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定時退社(ハッピーエンド)。……あるいは、伝説の居酒屋「ベルシュタイン」

要塞が熱膨張の限界を超え、黄金の熱燗の光と共に夜空へと弾け散ったあの日。

帝国の人々は、夜空に輝く「ソースと鰹節の流星群」を見上げながら、ある一つの伝説が完結したことを悟ったという。


それから、数年の月日が流れた。


帝国の喧騒から遠く離れた、静かな湖畔。

そこには、看板もなければ地図にも載っていない、だが夜な夜な不思議な光が漏れる小さな平屋の店があった。


「……ふにゃぁ。……ようやく、……ようやく理想の『開発環境しごとば』を手に入れましたわ……」


店内でエプロンを締め直しているのは、銀色の髪を少し短く切り、より一層の透明感を増したリリアーナだった。

彼女の手は、かつての虚弱体質を感じさせないほどに「職人の動き」を身につけている。握力は……相変わらず10キロ程度だが、そんなものは「魔導レバー」と「生化学の知識」があれば問題ではない。


「お嬢様、本日の『仕込み(コミット)』、すべて完了いたしましたわ!」


元気な声と共に現れたのは、成長してすっかり「鉄壁の看板娘」となったサーシャだ。彼女の纏うメイド服は、リリアーナが特別に加工した「対・暴徒用・防弾ナノクロス」であり、その腕には、かつての美容液の恩恵か、今もなお宝石のような光沢が宿っている。


「ご苦労様、サーシャ。……今日の『ナカ(焼酎)』の魔力濃度は完璧かしら?」

「もちろんですわ! 飲んだ瞬間に、魂がサーバーからログアウトするほどのキレに仕上がっております!」


カラン、とドアが開いた。

本日最初のお客様が、夕闇に紛れて店に滑り込んでくる。


「……リリアーナ。……ここを見つけるのに、……私の全計算資源(三日三晩の徹夜)を費やしたよ」


眼鏡を光らせ、ボロボロになりながらも感無量といった表情で現れたのは、フェリクスだった。彼はもはや公爵家の跡取りとしての義務を半分放り投げ、リリアーナの「専属保守エンジニア」を自称して、店に通い詰めている。


「……フェリクス様。……執念(ストーカー行為)も……ほどほどになさいな。……まずは、……これを飲みなさい。……あなたの脳内の『バグ(悩み)』を、……一瞬でクリーンアップする一杯ですわ」


リリアーナが差し出したのは、氷を一切入れず、極限まで冷やした「魔導ホッピー」と、自家製の「筋繊維を癒やす黄金の塩辛」。


「……ああ、……これだ。……この……理論では説明できない『旨味』の暴力……。……私の論理回路が、……幸せな『無限ループ』に陥っていく……」


次に現れたのは、相変わらず暑苦しい熱気を帯びた、黄金の鎧……ではなく、今や「農業の王」として筋肉を土いじりに捧げているカシアン兄様だ。


「リリアーナ! 健やかに励んでいるかい!? 今日の収穫だ、アミノ酸スコアが100を超えた『マッスル・トマト』を持ってきたぞ!」


「兄様、……店内にバルクを撒き散らさないでください。……お姉様(母上)や公爵夫人が来る前に、……掃除が終わらなくなりますわ」


そして最後に入ってきたのは、華やかなドレスを脱ぎ捨て、動きやすい軽装に身を包んだ、だが圧倒的な美魔女のオーラを放つ女性。


「……あら、私も混ぜてくださるかしら? この国の『皇帝』という面倒なロールを一時停止ポーズしてきたわ」


バルバラ皇帝は、カウンターに座るなり、リリアーナの頬を慣れた手つきでヨシヨシした。


「リリアーナちゃん。……結局、……ここが世界で一番の『聖域』なのよね。……筋肉も、美容も、権力も……、……すべてこの一杯の『喉越し』の前では、……ただのノイズに過ぎないのだから」


店内に満ちる、揚げ物の音、炭酸の弾ける音、そして人々の笑い声。

かつて深夜のラボで筋弛緩剤を飲み干し、絶望の中で死んでいった45歳のおじさんの魂は、今、絶世の美少女の体の中で、この上ない安らぎを感じていた。


【人生の最終出力アウトプット:ハッピーエンド】

Success = Happiness / (Stress + Bugs)


Lim (Bugs → 0) Success = ∞

(すべてのバグを『おつまみ』に変え、ストレスを『酒』で溶かした結果、人生の成功報酬は無限大へと発散する)


夜が更けていく。

リリアーナは、自分専用の小さなジョッキに黄金の液体を注ぎ、仲間たちに向けて高く掲げた。


「……皆様。……今日という一日を、……無事にデプロイできたことに……感謝いたしますわ」


「「「「「乾杯ログアウト!!!」」」」」


窓の外には、静かな湖と満天の星空。

かつての世界を滅ぼしかけた「美容の聖女」も、「筋肉の破壊神」も、今はもういない。

そこにいるのは、ただ、お酒と仲間を愛する、銀色の髪の小さな店主だけ。


「……ふにゃぁ。……これにて、……本日の業務は、……『完全終了』ですわ……」


リリアーナの口元に、満足げな、そして少しだけ「おっさん臭い」幸せな微笑みが浮かんだ。

リリアーノを今まで読んでくださって、本当にありがとうございました

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