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魔王が死んでも、世界は思ったより平和じゃない  作者: Soh.Su-K
第1章 2節 狗鬼討伐依頼編

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第16話 俺だってイラつく事はある

「よう、ガル!……、なんだ?機嫌悪そうだの」


 いつもの酒場でエールを飲んでいた俺に、グローが話しかけてきた。

 恐らく、目ぼしい依頼を見繕ってきたのだろう。


「あぁ、何でもない」


 俺は紙巻煙草を灰皿で乱暴に押し潰した。


「お前さんが不機嫌なのも珍しいのう」


 グローは俺の隣のカウンター席に腰掛け、エールを頼む。


「会いたくない奴に会っただけだ」


「前の女か何かか?」


「女の方がマシだ」


 俺は紙巻煙草をもう一本取り出し、火を点ける。


「まぁ良い。それより、面白そうな依頼を見付けたぞい」


 そう言って、グローは依頼書を出した。


「狗鬼《コボルド》の討伐か……」


 内容を読み進めた。

 この街から程近い村が、最近になって狗鬼の襲撃を受けているらしい。

 数は3〜5匹。

 狗鬼とは、犬の様に口の尖った小柄な種族である。

 鉱矮人《ドワーフ》に似て、鉱物の加工が出来るらしく、主に鉱山の近くに住み着く習性を持ち、群れを形成する。

 加工が出来るとは言っても、知性が低い為に狗鬼の作った剣や斧などは粗悪で、耐久性が低い。

 ただ繁殖力が高い為、放置すればすぐに増えて手に負えなくなる種族だ。


「矮鬼《ゴブリン》といい、狗鬼といい……、最近は小物が多くないか?」


「仕方ないだろ、他は4名以上のパーティ限定の依頼ばかりだ」


 依頼は内容によって、1名以上、2名以上、4名以上など、人数指定があるものがある。

 つまり、俺とグローの2人しかいない俺達では4名以上の指定依頼は受けられないのだ。


「人数増やす事も考えるか……」


「足手まといになるようなら、今のまま2人がええがの」


「お前の要求が高過ぎるんだよ……」


「そんな事はない。ただの数合わせならいない方がマシだと言っているだけだ」


 グローが言う事も一理ある。

 4名以上の依頼となると難易度は跳ね上がるのだ。

 それなりの手練れでなくては、正直、俺やグローの負担が増えるだけだろう。


「まぁ、ある程度の実力者がいれば、勧誘する方向でいいだろ?」


「いればな」


 わざとらしく強調して言うグロー。

 まぁ、今すぐに欲しい訳でもない。気長に探せばいい。


「ところで、この依頼の何処が面白そうなんだ?」


 俺は話を戻した。

 グローは何を『面白そう』と判断したのか。

 依頼内容を見た感じ、そうは思えない。


「なに、正面からの殴り合いが出来そうだからだ」


「はぁ……」


 コイツは馬鹿なのか?

 俺は頭を抱えるしかなかった。


「たまには暴れたいと思わんか?」


 グローはニヤニヤと笑いながらエールを飲む。

 なぜわざわざ疲れる様な事をしなければならないのか……。


「だいたい、狗鬼はワシら鉱矮人にとっては害虫みたいなもんだ。害虫駆除で暴れるのも一興よ」


 ガハハと笑うグロー。

 鉱矮人は血の気が多いとは言うが、やはりめんどくさい種族だ。


「3〜5匹が襲撃してくるなら、群れの大きさは10匹程度か?」


「恐らくそうだろ。狗鬼は矮鬼と同じく、増えるのが早い。依頼が出されたのが2日前だからの。まだ増えてはおらんだろ」


「だといいが、前回の件もある。魔王軍の残党という線も捨てきれんな」


「警戒するのに越したことはない」


「グロー、村の周囲が分かる地図を手に入れてくれ。出発は明日だ」


「任せておけ」


 そう言ってグローは酒場を後にした。


「アイツ……」


 話している間にエールをジョッキ2杯飲んだ。

 その代金を払わずに出て行ったのだ。

 グローが飲み干したジョッキを、セリファが片付ける。

 この酒場の看板娘で、俺とは長い付き合いだ。

 4分の1だけ耳長人《エルフ》の血が入った四半耳長人《クオーターエルフ》で、口は達者だが愛嬌がある。


「飲み代はいつもガル持ちなの?」


「アイツが払わないだけだ」


「お金は持ってるんでしょ?」


「当たり前だ!報酬はちゃんと分けてる!」


 俺は自分のジョッキを荒々しくテーブルに置く。


「私に怒らないでよー」


「なんでいつも俺が払わないといけないんだ!」


「いつになく荒れてるわね……」


 イライラしている俺と少し距離を取りながら、セリファはテーブルを片付けていた。


「セリファ!」


 近くにいるのに、わざと大声で呼ぶ。


「な、何よ?」


「今日は俺に付き合え」


「はぁ?」


「大将!セリファを借りるぞ!」


 俺の呼びかけに、大将が厨房から顔を出す。


「いいぞ。今からお前の貸切だ。セリファ、表締めとけ」


「はぁ!?まだ夕方ですよ!?」


「セリファ、ちょっと来い」


 大将がセリファを呼びつける。


「何ですか……?」


「ガルが荒れてるのは珍しい。好きにさせてやれ」


「もう……」


 そうしてそれ以降、酒場は俺の貸切になった。


†


 事の始まりは昨夜だ。


「フェイ様……」


 真夜中。

 自宅で眠る俺に話しかける声がした。

 知っている声だ。

 そして、聞きたくなかった声でもある。


「……、パオか」


 俺はベッドに寝たまま、目を開けることもなく喋る。


「はい。お休みの所、申し訳ございません」


 パオと呼ばれた男は、姿を現さないものの気配だけは発している。

 俺がフェイと呼ばれていた頃からの付き合いだ。

 こいつが来る時は、碌な話じゃない。それは十数年変わっていない。


「……、出来れば聞きたくなかったぞ、お前の声は」


「重ね重ね、申し訳ございません。しかし、これだけはお伝えしなければと思い、参上しました」


「手短に頼む」


「組織内に動きあり」


「いつもの事だろ?」


「いえ、今回は違います。動きが大き過ぎる。フェイ様の御身にも影響が……」


「俺はもう関係ない人間だ。それにもうフェイじゃない」


「しかし……」


「警戒はしておく。ただ、やるんだったら自分たちの範囲内でおさめろと、ファンに言っておけ」


「……、御意」


 パオの気配が消えた。

 俺はむくりと起き上がり、舌打ちをしながら紙巻煙草に火を点けた。

 過去に置いてきたはずのものが、いつまでも追いかけてくる。

 全くうんざりする話だ。

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― 新着の感想 ―
Review chainから来ました! 魔王が倒された後の世界ということで、どんな物語になるのかなとワクワクしながら読み進めました。2節から本格的にガルに焦点が当たりそうなので、1節は世界観を掘り下…
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