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第十四話「異世界政治って楽勝だと思ってました。」

《――魔族にる同時襲撃から数週程が経った頃

王国では――


“国王の不在”


“魔族及び、帝国人の潜入問題”


“魔導隊団長ミネルバの死去”


――と言う悲劇の連続にり、いまだ民衆の感情は落ち込み

普段なら活気にあふれて居る筈の飲み屋ヴェルツですら

閑散かんさんとして居た――》


………


……



「皆、呑みにも来ないし……本当に困った物さね」


「そうですね……でも、あまりにもショックな事が多過ぎましたから……」


<――閑散かんさんとした店内でミリアさんとそんな事を話していた俺。


国王の不在と言う一大事……そして

そんな国家の一大事だと言うのに、このじょうじる為か

貴族達の権力闘争は活発化の一途を辿って居た。


その上……魔導隊の戦力も大きく失われた上

民衆は“隣人すら裏切り者なのでは……魔族なのでは”


と、疑心暗鬼におちい

街行く人達の表情は皆、暗くしずんで居た。


何か、良い解決策は無いのだろうか――>


「大体……貴族達はこの国難だと言うのに

国民を煽動せんどうして自分達が得する事しか考えてない。


こんな有様じゃ……この国は崩壊しちまうよ! 」


<――ミリアさんの言う通りだ。


確かに貴族達の“権力闘争”は目に余るレベルで

それを発端とする事件もちらほらと起き始めて居るらしい。


だが……何よりの原因は、恐らく

俺がこの世界を“中世の様な雰囲気”に設定した事だろう。


……勿論、言い逃れするつもりはないが

こんなに酷い状況に成るのが分かっていたなら

もっと現代に近い考え方に成る様に設定して居ただろうし

自分勝手かもしれないが、今になって猛烈に後悔もしている。


だが……そんな事を考えていた俺に対し

突如として突拍子も無い提案をして来たマリア――>


………


……



「あの、一つ思いついちゃったんですけど。


思い切ってですね、主人公さんが

“国王”に成ったら良いんじゃないですか? 」


「えっ? ……いや、そんなの国民が許さないよ。


それに俺はそんな器じゃないし……てか

国王には“跡継あとつぎ”とか居なかったのかな? 」


「……あたしは主人公ちゃんが王様でも良いと思うよ?

それと……王に子供は居ない筈さね。


女王様もご病気で数年前に死去

今回の事で王の血筋は完全に途絶えちまったんだ。


にも関わらず、国政に関わる事の出来る人間が

“自己保身の固まり”ばかりとは困ったモンさね……


……国民の皆を幸せにする事が出来る様な王を

どうすれば見つけられるんだろうねぇ……」


<――と、悲しげに語ったミリアさん。


この後も、解決の糸口さえ見えない状況に苦悩していた俺達。


だが、そんな俺達の元にクレインさんが現れた――>


………


……



「皆、何を悩んでいる? ……もしやとは思うが、また国王の話か? 」


「ええ……せめて国の長だけでも決めて

国が停滞している現状を打破しないと、他国や魔族が攻めて来た場合

間違い無くこの国は飲み込まれてしまいますし

その時一番最初に傷つくのは、弱い立場である民衆です。


だからこそ……一刻も早く正常な国家運営をさせる為


“早く国王の代わりを! ” ……と、願っては居るんですが

偉い人と言えば貴族位ですし、ミリアさんもおっしゃってましたが

全員“自己保身の固まり”ですから……いっその事

“大統領制”にでも成ったら簡単なのにと考えはしたんですけど

“王国”って名乗ってる以上、それも難し……」


「主人公君……“大統領制”とは何だ? 」


「えっと、大統領制は――


“国民なら誰しもが国の長に成れる可能性の有る制度”


――って言うのが一番分かりやすい説明かもしれませんね」


「何? ……“生まれ”や“育ち”も関係無いと言うのかね?

だが、それならば一体どうやって選ぶんだね? 」


「それは国民の投票で選ぶのですが……


……そもそも、成りたい者が全員立候補すると大変なので

先ずは国民の信頼が厚い方を数名擁立し

立候補して頂いた方々の誰かに国民全員で投票して頂き

一番多い得票数の方が大統領……つまり

国をおさめる“大統領”となる訳です」


「成程……それならば国民の為に成る人材が選ばれやすい。

だがそうなれば……私も案を出して構わないかね? 」


「ええ……どの様な案でも! 」


「……ミネルバき今、国民の信頼が厚い者と言えば

エリシア、ラウド、カイエルの三名かと思う。


成ればこそ、この三名を擁立し国民投票で選ばせるのはどうだ? 」


「おぉ! ……とても良い人選ですね!

……それで行きましょう!

では、早速三人にお声がけしてみます!


魔導通信……エリシアさん、ラウドさん、カイエルさん。

折り入って相談が有ります! ――」


………


……



「……いきなり何だい主人公っち?

私がおっけ~した所で国民が認めないと思うよ~?

そもそも私は王の血縁じゃないしぃ~? 」


「わしも同じく血縁ではないぞぃ?

しかし……やぶから棒に何じゃね? 」


「そうですな……そもそも

私は魔導隊を立て直す為の職務で手一杯なのだが……」


《――と、三者三様な理由で自らが適役では無いと口にした者達


だが、主人公は――》


「えっと……取り敢えず詳しい話をしたいので

何れにしてもヴェルツに集まって下さいね! ……ではっ! 」


《――そう伝えると、半ば強引に魔導通信を終了した主人公。


暫くの後……彼に強引に誘われてしまった三名は

渋々と言った様子でヴェルツへと現れ――》


………


……



「……全く、年寄としより使いが荒いのぉ~主人公殿」


「そうだよぉ~? ……“美女”使いが荒いよ~っ? 」


「一応来てはみたが……私に国王など務まる訳が無い。


そもそも血筋が……」


「いえ……皆さんの血筋は関係ありません。


それよりも……強引なお呼び立てをしてしまい申し訳有りません

ですが、先ずは俺の説明を聞いて下さい。


……反対するのはそれからでも遅くは無い筈です」


《――直後、三人に対し大統領制の詳細な説明と

“彼らで無ければ成らない理由”を、誠心誠意説明した主人公――》


………


……



「成程のぉ……じゃが、皆が立候補出来るのであれば

当然、貴族連中も立候補出来るのじゃろう? 」


「ええ……問題でしょうか? 」


「問題じゃよ! ……貴族の中には

土地や建物を民に貸し付けている者も居るのじゃぞぃ?


もしもそれを盾に民を脅し“得票数を有利に”

画策かくさくする者が現れでもした場合……」


「ええ、ラウドさんのおっしゃられる様な事も考えて居ない訳では有りません。


ですが……それを逆手に取る事も十分可能なんです」


「ほう? ……一体どうするつもりじゃね? 」


おっしゃられた様な方法で行ってくるであろう脅しを

代表演説の場で“えて”取り上げるんです。


そして――


“私達ならばその様な事を法律で禁止します”


――と、言い切ってしまえば民衆は皆さんにしか投票しませんし

本当にそう言う行為をしてしまう者達を罰する権利すら

皆さん自身が持つ事も出来るんです」


「成程ぉ~っ! 主人公っちは中々の策士だねぇ~♪

確かにそれなら私達に投票する民が大半に成るかも~っ? 」


<――と、ラウドさんとエリシアさんの二人を説得した俺だったが

残るカイエルさんはいまだ難色を示して居て――>


………


……



「確かに……だが、君が提案した内容“自体”に貴族が反対し

妨害行為を行う可能性もある……その上、貴族は国防にも絡む存在だ。


妨害の方法は何も一つとは限らず、それらが引き金と成り

更なる国難を引き起こす可能性もある。


やはり……君の案は実現不可能では無いだろうか? 」


「それも分かります……ですが、マイナスを考え続けても解決はしません。


一応……やるだけやってみませんか?

大体、このまま俺達が動かず悩んでる内に

悪い人間が長に成ったらこの国は本当の終わりを迎えかねません。


この際はっきり言いますが――


――俺は、今この場にいる皆さん以上の適任者を知りません」


<――心の底から思っていた事を口にした俺。


すると――>


「もぉ~っ♪ 主人公っちったら~♪


……嬉しい事言ってくれるじゃ~んっ♪

よぉ~し♪ ……嬉しいついでに協力しよっかな♪ 」


「そ、そんな簡単に……とは言え

主人公君の言う理論も一理あるとは分かっている。


仕方無い……魔導隊の再建にも役立つ可能性はあるのだ

此処ここは私も協力させて頂こう。


それに、武力に起因する妨害への対処ならば

多少は“腕に覚えがある”からね」


「うむ、主人公殿の考えは正当じゃ……わしも協力するぞぃ! 」


「エリシアさん、カイエルさん、ラウドさん……有難うございますッ!

皆でこの国を立て直しましょう! ……」


《――この日


主人公かれの発案した“大統領制”

その第一歩となる人選は完了させた彼らは……ヴェルツでの話し合い直後

直ぐに城へと転移し、貴族達に一切の準備期間をあたえず

突如として“大統領選挙”をおこなう事を発表したのだった――》


………


……



「……正直、凄く汚いやり方ですけど

今から貴族連中が策をった所で国民感情を変えるのは難しいでしょう。


さてと……ラウドさん、伝達魔導で国民の呼び出しをお願い出来ますか? 」


「うむ、承知した……しかし。


なかなか主人公殿も……悪よのぉ? 」


「ちょ!? ……そんな“テンプレ悪代官”みたいに言わないで下さいよ! 」


「テンプ……レ?

意味が分からんが、兎に角……国民達を呼び出すぞぃ!


伝達の魔導、魔導拡声メガホン――」


………


……



「……国民の皆よ。


国王き後、皆落ち込んでおると思う……しかし

このままでは国が立ち行かなくなる恐れもある。


其処で……本日、新しい形の統治者“大統領”を決める選挙を行おうと思う。


この選挙は、国民の一人一人が投票権を持ち

国民は自らが信頼に足る者へと投票をする。


……そうして得票数の最も多かった者に

王国の新たな長として“大統領”と呼ばれる立場を……」


<――ラウドさんの呼び掛けから暫くの後

その物珍しさも含めてか、民衆は直ぐに演説場に集まった。


無論、大方の予想通り

代表的な貴族家の当主ほぼ全員が立候補する事態とも成ったのだが……


……びっくりする位、全員が“悪人面”過ぎて驚いた。


ともあれ……俺は進行役として

出来る限り公平な立場をつとめる事と成った。


だが――>


………


……



「では、各立候補者の皆様は国民に対し

ち時間ニ分以内でご自分が大統領に成った際の利点……


……つまり“政策”を御説明して頂きます。


では、最初の方……どうぞ」


<――そううながした瞬間に始まった貴族達の演説……だが。


その内容には正直“引いた”――>


………


……



「オッホンッ!! ……私が大統領に成った暁には

私の所有する借家に住んでいる者達の家賃を一〇パーセント値引いてやろう!


以上だ! ……」


………


……



「私が大統領に成った暁には……奴隷を安く売ってやろう!

一〇パーセントなどとケチくさい事は言わんぞ?

何と“一五パーセント”だ! 」


………


……



「私が大統領に……」


<――最後のに至っては聞く価値も無いレベルだった。


まぁ、大方の予想通り貴族達の演説はどれも自分本位な物でしか無く

民衆が不信感を持つ様な物ばかりで

この場に集まった民衆の表情は曇りに曇っていた。


とは言え……貴族達にはそんな様子など“見えて居なかった”みたいだが。


まぁ、そんなこんなでエリシアさんの番に成った訳だが――>


………


……



「……エリシアだよぉ~!

私が大統領に成ったら薬草はタダにするよぉ~?

でも“どうやって? ”……って思うでしょ~?


その方法はねぇ~ ……私が取ってくるから任せろ~っ!

あとね……ギルドの依頼の報酬をチョット増やしてあげる~っ!


……以上っ! 」


<――エリシアさんの演説では民衆から笑いが起きた。


確かに、国の長としてはいささか問題の有る演説だったが

少なくとも、貴族達よりは印象が良かった様に見えた。


ともあれ、次はカイエルさんの番だ――>


………


……



「……私が大統領に成るなど

国民の皆にとって利益に成るとは思えません。


……ですが、もしも選出されたあかつきには

国防力を強化する為の軍の再編を行い、強靭な国家を目指します。


……以上です」


<――カイエルさんの演説は流石の真面目さで

国防と言う、現在最も考えるべき事柄に触れていた事もあり

国民からの支持も堅かった。


……いよいよ、残す所最後の演説と成ったラウドさん。


だが、俺は正直……ラウドさんの演説に


驚愕きょうがくした――>


………


……



「ううむ……わしが大統領に成った場合じゃが。


……仕事の無い者に出来る限り仕事を与える事が出来る様

各自の得意分野を見極めるギルドの“魔導石版”の様に

得意な仕事へと振り分ける事を目指したいと思っておる。


今までの階級社会にる一方的な割り振りでは

どうにも間違って居る様に思えるのじゃよ。


無論、国民の皆を不当に苦しめる者が居れば法で禁じ

家の無い者達には皆で暮らせる場所を提供しよう。


……いらぬ“差別”がまかり通って居る事もそれに当たると考えておる。


とは言え……全てを直ぐに実現出来るとは思っておらん。


じゃが、出来る努力は全て行い

国民の皆が笑顔で暮らせる様、老体に鞭打ち挑もうと思っておるぞぃ?


以上じゃ……」


<――ラウドさんの演説中

民衆は皆静まり返り……発せられる言葉の一つ一つに真剣に耳を傾けていた。


そして、演説が終わった時には

民達から割れんばかりの大拍手が送られたのだった。


“出来る限り公平な立場で居る”様意識していた筈の

俺すら思わず拍手をして居た位だ。


だが……これで決定と言わんばかりの状況で全員の演説が終わったその時

ある“問題”が発生した――>


………


……



「……皆様、有難うございましたッ!


では、早速ですが投票を行いたいと思い……」


<――俺がそう言い掛けた瞬間

明らかに“分が悪い”事を察した貴族達は

この選挙自体を拒否し始めたのだ――>


………


……



「ふ……ふざけるな!

国民を甘やかす様な事ばかりをかたれば

票など幾らでも入るではないか! 」


「……ああ、私もその意見に同意する!!

この様なふざけた選挙は無効だ! 第一……貴様、主人公と言ったか?

いくら我が国で二人目のトライスターであるからと言って

平民風情が政治に関わるなど言語道断だ!

即刻この場から……」


<――つい先程

俺はラウドさんから“テンプレ悪代官”呼ばわりされた訳だが

俺には此奴コイツらの方が余程“テンプレ悪代官”だと思えた。


まぁ、だからって訳じゃないが……いや、本当はそうだが

俺は、こいつらの話を遮ると国民に多数決を取り

選挙自体を行うかどうかをたずねた。


……結果は言うまでも無く

国民のほぼ全員が賛成だった――>


………


……



「やはり……賛成多数ですね。


では、国王城エントランスホールに投票箱を用意致します。


門の入り口で投票用紙をお渡ししますので

国の運営を任せたいと思った方の名前を書き、投票用紙を投入してください。


集計の後、結果を発表し即時大統領を決定します。


……それでは皆様ッ!

前にいる方から順番に並んで頂き、投票を……」


<――と、半ば強引に進行する俺に対し

一人の貴族が激昂げきこうせまって来た――>


「おい待て! ふざけるな貴様ッ! ……誰が投票を許すと言ったッ?! 」


<――だが、あまりのクドさに苛立いらだちを覚えた俺は

尚も激昂し続けて居た貴族の耳元でこうささやいた。


“そんな恐ろしい態度では国民に投票して頂けなく成ります。


少しでも愛想を振りまいておけば

もしかしたら貴方が大統領に成れるかもしれませんよ? ”……と。


すると――>


………


……



「こ……国民達よ! 必ず私に投票するのだぞ!

投票したら……褒めてやろう! 」


<――りにもってそうのたまった。


勿論、その貴族の前を通る国民達は

貴族達に対し苦笑いをしつつ投票場所へと向かって行った。


ともあれ……それから数時間後、最後の投票が終わり

国民達に開票作業を行う旨を伝えた。


そして……貴族からの指摘も入った事で、不正が無い事を証明する為

“国民の監視が有る中”での開票作業を行う事に決定したのだが――>


「それにしても……大統領って面白い仕組みですね?

その……どうやって考えたんですか? 」


<――投票箱を開けようとしていた俺の元に近づき

こっそりとそうたずねて来たメルちゃん。


だが、元を正せば俺が考えた訳でも無いので――>


「えっ?! いやその、苦肉の策と言うか~……アハハ」


<――と、完全な愛想笑いで誤魔化したのだった。


だが、そんな俺の事すらも――


“そうなんですね……主人公さんはやっぱり凄いですっ! ”


――と、褒めてくれる彼女の純粋さに少し申し訳無さを感じて居た俺。


そして、少しでもお返しをするつもりで――>


「……あ、ありがとうメルちゃん!

てか、投票箱の前でずっと対応してたから疲れたでしょ?

少し休んでて良いよ? ……ってそうだ!

一度エルフの村辺りから交代人員を頼もうか? 」


<――と、気を遣ったのだが


“皆さんの前で開票しないとですから

一人でも人が多い方が良いと思いますっ! ”


と言う正論に何も言えず――>


「あ~……国民の前で開票作業は良いけど

投票枚数の事までは考えてなかったな、俺……」

(よく考えたら、投票率一〇〇パーセントって凄い事だよな……)


<――と頭を抱える羽目に成って居た俺の横に

そーっと近づき――>


「確かに凄い量ですけど~……そもそもそんなの

主人公さんお得意の魔導技で何とか成らないんですか? 」


<――と魔導を

とある“青いロボットのポケット”のごとくに言ったマリア。


当然、そんな便利な技など無いと考えていた俺はこれに反論していたのだが――>


「へっ? あるよぉ~? 」


<――直後、そう声を掛けて来てくれたエリシアさん。


だが――


“でも……その技を私が教えたら、私が勝ちだった時に

インチキしたみたいにならない? ”


――と

万が一にも不正を疑われる可能性を口にしたエリシアさんに対し――>


「いえ、エリシアさんはそんな卑怯者ではないと思います」


<――ときっぱり伝えた瞬間

エリシアさんは何時に無く超絶ハイテンションで――>


「……わぁ信頼されてるぅ~♪

嬉しい~っ!! ……じゃあ教えてあげるぅ~♪


……復元の魔導、暗号神エニグマって唱えると~

種類別に整列して同じ数の束で並ぶと思うからっ♪


じゃ、頑張ってねぇ~っ!


……でも、信頼されるって嬉しいなぁ~♪

嬉しいなっ♪ 嬉しいなっ♪ ……」


<――と、状況にぴったりな魔導技を俺に伝えると

直ぐにその場から去ったエリシアさん。


だが、投票箱に向かう俺の背中に感じたエリシアさんの

よろこびダンス”をは正直まじまじと見つめたかった。


だが……今は開票作業だッ!


我慢だ、俺ッ!! ――>


………


……



「復元の魔導……


暗号神エニグマ”――」


<――呪文を唱えた瞬間

投票用紙は宙を舞い、記名別に整列されて行った。


何とも神秘的な光景の後……投票用紙は全て整列し机の上に並んだのだが

この時点で、数える迄も無くラウドさんの用紙が

凄まじい数“積もって”居た。


ただ……数えるまでも無い程の大差なのだが

数えず終われば貴族が騒ぎ立てる事は明白で……それを回避する為

仕方無く必死に束を数え続けた俺達。


結局、民衆の中で貴族に投票した者など

ただの一人たりとも存在しなかったにも関わらず――>


………


……



「さて……以上の結果から、ラウドさんが大統領に決定しました。


ラウドさん……引き受けて頂けますか? 」


「ううむ……わしで本当に良いのかのぉ? 」


「国民の皆さんの投票ですから

良いも何も……“望まれてる”って事ですよ」


「ふむ、では引き受けようかのぉ……しかし

そう成ってしまえば、副ギルド長の仕事はどうなるのじゃろうか? 」


<――エリシアさんにそうたずねたラウドさん。


すると――>


「ん~? ……そっちは適当にしておくから気にしないでいいよぉ~?

いっその事“秘書官”にやらせるからぁ~っ♪ 」


「そ、それは……秘書官殿に相当恨まれそうじゃのう」


<――確かに。


秘書官さんが不憫で成らない――>


………


……



「さて、主人公殿……わしはこれからどうすれば良いのじゃ? 」


ずは、壇上に立って国民に宣言ですね。


それでは……皆さんも行きましょう」


………


……



「……国民の皆様、ご協力ありがとうございました

皆さんの投票で選ばれた大統領が本日決定致しました!


その方は……ラウドさんですっ! 」


<――そう発表した瞬間

民達は歓喜の声を挙げた――>


「ではラウドさ……いえ。


ラウド大統領……どうぞ前へ」


「うむ……さて、わしはこの国の安寧あんねいと成長を望んでおる。


故に……国民皆が幸せに暮らせる様な国政の為

この命尽きるその時まで、努力を続けていく所存じゃが……


……同時に、わし一人でこの国の全てを動かす事は不可能とも思うておる。


そこで国防をになう要職である“国防大臣”に

カイエル殿を任命しようと思うのじゃが……国民の皆はどう思うかのぉ? 」


<――ラウドさんがそうたずねた瞬間

国民からは歓声が挙がった。


結果……満場一致で

“カイエル国防大臣”の誕生が決定したのだった――>


………


……



「ラ、ラウド様……何を?! 」


「カイエル殿……頼んだぞぃ? 」


「しかしs……ミネルバ様を失い、魔導隊も壊滅的被害を受けている今

私が“国防大臣”など引き受けてしまっても良いのでしょうか? 」


「何を言う……御主程国防に長けておる者は居らんじゃろうて

それに、国防大臣ならば部隊の再編も容易じゃと思うのじゃが? 」


「それは……いえ、承知致しました。


国防のにない手……つつしんでお引き受け致しますッ! 」


「うむ、決定じゃ……それでは皆の者ッ!

只今をもって、此処に居るカイエル殿を

国家国民と領土防衛の要……国防大臣として正式に任命するぞぃ!! 」


<――この瞬間、暗く落ち込んでいた王国に

後光が指したかの様な国民達の歓声と拍手は

この国の新たな幕開けを意味するかのごとくに鳴り響いた――>


………


……



「ラウドさん……早速大統領が板についてますね? 」


「そうかのぉ? では褒められたついでじゃが……


……引き続き要職に就いて貰いたい者達がおる! 」


<――この時ラウドさんは何故か俺の顔を見てニヤリと笑った。


正直、何を言うつもりなのかと身構えて居た俺だったのだが――>


………


……



「……主人公殿、マリア殿、メル殿の三名には

この国の混乱を収めてくれた立役者として

“大統領公認ハンター”としての地位を与えるぞぃ! 」


「なっ?! ……ラウドさん!? 」


「……尚、この地位は

三名を縛る者では無い事を国民の皆には理解して貰いたい!

今まで通り自由なハンター生活を送るのじゃ! 」


「ラウドさん……気を遣って頂いて申し訳有りません」


「なぁに……約束を果たしただけじゃよ。


……そして!


陰ながら尽力じんりょくしてくれたエルフ族、並びに

ダークエルフ族の皆には後日特別勲章を授与する!


さて……今日、ここに集まった民達よ!

今回の様な混乱の最中よく耐えてくれた。


数日後、改めて大統領制の制定を記念した祭りを行う予定じゃ。


必ず皆が楽しめる祭りとなる様取り計らうゆえ

今日の所は皆、家に帰りゆっくり休んでおく様に!


では……解散じゃ! 」


<――この号令を受け

国民達は皆喜びの声を上げつつ演説場を後にしたのだった――>


………


……



「成程……元々パレード用に用意されていた道具を“再利用”ですか。


考えましたねラウドさん」


「うむ……民達は皆精神的にも疲れておったじゃろうし

わしや御主らは勿論……皆、楽しめる時間も必要なのじゃよ」


「成程……正直ラウドさんには驚き続きですけど

ラウドさんが大統領で本当に良かったです……でも。


……前に話してた“お店”には気軽に行けなくなりますね? 」


「前に話して居た……って、何じゃとぉ?!


そういえば、この様な役職が就いてしもうては

気軽に“ぱふぱふ”出来なくなるではないかっ!


……いや!

それでもわしは“ぱふぱふ”しにくぞぃッ!! 」


「そ、その時は……俺も……その……


……ごっ、護衛ごえい的な意味で付いて行きますッ! 」


「あの、主人公さん? “ぱふぱふ”って、もしかして……」


「主人公さん……何だか鼻の下が伸びてますっ! 」


「いっ?! いやその、マリア? ……メルちゃん?


や、やめ……やめっ……


……ふんぎゃあああああああっ!! 」


………


……



<――ともあれ。


この国を国家として立て直す為、新たな第一歩を踏み出した俺達……だが

予想通り、貴族達はこの後直ぐに反対を表明し

各種妨害工作を取ろうと画策し始めた……しかし

民達から貴族を排除する為の“嘆願書”が出始めた辺りで

分の悪さを察しりを潜めた貴族達――


“大統領制”


――これが良策であれ失策であれ、少なくとも国民の生活は安定した。


その一方で、潜伏した一部の魔族がが未だ見つかって居ない現状と

決して協力的とは言えない貴族達……


……それにる防衛力の著しい低下。


果たして、この国の状況は快方に向かうのだろうか――>


………


……



《――主人公の発案にり新しい長を得た王国

だが、その一方で……未だ王国内に潜伏し続けて居た帝国人スパイは

ある建物の中で、声を潜め会話をしていた――》


「さぁ、貴方の罪を告白しなさい……」


《――告解室。


神父らしき姿をした者は、帝国人スパイに対し静かにそう言った。


すると――》


「潜入していた者達は全員死亡……残ったのは私と貴方だけです」


「……そうですか、良く教えてくれました。


ですが……魔王様はさぞおなげきに成られる事でしょう」


「い、いえ……勿論、こちらも人員を追加し! ……」


「いえいえ……その必要はありませんし

そもそも私はあなたを責めているのではありませんよ?


しかし、空腹ですねぇ……おお! 丁度良い食材を見つけましたッ! 」


《――神父らしき存在はそう言うと

告解室のカーテンを開き……その


恐ろしい“本性”をあらわにした――》


「食材など何処に? ……って何をする?!


やめろっ! ……止めてくれっ!!


ぐぁぁぁっ!!! ……」


………


……



「やれやれ……美味しくは無いですが空腹は紛れました。


さて……一度魔王様に御報告をしなければ」


《――血だらけの口元を白い手布ハンカチぬぐった神父


彼の正体は、ミネルバを手に掛けた“黒衣の魔族”であった――》


===第十四話・終===

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