美容決闘(ビューティー・デュエル)は、もはや化学の戦場でした
学園生活にも慣れてきた頃、私の前に一人の令嬢が立ちはだかった。
隣のクラスの公爵令嬢、ベアトリス。縦ロールが眩しい、いわゆる「高飛車」なタイプだ。
「リリアーナ・フォン・ベルシュタイン! あなたが巷で噂の『美の聖女』なんて、笑わせるわ。そんな虚弱でふにゃふにゃな女に、真の美を語る資格なんてなくてよ!」
「ふにゃにゃにゃにゃ……。左様でございますか。私はただ、筋肉の合成を助ける試薬を作っているだけで、美を語るつもりは……」
「黙りなさい! 私の家が独占販売している高級化粧水より、あなたの『ゴミ(プロテイン)』の方が肌にいいなんて、商売あがったりだわ! どちらの美容法が優れているか、今度のお茶会で決闘よ!」
こうして、学園中が注目する『美容決闘』が開催されることになった。
ルールは簡単。お互いに自慢の美容薬を、被験者である「老執事のガサガサの手」に塗り、どちらがより美しく変えるかを競うというものだ。
決闘当日。会場には、なぜか観戦を希望する第一王子アレンや、私のファン(美魔女軍団)まで詰めかけていた。
「さあ、見なさい! これが我が家の秘宝、北国の氷河から抽出した『極寒の雫』よ!」
ベアトリスが魔法薬を塗ると、老執事の手は確かにしっとりと潤い、周囲から「おおっ」と歓声が上がる。
ベアトリスは勝ち誇ったように私を見た。
「さあ、次はあなたの番よ。その怪しいプロテインとやらを出しなさい!」
「……ふにゃぁ。困りましたね。私はただ、前世……じゃなくて夢で見た『細胞活性化理論』を試したいだけなのですが」
私はノートを開き、今日のために用意した数式を口にした。
【聖域ノート:決闘用・真皮層再構築プログラム】
真皮におけるコラーゲンとエラスチンの架橋構造を、魔法共鳴によって最適化する。
Skin_Elasticity = Σ(Fiber_Density * Magic_Vibration)
さらに、ハイドロキノンを魔法的に安定化させた成分を打ち込み、シミを一秒で無効化する……!
私は、新作の**『超・美白プロテイン・ペースト(バニラ味)』**を老執事の手に塗り込んだ。
「……さて。Reaction_Start.」
私が指をパチンと鳴らした(つもりだが、力がなくて音がしなかった)瞬間。
老執事の手から、天を突くような黄金の光が溢れ出した!
「なっ、何よこの光は!? 爆発!? 爆発して死ぬの!?」
ベアトリスが悲鳴を上げる中、光が収まると……。
そこには、**「赤ん坊のようにプルプルで、透き通るような白さを持つ、血管一本浮き出ていない二十歳の手」**が、老人の腕の先にくっついていた。
「……わしの手が。わしの、シワだらけだった手が……。まるで女神の加護を受けたようです……」
老執事が涙を流して崩れ落ちる。会場は静まり返り、次の瞬間、割れんばかりの拍手が巻き起こった。
「勝負ありだな。……リリアーナ、君の勝ちだ」
アレン王子が私の肩を抱く(やっぱり脱臼しそうになる)。
「リリアーナ様、素晴らしいわ! ぜひ我が家にもそのペーストを!」
「お姉様! 私もヨシヨシしてください!」
観戦していた美魔女たちが一斉に私に飛びつき、私はいつものように酸欠で「ふにゃふにゃ」になった。
「う、嘘よ……。私の極寒の雫が、バニラ味の練り物に負けるなんて……」
崩れ落ちるベアトリス。
だが、私は彼女の元へ這いずり寄り、弱々しく手を差し伸べた。
「……ベアトリス様。あなたの化粧水も、グリセリンの配合を変えて魔力を安定させれば、もっと良くなりますよ。……ふにゃ。私と一緒に、筋肉……じゃなくて美の極致を研究しませんか?」
「え……? あなた、私を許してくれるの? ……な、何よ、そんな儚い顔で言われたら、断れないじゃない……」
高飛車だった彼女の顔が、一瞬で真っ赤になる。
どうやら、美魔女だけでなく、同年代のライバルまで私の「ふにゃふにゃ」な魅力の虜にしてしまったようだ。
背後で、アレン王子が「またライバルが増えた……」と苦々しい顔で呟いていたが、私は王妃様の膝の上で幸せな夢を見るのだった。




