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第十五話「多種族国家って楽勝だと思ってました。」

《――ラウドが大統領となり記念行事なども無事にり行われ

街にも活気が戻り始めて居た頃……


……主人公は

“ある問題”について思案する事と成るのだった。


時刻は昼食時


“飲み屋ヴェルツ” ……主人公一行の他には

オルガ、ガーベラ夫妻とクレインが集まり

それぞれの“喜ばしい出来事”を自慢しあっていた頃――》


………


……



「……ラウド殿が大統領とはな。


しかし、あの演説……これ以上無い程の適任者と言えるだろう

それに彼は我がエルフ族に勲章まで……何とも喜ばしい限りだ! 」


<――そう言うと

子供みたいに無邪気な笑顔で勲章をかかげたオルガさん。


何だろう、やっぱりこの人ちょっと可愛いな――>


「……私も誇らしいですわ、それに

あの方ならばこの国の政治も安定でしょう」


<――オルガさんと同じく、ガーベラさんも上機嫌で

勲章を“さかな”とばかりにワインを一口飲んだ。


それと……何気にこの時初めて知ったのだが

エルフ族は上機嫌だと耳がピクピクと“動く”らしい。


ともあれ――>


「皆さんが喜んで居ると俺まで嬉しいですよ! 」


<――などと話していると、更に上機嫌に成ったオルガさんは

勲章をいたく気に入った様子で

“常に着けておこうではないか! ” などと言い出した……だが

この瞬間、それに真逆の反応を見せたクレインさん。


クレインさんは喜ぶオルガさんに対し冷静に――


“狩りをする時に目立ってしまう”


――そう返した。


正直、二人共酒が入っているし

俺はこの会話から喧嘩にでも発展したりしないかと心配すらしていた。


……だが、まさかこの会話こそが

この国の形をより良く変えて行くきっかけに成るとは

この時点ではまだ、気付いて無くて――>


………


……



「……クレインさんってやっぱり真面目ですね。


でも、たまにはオルガさんの様に楽しまないと

苦しく成ったりもしますから……」


「何だ主人公……それではまるで

私が不真面目だと言っている様な物では無いか! 」


「い゛っ?! ……ち、違うんですオルガさんッ!!

け、決してそう言う意味で言った訳では無くて! ……」


「まぁ待てオルガ……言葉のあやだろう、そう怒ってやるな。


しかし、主人公君……私は別に特別真面目と言う訳では無い

ただ、我々には“目立ちたく無いだけの”理由があるだけなのだよ」


「目立ちたく無い理由? ……どう言う事です? 」


「……知っているかも知れないが

私達ダークエルフには“人族を食べる”等と言う良からぬ噂が立っていてな。


だが、実際はエルフ族とは違い“肉も食う”と言うだけで

わざわざ私達に姿形の酷似している人の肉を食らう事など無い話なのだが

噂の所為でいわれなき迫害や差別を受ける事も少なく無いのだよ」


「そんな事が……しかし差別が多いですねこの国は。


学校教育で教えないんですかね? “駄目だ”って。


……そう言えばメルちゃんも何故か差別的に扱われていましたけど

何故こんな優しくて素敵な子を粗末に扱う事が出来るのか

俺も不思議で成らないなと思ってたんですよね……」


「す、素敵だなんてそんな……照れますから止めて下さいっ!!


って、主人公さん……“学校”って何ですか?? 」


「えっ、学校だよ?! ……無いの?!

お勉強教えて貰う所だよ?! ……もしかして呼び方が違うだけとか!? 」


「落ち着け主人公……有るには有る、だが

金持ちの人族のみが入る事を許されている場所なのだ。


メルが知らないのも無理は無いだろう……」


<――オルガさんにそう説明され、驚いた。


成程、それでは差別が無くならない訳だ――>


「なら……ラウドさんが大統領に成った事ですし

経済的に余裕が無くても受けられる

“義務教育”の様な仕組みを持った学校を作って頂くべきかも知れないですね」


「義務教育だと? またしても御主は解らぬ事を……何だそれは? 」


「国民に最低限受ける事を義務とする教育の事です。


正しい知識を身につければ

自分達が如何いかに理不尽な事をしてるのか理解出来ると思いますし

特定の種族に対する大小様々な差別や誤解を

“完全に”……とは行かなくても

減らす助けにはなるのかなって思うんです……とは言え

不登校だった俺がこんな事を言うのはお門違いかも知れませんが

それでも、メルちゃんや皆さんの為に成るならって思って……っと。


所で、メルちゃんに一つ質問があるんだ……良いかな? 」


「な、何でしょうか? 」


「その……あまりこの話はしたくないかもしれないけど

何故、オークとダークエルフのハーフが――


“最もみ嫌われる”


――なんて言われて居るのか

正確な理由が知りたいんだけど……教えてくれるかい? 」


「その……それは私も知らなくて……ごめんなさいっ! 」


<――と、申し訳無さそうにしたメルちゃん

だが、クレインさんが代わりに説明を申し出てくれて――>


「私が代わりに話そう……


……ダークエルフへの印象がひどじ曲げられた物で有る事は先程話したが

それに輪を掛けて印象が悪いのが“オーク族”なのだ。


今でこそ居住区が離れた事により沈静化しているが

肉であれば何でも喰らう……食える物有らば何でも喰らうと言う

少々悪食あくじきな習性を持っていてな。


昔……大飢饉だいききんのあった時代、えにえた一部のオークが

人間や他の種族を襲った事があったと多くの文献に記載されている程だ。


……だが、その頃我々ダークエルフには王国との交流もほとんど無かった。


故に、私を含めて皆実際を見ては居ないし

ともすれば、我々の様に“尾ひれが付いた”噂話なのやも知れない。


無論、事実かも知れないが……兎も角、真実は謎だが

何れにせよ彼らが王国から追放された事だけは真実だ。


……その為、今の差別があるのだとは聞いている」


「成程、それがもしも事実なら

差別する側の気持ちが分からないでも無いですね。


……ですが、だからと言ってメルちゃんが差別されるのは違う。


理由が分かった以上、国の形をもっと変えて行くべきだと俺は思いますね! 」


<――と、決意を胸に語った俺に対し

マリアは――>


「はは~ん……さてはあれですか?

主人公さんの強力な魔導技でまた地形を……」


「違うわっ!!! ……義務教育用の学校を作ったり

理不尽な差別をさせない様に罰則をもうけたり

今も迫害されている種族と和解する為に話し合う場所をもうけたりとか!

出来る事を少しずつでもやって行かなきゃ駄目だって話だよッ! 」


<――と、議論を白熱させていたら

ミリアさんも加わり――>


「おやおや、随分興奮してるじゃないかい主人公ちゃん。


しかし……“学校”を作りたいのかい?

随分と大きな事をやろうとしてるんだねぇ……勿論あたしは大賛成さね!


けど“一般的には”大反対さね……」


<――少し俯きがちにそう言ったミリアさん。


この、違和感のある態度に“何故か”とたずねると――>


「……勿論あたしもこのままで良いとは思ってないよ?

だけど……貴族共が協力的に成るとは思えないんだよ。


むしろ全力で邪魔してくる筈さ……そうしたらまた

主人公ちゃん達が危険な目に遭うんじゃないかと思うと心配なんだよ……」


「……成程。


差別が“有る方が”都合が良い人も居ますもんね……ですが!

なら、尚更作らなきゃですよ! 」


「全く、主人公ちゃんは頑固だねぇ……まあ良いさ

あたしは主人公ちゃんの考え方には賛成さね!

あたしに手伝える事なら何でも手伝うからいつでも言うんだよ? 」


「本当に、毎度ご迷惑お掛け……」


「かまやしないよ! ……っと、いらっしゃいエリシア! 」


「どもどもぉ~っ♪ っと主人公っち~……今いいかなぁ~? 」


「……どうしました? 」


「えっとねぇ~ラウドさんが呼んでるよぉ~? 」


「そうですか……丁度良いですね。


俺も提案したい事があったんで……行ってきますッ! 」


「いってらっしゃ~いっ! 」


………


……



「急に呼び建ててすまん、しかし急を要する用事でのぉ……」


「……何か有ったんですか? 」


「い、いや……相談事と言うか、のぉ……」


<――この瞬間、少し口籠ったラウドさん。


その事に違和感を感じつつも、話を聞いていると

とある“事件”が起きて居た事が判明した――>


………


……



「……今回、わしが大統領となった事や

魔族やスパイ共を皆の協力で打ち倒せた事

他種族からの協力など……良い事も多かったが

同時に、国の形が変わる程の出来事が短期間に起き過ぎたのも事実じゃ。


ゆえに、国家を正常に運営して行く上で

法整備やら何やらに遅れが出て居るのじゃが

元々った大臣達はいずれも愚かな考えにとらわれ

多大なる協力をしてくれたエルフ族やダークエルフ族をを含め

その他種族に対する差別的な考えを捨てきれず

何一つとして話が進まんかったのじゃよ。


それで、ついカッと成ってしもうてのぉ……その


……全員“クビ”にしてしもうたんじゃよ」


「え゛っ!? ……そ、それって不味いんじゃ……」


「すまん……じゃが一人として良案を出せず

御主が護ろうとしておるメル殿や

わしも懇意にしておるエルフ族やダークエルフ族に対し

悪意を持っておる様な者達が大臣では、いかん様な気がしたんじゃよ。


とは言え、全大臣を“クビ”にしてしもうた以上

国家運営を進めて行く事が難しくなったのもまた事実じゃ。


その、それでなのじゃが……


“大統領”と言う仕組みを発案した主人公殿にたずねれば

何か妙案を生み出してはくれぬ物かと思い呼び立てたのじゃが

この状況を打破する……何か良い案は無いじゃろうか? 」


<――と、ラウドさんはとても申し訳無さそうにはしていたが

要するに“完全に俺任せ”だ。


……だが、悪意が有って下した決断では無いし

そもそもラウドさんの言う様に、国家の運営にたずさわる者が

差別的考えを持って居ては現状の変更が難しいのもまた事実で――>


………


……



「……ぜ、全大臣クビは兎も角としても

法整備に遅れが有るのは良くないですね。


一つ質問なのですが

ラウドさん自身は他種族に対し、何か思う所は有りますか? 」


「……文献に乗っておるのが全て事実ならば


“有る! ”……と言うじゃろうが

あれには人間側の穿うがった解釈が多分に含まれておるんじゃよ。


実際の他種族達と長く交流して居るわしからすると違和感を感じる程じゃ。


故に、わしには何一つとして思う所は無いぞぃ?

……しかし、何故そんな質問をするのじゃね? 」


「その……クレインさん達と話していて分かったんですが

どうもこの国にける他種族に対する知識と

その事実に妙なへだたりが有る事を知りまして。


ですが、今の話を聞く限りだとラウドさんもご存知かと」


「うむ……恐らくは“大飢饉”辺りの話じゃろう?

本当に、ろくでも無い時代じゃった……」


「……やはりそうでしたか。


ですから、その間違った知識を正す為にも

ずは“義務教育”を行ってはどうか? ……と言う話を

つい先程ヴェルツでして居た所でして……」


「ほう……国民に義務として教育をすると言う事かね? 」


「ええ、平たく言えばそう言う事です」


「しかし……教育を受ける為には莫大な“学費”が掛かるのじゃよ?

全国民が学ぶのは不可能では無いじゃろうか? 」


「ええ……なのでそう成らない様、費用は国が持つんです。


今までの様に位の高い人間に“だけ”受けさせるのでは無く

種族の垣根かきね無く平等に教育を受けさせれば

子供達が大人になった時、お互いに良い関係性をきずける筈です。


一応は、子供達の為の教育機関として想定していましたが

大人でも希望する者や“事実無根の差別を行う者”にも

一度、正しい教育を受けさせるのが適切かと

勿論その為には新たな教科書を作る事も必要です。


……ただ、真実を知る人達に聞き取り調査をする必要があるので

いずれにしても時間と手間はそれなりに掛かりますが……」


「ふむ、国が費用をのぉ……確かに

それならば誰でも教育を受ける事が出来るじゃろう。


しかし、どちらにしろ予算は課題じゃな……


……他に何か案があれば教えて貰えるじゃろうか? 」


「では……他種族側からの人間に対する悪感情を無くす為

一度、各種族の長達をお呼びして話し合いの場を設けるのが良いかと。


間違った知識に起因する差別や誤解がまかり通る現状は改善し

種族間の無駄な争いを早急に止めさせる。


そうしないと、つまらない争いの最中さなか

折角新たな形で歩み始めたこの国が

いとも簡単に他国や魔族に足元をすくわれてしまうかも知れない。


……そもそも、今回の騒動が解決出来たのも

単純に“運が良かっただけ”だと思いますし

今後、もし他種族の協力が得られず孤軍奮闘と成ってしまった場合

いまだ再建中の魔導隊だけでは、この国を護れない可能性が高い。


それに……大臣達を全員クビにした以上

早急に新たな大臣が欲しい所ですが……後々、その役目を

各種族の長に任せるのも良いのではと考えていたりも……勿論

最終判断はラウドさんにお任せしますけど……」


「ふむ……どの案も魅力的じゃ。


全て実行するとして一つ相談があるのじゃが

主人公殿も国政にたずさわって貰えんじゃろうか? 」


「えっ?! ……お、俺ですか!?

俺は学も有りませんし、他に優秀な方は沢山……」


「何を言うか……それだけの案を出せる者が他に居らんと言ったじゃろう?

それに、主人公殿が指揮をってくれればまとまる話もある。


なにせ、主人公殿は“トライスター”じゃからのぉ? 」


「……で、ですがッ!

そうなると今度は、俺の所為でこの国が傾くかもしれない。


そんなの荷が重過ぎますよッ!! 」


「主人公殿……大いなる力には、大いなる責任が宿るのじゃよ? 」


「そ、それは分かりますけどッ! ……」


「ううむ……あまりこう言う誘い方をするのは良く無いのじゃろうが

えて卑怯な事を言うぞい? ……主人公殿。


……もし仮に貴族が実権を握ってしまえば

この国は御主が最もみ嫌う形へと変貌をげるじゃろう

そしてその時、主人公殿が“大切に思う者達”は

真っ先に切り捨てられる事になる。


そうさせぬ為にどうすれば良いか……主人公殿ならば分かる筈じゃよ」


「ほ……本当に卑怯な事を言いますね。


でも、確かにその通りだとも思います……分かりました。


その代わり、メルちゃんとマリアにも何かしらの役職をつけて

側に居させて頂ければと思います。


……正直、例の一件から

“二度と二人と離れたく無い”って気持ちが強いんです。


こんなのただ我儘わがままだとは思いますが

それでも良ければ……是非協力をさせてください」


「その程度なら容易たやすい事じゃよ……任せるが良いぞぃ!

さて……そうと決まれば主人公殿には

先ほどクビにした大臣達の役職をいくつか受け持って貰おうかのぉ? 」


「はい! ……って、今“いくつか”って言いましたよね?!

念の為確認しておきますけど、それって……」


「そうじゃのう……教育と外交と法務大臣と言った所が適切じゃろうて」


「や、役職を三つ?! ……過労死させるつもりですか?! 」


「大いなる力には“以下略”……じゃ」


「いや、以下略じゃなぁぁぁぃ! ……ってか

“自由なトライスター”と言いつつ

とんでもなく不自由な役職を押し付けてるじゃないですかッ!!! 」


「うむ……それも全て“ぱふぱふの恨み”じゃ!!

と、言うのは……冗談じゃよ? 」


「いや……ほとんど本気に聞こえましたけど? 」


「いやいや、本当に冗談じゃよ?

さて、話を戻すが……マリア殿とメル殿については

主人公殿の秘書を担当して貰うのが良いじゃろう」


「そ、其処は有難うございます……って。


よく考えたら“事後報告”だと怒られそうなんですけど……どうしましょう? 」


「それは……“怒られてくる”と良いのでは無いかのぉ?

それと、国の名前じゃが……もはや“王”など居らぬ訳じゃし

“王国”でも無い訳じゃが……其処にも何か良い案は無いじゃろうか? 」


「国の名前ですか? ……う~ん。


……あっ!!

地味かもしれませんが……政府の正しき政令にって

民草へ豊かな生活をもたらすって意味を込めて……


……“政令国家”と言うのはどうですかね? 」


「ほう、政令国家とな……“精霊”と音が一緒で響きが良いのぉ!


では、それで決まりじゃ! ……さて、そうなれば

主人公殿はず、二人に役職の説明をした方が良いかもしれんのぉ」


「ええ、急いで伝えてきます!

では失礼して……転移の魔導、ヴェルツ前へ! 」


………


……



《――唐突な人事に狼狽えていた主人公。


一方、ヴェルツでも主人公かれの話で盛り上がっており――》


「……しかしガーベラよ、主人公は不思議な男だ

良くもあの様に次々と不思議な事を思い付く物だと思わぬか? 」


「そうね……私達を助けた時だって

“裁き”と言いながら“回復”をしてしまう位ですもの……


……あまり他人を褒めないアルフレッドが彼の事は褒めていた程ですから」


《――共に主人公を褒め称えていたオルガとガーベラ。


そして、そんな二人を見ていたクレインも彼を褒め称え始め――》


「……噂話を知らなかったとは言え

彼は、ダークエルフである私をただの一度も怖がりすらしなかった。


あの様な人間ばかりなら、差別などあっという間に無くなるだろう……」


「あのっ! ……それに、私とお母さんまで助けてくれました!

その時……私の事を可愛いって……はぅぅぅ……」


《――思い切って会話に参加したメルだったが

当時の事を思い出し、頬を真っ赤に染めて居た……一方

そんなメルの隣に居たマリアは主人公の帰りの遅さにしびれを切らして居て――》


「それにしても……主人公さん、ラウドさんと何の話してるんでしょうね?

またこの間の“ぱふぱふ”についてだったりして~? 」


《――など悪態をついて居た。


だが、次の瞬間――》


「ヘックションッ!!! ……風邪引いたかな?

っと……ただいまッ! 」


「……うわぁっ?! って、噂をすれば主人公さん!? 」


「へっ? ……俺の噂? どんな話をしてたんだ? マリア。


ってそんな事より……帰って早々で申し訳無いんだけど

メルちゃんもマリアも……今日から俺の“秘書”に成った。


……俺は俺で“教育・外交・法務大臣”を兼任って事に成っちゃった。


って事でその……よ、宜しく! 」


「……え? 」


「へっ? ……」


《――直後

皆にラウド大統領と話し合った内容を全て伝えた主人公。


以外にも“事後報告”な役職を好意的に受け入れたメルとマリア

そして、この場にいる者達は皆主人公の大臣就任を歓迎した。


だが、ミリアだけは少し淋しげで――》


………


……



「……と言う事は、ウチの宿を出るのかい? 」


「へっ? ……い、いえ

出来ればこのまま此処に居させて頂きたいんですが……ご迷惑ですかね? 」


「迷惑な訳無いじゃないかい!

これからも居てくれるってんならあたしも嬉しいし

店にはくが付くってもんさ!


……“大臣様御用達”って宣伝しても良いかい? 」


「勿論ですよ! ……ミリアさんの為なら喜んでお手伝いしますから

何なりとおっしゃってください!


あ、でも“薪割り”は無理です……すみません」


「ふふっ……ありがとね!


……さてあたしは仕事に戻るよ! 」


《――そう言い残し

上機嫌で鼻歌交じりに厨房へと戻って行ったミリア――》


………


……



「何だかミリアさん上機嫌だったな……っと。


さて……オルガ族長、クレイン族長

お二人に折り入ってお話があります」


「ん? ……何だ主人公、いきなり改まって」


「……何かね? 」


「その……お二人に今後、話し合いの席について頂きたいのです。


勿論、お二人の他にも人以外の種族の長には

出来るだけ多く話し合いに参加して頂きたいと思っています。


それは、この国家をおおう差別や迫害を早急に排除し

種族間の協力関係を強固な物にする為……そして

全種族が幸せに暮らせる国家を目指す為なのです」


「成程……私達にその協力をしろと言う事か。


私はそれで構わんが……クレインはどうだ? 」


「ああ、協力させて貰おう……他でも無い主人公君の頼みだ」


「お二人共……こころよい返事が頂けて良かったです!

そうなると、後は他の種族への声掛けなんですが……難しいんですよね」


「オークやドワーフ、獣人族辺りへの声掛けか……確かに面倒だろうな」


「……ええ、クレインさんのおっしゃる通りです

その……連絡手段すら分からなくて」


「やはりな……連絡手段もだろうが、そもそも種族別に対応が難しい」


「それは……詳しく教えて頂いても? 」


「……ず、オークは王国側が追い出した存在だからな

それを“信用してくれ”と言う事自体が難しいだろう。


次に、ドワーフはそもそも我々エルフ系種族と気が合わず

人間相手でギリギリといった所だろうが

それも微妙な関係性だ……どちらとも言えない。


獣人は……そもそも居住場所が一定では無い。


それ故、見つけ出す事自体が困難なのだよ」


「な、成程……」


<――クレインさんからの情報に頭を抱えていた俺。


だが、そんな中エリシアさんが――


“獣人の族長はめっちゃ友達だぜぃ~! ”


――と、緊密な関係性を既に構築済みである事を教えてくれた。


だが――>


「えっ、本当ですか?!

で、でしたら……話し合いの席にお招きする事は出来ませんか? 」


「う~ん、呼べない事も無いけどぉ~……あまり意味が無いかも~? 」


「それは……何故に? 」


「えっと~……基本的に自由に過ごす種族だし

国に“忠誠を誓う”とかしないだろうし~?


言う程彼らは迫害もされてないし~

されてたとしても本人達は気にもしてないからね~」


「成程、無関心ですか……最も対応に困る相手ですね。


……彼らは中立的ですか? 」


「どちらかと言うと友好的かなぁ~? 」


「そうですか……それならお声掛け程度で

“気が向いた時お越し頂ければ幸いです”……とお伝え下さい」


「了解ぃ~任せてねぇ~っ! 」


「そうなれば……あとはドワーフとオークですか」


<――と、対処法を考えていると

オーク族への対処と、その秘策を教えてくれたクレインさん――>


………


……



「……オークは此処から少し離れた場所に住んでいるが

一人で行くには少々危険な場所だ。


……奴らには奴らのルールが有る

機嫌をそこねれば、最悪の場合死が待つだろう。


当然、何かしらの貢物みつぎものを持っていく事が必要だが

オーク共の好む食材といえば、確か“葡萄酒”と“ラム肉”だった様に思う」


「成程……交渉に行く以上、ある程度の準備が必要そうですね。


ただ、人数が多いと警戒させ怒らせてしまう可能性もあると」


「ああ……少な過ぎても危険だがね。


ただし……メル君は必ず連れて行くべきだと思うが」


「へっ? ……何故私なんですか? 」


「……君にはオークの血も流れているだろう?

そこを、種族間の架け橋にたとえる。


……と言うのも、一つの手かと思っただけだ」


「成程……でも、彼らがメルちゃんに対し

批判的な態度を取ってくる可能性もありませんか? 」


「無いとは言い切れない……だが、もしそうなった場合

主人公君……君は我慢出来ると言い切れるかな? 」


「……無理ですね、考えただけでも怒りが込み上げて来ます」


「そうか……それならば、連れて行くべきでは無い」


「で……でもっ!

私が役に立つ可能性が少しでもあるなら……私、我慢出来ますからっ!

主人公さん……お願いですから我慢して下さいね? 」


「でもメルちゃんが……」


「大丈夫です! ……私は

主人公さんのお役に立てるなら大丈夫ですから! 」


「分かった……メルちゃんを必ず護ると誓うよ」


「はっ、はい! ……」


「ゴホンッ! ……“良い雰囲気”の所申し訳ないが

オークも獣人も上手くまとめたとして……


……ドワーフはどうするのかね? 」


<――クレインさんがそう言ったと同時に

オルガさんも“其処が問題だな”……と言った。


俺は何の気無しに


“そんなに気が合わないんですか? ”


と、たずねただけなのだが――>


………


……



「……合わないどころの騒ぎではない!


これはかなり昔の話ではあるが……奴らは我々に対し

“ナヨナヨ”だの“気取り屋”だのといちいち突っかかり

それで毎回言い争いになって居た。


恐らく、今でもそれは変わらないだろう……」


「ああ、オルガの言う通りだ。


それに腹を立てた此方が、奴らの“身長”を少しでもけなそう物ならば

本気で武器を持ち出し攻撃してくるから手に負えん。


種族間の関係性を構築しようとしている主人公君には悪いが

奴らは野蛮で礼儀の一つも有りはしない種族だ……」


<――いつも冷静なクレインさんですら怒りをあらわにする程

反りの合わない両種族……だが。


転生前、良くやって居たゲームに出てくる種族達も似た様な争いをして居たし

それを解決する為のクエストみたいな物があった事を思い出した俺は――>


「……成程、お互いにある意味では認めてて

羨ましい部分があるのかもしれませんね……」


<――と言った。


だが、この瞬間から二人はこれ以上無い程に“いかり”――>


「……何を言う主人公!!

あんな種族に羨む部分など微塵も無い!! 」


「ああ、オルガに同意する……そもそも

いくら主人公君でもその発言は頂けない。


……悪い事は言わない、撤回して貰おう」


<――今にも袋叩きにされそうな程に詰め寄られていた俺。


だが、それでも――>


「……い、いえッ!!


し、正直……今、お二人が信じられない位怖くて震えてますが

それでも撤回は……しっ、しませんッ!

お、俺の事を“袋叩き”にする前に……一度俺の話を聞いてから

それから……判断をして欲しいんですッ!


その……あくまで俺の予想では有りますが

ドワーフ族に武具や防具を作らせたら天下一品の仕上がりでは? 」


<――恐る恐るそうたずねた俺。


すると、鼻息を荒らげていたオルガさんは――>


「認めたくは無いが……確かに、奴らの武器は物が良い。


だが……それだけだっ! 」


<――と、一定の評価はしている事を認めてくれた。


これを好機と見た俺は、すかさず次の質問を繰り出した――>


………


……



「……では、エルフの女性ですが

音楽……特に歌声などの方面で才能に長けている方がとても多い。


……間違っていますか? 」


「何? ……良く知っているな。


エルフ族の女達の歌声とハープの音色は

治癒魔導にもまさる程の癒やしの効果があるのは事実だ……」


「……やはりそうですか。


では……次にクレインさん、ダークエルフ族についてですが

性能の良い薬を作る事がどの種族よりも得意ですよね? 」


「それは確かにそうだが……何故知っている? 」


「あ、いや、その……け、警戒しないでください!

全種族の良い所を羅列してみただけですから!

そっ、それで続きですけど……


……それぞれの種族が、自らの種族と技術に誇りを持っているにも関わらず

毎回喧嘩に成る時と言えば、お互いの長所を認めず

毎回、お互いにけなけなされる様な流れに成ってませんか? 」


<――そうたずねた瞬間

二人が“何故分かる? ”と“ハモった”ので――>


「そんなの……見なくても分かりますよ。


それぞれが優秀なのに何故か分かり合えない理由は

皆さんの使用する武器を見れば明らかですから」


「何? ……どう言う事だ? 主人公」


「ええ……ずはオルガさん率いるエルフ族ですが

魔導適正が高く長寿の筈です……それから

基本的に弓が得意な種族かと思います。


対してクレインさん率いるダークエルフ族は

闇に隠れるのが得意な方が多く、暗器や毒使いが多いのでは?


……合っていますでしょうか? 」


<――この問いに驚いた様な表情を浮かべつつも

静かにうなずいた二人に対し、更に続けた――>


「恐らくですが、オーク族は棍棒の様な武器が得意でしょうし

ドワーフは斧やハンマーなどで、それらは全て

みずからで作った高品質な物の筈です。


ですから……」


<――と、続きを話そうとしていた俺を制止すると

いぶかしんだ様な表情のまま――>


「……待て主人公。


私やクレインは兎も角として、何故会った事の無い種族の武器や

その戦い方まで言い当てる事が出来た? 」


「その通りだ……主人公君、君は私達に何かを隠しているね? 」


<――不味い。


今此処で俺が“転生者”だと伝えるのは色々と不味い。


だが、隠し通すのも難しいと思った俺は

僅かにこの質問への返答をにごしつつ

本命の“ある質問”をした――>


「……この件はいずれお話しますから、今は目をつぶってください。


と、取り敢えず……此処まで聞いて

お二人は何かお気づきに成られませんでしたか? 」


<――この問いに対し


“奴らは共に近接戦闘だな”……とオルガさんが言うと

“ああ、逆に此方は遠距離戦闘だ”……と

俺が何かを言う前に“争いの原因”に気付いた様子の二人。


そんな二人を説得する為、更に続けた――>


「……その通りです! どちらも優秀な攻撃ではありますが

近接攻撃の種族からすると肉体を敵にさらさず

遠くから攻撃する御二方の戦い方は臆病に見えてしまい

逆に、遠距離からの卓越した技術で戦う御二方の種族からすると

近距離の攻撃はリスクが高く泥臭い戦いにしか見えない。


これで協力もしないのですから、けなし合いに成って当然

何時まで経っても協力関係には成れない……なので

お二人にも話し合いの席について頂きたい訳なんです」


「……オルガよ。


この話をそのまま、奴らに聞かせるべきだとは思わないか? 」


「そうだな……主人公よ、私達も交渉に同行しても良いか?

今の話を聞いた後ならば、奴らがどの様な罵声を浴びせて来たとしても

冷静に話が出来ると言う物だ! 」


「……お二人が付いて来て下さるならこれ以上安心な事は有りませんよ!

そうと決まれば……早速オーク族の居住地へ交渉に向かいたいのですが

その前にラウドさんに細かい報告を済ませたいので

お二人とメルちゃんも、一度ラウドさんの元へ行きましょう! 」


「って……私は連れて行って貰えないんですか? 」


「ああ、えてマリアには残って居て貰いたいんだ。


あまり大人数で動くと相手に警戒されてしまうし

ましてや交渉先は物理職の者ばかりだ。


しかも彼らは魔導師を“下に見ている”……そんな相手だからこそ

えて魔導師な俺達だけで訪れてみたいんだ。


だから、気に入らないかもしれないけど……留守番、頼んでも良いかな? 」


「そう言う事なら……分かりました!

此処ヴェルツでのんびりしておきますね~」


「ああ頼む、では……転移の魔導、大統領執務室へ! 」


………


……



《――ラウド大統領に報告をする為、執務室へと転移した一行。


到着早々主人公は、各種族の長との交渉を円滑に進める為

オーク族に対する“貢物みつぎもの”の他

一行が移動する際に使用する馬車に

この国でも最上級の馬車を用意する様ラウド大統領に要求した――》


「……勿論、全て手配するが

何故、立派な馬車が必要なのじゃね?

相手種族から“嫌味な態度だ”と取られるのでは無いじゃろうか? 」


「いえ……もしも交渉が上手く行き

相手の種族長を我が国にお迎えすると成った場合

安い馬車だと失礼に当たるかと思いまして……」


「ふむ、ならば国王用……もとい、大統領用を使えば良いぞぃ! 」


「えっ? ……宜しいのですか? 」


「なぁに、主人公殿とわしの仲じゃからのぉ~! ……期待の現れなのじゃよ!

それに……立場上、丁寧が過ぎる程の敬語を使い続けておる

主人公殿も見ていて面白いからのぉ? 」


「は、恥ずかしい所を付いてきますね……ですが助かります!


では……行ってきますッ! 」


「うむ! ……皆も気をつけてのぉ! 」


《――こうして

各種族との崩れた関係性を再構築させる為

早速“三大臣兼任”の役目を果たし始めた主人公。


だが……果たして彼の体力は持つのだろうか?

そして、彼の生活に“楽勝”と言う二文字が似合う様に成るのは

果たして何時に成るのだろうか――》


===第十五話・終===

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