熱膨張のラスト・オーダー。……あるいは、臨界点を超えた「おっさん」の祈り
「……ふにゃぁぁ……!! 寒すぎますわぁぁ!! 鼻水が……鼻水がダイヤモンドダストになって、……私の虚弱な肺を物理的に攻撃してきますわぁぁ!!」
絶対零度の極寒。霜に覆われた要塞の中で、私は凍りついた指先を必死に動かしていた。
横を見れば、カシアン兄様はサイドチェストのポーズのまま「氷の彫像」と化し、バルバラ皇帝は優雅に椅子に座ったままカチンコチン。フェリクスに至っては、眼鏡のレンズが割れて「白い闇」の中に消えていた。
「……このままでは、……この物語が『バッドエンド(サーバーダウン)』になってしまいますわ。……最後は、……最後はエンジニアらしく、……すべてのリソースを注ぎ込んで、……『システムの再起動(再加熱)』をかけるしかありませんわね!!」
私は、凍りついた魔導コンロに手をかざした。
狙うは、前世の冬の夜、冷え切った体と心を救ってくれたあの「熱量」。
「……サーシャ!! 鋼鉄のエプロンを『巨大な土鍋』に変形させなさい! 投入するのは、……帝国内の全アルコールと、……魔導大根、……そして秘蔵の『超・高圧熟成・牛すじ煮込み』ですわ!!」
【全物質再加熱プロトコル:ソーラ・レイ・熱燗】
Q = mcΔT
P_output = Energy_of_Ossan × Catalyst_Majo
(比熱 c を魔力で反転させ、最小のエネルギーで要塞全土を沸騰させる。煮込みから発せられるアミノ酸の蒸気が、凍結した分子構造を強制的に振動させる)
「お任せください、お嬢様ぁぁ!! 命(ガス代)を燃やして、煮込みますわぁぁ!!」
サーシャが巨大な鍋をかき回すと、そこから「黄金の湯気」が爆発的に噴出した。
それは単なる蒸気ではない。
リリアーナが45年の人生で培った「哀愁」、そして今世で得た「美魔女への愛」と「筋肉への執着」……そのすべてがマージされた『人生の出汁』である。
「……っ!! ……ああぁぁっ!! ……温かい……。……私の細胞一つ一つが、……牛すじの脂(旨味)で……解凍されていく……!!(バルバラ皇帝)」
「……リリアーナ……。……見える、……見えるぞ! ……筋肉の奥底に溜まった『冷え』が、……熱燗のアルコールで蒸発していくのが!!(兄様)」
要塞の室温が、一気に60度(熱燗の温度)まで急上昇。
凍りついていた人々が次々と解凍され、手を取り合い、……そして、あまりの熱気に耐えかねて、次々とドレスや甲冑を脱ぎ捨て始めた。
「……ひゃぁぁぁ!! ……脱がないでくださいまし!! ……温度の計算をミスして、……『熱膨張』が起きていますわぁぁ!!」
【熱膨張による空間崩壊】
ΔL = αL₀ΔT
(要塞の建材が急激な熱量により膨張。壁という壁に亀裂が入り、要塞は『弾けるポップコーン』のように限界を迎えようとしている)
「リリアーナ様……! 空間が……持ちません……!! このままでは、……私たちは『熱い抱擁』と共に……次元の彼方へ……!!」
フェリクスが熱気に顔を赤らめながら、私を抱きしめようと手を伸ばす。
「……ふにゃぁ!! ……皆様、……もうどうにでもなさいな!! ……これこそが、……これこそが私の、……『ラスト・コミット(最終提出)』ですわ!!」
ドォォォォン!!
爆発する要塞。
夜空を染める、ソースと鰹節と、黄金の熱燗の光。
その中心で、リリアーナはかつてないほどの充足感に包まれていた。
「……ああ、……ようやく、……本物の『定時』が……見えてきましたわ……」
空高く打ち上げられた全員が、空中で「最後の乾杯」を叫ぶ中、物語はついに、運命の第100話へと加速していく――。




