女子校でも恥ずかしいものは恥ずかしい
次の日。私は重い足取りで学校に続く道を歩いていた。
「うぅ……やだなー。行きたくないなー」
昨日のことを思い出すと、一日たった今でも恥ずかしい。できれば今すぐ家に帰りたい。家に帰って妹を抱きしめたい。ああ、妹も学校で居ないのか。
動物、飼いたいなー。いつ家に帰っても私を出迎えてくれる動物が欲しい。お父さんもお母さんも仕事で居ないし、妹も部活で遅いから、帰宅部の私は一人寂しくテレビ鑑賞して待っていることが多い。あ、でも夕方まで動物のお世話できる人が居ないのか。駄目じゃん。動物飼えない。
と、現実逃避をしていたら、いつの間にか教室の扉の前まで来てしまった。
うぅ、嫌だな入りたくない。しかし、ここにこのまま突っ立っていると、他クラスの人からも変な人だと思われてしまうかもしれない。
覚悟を決めて、一気に扉を開け放つ……くらいの気持ちでカラカラと開ける。今のところ私に気付いた人は居ない。この調子で自分の席まで行ってやる!
もう一度気合を入れて、私の席である窓際最後尾に向かう。
「ゆっくり……私はカメレオン……周りの景色に同化……」
存在感を消して、足音を立てないよう摺り足で進む。
しかし、その摺り足が災いした。教壇に上ろうと足を上げたが、摺り足を意識しすぎて引っかかった。
「きゃうっ」
バランスを崩した私は、盛大に転んだ。ズダンッとかなり大きい音がした。そして、周囲から視線が集まる。しん、と静まり返る教室。私は倒れたまま呆然としている。
やらかした。またやらかした。さよなら、私の女子高生生活……。まさか二日ですべてが終わるなんて、思ってもみなかったよ。
「……大丈夫?」
その声に顔を上げると、青っぽい長い黒髪を二つの三つ編みにした女の子が、なんとも言えない表情で倒れ伏す私を見つめていた。
「……う、うん」
ゆっくりと立ち上がり、服に着いた汚れをパッパと叩き落とす。その動作をジッと見つめるクラスメイト。教室にいる人どころか、廊下を歩いていた人が立ち止まって私を見ていた。え、なんで私こんなに注目されてるの?
食い入るように見つめるクラスメイトの視線に動けず、もじもじする。なに? なんなの?! なんか怖いよ!
「片岡さん、だったよね?」
ビクビクキョロキョロし始めた私に、さっきの三つ編みの女の子が、おずおずといった風に声をかけてきた。
「は、はい、そうです……」
三つ編みの女の子の表情に真剣味が帯びる。つられて私も緊張してきた。口の中に溜まった唾を飲み込む。
「可愛らしいクマさんだねっ」
妙に元気な声で言った三つ編みの女の子が、胸の前で両手をギュッと握り締める。素晴らしい笑顔だけど、ツーっと垂れてきた鼻血が台無しにしている。
「クマさん……?」
何のことだろう。分からずにポカンとしていると、近くの席でお喋りしていたグループの子達が教えてくれた。
「ごちそうさまです」
「ここが女子校でよかったね」
「取り敢えず、スカート直したら?」
クマさん、スカート……もしや! ハッとしてお尻に手を当てる。
朝以来の柔らかい感触が帰ってきた。
ふむふむなるほど。やたら注目されていたのは、転けた拍子に教科書やらを入れたリュックと体にスカートの裾が挟まれて、クマさんがプリントされたパンツが丸出しだったからなんだね!
「う……」
「片岡さん?」
鼻にティッシュを詰めた三つ編みの女の子が、心配気に俯く私の顔を覗き込む。
「うわぁぁぁぁ!!」
私は全速力で教室を飛び出した。
○○○○○
あの後トイレの個室で灰色に燃え尽きていた私だったが、流石に授業までサボるわけにもいかないので教室まで戻ってきた。
ゆっくりと教室の扉を開ける。
「ゆっくり……私は忍者……誰にも悟られるな」
ミッション開始。摺り足で進む。
「ふ……二度も同じ手には掛からんよ……」
危なげなく最大の敵である教壇を突破。ここを突破すれば、もう何も怖いものは無い。
しかし、思わぬ伏兵が待ち構えていた。
目標まで後少し。手を伸ばせば私の席に届く場所。少しだけめくれ上がっていた木のタイルに、つま先が引っかかる。
なんとかバランスを保ち、転けるような事態はまぬがれた。しかし。
「ふぉぅ!?」
不意の事態に口から妙な悲鳴が飛び出した。そこそこ大きな悲鳴にクラスメイトの視線が私に集まる。凍りつく空気。
「……片岡さん」
誰かが哀れみを含む声で私の名前を呼んだ。
そこからは普通に歩いて自分の席に向かった。




