《第1話ー①》本音
更新しました。
今はまだストーリーがゆっくり展開していますが、
もっと加速させていくつもりです。
読んでいただけたら幸いです。
辺りは暗闇に包まれていた。それもそのはず、まだ夜明け前なのだから。
目的の港町までは歩いて三日もかかる。その為ほんの少しでも早く目的地に着けるよう、サクラ達はこんな早くから家を出たのだった。
しかし、朝が早いのは彼らだけでは無いようだ。
「! いてっ」
アラタの後ろを歩いていたサクラは、突然立ち止まった大きなリュックにぶつかった。
訝しんで大きく顔を上げると、リュックの背負い主であるアラタがどこか一点を見つめている。サクラはその視線の先を追う。
そこには、これから農作業や家畜の世話をするのだろう、農具や藁の束を抱えた人達がいた。
実はサクラ達は山間に位置するとある村に居候させてもらっており、今見えている人々はこの村の住民であった。
「アラタ、人間だ、生きてる人間がいる!」
サクラは興奮気味にアラタの肩を揺する。
「そっか、サクラからしたら家族以外の生きた人間に会うのは十年ぶり…ほとんど人生初みたいなものだし、興奮もするよな」
アラタは感慨深そうに言った。
「今まで村に置いてもらったお礼は言っておかないとと思ってな。俺が喋るから、サクラも俺に続いてお礼、ちゃんと言えるか?」
「でき…る!」
サクラはアラタの肩を掴んだまま答える。
「緊張するよな。でも俺がいるから大丈夫。何事も落ち着いて、な? じゃ、行こうか」
サクラの緊張をほぐそうと、アラタは爽やかな笑顔で彼女を励ます。それは正に貴公子といった容貌で、その顔を見るだけでサクラの固まりきった心はほぐれていくのだった。
––––おはようございます、とアラタが村人達に話しかける。その瞬間、一斉に十数の目がこちらを向く。それだけでサクラは再び萎縮してしまった。
「おはようございます。皆さんお久しぶりです。山の麓に住まわせてもらっているアラタです。それとこちらは妹のサクラです」
気圧されてしまったサクラとは違って、アラタは堂々と喋り続ける。
「先日祖父が息を引き取って、俺達はこの村を出る事にしました。それで旅立つ前に、そのご報告と今までのお礼を…」
「村を出てどうするんだい」
杖をついた老婆が、アラタの言葉を遮った。その言葉はナイフのような鋭さを携えている。
しかしアラタは怖気付かずにそれに答えた。
「俺達の故郷に帰る方法を探す為に、妹と世界を旅して回ろうと思っています。今まで、本当にお世話になりました」
「ハッ、世界を旅するぅ? 逸れ者のお前らがか?」
今度は中年の小太りの男が、乾いた笑い声をあげる。
「はい」
アラタは今度も毅然とした態度で答える。サクラは硬直して何も発せない。
そんなサクラの手をアラタは優しく握った。
「ひっさしぶりに顔を見せたと思ったら笑わせてくれる。お前らなんかが世間でやっていけるわけないだろう」
男は腕を組み、わざとらしく首を横に振った。
「そうよ」
また違う人間だ。声の発せられた方を見ると、長髪の若い女がサクラ達を睨むように見ていた。
「あなた達、自分が何なのか分かってるの? あなた達が世間で人様に何をしているのか知ってるの?」
それらの言葉に続くように、周囲の他の人間からも、そうだそうだと声が上がり始める。
「俺らの村でも、散々なことしやがって」
「本当にとんでもねえ奴らだよ」
「あの爺さんが死んだだって? はっ、当然だろうな」
「それに見ろよ。あんな軽そうな荷物してよ、これじゃ、コイツらもすぐにのたれ死んでしまいだな。どうせ貧乏で、金もちゃんとした装備もねえんだ」
「あのボロ屋で萎れてるのがお似合いだよ」
––––嗚呼、私達って本当に––––サクラの内に秘めたソレが、ずぶずぶと心を蝕んでいく。
彼女は今まで祖父に聞かされてきたあの事を、まだ村を発つ前から経験してしまったのだ…と思われたその時。
「まったく、こんなんで外の世界へ行こうなんざ、バカも大概にしな! ほれ、食糧を恵んでやる、うちの残飯だ。うちで余りに余ったこのビスケット、あんたらが全部旅の中で処理しな!」
「これはオラん家の牛の病気を勝手に治しやがった時の仕返しだ。この金、勝手にお前らの荷物に入れてやる」
「嫁の喘息を治しやがるなんて、本当にとんでもねえ奴らだよ」
「あの爺さんめ俺らを全然頼らないでよ、そんなんじゃあ、死んで当然だろぉ?」
「おら、お前らにゴミをくれてやるよ、ちょうど捨てたかったんだ、この毛布。そのかっるい荷物が重くなって嬉しいだろ?」
「私はこの失敗作のお守り押し付けちゃおうかしら、外でボロクソに罵られたら惨めにこのお守りに泣きつきなさい」
「あのボロ屋で萎れてるのがお似合いだよ」
「え? え???」
突然皆がわらわらとサクラ達を取り囲み、口々に彼女らを罵ってる風の事を言ってはその荷物に彼らからしたらゴミらしい物を突っ込み始めた。
「ちょ、ちょっと…。ア、アラタぁっ」
背中の背嚢をぐいぐい引っ張られ、その背嚢に物を詰めようとあらゆる方向から人が押し寄せて来て視界を塞がれ、状況を全く理解できなくなったサクラはアラタに助けを求める。
「良い人達だろ? やっぱじいちゃんは人を見る目があるんだなあ」
しかし当のアラタは妹が人に優しくされているのを見れたのが嬉しいらしく、自身も村人たちに押し潰されながらにこにこしている。
この状況をただ優しくしてもらってるで完結させるこの男もなかなかだ。
「いや、そうだけどどうなってるの…さっきまで罵倒されてたのに…く、苦じい…」
人々は一向にサクラから離れる様子がなく、それどころか更にぎゅうぎゅうに集まって彼女を押しつぶす。むんむんとした熱気が彼女を包む。全身の細胞という細胞が破裂してしまいそうなくらいに苦しい。
「こらぁっーーー!!」
旅立つ前に圧死か…と思われたその時、地の底から響くような怒鳴り声が聞こえた。
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