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Ep 10:影の支配者のタスク完了(聖域の未来計画)

1.聖域への帰還と、ただの息子へのシステムリセット


豪華絢爛な大夜会が幕を閉じ、深夜の静寂が王宮を包み込む頃。

俺――アルは、薔薇の庭園に囲まれた「離れの館」の扉をそっと開けた。


社交界の冷酷な「猛禽」として完璧に仕立てられた上着を脱ぎ捨て、タイを緩める。

一歩、リビングに踏み込んだ瞬間、脳内に張り詰めていた経営戦略や情報統制のプログラムが、音を立ててシャットダウンされていった。


「おかえりなさい、アル。夜会のエスコート、本当にお疲れ様」


キッチンの奥から、おっとりとした笑顔でマリアが姿を現した。

その手には、温め直された特製の根菜シチューが握られている。


そして、リビングの暖炉の前。

我が家のソファに、信じられないほどリラックスした様子で腰掛け、マリアの焼いたクッキーをつまんでいたのは、この国の最高権力者(現CEO)である国王クリスだった。

王冠も重厚なガウンも脱ぎ捨て、昔の恋する青年の顔に戻った国王は、俺を見て嬉しそうに目を細めた。


「おお、アル。お帰り。リュカの婚約発表、じつに見事だったぞ。すべてはそなたのコンサルティング(教育)の賜物だ。……父親として、心から感謝する」


「……陛下。身内の前で、堅苦しいビジネス(公務)の話はやめてください。私は今日、夜会の接待業務エスコートで、脳のメモリを使い果たしてクタクタなんです」


俺はため息混じりに、着心地の良い綿の部屋着へと着替えた。

そして、マリアがよそってくれた温かいシチューを一口含み、あまりの美味しさにトロンと目を細める。


「美味しい……。やっぱり、母さんのシチューが、この世で一番の最適解ごちそうだ……」


「ふふ、良かったわねえ。よく頑張ったわ、アル」


マリアがソファに腰掛け、優しく自分の膝をぽんぽんと叩く。

俺は吸い込まれるように、コテン、と彼女の膝の上に頭を預けた。

白銀の髪に、マリアの温かい指先が滑り込み、ゆっくりとしたリズムで撫でていく。


「……ん。これでようやく、私のロジカル脳のメモリが完全に初期化システムリセットされる……」


完璧な影の支配者としての仮面を剥ぎ取り、母の膝枕で完全に「ただの甘えん坊の息子」に戻る。

国王は、そんな俺たちの様子を、少し羨ましそうに、けれど溢れんばかりの親バカな愛情に満ちた碧眼で見つめていた。

国を裏から完全に掌握した猛禽の、これが誰も知らない「聖域セーフハウス」の素顔だった。


2.「孫発言」ふたたび、そして現CEOの暴走


静かで温かい、極上のリラックスタイム。

だが、マリアの「天然の嘴(一撃)」は、最後の最後に牙を剥いた。


「ねえ、クリス様。今日のリュカ殿下のアシェル公女への婚約発表、本当に感動的でしたわねえ」


マリアが、アルの髪を優しく撫でながら、暖炉の前の国王に微笑みかけた。


「ああ、マリア。我が息子ながら、立派な王の顔になっていたな。これもすべてアルの……」


「ええ。だからね、私、やっぱり思ってしまいましたの。……アルの可愛い子供(孫)も、そろそろ見てみたいわねえ。きっと、天使のように愛らしいんでしょうねえ、クリス様?」


「――――――――ッっっ!!!!????」


マリアの膝の上で、俺の全身がビキィッと限界まで硬直した。

一瞬にして、脳内モニターに「システム最大級エラー:回避不能な戦略兵器(お見合い)の稼働」が緊急アラートとして赤く点滅し、脳の温度が数秒で沸点に達した。


「な、何っ……!? マリア、それは素晴らしい提案だ!!」


ガタッと、国王が勢いよく立ち上がった。その碧眼は、まるで新大陸を発見した冒険家のようにギラギラと輝いている。


「言われてみれば、アルは社交界一の美貌と、恐るべき知性を備えているのだ! アルに似た白銀の髪の孫……! 想像しただけで、我が王家の未来は盤石、いや、私の親バカの心臓が持たん! よし、アル! 明日、我が国のすべての公爵家・侯爵家の適齢期の令嬢を王宮に集め、そなたのための『選定会議(逆ハーレム)』を開催する!!」


「ま、待ってください、現CEO(陛下)!! 母さん!!」


俺は顔を林檎どころかマグマのように真っ赤に染め上げ、マリアの膝枕から跳ね起きた。

あまりのパニックに、前世のロジカル脳が完全にオーバーヒートし、耳の後ろからシュウシュウと煙を吹き始める。


「それは明らかなリソースの誤配分バグ、および国家予算の無駄遣いです! 私の人生ロードマップに『育児』のタスクは一切組み込まれていませんし、そもそも遺伝子投資におけるパートナーシップのベンダー選定(お相手選び)すら始まっていない! 特定の個体と婚姻契約(M&A)を結ぶことは、私のスパイネットワーク(市場価値)を大暴落させるリスクが――!!」


「あらあら、アルったら、またそんなに早口で耳まで真っ赤にして。男の子でも女の子でも、おばあちゃんとおじいちゃんが、たくさん可愛がってあげるからねえ」


「おじいちゃん……! なんて素晴らしい響きだ! よし、宰相を呼んで今すぐお見合いプロジェクトを立ち上げよう!」


段階プロセスをすっ飛ばして勝手なトップダウン(命令)を下さないでください!! あわ、あわわわわ……!!」


完全にロジックがバグり、俺はソファのクッションに顔をぎゅっと埋めてバタバタと悶絶した。

国を裏から操る「影の支配者」が、実の親二人の天然攻撃の前に、なす術なく完全破壊スクラップされている。


だが、我が家のセキュリティホールは、これだけでは終わらなかった。


3.大型犬の乱入と、終わらないパニック


バァン!!! と、リビングの扉が、凄まじい物理的衝撃と共に叩き開けられた。


「先生!!! お見合いなど、この私が、絶対に許しません!!!!」


息を切らせて飛び込んできたのは、またしてもアポなし突撃を敢行した皇太子リュカだった。

彼は、お見合いプロジェクトの立ち上げに目を輝かせる父親(国王)と、顔を真っ赤にしてクッションに埋まっている俺を見て、碧眼を怒りと独占欲で燃え上がらせた。


「リュカ!? なぜお前がここに……!」


「父上こそ、先生に何て不埒なプロジェクトを提案しているのですか! 先生をどこの馬の骨とも知れない公爵令嬢に渡すなど、この次期CEOが断固として認めません! 先生は私のメンター(所有物)ですよ! 先生の『お相手』は、私と父上で徹底的にスクリーニング(排除)します!!」


大型犬のように吠え、俺の前に立ちはだかって国王を威嚇するリュカ。


「お前こそ、婚約発表を終えたばかりだろう! 自分の身を固めたからといって、先生の幸せ(孫の顔を見る私の夢)を邪魔するな!」


「先生の幸せは、私を完璧な王へとプロデュースすることです! 育児タスクなどという不要な工数ノイズを、先生のポートフォリオに増やす必要はありません!」


「(リュカ……! お前、先生に仕込まれたロジックをそんな風に使うな……!)」

国王が、我が子の凄まじい「クソデカ執着(クソデカ感情)」に背筋を凍らせている。


「お、お前たち……アポなし不法侵入(突撃)の上に、我が家のリビングで不適切な所有権争い(マウント合戦)をするのはおやめください……!」


俺はクッションから顔を半分だけ覗かせ、顔を茹で上がったタコのように真っ赤にしたまま、震える声で抗議した。

だが、国王と皇太子は、そんな俺を完全に無視して言い争いを続けている。


「アル、明日一番で令嬢たちのポートレート(釣書)を十箱届けるからな!」


「すべて私が事前に検閲(焼却)して処分します、先生!」


「あらあら、二人とも、アルのことが本当に大好きなのねえ。ふふ、ハーブティーの新しい茶葉、淹れておきますねえ」


マリアだけが、カオスな修羅場を背景に、おっとりと嬉しそうに微笑んでお茶の準備をしている。


「(だ、誰か……この制御不能なバグだらけの経営陣(家族)を、強制シャットダウン(デバッグ)してくれ……!!)」


前世では、信頼していたパートナーに裏切られ、冷たい孤独の中で死んでいった。

今世は、誰も愛さない、誰も信用しないと誓って、冷徹な「猛禽」として国を裏から支配した。

それなのに――。

どうして、俺の周りには、こんなにも温かくて、鬱陶しくて、愛おしい「バグ(家族)」が溢れているのだろう。


「……はぁ。もう、全員まとめてペナルティ(お説教)だ……」


俺は再び、クッションに顔をぎゅっと埋めて悶絶した。


王宮の片隅、世界で一番甘くて、世界で一番恐ろしく、そして世界で一番賑やかな『猛禽の巣』の夜は、影の支配者のタスク完了を祝うように、愛おしく、騒がしく更けていくのだった――。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!


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また次の物語でお会いできることを楽しみにしています。本当にありがとうございました!

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