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魔王が死んでも、世界は思ったより平和じゃない  作者: Soh.Su-K
第1章 2節 狗鬼討伐依頼編

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第28話 生ハムと葡萄酒さえあれば、荷馬車でも問題ない

「で、結局『少尉』ってどれだけ偉いんだ?」


 俺は帰りの荷馬車の中でグローに聞いた。


「よく分かっとらんのか」


 グローが呆れた様に言う。


「軍属でもないんだから分かる訳ねーだろ」


「少尉とは、魔王軍でいう所の百人長、100人くらいの指揮を執る階級だ。基本的に士官学校を出たエリートはこの階級から始まるが、一兵卒からここまで上がる奴は珍しい」


「じゃあサリィンはエリートの仲間入りなんだな!」


「いや、ここからがまた苦労すると思うぞ?」


 グローは心配そうだった。


「何か問題でもあるのか?」


「出(・)る(・)杭(・)は(・)打(・)た(・)れ(・)る(・)と言うだろ?ヤッカミを受けるのは必然だ。戦後配属組にはちと辛いだろうな……」


「そんなもんか……。軍もめんどくさいな」


「だろ?だからワシは辞めた」


 確かにグローの言う通り、軍の中で王国民の事を考えている奴は少ないのかもしれない。

 中央軍のトールズがいい例だ。


「そういや、セリファ。初めての王都はどうだった?」


「え?どうって言われても、自由時間なんてなかったから観光も何も出来なかったし……」


 セリファはしょんぼりとしていた。

 王都に到着したのは夜遅かったため、すぐに軍の宿泊施設に入れられ、御前裁判後はほぼそのまま中枢区から放り出された。

 観光を楽しみにしていたセリファには申し訳ない。


「こんな強行軍だと俺も思わなかった。結局、コフィーヌも特進したお陰で、帰りはこの5人だしな」


 コフィーヌも異例の3階級特進で曹長になったが、サリィンの副官として補佐をする事になったらしい。


「まぁまぁ、皆さんそんなに気を落とさずに」


 ピュートがニコニコと言った。


「いいよなぁ、ピュートは。今回の一件で滅茶苦茶儲かっただろ」


「そんな事ないですよ~、エヘエヘ」


「お主、ニヤけ過ぎだ」


「でも、私も大変だったんですよ!?上司のエリアマネージャーが街は陥落するって言い張って、事務所を引き払おうとするのを止めるのが」


「一人で止めたのか?」


「止めるどころか揉めに揉めて、結局独断で弓矢と毒ポーションをかき集めました。今頃あの人、上層部に呼ばれてますよ~」


 グローがガハハと笑う。


「商会も色々あるんだの」


「おかげで昇給も決まりましたし、報奨金も入りましたし、結果オーライです!」


「お主、ようそんな賭けに出れたのぉ」


「そんなに賭けですかね?」


「もし街が陥落したらどうするつもりだったんだ?」


「そんなの、街が陥落した時点で私の命もなくなっているでしょ?死んだ人間に弓矢や水薬(ポーション)の請求は出来ない。そうなれば請求先は商会であり、安全な場所で命を永らえたエリアマネージャーになります。つまり、勝ち確定なんですよ!」


 感心していいのか、呆れるべきなのか分からない。


「それはそうと、色々と買い込みましたので、帰りは楽しく行きましょう!」


 そう言って、ピュートは酒瓶を取り出す。


「おお!酒か!」


 誰よりも早くグローが反応した。


「え?ここで飲むの?別の意味でも酔いそう……」


 セリファは顔をしかめる。


「そう言わずに!火を通さなくても美味しい加工肉もありますよ!」


「おっ、これは生ハムの原木か!」


 俺が手に取ったのは骨付きの生ハムの塊だった。

 昔、一度だけ見た事がある。

 これを小剣(ナイフ)で薄く切って食べるのだ。


「こんなの見た事ない……」


 セリファがマジマジと原木を見つめる。


「大将の店じゃ取り扱えないからな」


「ウチの店には卸せないの?」


「中々街までおりて来ないんですよ。専ら王都から程近い街でしか扱えない商品になってます」


「……、美味しいの?」


「それはもう!」


 ニッコニコのピュートである。


「食べていいか?」


「勿論です!そのために買ってきたんですから!」


 俺はいつも使っている投げ小剣を取り出し、原木から生ハムを薄く切り出した。

 その一切れをセリファに渡す。


「ガル……」


「あん?」


「その小剣って、矮鬼(ゴブリン)とか黒醜人(オーク)に刺してる奴よね……?」


 どうやら衛生的に拒否反応があるらしい。


「バッカ、ちゃんと洗ってるよ!」


「いや、そうだろうけど……」


「文句言うなら俺が喰う!」


 俺はセリファが摘まんでいた生ハムにそのまま齧り付いた。


「ちょっと!」


「美味い!!」


 ねっとりとしたコクのある濃厚な味わいと、少し強めの塩加減がいい。

 これは葡萄酒によく合いそうだ。


「これをご所望ですかの?」


 グローが酒瓶を渡してくる。

 ご丁寧に、栓は既に開けられていた。

 白い葡萄酒だ。

 そのまま瓶に口を付けてラッパ飲みにする。

 柔らかい酸味とフルーティーな味わい。

 華やかな中に樽独特の香りも加わり、なんと味わい深い葡萄酒なのだろう。

 生ハムの脂の甘味をより一層引き立たせる、ベストな組み合わせだ。


「最高……」


 生ハムを奪われブーブー言っているセリファをよそに、俺はこの上ない幸福感に包まれていた。


「セリファ殿、どうぞ。食用の小剣を使っていますので、安心してください」


 ピュートが薄く切り出した生ハムを木製の皿に載せてセリファに渡す。


「え?ありがとうございます!」


 嬉しそうにそれを受け取るセリファ。

 静かに本を読んでいたブリジットも加わり、帰りの荷馬車は賑やかな酒宴の会場となった。

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