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バルクアップを求めたら、最速の暗殺騎士団ができました

学園の休みの日、私は父にお願いして、憧れの『王立騎士団』の訓練見学にやってきた。


私の目的はただ一つ。


この細い腕(枝)を見すぎて枯れ果てた「筋肉バルクへの渇望」を、本物のマッチョたちを眺めることで癒やすことだ。


「……ふふ、ふふふふ。見て、サーシャ。あの騎士たちの広背筋……まるで鬼の形相だ。あの大腿四頭筋のカット、血管の走り方……まさに『神の彫刻』。あぁ、目が洗われるようだ……」


「お嬢様、また何か不穏な呪文を……。でも、あんなに嬉しそうなお顔、滅多に見られませんわ!」


鼻血を堪えながら身悶えする私の前に、一人の大男が現れた。


この国の騎士団長、ガルガン。

身長二メートル、体重百キロ超。その肉体はまさに、私が前世で目指した「冷蔵庫のようなマッチョ」そのものだった。


「……ほう。ベルシュタイン家の令嬢が、我らの筋肉に興味があるとは。嬢ちゃん、いい目をしてるな。筋肉は裏切らんぞ」


「……っ!(この人、話がわかるッ!)」


私は感動のあまり、団長の手を握り締めた(が、びくともしない)。


だが、私は研究者として気づいてしまった。彼らの筋肉はデカすぎて、関節の可動域を殺し、動きを鈍くしていることに。


「(……惜しい。このバルクを維持したまま、さらに細胞の密度を高めれば、彼らは最強の『戦車』になれるはずだ……!)」


私はその晩、寝る間も惜しんでノートを書き殴った。


【聖域ノート:超・細胞凝縮コンプレッションポーション】

筋肥大の限界を突破し、一立方センチメートルあたりの筋出力を十倍にする。


Muscle_Density = Mass / Volume * Magic_Tension


これを飲めば、彼らは今よりさらにデカく、重く、硬くなるはずだ!


翌日。私は完成した試薬を手に、意気揚々と騎士団へ戻った。


「団長! これを飲んでください! あなたの筋肉は、さらに次のステージ……『人智を超えた巨塊モンスター』へ至ります!」


「おおお! リリアーナ嬢がそこまで言うなら、飲まぬわけにはいかん!」


団長と精鋭たちが、一斉にポーションを飲み干した。

私はワクワクしながら、彼らの大胸筋が爆発的に膨らむ瞬間を待った。……が。


「……あ、あれ? ち、小さくなってる!?」


期待とは裏腹に、団長たちの巨大な肉体が、見る見るうちに「削ぎ落とされて」いった。


岩のような肩はスマートになり、丸太のような腕は、しなやかで細いラインへと変化していく。


「……ふ、ふにゃにゃにゃにゃ!? 何が起きたの!? 俺……じゃなくて私のバルクが! 最高の冷蔵庫たちが、ただの『細マッチョ(痩せ型)』に……っ!!」


私は絶望のあまり、膝から崩れ落ちた。


実験は失敗だ。密度を高めすぎて、体積が収縮してしまったのだ。


「……し、しかし、団長。体が軽い。異常なほどに……」


一人の騎士が剣を振るった。

その速度は、音を置き去りにした。


以前の「力任せの重い一撃」ではなく、目にも止まらぬ速さで急所を貫く、神速の剣。


「……なんだこれは! 動きが止まらない! 以前の十倍、いや百倍は速く動けるぞ!」


団長が狂喜乱舞し、目にも留まらぬスピードでシャドーボクシングを始めた。


「リリアーナ嬢! 君は天才だ! 無駄な脂肪と重すぎる筋肉を削ぎ落とし、実戦特化型の『超・速筋集団』を作り上げるとは! これで我が騎士団は無敵だ!!」


「…………しょぼぼん」


周囲で騎士たちが「最速の騎士団だ!」と盛り上がる中、私は一人、地面に「筋肉マッスル」と指で書きながら落ち込んでいた。


「……違うんだ。俺が見たかったのは、重戦車のようなバルクなんだ……。アナボリック(合成)じゃなくてカタボリック(分解)が起きるなんて……。あぁ、私の理想が、理想の三角筋が霧散していく……。サイドレイズ、フロントプレス、ラットプルダウン……」


「お嬢様! 意味不明な単語を呟いて虚空を見つめるのはおやめください!」


この日、国最強の「神速騎士団」が誕生した陰で、一人の少女(中身おっさん)が筋肉への未練を断ち切れず、一晩中「プロテイン……アミノ酸……」と呪文を唱え続ける怪奇現象が発生したという。

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