんも気をつけて帰るんだよ! ……」
「うむ、必ずまた訪れよう……では主人公殿、行こうかぇ」
《――直後
一行を乗せた荷馬車は、物資を満載し
彼女の故郷である水の都へと向かうのだった――》
===第二十一話・終===




